shooting star!   作:戸村濃秋

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路地への案内人

 

 

 私たちがいつも使って来た姿見、花田さんが潜って来たバレエ教室用のような広い鏡。それに加えてここにあると考えれば、身近に三枚の鏡があることになる。

 もしこの鏡が大きければ、望遠鏡を通すことができるかもしれない。夢が広がる。大きくなる。

「よく見てみろ。商品を」

花田さんが示した机上には、数々の雑貨が並んでいた。加湿器、ハンディ扇風機、コットン、ボールペン、水筒など。確かに、見ればそれらが地球の商品であることは明白だった。どれも、大した高級品である訳でもないただの生活必需品や嗜好品ばかりだが、きっと、何も知らない土地のものはそれだけで価値がある。

 

「人間が見れば分かる。これはどう見たって地球の品だ。ダンボールの中を見たが、似たようなものが多かった。レトルト食品なども入っていたが調理する術はあるんだかないんだか。新聞なんかも入っていたが」

ここでようやく結びついた。ユージーさんの髪飾り。その形を見たとき、三日月を模したものであるのかと思った。そのときは、妖界に月など無いから別のものたろうと直感を切り捨ててしまっていた。だが、それは合っていたのだ。イヤリングは、地球から持ってきたものなのだ。ならば、貿易商は私たちよりもとっくに早くから商品を取り寄せていたことになる。たまたま、被らなかっただけで。

「んで、これが鏡だ」

 

 花田さんは壁にかけてあった鏡を手に取った。これを通して、ものがやりとりされていたのだ。ぱっと見で分かった。小さい。

 縁に美しい装飾が施された、A4サイズほどの鏡だった。落胆した。これに望遠鏡は通るはずがない。

「これが正体だ。貿易商と言っていたが、そいつは他国とじゃない。地球とこっそり貿易をしていたんだ。

貿易というより、互いに価値が分からないままの物々交換といったところか。きっと対価は金銭ではなく、また物であるはずだから。なら、こちらの星からは何を送っていたのだろうか。

「貿易商は、これを通じて取引をしていた訳ですね?」

美音蘭は、躊躇いもなく鏡に手を突っ込み、向こう側から跳ね返されたように手を出した。「硬い?」向こう側に何か壁でもあるのだろうか。ひっくり返しておいてある、だとか。

 

「人間側が輸出してるものは分かりました。では、妖精側は何を輸出してたんでしょうか?」

私が問うと、花田さんは別の場所に安置していたらしい紙を取り出した。それはメモ用紙を千切ったものと見られた。

 紙に書いてあるのは日本語。箇条書きで雑な字が並んでいる。横には補足するように絵も描いてあった。

 そこに要求されていたのは。

「武器だろうな。この部屋にも一部残っていたが、銃のような形をしたものが複数ある」

 

 武器、という物騒な響き。最近聞いたばかりだ。ここまで点と点が繋がっていくものか。まるで私の脳内で星座が出来上がっていくようだ。

「こんなメモが何枚も見つかった。逆にこちらの言語で書かれたものもあるが、白石、読めるか」

ずっと以前から上司と部下だったかのような自然な関わりに達和感を覚えたが、こうも同業者というものが私を安堵させるかがよく分かった瞬間でもあった。綱渡りでも、仲間が居れば未だ楽だ。

「ふうん……。確かに、こちらは雑多に、食品から生活雑貨まで幅広く要求してますね。単に珍しいものが手当たり次第欲しかったのかも」

「とんでもない輩だ。それにしてもこの妖精の世界、異様なまでに武器が発達しているな。様々な形があって、規制されていないからかその辺に放置されている。それでも誰も使う気配がない辺り、もう武器なんかとは無縁な世の中なんだろうな。我々人間が机を見た時に思った『大したことない』という感情も共通らしい。妖精たちにとって武器はさして重要なものではないんだろうな」

「まあ、戦争は終わったので武器は寧ろ要らないものとされていて。そもそも他国と軍縮条約結んであるので持ち過ぎてると怒られます」

 

