入港するなりアークエンジェルを拘束したユーラシア連邦一行は、マリュー、ナタル、ムウの三人を連行して基地司令であるジェラード・ガルシアの元へと送った。
「なるほど、君たちのIDは確かに大西洋連邦のもののようだな。」
「お手間を取らせて申し訳ありません。」
自分たちを態々連行して来たことに対する不満を感じながらもムウは、ガルシアに表向きの謝罪をする。
「いや、なに。輝かしき君の活躍は私も耳にしているよ。『エンデュミオンの鷹』殿。グリマルディ戦役では私もビラード准将の下で参加していたよ。戦局では敗退したもののジンを5機墜とした君の活躍に我々は随分励まされたものだ。」
「それはどうも。」
「しかし、そんな君があんな艦と共に現れるとはな。」
「特務でありますので残念ながら詳細は申し上げることはできませんよ。」
「ふむ。だが、すぐに補給をと言うのは難しいぞ?」
「ガルシア司令、我々は一刻も早く月の本部へと向かわなければならないのです。まだ、ザフトにも追われていますので。」
「ほう、ザフトに?確かにこのアルテミスの方でも奴らの動きは把握しているよ。しかし、それだけだ。傘が展開している以上、連中には何もできんさ。いずれ引き上げる。そうなれば月本部との連絡の目途も立つだろう。」
「しかし、司令」
「とりあえず、君たちは少し休みたまえ。部屋を用意しておいた。大分お疲れだろう。心配することはない。このアルテミスは安全だ。母の手の中のようにな。」
ガルシアは、部下を呼び出すと三人を用意した部屋へと行かせる。
彼はそのまま港の管制室へと戻り、待っていた副官から報告を聞く。
「どうだ?」
「ハッ、艦の調査の方は順調です。ですが、モビルスーツの方がOSに解析不可能なロックが掛けられていていまだに起動すらできていません。パーツにバラされていた機体は、組み立てを進めていますがあちらは初期状態で満足に動かないとのことです。」
「何?」
「今、技術者全員で解除に全力を挙げていると言う事なんですが。」
「チッ、やってくれる。」
アルテミスの外ではローラシア級『ガモフ』のブリッジでイザークたちが艦長と共にどうするべきかを話し合っていた。
「傘は、レーザーも実体弾も通さない。それは内側の奴らも同じだが。」
「だから向こうも攻撃してこないってわけか。バカみたいな話だな。」
「だが、防御兵器としては一級品だ。重要な拠点でもないから我が軍もこれまで手出しせずにいたが・・・厄介なところへ逃げ込んでくれたものだ。」
「じゃあ、どうするの艦長?連中が出てくるまで待つ?」
「ふざけてる場合じゃないぞ、ディアッカ。お前はこのまま評議会に呼ばれて戻られたクルーゼ隊長に『何もできませんでした』って報告する気か?それこそ恥さらしもいいところだ。」
ストライクに手出しもできずに負けたことをいまだに引きずっているのか、イザークは釘をさす。そんな彼の睨みに先ほどまで艦長に軽口で話していたディアッカは態度を改める。
「・・・艦長、一つ確認してよろしいでしょうか?」
「なんだ、二コル・アマルフィ?」
「傘は常に開いているわけではありませんよね?」
「あぁ。敵が周辺にいない場合は解除している。しかし、その間に近づこうにもこちらの射程に近づく前に察知され、展開されてしまうのがオチだ。」
艦長の答えに二コルは、しばらく考え込むと顔を上げて口を開く。
「僕に考えがあります。」
「うん?」
「僕の機体『ブリッツ』にはフェイズシフトの他に「ミラージュコロイドステルス」と言う面白い機能があるんです。うまくやればできるかもしれません。」
話が終わるとガモフは、反転してアルテミスから離れ始める。向こうの警戒が解ける距離まで行く間に二コルはブリッツのコックピットの中でシステムの確認を進める。
「理論上はできるとはいえ、テストなしの一発勝負か。大丈夫かな。」
その様子を控室からイザークとディアッカが見守っている。艦長は作戦の実行を認めてくれてはいたがうまくいくとは考えていなかった。
「地球軍も姑息なものを作ったものだな。」
「まあ、ニコルには丁度いいさ。臆病者にとってはよ。」
二人が陰口を叩いているのを他所にブリッツはカタパルトへ移動して悟られないよう発進する。
そんなニコルの行動に気づいていないアルテミス側では、ストライクのOSロックを解除するためにガルシアが副官を引き連れてアークエンジェルの食堂へと来ていた。
入港前の戦闘でムウがメビウス・ゼロに乗っていたことは把握していたため、この中にパイロットが紛れ込んでいるのは明らかだったからだ。スネークがパイロットであることを隠すためにノイマンとマードックは頑なに話そうとしなかったがミリアリアに手をかけようとしたことでついに本人が口を開いた。
