ハイスクールD×D 黒蟻と聖母の微笑   作:サン・テグ・ジュ・ペリ

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 おはこんにちばんは、まーるうち、または丸内です。

 書いていてアーシアに申し訳なくなった今話ですが、なんとか産めました。

 まだまだ粗がありますが、それでもよろしければお読みください。

 では、どうぞ。


capital-2 黒蟻と武器商人

 隠れ家への帰路についていたダリオは、一般的な日常生活を送っていればまず感じない『違和感』に気がついた。

 

(汚臭……?)

 

 彼は自分の肉体を改造している。弾道を銃口から察知し避けることなど朝飯前。その気になれば音速に至る速度で走り回ることだって出来る。

 

 その並外れた人体改造には、五感の強化も当然恩恵の一つに入っている。

 

 優れた嗅覚が、観光名所ヴィネツィアに本来あらざる匂いを嗅ぎ分けていた。

 

 血と、腐臭と、数々の汚れがごちゃ混ぜになったような匂いだ。

 

(微かに人の体臭……死にかけのホームレスでもいるのか?)

 

 なんとなく気になったダリオは、少し寄り道してみようと気紛れを起こした。

 

 その気紛れが一人の少女を救うとは、この時の彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻につく異臭を頼りにしばらく歩くと、人気の無い袋小路に入っていた。

 

 棄てられてガソリンやゴミなどの廃棄物にまみれた路地裏は、ここが本当にヴィネツィアなのかと疑うほどに汚い。

 

(この辺りは汚臭がひどいな、もうどれがどれだか分からん……)

 

 目的の臭源と、周囲の悪臭が混ざり合って、ダリオの嗅覚をもってしてもこれ以上の探索が困難になってきていた。

 

「もう諦めて帰るか……?」

 

 彼は件の匂いの発生源に人間の体臭が混じっていた為、気になってきただけだ。

 

 それほど躍起になって捜索するような事でもない。自分の感覚を疑うわけではないが、もしも本当に付近に死にかけの人間がいたとしても、別にダリオの人生に影響を与えることはないだろう。

 

 そう思い、来た道を戻ろうとした彼は、耳朶にか細く響く声を聞いた。

 

 

 

 

「誰か……助けて…………」

 

 

 

 

 少女の声だった。

 

 ダリオは音のした方へ振り向き、今しがた帰ろうとした足先を反転。踵を返して更に奥深くに進む。

 

 路地は奥に行くに比例し、より一層汚らわしくなっていく。

 

 歩めば歩んだ分だけ左右の壁が狭まっていき、視界が縮んだような錯覚を覚える。

 

(随分と長いな。まるで異界だ)

 

 平衡感覚すら失うほどの息苦しさを感じる狭さだった。これ以上道が狭まるようなら、大柄な部類に入るダリオでは進めそうにない。

 

 と、その時。

 

 漸く、袋小路の終点に辿り着いた。

 

 そこには、やはりまだうら若い少女が倒れ伏していた。

 

 傍には旅道具と思しきリュックサックと、少女の矮躯を包む擦り切れた毛布があった。

 

(…………こんな地元民でも知らないような場所にいるから、察しはついてたが……案の定、か)

 

 少女自身は、ボロ雑巾よりも酷い状態だった。

 

 かつては手入れを欠かさず、櫛で丁寧に梳かれていたであろう金色の長髪は、まるで泥を被ったように色褪せていた。

 

 伸ばし放題の爪は、ヒビ割れ、剥がれ、潰れていて、隙間にはゴミとも垢とも分からぬ汚れが詰まっている。

 

 上質な素材と、繊細な職人技で仕立てられた修道服は、もはや衣服としての役割は果たせておらず、単なる布切れを巻きつけているだけだ。

 

 散髪も出来なかったのだろう。長くなりすぎた髪は、地面に引き摺られるように広がっており、少女の体を覆ってしまっている。

 

 皮膚の一部は腐敗でもしているのか、それとも痛んだ髪先が腐っているのか、微かながらも腐臭が漂っている。

 

 まるで化け物のような、凄惨な有様だった。

 