 なら、貿易で地球に武器を渡していると言うより、武器を押し付けているような。地球側だって、さして価値があるものを送っている訳ではない。何なら、先程のレトルト食品を見ればとっくに消費期限切れだった。処分するのが面倒だから、好都合な手段を持って捨てているような。何故、そのように鏡を使ってしまうのか。私は一人で悲しくなった。

 そんな、それぞれの思惑があっても互いにとって利益がある貿易だったのだ。上手く、できてしまっている。

 

 花田さんは冷静な分析をした上で私たちの反応を見た。私も美音蘭も、先日の訪間に繋がりを感じていたため呆気にとられることはなかった。そこから事情をある程度理解したらしい。

「武器の行方を知っているか?」

「……この鏡の先は、ある青年の部屋だった、で合ってます?」

美音蘭の濁しに対して、花田さんは深く頷いた。ビンゴだ。あの部屋の中にあったダンボールの中身。それらは財星から取り寄せた品だった訳だ。

「君たちにも日吉峻冶に関する仕事は回っていた訳だな」

「ご存知でしたか……」

 

 美音蘭は、確実に他人に共有できない秘密を堂々と話せる状況に感動している様子だった。彼女もまた意外とストレスを感じていたのかもしれない。意外にも私以外に饒舌になる姿は初めてだった。それも、何か役を自らに課すことなく、素のままで話している。

「俺自身重要な仕事も回されている立場だったからな。少し前に、見たことのない形状の拳銃が出回っているという情報を手に入れて出元を探っていたんだが、それが日吉峻冶だった。その武器っていうのと、ここにあるもの。酷似している」

 やはり、そういうことか。

「私たちは、この貿易の窓口、要するに鏡を回収する役でした。先日、マンションに出向いて」

「もう既に、実行されていたとは。しかも君たちが」

花田さんは感心したように目を大きく見開いた。何だか、面映い感じがした。

 

「貿易商は日吉峻冶と取引をしていた」

「そういうことだ。偶然にもこの解に辿り着いたようだ。この世界から出られなくなったという圧倒的な不幸の中に確かな証拠を一つ見つけられたらしい」

花田さんの覚悟というものにはさすがに惚れ惚れした。この世界に来てから約二週間の時を経たからといって、普通の人間ならこう正気ではいられない。これが、裏社会を生きる人間なのだ。これくらいタフでなければならない。

 一つ、東宮さんに提供すれば大報酬間違いなしの情報を手に入れた。脳内に、怒涛の展開が訪れキャパオーバーまで近いという警報が鳴り始めた。 今、私たちは鏡を探していて、見つける流れで日吉峻治の武器の入手ルートを知ってしまった。情報過多である。

 

「それが分かって、貿易商を拘束した次第だ。既に下じゃ騒ぎになってしまっているが、誰も武力を行使して俺を止める様子がない辺り平和ボケもいいところらしいな」

「幸いもう戦争とは程遠い生活です」

花田さんは少々尖った顎に手を当て、悩む様子を見せた。

「いや、しかし先日この世界で武器が使われたらしいんだよな」

「え?」

武器が、まで考えてそれは自分たちがしでかしたことだと気付いた。後から青くなりそうな自分の顔を必死に冷静に取り繕う。

 

「え、知りませんでした。じゃあ、ここにあるような武器が?」

「や、もっと巨大なもんなんだ。何というか、望遠鏡みたいな形をしている」

「望遠鏡、ですか」

美音蘭の演技力に救われる。本当にピンと来ていない振りをするのが上手い。この技術が散々悪戯に活かされてきたのだ。

「まあ、その問題も分からない。武器がこちらで使われるのだとしても危険なのには変わりないからな」

「今の妖精たちは恐らく対応できないと思いますし」

花田さんは深く頷いた。

「俺は未だ調べたいことがある。しかし、これらのメモはかなり有力な証拠になるだろうから早く持っていきたい。君たちもまた、鏡から来たということだろう? なら、先に貿易商と証拠を持って地球に戻って欲しい」

