片翼の騎士、君と共に   作:氷桜

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少しずつ近付くにつれ、見上げる形になっていく。

二階建て……というらしい、同じ建物が縦長の構築。

見慣れない木々が道沿いに生え、或いはそれを利用した建物として成立している。

木々に囲まれているというよりも……森の中に立てられた都市、と呼んだほうが正しい気がする。

 

巨大な門と石壁で何重かに覆われ、その間に家屋や人々が密集している。

多分、最初の頃から幾度にも広げていった結果なのだろう。

あの中央こそが目的地だ、と何処か乾いた口調で二人は教えてくれた。

 

少しずつ近付き、人が並ぶ光景を横目に最も前へ。

腰から取り出した何かを示せば、入口を護る門番は敬礼をし。

後ろに乗った俺達を見ながら首を捻っているのが視界の奥に消えていく。

その後、門を潜った先。

少しだけ広がった辺りで降りることを指示された。

 

「……あの場所で降りなくてよかったんですか?」

 

騎竜に乗ったままだったのは俺達だけ。

何匹かに引かせる為なのか、木製の良く分からない大きな荷台のようなモノが並んでいたり。

或いは俺達と同じように騎竜を連れた人達はいたけれど、その誰もが降りて対応していたのに。

俺達が指示されたのはその奥。

何かしら理由でもあるのかと、歩きながらと確認する。

 

「あー……そうだな、其処から教えないとだな。 ザンカ」

「え、俺っすか!?」

 

一瞬きょとんと、そして次には理解して。

説明をザンカへと放り投げ、それを受け取るのに一瞬手間取る。

なんだか、この二人はこの二人で妙な人間関係のようにも思うのだが。

仲が良さそうで何より、ということで落ち着いておく。

 

「……まぁ良いか。 壁の内側で騎竜に乗るのは許可がいるんだよ」

 

面倒くさいなぁ、と目線を向けて。

隊長は我関せずと無視を続けて。

思いっきり溜息を吐いた後に教える内容は、やはり良く分からない規則に基づくもの。

 

「許可、ですか」

「まー、領民にも一目で分かるようにする判断基準と言い換えても良いんだけどなー」

 

要するに……アレか?

乗れるかどうかをある種の特権みたいにしている、というのと。

万が一の時に直ぐ飛び出せるようにしている……みたいな?

 

首を傾げながら聞いてみれば、分かってるじゃんと頷きが返る。

 

「門番、兵士、或いは《騎士》と《領主》。

 何かがあった時に駆り出される役割の奴等だけが認められてる特権だな」

 

指折り数えながら述べる言葉。

《魔》を狩る役割として独立しているのが後者二つとするのなら。

盗賊やら喧嘩やら、人が干渉する何かに対応するのが前者二つ、と。

 

外套で顔を隠しながら歩くミモザを護るように二人が先導し。

顔を出しながら進むからなのか……視線の大半が俺へと浴びせられる。

明らかに村民よりも多い数に戸惑いつつも、慣れてはいるのでそのまま無視して後に続く。

 

「この石畳の道を進んでいけば中央、要するに俺達の拠点に着く。

 慣れるまで時間が掛かるかもしれねーけど、迷ったら参考にしろよ?」

「道に迷ったことって無いんだけど……」

「うっそだぁ」

 

雑談交じり。

石が敷き詰められた道をただ進む。

山道とはまた違い、歩き慣れない道を延々と着いていきながら。

目線だけを左右に向け、見知らぬモノを色々と見て知っていく。

 

門の間近、白い煙が大量に上がる場所。

中程まで入ると人気が更に増え、彼方此方で声を掛ける男女の姿。

その眼の前には野菜や干し肉、或いは包み紙に覆われた何かの物品。

物々交換していた村のことを考えれば、交換所……或いは『店』とかいうやつか。

 

更に奥へと足を進め、再びに石壁を越え。

その奥へと目を向ければ、少しずつ歩く人々の服装が変わっていく。

 

俺達のようなボロボロの服ではなく。

きちんとした……或いは綺麗な、見たことのない動きやすそうな衣装。

それか金属鎧、革鎧と言った戦闘用の服装の二種類。

 

