続・小説みつめてナイト 紅玉の双騎士【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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最近仕事が忙しく、執筆にさける時間が激減しております。
文字数が少ない更新が増えるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。。。
文字数少なくても毎週更新は守りたいと思っています。
書き溜めが出来るようになったら少しずつ文字数増やしたいと思います!
何卒、よろしくお願いいたします。


【57】フィオナ誘拐事件①

「フィオナ・ロベリンゲが誘拐された?」

 

ロゼッタが驚きの声を上げると、パトリツィアは静かに頷きながら手に持っていた手紙を差し出した。

飾り気のない非常にシンプルな封筒の中に折りたたまれていたのは、上等な精製紙などではなく、粗雑な作りのボロ布から作ったと思われる安価な紙キレだった。

その紙には殴り書きのような乱暴な文字でこうしたためてあった。

 

『サリシュアン

フィオナ・ロベリンゲを返して欲しくば、下記の場所へ今夜零時に参られたし』

 

指定された場所はレリックス駅近くの遺跡群の、一番奥に位置する場所のようだった。

手紙を指で挟みながら、ロゼッタは直立不動で立ち尽くしているパトリツィアを見た。

 

「パティがいながら誘拐出来たなんて、ちょっと想像できないけれど」

 

その言葉にパトリツィアは静かに状況を報告し始めた。

 

 

 パトリツィアの報告は端的でわかりやすいものだったが、その言葉の端々に言いようのない悔しさと憤りが散りばめられていた。

彼女の説明した経緯としては、フィオナの護衛を兼ねて一緒に学生寮への帰路についた際に、今までに見たことのない新しい尾行者がいた事に気付いたパトリツィアはフィオナを学生寮まで送り届けた後に、その足取りを掴むべく外に出ていた。

まさか学生寮の中にまでその触手が伸びているとは、流石のパトリツィアも想定していなかった。

 

恐らくフィオナの部屋で待ち伏せをしていた誘拐犯は、戻って来た彼女を薬物などで眠らせ、そのまま部屋の窓から逃走したと思われる。

 

 尾行者はすっかり姿を消しており、止む無く寮に戻ったパトリツィアの部屋に先ほどの手紙が投げ込まれていた事からして、相手はパトリツィアの事も的確に把握しているという事になる。

 

 ロゼッタは組んだ腕の上で右手の指を頬に当てながら黙って報告を聞いていたが、目を細めると小さな声で言った。

 

「ご丁寧に“サリシュアン”宛ての手紙だし、私が行くしかなさそうね。差出人の名前はないけれど……十中八九、例のティア・スリザーでしょうね」

「恐らく。他にサリシュアン様の名前を知っている者がいるとは思えません」

「フィオナ・ロベリンゲに危害を加えてないといいけれど」

「ないとは言い切れません。元々彼女を殺そうと付け狙っていた人物だけに、誘拐した時点ですでに殺していてもおかしくないはずです」

「……否定は出来ないけれど、今の時点では生存を祈るしかないわ。それよりも、まだ時間はあるわけだから準備をしましょう。指定された場所を知っている?」

 

パトリツィアは小さく頷き、ポケットから折りたたまれた地図を取り出した。

 

「遺跡群の見取り図です。人のよりつかない場所でしたので、何かを隠す際に利用できるかと思いまとめていました」

「わお。出来る部下を持つと助かるわ」

「指定の場所は遺跡群の一番奥、丸で囲っています」

言われた場所を確認しつつ思考を巡らせたロゼッタは、何かを考えながら口を開いた。

「ねえパティ。相手は一人だと思う?」

「誘拐するのに何人かの手を使ったと思いますが、指定の場所にはティア・スリザー一人でいる可能性が高いかと」

「だよねぇ。随分と“サリシュアン”にご執心のようだし」

そう言いながらおもむろにニヤリと笑うと、ロゼッタはパトリツィアに言った。

「パティはフィオナ・ロベリンゲを保護できるよう、準備を進めておいて。私は少し出かける事にするわ」

 