突然の提案だった。花田さんはメモを美音聞に無理やり持たせる。これは、手柄を渡されたということか? 少し、自分たちに有利すぎる展開ではないだろうか。少々心配になる。

 

 花田さんは何も気にすることがないように私たちの目を見ていた。別に、どきりともしない、普通の目。ただ、私たちのことを幾らか信用して託してくれている様子だった。

 もし質易商を引き渡すことに成功したら、報酬は弾むだろう。圧倒的に大きな貢献になる。もし東宮さんが鏡のことを知っているなら、望遠鏡を持ち出すヒントももらえるのではないか。

 いずれにしろ可能性が広がる提案だ。これは、受けない理由がないだろう。

「そうさせて下さい。私たちもこの一件には関わりがあるので。進展に協力します」

 

 私たちは、疑ってかかった貿易商の店で思わぬ出会いと発見をしたことになった。希望も見えた。鏡は、他にもある。大小様々だが、だからこそきっと大きな鏡も存在する。

「託した。どうしようか。俺がこちらに居ることは告げなくても、いいとしよう。東宮さんの反応を見てくれ」

「何故です?」

花田さんは、苦々しい顔をした。東宮さんについて多少不利なことを話さねばならないのか、気まずそうだった。

「東宮さんは、今相当忙しいはずだ。だが、それでいてちゃんと部下のことは見ているからm俺の失踪も心配しているはず」

「なら、寧ろ早く報告すべきでは?」

率直な意見をぶつけると、花田さんはまた難しい顔をした。

 

「それは、その通りかもしれないが。それにしても、東宮さんは今、この武器の問題に手を焼いている。武器の流出が確認されたからな。そのルートから何から潰しにかかってる。そんな中で新たな問題がポンと出てきたら混乱しかねない」

「そんなに、混乱するほどお忙しいんですね……」

上司のキャパオーバーを考慮して接しているのか。有能な部下なのだろう、まず私ならそんなことは考えない。

「でも、私たちに鏡を持ち出すように言ったんですから、鏡の仕組みなどは分かっているんじゃ。なら、別の鏡で、と報告すれば多少混乱は防げる気が」

 

「……まあ、任せる。でも、東宮さんは妖精のことを恐れている。貿易商もただじゃ済まないだろうな。今俺が妖精の星に居ることも悟られない方がいいだろう。適当に、別の仕事中に貿易商が武器を捨てようとしているのを見たため捕らえたなんて嘘をついておけ。俺が帰ってから色々話す。東宮さんは、更に別件も抱えてて忙しいんだ。妖精関係であることに間違いないが」

「......はぁ、なるほど?」

東宮さんは妖精を恐れている。なるほど、武器は段違いの成力を持つ優れものである。それが地球に広まる可能性を考えたら危惧するのも当然だ。

「ともかく、了解しました花田さん」

「頼んだぞ。黒川、白石」

花田さんは私たちの背中を見送りながら、「お疲れさん。若いのに頑張るもんだな」と言った。山の中でも言われた言葉だ。流行っているのだろうか。

 

 

 まさか、一人暮らしの私のマンションまで迎えに来られるとは思っていなかった。早朝に、インターホンは鳴らさずにスマホに連絡が入り、鍵は開けておいてくれという指示をもらった。声が東宮さんのものでないことはすぐに分かった。

「既に連絡先は向こうで回されてるのね」

「だったらこっちにもくれればいいのに」

「フェアを要求するほど信用されてないでしょ、未だ」

私は、何となく理解し始めた感覚を元に言った。この世界で生きていくため、適応は重要である。

 

 一晩でも、身体を拘束された妖精が部屋に居たということは何とも気分が悪い。貿易商は「引き継いでくれるのがヴィオラで安心したよ」とほざいていたが、未来が想像できないのだろうか。きっと彼に罪の意識はなかったのだろうが、無知も罪というのは理解できる話だ。敢えて同情を口に出すことはしない。それ故に多少の罪悪感もある。

