続・小説みつめてナイト 紅玉の双騎士【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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最終決戦、ついに決着です。
紅玉の双騎士で忠正が繋いできた絆が一つの形となって、みなさまの気持ちのどこかに響いたのなら幸いです。

さて、いよいよ残すは最後のエピソードとエピローグのみとなっております!

スケジュールは以下の通りとなっておりますので、よろしくお願いいたします。
3/7(土) 10:00 104話 終幕 紅玉の瞳の騎士
3/8(日) 10:00 105話 エピローグ
3/8(日) 15:00 あとがき 


【103】新時代への序曲(後編)

「貴殿の実力はここで潰すには惜しい。命令する。余の配下となれ。我が大トルキア帝国の礎の一人となり、トルキアの平安に貢献せよ」

 

 そのヴァルデマールの言葉の意味を理解できず、忠正は一瞬呆然としてしまった。

だが、すぐに激しく首を横に振った。

 

「冗談じゃない。本気でそんな説得に乗ると思ったのか!?」

 

考えるまでもなく反論する忠正に、ヴァルデマールは仮面のような無表情を顔に貼り付けたまま言う。

 

「では質問なのだが、貴殿は何の為に戦っている。なぜ余の邪魔をし、大トルキア帝国を否定するのだ」

「な……」

 

思ってもいなかった突然の質問に言葉に詰まった忠正ではあったが、すぐに従来の冷静さを取り戻すと極力冷たい声で答える。

 

「オレはドルファンの為に戦っている。貴様の大トルキア帝国などという夢物語の為に、多くの無辜の民が戦争に巻き込まれないように!」

「貴殿は傭兵のはずだ。所詮は金で雇われた身。雇い主が変わるだけの話ではないのか」

 

正論ではあるのだが、人間の感情を一切含まない響きが忠正は気に入らなかった。

 

「最初はただの雇われだったかもしれないが、オレはこの一年で様々な事を知った。今はドルファンを守る理由があるし、ドルファンの平和な未来を守る義務がある。おいそれと寝返るような真似はしない」

「ドルファンの平和な未来か……」

 

ヴァルデマールは何かを考えるかのように剣を下ろして顎に手を当てていた。

しかし納得がいかなかったのか、わずかに首をかしげた。

 

「では聞くが、平和な未来とはなんだ?」

「う……」

 

またしても思わぬ質問返しに、忠正は戸惑ってしまった。

だが必死に理論を整え直して叫ぶ。

 

「お前たちのような侵略者に怯えず、安定した統治の下で人々が安心して過ごせる未来のことだ!」

 

ヴァルデマールはそれを聞いてわずかに眉を寄せた。

 

「それがドルファンの平和なのか?」

「それ以外にあるか?」

「ふむ」

 

納得のいかない様子で口元に手を置いたヴァルデマールは、小さくため息を吐いた。

 

「非常に短絡的、かつ低い視座であるな」

「なんだと……!」

 

忠正が反論しようとすると、ヴァルデマールは夜空に浮かぶ満月を見上げながら舞台役者のように大仰に手を広げた。

 

「愚民はいつもそうだ。自国の事ばかり声高に叫び、大勢を全く見ておらぬ。貴殿はこのトルキア地方を取り巻く情勢がどうなっているかを理解しているのか?」

「情勢……?」

「そうだ。イングレスを中心とした大英帝国。海を跨いでアルビアなどの中東諸国。北に目を向ければシベリア帝国、そしてその向こうにいる中華皇国。西の海の果てのローラシア大陸では合星国を名乗る大国、東には黄金の国などと称される島国もある。こういった国々は新しい兵器を開発し、国力を増し、世界へとその支配下を広げようと鎬を削っている」

 

これまで無感情だったヴァルデマールの言葉が熱を帯びていく。

 

「だと言うのに、そなたたちは自国の利益だけを訴え世界から目を背け、目の前の“平和”ばかりを享受しようと言う。これが短絡的でなく、なんだと言うのだ」

 

白く輝く満月を背景に、ヴァルデマールはその満月すらも掌握するように天に向けた手を握り込んだ。

 