「十五にもなってなさそうな、こんなチンチクリンが…………世も末、だな」

 

 少し離れた場所から女子ーーアーシアを眺めていたダリオは、彼女の心臓がまだ活動しているのを感知していた。

 

 ずかずかと靴音を鳴らして近づき、無造作に金の長髪をむんずと掴み上げ、その顔を目にする。

 

「ーーーー悪くない」

 

 痩せこけた頬は窪み、骨組みが透けて見えるほどに肌に生気がない。

 

 涎が垂れ、冬場でもないのにかさついた唇は、もう何日も食べ物を口に入れたないことの表れだ。

 

 少し小突いただけでへし折れそうな細い喉は、生命活動に必要な最低限の動きしか出来ていない。

 

 そして何よりも、目に何の意思も存在していない。

 

 目を開けながら失神している少女の双眸には、『虚無』すらも住まぬ真の空洞に満ちていた。

 

 この世の全てに見放され、存在を否定された者にしか出来ない空虚を通り越した寂寥の眼。

 

 そのがらんどうの瞳を覗き込んだダリオは、にやりと口元を歪めた。

 

「悪くない。ああ、本当に悪くないーーいいだろう、助けてやるよチンチクリン」

 

 そう言って、羽のように軽いーー体重が無いのでは、とすら思える狂った軽さだーー少女を担ぎ上げ、今度こそ帰路についた。

 

 アーシアの目を見た彼の口角は、終始三日月に上げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、まず知らない天井が視界に映った。

 

 次いで、体が少し肌寒い事を感じた。何も身につけていないのだろう。

 

 そして、感覚の戻ってきた耳朶を震わす、火を使った調理の音。

 

 背中が冷んやりとしていて寒い。どうやら、裸のまま何も敷かれていないベッドに寝そべっているようだ。

 

「……起きたか、シスター」

 

 不意に、声が聞こえた。

 

 聴覚が捉えた男の声が発せられた方向に顔を曲げようとして、すぐにそれは中断させられた。

 

 原因は、動かそうとした首を中心に広がる正体不明の激痛だ。

 

 わけのわからない痛みに顔が歪み、目頭に涙が溜まる。

 

「ああ、動くなよ。手術直後(・・・・)なんだ。無理に体を動かそうとすると骨と筋繊維がねじ切れて神経が再生不可なレベルにまで傷つくぞ?」

 

 全く訳が分からないが途轍もなく不穏な発言だったので、とりあえず言うことを聞く。

 

 どうやら体を動かしてはならないらしい。いまいち信用できないが、先の激痛は紛れもなく本物だ。あんな痛みは御免こうむる。

 

 視線だけでも動かそうとするが、それでも僅かに痛みが走る。が、我慢出来る範囲だ。

 

 どうやら自分は古ぼけた木造建築の家にいるらしい。最後の記憶は路地裏だったから、声の主に運び込まれたのだろうか。

 

 そう言えば、自分は今丸裸だ。一瞬男が自身を慰み者にしたのかと疑うが、そのような感覚は無いし、手術と言っていた事から、何かしらの治療を行ってくれたのだろうか。

 

 今までの生活を思い返せば、病気や怪我の一つや二つ、幾らでもあるだろう。この声の主は、そんな自分を助けてくれたのかもしれない。

 

(まあ十中八九ありえないですがね……)

 

 身体中に感じる痛みを伴う違和感から、アーシアは声の主がロクな者ではないと察しをつけていた。

 

「……うん、まあこんなもんか」

 

 料理が完成したのか、満足気な男が近づいてくる。どうやら、自分は食卓の近くで寝ているようだ。

 

「粥も作った。食える味には仕上げたつもりだ」

 

 その声と共に、アーシアの口元に何か熱いものが寄せられた。

 

 ほかほかとした湯気を感じる。おそらくはお粥を食べさせようとしているのだろう。

 

 この年になって誰かに食べさせてもらうというのは、彼女にとって羞恥を煽るものではあるが、身を起こす余裕すらない状態では仕方ない。

 

 それに、何日も食べ物らしい食べ物を摂取していない。必然、栄養を体が欲しがる。

 

 大人しく口を開くと、するりと柔らかい粥が口内に広がっていき、温かで微細な味付けが施されたご飯に舌鼓を打つ。

 

 食べやすい温度に調整されたお粥は非常に食欲を誘い、ハフハフばくばくと口が勝手に動いてしまう。

 

 ーー気がつくと、お粥を食べ終えてしまったらしい。

 

「食欲はあるようで良かった。肉体は正常に復調しているな」

 

 視界に入らない位置にいる男は食器を下げに行ったのか、気配が遠ざかる。

 

(ーーここは一体……?)

