ハイスクールD×D 黒蟻と聖母の微笑   作:サン・テグ・ジュ・ペリ

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 おはこんにちばんは。まーるうち、または丸内です。

 相変わらずの低クオリティで申し訳ありません。中々上達しないものですね、文章力って。

 それはさておき、一週間近く間を空けてしまいましたが、こんな感じの亀更新でやっていくことになりそうです。改めて謝罪を。

 そんな私の作品でも「おう見てやるぜ、あくしろよ」といって下さるならば幸いです。

 では、どうぞ。


capital-3 黒蟻と謀略の波紋

「ーーもしもし、オレガノか?」

 

『はい。オレガノです、ダリオさん。珍しいですね、貴方がかけてくるなんて』

 

「被検体を入手した。七番目(リバースナンバー)だ。粗方の施術は終わったが、如何せん隠れ家の設備でやった急場だからな、調整と仕上げに必要な設備が欲しい」

 

『確か、ダリオさんは今ヴィネツィアでしたね。最も近く、より潤沢な設備が整った研究所の場所を送ります』

 

「悪いな、曲がりなりにも社長なのに研究所の位置すら把握してなくて」

 

『貴方はそれでいいのです。では、新たな仲間との邂逅を心待ちにしております』

 

「分かった、本社の方は任せたぞ六番目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、また知らない天井だった。

 

 今度は温かみのある木造ではなく、清潔感と無機質さを感じる真っ白な天井だ。

 

「…………生きてる」

 

 どうやら自分は横になっているようだ、と。アーシアは寝起きの頭で理解する。

 

 周囲を見渡せば、天井と同じ配色の壁が四方を囲み、近くには歯医者か手術室にあるような器具と、それを乗せる台車がある。

 

 手術台に寝そべっていた身を起こすと、着用していた修道服ーーもとい、ぼろ切れーーではなく、薄緑の簡素な服が着せられていた。

 

 半袖と、くるぶしあたりで切られた一枚の衣服だが、不思議と肌寒さは感じない。手術衣とでも言うのか。

 

 傍らに置かれた器具に視線を向けると、その一つに忌々しいものがあった。

 

 注射器だ。

 

「…………うっ」

 

 奇しくもそれは、麻酔で動けないアーシアの頭を無理矢理押さえつけながら、首筋にぐさりと刺しやがった男の使用したものと同じ形だった。

 

 地獄への片道切符にしか見えない注射器片手に狂笑を貼り付けた男ーーダリオ・ガリアーノの姿が思い起こされ、嫌な事を連想させられる。

 

 暗く沈む意識を、ぶんぶんと頭を振って思考を切り替える。

 

 どうやら、自分はあの悪魔のような男の家から、別の場所へ移されたようだ。

 

 改造の仕上げに入ると言っていたし、本格的な設備のある施設にでも運び込まれたのだろうかーー?

 

「…………仕上げ?」

 

 そこでハッとなったアーシアは、自身の左鎖骨付近に目をやる。

 

 そこには、ダリオに鏡で見せられた時と変わらず、『SCCAGGS』『No.』の文字と、逆さ数字となっている『007』が彫られていた。

 

 体の調子も変化していた。なんと言うか、研ぎ澄まされているような、妥協なく作り出された芸術作品のような、一点の欠点もない全能感に近い感じが、身体中を駆け巡っている。

 

 まるで、一つの事柄を解決する為だけに特化された、洗練された感覚。そう、それはまさしくーー

 

「武器ーーーー」

 

 武器とは、すべからくが人殺しの道具である。

 

 太古は木材を尖らせただけの粗末極まるものに始まり、石を使い、青銅をつかい、鉄をつかい、鋼をつかい、物理法則を介し、火薬と融合させ、燃料を用い、そしてプルトニウム、或いはウランを利用してきた。

 

 その目的は全て、対象をーー人間を殺すことだ。

 

 余分な一切を切り捨て、ただただ研鑽されていき、無駄を排除し続けてきた存在こそが武器であり、この世で最も『目的達成の為に最適化された』特化した概念の一つだ。

 

 アーシアは、自身の肉体にその武器と同じものを感じ取っていた。

 

 殺人の為だけに最適化された、人型の武器。

 

 人体改造の極致に至った彼、ダリオ・ガリアーノのみに成し得る究極の武器。

 

 『とある武器』の為に造り変えられた武器。

 

 自分は、いつの間にやらそれ(・・)になっているーー。

 