「余は大トルキア帝国を復興させトルキア諸国の力を一つにし、かつてのトルキアの威光を復活させて世界を相手に本物の“平和”を掴もうと言うのだ!」

 

膨大な知識を誇る忠正でもトルキア地方以外の外国の情勢など大して掴んでいない。

凄みすら感じさせるその迫力と覇気。自分の理論を信じて疑わない自信。

口先だけではないカリスマと求心力を一陣の風のように巻き上げる姿に、忠正はしばらく呼吸をすることすら忘れていた。

 

「今一度命令する。余の配下となれ。貴殿の言うドルファンの平和な未来とやらを実現したいのなら、我が大トルキア帝国の一員となりその身を捧げよ!」

 

 

 忠正は一瞬逡巡した。

ヴァルデマールの言葉の説得力に、現実主義である自身の性格が納得しかけたのだ。

だがその瞬間、頭の中に声が響いた。

 

『アンさんの好きな……私の好きな〝如月忠正〟という人を、嘘にしないで!』

 

真っ暗な絶望という牢獄の果てで、フィオナ・ロベリンゲに投げかけられたその言葉。

王の言葉ではない。

トルキア地方の話でもない。

ドルファン王国の話でも、ましてや軍師“百識のサリシュアン”の話でもない。

如月忠正という一人の人間として、アンやフィオナに想いを託された人間として、どう思っているのか。

彼女たちが信じてくれる、如月忠正としてどう生きるのか。

それ以上に大切なものなどない。

 

 

 忠正は威圧するようなヴァルデマールの視線を正面から受け止めながら、確固たる意志の力を込めて睨み返す。

 

「何度言われても、答えは否だ! お前は大局を見ているような事を言っているが、やっている事は国同士の権力争いの助長と武力での侵略だ。結局はかつて滅んだ大トルキア帝国滅亡の軌跡を再び辿っているに過ぎない。オレはお前を受け入れることはない。断固拒否する!」

 

先ほどまでどうしようもなく震えていた剣先はピタリと止まり、ヴァルデマールの眉間を指して静止していた。

 

 ヴァルデマールは大きく、ゆっくりと深いため息を吐いた。

そこに怒りはなく、諦めと憐みが混じった感情を吐き出しているようだった。

 

「もう少し賢き者だと思ったが……」

 

そう呟きながら、大きく息を吸う。

 

「よかろう。では、貴殿の生き血を以て戴冠の儀の献酒としよう」

 

 

 その言葉と共に先ほどと同じように氷の刃物を背中に突きつけられたような感覚が襲ってくる。

忠正は若干気圧されつつも必死に思考を巡らせていた。

 

――未来視なんてものが、あり得るのか?

 

湧き上がった疑問だったが、先ほどの攻防でそれは証明されている。

どれくらい先の未来まで視えているのかわからないが、何日も先のことや何年後のことを見通せるものではないと言える。

もしそこまで先のことを見通せるのであれば、そもそもゴットフリート一人で銀月の塔を守らせることはなかったはずだ。

いくらこの男に血も涙もないとしても、最大戦力であるはずの側近をわざわざ死地に配置する意味がない。

 

――見通せる未来は数秒程度、か?

 

だが、それを証明するものはない。

忠正が攻めあぐねていると、ヴァルデマールはクレイモアを再び大上段へ構えた。

 

「未来が視えるということは、鉄壁の守りであるということだけではないぞ」

 

躊躇なく振り下ろされた斬撃に忠正は咄嗟に半身を引いて躱す選択肢を選んだ。

しかし、漆黒のクレイモアは胸の高さで一瞬動きを止めると、すかさず刃を返して横薙ぎへと軌道を変えた。

 

「ううっ!」

 

半ば本能的な反射神経で、からくもそれをレイピアで防御する。

その勢いでよろけて右足をついたところに、狙いすましたかのようにヴァルデマールの“脛斬り”が飛んでくる。

息をもつかせぬ連撃に全身の筋力を振り絞って飛んだ忠正は、宙返りの着地と同時に前方へと転がって距離を稼ぐ。

転がった勢いを利用しながら追撃に備えてレイピアを構えた忠正だったが、その肝心の追撃が飛んでこなかったことにほんの一瞬息をついた。

戦闘を優位に進めている余裕なのか、ヴァルデマールは不遜な態度でこちらを眺めていた。

 

