ホロウ居座り放題のホロウレイダーは邪兎屋のファン 作:邪兎屋が好き
ネムは、猫又の目の前で見せつけるようにマスクを付け直した。
そして次の瞬間、瞬きする暇すらないほどの一瞬で、前触れすらなく彼女は猫又へ肉薄する。
止める暇も回避する暇もない、振り上げられた凶器は寸分違わず少女の首を切り落とそうと迫り、そして……大きな衝突音と共に、彼女の手元から弾き飛ばされた。
「……遅かったか」
そう言って彼女が視線を送った先には、ニコとアンビー、そしてビリーの三人。
邪兎屋の三人が彼女を見つめていた。
彼女の手からマチェーテを弾き飛ばしたのはビリーの二丁拳銃から放たれた弾丸だった。
「……一応聞いておくわ。こんな場所に猫又を誘い込んで、何をしているのかしら?」
「俺の仕事の
「仕事?じゃあ、依頼人は誰」
ニコは責めるように彼女へと詰め寄る。
「
彼女は右手の拳銃を猫又に向けようとして、直後に迫ったアンビーの刀を上体を大きく逸らして回避した。
「……なんのつもりだ?」
「彼女は邪兎屋の従業員よ」
「知っている。だからこその大金だろう?あの依頼料は、アイツの命の値段だ」
その言葉を聞いて、その目を見て、アンビーはもはや彼女に話は通じないのだと悟った。
そして、再度肉薄し刀を振るうが、彼女には当たらない。
「遅いぞ、鈍ったんじゃないか?」
煽るような言葉で相手の冷静さを欠かせようとするネム。
アンビーは冷静さを欠くことはなかったが、攻撃の手は止めない。
ここで隙を見せれば殺されるのは自分かもしれないと直感したからだ。
ネムは、横への薙ぎ払いを一歩下がって避け、正面への振り下ろしを横へと避け、アンビーの隙を突いて猫又に接近すると、彼女の持っていた古いマチェーテ型の兵器、つまり過去の彼女の愛用していた武器を奪い取った。
「……厚かましく持ったままだったワケか。騙して、奪い取って、満足か?」
彼女の操作と共に、武器の刀身が赤熱し異常な高温を発する。
それを猫又に振り下ろそうとしたネムを、今度は足元に撃ち込まれたビリーの銃弾が止める。
彼女はビリーを赤熱したそのマチェーテで引き裂こうとするが、今度は彼女の防弾コートに銃弾が浴びせられる、それはニコのアタッシュケースから放たれた物だった。
「──まで……、お前まで邪魔をするのか!!!ニコ!!」
「大事な従業員だもの!守って当然だわ!」
怒りに満ちた声で叫んだネムに、ニコは少しだけ怯えながらも気丈に言い返した。
次の瞬間、ニコのアイコンタクトを受けたアンビーがその刀をネムへと振るうが、それは彼女の武器によって防がれ、アンビーの武器が溶け始める。だがアンビーは引かずに鍔迫り合いを続ける。
「アンビー、離れて!」
ニコの声を聞いたアンビーが下がると、ニコは|周囲に力場を発生させる特性のエーテルグレネイド《特殊強化スキル》をアタッシュケースから放つ。
もちろんそれで彼女が倒れるとは思えない。
その予想通り彼女は無傷のような様子で立っている、しかし
「……っ!?」
彼女の右腕から、彼女の黒いコートを突き破って数多の結晶が突き出る。
彼女のエーテル適性は凄まじいものだが、彼女の右腕は機械製の義手、そこにエーテル適性はない、ニコはそれに目をつけていた。
ネムは自身の武器を右手から左手に持ち替えると、エーテルに侵食され動かなくなっていく右腕をなんの躊躇もなく切り落とした。
「ッそこ!」
「──っ!?」
アンビーがその隙をついて突撃し、彼女を吹き飛ばす。
地面に転がった彼女が立ち上がるよりも前に猫又が叫ぶ
「──私は!姉貴を裏切ったことなんてない!ずっと探してたんだ!」
「……、今更、くだらない嘘を──」
「嘘なんかじゃないわ」
ニコが取り出して見せたのは、以前猫又の依頼で探したロケットペンダント。
「このペンダントと、あんたが今手に持ってるソレ。一度は無くしたその二つを、猫又を必死になって探してたのよ。そんな子がアンタを裏切るですって?そんなワケないでしょ!」
「…………そんなはずは──」
「だって、姉貴はあたしにすっごく優しくしてくれた。アンタを裏切る理由なんてない!」
「……………………は…はは、ははは!」
彼女がその言葉を理解するのには数秒の時間を要した。
そうして、それを理解した彼女は力無く地面に横たわって笑った。
幼くしてホロウに潜み他者との交流が少なかった彼女は常に自分一人で身の回りの問題全てを解決させてきた、それができてしまっていたからこそ、彼女は今初めて自身の考えを誤りだと突きつけられ、それが真実だと認めた。
「……悪かったな。──コイツは俺の愛用品だから返してもらうが、詫びとしてコレを持っていくといい。侵食はされたが、高価な機械部品の塊だ、生きてるパーツはあるだろうし金にもなる。好きにしろ」
彼女がそう言って猫又に差し出したのは先ほど切り落とした彼女の義手。
彼女は残った左腕で虚空を指差すと
「そこにある裂け目が出口だ、先に出て行ってくれ。俺は後から出る。……随分と恥ずかしいマネをしたからな、しばらくマトモに顔を見れそうにない」
そう言ってます顔を逸らした彼女に苦笑いしつつ、ニコ、ビリー、アンビー、猫又の順で裂け目を通り、イアスも猫又に抱えられてホロウの出口近くに転移した。
するとニコが
「…ここで待ってアイツをとっ捕まえるわよ」
突然そう言い出した。
最初は全員何故そんなことを?という反応だったが
「アイツのせいでちょっとした迷惑を被ったし、アンビーの刀だって溶かされたままなんだから!ここでとっ捕まえて、罰として正式に邪兎屋の従業員になってもらうわ」
ニヤリと悪巧みをするような顔でそう言ったニコに、一同は賛成してここで彼女が裂け目から出る瞬間を待ち伏せすることにした。
しかしその時、Fairyが聞き捨てならない事実を報告する。
『警告、先程戦闘が行われた区域にて大規模なエーテリアス反応を確認』
「なっ、なんですって!?」
慌てて裂け目に飛び込もうとしたニコだったがその体は空を切り、転移に身構えていたニコは飛び込んだ勢いのまま地面に倒れ込む。
「……裂け目が閉じてる、彼女の仕業?」
「そのやり方も知ってるって、前に姉貴が……」
「あ、アイツ、何のつもりで……」
『推測。ホロウレイダーネムは先程の時点でエーテリアスの大群の襲撃を予期していた可能性があります。彼女は先ほど、自らの旧式拳銃のリロードを行っていました』
「……それじゃあ、アイツは自ら死にに行ったワケ?」
『提案。彼女の義手を確認してください。先ほどの彼女に確認された不審な行動は、銃のリロードと義手上腕部の点検の二点です』
猫又が手に持った義手を見ると、上腕部には可動式の小物入れのような空間があり、その中に入っていたのは何重もの対侵食性の袋に包まれたメモリーカードだった。