さて、観客席にも戻ってきたことだしゆっくりしよう。
2回戦、1試合目は轟対緑谷だね。緑谷が個性を使わないなら一瞬、個性を使ったら…それでも怪我をする分長くは持たないだろうね。
ちょうど始まるね。轟は開始と同時に安定の氷結攻撃。緑谷は指で防いだか。
氷を砕いた風圧がさむい。眠いな…。
瀬呂の時のような特大凍結を使わなかったのは腕で殴られたら破られると判断したのか。緑谷も見て判断する前に指で撃ってた。お互いに様子見…いや、緑谷に関しては制御を諦めてるから様子見とは言いづらいけど。
けど、指を犠牲にしているならば長くは持たない。1本、2本。それに近づかれてのとっさの対応に左腕を使った。これはもう無理かな。
……既に壊れてる指で…。緑谷の気迫、なんというか試合という枠組みからズレてるような。観客もそれを感じたのか歓声が少ない。今なら何を話してるのか少し聞こえるかな。
「君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?で、それって左側の熱を使えば解決出来るもんなんじゃないのか………?」
「……っ!!皆…本気でやってる!勝って…目標に近付く為に…っ1番になる為に!半分の力で僕に勝つ!?まだ僕は君に、傷1つつけられちゃいないぞ!」
「全力でかかって来い!!」
……………。少し、耳が痛いな。
半分の力で勝つとか、少しわからない部分もあったけど間違いなく私にも刺さる言葉だ。でもどうしようもない。私は、私として生まれた時点で強い存在だったんだから…。
観客である私の考えなんて置いて試合は進む。
明らかに動きの鈍くなっている轟に緑谷のカウンターがモロに入る。今のは…威力としては指にすら遥かに及ばない程度ではあるけど、確かに個性が乗っていた。制御出来ているのか。けど指が壊れてるからそのせいで自分にもダメージ入っている。
これは…。それに、周りの声が大きくなったからさっきのようにハッキリとは聞き取れないけど、緑谷の声はまだ聞こえる。
…。
……。
………。
ってうわ熱っつ!!これは…轟の左か。おかげで眠気は飛んだけど、急に温度が変化するのもきつい…!
けど、眠かったせいか少し変な考えになってたかな。今はこの位の刺激が丁度いい。
轟の氷の勢いも戻ってる、左の炎も十分。
決まり手は最大規模の凍結と炎による大爆風。緑谷は場外に飛ばされて轟が勝利、第3回戦に進出。
けど、ある意味では轟に全力を出させた緑谷の勝ちかもしれない。
ステージが崩壊したから少し休憩。まあセメントス先生がいるからそこまで時間はかからないと思うけど。
何人か緑谷が心配で見に行ったけどすぐ追い返されてきた。なんでも手術するらしい。まああんなに無理な使い方をしたらそうもなるか。
じゃあステージの補強も完了したし次にいこうか。といっても2試合目は瞬殺だったね。飯田が開幕加速…レシプロを使って場外まで押し出して終わり。まああのツル、どれだけ伸ばせるのかは分からないけど時間をかければかけるほど面倒になるタイプ。速攻が1番だね。
3試合目はそれなりに長引いた。切島の硬さには爆豪もある程度手こずっていた。ただまあ相性が悪かったのもあるし自力の差が出たのもある。
時間をかければかけるほど確実に消耗していく切島と、消耗はせど爆破は強くなっていく爆豪。
最初こそ爆破をものともしない切島が攻めていたけど、ある程度時間をかけた後に爆豪が1発入れてからは連打でそのまま押し切った。爆豪もああ見えて色々分析してたっぽいし、やっぱり天才だね。
『さぁて4試合目!常闇 対 竜胆!』
そんな訳で私の出番。
相手は常闇か。戦闘能力ならA組の中でもかなり上に位置すると思うけど、あのダークシャドウってなんなんだろうね?