 

 かなり危うい状況ではあったが、今の攻防でわかったこともあった。

それは未来視も万能ではなく、少し先の未来までしか視えていないということだった。

そして、こちらからの攻撃に対しては四手ほど先まで正確に見通していたのに対し、自分からの攻撃に関しては二手ほど先までしか見通せていないということ。

これらの事実から忠正が導き出した答え。

 

――未来視は決して“未来が視えている”わけではなく、かなり正確な“未来予測”でしかない。

 

ということだった。

 

 ヴァルデマールの“未来視”とは人智を超えた力などではなく、おおよそ人間離れした“観察眼”によるものだと忠正は推測していた。

恐らくヴァルデマールはこちらが動こうとした時の動作の起点を的確に読み取る力を持っているのだろう。

 

 人間は動き出す時には必ずその起点となる動きがある。

視線の移動、重心の移動、筋肉の反応、呼吸。

そんな誰もが無意識に行っている些細な動きを、ヴァルデマールは的確に、かつ正確に読み取り、こちらの行動を予測しているのだ。

だから初動が起こりやすいこちらからの攻撃はかなり先まで読み取る事が出来るが、どうしても初動が遅れる受け身の行動に関しては、すぐ先の動きまでしか読み取れない。

 

 

 それが正解なのかはわからない。

先天的に与えられた力かもしれないし、後天的に得た力かもしれない。

だが、そんなことはどうでもいい。

忠正は持てる知識と経験からそう判断した。

そうであると定義した以上、それに対抗する作戦を考えて実行するだけだ。

今までしてきた事と何も変わらない。

今までの戦いと何も変わっていない。

そう考えると不思議と気持ちが落ち着いていくのを感じていた。

 

 

 忠正は夜の冷たい空気を大きく吸い込み、非常にゆっくりと細く静かに吐き出していった。

 

「む……?」

 

身に纏う空気感というか、明らかにその雰囲気が変わったことにヴァルデマールは眉をひそめる。

忠正は非常にこの戦いが始まって以来、一番落ち着いた様子で鞘をベルトから外し、あろうことかレイピアをそれに収めた。

そして左手にそれを持ち、腰のあたりの高さで止めると剣先を後ろに向け、まさに父や姉が得意とする抜刀術のような構えを取った。

 

「これからオレが何をしようとしているのか、未来が視えるあんたならわかるだろう」

 

その物言いにヴァルデマールは明らかに気分を害したようだった。

 

「正気の沙汰とは思えんな。ただの抜き打ちを仕掛けようとは」

 

ヴァルデマールの言葉の通りだった。

忠正の考えた作戦はシンプルこの上ないものだ。

ヴァルデマールに攻撃させ、それよりも速くカウンターを放つ。

ただそれだけだ。

 

 例え未来が視えていたとしても。自分の攻撃が予測されていたとしても。

相手の思考と予測を超える速さで攻撃をすれば、それは致命的な一撃になり得る。

それこそが忠正の考え出した“未来を超える作戦”だった。

 

「さあ来い、ヴァルデマール・ツヴァイク。お前の視る未来が勝つか、オレの信じる未来が勝つか。決着をつけよう」

「……よかろう。己の愚策を冥府の果てで後悔するが良い」

 

 

 ヴァルデマールは漆黒のクレイモアを再び大上段に構えた。

大上段に剣を構えるということは振りかぶるという動作の省略になる。

つまり、攻撃をする為には単純に振り下ろせばいいだけだ。

対するこの若き傭兵は、こちらの虚をついて鞘の中を走らせた剣で斬らねばならない。

明らかに手数が増えるし、こちらには“未来視”がある。

この若者が攻撃を仕掛けるタイミングを“視る”ことができるし、仮に自身の攻撃を超える速さでカウンターを放てたとしても、来るとわかっている攻撃を躱すことは容易い。

未来が視えるということは、勝利が確約されていることと同意なのだ。

 

