ルナティック幻想入り   作:アルパカ度数38%

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「若干の加筆修正」は本当に若干です。
地底~地霊殿あたりメインに、一部分かりにくい描写などを書き直した程度。



27-地底

 

 

 暗い。

その光景が瞼の裏であると気づき、俺は目を開く事にする。

そこは、ゴミ捨て場のようだった。

木製の細い柱が一本立っており、その先には灯りが、根元には俺の背がひっついている。

俺と柱を挟んで反対側には半透明の袋に入れられたゴミが、悪臭を放っていた。

はて、俺はどうして此処に居るのだろうか。

疑問詞が浮かんでくるが、とりあえず俺はそれを無視して立ち上がり、灯りから少しだけ離れて目を細める。

目に力を入れて見ていると、黒一色の中にも輪郭が生まれて見えてきて、そのうちぼんやりと遠くに灯りがあるのが見えた。

何故俺がこんなところに居るのか、気絶する前の記憶が曖昧だが、とりあえずわざわざ悪臭の元に居る必要性は無いだろう。

俺は明かりの下を離れ、他の明かりの下へと、足元に気をつけながら歩いて行く事にする。

魔力で灯りを作ってもいいのだが、状況が分からないのだ、消耗は最小限にする必要があった。

最も、俺の今の状態として、何故だか左肩がえぐられており、激しい痛みを訴えている。

そちらには鎮痛の魔力を施してやらねばならなかったが。

 

 暗い所で足元を探りながら歩くのは、魔力を覚えてから久しい事になる。

故に何度か足を引っ掛け転びそうになりつつも、俺はなんとか他の灯りの元へと近づいていった。

次第に暗黒の持つ輪郭が眼に見えてきて、俺は家屋がいくつも連なり、自分はその隙間道の奥にある広場に倒れていたのだと気づく。

灯りの奥では忙しなく人妖が歩いているのが見え、まるで人里の祭りの時のように人通りが多い。

しかし、こんな雪でも降りそうな冬の日に、祭りとは。

疑問を抱きながらも俺は先に進み、そしてついに路地から出た。

 

 光が爆発したかのような、圧倒的光量。

家屋には幾つもの灯りが取り付けられ、その下を凄まじい量の人妖が行き来する。

道の両端には時たま途切れつつも出店が出ており、そこに小さな子供が走っていったりしていた。

ガヤガヤという喧噪の奥からは、祭囃子が遠く聞こえてきた。

祭り。

それも、幻想郷に来て以来、初めて見る程の規模の祭りだった。

なにせ人間だけでなく、明らかに外見からして妖怪と分かる者も堂々と歩いているのである。

なんと賑やかな光景だろうか。

その躍動感に、俺は今の状況も忘れて祭りに飛び込みたい衝動さえ覚えた。

 

 一歩、祭りの中に踏み出す。

褐色の灯りの色が視界いっぱいに広がり、まるで世界が変わったかのようだった。

ドキドキと胸が沸き立つのを抑えきれずに、俺はもう一歩祭りの中へと踏み出す。

その瞬間である。

誰かが俺を指さし呟く声が、聞こえた。

それからヒソヒソと声が重なり、太鼓の威勢のよい囃子も停止する。

俺の周りだけ人妖の真空ができているかのように、誰一人俺に近づこうとしない。

その円の内側に居た子供達など、泣きそうになりながら俺から離れている。

 

 一体どういう事だ?

疑問詞で頭がいっぱいになってしまう俺を尻目に、集団の中から一人の若い妖怪が進み出る。

人型の、青い肌をした妖怪であった。

威勢のよい声で、彼は言った。

 

「お前、自分の能力を知って、堂々と此処に出てこれたのかよ!」

「の、能力……?」

 

 言いつつ彼は俺に詰め寄り、襟を掴んだ。

むせそうになるのを耐える俺に、彼は叫ぶ。

 

「しらばっくれるなっ! お前が地底に落ちてくる時、その言葉が地上から聞こえたんだっ!」

「っぐ……?」

「お前のっ、“みんなで不幸になる程度の能力”だっ!」

「……あ」

 

 その言葉と同時に、俺は全てを思い出した。

俺の肩を食いちぎる白蓮さん。

泣きそうな顔で俺を糾弾し、地底に封印する星さん。

力を絞りきって登ってきた所を、いとも容易く蹴落とされたかのような気分だった。

世界が暗黒に染まり、一瞬この場で卒倒してしまいそうになる。

かろうじて俺を掴む彼によりかかるようにしてそれは抑えたが、すぐさま振り払われ、俺は尻餅をついてしまった。

自然、彼を見上げる形になる。

 

「行け、どっかへ行っちまえっ!