 

 食欲を満たし、周囲の環境を把握し始めたアーシアは、落ち着いてきた思考を巡らす。

 

 自分はどのくらい眠っていたのだろうか。

 

 ここはヴィネツィアの何処かなのだろうか。

 

 手術といって、自分は何をされたのだろうか。

 

 自分はこれからーーどうなるのだろうか。

 

「お前の現状を説明しようか?」

 

 いつの間にか近くに戻ってきていたらしい。男はそこで初めて、アーシアの視界に映った。

 

 無作為に跳ねた黒髪はうなじの辺りで切られた短髪。

 

 整った顔立ちに、猛禽のような金色の両眼。

 

 大柄な部類に入るがっしりした肉体を包む白いトレンチコート。

 

 年の頃は、アーシアの見立てでは十代後半か、二十歳丁度といったところだ。

 

「俺はダリオ・ガリアーノ。路地裏でぶっ倒れていたお前を、一応形的には保護した男だ」

 

 そう言うと、ダリオと名乗った男は何枚かの書類の束を突きつけてきた。

 

「お前があの袋小路の奥で倒れてから今日で四日目だ。その間に、少々お前の事を調べさせてもらった」

 

 書類には、自分の顔写真と生年月日やその他の戸籍情報が載せられていた。

 

「アーシア・アルジェント……元カトリック教会所属のシスターで、神器『聖母の微笑』(トワイライト・ヒーリング)の持ち主。その癒しの力を遺憾無く発揮し、かつては聖女と崇められ、傷ついたエクソシストだけでなく民衆の治療も行っていた」

 

 合ってるか、と問うてくるダリオに、小さく頷く。

 

「ん。その後、偶然道端で瀕死になっていた悪魔の傷を治し、それを住んでいた修道院の神父に目撃され、悪魔を救済した魔女として異端の烙印を押されて、先日のように各地を放浪していた」

 

 合ってるか、と問うてくるダリオに、アーシアは否定する事なく頷いた。

 

「……分かった。さて、教会所属であったお前は、今言ったように異端扱いされ、教会を追放されている。つまり、この世界にお前の存在を証明する物が無い訳だ」

 

 コレも単なる報告書で身分証明書ではない、と言って、書類をぺらぺらと振る彼は、次にこう言った。

 

「ここから本題だーーアーシア・アルジェント。身寄りもなく、住む場所も身につける衣服も満足いく食事もない、戸籍すら存在しない『架空のシスター』であるお前に、一つ提案がある」

 

 書類を投げ捨て、寝そべる彼女の前髪をぐいと掴み、覗き込むように顔を近づけてくるダリオは、一点の感情も籠らない深淵とした瞳でアーシアを射抜く。

 

「俺はダリオ・ガリアーノ。またの名をジークフリード・スキャッグス。違法武器を造り、量産し、売り捌く武器商人だ。なあ、アーシア・アルジェント。お前に衣食住を提供しよう。身分を与えよう。欲するものを授けよう。望む環境を仕立てよう。だからーーその体を、俺に捧げろ」

 

 狂気的な表情で笑う彼は、コートの襟元を片手で崩し、左鎖骨付近を露出させる。

 

 アーシアは、そこに刻まれた記号に目を奪われた。

 

 鋭利な刃物で抉られるようにして彫られたと素人目でも分かる。刺青だとかタトゥーだとかじゃない。言ってしまえば傷跡のようなものだ。

 

 彫られていたのは、言葉と数字。

 

 鎖骨の下に小さく『SCCAGGS』、そのすぐ下には『No.001』とあった。

 