 自分は漆黒の深淵を覗く者にして、大トルキア帝国の盟主。

世界の頂点に立つべくして生まれた、生まれながらの王だ。

さらに物心がつく前から施された想像を絶する修練により身につけたこの“未来視”に見通せないものはない。

 

 

 冷たい月の光に照らされた二人は彫刻のように微動だにしない。

極限まで張り詰めた緊張に周囲の温度が下がり、五月の夜だというのに凍り付きそうな空気が辺りを包む。

 

その時、忠正の頬を滑った汗が顎を伝い、銀月の塔の石造りの床に落ちた。

 

瞬間、ヴァルデマールの黒剣が断頭台のギロチンのように解き放たれた。

それに遅れず、忠正も神業とも言える反応速度でレイピアを抜き打つ。

 

――視えるッ!!

 

ヴァルデマールは剣を振り下ろさずにその場で止めると、左足を半歩後ろに引き半身で忠正の神速の斬撃を避ける。

 

「余の勝ちだ!」

 

頭の上で止めていた剣に再び力を込めて振り下ろそうとした時、彼の“未来視”は次のシーンを予測していた。

振り抜いたレイピアがしなる反動を利用して、忠正は再び斬撃へとレイピアを引き戻す。

 

「プレシズ・キル!!」

 

母、ライズの最も得意とした技。

忠正の叫びと共に駆け抜けた剣が再び戻ってくるのを観測していたヴァルデマールは、すでに振り上げているクレイモアで受けるのは無理だと判断し、今度は右足を引いてそれを躱す。

だが、忠正の剣はそれでも止まらなかった。

レイピアを振り抜いた反動でのしなりを巧みに操り、今度は肩を目掛けて斬り上げる。

しかしそれすらもヴァルデマールの“未来視”が捉えて避ける。

斬り上げたレイピアのしなりを手首の返しで縦方向の力に応用した忠正は、斬撃から突きへと切り替える。

 

「無駄だ!!」

 

確かに視えたその突きを避けるべくヴァルデマールがさらに左足を引こうとした時、不意に鼻腔の奥にその香りを感じた。

こんな場所ではあり得ない、その誰もが知る懐かしい香り。

 

――潮の匂い? ここは塔の上だぞ!?

 

刹那の攻防を繰り広げている中でおかしな話だが、ほんの十分の一秒にも満たない時間を数十秒にも認識したヴァルデマールは、確かにその匂いを感じ取り、それが間違いなく母なる海の匂いだと確信した。

 

 

その瞬間、引いたはずの左足が何かに滑った。

 

「何っ!?」

 

そこには何もないはずだった。

他の床と同じように石造りの床があるだけだったのだ。

乾いた地面を掴むはずだった足が、まるで濡れた床を踏んだように大きく滑る。

体制を崩した一瞬の隙を忠正の正確無比なレイピアは逃さない。

ヴァルデマールのその目は、次に襲い掛かる自分の未来を確かに映していた。

網膜に映し出された鮮明な未来と同様に、忠正のレイピアが正確に心臓を穿つ。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

手からクレイモアが滑り落ち、片膝をついたヴァルデマールは忠正の肩を掴んで体を支えうつつ驚愕の表情を浮かべた。

 

「あり得ない。余の“未来視”は完璧……! こ、こんな未来は……認められん!」

 

全身から拒絶の強い意思と憎悪を滲ませ、忠正を睨みつける。

忠正はそれをルビー色の澄んだ瞳で受け止める。

 

「……お前が視ていたのは未来なんかじゃない。大トルキア帝国という過去の亡霊の後ろ姿を、追いかけていただけだ」

「げ、下賤の民が……!」

 

ヴァルデマールは震える手を満月へと手を伸ばしたが、口から鮮血が溢れだし、前のめりに倒れた。

その未来を見据える目は、もう何も映してはいなかった。

 

 

 

 全身全霊の力を使い果たした忠正もまた、その場に膝をつく。

プレシズ・キルは瞬きにも満たない一瞬で斬撃と刺突の連撃を叩き込む技だ。

母親からこのレイピアとともに引き継いだ技。

 