「準備はいいな、
「気合いはバッチリって感じかな。全力でおいで」
『START!!』
開始と同時にダークシャドウが飛んでくる。攻撃力はまあまあって所かな。性質的には光があると弱くなるっぽいから、日の下ならこんなものか。
地に足を着いてるわけではないから結構3次元的な動きで攻めてくる。腕が二本と顔しかないから足がない分手数や選択数は少ないけど、伸縮自在なのは厄介。受け止めて、避けて、あるいは掴んで流す。そういえば…。
「ミッドナイト、これダークシャドウへの反撃はどういう扱い?」
「ふむ、そうね。常闇くん!その辺どうなの?」
「俺自身へのダメージはありません。攻撃への対処扱いでいいかと」
「という訳で、ある程度ならやっちゃってOKよ!」
許可が出たからとりあえず殴ってみる。ふむ、多少勢いに押されて仰け反りはするもののダメージは無し。本気で殴ればわからないけど中々良い性能をしてる。魔力放出で擬似的に光を出しながら殴るとそれなりに効いてるみたい。モロに相性が出そうな個性だね。
とりあえず少し怯んだダークシャドウを掴んで、常闇に投げる。流石にそれでダメージを受けることはないけど、常闇本人も少し怯んだ。地を蹴り近付く。
「ダークシャドウは文句なしに強いね。けど常闇本人が脆弱。個性だけじゃなく自分も鍛えないと」
「ぬうっ!」
三奈の時と同じく近付いてもこちらからは攻撃出来ないんだけどね、まあ軽いチョップくらいなら大丈夫でしょ。ツッコミくらいの力だし。
常闇はダークシャドウをけしかけて、自分は下がろうとしてるけど逃がさない。
「頼む
「距離を取りたいのはわかるけど頼りすぎ。むしろ自分が前に出て戦えばそれだけで1対2になるんだ。選択肢は広げていかないと」
そのまま離れずにダークシャドウを相手する。時折常闇からも攻撃が飛んでくるけど、素人って感じ。こういうシンプルな近接戦闘は尾白が1強か。爆豪は爆破を利用したものだから真似はできないし、切島は硬さに頼ってるから全体で見ると技術不足。技術があればさっきの試合ももう少しいい所までいってたかも。後は足技なら飯田も良いか。
このまま続けてもいいけど、一旦離れる。ステージの端まで下がれば十分かな。常闇に目配せ。
「何を…いや、そういう事か。有難い…!行け、
ちゃんと理解してくれたみたいだね。自分も下がりつつダークシャドウを伸ばしてくる。かなり伸びるね。それに伸ばしてる状態でも戦闘力は変わらない…いや、少し動きが小さいかな。でも攻撃力とかは変わらない。
うんうん、常闇の見せ場も作ったしそろそろ10分経つね。終わらせよう。
「はぁっ!やややややや、てやー!」
魔力を使って光を出しつつ1発、2発、3発。怯んだところで頭上を取って連打!大人しくなったダークシャドウを掴んで、そのまま振り回す!
そうすると瀬呂が狙っていたように場外に飛ばせるって寸法さ。
「常闇くん場外!竜胆さん3回戦進出!」
問題なく終わったね。これで、2回戦も終わり、次は3回戦…準決勝。
といっても次は轟と飯田だからね。どっちが勝つにしても勝負は一瞬、私の出番はすぐかな。
4回戦1試合目。
案の定だね。飯田は初手レシプロで決めに行った。ちゃんとあの速度でも正確に蹴りに行けてるから中々。轟も追いつけない。ただ蹴られた時に凍らしたのは流石の判断力かな。
結局はマフラーを凍らされて動きが止まったところを全身凍結させて終わり。炎は使ってなかったけど…どうなんだろう。緑谷と戦ってた時は結構吹っ切れた顔してたんだけど…。
ふう、もう私の出番か。体力的には問題ないんだけど、相手に気を遣うから微妙に疲れるんだよね。ただ爆豪相手ならあまり気にしなくてもいいかな。
『準決勝2試合目、爆豪対竜胆!』
「ぶっ殺す!」
「出来るの?」
『START!!』
「食らえやクソがぁ!」
初手から全力爆破。思ったよりも強い、予め汗を溜めておいたのか。けど、効かない。正面から受け止める。爆風により髪がなびくけどそれだけだ。
それでも気にしていないのかそのままラッシュ、時にはフェイントや爆破による移動で後ろを取ろうとしたりしてくる。
「もっと火力を上げないと私には傷1つ付けられないよ」
「んなこた見りゃわかるわ!黙ってろ!」
更に速度が上がる。動き回ってるのは撹乱の他に汗をかく為か。火力も上がっていってる。私もある程度はやり返そうか。
爆豪が突き出した手を爆破する瞬間に握る。握った手の中で爆破が起きれば、本来外に散るはずの衝撃分もモロに受ける。私は問題ないけど爆豪はそうではないだろう。
『スゲェ────!爆破を利用して逆に爆豪にダメージ与えやがった!しかも自分はダメージ無しかよ、ズリィー!』
『少しでも握るのが早かったら爆豪は対応してただろう。相手のことをよく見ている』
「気に入らねぇ…!」
1度離れた爆豪をまた迎え撃つつもりで待ってたら、爆豪がキレ出した。いや、この感じは最初からか?我慢していたのか。でも、なんで?
