室笠アカネと先生   作:じーYA

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アカネ単品のSSがすくないんだよお!!!


夏の日差しに揺蕩んで

 ドアを三回ノックする。

 

「ご主人様、アカネです。いらっしゃいますか?」

 

 ドア越しに声をかけ、中の様子を耳で伺うが反応がない。あら、珍しいこともあったものです。いつもならご主人様の方からの方からドアを開けてくださるくらいなのに。

 

 それからしばらくして、少しばかり声を上げてかかる、もやはり反応はない。ドア越しに耳を当ててみる。

 

 かつり。

 

 添えた手に反応してか、ドアクローザーが静かに弾かれた。思わず飛び退くも、触れた先から逃げていくドアは、すきま風なら通れそうかというくらいで留まる。

 

 部室の部屋は自動ドアでもなければ、風が吹いて飛ばされるほど薄くもない。つまり、開いているのだ。

 

 開いていること事態は特段珍しいことではなかった。先生の人柄からすればむしろ施錠されている方が異変とも言える。それくらいに生徒との関係を大事にしている人だ。

 

 しかし、開いているといっても開けっ広げにしているわけではない。普段からきちんとドアは閉める。特にこの時期は空調を付けるのだから。

 

 ドアから目を離さずに考えを巡らせる。返事の無い部屋。添えた手が触れた程度で開くドア。それに、ここまでしてなおも反応の無い先生の気配。

 

(....これは、もしかするかもしれません)

 

 緩くまとめた可愛らしい服飾に手を入れるとと瞬間、鉄の棒に見紛う銃がぬるりと姿を表す。消音に優れる愛銃は、されども彼女の纏う淑女のイメージをより印象強くした。

 

 (....)

 

 きぃ、きい....きぃ

 

 室内から晴れた午後の日差しを受けたドアは、静かに静かに軋みながら影を狭くしていく。それに紛れて部室内に侵入する。潜入任務でこの程度は慣れたものだ。

 

 影を伝って、前へ、先へ進む。狙撃の可能性も考えると窓からの死角がもっとも望ましい。ドアから観葉植物の影へ、影からデスクへと体を移す。隙間から目を凝らせば、ゆらりゆらりと揺れるロッキングチェアに見慣れた背広がかけられ、見慣れた背が体を預けていた。

 

(ああ!ご主人様!ご無事でよかっ....た...?)

 

 それはゆっくりと揺らぐ影の肘おきから、

 

 一滴

  二滴

   三滴

 

 止めどなくこぼれ落ちて、青いマットにシミを作る。

 

 「先生っ!?」 

 

 その場に誰がいようと抑えられる。左手に備えた銃は何時でも引き金が引ける。そう頭で判断するよりも早く、普段の余裕のあるメイドのなりを潜ませ、アカネは全力で駆け出した。

 

===

 

「はぁ............まったく。人騒がせ、いえメイド騒がせが過ぎますよご主人様」

 

 青いマットの干物が終わり、ロッキングチェアで気持ち良さそうに眠る先生の前で、ぷんすかと分かりやすくポーズをした。

 

 床には右手から溢れたであろう書類、左手の袖を濡らすのはアイスコーヒーの染み。なんてことはない、すだれから覗く気持ちのいい日差しを受けて、半ば気を失うように意識が途切れたのだろう。染み抜きと衣服の乾燥でも目を覚まさないものだから、少し心配になって脈拍も確認した。ちゃんと鼓動の音はする。

 

「まったく。あれほどご無理をなさらないでくださいと申しましたのに....」

 

 散らばった書類をまとめると、それは山のようになり、デスクの上が見えなくなるほどだ。

 

 これを一人でこなしているのだから、何時倒れてもおかしくない。

 

 たとえ先生が大人で、戦術指揮が素晴らしくて、子供よりも責任感があり、常識を持ち、生徒のことを第一に考え、そのために行動し、何時だって笑顔を向けてくれるヒトであったとしても。

 

 それでも外の世界から来た人で、それはつまり私たちよりも体が弱いのだから。

 

「....」

 

 先生の膝上に組ませた手に触れる。私の肌よりも固くてざらついた肌。所々にちょっと毛が生えていて、無骨でずぼらな先生っぽさがある。ちょっと可愛いなんて、そう思ってしまうのはメイドとしてあるまじきだろうか?

 

 それなのに、そんな異性の体に触れているのに怖さも畏れもなく、暖かみと安心感を得られる不思議な感覚。

 

 気づけば先生の手を取り、開いた隙間を埋めんとばかりに膝の上に…まるで猫のように顔を寄せていた。

 

 代わりに先生の手を自分の頭の上に被せる。寝ている人特有の重さが頭を撫で付けると、なんともいえない多幸感がアカネの体に巡る。先生に出会う以前、『ご主人様』を得る前には考えられなかった、心の隙間を補完する感情。

 

 何時からだろう、手段と目的が変わってしまったのは。私はようやく出会えた『ご主人様』にお仕えできればそれでよかったのに。ご奉仕ができれば他になにも求めなかったのに。

 

『すべてはご主人様のために。』

 

 ご主人様の側にいることができれば、と。ただそれだけですのに。アカネはそれだけがあれば十分でしたのに。

 

 先生の手に顔をうずめる。仄かに赤くなった頬はそれを容易に受け入れた。

 

 この手に撫でられたい、その口で良くできたと誉められたい。胸のうちに抱かれて、私の思いを、熱い身体の火照りを感じてほしい。

 

 ご主人様、ご主人様。アカネをもっと頼ってください。そして、この手で、その胸の中で、その整ったお顔でアカネのことを口にしてください。

 

ありがとう、と

何時も助かるよ、と

またお願いね、と

 

 そればかりを求めてしまうのです。いけないことでしょうか。それでも、そうであっても私は先生に。

 

 ご主人様....先生、先生。

 

 どうか私のことを、たくさんたくさん褒めてください(あいしてください)。私はそれに応えたいのです。気付いてほしいのです。

 

 膝の上で顔を擦る。この匂いが好きだ。包まれていると安堵に誘われた眠気が顔を出す。

 

 日差しも相まっていく中で、虚ろ虚ろとした頭はいやに冷静な一面で考えはじめる。 

 

 あのような高ぶる感情をぶつけられれば、それはとても楽で幸せなことだろうと思う。

 

 それでも私は平時は何事もないように努める。当然だ。先生はご主人様で、私はメイドのアカネ。この関係性だからこそ築けた気持ちであり、気付けた気持ちなのだ。それを自ら壊すようなことはしたくない。

 

 それに、迫られるのなら出来れば先生の方から、なんて乙女のような思考。

 

 自分でもなんと都合のよい、厚かましい態度か。

 

 それでもこうなってしまったのだから仕方がない。ついに眠気にも耐えられない思考は乱れ、心地のいい闇の中へと歩を進める。

 

 これからもメイドとしてご主人様を支える。そうすることでしか私は気持ちを伝えることを知らないから。最高のご奉仕で、お応えします。だから、だからどうかお願いです。

 

「ご主人....さま、アカネをもっと...頼ってくだ...ね」

 

 心地のよい午睡はついにアカネを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

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