「ーーどうかしています」

 

 今しがた頭に浮かんだ考えを、自分自身で一蹴する。荒唐無稽だし、曖昧模糊もいいところだったからだ。

 

 だが、足蹴にしながらもその考えを完全には否定できない自分自身もまた、同時に内在していた。

 

 きっと立て続けに奇怪な事が起こったから、自分の頭も狂い始めたに違いない。ほっとくなり寝るなりすれば治るに決まっている。こんなの一時の感情だ。

 

 非現実的な状況になると、人間は普段とは大きく異なる思考回路と行動を取るもの。アーシアは自身に思い込ませるようにそう心中で呟いた。

 

 と、その時。

 

「…………っ!」

 

 前方の壁に切れ目が走り、ちょうど大人二人分が並んで通れるぐらいの大きさの扉、というよりは隔壁のようなものが出現した。

 

 隔壁は音も立てずに上の壁へと吸い込まれていき、仕切られていた空間同士を繋ぐ。

 

 壁の一部が無くなった先には、長く続く真っ白な通路があった。

 

「入れ……ってことですか?」

 

 怪しい。アーシアがいつ目覚めたのかを観察していたかのようなタイミングといい、いかにも、といった風だ。

 

 あの通路に入れば危険が伴う。単なる予感というか予想というか、そういった曖昧な感覚ではあるが、確信めいた何かをアーシアは感じ取っていた。

 

 彼女はもう一度辺りを見渡すが、これ以上ここにいてもこの状況を変えるような存在は見当たらない。

 

 あるのは白い壁と天井、手術器具のみ。

 

 ならば、このまま手術台に寝そべっているよりも、あえて正体の分からない方に行くべきだろう。

 

 「一応、護身の為に………もらっておきます」

 

 誰もいないのに謝罪の言葉を述べ、メスを数本拝借するアーシア。

 

 生憎と、手術衣にポケットなどはなく、片手に纏めて握るしかない。ふと手放せば、鋭利な刃が足に突き刺さりそうで怖いが、得体の知れない場所で武器らしい武器も持たないよりはマシだろう。

 

「………でもやっぱり怖いですね」

 

 と、手にしたメスの殆どを台車に戻す。

 

 結局、持っていくのは一本だけにしたようだ。

 

 手術台から降りると、ヒンヤリとした床に生肌の足裏が触れてびっくりする。

 

 裸足なのは色々と危ない。そう思った彼女だが、残念ながら代わりになるようなものはこの部屋にない。

 

 手術衣を切ってみようかと考えたが、そんな余裕があるほどサイズは大きくない。諦めるしかなさそうだ。

 

「はあ………なんだか地雷原を歩かされるような気分です」

 

 ーーまあ別に実際に歩いた経験はないからどんな気分なのか詳細には説明できないんですけど。

 

 片手に人肌を豆腐の如く裂く刃物を持ち、恐る恐るといったように一歩一歩を踏み出し、アーシアは通路へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被検体『007』、第一実験室に入室を確認」

 

「実験開始。レーザートラップ発動まであと二十秒」

 

「通路の中ほどまできたら始動しろ。性能を見極めるにはその位置が最適だ」

 

「第二実験室の準備急げよ。火器管制システム、弾薬供給装置、FCSの再精査に取り掛かれ」

 

「各実験室の隔壁レベルをBからA+++に引き上げろ。ちょっとした戦争が始まるぞ」

 

「第二実験室の総精査完了。オールグリーン」

 

「第三の方も進めておけ。社長自らが、一人で造り上げた『最高傑作』の御披露目だ。派手に行こう」

 

「第四実験室の火器はスキャッグスに取り替えろ。『No.入り』も混じらせておけ」

 

 アーシアが通路ーー第一実験室と呼ばれる区画に入る様を、事細かに監視し、観察し、情報として変換させている部屋があった。

 

 その部屋には照明の類はなく、狭苦しく感じる程度の広さとあいまって、慣れない者にとっては窮屈に思うだろう。

 

 壁の内部に埋め込まれた監視カメラから送られてくる異常なほど鮮明な解像度の映像をスクリーンに照らし、その光が部屋全体の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。

 

 在室しているのは数人の男たち。白衣を着て手元の書類に常に何かを描き続けている姿は、研究者と呼称するに相応しい。

 

 何人かはスクリーンの付近にある機材と向き合って細かな作業をしており、その手先は精密機器の如く寸分の乱れもない。

 