「彼女から手を放せ。俺があれのパイロットだ。」
立ち上がった彼にガルシアは、片眉を上げながら近づいてくる。体格こそそこらの兵士よりも頼りになりそうだが、見た感じからしてまだ若いし、こんな若造があんな動きを取れるとは信じられなかったからだ。
「坊主、彼女を守ろうとする気概は買うがね。あれは君のようなヒヨッコが扱えるようなものではないのだよ。ふざけたことを言うな!」
気に入らなかったのか彼は拳を振るが、スネークにとっては素人同然の動きで横にずれて避けるとそのまま床に叩きつけるような形で投げ返した。
「貴様!」
副官は、スネークの襟を掴んで殴ろうとする。
「やめてください!」
いくら何でも理不尽だとばかりにサイが間に入って止めに入るが彼は、邪魔だとばかりに先に殴った。
「うわっ!」
「サイ!?」
「むん!」
フレイがサイを受け止めたのを確認するとスネークは素早く副官を背負い投げ、掴んだ右腕の関節を外した。
「うがあぁあああ!?」
あまりの激痛に彼は、おかしな方向へ向いた右腕を押さえながら軍人らしからぬ情けない声を上げる。兵士たちは上官がやられたことで銃を向けようとするがスネークはCQCの構えで次々と無力化していく。
「クウゥ・・・・このガキ!!」
「グッ!」
痛みを堪えながら副官は、背後からスタンガンを当てて彼を気絶させる。
「ちょっと、やめてよ!本当よ、キラがパイロットよ!だって、その子コーディネーターだもの!!」
兵士たちが総出で倒れたスネークを取り押さえようとしている傍らでフレイが叫ぶ姿をマードックたちは頭を抱える。
「コーディネーターだと?」
起き上がったガルシアは、軍帽を被りなおして気を失ったスネークを見る。
「いかがしますか、司令?このままOSロックの解除を?」
「・・・・いや、また暴れだされたら溜まったものではない。基地の中で話を聞くとしよう。相応の対応でな。」
彼は、最低限の見張りをその場に残してスネークを連行して行く。
見張りは減ったこともあって食堂の緊張感はかなり薄くなったものの彼女の発言にトールは、詰め寄ってきた。
「なんであんなこと言うんだよ、お前は!キラがどうなるかとか考えないわけ!? お前って!!」
「お前お前って何よ!だって、本当のことじゃない。キラは仲間でここは味方の基地なんでしょ?なら、なにが悪いのよ!」
彼の発言に対してフレイは、特に悪びれることなく反発する。状況をまるで理解していない発言にトールは、激怒する。
「地球軍が何と戦っていると思ってんだ!!」
「・・・・・」
『司令、意識が戻ったようです。』
『そうか。ではおいおい始めるとしよう。まさか、この部屋をこんな形で使うことになるとはな。』
スネークが目を覚ますとそこは拷問部屋のようで両手足が拘束具で固定されていた。回転ベッドを起き上がらせると目の前にはガルシアと右腕にギプスを付けて首から紐をぶら下げている副官の姿が見える。
「目が覚めたかね?気分はどうかな?」
「悪くない、熟睡させてもらった。一人で寝るにはもったいないな。」
「貴様」
右腕関節を外されたことを根に持つ副官が前に出ようとするのをガルシアが制する。
「それはよかった。そのベッドは優れものでね、これからじっくり教えてあげよう。」
「狙いはモビルスーツか?俺からのOSロックを解除させるコードを吐かせるために。」
「まあ、そうかっかしないでくれ。それも一つだが君はもっと色々なことが出来るだろう?例えば、あれを解析して同じものを作るとか。後は、それらに対して有効な兵器を作るとかな。」
「・・・・俺はただの民間人だ。そんな大層は事はできない。」
彼は、ニヤニヤしながら語りかけてくる。副官の方は、不満そうに睨みつけるが上司から止められている以上迂闊に手を出せない。
「君は、裏切り者のコーディネーターだ。どんな理由でかは知らないがどうせ同胞を裏切った身だ。地球軍側につくコーディネーターというのは貴重でね。何、心配する必要はない。君は優遇されるさ、ユーラシアでもな。」
「・・・・興味ないな。俺はそもそも地球軍に居座り続ける気もない。」
スネークの答えにガルシアは、一瞬不機嫌そうな顔になるがすぐに切り替え残念そうに口を開く。
「そうか、それなら仕方ない。我々、ユーラシア連邦でもモビルスーツ開発が進められているのだがどうしても大西洋連邦に後れを取ってしまっていてね。このままでは連合内で立場が危ういのだよ。」
