ラクスを人質に取る形でその場を凌ぐことに成功したアークエンジェル。
医療室では、サイに見守られる形でフレイがベッドで寝かされていた。
「・・・サイ?」
「あっ、フレイ・・・」
ゆっくり目を開けた彼女にサイは、複雑な心境ながらも優しく声をかける。
「パパの船・・・・沈んじゃったの?」
「・・・・あぁ。間に合わなかった。キラが頑張ってくれたんだがな。」
「そう。あれはやっぱり夢じゃなかったのね。」
ブリッジでは、ショックのあまり発狂状態だった彼女だったが口調は少し落ち着いていた。
そこへスネークがミリアリアと共に飲み物のボトルを持って医療室に入ってきた。
「フレイ、目が覚めたか。」
「キラ・・・」
「・・・すまなかったな、お父さんを助けられなくて。」
「・・・・」
ボトルを渡しながら彼の謝罪に対し、フレイは無言になる。サイとミリアリアはまた心無い言葉を浴びせてしまうのではないかと心配になる。
「・・・俺のことが憎いだろう。なんで助けてくれなかったんだって。」
「・・・・がう。」
「憎いんだったらそれでも構わない。だが、俺は同じコーディネーターだからと言って本気を出してないなんてことはない。戦場に出れば誰もが命の危機に直面することになる。そんな状況で」
「違うの!」
「うん?」
彼女からの反応にスネークは、話を止めた。
「確かにパパを助けてほしかった・・・・でも、貴方は約束できないって言った。何が起こるか分からないからって。だから、責める資格なんてない。逆におかしいのは私、やっちゃいけないのは分かっているのにあの子を人質に取って。」
「・・・・・」
「あのラクスって子、私があんなひどい言ったのに嫌がらずに一緒に付いて来てくれたの。『大切な人を守りたいなら』って。本当は嫌なはずなのに・・・」
「フレイ。」
「けど・・・・それでもパパに生きてほしかった!!また、会えると思ったのに!!うぅ・・・・・うわぁあ・・・・パパあぁああああ!!」
理解しながらも途方もない悲しみと行き場のない怒りを胸に彼女はその場で大泣きし始める。サイは、そんなフレイの頭を優しく撫でながら慰める。
「・・・・ミリアリア、君もサイと一緒に彼女を慰めてやってくれ。」
「えぇ。キラはどうするの?」
「どうするも先遣隊が全滅した以上、俺たちの残された道は自力で本隊と合流することだけだ。機体の整備もそうだが・・・少し休まなくちゃな。」
そう言うと彼は、医療室を後にして艦の後部にある休憩室へと足を進める。
「・・・誰もいないな。」
換気が動いているのを確認するとスネークは、ポケットからライターと葉巻を取り出す。
本当はアルテミスでの拷問の際、腹いせにあったら盗んでこようかと思っていたがそんな暇がなく、ユニウスセブンでの物資回収作業中に偶々拾ったものを嗜好品としてこっそり回収し、以降は誰もいないところで吸っていたのだ。
彼は、葉巻を口に咥えてライターで先端に火を付けようとする。
「何をなさっていますの?」
「!?」
顔を上げるとそこにはいつのまにかラクスが来ており、彼は慌てて葉巻をしまう。
「ラクス!何故ここにいるんだ?」
「お散歩してましたらキラがこちらに行くのを見たので何をしているのか気になりましたの。」
「ハハハ、これは一本取られたな。だが、勝手に外に出ちゃだめだぞ。みんなが君のことをスパイと疑うかもしれない。」
「すみません。でも、このピンクちゃんはお散歩が大好きで・・・・と言うか鍵がかかっていると必ず開けて出てしまいますの。」
『ハロー!ゲンキゲンキ!!』
「腕白なマスコットだなぁ。とにかく、ここにいたら何を言われるか分からない。部屋に戻ろう。」
スネークは一服するのを諦め、彼女の手を取って部屋に戻る。
「戦いは終わったのですね。」
「あぁ、君のおかげでな。すまなかったな、フレイに振り回されることになって。」
「彼女は自分の大切な人を守りたいと申していましたから。でも、貴方は悲しそうな顔をしてらっしゃいますね。」
「俺か?・・・殺し合いで喜ぶ人間なんてそういない。それもかつての友人同士ならな。アスランもそれを分かってザフトに入ったのやら・・・」
前世で数多くの戦線を潜り抜けてきたスネークとて、殺し合いが好きなわけではない。自分の師であるザ・ボスを手にかけて以降、彼は戦うことでしか己の価値を見出すことができない者たち同士で殺し合うのは否定的な立場であった。
「アスラン?」
「アスラン・ザラ。月のコペルニクスの幼年学校時代の友人だ。兄弟のように仲が良かった。」