 だが、ヴァルデマールはその連撃すら見通していた。

最後の突きが決まったのは偶然の産物であり、たまたまヴァルデマールが体勢を崩したから決まっただけだ。

それまで完璧な動きをしていたのに、あの瞬間になぜ体制を崩したのかふと気になり、動かなくなったヴァルデマールの足元に目を落とす。

すると、床の一部分が月明かりを受けて輝いているのが見えた。

 

「これは……」

 

それは水だった。

雨が降ったわけでもない。

ここは塔の頂上なのだから、地下水が湧き出たわけでもない。

こんな場所に水があるのは不自然だった。

 

「なぜ、こんなところに……」

 

身体を引きずるようにその水に近づいた時、忠正のルビー色の瞳から涙が一筋流れ落ちた。

鼻腔をくすぐる、その匂い。

絶対に忘れない。

この腕の中で泡となって消えた彼女()の匂い。

 

「アンさん!!」

 

忠正がその名を呟くと、柔らかな風が不意に涙を拭う様に頬に触れた。

 

『お願い……聞いてくれたんですね』

 

波のような優しい声が耳元で聞こえた気がして振り返るが、そこには静かに光を放つ満月の姿があるだけだった。

波音のような潮風は、空に昇っていく。

 

「アン……」

 

絞り出した言葉とその寄せては消える波のような余韻に、忠正はひっそりと天を仰いで立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「忠正っ!!」

 

背中から聞こえる懐かしい声に振り返ると、泥と血で汚れきったロゼッタとパトリツィアの姿が見えた。

慌てて目元を拭った忠正は二人に向けて力なく手を上げてみせる。

忠正の下まで駆け寄ったロゼッタは、そこに転がるヴァルデマールの姿を確認すると安堵のため息を吐いた。

 

「……あんたが生きていて良かった。こんな所で死なれたら、先に行かせた私の責任問題になるし」

 

あくまでも姉としての体面を取り繕うロゼッタに呆れながらも答える。

 

「そっちこそ、よく生き残ってくれた。……パトリツィアも」

 

ロゼッタの後ろに隠れるようにしていたパトリツィアは、忠正を見てほんの少しだけ唇の端で微笑むとすぐにいつもの無表情を装って顔を背ける。

忠正は苦笑いを浮かべると、ドロドロに汚れ切った二人の姿をあらためて見た。

 

「しかし、本当によく生き残れたな。多勢に無勢、いくらローゼたちでも流石に無謀だと……」

「ああ」

 

ロゼッタはふふんと鼻を鳴らすと、ちらりと後ろを見た。

 

「思わぬ助っ人がいたからね」

「助っ人?」

 

ロゼッタの視線の先を目で追った忠正は、狐につままれたような表情を浮かべた。

その視線の先で幻の聖騎士、ヒューイ・キサラギは軽く手を上げてみせた。

 

「よう、忠正」

「と、父さん!?」

 

スィーズランドにいるはずの父の姿にわずかに赤く腫れた目を丸くする。

ヒューイは疲れ果てた息子の姿と周囲の状況を確認すると、わずかに微笑んだ。

 

「しばらく見ない間に、一人前の顔をするようになったな」

 

忠正は父親に褒められた嬉しさと、大切な人の想い出に触れた寂しさが混じり合ったなんとも複雑な表情を浮かべた。

 

「……色々なことがあったからね。本当に、色々なことが……」

「そうか」

 

ヒューイは静かに頷き、忠正とロゼッタの間へと歩み寄ると、両腕を広げてそれぞれの肩を抱いた。

 

「オレはお前たちの親であることを本当に誇りに思う。さあ、帰ろう。母さんや、仲間たちのもとへ」

 

忠正とロゼッタはお互いの顔を見合わせると、運命が二人を引き離して以来、はじめて子供の頃の様に微笑みあった。

 

「ああ、帰ろう。みんなのもとへ……」

 

そう呟いた忠正は、大切な人の面影に最後の一瞥を送ると、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

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