 だが、アーシアが目を奪われたのはそれではない。

 

 『001』の数字部分が、上下左右反転しているのだ。

 

 そう、それは言うなればーー。

 

逆さ数字(リバースナンバー)ーー人体改造の証だ」

 

 コートを直しながら、彼は続けてこう言った。

 

「ーーーー俺は武器商人。武器開発者。武器技術者だ」

 

「どんなチンケな三流武器(コピー品)でも、俺が弄れば即座に一線級の殺人兵器になる」

 

「分厚い鉄板を貫通し、風穴を開ける威力」

 

「素人が撃とうが正確な軌道を描いて放たれる芸術的な弾道、それを生み出す精密性と命中精度と反動の少なさ」

 

「機関銃のように連射できる装弾数の多さ」

 

「整備せずとも劣化しないメンテナンス不要の耐久性、それに伴う信頼性」

 

「全ての性能が既存の常識を覆す武器の製作が俺の仕事だ。俺に造れない武器はない」

 

「…………だが、どれほど優れた武器も、使用者の体が耐えられなければ(・・・・・・・・・・・・・・)不良品のレッテルを貼られ、使いこなせなければ(・・・・・・・・・)その価値を失ってしまう」

 

「この逆さ数字……人体改造は、その壁を壊す為に俺が考えた、一つの答えだ」

 

「人に合わせて造るのではなく、武器に合わせて人を造る(・・・・・・・・・・・)という答えだ」

 

 彼はそこで区切り、懐から鏡を取り出してアーシアに見せる

 

 光を反射し、視覚外の情報を与えるその器具に映るのは、彼女の左の鎖骨付近。

 

 そこには、ダリオの体に刻まれたものと同じ『SCCAGGS』の文字と『No.』、上下左右逆さに彫られた『007』の数字。

 

「……………っ!」

 

「アーシア・アルジェントーーーー俺はお前を、『武器の為の人』として改造する」

 

 アーシアは、自分を助けたこの男が如何に狂っているかを、ここに至って断片ながらも理解した。

 

 人体改造。

 

 違法武器。

 

 武器商人。

 

 武器の密造、製作、開発。

 

 人の為の武器ではなく、武器の為の人。

 

 彼の口から出てくる言葉全てが、異国の言語にしか思えないほど不可解な言の葉だった。

 

 さらには、自分の体を改造すると言った。

 

 身の危険を感じたアーシアは、駆け巡る激痛を堪えながら無理矢理にでも体を動かそうと暴れる。

 

 が、手足はどれほど力を込めようともピクリとも動かず、ジタバタとしているのは首から上だけだ。

 

「さっき動くなって言ったろう? まあ、頭部以外は全て特注の麻酔を打ってるから、動かそうとしても無駄だがな」

 

 なおも抗いを見せるアーシアの頭を押さえつけたダリオは、いつ取り出したのか分からない注射器を首筋に差し込み、中身をピストンで注入する。

 

「先程は提案などと言ったが、残念ながらお前の肉体の六割ほどは既に改造済だ。あとは仕上げの『武器』(スキャッグス)を埋め込み、脳を中心に感覚器官の改造を行うだけなんだよ…………お前の体は、もう俺の物だ」

 

 視界がブラックアウトしていき、痛みと後悔と絶望の涙が世界を滲ませる。

 

 感覚が失われていき、奈落の底に投げ出されたような錯覚の中、男はこう言った。

 

 

 

 

 

「お前に『力』を与えよう。お前を苛む不条理な環境を、世界を打ち壊す『力』(武器)を」

 

 

 

 

 

 

 




 アーシア好きの同志諸兄にはこの場をお借りしてお詫びします。

 アーシアが原作開始まで辿った人生をフロム脳……じゃなかった。妄想したらこうなってしまいました。

 挙句に物事の優先事項の中心が常に『武器』になっている鬼畜狂気系主人公に拾われてしまうとか、レイナーレに利用されていた方が数百倍マシでしょうな。

 ダリオとスキャッグスの事をより知りたい方は、「RedRaven」で調べましょう。良ければ漫画も買ってくださいな(巧妙なステマ)

 では、良い日々を。
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