(……何の皮で出来てるんだ、あの服)

 

思わず眼を向けてしまい、睨まれそうになって慌てて顔を元に戻す。

一瞬だけ速度が落ち、歩き方が変わったのを咎めてか隊長が此方へ目を向け。

軽く頭を下げて、もう一度歩いていく。

 

「さっきの石壁までが一般民、店やら畑仕事なんかを主体とする民の住んでる場所だ。

 んでこっからは兵とか役人なんかが住んでる場所、大雑把に”旧都”と”新都”って呼ばれてる」

 

中心地から円を描くように広がっていったからなのか。

確かに、石壁を越えた今いる辺りは古臭い石壁や年季の入った木々で組まれた建物が多い。

進めば進む程に道端に生えた木が無くなっていくのが少し印象的に映った。

 

「で、アレ見えるか?」

 

そして最後。

指を向けられた先。

巨大な、それこそ見上げるような大きさの建物の中でも随一のモノ。

 

消えていった植物とは裏腹に、見上げた先には巨大な木が一本聳え立ち。

何処か、呼ばれているような錯覚さえ覚える何かを携えた。

そんな”何か”を建物の中心に据えた屋敷のような建物。

 

「……え、あの建物?」

「の手前」

 

思わずぽかん、と見上げてしまっていた事に頷きながらも。

少しだけ左側に向けられた場所には、建物同士の入口の一つが向き合った古い石壁の建物。

やはり縦長で、どうやって建てたのか二階部分が道のように繋がっているそれ。

 

「アレがさっき言っていた兵士達の本拠だ。

 ちょくちょく行くことにはなるから、場所だけは忘れんなよ」

 

なら、俺達の本拠は何処になるのか。

 

また一つの疑問を抱き、一歩分動き出すのが遅れたミモザの手を取り歩き出す。

ほぼ同時に隊長も手を伸ばそうとしていたが、呆れたように小さく溜息を吐き此方に譲られる。

その意味までは分からずとも、後を追いかけるようにして少しだけ小走りになり。

やや強く手を握り返されながらも、決して離さないと同じように握り返す。

 

目の前の木の建物、此方に向いたもう一つの入口を潜っていく。

最初に感じたのは、脳裏が落ち着くような緑の匂い。

思わず天井を見上げても木が見えるはずもないのに、潜った途端に香りが花開いた。

 

区切られていて、扉も見えず、けれど内部を満たしている。

それ自体に何かが意味があるのかな、と益体もないことを思う。

ただ、何となく。

呼ばれている、ような感覚が漂っている。

 

上方へと進む段……確か階段、とかいうそれに隣接した場所。

椅子と机のような場所に男女一人ずつが座り、此方を見ている。

 

同じような顔、同じような身長。

違うのは服の色と、其処に浮かび上がる体型の違いくらい。

 

その顔は俺達へと向き、そして眼を見開いているような驚きに溢れているように見え。

やっぱりか、と呟くような声が狭い室内に響き渡った。

 

「スイ」

「あ、はい」

 

ザンカは一足先に階段上へ。

ミモザはあいも変わらず手を離さず。

隊長に手招きされるがままに近付き、座る男女の前から紙を受け取る。

天紙……とか言うんだったか、何らかの天恵を用いて作られているらしい物体。

一度だけ見かけたことがあるそれは、何らかの契約を結ぶ際に用いられる筈のモノ。

 

「名前くらいは書けるって言ってたな? 此処に名前を書け」

「名前を?」

 

指で示された部分には確かに空白。

紙の四方に文字が記され、図形を為し。

その内側に書かれた文字を読み解けば……『入場許可証』と読み取れる。

なんですかこれ、と再びに顔を向け。

 

「此処に入る時に必要になる……まぁ、契約書みたいなもんなんだが。

 お前の場合は前後が逆転してっから念の為くれーのやつ。 だよな?」

 

は、はい。

そんな言葉が遅れて聞こえながらも、二人の目線は何故か俺達に張り付いている。

或いは、握ったままの手が理由なのだろうか。

離すつもりは……少なくとも、今は無く。

 

