アルテミスから脱出して翌日。
ザフトの追っ手を振り切ることに成功したアークエンジェルは、月本部へ向けて進み続けていた。
「ふう・・・・」
「おい、坊主。別に今日は休んでてもいいんだぞ?」
マードックに休息をすすめられながらもスネークは、作業を続けていた。
拷問によるダメージは、今だに抜けていないが敵がいつ攻めてくるか分からない以上できることをやっておいた方がいい。今が安全でも不測の事態が起きないとも限らない。
「休まねえと体に毒だぞ?」
「分かってる。せめてこの機体のOSは最低限組み立てておきたい。ストライクだけだとどうしても心許ないからな。」
拷問をしたガルシアたちのことは、許せないが不幸にも完成の目途が立たなかった謎の機体を勝手に組み立ててくれたことで残された作業が一部の外装の取り付けとOSの構築のみとなっていた。
「ところで親父さん、ストライクの整備はどうしたんだ?」
「あぁ、やれるところはやったんだけどな。昨日からパーツ洗浄機の使用が制限されちまってよ。できることが限られてるんだ。」
「水か。そう言えば連中、補給を碌にしてくれなかったからな。」
宇宙では地上と違い、水の備蓄が極端に限られている。特にアークエンジェルは、ヘリオポリスを脱出して以降補給なしであったため、積載されていた水が枯渇しつつあった。
「艦長たちもどうすんのやら。」
「とりあえず、この辺にしておくか。親父さん、ちょっと食事に行ってくる。必要な時は呼んでくれ。」
「おう、呼ばねえから1、2時間ぐらい昼寝してこい。」
マードックと別れてスネークは、食堂へ行く。中では丁度トールたちが食事をとっていたところだった。
「キラ、ストライクの整備は終わったのか?」
「まあな、できることはしてきた。だが、洗浄機が使えないから何とも言えん。何とかならんもんかね。」
そう言って彼は食事の盆を取りに行こうとすると、サイに促されてフレイが近づいてきた。
「あ、あのねキラ・・・」
「うん?どうした?」
「その・・・この間はごめんなさい。私、考えもなしにあんなこと言っちゃって。」
「あぁ。アルテミスの一件か。確かにあの司令には随分可愛がられたな。今も体がまだ痺れている。」
スネークは、笑いながら話すが席に座っているトールとミリアリアは心配そうに見ていた。
彼が拷問を受けていたことは一部の正規クルーにしか伝えていないが二人は、ブリッジに入る直前にムウたちの会話を盗み聞きしてしまっていたのだ。
そのため、ただでさえボロボロなのに更に無理していることにいつ倒れてしまうのかと心配していた。
「そ、そんなに!?でも、今は何もお詫びをしてあげれなくて。」
「ハッハハハ、ならこの船から降りた後でいい。いつかうまい飯でもごちそうしてくれ。艦の食事はどうしても物足りないからな。」
「う、うん。分かったわ。」
「キラ、早くここに座れよ。食事これからだろう?」
いつまでも立っているのは不安だと思い、トールはスネークを席に座らせる。
「じゃあ、食事は私が持ってきてあげる。」
「いや、別にそれぐらい自分で・・・・」
「いいんだよ、昨日も大変だったんだからさ。それといつもみたいに一気に食わないでゆっくり味わうんだぞ。」
「しかし、まだ整備の方が・・・」
「いいからいいから。」
無理やりゆっくり食事をさせられたスネークは、小休憩を挟んで格納庫へ戻ろうとしたところで他のメンバーと共にブリッジへと呼び出された。
内容は補給の件に関してだった。
「補給を?受けられるんですか!?どこで?」
サイは、予想外のことで驚きの声を上げる。しかし、話を持ち出してきたムウの方はぎこちないと言うかどうも曖昧に返事する。
「受けれると言うか・・・まあ、勝手に補給すると言うか。」
「?」
「私たちは現在、デブリベルトに向かっています。」
「デブリベルト?」
マリューの言葉にトールは、いまいち答えが分からないようだったがサイの方は何かを察したのか思わず声を大きくする。
「それって、まさか!」