「そうでしたの。彼も貴方もいい人ですもの・・・それは悲しいことですわね。」
「彼も?君はアスランの知り合いなのか?」
意外な一言にスネークは、ラクスの顔を見ながら聞く。
「アスラン・ザラは、私がいずれ結婚する方ですわ。」
「結婚!?君は彼の婚約者なのか!」
まさかの衝撃の発言に彼は、大声で驚いてしまう。
「優しいんですけれどもとても無口な人。でも、この『ハロ』をくださいましたの。私がとても気に入りましたって申しましたらその次もハロを」
「タハハハハッ!!そうかそうか、相変わらずだったんだな。まさか、君のような子と婚約していたとは。めでたいことだ。俺のトリィも別れるときアイツがくれたんだ。おっちょこちょいだった俺のためにな。」
「まあ、そうでしたの。」
「ハハハ・・・・ふう、それがこんなことになるとはな。」
一通り笑った後、スネークは急に寂しそうに言う。かつての友人の意外な人間関係を知ることができた一方、このまま人質として本隊に引き渡さなくてはならないという責任を感じざるを得なかった。
その夜、彼女を助けてやりたいと思いながらも名案が特に浮かぶことがないため、彼はベッドで一眠りしていた。
「・・・・ラ・・・キラ・・・・キラ。」
「うん?」
誰かに呼ばれたことでスネークは目を覚ます。入口の方を見るとフレイが手招きをして呼んでいた。
「どうした?眠れないのか?」
彼は、上着を着て部屋から出てくる。フレイの方は、周囲を見ながら手を取り、人気のない廊下へと引っ張っていく。
「あの子・・・・ラクスって、これからどうするの?」
「どうするって・・・はっきりとは言えないが地球軍本隊に引き渡されるだろうな。」
「その後はどうなっちゃうの?」
「さあな。彼女の処遇を決めるのは上層部だ。とは言っても敵の総大将の一人娘だ。自分たちのいいように使い倒すだろうな。」
スネークは、過去の経験からこれから待ち構えているであろうラクスの処遇について推測する。恐らく、五体満足で帰れるのはまずない。プラント側への見せしめとして公開処刑も有り得る。そうなれば、愛娘を失ったことで怒り狂ったシーゲルが報復心に駆られることは目に見える。
「どちらにせよ、今まで苦汁を嘗めさせられた地球軍のことだ。骨の髄まで利用しようとするだろう。」
「何とかならないの?あの子にだってパパがいるんでしょ?」
「シーゲル・クラインだったな。母親のことに関しては知らないが恐らく心配してるのは間違いない。しかし、コーディネーターを嫌っていたはずの君が何故彼女のことを?」
彼は、これまでの反コーディネーター思想を持ち合わせていたフレイの心変わりに気になって聞く。
彼女は、少し考えた後口を開いた。
「確かに怖かったわよ。コーディネーターは私たちなんかよりも強い危ない存在だって・・・・でも、ラクスが言ってくれた言葉で思ったの。あの子のパパも私のパパみたいに心配しているんじゃないかって。コーディネーターも家族や友達を心配するのは同じだって。」
「フレイ・・・」
「この船が味方に合流するまでまだ時間があるんでしょ?それまでに何とかしてあげられないかしら?」
フレイの意外な答えにスネークは、頭を掻きながらできる限りの可能性を模索する。
「うん・・・・やるとするなら今しかないな。みんなが寝静まっている間に彼女を機体に乗せてザフトに引き渡す。相手にアスランを指名すれば何とかなるだろう。」
「アスランって誰なの?」
「彼女の婚約者だ。俺が交戦していた部隊にいるらしい。彼女のことを話せば応じてくれるはずだ。」
かつての友人だと言う事を伏せて彼らは、気づかれないように行動を始める。
「・・・・ねえ、キラ。」
「なんだ?」
ダンボール箱を被るスネークに対して、やや引く。
「アンタ、何してるの?」
「ダンボール箱は敵を欺く最高の偽装だ。潜入任務の必需品とも言える。少なくともこの中に人間が隠れているとはだれも思わないだろう。さあ、フレイも被るんだ。」
「えぇ・・・」
助けることを提案したこともあってフレイは断ることができず、渋々ダンボール箱を被る。
通路を移動するダンボール箱と言うシュールな光景を見せながら二人は、ラクスのいる部屋へと向かう。
ハロが反応したことでラクスは、誰かが来たのかと起きると目の前に足の生えたダンボール箱が部屋の前に立っている光景に目を丸くした。
「・・・どちら様でしょうか?」
「ラクス、俺だ。早く着替えろ。ここから出るぞ。」