「分かりました。 ミモザは?」

「要らねー……筈だ。 分かるか?」

「なんて言うか~……歓迎、されてる? みたいな感覚は、ある、かなぁ?」

 

ふわふわとした答え。

取り繕える程度には落ち着いたのだと判断しながら、空いた片手に羽筆を取る。

鳥の羽根を加工した、色墨を用いて記すらしい書くための道具。

母が持っていたのは、その先部分が折れてしまった使えない道具だったと思いながら。

自分の名前を記せば、月が浮かぶ瞬間の空のような橙色を一瞬映し。

 

「え……え?」

 

その場に火の粉を撒いて、一瞬にして燃え散ってしまう。

それを見て頷いている隊長と、落ち着いたように眺めている二人。

これで良いのか、冷や汗に似たモノが背中に湧き出る。

 

「問題なし、やっぱり通るか」

「通らないわけはないでしょう、シャガ様」

 

呟いた言葉の意味は分からず。

ただ握られた手の強さが更に強く、痛みすら感じるモノへと変わり。

ミモザが抱いている感情、それ自体に疑問さえ浮かび始める。

 

「スイ、こいつらの名前は覚える必要はないが顔は覚えておけ。

 ()()()()()()()()()()

「は?」

 

理解が及ばないことがどんどん積み重なる。

飲み込むのに時間が掛かる物事ばかりが重なる、のとはまた違う。

根本自体に理解が及ばない、純粋な疑問。

 

「そういった天恵の影響なのです。スイ様」

「我等は他を見る事、それこそを望んだのです。スイ様」

「は???」

 

声色も、男女の差はあるけれど……似たモノに聞こえる。

『自分自身』を持たないような、そんな違和感。

どうしても受け入れられない。

その奥を見てしまうような、そんな違和感。

 

「スイくん」

 

くい、と片手を引かれて漸く気付いた。

多分、妙な感情を抱いたのが俺だけなのだと。

 

「……大丈夫?」

 

そんな声で、遅れて気付いた。

多分、心配されるくらいには立ち尽くしていたのだろうと。

 

不安そうな目線が――――幾つか。

俺の身体を、貫いていた。

 

 

◆◆◆

 

 

ぐ、と手を引っ張られ。

半ば強引に上へと連れ出される姿は、さっきまでと真逆だと思った。

 

「無理しないで良いんだよ~?」

 

無理はしていない、と言ったはずで。

けれど、それも何処か他人事のように感じながら動かされるようだった。

 

目線が、受付の二人から剥がれず。

漸くにミモザの方へ向いたのは、完全にその姿が隠れてからで。

声は取り繕っているけれど、怒りが隠し切れていないのは長年の付き合いで理解出来ていた。

 

昇り切った先。

先にザンカが進んだ場所は左右に別れ、その真中で佇む女性が一人。

此方に気付き、頭を下げる。

 

「それで?」

 

けれど、そんな相手に目もくれず。

先程のことを問い掛けようとした彼女の手を引く形で落ち着かせたのは、先程と更に逆。

 

「スイくん?」

「後で。 ……失礼、案内してくださる方ですか?」

 

再び重ねられた言葉に混じっていたのは戸惑い。

もう一度礼を返す女性。

首元に汗のような物が見えたのは緊張からなのか。

頭を上げ、此方ですと案内されるがままに付き従う。

 

一度ちらりと後ろを向いたが、隊長は登ってくる様子もなく。

ただ進むだけで良いのか戸惑いつつも、片手を結び直して歩いていく。

 

左、右、更に左。

くねくねと曲がる建物は、外から見ただけでは理解出来ない造りをしている。

……と言うよりも、明らかに広さが違うような気がする。

迂闊に口に出すのも不味いかと思い、無言のままで進んだ先。

 

「此処、かぁ」

 

通路を中心として左右に扉が幾つか並ぶ造りの道。

階段も大分登り、敢えて迷わせるような作りになっていると感じた先。

扉も古く、けれど重厚さを隠さない格好をした扉の前にいる。

 

立っている訳にもいかず、待っているだけという訳にもいかず。

一度二度、戸を叩いて中へと入れば。

 

「うわ~……」

 