お前のような能力の持ち主なんて、この地底にすら必要な……」

 

 がたん、と大きな音がし、次の瞬間勢い良く彼の口から尖った血染めの柱が見えた。

一拍。

噴水のように青い血が吹き上がり、それは徐々に勢いを無くしていく。

最後には彼の体がぐらりとよろけて、その場に倒れこんでしまった。

 

「ひ……あ……」

 

 あまりの事に、脳内が事実に追いつけない。

頭の中が真っ白になり、口が何を言いたい訳でも無いのにパクパクと動く。

面を上げると、民衆は全員俺と視線を合わせないようにしながら、ひそひそと喋っていた。

 

「今のが、あの権兵衛とか言うのの?」

「なぁ、あいつ妖怪だろ、なんで喉を貫かれただけで死んでいるんだ?」

「“不幸にも”、心の隙を突かれたのか?」

「うわぁ、くわばらくわばら」

 

 全身が凍りついたかのように寒い。

刺すような空気が肌へと吹き、鳥肌を作っていく。

手は死んだ妖怪へと伸ばされたまま、空中を泳いでいた。

暫くそのまま硬直していたのだが、ある時、突然に子供が泣き出した。

うぇぇん、と言う声に、俺は思わず立ち上がり、逃げ出す。

 

「あ、あぁああぁぁっ!!」

 

 絶叫しながら、俺は背後の路地へと走った。

暗い段差で転けそうになりながらも、どうにかゴミ捨て場の柱へと辿り着き、柱にすがりつくようにして立ち止まる。

喉の奥から、不快感が登ってきた。

俺はそれに逆らわず、吐瀉物をその場にぶちまける。

 

「う、うげぇえぇぇっ!」

 

 喉を焼く灼熱のような痛みと共に、俺は嘔吐を続けた。

やがて固形物が出なくなると、俺はそこから離れ、柱の一面を背にして座り込む。

絶望的な気分だった。

そしてより何か言うとすれば、俺には何かを考える力すら残っていなかった。

ただただ、俺は謝り続けながらその場で座り込んでいた。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。

あの青い肌の妖怪だけでなく、俺が今まで出会ってきた全ての人妖に謝りながら、俺はただただ無為に時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ようやく冷静に考えられるようになった頃、俺は今までの事を回想していた。

妖夢さんが俺を切らねばならないのも俺の所為。

輝夜先生が俺を追い出さねばならなかったのも俺の所為。

人里の人々が俺の家を壊してしまったのも俺の所為。

幽香さんが俺を嬲る事になったのも俺の所為。

妹紅さんが錯乱し俺に火傷を負わせてしまったのも俺の所為。

宴会が奇妙だったのも俺の所為。

椛さんが俺の腕を切らねばならなかったのも俺の所為。

早苗さんが俺を見捨てなければならなかったのも俺の所為。

人里で俺が私刑を受けたのも俺の所為。

命蓮寺で白蓮さんが俺を食人したのも俺の所為。

いや、こればかりではない。

俺のあずかり知らぬ所で、数えきれない程の不幸が俺の所為で生まれてきたのだろう。

そしてそれは、星さんを経由したとはいえ閻魔様の言葉であると言う事から、間違いない事であると確信できた。

 

 俺は、今まで人を幸せにできると言う希望を持って、生きてきた。

自分のあまりの価値の無さに自死をすら考え、そしてそれを補うように恩を返す事を目的に生きてきた。

しかし、今回の事実はそれら全てを覆す事実だった。

俺は、人も自分も、永劫に不幸にし続ける事しかできないのだ。

 

 俺は、死ぬべきなのか。

俺はそれに悩み続けた。

地底と言うだけあって、太陽の恵みの無い此処では時間の感覚も無いが、数刻、もしかしたら丸一日ぐらい悩んでいたのかもしれない。

論理的に考えて、自分も他者も幸せにできない俺は、死ぬべきである。

しかし僅かにだけ残った、俺と縁を持つ人々が悲しむであろうと言う事実は、俺に自死を躊躇わせた。

俺は、この期に及んで誰かを悲しませたくなかった。

しかしそれすらも、今後俺が生きていく事によって、俺の死以上の不幸をもたらすのだと考えると、矢張り俺は死すべきなのだと思える。

だが、それでも俺は、一つの命である事は明白である。

何らかの理由を持ってこの世に生まれた以上、その責任を果たさねばならないのではないか。

自殺をしてその責任から逃れるのは、不道理ではなかろうか。

しかし、同時に俺はこの世に生きているだけで不道理な男でもあるのだ。

ならば矢張り、俺は死ぬしかないのか。

いや、きっとそうなのだろう。

たったこれだけの事実に至るまでにこんなにも時間がかかったのは、矢張り俺も死が怖かったのだろうか。

しかしそれも最早どうでもいい事である。

 

 俺は、捨てられたゴミをあさり、縄を見つけた。

幸い此処は生ごみだけでなく様々なゴミが捨てられる場所だったらしく、酒瓶を腰に吊るすような長さの縄が幾つも見つかった。

俺はそれらを、勤めて無心であろうとしつつ繋げ合わせていく。

こうやって糸の撚り合わされた部分がぐるぐると螺旋を描いているのを見ていると、なんだか心が落ち着いてくる。

螺旋はぐるぐるとねじれて、まるで無限に向かっていくかのような物であり、もうすぐ死んで終わりになる俺の人生とは別物だなぁ、と考えながら俺は縄を作っていった。

 

