続・小説みつめてナイト 紅玉の双騎士【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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【20】エドワーズ島の事件⑤

 忠正をはじめ、ルシル、エルザ、そして〝白鷲〟の船長二人を含めた五人は、窮屈さに息苦しさを感じつつも、宿の忠正の部屋に集まっていた。

エドワーズ島に来てまだ四日しか経っていないが、必要な情報はすべて集まったと判断した結果、今後の作戦についての打ち合わせをする為だ。

 

「状況を整理しよう」

忠正は集まった面々の顔をゆっくりと眺めると、軽く咳払いをして状況を説明し始めた。

 

 まず、今回の任務は自分たち海軍の躍進を良かれと思わない第三勢力による妨害活動であるという事。

実質的な海軍の中心人物はジョアン・エリータスを除けば忠正とルシルに集約される。

第三勢力は海軍の中心人物たる忠正とルシルを秘密裡に抹殺する為に、偽の情報を流してこの島へと誘導した。

本当はジョアンも誘導したかったのだろうが、そこはジョアンの虫の知らせなのか、ただものぐさなだけなのか、今になってはわからないが運良く(悪く?)本土に残った事でターゲットからは外れた。

 

 第三勢力は忠正達の暗殺の為にその筋の人間たる殺し屋を使うようで、ルシルと〝白鷲〟の船長二人による酒場での張り込みにより、人数は四人で東欧人らしき風体の怪しい男達である事までは特定している。

彼らは一様にリゾートに似合わぬ冷たい目をしており、エルザの調べでは美術品と称した刀剣の類と、花火に使用する為の発射筒や火薬を巧みに偽装した組み立て式のガリハント銃を二丁持ち込んでいた。

 

 この偽装ガリハント銃は書類の申請上は一見不審な点はなく、港湾職員に見抜くことは難しいものだったが、忠正達の入島以降の上陸者すべての書類を漏れなくチェックしていたエルザは、その火薬量と種類、持ち込んでいる火薬筒の大きさと材質等からそれが違法に作られた銃である事を見事に看破していた。

 

 だが、あえてそれを摘発せずに泳がせていたのは忠正の策だった。

その偽装銃の持ち主が〝白鷲〟の目を付けた人物である事を確認した時点で、彼の中では答え合わせが終わったようなものだった。

この四人の殺し屋達は日中は忠正達の動向を注視していたようだが、夜になると人目を避けてフィオナの別荘の裏手にある湖の対岸側にある、夏の間は使用されていない炭焼き小屋に集まっている。

おそらくここで日中の情報をすり合わせていつ計画を実行するのかの会議を行っているのだろう。

 

 

「先手を打って、今夜仕掛ける」

 

忠正がそう言うと、全員の顔に一瞬緊張が走った。

 

「彼らが拠点としている炭焼き小屋にオレとルシル、ディーリア伍長で強襲をかける。まあ、ディーリア伍長はいざという時の伝令役としてなので、実働隊ではなく別動隊としての同行だが」

 

その言葉にエルザは明らかにほっとしたようで胸を撫でおろした。

 

「オレたちはどうするんだ」

 

除け者にされたダークとアルバートが鼻息荒く言うが、忠正は落ち着いた口調で答える。

 

「ダークとアルにはいざという時のバックアップとして、いつもの酒場で待っていてもらう」

「向こうは四人だ。あんたとお嬢と人数で言ったら倍だぞ」

 

アルバートの反論にも忠正は冷静なままだ。

 

「あちらさんは自分たちが狩られる側だなんて、これっぽちも思っていないだろうから制圧自体はそれほど難しくないと思っている。最悪一人だけでも捕縛できれば後は始末してもいいし、奇襲の利はこちらにあるんだ」

「そんなに上手くいくか?」

「もしもの時の為に君たちに待機してもらうわけだし、その為にディーリア伍長に控えていてもらうつもりだ」

「だが……」

 

流石に海の男で血の気の多い〝白鷲〟の二人は納得はいっていないようだが、すかさずルシルが口を挟んだ。

 

