続・小説みつめてナイト 紅玉の双騎士【完結】 作:ケルティック☆タイチ
とはいえ、先週は休載となってしまい申し訳ございませんでした。。。
さて、物語はヒューイVSエルヴィンとなるわけですが、その決着やいかに。
ヒューイはその実力がチート級なので、使いどころが難しいですね笑
ヒューイ・キサラギと名乗る男に対峙したエルヴィン・ハーンは言い知れぬプレッシャーを感じていた。
今まで対峙した誰とも違う、その威圧感。
身体が大きいわけではない。鍛えられていそうだが、ゴットフリートのような筋肉を纏っているわけでもない。
鎧すら身に着けておらず、静かに右手一本で持ったカットラスをこちらに向けて構えているだけなのに、打ち込む隙が一切ない。
年齢は四十台といったところか。
涼し気な目元には笑い皺がいくつか見受けられるので、よく笑う人間なのだろう。
まばらに白髪の混じった黒髪は長すぎず短すぎず、海風にたなびいている。
黒曜石のような澄んだ黒い瞳がこちらをじっとみつめている。
エルヴィンは小さく息を吐くと、ハルバードのベリ酸のカートリッジが装填されているのをちらりと確認し、手元のスイッチに指をかけた。
この剣士はそこで気を失っている海賊娘より圧倒的に強いと判断し、様子見などは一切せずに初見殺しの雷の一撃を叩き込んだ方が良い。
幸いなことにその男の武器であるカットラスはリーチが短いので、間合いは断然こちらの方が長く有利だ。
そして、動作の大きい横薙ぎではなく直線的で速い突きの方がいい。
一瞬でそこまで思考すると、エルヴィンは渾身の突きを放つと同時に雷のスイッチを押していた。
「喰らえ!!」
絶対不可避の一撃。
バチンと空気の爆ぜる音と共にまばゆい光が弾ける。
いくら自身には雷の効果がないとは言え、その閃光には一瞬だが視界を塞がれる。
目がくらむのを防止する為にわずかに目を閉じて再び開くその刹那の瞬間に、驚くべき事にその男の姿は消えていた。
「な……!?」
エルヴィンは戸惑いの声を上げたものの、咄嗟に顔を上げて槍先のそのかなり先にいる男の姿を確認した。
――俺の突きよりも早く、雷の届かない距離まで後退した!?
心の中で叫びながらも、そこは熟練の戦士だ。
すかさず踏み込んでその距離をつぶすと、追撃の突きを繰り出す。
だが、黒髪の男は半身になりながらその一撃を躱すと、的確なカウンターでカットラスを突き込んできた。
「むうん!」
突きの軌道から力で強引にハルバードを払い上げてカットラスを弾く。
弾いたカットラスから火花が散ったと思った瞬間、エルヴィンは顔面に拳を受けて目の前に星が散った。
剣を弾かれた男は間髪を置かずに左拳を繰り出していたのだ。
殴られた衝撃で後ろに吹き飛んだエルヴィンは、それでもその勢いを利用してバク宙の要領で距離をとりながら再び体勢を整えてハルバードを構える。
しかし黒髪の男はそれを予想していたかのように追いかけてきており、首筋を狙った渾身の斬撃を放ってくる。
咄嗟に引き上げたハルバードの柄でそれを受ける。
片手で斬り込んできたにも関わらずギリギリと音を立てて押し込まれるカットラスに、両手で受け止めているエルヴィンは思わず舌を巻いた。
男の顔に向けて口の中に溜まった血を吐き出すと、男はサッと後ろに飛び退いて離れた。
「ヒューイとか言ったか? おっさんの割にはなかなかやるじゃないか」
エルヴィンは口元を拭いながら吐き捨てるように言う。
だが殴られたダメージは思ったよりも深く、頭の中で誰かがけたたましく鐘を叩いているような錯覚すら覚えていた。
対するヒューイは左拳を軽く振りながら、それでもエルヴィンの一挙手一投足を見逃すまいとじっとこちらを見ている。
わずかな隙が命取りになる事を今の攻防で嫌というほど理解したエルヴィンは、ベリ酸のカートリッジを取り換える事が出来ずに小さく舌打ちをした。
この黒髪の男は強い。恐らく今まで対峙したどんな相手よりも強いだろう。
それに、この男は雷の一撃を躱した。
絶対不可避であるはずのこの雷を、初見で躱せる者がいるはずがない。
そのカラクリを解明しない限り次の雷を放っても同じ事になる可能性が高い。
そう判断したエルヴィンは情報を引き出すためにあえて声をかけた。
「よく俺の突きを躱せたな。数々の敵を屠った自慢の一撃だったのだが」
顔面の痛みを隠しながら言った言葉に、意外な事にヒューイは気軽に答えた。