スネークが顔を出すとラクスは、安堵してすぐに私服に着替える。
準備が整った三人は、誰も起こさないようにダンボールを被りながら忍び足で格納庫を目指す。
「止まれ、物陰でじっとしているぞ。」
彼の合図で三つのダンボールが壁際の物陰に隠れる。
通路で話をしていたサイとミリアリアは、物音に気付いて近づいてくる。そして、三つのダンボールを発見すると一つを持ち上げてスネークを発見した。
「何してるんだ、キラ?」
「やるな、サイ。俺のダンボール迷彩を見抜いたのはお袋に続いてお前が二人目だ。」
「いや、お前がダンボールに隠れて逃げるのは割と有名だし・・・」
「ちょっと、バレちゃったじゃないの!?」
「フレイ!?」
もう一つの方からフレイが出てきたことに彼は、驚く。
「ま、まさか君がこんな真似を・・・・」
「ご、誤解しないでよ!?キラがこれならバレないって言ったから・・・・」
「二人とも何をしようとしているの?」
ミリアリアが気になって聞こうとするが残りの箱の上でハロが飛び跳ねていることからある程度察してしまう。
「まさか、その子・・・」
「悪いな二人とも。ここはどうか見逃してくれないか?このまま彼女を本部へ引き渡したら何をされるか分からない。」
「私が家に帰してあげてほしいって頼んだの。お願い、黙ってて。」
フレイは、頭を下げて二人に頼み込む。これまで敵視していたラクスを助けようとしている彼女に驚きつつもサイとミリアリアは、呆れた顔をしつつも優しく言い返す。
「・・・ま、女の子を人質に取るなんて、本来悪役がやることだしな。フレイが率先してやるのは驚いたけど・・・・分かった。手伝うよ。」
協力者2人を加えて彼らは、外の見張りと分かれて更衣室へと入り、ラクスを船員用のノーマルスーツに着替えさせる。
「よし、ちょうどいいサイズがあった。だが、その恰好からだと厳しいな。」
「じゃあ、上着は脱いだ方がいいわね。キラは、そっち向いてて。私が手伝うから。」
「おう、任せた。」
しばらくすると着替えた二人が出てくるが服をしまう都合上、ラクスの方はお腹が大きく膨れているように見えてしまった。
「・・・・・フレイ、もうちょっとマシな入れ方はできなかったのか?」
「仕方ないでしょ!他に詰められるところなかったんだから。」
格納庫に到着すると4人は、ストライクの方ではなく、緑色の機体へと向かう。
「ストライクじゃなくていいのか?」
「バレた時に言い訳するならこっちの方がいい。」
「ありがとうございます。また、お会いしましょうね?」
「さあ、それはどうかな?」
コックピットの入り口でラクスがお別れの挨拶をする中、フレイは前に出る。
「ラクス・・・・あの時はごめんなさいね、貴方にあんなひどいこと言って。それに人質に取るようなことして。」
「フレイさん、私は気にしておりませんわ。貴方も元気で。」
「私・・・・貴方と会ってコーディネーターとナチュラルが同じ人間なんだって分かった気がするわ。その・・・今度、また会うことができたら友達になってくれる?戦争が終わったら。」
「はい。また、どこかでお会いしましょう。」
二人が分かれの握手をし終えるとスネークは、機体の発進準備を完了させる。
「じゃあ、俺は彼女を引き渡しに行ってくる。」
「キラ、お前は帰ってくるよな?」
「何を言ってるんだ、サイ。この艦にはお前たちがいるんだ。戻ってくるさ。」
そう言ってハッチを閉めると機体はカタパルトへと移動を始める。
「何が起きたの!?」
突然カタパルトが開いたことにマリューは、動揺しながらもクルーたちに確認する。
「格納庫で異常発生!あの緑のモビルスーツが動いています!」
「なんですって!?」
「どういうことだ?キラ・ヤマト!応答しろ!!」
想定外の事態に焦るナタルの元に現場へ駆け付けたムウから通信が入る。
「なんてこった。坊主がピンクのお嬢ちゃんを連れ出したよ!ダメだ!もう、エアロックが開けられちまった!」
緑のモビルスーツは、ストライク用のビームライフルとシールドを装備してカタパルトに接続される。
「よし、行くぞ!準備はいいか?」
『オマエモナッ!!』
スネークは、機体を発進させて後方から追尾しているヴェサリウスに向けて飛んで行く。
その動きはザフト側でも掴んでいた。
「足つきからモビルスーツが1機発進を確認!」
「例の機体か?」
「いえ、今まで確認されてないタイプです!!」
「何?」