「オレとタダマサの二人じゃ力不足だっていうのか?」

 

その言葉にダークもアルバートもあわてて首を振った。

 

「いえ、お嬢の強さは誰よりも理解していますが……その、万が一にお嬢が怪我でもしたら先代に合わせる顔がねえもんで」

「まったく海賊のくせに過保護っていうのは困ったもんだ。このオレが手傷を負うなんて事、あるわけがないだろう。それに」

 

言いながらルシルは忠正の肩をバシバシと叩いた。

 

「このオレを負かしたタダマサがいるんだ。お前らに出番は回ってこないから安心しな」

「へ、へえ……」

 

ルシルにこう言われては反論のしようがない二人の気持ちがわからないでもない忠正だったが、今回の作戦は海賊たちの得意な足場は不安定だが広い船の上の乱戦ではなく、闇に乗じた狭い空間での的を絞った密集戦になるはずだ。

力任せにサーベルを振り回す海賊の戦い方よりも小回りの利く自分のレイピアとルシルのナイフ二刀と小型銃の戦い方の方が成功率が高いと踏んでの事だった。

 

「失敗する事はないと思うが、あちらさんも一応プロだからな。油断はしない。だからこその君たちだ」

 

忠正はそう言って力強く頷いて見せる。

〝白鷲〟の二人は渋々首を縦に振った。

 

「よし、では今夜決行するぞ。とっとと終わらせてバカンスを満喫しよう」

 

 

 夏の日暮れは遅く、ようやく空も暗くなったのは午後十時を過ぎた頃だった。

いつもの酒場でいつものように酒を飲む〝白鷲〟の二人を監視していた刺客の二人は、その時間には見切りをつけて炭焼き小屋へと引き上げていた。

先に別の二人が炭焼き小屋にいるのをルシルが確認しており、この残りの二人が山中の湖に向かって真っ暗な山道をわずかな月明かりを頼りに登っていくのを、人知れず山道の木々の影に隠れて見守っていた忠正とエルザは慎重を期してかなり距離を置いてから後を尾行しはじめた。

息を殺しながら刺客達と同じように明かりは使わずに月明かりのみを頼りに静かに、だが速足で歩いた。

 

すでに炭焼き小屋の近くにはルシルが待機しているし、この尾行の目的は行き先を突き止める事ではなく彼らが本当にそこに行くのか、もしくは途中でおかしな行動をしないかを見極める為のものなのでそれほど難易度が高いものではない。

しばらく進むと右手前方にフィオナの別荘が見えてくる。

暗闇の向こうに建物のシルエットだけが薄ぼんやりと見えているだけだが、そちらは炭焼き小屋とは反対の方向だし、危険はないはずだ。

今頃はもう眠っているだろうか。それとも女の子三人で夜更かしをしてお喋りでもしているだろうか。

どちらでもいいが、これから起こる凄惨な殺し合いとは対極の暮らしをしていて欲しいと忠正は思っていた。

 

 フィオナの別荘を横目に、別れ道を反対の方向に進んでいった時、忠正もエルザも不意に歩みを止めた。

刺客達が進んで行ったであろう道から湖の方へ少し外れた位置に、明らかに人為的な明かりが動いたのを見つけたからだ。

刺客達がこんな場所で不用意に明かりを使うとは考えづらい。

忠正とエルザは顔を見合わせると、頷きあって慎重に道を外れて明かりの方へと近づいて行った。

徐々に明かりとの距離が近づいていき、忠正とエルザは木の陰に身を隠しながら様子を伺った。

 

──何者だ……?