 やがて、縄は完成した。

丁度この柱は頑丈そうだし、灯りを付ける部分に縄を引っ掛けられるようになっていたので、俺はこの場から動かないまま死ぬ事にする。

忌み嫌われた妖怪が住むと言う地底の、更にゴミ溜めにて死ぬと言うのは、俺のような最悪の人間の死に場所には相応しいように思え、俺は小さく笑った。

台が無いので、俺は魔力を使って浮きながら縄をそっと首にかける。

その瞬間、視界の端に人影が写った。

これ以上人妖を不幸にしてなるものか、と、俺はすぐさま魔力を解き、首を吊って死ぬ事にする。

 

 死の間際、俺には走馬灯こそ無いものの、時間がゆっくりになるように感じられた。

死への予感は、俺に開放感をすら渡してくれた。

俺はこれ以上他者を幸福にする事はできないけれど、これ以上他者を不幸にする事も無いのだ。

そう思うと、俺の体は羽のように軽くなったようにさえ思えて、俺は快く死の苦痛を迎えようと思う。

きっとこんな時間がゆっくりと流れながら死ぬのは、死の痛みを長時間に渡って味わう事になり、苦痛なのだろうが、それが今まで生きてきて他者を不幸にし続けた俺への罰なのだと思いながら、俺は目を閉じた。

 

 閃光。

爆音。

背中を強くうち、俺はうめきながら地面を転がった。

 

「お前、一体なにしているんだよっ!」

 

 野太い声が聞こえ、俺は痛みに呻きながらも、視線を上げる。

まず、薄桃色の恰幅のよい小人のような妖怪が視界に入り、直後小人の弾幕でそうなってしまったのだろう、折れた柱が見えた。

全身に、凄まじい脱力感が走る。

思わず、俺は叫んだ。

 

「俺は、俺は、死ななければいけない人間なのにっ!」

 

 分かっている。

首を吊ろうとしている人間を見かけたならば、とりあえず助けるのが徳と言う物であると言う事は、嫌というほど分かっている。

だが、それでも俺は叫ばざるを得なかった。

膝をつき、顔を覆いながら叫ぶ。

内心が、濁流のように口から迸る。

 

「本当は、俺も、誰かを幸せにしたかったんだ。

けれど、それもできなくて、俺は、俺はっ!

俺は、死にたくないっ!

今まで生きてきた恩を、返したいっ!

だけど、仕方ないじゃあないか、俺には自分も他者も不幸にする事しかできないんだっ!

思い込みじゃあなく、本当にそうなんだよっ!

なのになんで……なんで俺を助けたんだっ!」

「はぁ? 何を言っているんだ?」

 

 疑問詞と共に、首を傾げる小人。

俺は呆然と、小人の顔を見る。

本心から疑問に思っているような顔であった。

 

「此処はおいらの家の裏だから、そんな所でお前のような人間に死なれて、この場所が呪われでもしたら、大迷惑なんだっ。

しかも、お前、死んだら閻魔様の所に行くだろ?

そしたら今度は……閻魔様も不幸になっちまう。

おいらは閻魔様に恩があるんだから、そんなこと見逃せないっ!」

「……あ?」

 

 思わず、疑問詞が口をついて出た。

俺は……死ぬ事すら、迷惑なのか?

そう思うと同時、俺は死んだ後の俺の魂の行方について、ようやく想いを馳せる。

そう、俺は死ねばその魂は冥界に行くかもしれず、どちらにせよその後は閻魔様の裁きを受ける事になるのだ。

となれば、少なくとも閻魔様を、そして多ければ幽々子さんと妖夢さんを再び不幸にしてしまうのである。

しかもよくよく考えれば、俺には“名前が亡い程度の能力”による神力に対する抵抗力がある。

俺は果たして、閻魔様に裁いてもらえるのだろうか。

この“みんなで不幸になる能力”を消しさってもらえるのだろうか。

 

 唯一の希望である死すらも、実は救いでは無かったのだ。

そう悟ると同時、俺は全身にもう一切の力を込める事すらもできず、その場に倒れ伏した。

 

「だっ!? じゃ、邪魔だっ!」

 

 小人が叫び、俺の襟を掴み、放り投げる。

そうまでされても、俺はぴくりとも動く気力が湧いてこず、されるがままに何度も投げられ、最後には大通りの真ん中に倒れるようになる。

するとそこだけ人気の真空にでもなってしまったかのように、人妖が足を踏み入れぬ地帯になった。

上空から見れば、きっと俺を中心に無人の真円が描かれているのだろう。

呆然とそんな光景を想像しながら、俺はその場に倒れていた。

それでも小声で呟く、通行人達の言葉は聞こえてくる。

それによると、数時間の後には俺を投げた薄桃色の小人は、誤解から妻に殺されかけて錯乱し、自分の子供さえも手にかけてしまった後、正気に戻って首を吊って自殺したのだと聞く。

今度は、最早俺には口に出して謝るだけの気力は無かった。

ただただ、内心で何度も、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと呟き続けるだけであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 人類最悪。