 その中の一人。白衣に『スキャッグス社・イタリア東部総合研究所開発主任』と長ったらしい文字が入ったプレートをきっかりと付け、スクエア型の眼鏡を体の一部のようにかけた若い男性が、部屋にいる自身の部下たちに絶え間無く指示を出す。

 

「被検体のバイタルチェックは常に行え。監視班は脳波、筋繊維、骨格、関節、眼球の動きを見逃すな」

 

「バイタル、全て正常です。精神状態はやや緊張しているようですが………」

 

「構わない。このまま続行だ」

 

「第四実験室の武装取り替え完了。次いで火器管制システム、及びFCSの起動と精査に入ります」

 

「万が一の失敗すら許さん。粗は徹底的に探し、確実に修正しろ」

 

「最終実験室に待機している『嵐雨の担い手』(ストームタクト)ーートーリャ・キルマニスクがウォーミングアップを要求しています。どうしますか?」

 

「放っておけ、すぐに被検体が向かうさ」

 

「主任、社長から伝達です」

 

「なんだ」

 

「『しばらくオフにする。七番目は実験終了後、オレガノに一任しろ。手回しは既に済んである』とのことです」

 

「六番目か……確かに適任だな。よし、各員持ち場につけ! 一分の狂いなくデータを取るぞ」

 

 その言葉を区切りに、研究者たちは自分の仕事に集中し始める。

 

 その場にいる全員の指揮をしながら、各員の進捗状況を逐一確認する。

 

 主任はスクリーンに映る金髪の少女に目をやり、眼鏡の位置を調整しながら呟いた。

 

「さて、まさか初っ端から死んでくれるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は人間界から変わって冥界、悪魔領の中心地が一つ、リリス。

 

 中央部に位置する巨大なタワーは、魔王を初めとした上層部連中が執務をする、いわば悪魔という種族の心臓部だ。

 

 首を痛めるほど見上げなくては、その頂を臨めない高度は、冥界一を争うほどだ。

 

 そのタワーの最上階に、絢爛なタワー内部と比べても一際豪奢な一室がある。

 

 四大魔王ーー悪魔という種族を率いる軍事、政治の両面における最高責任者が一同に会する会議室だ。

 

 趣味の良い調度品が細やかに配置され、会議室という堅苦しい雰囲気を払拭する落ち着いた空気を生み出す木製の円卓と、一度座ればその品質の高さを否が応でも感じさせる黒革の椅子。

 

 壁、天井に描かれた絵画は、ある高名な人間の画家が、この部屋の為だけに筆を振るった唯一無二の作品だ。

 

 会議室を照らす光は薄茶色。小さなシャンデリアを中央に吊るし、さらに小振りな同一のものを四隅に吊るす。

 

 単体では弱い光量も、配置と数を工夫すれば、決して狭くないこの部屋全体を明るくさせる。

 

 部屋に存在する一つ一つに意味があり、それらが集まる事で高級感漂う過ごしやすい空間を作り出すことに、この会議室は成功していた。

 

「あー…………ダル」

 

「…………」

 

「ダルい……ダルい………息するのもダルい…………」

 

「…………」

 

「……ねえ、ヒトを呼んでおいて一言も喋らないって酷くない? サーゼクス」

 

 その会議室には、二人の悪魔がいた。

 

 目も眩む鮮紅色の髪に、息を飲むほどの美貌。身に纏うオーラは覇気すら感じさせ、初対面の者でも頭を垂れるような『王者』としての風格を有している。

 

 サーゼクス・ルシファー、またはサーゼクス・グレモリー。

 

 魔王の一角として日々政務に勤しむ彼の視線は中空に浮かぶホログラム術式の映像に注がれており、その表情は普段の泰然としたものではなく、陰鬱としたものだ。

 

 ホログラム映像が終わったのか、そこでサーゼクスはもう一人の在室者に向き合う。

 

「…………ファルビー、これを見てくれるか」

 

 円卓を挟んで対面するもう一人は、ファルビウム・アスモデウス、またはファルビウム・グラシャラボラス。

 

 希代の戦略家、軍略家として知られる魔王の一角で、その頭脳は戦局の数千、数万手先を読むとまで言われる。

 

 だが、同時に超がつく面倒臭がり屋でもあり、自分が必死に集めた優秀も優秀な眷属たちに執務を放り投げしているほどだ。

 