「ああ、最初の突きか。昔、槍の名手と戦った事があってな。悪いがそいつの突きに比べると少し遅かったよ」
エルヴィンは明らかにその言葉が癇に障った。
「へえ、そんな槍の名手が存在したなんて知らなかったな。だが、俺の突きは特別だ。絶対に躱せるはずがないんだが」
不機嫌そうに吐き捨てた言葉だったが、ヒューイは意外そうな顔をした。
「大した自信だが、それはあの光る突きだからか?」
「まあ、有り体に言えばそうだ」
「ああ……」
ヒューイはつまらなそうにため息を吐いた。
「その海賊娘にとどめを差そうとした時にも使っていたのを見たからな。刃が届かなくてもあの娘は気を失った。と、いう事は見えない何かを放っているんだろ? ならば間合いを広く取ることで回避が可能だと踏んだ」
「たったそれだけで察したというのか? 俺の一撃を?」
「こう見えても経験豊富なんだ。お前のように光を放つ武器を使うヤツとも戦った事がある。もっとも、そいつの武器はハルバードじゃなくてニードルだったが」
今度はエルヴィンは大きく舌打ちを打った。
このハルバードはシュバルツデスアプグルント騎士団の知識を集結した最新鋭の物だ。
そんな技術の粋を集めたハルバードに匹敵するような武器がすでに存在しており、それを使用していた騎士がいるなど到底許容する事ができない。
それに、電気を操る武器を知っていたからと言って、こうも簡単にその一撃を躱されたというのもエルヴィンにとっては屈辱的だった。
この男は必ず雷の一撃で仕留める。そうしなければ自分の中で溜飲が下がらない。
その為にはベリ酸のカートリッジを交換しなければならない。
このカートリッジ交換という作業が必要な事が、この無敵のハルバードの唯一の欠点だ。
至近距離で密着したまま動けない状況では、事態は動かない。
エルヴィンが思わずハルバードの柄のカートリッジに視線を動かした時、黒髪の男は突然後ろに大きく飛び退き、距離を取った。
そして先ほどと変わらぬつまらなそうな口調で言う。
「仕組みはわからんが、その光る攻撃は一撃しか放てないようだな。それに、一撃放ったら次の一撃を放つのに仕掛けを交換しなければならない。違うか?」
エルヴィンの不敵な表情にわずかだがひび割れが入ったように、顔に張り付いていた不敵な笑みが強張った。
「……どんな洞察力なんだ? 確かにあんたの言う通りだ。次の一撃を放つにはカートリッジの交換が必要だ」
「さっきからお前の目線が柄の下の方へとちらちらと動いていたからな。それに連発出来るのだったら戦い方ももっと変わってくるはずだ」
エルヴィンは小さく口笛を吹いた。
「まったく恐れ入るぜ。こんな剣士がドルファンにいたなんて驚きだ」
「別にオレはドルファンの人間じゃないんだけどな……」
ヒューイはカットラスをその場で何度か振ってみせると、なんと腰につけた鞘に収めてしまった。
「そのカートリッジとやらを交換するといい。その間は待っておいてやるよ」
エルヴィンの眉がピクリと反応する。
「随分余裕じゃないか」
「余裕ぶっているわけではないが、本気を出さずに負けたとあってはお前も心残りだろう」
特に威張るでもなく、上から目線でもない飄々とした物言いが逆にエルヴィンの神経を逆なでした。
「もう勝ったつもりでいるのか?」
流石のエルヴィンも、その声には並々ならぬ怒りが込められていた。
しかしヒューイはその迫力を軽く受け流すように答える。
「そんなつもりもない。だが、お前に負ける自分の姿が想像できないだけだ」
「致命的な想像力の欠如だな」
「オレは自分の手の内を明かしてしまっているのに、自分の勝利を信じられるほど間抜けではない」
「その減らず口、叩き潰してやる!」
エルヴィンは使い終わったベリ酸のカートリッジを乱暴に外して放り捨てると、新しいものを素早く取り付ける。
そして手元のスイッチに指をかけたまま体を半身に引くと、ハルバードを大きく真上に振りかぶった。
それはエルヴィンが今までに対峙してきた無数の戦士たちを葬ってきた必殺の一撃だった。
小細工は一切なし。振りかぶったハルバードを、ただただ愚直に雷と同時に振り下ろすだけの一撃。
シンプルこの上ない攻撃だが、エルヴィンの高い技量と膂力を持って繰り出されるその斧の一撃は尋常ならざる速さと威力を誇る。
だからこそ雷の効果と相まって防ぐ事も、回避する事も出来ない。
絶対的な自信と破壊力に裏打ちされた一撃だった。