俺に二つ名をつけるならば、そんな名前が似合う事だろう。

何せ俺相手に殴ろうが殺そうが、優しくしようが慰めようが、何をしてもお互い不幸になるしか無いのだ。

果たして、俺のこの能力がまだ成長の余地を残しているのだとすれば、どうなるのだろうか。

俺が息を吸えば、地底が不幸になる。

俺が息を吐けば、幻想郷が不幸になる。

俺が瞬きをすれば、現世が不幸になる。

俺の心臓が動いていれば、三界全てが不幸になる。

そして俺の生死にも関わらずに不幸は広がっていき、何時かはこの地球を覆い尽くし、月まで、火星まで、土星まで、そして銀河まで不幸は満ちていくのだろう。

その光景は、最早悪夢と言えた。

全ての人の心から幸せが消え去り、ただただ不幸ばかりの植物の一生が待ち受けるのみ。

 

 その事実は、俺のかつてのほったて小屋生活を思わせた。

人と関わることなく、心が死んでいくような、緩慢な不幸に満ちた毎日。

あの生活から月に一度の慧音さんとの酒宴を除けば、俺が世界中の皆へと与えようとしている物はよく似たものだろう。

俺が味わった不幸を、皆に与えて回る。

そう考えると、より俺の存在の罪深さは酷い物に思えた。

不幸を糧に得るべきなのは、幸せのありがたさや、苦難を乗り越えた精神的力である。

だのに皆を同じ目に遭わせると言うのは、度を通り越した最悪だった。

 

 最早俺には、生きる事も死ぬ事も許されないのだが、ならばどうすればいいのだろうか。

このまま生きていても死んでいても俺の身から不幸が溢れてしまうのだとすれば、一体俺はどうすればいいのだろうか。

生きるか。

生きて、俺は周りに生き物の存在しない……、死んだ砂漠のような世界でひっそりと生き続けるべきなのか。

俺の“みんなで不幸になる能力”がこれ以上成長しない事を祈って、ただただ植物のように生きるべきなのか。

そうするのだとすれば、俺は捨食の魔法をおぼえて永遠に砂漠の中心で生きるだけの生物となるのだろう。

この星がその生命を終えるその瞬間まで、俺の周りは不幸に満ちた邪悪な空間として語り継がれるのだろう。

そして俺は、その結果を見る事すらできない。

俺は果たしてこの星中を満たすほどに不幸を振りまいてしまったのか、それを確認する事すら叶わず、もしかしたら道化のように振る舞う事しか叶わないのだろう。

それとも、死ぬか。

死んで、閻魔様に裁かれるなどすれば、俺の魂からこの忌まわしき能力が消えてくれるのだと願って、死ぬべきなのか。

閻魔様や白玉楼に不幸が降り注ぐのを、必要な犠牲だと割りきって、俺は死ぬべきなのか。

そうなるのだとすれば、俺は不幸になる能力を持ちながらも幸運を期待すると言う、滑稽な行動をする事になるのだろう。

叶うはずも無い願いに全てを賭した、大馬鹿者として語り継がれるのだろう。

そして俺は、恐らく全てに失敗し、不幸が無限に広がっていくのを目の前に、何をする事もできない。

俺は生きて、せめて誰もいない所に自らを封印してしまえば良かったと永遠に悔い続ける事なのだろう。

 

 心の底から、俺は今この瞬間この場から消え去る事ができれば、と思う。

生きるのでもなく死ぬのでもなく、ただただ消失する。

まるで俺の名前のように、完全無欠に消え去る事ができれば、どれほどいいことだろうか。

どうせ消え去る事ができるのなら、お願いだから、俺が生まれた瞬間まで遡って、俺を生まれなかった事にして欲しい。

そうすれば俺が生まれ、人々を不幸にし続ける事がない分、世界には幸せが溢れる事だろう。

そう、俺は消えてなくなる事で初めて人に貢献できる人間なのだ。

そうなればどれほどいいか、と思うものの、俺はそれを許されぬ程に罪深い人間だった。

ばかりか、俺は既に二人もの妖怪を殺生してしまった。

俺が直接手を出した訳ではないものの、同じようなものである。

俺は自身の罪深さに押しつぶされそうになる。

 

 そんな事を考えながら、俺は当座の場として、地底の中でも人気の無い方へと放浪していた。

時間の感覚は無いが、丸一日以上は何も食っていない身である、ふらふらとしてしまうが、地底の住人全てが俺を避けて通るので、これ以上迷惑になる事も無い。

ただ喉の乾きだけはどうしようも無かったので、そんな時は近くにある泥水などを啜りながら、俺は生ける屍のようになりながら歩き続けた。

断食したままの放浪は、辛い物であった。

あの家を壊された後の、殺される為にただ彷徨う時よりはマシかと思ったが、しかし空腹はそれ以上に俺の心を痛めつけた。

周りが縁日の祭りのようで、常に食べ物の匂いがする事も一因であっただろう。

美味そうな脂の匂いや、喉が凍てつくようなアルコールの匂いを嗅ぎながら、俺はしかし何一つ口にすること無く歩き続けた。

やがて鉛をくくりつけているかのように足の動きが鈍くなり、まるで底なし沼を歩いているかのようで、一歩ごとに沈んだ足を抜き出しているかのようであった。

 