「お迎え来たよ、貿易商」

貿易商は縛られたままでじっと構えていたが、ドアを開けて入ってきた男性たちには悲鳴を上げていた。しかし、それも猿響に邪魔されて満足な声にならない。そんな異様な光景からも解放されると半ば安心したものだ。

 

「ご苦労さん、二人共。頑張ったね」

男の身柄を受けにきた三人の内一人は鶴見さんだった。そばかすが可愛らしくてやはり圧を感じさせない何かがある。それでも、形容し難い冷たさを覚えるのは何故だろうか。単に、早朝の冷気にある種絆されているのか。

「ありがとうございます!」

「偶然、こいつが処理場にメモを捨てようとしてたって聞いたけど。本当によく目ざとく見つけたものだよ」

「挙動不審だったので、声をかけたところもしかしたら武器の仕事に関わっていた人物かと思いまして」

鶴見さんは簡単に相槌を打って空中で頬杖を突いた。

 

 多少乱雑な筋書きではあるが、仕事の様子は特に監視されていないため誤魔化しは効くと、花田さんから言われている。

「鋭い観察眼だ。それで拘束して証拠も出させたんなら、お手柄だよ二人共」そこで鶴見さんは私たちの奥深くを見透かすような視線を向けてきた。今度は美音蘭もビクッと動く。「にしては不可解だね。何故、この貿易商はここに居たんだろう。聞くには、普通の貿易じゃあないんだろう? そもそも貿易商はどう見たって人じゃない。その割に言語も達者らしいが、何か知らないか?」

美音蘭は、呑まれずにそのまま言い返してみせた。

「詳しいことは、後々説明するので。任せて下さい」

すると鶴見さんは何とも満足したような顔になった。

 鶴見さんは私たちに向けて「とにかくお疲れ様」と言い会釈をすると、早々に貿易商を迎れて出て行ってしまった。

 

 すると、入れ替わるように株倉さんが部屋に入って来た。男性二人よりも株倉さん一人の方が迫力があるという事実に思わず笑ってしまいそうになった。花田さんと同じスキンヘッドなのに、こちらは裏社会感が物凄い。

「黒川、白石。車に乗れ」

「は、はい!」

私たちはそのまま株倉さんの後ろを着いて行き、マンションの前に停まっていたワンポックスカーに乗り込んだ。これから仕事の案内だろうか。それとも臨時報酬が入るのか。

 期待を膨らませながら、ミントみたいな匂いがする車内で揺られた。株倉さんが一切話しかけることがなかったため、私たちも釣られて黙ってしまった。

 午前五時台、朝日が昇り切る頃、青みがかった街が浄化されていくようだった。見慣れた道に差し掛かってようやく向かう所がスナックたまみだと気づいた。

 

「今日はスナックたまみなんですね」

「もう来たことがあるのか。なるほどな。まあ、ランダムだからな」

株倉さんは自分の質問を自己解決してまた運転を再開した。路地にも日が差してきた頃、私たちはスナックに着いた。

「それじゃ、俺はここまでだ。とにかく、お前たち。お疲れさん」

「ありがとうございます」

やけに、褒めてもらえる。長年のプロに労いの言葉をかけられることは何とも誇らしかった。意外にもこの環境は暖かい人が冷たいことを行っているのかもしれない。

「これは、報酬かな?」

美音蘭がわくわくした様子で言った。

 

 地球の危機の中でも私たちは仕事ができる。仕事で取り返す。私たちの無責任も責任も、全て私たちに委ねられている。こんな網渡りも、いい仕事なのかもしれないと思った。

まさか早朝に開けるとは思わなかったドアを引き、ドアチャイムの軽やかな金属音が鳴る。

「おはようございます」

「ご苦労」

東宮さんはそう短く告げて、立ち上がることもなく以前の席へ案内した。半地下にある店ゆえに、午前中でも灯りが点いていて時間は分かり辛い。私と美音蘭は並んでソファに座った。それにしても二人揃ってラフな恰好で来てしまった。濃いグレーのスウェットが座面の冷たさを伝える。