 「働いたら負け」という、誰と勝負しているのかも分からない不可解な信条を持ち、普段はダラダラと自宅で堕落した生活をしている彼だが。

 

 珍しい事に、公的な用事もないのに外出し、この部屋に足を運んでいる。

 

 理由はただ一つ。ひとえに旧友であるサーゼクスからの緊急の招集がかかったからだ。

 

 温和なサーゼクスから、大至急集まれ、とまで言われれば、日和見主義の気があるファルビウムも重い腰を上げざるを得ない。

 

 だが、いざ駆けつけてみれば、他の四大魔王は呼ばれてもいないというし、肝心の用件も説明せずに映像を眺めているサーゼクスがいるだけだった。

 

「………あのさ。別に言うほど怒ってないけどさ、ヒトを呼んでおいてその態度はどうかと思うよ? せめて簡単な説明ぐらいしろ」

 

「それについては申し訳ない。だが、この映像に目を奪われてね」

 

 ファルビウムは両者の空間を滑るようにして差し出されたホログラムを受け取り、再生する。

 

 その内容は、どうやら冥界の悪魔領各地に置かれた監視術式『ヴァサゴ』の一部が記録したもののようだ。

 

 地方都市のど真ん中で、反政府組織と思われるグループが、治安維持部隊と交戦している様子が流れる。

 

 周辺のショッピングモールや道路が壊され、破壊され、捲れ上がるほど激しい戦闘が続く。

 

 暫く映像が進むと、段々と押され始めた反政府組織のメンバーがあるものを懐から取り出した。

 

(銃……?)

 

 高解像度の映像でも詳細は見受けられないが、確かに銃器の類であるのは間違いない。

 

 形状から察するに、拳銃と短機関銃しかないようだが、ファルビウムはそれを見て疑問を抱いた。

 

(何故悪魔であるのに銃器を用いる?音速で飛来する弾丸なんて、人外からしてみれば避けられる程度の速度だし、何よりわざわざ物理法則によって破壊力を生み出す銃よりも、超常現象を意のままにする魔力での攻撃の方が何倍もマシだろうに……)

 

 悪魔という種族全体が有する能力は、『魔力』。

 

 そのまま適当な形に撃ち出すだけでも多大な威力を発揮するその力の真骨頂は、常識外の汎用性にある。

 

 規模には限界があるものの、自然現象をそれ一つで発現し、崩壊した建物を一瞬で修復し、零から物質を生み出す。

 

 およそ考えうる全ての存在に干渉し、多彩な能力を擁する『魔力』という存在は、比較的弱点の多い種族である悪魔の繁栄を支えた強大なものだ。

 

 故に、悪魔の特権である『魔力』ではなく、人の子が作った『銃器』に頼る反政府組織の行動に、ファルビウムは首を傾げた。

 

(何故自分たちの力を制限させるような真似を………っ!?)

 

 パワーダウンでしかない行為だと僅かに侮りの感情を持っていた彼は、次の瞬間に流れた映像に目を見開いた。

 

 

 

 

 反政府組織の一人が発砲した弾丸が、治安維持部隊の防御術式を紙切れのように容易く貫き、そのまま術者の頭部を跡形もなく吹き飛ばしたからだ。

 

 

 

 

 

「なんて威力だ……」

 

「だろう? とても唯の拳銃クラスの威力じゃない。まるで対物ライフルのようだ」

 

 思わず漏れた言葉に、サーゼクスが返す。

 

 映像はそのまま反政府組織が巻き返し、治安維持部隊が混乱に陥りながら必死に撤退する内容に変わっていく。

 

 そこで、ホログラム術式が効果を失い、ただの方陣となって中空に浮かぶだけになる。

 

「…………今の戦闘は、いつだい?」

 

「三日前。地方都市ながら、数多の流通の便がある魔都『マルティン』で起こった暴動だ」

 

 サーゼクスは神妙な表情で両手を組み、いつにない真剣な雰囲気を出している。

 

 それもそのはずだ。人間の作った非力な武器に、その人間の欲望を糧とする人外が実質敗北したと言える戦闘が、あろうことか人外の代表格である悪魔の領土内で起きたのだから。

 

「堕天使や天界などへの情報漏洩は?」

 

「無いとは断言できないが、可能性は限りなく低いだろう。この暴動が発生した時点で市民は皆避難しており、また対応にあたった治安維持部隊の殆どが殉職している」

 

「知ってるのはその生き残った隊員と、僕と君だけ?」

 