「勘がいいね、君は。」
「デブリベルトには重力の影響で、様々なものが集まっています。当然、破壊された戦艦なども・・・」
「なるほど、少なくとも物資を現地調達するにはうってつけという訳か。」
スネークは、学生組の中で一足早く結論を言う。
味方からの支援が期待できない以上、現地で調達するのは当たり前で『バーチャス・ミッション』、『スネークイーター作戦』などの現役時代では、当たり前のように敵の基地や兵士から装備と物資を奪っていた。
そんな経験があるせいもあって彼一人、躊躇する他の面子と違って冷静に反応していた。
「そんなところだ。でも、仕方ないだろう?そうでもしなくちゃこっちが持たないんだし。」
「あなたたちには、その際ポッドでの船外活動を手伝ってほしいの。」
「「えぇ・・・」」
「やりたくない気持ちは、我々も同じだ。しかし、このままでは月まで水が持たない。生きるためには仕方ないのだ。」
ナタルも気むずかしい顔で話す。それでもやりたがらなそうな顔をする一同を見てスネークは、一呼吸おいて前に出た。
「みんな、俺たちがこれからやろうとしているのは墓荒らしに近い行為だ。死人の寝床に踏み込んでいくのはいい気持ちではないことは分かる。だが、かと言ってこの調子で水が尽きれば俺たちの生存は絶望的になる。人間、食事は数日しなくても生きられるが水がなければ長く持たない。補給の当てのない以上、俺たちの選択肢はこれしかない。ここはお互い腹を括ってやっていこうや。」
「キラ。」
「・・・・そうだな、他に手がないならそれにすがるしかないか。」
各面子は、不安そうな表情を浮かべながらもひとまずこの件を受け入れることにする。その後、それぞれが作業へ戻ろうとしたところでナタルは、スネークを呼び止めた。
「キラ・ヤマト。お前は今日から3、4日医療室で待機だ。」
「なに?」
「パイロットとしての責務を全うできるようにするための休息だ。急に倒れられたりでもしたら元も子もないからな。」
「だが、やることが・・・・」
「拷問にあったのは私の書類ミスも原因の一端だからな。これでも足りないぐらいだ。緊急時は動いてもらうがそれ以外は体を休めるのに専念しろ。」
「・・・」
「まあ、いざという時は俺が何とかするからさ。デブリベルトに到着するまで時間もかかるから休んでおけ。お前が動けなかったらそれこそ一大事だ。」
「フラガ大尉。」
「キラ君、バジルール少尉の言う通りに今は休んでおきなさい。マードック軍曹の方にも伝えておくから、心配せずに。」
マリューたちに言われたことでスネークは、渋々医療室へと連れて行かれる。
部屋の入り口では既にトールとミリアリアが来るのを待っていた。
「トール、ミリアリアまで・・・・」
「しばらく休んでんだろ?勝手に抜け出さないように見張っておくぜ。交代でな。」
医療室に入ると早速ベッドに横にされ、制服を脱がされる。上半身だけでもあちこちシップと包帯が巻かれていてかなり痛々しい姿だった。
「うわぁ・・・ユーラシアの連中、こんなひどいことしたんだな。」
「このくらいどうってことはない。」
「良くないでしょ!?食事は私たちが持ってきてあげるからちゃんと寝てなさい。キラにもしものことがあったらそれこそみんな悲しむんだから。」
「ハハハ・・・・随分ご立腹な美人ナースなもんだ。」
二人に言われたことでスネークは、大人しくベッドに横になるしかなかった。
「じゃあ、次の食事の時に交代するからよろしくな。」
「OK。」
ミリアリアに見張りを任せてトールは、ムウと共に医療室を後にする。
「お前ら、知ってたのか?」
「・・・・すみません。ブリッジに入ろうとしたら話しているのを聞いちまって。キラの奴、口ではあんな風に言ってるけどそんなにひどいんですか?」
移動しながら彼は、友人の容態について聞く。ムウは、少し話すのを躊躇うがこの際言っておいた方がいいと思い口を開く。
「本当なら病院とかにぶち込んで休ませた方がいいんだがね。なんせ、高圧電流を浴びせられたんだからな。」