 

忠正が腰に差したレイピアの鍔に左手の親指をかけた時、光がこちらに向けられたのと同時に女性の声が響いた。

 

「誰!?」

 

その声に聞き覚えのあった忠正は、レイピアから手を放し両手を上げながら前へと出た。

そしてなるべく優しくやわらかな声を心がけて言った。

 

「こんなところで何をしているんだい? もう随分遅い時間だ」

 

向けられた光の明るさに目を細めながら、忠正は声の主の方を見た。

 

「え、キサラギさん?」

 

そこにいたのは、カンテラを片手にこちらを驚いた表情でみつめているフィオナ・ロベリンゲと、驚いた様子は特にないパトリツィア・オーエンズの二人であった。

二人はこんな夜だというのに普段着の上にしっかりと羽織れるものを用意しており、夜に備えているのが見て取れた。

忠正はまだ木の陰に隠れていたエルザに目で合図を送る。

エルザは頷きながら前に進み出て、いつものように厳しい口調で言った。

 

「こんな時間に女性のみで外出とは感心しませんね。いくら休暇中とは言え褒められた行為ではありませんよ」

 

その言葉にフィオナが申し訳なさそうに目を伏せながら言う。

 

「ご、ごめんなさい。私達……」

 

フィオナが口ごもる中、忠正は周りを見渡しながら疑問を口にした。

 

「フィオナ、サラは一緒じゃないのかい?」

「あ、あの……」

 

言い淀んだフィオナを見兼ねたのか、パトリツィアが一歩前に出て普段と変わらぬ様子で言った。

 

「私達、肝試しをしているの。この先に使われていない炭焼き小屋があって、そこまで一人で行って薪を一本持って帰るというルールよ。サラはその一番手で、さっきここを出発したわ」

「炭焼き小屋だって!?」

 

忠正とエルザ、二人の顔に緊張が走った。

そのただならぬ様子を感じ取ったフィオナが心配そうな声を上げる。

 

「何か……ありましたか? 私達、何か問題を?」

「いや、そうじゃないんだ」

 

忠正は心配をさせないように無理に笑顔を作りながら言ったが、内心はかなり焦っていた。

あまりにもタイミングが悪すぎる。

サラがどれほど前に出発したかわからないが、あの炭焼き小屋には殺し屋が二人待機しているし、今まさにそちらに合流しようともう二人が向かっている。

サラがすでに炭焼き小屋にいる二人に見つかっても、後の二人に見つかっても、どちらにしろ何もなく見逃されるという事はないだろう。

どう見ても一般人である彼女がいきなり殺させることはないかもしれないが、最低でも拘束はされるだろうし、その際には暴力を受けるかもしれない。

一番最悪なのは忠正とルシルが奇襲をかけるタイミングに巻き込まれることで、そんな場面でサラを守りながら戦うのはまず無理そうだろう。

 

 忠正は咄嗟に思考を巡らせて状況を整理すると、その持ち前の判断力ですぐさま決断を下した。

 

「ディーリア伍長、来た道を戻った少し先に彼女達の宿泊している家があります。すみませんが、この二人を連れてそちらに戻っていていただけますか」

「そ、それは構いませんが……」

「オレはサラを追いかけます。彼女を保護したらそちらに合流します」

「作戦は……?」

「状況が状況です。一般人の安全が第一です」

 

忠正の言葉には迷いがなく、その信念を持った言葉にエルザには反論の余地はなかった。

 

「わかりました。気を付けて!」

 

エルザの言葉を聞き終わらないうちに、忠正はカンテラの光の届かない闇の中へと飛び込んで行った。

その後ろ姿を見送ったあと、エルザは残された二人に向けて冷静な声で言った。

 

「さあ、行きましょう。道案内をお願いできますか」

「は、はい……」

 

忠正は心配をかけまいと振舞っていたが、明らかに良くない状況だという事を察したフィオナは緊張で声が震えていた。

エルザもその顔には余裕がなく強張っていたが、それを横目にパトリツィアだけは湖と反対の山道の方を黙ってみつめていた。

 

 

 忠正は音を立てない様に静かに走ったが、サラの姿を見つける事が出来ないまま炭焼き小屋の近くまでたどり着いてしまった。

暗く鬱蒼とした木々が生い茂る林の奥に、その小屋は静かに、それでいて不気味に佇んでいる。

あらかじめ取り決めていた炭焼き小屋を物陰から観察できる場所に行くと、ルシルが木の陰に隠れながら完璧に気配を消して立ち尽くしていた。

 