思わず言葉が隣から漏れるような、落ち着くような色合い。

絶対に高いだろうと思わせる、一本の樹から作られただろう家具の数々。

寝台は見たこともない真っ白い布で覆われた、柔らかそうな羽根造りの寝具が乗り。

部屋の片隅には、水鏡をそのまま直角に置き換えたような鏡面が佇んでいる。

 

「うわ、うわ、うわぁ……!」

 

言語を失ったようにきょろきょろと見回す姿。

 

こういう場面だけを見れば女の子だな、と思うのが半分。

ミモザでもこういうのは憧れるんだな、と思うのが半分。

何方かと言えば野生に適応している部分が多く見え隠れしていた気がするし。

家の中で過ごすのを嫌う……訳でもないのがまぁ救いか。

 

ふらりと移動しようとする彼女から手を離そうとすれば。

途端に此方を振り向き、こほんと一度空咳をして無かったことにしようとしている。

流石に無理がある……と言って通じる状態じゃないんだろうなぁ。

 

「さて、スイくん」

「はいはい……」

 

そもそも此処は彼女の私室とかそういう扱いなんじゃないか、と思わなくもないのだが。

俺まで一緒に案内されたのは良く分からず、下手に移動も出来ない状況が完成。

不機嫌なお姫様に付き従い、招かれたのは寝台……を椅子にするように隣り合う。

 

私は怒っています、とでも言いたげな雰囲気と声。

下手に何かを隠そうとでもすれば、機嫌を悪くするのは確実。

彼女が何を聞きたいのかは言われずとも分かってはいる、が。

 

「俺自身にも良く分からないこと、ってのは理解しておいてくれると助かる。

 目を惹かれた、とかそういう甘ったるいことじゃない」

「えぇ……じゃあ何~?」

 

まず最初にその事実を否定しておく。

男だからとか女だからとか、そんな単純な理由だったらまだ良い。

目を離せない、と思い。

そして事実、強い違和感を抱いたのは天恵について語られてからなのだから。

 

「本気で良く分からないんだよなぁ」

 

人付き合い、人と接する経験が薄いからなのか。

天恵、という誰もが持ち得るモノを持てなかったからなのか。

 

あの言葉と、見られる目線自体がどうにも嫌で。

今考えれば、何かを強く弾き飛ばすような。

そんな感覚だったような気がしないでもない。

 

「でもさ、スイくん見て目を開いてなかった?」

「あー、ミモザもそう思った?」

「うん。 何で見てるのかな、とは思ったんだけど」

 

だよな、と思う部分はある程度同じ。

驚くような何かでもあったのか……ああいや、手は確かに驚くか。

ただ、それだけだと割り切ってしまって良いものなのだろうか。

 

「まだお前を見て驚くとかなら分かるんだけど」

「え~、なにそれ~?」

「いや普通驚くだろ、新しい《領主》サマだぞ?」

「その言い方嫌だなぁ」

 

結局のところ、直接問い掛けるしかないのだろうけど。

違和感とあの瞳とでどうにも苦手意識が根付いてしまったのもまた確か。

天恵を堂々と明かし、それを利用している……そんな認識もあってのことか。

悪い方向にしか進まない頭を軽く振って、思考の混乱を追い払う。

 

足をぶらりと伸ばしながら。

奇妙な居心地の悪さに包まれながら。

繰り返してしまうのは、手放しに信頼できる相手がお互いしかいないから。

 

(こんな事考えるとは……思ってもなかったからな)

 

そもそも、此処に上がるまでに武具なんかも特に取り上げられなかったし。

名前を書いた意味もその辺りにあるんだろうか、なんてどうでもいいことを思う。

 

「ね」

「うん?」

 

かちり、かちり。

何かの音が定期的に響く中で。

 

「スイくんも、この中に住むのかなぁ」

「……どうだろうな」

 

多分。

此奴が望むならそうなるんだろう、とは言わずに。

言葉を濁し――――。

 

こん、こん。

控えめに、扉を叩く音が聞こえた。

 

「スイにミモザ、今良いか?」

 

聞き慣れた声が一つ。

 

「ザンカ?」

「連れて行かないといけない場所があるんだが」

 

二人で、互いに顔を見合わせ。

そして、同時に立ち上がった。

 

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