その言葉にパトリツィアは表情には出さなかったものの、わずかに怪訝そうな雰囲気を出した。

 

「どちらに? 指定の場所の周辺に罠などが仕掛けられていないかを確認しに行った方が良いかと思いますが」

「味方は多いに越した事はないでしょう? “サリシュアン”は私だけじゃないからね」

 

大真面目に言うパトリツィアに、ロゼッタは含み笑いをして見せた。

 

 

 

 いかにドルファン首都城塞がドルファンの中心であり、首都の機能を持ったいわゆる都会であったとしても、日付も変わろうとする深夜でも灯りが絶えずに賑やかなのは、サウスドルファンの駅前の一角だけだ。

燐光灯が発明されて常夜灯が身近になったとは言え、まだまだ庶民にとっては高価な品であるし、蝋燭や獣脂の灯りが主流である以上はドルファンの市民たちの夜は早い。

ましてや人の住んでいないレリックス駅近くの遺跡群周辺など、街灯もまったくない為にその暗さと静けさは人が近づくのを拒むかのようだった。

時折、雲間から差す三日月の細々とした光だけが、遺跡の輪郭をわずかに照らしている。

 

 そんな暗い遺跡群の中を、三人の男女が歩いていた。

前を歩く女性二人は闇夜の暗さなどまったく意にも介さず、まるで昼間のようにすいすいと歩いていく。

その後をついていく男性は、両手を前に出しながらおっかなびっくりに歩いており、時折足元の岩につまづきながら必死に女性陣の後を追っていた。

 

「待て。どうして二人はこんなに真っ暗なのに、何事もないかのように歩けるんだ?」

 

忠正はよたよたと歩きながら必死に声を上げる。

前を歩いていたロゼッタは、同じように隣を歩くパトリツィアと顔を見合わせると、呆れたようにため息を吐きながら言った。

 

「海軍では夜間行軍の訓練はしないの?」

「していたとしても、こんなに暗い夜の、しかも朽ちかけの遺跡が乱立する中を歩けるようにはならないだろ!」

 

ロゼッタとパトリツィアは再度顔を見合わせると、肩をすくめた。

 

「それよりも」

 

幾分真面目な顔でロゼッタが言う。

 

「ティア・スリザーの指定の場所まで着いたら、私とあんたで抑え込むわよ。その隙にパティにフィオナ・ロベリンゲを救出してもらう」

 

忠正は薄暗い月明かりに照らされたパトリツィアの無表情な顔を見る。

この、フィオナやサラと同じようなただの女子学生にしか見えない少女が何かしらの戦闘訓練を受けており、何やら不穏な動きをしている自分の姉と行動を共にしている事がまったく腑に落ちていないが。それはすでに事実として動き始めているし、彼女の大人びた態度にも説得力を持たせている。

 

 要はこの少女と自分の双子の姉が“何の勢力”の人間で“何の為に行動しているのか”がわからない事が忠正の中で消化できずにもやもやとしているだけだ。

この二人に聞きたい事はいくらでもあるが、今はフィオナの救出が最優先だ。

そんな忠正の思考を断ち切るように冷静なパトリツィアが静かに言った。

 

「もう間もなく指定の場所です」

 

遺跡群の一番奥にある朽ちた神殿の跡地が指定された場所だが、近づくにつれてその方向に明るく揺れる光が見えてきた。

こちらからはまだ建物の影に隠れて見えないが、ロゼッタはパトリツィアの肩を触った。

 

「かがり火を焚いているみたいね。私と忠正で正面から行くので、パティは迂回しながら様子を見てフィオナ・ロベリンゲを救出して」

 

パトリツィアは黙って頷くと、大回りに迂回するべく音も立てずに走って行った。

その後ろ姿を見送ると、ロゼッタは手にしていた革袋から自分の愛刀を取り出した。

忠正はブリジットに調整してもらったレイピアを鞘から引き抜き、右手に構えた。

 

「行こう」

 

二人はゆっくりと指定の遺跡へと歩き始めた。

 

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