「それが本音か?」
「いいかね?マリュー・ラミアス大尉たちとはどういうやり取りをしているかは知らんが書類上、君はヘリオポリスからの志願兵として扱われている。しかし、先ほどの我々に対する暴力行為により君にはスパイの疑いが掛けられている。服従するのならなかったことにしてやってもいい。だが、嫌だと言うのなら少しばかり苦しんでもらうとしよう。」
彼は部下に相槌を打ち、操作盤を操作させる。
「今から答えるまで高圧電流が貴様の身体を流れる。あぁ、別に命まで取るつもりはない。短時間であれは別条はない程度のものだ。」
「そういう趣味はない。」
「ほう、まだ余裕ぶるか。いいか、ここでは誰も助けてはくれん。服従しない限り受け続けることになるぞ。」
「・・・・・」
「フン、まあいい。そろそろ始めるとしよう。やれ。」
「ハッ。」
操作盤のボタンが押されると回転ベッドに高圧電流が流れ、スネークの体を襲う。
「ウォオオオオ!オオッ!!オオオォ!ウウ!!オ、オウゥウ!!」
「どうだ、気は変わったかね?もう一度かけろ。」
ガルシアは、負けを認めるまでとことん傷めつけてやろうと態と間隔を短くして電流を連続で流させる。
「ウオオォオ、オォッ!オウウウ!!ウォオオ!!」
「服従するか?どうだ?まだまだ終わらせんぞ。」
更に少しずつ電圧を上げながらスネークを苦しめて行く。しかし、一向に口を割る様子はなくこれ以上やれば死にかねないため、不満を感じながらも拷問を中断せざるを得なくなった。
「全く、コーディネーターと言うのは強情なものだ。仕方ない、今日はこのぐらいにするとしよう。」
ぐったりをしたスネークは、回転ベッドから外すと兵士たちに運ばれて牢屋へと連れて行かれた。
「オラ、ここに入ってろ!」
兵士たちは突き出すように彼を部屋に押し込むと電子ロックをかける。歩き去って行くのを確認するとスネークは顔を上げて口臭を気にしながら壁に寄りかかる。
「うぅ・・・体が痺れる。久しぶりとは言え、随分可愛がってくれたな。」
思い出せば、スネークイーター作戦時のグロズニー・グラードでヴォルギン、ピースウォーカー事件時のコスタリカでストレンジラブに拷問された時も電流によるものだった。まさか、第二の人生で同じ拷問を受けることになるとは思いもしなかっただろう。
「今はとりあえず、チャンスが来るのを待つとしよう・・・・」
放り出される際に兵士からくすね取ったIDカードをポケットにしまうと彼は一旦仮眠を取り始める。
同じ頃、ブリッツのミラージュコロイドで潜行していたニコルは、うまく傘が解除された状態のアルテミスの表面へと到達することに成功し、攻撃を開始した。
突然の衝撃にアルテミス内部では何事かと動揺、見えない敵の攻撃に対して急いで傘を張ろうとするが姿を現したブリッツによって発生装置を破壊されて呆然とする。
それは軟禁されていたムウたちも感づいていた。
「どうやらやられたようだな・・・よし。うわぁ~!今の爆発で部屋に亀裂が入った!?空気が!!」
彼は、他の二人に叫んで外の見張りに部屋の扉を開けさせようと合図する。ナタルは、恥ずかしいのか躊躇していたがマリューはうまい具合に叫んで本当であるかのように仕向ける。
「きゃあぁ!!助けて死んじゃう~!!」
「早く開けてくれ~!うわぁ~苦しい!!助けてくれ~!!」
あまりの叫びに見張りは、何事かと部屋を開けるが死角で待ち構えていたムウの不意打ちで気絶させられた。
「大尉、よろしいのですか?」
「よろしいも何もないだろ?早くここから出るぞ。」
「確かにアルテミスと一緒に心中はご免ね。」
三人は、急いでアークエンジェルへ戻ろうと走る。
その途中で牢屋の先を通り過ぎようとするとムウは、不意に足を止めた。
「ちょっと待った!」
「フラガ大尉、何を。」
部屋を覗くとそこにはボロボロにされたスネークが壁に寄りかかって眠っていた。痛々しい姿にマリューは言葉を失う。
「おい、坊主!生きてるか!?」
彼は、ドアを叩いて呼びかける。スネークは、ゆっくり目を開けて3人の存在を確認する。
「・・・随分早い釈放だな。」
「よかった。今、出してやるからな。」
「その扉はIDカードが必要だ。コイツを使って開けてくれ。」
ムウは、スネークからIDカードを受け取るとドアの電子ロックにスライドさせてロックを解除する。扉から出てくると彼は、ふらついている彼に肩を貸す。
「こんなボロボロにされちまって・・・・」
「ここの司令官に手を出したもんでね。腹いせに可愛がられた。」
「おいおい・・・いくらモビルスーツのOSをロックしたからってそりゃないでしょ。」