「ルシル」

 

忠正が近づきながら声をかけると、ルシルは小屋の方から視線を外さずに小さな声で言った。

 

「おう。……エルザはどうした?」

「それについてはあとで説明する。状況を教えてくれ」

「ついさっき二人合流して、小屋の中に四人。間違いなくいるぜ。それに……」

 

忠正は黙って続きを待った。

いらだちを隠そうとせずに不機嫌そうな声で言ったルシルの言葉は、忠正が予想していた最悪のケースだった。

 

「合流した二人に連れられて、お前のガールフレンドの娘が一人あの小屋に入っていったぜ。見た限り後ろ手に縛られて猿轡を嚙まされているようだったし、楽しくお喋りする為に呼ばれた感じではなかったな」

 

忠正は大きくため息を吐いて、先ほどのフィオナの話を要点だけ絞って説明した。

ルシルは黙って聞いていたが、最後まで聞くと大きく舌打ちをした。

 

「どうするんだ? この作戦の強みは相手の油断に乗じた奇襲だぜ。中に突入したらオレは銃を乱射するつもりだったのに、このままじゃそうもいかねえだろ」

「わかっている」

 

忠正は言いながら苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

ルシルの言う通りこの作戦の成功の鍵は速攻と奇襲にある。

サラを傷つけずに救出し、刺客達を出来る限り殺さずに捕縛するにはどうすればいいのか。

月明かりが照らす忠正の額には、わずかな冷や汗が浮かんでいた。

 

 

 カンテラを持ったエルザが先頭を歩き、その後をフィオナ、そして最後をパトリツィアが続いた。

フィオナの別荘まではそれほど距離があるわけではない。

だが、以前忠正がこの道を通った時に感じたように、この道は人を襲うには最適のように見える。

街から離れ、人通りもなく、暗く音も響かない林道。

エルザは士官学校の出身だし多少の体術の心得はある。大抵の一般人よりはよほど強いし、何より軍人であることから一般人の命を守るのは責務である。

何があってもこの子達を安全に屋敷まで届けなければいけないし、その後には一刻も早く忠正達に合流しなければならない。

そんな想いから彼女は緊張していたし、その緊張が慣れない夜道での注意力を鈍らせていた。

 

 なので、その夜の闇を切り裂いて飛ぶ一筋の光に彼女は気づく事が出来なかった。

その瞬間、ガチャンとガラスの割れる音が響きカンテラの炎が消えた。

 

「え!?」

 

エルザが驚きの声を上げたと同時に闇の中から人影が躍り出て、瞬時にその首筋に手刀を叩きこんでいた。

エルザは声を発することも出来ずに膝から崩れ落ちる。

その影は間髪を入れずに、その後ろにいるフィオナに向かって右手に持ったレイピアを突き入れた。

だが、あるはずの手ごたえが感じられず、影は一歩後ろに下がった。

そして月明かりに照らされた道を凝視した。

そこにはフィオナの服の首根っこを掴んで道の脇の草むらにしゃがんだパトリツィアの姿があった。

パトリツィアはカンテラが割られたのと同時に、フィオナを掴んで草むらへと飛び退いていたのだった。

突然の出来事に言葉も出ないフィオナをそこに座らせたまま、パトリツィアはすかさずその影に対峙した。

そしていつもの冷静な口調だが、ほんの少しだけ楽しそうに言った。

 

「誰か知らないけれどこんばんは。なかなか気の利いた不意打ちだったけれど、カンテラを狙うのに矢を使うのは失策だったわね。矢羽根の音がよく聞こえたわよ」

 

影は全身を覆う長いローブを纏っており、右手には冷たい光を放つレイピアが握られている。

影は何も言わずに静かにレイピアをパトリツィアに向けると、半身になって右足を前に、左足を後ろに構えた。

 

「あら、挨拶も無いのかしら。ただ、一つだけ忠告をしておくけれど、私が丸腰だからといって手を抜かない方がいいわよ」

 

そう言ったパトリツィアは両手の拳を握りこんで構えを取った。

 

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