ヒューイとの距離は完全にハルバードの間合いで、カットラスのような短い剣は届かない。
ましてや鞘に収められたカットラスなど何の脅威にもならない。
「喰らえ! トール・ハンマー!!」
勝利を確信したエルヴィンは全身の力を込めてハルバードを振り下ろした。
雷鳴が響き、敵味方が入り乱れる甲板を稲光が駆け抜ける。
本来はそうなるはずだったのだが、そうはならなかった。
エルヴィンはハルバートを振りかぶったままの姿勢で微動だにせずに立ち尽くしていた。
だが、振りかぶった事によって出来たわずかな腹部の鎧の隙間に、カットラスが突き立っていた。
ハルバードを握る右手の指は雷のスイッチに掛かってはいたが、それが押されてはいない。
「あ……?」
エルヴィンは信じられないといった面持ちで自分の腹部に突き立った剣を見た。
刀身を伝って赤い血が流れ落ちており、自分が致命傷を負っていると理解すると同時に、振りかぶった手から滑り落ちたハルバードが耳障りな音を立てて甲板に転がった。
その場で膝をついたエルヴィンは口の端からも血を吐きながら茫然とヒューイの方を見上げた。
「な……なにを、しやがった?」
ヒューイは勝ち誇るでも、見下すでもなく、何の感情も宿さない目でエルヴィンをみつめていた。
「お前がハルバートを振り下ろすよりも速く剣を投げただけだ。機械仕掛けで雷を発生させているなら、なにかきっかけがあるはず。だったらそのきっかけよりも速く攻撃すればいい」
「その剣は、さ、鞘に収まっていたはず、だ」
「なぜお前たちのような騎士は鞘に収めた剣が脅威にならないと考えるのか、オレには理解できん」
ヒューイは鞘に収めたカットラスを、日本刀の居合の要領で引き抜くと同時に投げていた。
鞘走りで加速された剣はヒューイの手元を離れ、まさに雷光のような速さでエルヴィンに到達していた。
「反則だろ、そんな、の……」
その言葉を最後にエルヴィンの瞳からは光が失われ、体が音を立てて倒れた。
「自分の技を頼みに得物を振るうよりも、機械仕掛けに頼ったお前の方が反則だと思うがな」
吐き捨てるように言いながらエルヴィンの身体に突き立ったカットラスを引き抜いたヒューイは、その剣を掲げて声も高らかに叫んだ。
「敵将エルヴィン・ハーン討ち取ったり! 仇を討とうというヤツはいないか。このヒューイ・キサラギが受けて立つぞ!!」
パトリツィアの猛攻を掻い潜りながら、ロゼッタは刀を鞘へと納めた。
いかにパトリツィアが防御を捨てているとは言え、これからやろうとしている事を達成するには間違いなくパトリツィアの反射神経を超える必要がある。
彼女の意識の届かない範囲から、まさに瞬きよりも速い刹那の一瞬で実行しなければならない。
その為にはロゼッタの技の中でも、最も速く、最も正確なこの“居合”にかけるしかなかった。
幻の聖騎士と言われた父から受け継いだこの“刀”という剣は、まさに“居合”に最適な構造となっている。
ほどよく反りの入った片刃の刀身と長さ。全体の重さと重心のバランス。
どれを取ってもこれ以上“居合”に適した剣は存在しないだろう。
仮に刀以外で居合を扱える者がいるとすれば、それは達人を通り越した剣の神と言えるだろう。
そんな雑念とも取れる思考を振り払いながら、ロゼッタはタイミングを図っていた。
パトリツィアの洗脳を解くには、精神的なショックを与えなければならない。
しかもそれは相当の衝撃でなければならない。
――彼女にとっての精神的な衝撃。つまり、彼女の大切な宝物を奪うこと。
ロゼッタは全く気乗りしないその行為に胸の奥にむかつきを覚えていた。
こちらに攻撃を仕掛ける為に動き回るパトリツィアに不可視の速さで居合を仕掛け、なおかつ彼女を傷つけることなく宝物だけを斬るなど、それは最早、神業と言っていい。
そんな芸当が出来る人間など、ロゼッタの知る限りはただ一人。父親であるヒューイ・キサラギのみだ。
自分の剣技が父に届いているとはとても思えないが、だからと言ってそれを行わない限り、パトリツィアの暴走は止まらないだろう。
「覚悟を決めるしか……ない!」
パトリツィアの蹴りを横跳びに躱したロゼッタは、着地と同時に刀の鯉口に指をかけ、鋭く息を吐きながらパトリツィアに対峙した。
意思を宿さないパトリツィアは、間髪を置かずに追撃態勢を取る。
「ごめん、パティ!」
ロゼッタが叫ぶと同時に、閃光が走った。