「そんな、いくらアイツがコーディネーターだからって。」
「まあ、幸い後遺症とかは残らないそうだからここはひとまず休ませておいてやろう。これからやろうとしていることもかなり精神的に来るだろうからな。お前たちも覚悟しとけよ。」
プラント評議会の臨時査問会が終わった後、アスランはクルーゼと別行動になり、短い休暇を使ってある場所へと車を走らせていた。
本来なら、婚約者であるラクス・クラインの元へ行くべきなのだが彼女は、ユニウスセブンの追悼慰霊団の代表として事前調査のために出かけていた。
街の至る所では彼女の歌が流れている中、車は市街地を抜けて墓地へと辿り着く。
彼は車を降りて、花束を手に歩いていく。
「・・・・あの日からもうそんなに経ったのか。」
目の前の墓には『レノア・ザラ』と刻まれていた。アスランの母の名前であるが遺体はこの中には入っていない。
彼女は約1年前、農業プラントであったユニウスセブンで亡くなった。故に遺体は今もその残骸の中を彷徨っている。その日を境に父であるパトリックは反ナチュラルの姿勢を強めるようになり、自分も母のような犠牲を出さないためにもザフトに入隊することを決めた。
アスランは、この前のスネークとの戦いを思い出しながら墓に花を供えた。
「・・・分かっているんだ。俺はこんな戦争を早く終わらせるために軍に入った。だが、キラ。お前はコーディネーターだろ?俺たちの仲間なのに・・・どうして・・・」
彼は、そのまま墓地を後にする。近いうちに他の隊と共にまた戦うことになる。
また、かつての親友と戦うことに。
一週間後、デブリベルトに到着したアークエンジェルは、物資を調達するために作業用モビルアーマー『ミストラル』を複数機発進させ、それを護衛するためにスネークは調整を終えたばかりの謎のモビルスーツで付いて行く。
『キラ、もう本当大丈夫なのか?』
トールは、通信でスネークに連絡を入れる。当の本人は欠伸をしながら返事をした。
「あ~~5日も寝ていれば流石に元気だ。作業は親父さんに任せっぱなしになっちゃったがな。」
周囲は、瓦礫から破壊された戦艦やモビルスーツなどが散乱しており、中を調べれば使えそうなものは見つかりそうだ。
『レーダーに大きい反応があります。』
サイの言葉を聞くと機体のメインカメラで先を確認してみる。そこには巨大な大陸が見えた。
『大陸?こんなところに?』
「いや、違う。これは・・・・ユニウスセブン。」
目の前に見えた巨大な人口の大陸。
それは約1年前「血のバレンタイン」の舞台であるユニウスセブンの残骸だった。
降りて調べてみると中には当時の犠牲者の遺体があちこちに浮いており、調査に参加していたミリアリアは、あまりの凄惨な光景に悲鳴を上げる。
戦場で多くの死体を見たことがあるスネークにとってもその惨状は複雑なものでこのコロニーに核を撃った連合とかつて自分が立ち上げた武装国家『アウターヘブン』、『ザンジバーランド』において核搭載二足歩行戦車メタルギアで世界を恐怖に陥れた自分の姿を重ねて複雑な心境になる。
(あの時、
結局調べた範囲では水はユニウスセブンでしか発見されず、色々思うところはあるものの、他に当てもないことから回収することを決定した。
ただ、何もしないで回収するのも何かと思い、ミリアリアの提案で折り紙で作った花を手向けて黙祷してから行うことにした。
宙に広がって行く花を見ながら皆が黙祷する中、スネークはコックピットで一人敬礼をしてこの悲劇が二度と起こらぬように心の中で祈った。
氷塊の切削作業は順調で弾薬の回収が予定よりも早く終わったことから彼は、周囲に敵影がないかどうかを確認しながらスラスターを吹かして進む。
「ストライクのものに比べるとやや劣るが装甲素材の軽さのおかげか動き自体は良好だな。装備自体もストライカーパック以外は使い回せるし、予備機としては十分だ。うん?」
不審な機影を確認したスネークは、瓦礫に隠れる。確認するとそれは破壊された大型の民間船で破損具合を見る限り、撃墜されたのは最近のようだ。