 幾度かそれらしい場所を見つけはした。

使われなくなった地下水路の巨大な洞穴、住人の居なくなった広い廃屋、シャッターの閉まった人気のない小さな街道。

しかしどれも近くに生きた人妖が住んでいて、俺と関わった人妖がどうなったか知っていたのだろう、遠くからちらちらと姿を見せてきた。

俺はその度にその場所を諦めて、また宛のない放浪へと歩みだす事になる。

そうして五度目の放浪に入り、そろそろ本格的に足にきてしまい、歩くのも限界に近いと言う頃の事である。

俺は仮宿として、郊外の小さな禿げた一本の大きな木に背を預けることにした。

ごわごわとした木の触感を背に感じつつ、俺は深い溜息をつきながら背をずり落とす。

尻が湿った地面についた頃、俺はついに空腹の限界となり、木の皮を剥がし、その表面の泥を拭ってから口にした。

いかにも消化に悪い食べ物である、もしかしたら胃が受け付けないかもしれない、と思いつつの食事だったが、まだ俺が感じている程の時間は経っていないのか、俺の胃はゆっくりと木の皮を消化していく。

僅かに吐き気がしたが、なんとかそれを堪えて俺はそのまま頭まで木に体重を預ける。

 

 暫くは吐き気を我慢していたが、それも長時間続くと、次第に眠気がやってきた。

仮宿を見つける事すら、思った以上の難事である。

これを解決するには無睡ではできないかもしれないと思い、俺はその眠気に身を預ける事にした。

顎やゆっくりと落ちていき、膝を立てた足の合間に頭が落ちて行く。

俺は眠気に任せるままに、睡眠へと誘われていった。

 

 夢を見た。

夢の中で、俺は一人の少女と共に過ごしていた。

その少女は俺に心底ほれ込んでおり、俺は彼女にとって好む異性の要素すべてに当てはまるのだそうだ。

故にか、俺が何をしても彼女は幸せになり、俺が何をしても彼女は不幸になどならなかった。

そして俺もまた、彼女を好んでいたが、おそらくその愛は不均衡で、彼女が俺を愛する力は、俺が彼女を愛する力をはるかに凌駕していた。

俺が彼女に微笑みかけると、彼女はうれしそうに笑って、くるりと一回転してみせる。

そっと手が伸びてくる。

白いシルクの手袋に包まれた、たおやかな手が。

彼女は俺に何か言おうとする。

しかし、その言葉はじれったい事に俺には届かず、意味のない空気の揺れにしか感じられない。

それを悟ったのか、少女はゆっくりと、唇の動きを見せるように言い始める。

イ。

キ。

テ。

確かにそう言いながら、少女はその白百合の花弁のような手袋に包まれた手を俺に伸ばし、俺は——。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ぽん、と肩を叩かれ、俺は身震いしながら起き上がる。

その肩に置かれた手の先を見ると、幼く美しい少女が俺の肩に触れており、あぁ、この子が俺を起こしたのか、と思ったと同時に思い出す。

俺に詰め寄っただけで死んだあの青い肌の妖怪。

俺を投げただけで最悪の死を迎えたあの薄桃色の小人の妖怪。

ひっ、と悲鳴をあげながら俺は彼女の手を払いのけ、数歩後ずさった。

どんな理由があっても、不幸になってはいけない、そう思わせるぐらいにその少女は美しかったのだ。

そうやって距離を取ってから、俺は改めて少女の事を観察する。

 

 紫水晶の髪に、細く理知的な輝きを宿す目。

頬はその外見の幼さからだろう、白い肌の中僅かに紅を差しているように見える。

襟と袖に白いフリルをあしらった青色の服と、フリルと色を合わせたスカート、そこからはまた白く細い足が伸び、ぼてっとした桃色のブーツへとたどり着く。

特筆すべきはその胸にあしらわれた、赤い目のような装飾だろうか。

真円を描く球体の中心に、黒いのに何処か白い印象のある瞳が俺の目を覗いており、そこから六方へと触手が伸び、彼女の体に巻き付いている。

うち一本が彼女の首元に、もう一本が髪飾りにあるハート型の飾りに結びついていた。

何というか、容姿自体は幼い物なのだが、反して彼女の表情は鋼鉄のように固く、凍てついた氷を思わせるようである。

そんな少女の花弁の唇が、その外見に反して艶やかに踊った。

 

「貴方は、七篠権兵衛かしら?」

「えっ? はい、そうですけれど……」

 

 と言いつつ、思わず俺は目を瞬く。

俺の名を知りつつ俺に近づき、あまつさえ触れる事までしようとは、俺の呪われた能力を知らないのだろうか。

と思うと同時、少女が氷の微笑を浮かべ、その美しい声で言った。

 