「今の所はな。だが既に噂になりかけている。情報統制はグレイフィアが行なっているから最小限の被害で収まるだろうが、問題はこの反政府組織。もっと言えば、彼らが保有する『武器』だ」

 

 そう言ってサーゼクスは、魔法陣を展開し、ある物を取り出す。

 

「それは……」

 

 それは、件の映像に出てきた、異常な火力を有するであろ拳銃だった。

 

 銃器にはさほど詳しくないファルビウムでも一目でわかる。『コレは唯の武器ではない』と。

 

 銀塗りのコンパクトなモデルは、大人にも子供にも扱えそうな中間のサイズで、滑り止めの施されたグリップ部分には、製作メーカーのものと思われるロゴマークが埋め込まれていた。

 

 僅かに縦長の楕円の中に大文字の『S』と、その中央には小文字の『c』が彫られ、円の上下にはメーカー名と推測できる名前が彫刻されている。

 

 その名は、ファルビウムの知る名前であった。

 

『SCCAGGS』(スキャッグス)ーーーー!」

 

「知っているのか? ファルビウム」

 

 期待の混じった視線に頷き、ファルビウムは口を開く。

 

「人間界の兵器業界のパワーバランスを根元から覆した新興の軍事兵器開発会社だ。曰く、『神すら殺せる武器』。表側の世界では違法武器として法に取り締まられる存在で、各国政府が情報隠蔽しているからまだ知名度は低いけど、裏社会では大量のスキャッグスが高値で取引されている」

 

 ファルビウムは卓上の拳銃に目をやり、若干忌避の念のある視線で睨む。

 

「その高いクオリティは、僕たち人外にも通用し得るレベルだ。いつかは冥界にも流出するだろうとは思っていたけど………」

 

「まさか、こんなにも早く出回るとは、というわけか」

 

「すまない。確かな危険性があると知っていながら報告しなかった僕のミスだ」

 

 悔しげに目を細める彼に、サーゼクスは気にするなというように笑みを浮かべる。

 

「お前のせいじゃない。このスキャッグスという違法武器、まだ世に出て新しいのだろう? 何故人間界で出回って間もない武器が冥界に流れる?」

 

「スキャッグス社が結成されてまだ三、四年程度のはずだ。世界中から圧力がかかっているから、勢力もそこまで拡がっているはずはない。だが、実際こうして冥界でスキャッグスを絡めた暴動が起きた」

 

「ということは」

 

「武器商人…………スキャッグスを冥界の反政府組織に売り捌いている連中がいる可能性は高い」

 

 そこまで聞いたサーゼクスは、深く息を吐きながら背もたれに体を預け、悩ましげに顔を歪める。

 

 ファルビウムも、似たり寄ったりな表情で腕を組む。普段の気怠げな彼がすることのない顔つきだ。

 

「……もし、この暴動をきっかけとしてこのスキャッグスが冥界中に広まればどうなる?」

 

「スキャッグスは確かに銃器の枠組みを越えた高い攻撃力を有するけど、それでもまだ悪魔という種が備える力は越えてない。中堅の上級悪魔なら、多少苦戦する程度の威力でしかないだろう」

 

 だが、と。ファルビウムは一度区切り、重々しく続ける。

 

「このスキャッグスは市販品……所謂一般向けだ。数は少ないが、ワンオフのスキャッグスも存在する。『No.入り』って呼ばれてるんだけど、それは呪われた武器と称されるほど異質な力を備える兵器らしい。もしもそれらが大量に出回れば、少なくとも先のクーデターのような内紛が起きるのは確かだよ。規模の大小は測りかねるが」

 

 サーゼクスはその回答に頭を痛くする。

 

 今の四大魔王が敷く現体制に不満を抱く市民は、旧魔王派を筆頭にして、決して少なくない数いる。

 

 スキャッグスという、強い力を安易に手に入れられる存在との繋がりがありそうな連中もまた、少なくない。

 

 旧魔王派は言わずもがな、正統な魔王の血筋を持つ者こそが魔王の座に相応しいと考える古参の悪魔たちで、クーデターによって立場を奪った形になるサーゼクスたち現四大魔王を目の敵にしている。

 

 一見すれば、確かに彼らならばスキャッグスという存在を知れば嬉々として買いそうである。

 

 だが、同時に彼らは悪魔という種族に並々ならぬ誇りを抱いている。

 