「こんな所へ来る物好きがいるとはな、運がないとしか言いようがない。」
そこへ何しに来たのか一機のジンが現れ、船を調べていた。
「装備を考えると強行偵察型か。だとすれば近くかデブリベルトの外に味方がいる可能性があるな。」
彼は、スコープを出してライフルの照準を合わせる。ここで気づかれる前に墜とすこともできるが下手に撃墜すれば仲間に居場所を知らせることになる。そうなれば、応援がやってきてアークエンジェルを発見される上に物資を回収しているトールたちに危害が及ぶ。
それにこの機体は調整したばかりでまだ完全に使いこなせているわけではない。フェイズシフトも備わっていないため、ストライクのような戦闘は取れない。
強行偵察型ジンは、しばらく民間船を調べると目的を達したのかその場から離れ始める。
(よし、良い子だ。そのまま、この宙域から離脱してくれ。)
ところがタイミング悪くカズイたちの乗るミストラルが近くを通ってしまっていた。索敵能力の高い強行偵察型は反応を掴むとすぐに方向転換してミストラルの方へと向かい、発砲し始める。
「うわぁあ!?」
「ザ、ザフトだ!?」
背後からの攻撃に彼らが悲鳴を上げる中、スネークは瓦礫から出てきて狙撃を行う。
ビームは強行偵察型の胸部を撃ち抜き、気づかれることなく爆散した。
『き、キラ・・・助かったよ。』
『今のは死ぬかと思ったぜぇ・・』
「早くアークエンジェルへ戻れ。まだ、他にもいるかもしれん。俺は近くを見回ってから戻る。」
通信を終えると背部ランドセルのビームサーベルを引き抜き、展開しない状態でCQCの構えを取りながら周囲の偵察を始める。運よく近くにいたのはあの1機だけらしく、他の機影は確認できなかった。
「ふう・・・他にはいないようだな。」
敵がいないのを確認するとスネークは、戻ろうと機体のスラスターを吹かした。しかし、少し移動したところでセンサーに反応があり、確認すると一つの救命ポッドがデブリの中を漂流していた。
「あの民間船のものか?」
放置すればこのままデブリの仲間入りになりかねないのと中に生命反応があったことから彼は、ポッドを掴むとアークエンジェルへと引き上げる。
「つくづく君は落とし物を拾うのが好きなようだな。」
「ハハハ、褒めても何も出ないぞ。」
「はあ。」
回収したことに対してナタルは呆れた様子を見せる中、マードックはポッドを開ける準備を進めている。
「よし、それじゃあ開けますぜ。」
前に銃を構えた兵士たちを待機している中、彼はポッドの電子ロックを解除する。
するとゆっくり扉が開く、中からピンクの丸い物体が目の前に出てきた。
『ハロ、ハロ!ハロ!』
「なんだこりゃ?」
出てきた物に対してスネークは、思わず口を開く。
前世のケロタンやヨッ〇ー、そして、コスタリカで出会ったトレニャーを思い出させるマスコットキャラのようなそれは、両側の耳と思われるパーツをパタパタ動かしながら自分たちの周囲を飛び回る。
『ハロー、ラクス!ハローハロー!!』
「ありがとう、ご苦労様です。」
続いて中から長いピンク髪の少女が出てくる。長いスカートの裾をなびかせて宙を漂う彼女は、呆気にとられている一同を通り過ぎて慣性でそのまま飛んで行ってしまいそうになる。
「あら?あらあら?」
「おっと。」
流されそうな少女をスネークは、反射的に手を掴んで止めた。
「大丈夫か?」
「ありがとう。」
彼女は、お礼を言うが身に付けている軍服を見て困った表情を浮かべた。
「あらあら?まあ、これはザフトの船ではありませんのね?」
「ザフト?まあ、違うのは違うが。」
返事をするスネークの後ろでは、ナタルがため息をつく。
また、厄介ごとを持ってきてくれたなと。
『MISSION FAILED』
???「スネーク!応答しろ!!スネーク!スネーク!!」
□CONTINUE
EXIT
グリーンフレームなんて呼ばせよう。ZEKEにするか、いっそのことメタルギアと言わせるか。