「いいえ、私は貴方の能力も、それが地底に来てから二体の妖怪と不幸になった事も知っているわ。

矢張り貴方はそう言われると驚くのね。

えぇ、私は貴方の“みんなで不幸になる能力”から受ける影響など承知の上よ。

ふふ、驚いているわね。

あ、そうそう、貴方が疑問に思ったようだから、答えてあげるわ。

私の名は、古明地さとり。

さとり妖怪の、さとりよ。

いいえ、苗字で呼ぶと妹と混同してしまうから、名前の方で呼んで頂戴」

 

 と、まるで俺の思考を追うように喋るさとりさん。

それに疑問を覚えると同時にさとりさんは自己紹介をし、同時に俺は思い出す。

さとり妖怪。

つまりは人妖の心を読む事ができる妖怪であり、今の会話は俺の心を読みながら行っているのだろう。

不自然ではあるが、意思の疎通に齟齬が無いので、特に口下手な俺などにとってはより平易な会話方法でもあった。

と、眉をひそめるさとりさん。

 

「本気かしら?

いえ、本気のようだけれど、心を読まれてそんな反応を返すだなんて、貴方は正気なの?

……ふぅん、自分では正気のつもりでいるけれど、周りの反応から少し変だとは自覚しているのね。

じゃあここは一つ、助け舟を出してあげましょうか。

貴方は変じゃない。

とびっきりに変なのよ。

自覚しておいて損はないでしょう、感謝なさい」

「は、はい、ありがとうございます」

 

 と、俺は思わずぺこりと礼をしながら感謝の言葉を伝えた。

と言うのも、さとりさんにとって俺の思考が読めるとして、その強さまでは読めるとは限らないからだ。

となれば、その強さを伝える為には、矢張り言葉にして口にしなければなるまい。

そう思って口に出したのだが、またもや目を点にしてさとりさんは言う。

 

「その反応もへんてこね。

普通、会話が成立しないってみんな嫌な思いをするのに、貴方ときたら逆に、心を読まれるのもそれ程便利って事じゃあないのかな、ですもの。

答えてあげましょう、いいえ、そうではないわ、私は貴方の思いの強さもまた理解できる。

だからわざわざ感謝の言葉を伝えなくてもいいわ」

 

 と、座り込んだままの俺を見下ろしながらいうさとりさん。

しかし俺としては、感謝しているのにその礼を言わないと言うのも座りが悪い。

と言っても、さとりさんとしては余計に言葉を聞かされる事になり、無意味な労働が一つ増える事になるので、嫌な思いをする事になるのだろうか。

そうだとすれば、本末転倒も良い所である。

その辺はどうなのだろうか、角の立たないように聞いてみなければ、と思うと同時、それが伝わっている事に、便利だなぁと思う。

氷の視線で少しの間思考を含めた沈黙を作り、それから充分間をとってさとりさんは口を開いた。

 

「そうね、そんな風に思われたのは初めてだけど……。

えぇ、矢張り礼ぐらい、口にしてもらう方がいいわ。

勿論、私の言葉を遮らない事が前提だけれども。

それにしても、本当に私の“心を読む程度の能力”を恐れていないのね」

 

 呆れたように言うさとりさんだが、俺も全く恐れていないと言う訳ではない。

と言うのも、俺のような自虐的で醜い思考を読み続けるなど、さとりさんにとって不快ではないかとも思うからだ。

当然、さとりさんには申し訳ないことこの上ない。

それにそれでなくとも、人は人を不快にしてしまう思考を、少なくとも言葉より多く考えている事だろう。

そうなればさとりさんは常人より多くの不快を読んでしまう事になる。

俺はそれに多分の同情と少しの哀れみとを憶え、そこに哀れみが混じってしまった事を読み取られた事に思い当たった。

俺如きが他者を上から見るような思考をしてしまった事を読み取られた事に、顔を紅潮させる。

 

「矢張り、貴方は評判通りと言うか、地上で噂に聞くような性格みたいね。

あら、どんな噂かは教えてあげないわ。

まずは自分で考える事ね、って、悪評では無いわよ。

所で貴方ちょっと抜けてるのね、少し思考を巻き戻して、私と出会った時にまで戻してみたら?

せめて尻餅をついたままではなく、立ち上がって見せたら?」

 

 と言われて初めて俺は自分が尻をついたままである事に気づき、慌てて立ち上がり、赤面しつつ尻についた泥を払う。

それからさとりさんの台詞に思いを馳せ、それからようやく己の“みんなで不幸になる程度の能力”の事に気づき、顔を青くした。

慌ててこの場から逃げようと思う俺の思考を読み、さとりさんが俺を制する。

 

「逃げようとしても無駄よ、残念ながら私は貴方に用があるの。

私は戦いはそれ程得意じゃあないけれど、弱っている貴方との力の差は歴然だと分かるでしょう。

……そう、いい子ね、そうやっておとなしくしていなさい」

 

 そう言われてしまうと俺にはどうしようもなく、一体何の用があるのかとその場に佇む事しかできない。

さとりさんはぴん、と人差し指を立て、軽く胸を張って演説するように言う。

 