 魔力を用いず、人の手による『力』を振るうことに、あの右翼主義者たちが嫌気が差さないわけがない。

 

 内紛が発生した場合、一番の脅威となり得る組織が、スキャッグスとの繋がりが薄そうであるなら、次に怪しいのは眷属悪魔だ。

 

 今はここにいない四大魔王の一人、アジュカが製作した少数精鋭思想の体現『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)

 

 三つ巴の戦争により、多大な犠牲を払った悪魔の、次代の力の在り方。即ち、『量より質』。

 

 配下とする下僕悪魔に、駒に応じた特殊能力を与え、レーティングゲームという擬似的な戦闘によって競争率を上げ、悪魔全体の戦力の増強を図った政策だ。

 

 実際、この政策は成功したといえる。今や上級悪魔の殆どがレーティングゲームに参加し、上位チームの戦いともなれば会場の観客席が埋まるほど、この『悪魔の駒』は一般的になった。

 

 だが同時に、新たな問題も発生している。

 

 レーティングゲームにて勝利するため、或いは物珍しい種を下僕とし、自分のステータスとするため。それらの様々な理由により、無理矢理眷属悪魔にさせられる者たちが多発しているのだ。

 

 そういったように、強引に悪魔にされ、下僕とされ、毎日家畜のように扱われる者が増えれば、不満を溜め込み切れずに、主を殺すーー所謂、はぐれとなる者たちも増えるのだ。

 

 眷属悪魔とは、部下ではなく仲間である。

 

 四大魔王はその思想を各『王』に広めようと画策しているが、思うような成果が挙げられていないのが現状だ。

 

 彼らなら、家畜の生活から抜け出すためにスキャッグスを用いる可能性は高いだろう。

 

 そして、サーゼクスが最も警戒するスキャッグス使用者の候補がーーーー魔力を持たない悪魔だ。

 

 悪魔という種族の代名詞とも言えるのが魔力であり、名だたる悪魔ーーバアル家やアバドン家ーーならば、特殊能力を有する魔力を持って生まれてくる。

 

 これは生来のものであり、言うなれば才能と同一のものだ。

 

 そして、同一であるということは、才能の有無があるように、魔力の有無もまた存在する。

 

 生まれつき、魔力の乏しい者、または魔力を持たない者は少なからずいる。

 

 事実、サーゼクスの知人にも、強大な血筋に生まれながら、欠片の魔力も持たずに生まれた者はいる。

 

 そして、そういった『同種として劣る者』は、必然の如く世間から侮蔑の眼差しに晒される。

 

 いじめ、疎外、迫害、追放、勘当……彼ら『力を持たない者たち』に、『力を持つ者たち』は優しくない。

 

(この辺りは、人も悪魔も変わらないものだな…………)

 

 魔力を持たない者たちは差別される。そんな世の中を変えるのも、四大魔王全員が同じ考えである。

 

 だが、他の上層部ーー主にバアル家を中心としたーーからの横槍が激しく、対応策を打ち出せていない状況であるのが事実だ。

 

 社会的な『弱者』である彼らもまた、スキャッグスに手を出す可能性は非常に高い。

 

「…………考え出せばキリがないな、これは」

 

「僕らだけで事を進めるべきじゃない。セラフォルーやアジュカも交えて、最善策を取らなければ、今の悪魔体制が崩壊しかねない」

 

「それ程の存在か?」

 

「それ程の存在だよ」

 

 ファルビウムはそう言って、席から立ち上がる。

 

 その双眼には、かつて神々からも恐れられた軍略家の顔が見え隠れしていた。

 

「僕は一度宅邸に戻って、眷属を召集させる。君は四大魔王が一堂に会せる場を作ってくれ。出来れば一週間以内に」

 

「分かった。お偉方連中の首根っこはしっかり押さえておく」

 

「頼んだよ、英雄」

 

「任せておけ、策士」

 

 その言葉を区切りに、ファルビウムは退室し、サーゼクスは相方のグレイフィアへと連絡を取る。

 

 久しぶりに大きな事件が起こる。二人は、確信に近いものを感じていた。

 

 

 

 




 まさかの主人公登場しないという。

 一万文字近くいきましたが、何とか一話に纏めました。

 次はいよいよダリオの戦闘シーンをメインにやっていきます。大好きです戦闘描写。

 余談ですが、アンケート?をしています。お時間あれば活動報告の方も見てやってください。

 五時脱字報告、感想、心待ちにしております。

 では、良い日々を。
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