「その目、ずっと俺らを見下してやがる…!上見上げて進めだぁ!?そんなことテメェに言われなくても分かってんだよ!!なのに、それ言ったテメェはずっと下向いて上見やがらねぇ…。もうその必要はありませんってか!?ふざけんな!!!」
「いや、見下してはないけど…」
「丸顔も、クソ髪もぶっ倒れるまで向かってきやがった。デクもそうだ、半分野郎だって左使った。テメェだけがずっと舐めた態度でいやがる…!」
「そうは言っても…爆豪なら、いえ爆豪だからこそ手加減した私にすら勝ち目が無いのは分かってるよね?どうして欲しいの?」
言いたいことはわかる。けど、私が出る以上こうなるのは仕方ない。それに爆豪の性格からすると例え私が出なかったとして、それで1位になっても納得しないだろう。
…というか、さっき緑谷が轟に言ってたことに少し似てる。やっぱ幼馴染だから影響あるのかな?
「……本気出せや。テメェ、今回だけじゃなくずっと手加減してやがるだろ。中途半端に降りてきて相手してんじゃねぇ、せめて自分が言った高みの場所くらい示してみろや」
鋭い。でも、別に本気を出さないんじゃなくて、あまり出せないんだけどな…。それこそ緑谷みたいに。まああそこまで全く使えない訳じゃないけど…。でもまぁ。
「正直、本気を出したところで今の君たちじゃ手加減との差なんてわからないと思うけど…」
「あぁ?んなこと関係」
「いいよ、見せてあげる」
元々、体育祭の中で1度は見せておくつもりではあった。まあ本当に顔見せ程度で終わるつもりだったんだけど…うん、爆豪の心意気に免じて少しだけ相手をしてあげる。
「その目で確かめるがいい。自分が何を相手にしているのかを」
この身に刻まれた能力を解放する。
境界に刻まれた記録帯を霊子に変換、肉体を本来あるべきはずだった姿へと変化……いや、変貌させる。
「ううぅ……うあぁ……!』」
体が黒く染まる。手足が変わり、尻尾が生えた。角は…折れているから伸びはしないか。声はエコーがかかるように聞こえ、何よりも翼が生える。
───レイ・ホライゾン───
目を開ける。爆豪がアホ面晒しているけど、とりあえず自分の確認。うん、問題ないね。とりあえずテュケイダイトは試合では使えないから地面に刺しておこうか。
「『どうしたの?怖くて動けない?』」
「ち、違ぇ…!ふざけたこと言ってんじゃねぇ…」
『な、な、な、何だアレ────!竜胆が、変身したぁ────!!』
『俺もしらん。が、大方アレが竜胆の本気なんだろう』
ふぅん。とりあえずまだ10分はたっていないから、少しだけ遊んであげる。あぁ、この姿になったんだ。折角なら思い切り翼を広げたいけど、こんなに狭いと辛い。ほら、短い。
「『折角相手をしてあげるんだ。早くかかっておいで』」
「後ろっ…!?てめぇ、ワープでもしたのかよ…!」
「『違う、少し動いただけ。翼を広げた私にはオールマイトであろうと追いつけはしない』」
いつもより速いからね、確かにそう思うのも当然かもしれないけど、ワープと一緒にされたくはない。
そのまま周りを飛んで軽く翻弄したりしていたけど、そろそろ10分たつ。
「『折角私の本気の姿を見せてあげたんだ。そっちも全部出しなよ』」
もう爆豪も溜まってるはずだからね。
爆破を利用して飛び上がった。そのまま爆破を使って横回転、落下と合わせて高速回転してる。
私は…どうしようか。テュケイダイトは明らかにやりすぎるから手でいいかな。魔力を込め構える。
「死ねやぁ!!
最大限の爆破に回転と速度を乗せて威力、指向性を強化した一撃。
それに対し右手を…竜の爪を一閃。衝撃も、爆風も、煙幕も、勢いも、全てを切り裂く。
「こんのっ、化け物かよ…!」
「そうよ。だって私は、竜だもの」
答えつつ地面に刺していたテュケイダイトを抜いた。軽く手で遊んでから少しだけ魔力を込めて、フロモンを飛ばす。傷を付けないように優しく、それでいて爆豪が反応できないくらいの速さでフロモンの側面を押し当て、そのまま爆豪を場外まで一緒に飛ばして押し出す。
「…って吹っ飛んだ!?爆豪くん場外!竜胆さん、3回戦進出!」
ふう。フロモンを手元に戻して一息。それから姿を元の竜の妖精としての姿に戻す。
ほとんど動いてないのに少し体に負担が…。
この後まだ轟との試合が控えてるのを考えると憂鬱。やっぱり決勝戦の最後に顔見せするくらいにしておけばよかったな…。
とりあえず控え室にいこう…。