「この地底は地獄のスリム化で切り捨てられた部分だから結構広いのだけれども、それでも貴方の望むような死んだ砂漠のような場所は無い。

かといって貴方には独力で地上に昇る程の力はなく、また封印された人妖を地上に出しては地底はその責を問われる。

つまり、地底の何処かが貴方を引き取らねばならないのよ。

そんな時に選ばれるのは、残念ながら何時も嫌われ者の役目。

地底の中でも最も忌み嫌われた妖怪である私が選ばれたのも、必然でしょう。

まぁ、一応私が地獄の中心の地霊殿の主人と言う、地底の顔みたいな役目をしているからと言うのもあるけれどね。

鬼辺りは不幸になる能力と喧嘩してみるのもいいかも、とか思っていたようだけれど、余計に混乱するだけだろうから私が引き取る事にしたわ。

貴方の能力が、本当は“みんなで不幸になる程度の能力”ではないのでは、と言う希望に賭けてね」

 

 と言われ、俺は呆然としてしまう。

少し話しただけで非常に理知的と分かる彼女が嫌われ者と言うのもそうだが、俺の能力が“みんなで不幸になる程度の能力”では無いと言うのは、一体どういう事なのか。

それでは俺に話しかけて死んだ二体の妖怪は、一体どういう事なのか。

疑問詞に満ちる俺の脳内を読み取り、さとりさんは一人頷く。

 

「何故なら貴方の持つその能力は、貴方の魔力の量に比して、凄まじすぎる。

悲劇しか招かないその能力は、最早西洋の唯一神の領域と言って良いほどよ。

勿論、貴方の来歴を読み取る限り似たような能力があるのは分かるけれど、検証を行っていけば他の能力と判明する可能性があるかもしれない。

閻魔にだって、間違いがないとは言い切れないのよ」

 

 理屈はわからないでもない。

しかしそれは、余りにもメリットの無い行為ではあるまいか。

顔に現れる程簡潔な思考に、さとりさんは僅かに沈黙した。

少し俯いてから、躊躇いがちに面を上げる。

 

「それと……、妹に、貴方が有用かもしれない、と思ったからよ」

 

 と、さとりさんは言った。

その瞳をじっと見ると、先ほどまでの凍てついた視線に、僅かながら柔らかさが現れている事に俺は気づく。

そこから垣間見る感情としては、さとりさんは、恥らっている、のだろうか?

と思った瞬間、その思いを読み取ったのだろう、さとりさんは再びその瞳に凍てついた鋼鉄を宿す。

彼女の心の揺れが現れた先ほどの光景が魅力的だったので、俺は僅かに残念に思った。

さとりさんは、聞こえているだろう俺の心情を無視して続ける。

 

「噂に聞く貴方は、心を読まれてもそれを全く恐れないような人格だった。

実際、会ってみて私もそう感じたわ。

貴方自身は少しは恐れていると言うけれど、そんな物は物のうちに入らない。

私の妹は……愚かな事に、他者の心を読む事を恐れて、自分の心を閉じてしまっている。

だからペットの中でも心を読まれる事を比較的恐れない子をつけて、第三の目を開く練習をさせているんだけれども、あの子は一度も目を開こうとしないまま。

ならばそのペットよりも更に心を読まれる事に抵抗の無い貴方を使えば、私の妹、こいしと言うんだけれど、あの子はもしかしたら再び第三の目を開く事ができるようになるのではないか、と思ったのよ」

 

 と言うさとりさんだが、それにしてもリスクの高すぎる行動に出たのではないか、と俺は思う。

何故なら、この地底に来てから俺は既に二体の妖怪を殺して……そう、殺しているのだ。

もし話しかけてものの数分でさとりさんが死に瀕するような不幸に会えば、一体どうするつもりだったのか。

その大切な妹さんを、一人にしてしまっても良かったのか。

怒りに似た感情が湧き上がるのに任せ、口を開こうとしてから、言わずともそれが伝わっている事に気づき、さとりさんの目を見やる。

さとりさんは、変わらず絶対零度の視線で俺を見ていた。

 

「だからこそ、よ。

私は妹の為ならば、なんでもやってみせる。

それに調べて見る限り、貴方の能力は精神的に高位な存在が相手である程、その不幸は精神的に訪れる物ばかりだったわ。

貴方に話しかけた妖怪や、貴方を私刑にした里人は、もっと肉体的に酷い目に遭うか、遭う予定よ。

あぁ、里人についてはただの推測よ、根拠も貴方に言えないような事ばかりだから気にしないで。

それに私は心を、精神を読む能力を持っている。

遠目に見るだけでも貴方が精神の真空である事は分かったけれど、その引力が私に然程向いていなかった事も分かっていたわ。

まぁそんな訳だから、勝算が無い訳では無かったのよ。

実際、少なくともこうやって貴方と話す事ぐらいはできている」

 

 さとりさんの語り口は徐々に甘い物になっていき、俺の心にするりと滑りこんでいくかのようだった。

それに身を任せ、思わずふらりと近寄ってしまいそうになるのを、俺は気力で押しとどめる。

何故だ、俺は何故さとりさんの言葉にこんなにも魅力を感じているのだ。

疑問詞を読み取ったのだろう、にやり、とさとりさんは凍りついた表情のまま笑みを浮かべた。

 

「あら、そろそろ私の案に頷いて、ついていきたくなってきた?