「尤もバジルール少尉が俺を志願兵として書類に書いていたのも要因だったがな。おかげでスパイ扱いときたもんだ。」
自分が原因の一つであったことを知ったナタルは、やや罪悪感を感じた。立場を保証するために記録しておいたものがこんな形になるとは予想だにしなかった。
「それは・・・・すまなかった。まさか、そんな風に使われるとは。」
「まあ、いいさ。今後通信をするときはお手柔らかに頼みたいな。」
「・・・・善処する。今はとにかくアークエンジェルに戻らなければ。」
アークエンジェルに戻るとノイマンたちクルーが既に発進準備を整えてくれていた。
港では侵入したブリッツが向かってくるメビウスを次々と撃破しており、時間があまり残されていない。
「親父さん、ストライクを出す。装備を付けてくれ。」
港から脱出するまでの時間を稼ぐべく、スネークはボロボロになった身体を酷使してソードストライカーで出撃する。発進するとブリッツが目前にまで迫っていた。
「見つけた。今日こそは。」
二コルは、動きを警戒してブリッツの左腕に装備された有線式ロケットアンカー「グレイプニール」を発射する。
ストライクは、パンツァーアイゼンを飛ばして弾くとイーゲルシュテルンを発砲しながら接近して、シュベルトゲベールで斬りかかる。
「たった一機でこの要塞の防衛機能を麻痺させた上に港でこれほど暴れまわるとはな。大したものだ。」
攻撃が避けられるとマイダスメッサーを投擲し、一回目は回避されるものの戻ってくる際にブリッツの左足を切断することに成功する。
「うっ!」
ダメージを受けたことで二コルの頬に冷や汗が滴り落ちる。手強い相手だと言うのは前回の戦闘で経験済みだが間近で対峙するだけでその底知れぬ何かを感じ取り、無意識に操縦桿を握る手が震えだして止めることができない。
相手は本当にナチュラルなのか?
ヘリオポリスでは、エースパイロットであったミゲルがやられてこの前の戦闘では挑んできたイザークを瞬時に無力化した。
一瞬でも気を抜けば、確実に殺られる。
そう思いながらも右腕に装備されている攻盾システム「トリケロス」の武装の一つである杭状のロケット推進弾「ランサーダート」を撃つ。
ストライクは、シュベルトゲベールで三本全部を弾くと一本を手に取って投げ返してきた。
スラスターを最大にして回避しようとする二コルだが、一歩遅く右足に被弾して両足を奪われる形になる。
「しまった!?」
何とか姿勢制御を整えようと動いていると目の前にストライクが迫る。
(や、やられる・・・・父さん、母さん・・・・・)
その姿は最早悪魔のように見え、もう助からないと悟ったのか彼は故郷にいる両親へ別れの言葉をつぶやきかけた。
しかし、背後でデュエルとバスターが追いかけているのを発見すると何を考えたのか、ストライクは硬直したブリッツを二機の方へと押し出した。
「・・・・えっ?」
信じられない行動に二コルは、拍子抜けする。ストライクはそのまま反転してアークエンジェルの方へと飛んで行き、着艦するとそのままアルテミスから脱出して行った。
流されてくるブリッツを発見したイザークたちは、残存勢力を一掃しながら合流する。
『ニコル、ストライクはどうした?』
「・・・・・」
『おい、大丈夫か?』
質問に答えないことにディアッカは、心配そうに声をかける。
「・・・す、すみません。接触はしたんですが・・・・・見事に返り討ちにされました。」
『フン、そうだと思った。お前に奴の相手ができるとは思わなかったからな。』
『どの口が言ってんのやら。まっ、それならそれで引き返そうぜ。とりあえず、敵の基地は潰したんだし。』
三機は、バッテリー残量を考慮した上で追跡を断念し、ほぼ壊滅状態になったアルテミスを後にしてガモフへと戻る。
バスターに手を引いてもらうブリッツのコックピットの中で二コルはヘルメットを外し、乱れていた呼吸を整える。
何故、敵である自分にとどめを刺さなかったのか。
単なる気まぐれなのか、それとも味方がすぐ近くにまで来ていたから断念したのか。
あのパイロットの実力なら例えイザークたちが参戦してきたとしても恐らく良くて損傷を負わせるのがいいところだろう。
そんなことを考えながらも彼は、同時にあのパイロットがどんな人物であるのかを興味を持ち始めた。
「・・・一体、何者なんだろう。あのパイロットは。」
『MISSION FAILED』
???「ダメだスネーク!未来が変わってしまった!!タイムパラドックスだ!』
□CONTINUE
EXIT
MGSPWでの拷問、スネーク爆笑してたな。