近づいてくる機体に対して艦内は戦闘配備へと移行し、アスランを始めとするパイロットはそれぞれの機体に搭乗し始める。
『こちら、地球軍所属「アークエンジェル」の所属のストライクのパイロットだ。こちらでラクス・クライン嬢を同行・引き渡す。ただし、ナスカ級はエンジンを停止。イージスのパイロットが単独で来るのが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は保証しない。』
スネークの要請に艦内は唖然とする。そんな中、アスランは自分にあてたメッセージだと受け取り、ブリッジにいるクルーゼに進言する。
『隊長、自分に行かせてください!!』
「何を言っているんだ、アスラン!敵の真意が分からんというのに。本当にラクス様が乗っているかどうかも。」
『自分には確証があります。お願いします!!』
「・・・・分かった、許可する。」
クルーゼは、不敵な笑みを浮かべながらアスランを向わせることを許可する。それに対して艦長のアデスは懐疑的だった。
「よろしいのですか?」
「チャンスであることも確かさ。あの機体、強奪した機体の中にないと言う事は装甲も恐らく我々のものとそんなに変わらないだろう。アデス、艦を止めて私のシグーを用意しろ。」
発進したイージスは、そのままスネークの乗る機体の前へとやってくる。
「アスラン・ザラか?」
「そうだ、約束通り一人で来た。」
「コックピットを開けてもらおう。」
言われたとおりにコックピットを開けてアスランが姿を見せる。スネークはそれを確認すると自身もハッチを開けてラクスが同行していることを証明しようとする。
「ラクス、アスランと話してくれ。顔が見えない以上、君だということが分からないからな。」
「分かりましたわ。こんにちは、アスラン。お久しぶりですわね。」
『テヤンデイ!!』
声で本物だとわかったアスランは、安堵すると同時に能天気な言葉で肩の力が抜けた。
「確認した。」
「よし、なら連れて行け。」
彼が外に出てくるとスネークは、ラクスをそっと押し出して引き渡した。
「キラ、色々とありがとうございました。アスランも。」
「・・・・ふう、ご無事でなによりです。」
無事であることを確認しつつアスランはこれが本当に最後のチャンスだと思い、スネークの方へと向き直る。
「キラ、お前も一緒に来い!お前が地球軍にいる理由がどこにある?お前と戦いたくない。」
「理由か。仲間がいるからというのじゃ不満か?前も言ったはずだ。容赦しないと。彼女のことを思うなら軍から身を引け!!そんなことで命を無駄にしたら元も子もないぞ。」
答えはやはり変わらなかった。
彼は、表情を歪ませながらも意を決して口を開いた。
「ならば仕方ない・・・・次に戦う時は、俺がお前を撃つ!」
「そうか。なら、その時は俺も本気で相手をしてやる!!」
二機はゆっくりと離れて行く。
そのタイミングを見計らってクルーゼは、ヴェサリウスを再発進。自身もシグーで出撃した。
「やはり、そう来たか。」
覚悟していたのか、スネークはビームサーベルを手に取ってCQCの構えを取ることで臨戦態勢に入る。
「隊長、何を!?」
「アスランはラクス嬢を連れて帰投しろ。あの機体と船が我々がやる。」
シグーは、重斬刀を抜いて向かって行く。
これでは自分が騙し討ちしたようなものではないかとアスランが歯噛みしていると、ラクスがイージスのコンソールのスイッチを押した。
「ら、ラクス!危ないですよ!?」
「ラウ・ル・クルーゼ隊長、やめてください。追悼慰霊団代表の私がいる場所を戦場にするおつもりですか? そんなことは許しません。すぐに戦闘行動を中止してください。」
通信はヴェサリウス側にも繋がっているため、ザフト兵たちの間に動揺が広がっていた。
「(チッ、困ったお姫様だ。)了解しました、ラクス・クライン。」
本音を隠しつつクルーゼは、機体を反転させて撤退して行った。
敵が引き上げて行くことにスネークは、驚きつつもCQCの構えを解いた。
『お~い~坊主、聞こえるか?』
「大尉。」
『全く、無茶なことやっちゃって。よくわからんが俺たちも引き上げるぞ。』
遅れてきたムウの通信を受けて彼は、アークエンジェルへと引き上げて行く。
その後、艦内で裁判を受ける羽目になったが弁解に来たフレイの言葉もあって特に罰せることがなく済んだのは別の話である。
『MISSION FAILED』
???「タイムパラドックスが起きた!スネーク!未来を変えてはいけないのだ!」
□CONTINUE
EXIT