それは別に仕方のないことだわ。

だって、貴方が私の言葉を信じるならば、貴方の“みんなで不幸になる能力”は嘘と言う事になり、貴方は誰かを幸せにする事ができる、と言う事になるのだもの。

それも、その可否はすぐに証明される。

権兵衛さん、貴方が私の妹を救う、と言う結果によってね」

「……っ」

 

 激烈なまでに俺の心を鷲掴みにする、凄まじい言葉であった。

そう、俺はさとりさんの言葉を聞いてから、いや、もっと前から、俺の“みんなで不幸になる能力”が間違いであって欲しい、と願い続けていたのだ。

二人の妖怪の死によってそれは打ちのめされてはいたものの、なんと恥知らずな事に、その希望は消えずに残っていて。

その上、俺がさとりさんについていって行うことが、さとりさんの妹を救う行為であると言う事が、更に俺の心を揺らした。

こんな俺でも、まだ他者を救う方法がある。

それは凄まじいまでに甘い、蜜のような誘惑であった。

屈してはならない、今すぐこの場を離れてさとりさんへ行く不幸を最低限にせねばならない、と分かっていても尚、俺の両足は根を張ってしまったかのようにこの場を動けない。

 

「どうかしら、権兵衛さん。

お願いします、私の妹を救ってはくれないでしょうか」

「ぐ……っ!」

 

 頭を下げながら言うさとりさんの言葉は、俺の心を激しく掴んで離そうとしない。

誰かの為になれる、俺によって救われてくれる誰かが居る、と言うのは、それだけで激しく俺の心を揺さぶった。

思わず頷きそうになる首を、万力を込めて固定する。

いつの間にか俺は肩で息をしており、頬には脂汗が流れていた。

深く呼吸し、落ち着こうと試みるものの、一向に心臓の高鳴りは収まらない。

 

 俺は、少しの間だけ天を仰いだ。

薄暗い空の奥は岩で囲われており、それを街の灯りが薄暗く照らしている。

凹凸のある天蓋に目をやりながら、俺は思う。

俺は、他者を幸せにできるかもしれない。

俺は、他者を救う事ができるかもしれない。

だけど、それでも。

それでも、だ。

 

「俺は、協力できません」

 

 俺はさとりさんの目を見据え、言い切ってみせた。

未だに心の中は迷いばかり、少し押せば崩れてしまいそうなぐらいで、さとりさんにはそれを悟られていても、それでも俺は、言ってのけた。

虚勢であると悟られつつも、俺は全力を込めて言う。

 

「逆に、お願いします。

この地底の中で、最も人口密度が低く、重要度の低い場所とは何処でしょうか。

俺はそこに住む人妖を追い出してでも、俺のための死の砂漠を作らねばならない」

 

 自然と俺は、生きるか死ぬかで、生きる方を選択した言葉を口にしていた。

それは矢張り俺の心にも根底に生きていたいと言う欲望があったのか、それとも冷静にそう判断したのか、よく分からないが、兎に角俺は生きる事を選択していた。

それを聞いて、さとりさんの目に僅かに意外そうな色が走る。

 

「あら、貴方の心を読んでいる限り、抵抗しきれないと思っていたのだけれど……。

矢張り貴方の心は、読んでいて面白い。

ますますこいしの第三の目にとっての歩行器となる可能性が高まってきたわ。

勿論貴方の願いに対する答えはノーよ。

貴方は今ここで意識を奪ってでも、地霊殿まで連れて行く!」

 

 言って、さとりさんは地面を蹴り、空中に浮遊。

俺からしてみれば圧倒的な力で弾幕を展開、放ってきた。

隙間が狭く抜けにくいその弾幕を抜けるには精密動作が必要となるが、今の俺の魔力では空にふらふらと浮かぶ事が精一杯で、避ける事はままならない。

自然、腹に小粒が数発激突。

嘔吐しそうになるのを気力で抑え、背後へとふらふらと俺は飛んでいく。

しかしさとりさんの弾幕の方が速度で上回っており、すぐに第二波が俺へと到達。

今度は背から俺を打ちぬき、凄まじい衝撃を与えてくる。

 

「が……げほッ……」

 

 ついに空に浮く事すらもできなくなった俺は、低空から地面へと落下。

全身を擦りむきつつ地面を転がり、立ち上がろうとするものの、それすらもままならない。

仕方がないので動く両腕で地面を這っていこうとするののの、直後、俺の頭に落ちる影。

見上げると、さとりさんが絶対零度の視線で俺を見下しているのが見える。

一瞬、生きる事を諦めこの場で自決する事も考えたが、それではどちらにしろさとりさんが巻き込まれる事には違いない。

ならばせめて、自決するにしても地霊殿とやらから逃げ出し誰もいない場所でやるべきだろう。

そう思い、この場は逃げ出すのを諦め、その地霊殿についてから逃げ出す事に希望を繋ぐ事にする。

と同時、何の躊躇も無く俺へと弾幕が打ち込まれ、その衝撃によって俺は意識を失っていくのであった。

 

 

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