「話は聞いてる。先日俺が渡した仕事中に、メモを投棄しようとする貿易商、とやらを見つけたんだな」

「はい、そういう流れです」

東宮さんは深く息を吐いて、後ろに仰け反った。武器を流していた元凶が捕まったことは一つ安心材料なのだろう。東宮さんは妖精を恐れているということだ。進展したことに間違いはない。

 

 妖精の星に未だ流通する強力な武器が地球に蔓延することを防ぎたいのだろう。その点に於いては、厄介なことだけを任された警察のようにも思えた。これが裏社会の仕事、と言われればピンと来なかった。こんなに美音蘭にとって身近なところに仕事があるとは。

「一つ、これで事が収束に向かいそうだ」

「良かったです」

私は、その東宮さんの安堵に応えるように頷いた。貿易商を潜らせた鏡の話だけは伏せておかねばならないが、それを除けば問題ない。

 

「それにしても、妖精の使う武器は本物らしいな。地下で試したが、ありや危険過ぎる」

「試したんですか!?」

私も現物を見たことはないが、それはそれは物騒な、得体の知れない武器なのだろう。銃や剣のような形をしているかも分からない。望遠鏡のように実は武器で、という可能性もある。それを試す度胸があるとは。怖いもの知らずというか何というか。いや、もしかしたら、実験台に試させただけなのかもしれない。

「撃った側も反動を強く感じるもんだな。後ろに吹っ飛ばされるかと思った。妖精は多少浮くことができるからそれで衝撃を吸収するのかもな」

自身で、だとは。少し驚いた。迂闊、な訳ではないだろうが。部屋に穴が空いて宇宙空間まで一直線、とはならなくてよかった。東宮さんは持論を展開して、すぐにその流れを止めた。不思議な間が私たちを襲う。

 

 東宮さんは私たち、いや。美音蘭の方を向いて口を開いた。

「Mit dieser Kraft kann man doch nicht einfach einen Planeten zerstören.」

 

 私の中に沈黙が走った。東宮さんの言った言葉の意味が分からなかった。聞き間違いではあるまい。彼は明らかに外国の言語を話した。発音が正しいのかは知り得ないが、多少練習したらしいことは見てとれた。

 だとしても何故、今美音蘭の方を向いて話したのだ?

「Warum glauben Sie das? Warum sprechen wir plötzlich von Planetenteilen, die die Erde angreifen?」

思わず。呆気にとられた。美音蘭の口から容易く、そんな言葉が流れてきたのだから。いつ、そんな言語を習得したのだ。いや、いつということもないだろう。

 

 そういえば、原点に立ち返って思うことはあった。美音蘭は言わば異星人である。であるならば何故、今まで私が話した日本語が通じていたのか。会話をしていたのか。スヴェーヌさんも、ユージーさんも日本語を話した。私に、合わせていたから? それは恐らく妖精の技術に違いない。

 東宮さんの顔がふと険しくなった。眉間に深く皺が刻まれる。

「望遠鏡型、と聞いている。お前たち、それで惑星撃ったろ。せっかく武器の流入を抑えたと思ったら地球壊滅の危機。元も子もないじゃないか。全く、妖精は嫌いだよ」

 

 東宮さんは私たちを睨みながら手元にある何かを探った。その瞬間、テーブルの上に置いていた右手首が光った。いや、リングが、光った。

 赤い光が収まると、銀色のリングの表面に数字が浮かんで見えた。その数字は刻一刻と減っていた。カウントダウン、と分かるまでさして時間はかからなかった。

  23、59、41

 その次は目まぐるしく動いている。

 それが残り一日を指すことは見れば分かった。

血の気が引いていくのが感じられた。目の前に突きつけられた現実に、真っ暗な未来に。私は絶望で一言も発せられなかった。美音蘭も、「いつ、いつ……」とだけ呟いて頭を抱えた。

 

「……それがお前らの運命だ。妖精ヴィオラと鍋島千遥」

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