ニンジャスレイヤーAOS ラピット・ラビット・ホワイト 作:郭尭
~~これまでのあらすじ~~
オキノシマ・ウノはテンセイシャである。ゼンセで引っ込み思案で友達がほとんどいなかった彼女はイチネンホッキ!自分に自信をつけるためスポーツを始めた。その結果、ナンヤカンヤあって彼女はスゴイフィジカルを手に入れ、高校入学後ハネツキ部に入る。
その間モロモロあって彼女はこの世界がニンジャスレイヤーの世界だと気付く。アニメイシヨンしか見たことのない彼女は長生きできるのか!?
ホワイトラビット・リボーン 1
その少女の腹筋は割れていた。女子高のユニフォームキモノを脱ぎ、スポーツ下着姿となった少女は湯上りめいて火照った体を両手で仰いだ。
「ウノ=サン、今日も大活躍だったね!スゴイだったよ!」
ウノと呼ばれた少女の後ろから、別の少女が抱き着くように割れた腹筋を撫でまわす。二人は同じ学校のハネツキ部のチームメイトである。だがウノが6.3フィート(190センチ)を超える超長身であるため、遠目には親子のような体格差である。
「あ、あの……ミサキ=サン、汗が……せめて先にシャワーに……行かせて」
両目を隠すほどボリュームのあるダークブラウンの髪の下から覗けば、その目尻の垂れた困った表情がミサキと呼ばれた少女から見てなかなかカワイイだった。
「フィヒッ、ヨイデワ・ナイカ!ヨイデワ・ナグワッ!?」
ヘンタイめいて表情を崩すサヤマに別の人間のチョップが振り下ろされる。二人と同じチームメイトの、気の強そうな顔立ちのポニーテール少女である。
「ウノ=サンが困ってるでしょ?いつまでもふざけているものじゃないの」
ポニーテール少女はチョップを振り下ろした時とは違い、少しお嬢様めいた様子で胸元で腕を組む。その胸は豊満だった。
「いった~、酷いよヤカミ=サン。いつも通りウノ=サンの腹筋で良い感じになってただけなのに!」
頭を叩かれたセミロングの黒髪少女が涙目で抗議する。
「そもそもやるなと言ってるの」
悪びれない様子のミサキにヤカミと呼ばれた金髪少女は呆れた様子でため息を吐いた。そしてキタノから解放された隙に、ウノと呼ばれたは長身に似合わない機敏な動きでタオルを持ってシャワールームに逃げ込んだ。
アタバキ・ブシド・ハイスクール、ハネツキ部のダブルエース+1のいつものやり取りに、他のチームメンバーは呆れと微笑ましさを以って見守っていた。
ウノは腹筋の割れた、中々豊満な胸を有する超長身女子高生である。だがその心は男として生きた記憶がある。そのため女子高生たちの無遠慮スキンシップに心の中の青少年のなんかが危なくなりそうになったのでシャワー室まで逃げたのである。
勿論シャワー室の方が女性の裸で青少年のなんかが危ないと思うかもしれないが。ウノとて十数年の女性生活での慣れがあるし、何より仕切りで分けられているから実際安心である。
一人でシャワーを浴びながらヘイキンテキを取り戻したウノは素早くポテトジャージに着替え荷物を纏めてロッカールームを出る。チームメイトの着替えで再度心の中の青少年のなんかが危くにならないようにするためである。
「この調子なら、ウノ=サンもインタハイ出場確実かしら」
練習試合の相手であった薔薇ヤマダ女子高校の校門への道すがら、ヤカミは機嫌よさげに言った。褒められたウノは思わず頬を緩める。
「いいな~、私も試合に出たいな~」
「素直に一年トレーニング頑張りなさい。一年生でレギュラーのウノ=サンが特別なの」
ヤカミより一つ下のクラスであるミサキは同じ年のウノと比較した愚痴を吐く。だが、ミサキのハネツキも決して下手なものではなく、年相応の普通である。対して比較対象にされたウノの、高校生としては極めて高いフィジカルと恵まれ過ぎた体格から繰り出されるパワーハネツキは、インタハイ上位の成績を有するヤカミをして勝利が危ないワザマエである。
そして校門に差し掛かる頃、ミサキがこのまま遊びに行こうと二人に提案する。普段通うのと違う場所でのショッピングや買い食いなどに興味を持ったのである。
ヤカミは少し迷った。時間が遅ければ却下して帰らせたが、まだそんな時間ではない。だがそれでもこの近辺の治安が分からないのが不安だった。
ヤカミはウノをチラリと見た。それに気づいたウノは腕を挙げるとチョップを振り下ろすジェスチャーを見せる。ハネツキほど力は入れてはいないが、ウノは一応空手も学んではいる。大分拙いカラテだが、彼女のフィジカルと体格が加わりジョックや無軌道大学生のナンパを追い返した実績がある。
その様子を見てヤカミは仕方ないか、と諦めたように同意した。
そして買い食いやファッション巡りを楽しみ、最後はゲームセンター。マジックハンド系ゲームを眺めている時にヤカミの懸念は現実となった。ウノがトイレで離れたタイミングでヤンクのナンパに遭遇したのだ。
数人のヤンクが逃げられないように二人を囲んで言い寄っていた。その様子にウノは慌てて、ワタワタしながら二人に向かって駆け寄る。基本的にややコミュ障な彼女は些細なことで緊張し混乱をきたす。だが同時にそれらを一時脇に寄せて決断的な行動に出ることもあるのだ。
「ウノ=サン!」
無軌道大学生たちの背後の方から駆け寄ってくるウノの姿を見つけたミサキは、ウノが見えるように右手を挙げてキツネサインを作る。そしてそのキツネの鼻は大学生たちを指示している。
これを見てウノの中でスイッチが入った。ワタワタした走りが短距離スプリントじみた動きになる。
「お、もう一人?丁度いいじゃん、俺らも人数が多いし……」
無軌道大学生の一人がミサキの視線から、ナンパを断る際に言っていた友達がやって来たと振り返る。そしてそこで見たのは超長身で筋肉質な、女子高生性の薄い見た目の女が高速で迫って来る光景だった。
「イヤーーーッ!」「アバーーー!?」
振り向いた無軌道大学生の腹部に、ウノの決断的なマエゲリが突き刺さる。全力疾走の勢いとウェイトの乗ったキックに、無軌道大学生はロブスターめいてくの字姿勢で吹っ飛んでいった。
「なっ……ザッケンナコラ「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
唐突の事態に驚いた無軌道大学生たちは急いでナイフを取り出そうとするが、ウノの高速ドラミングめいた連続チョップが彼らの脳天に繰り返す。
アンブッシュめいた一撃からの勢いに乗って畳みかける。狙ったものではないが、環境を利用したわけではない、状況だけに依った初歩的なフーリンカザンである。だが、それでも道徳心の欠如くらいしか強みのない無軌道大学生如きなら圧倒するには、ウノの未熟なカラテと強靭なフィジカルは余りあった。
そして無軌道大学生たちを圧倒したウノは、荷物を持ったままの友人二人を米俵めいて担ぎ上げてゲームセンターから駆け出した。
「アッハハハハハ!ウノ=サン、スゴーイ!」
ウノの肩の上でミサキが燥ぐ。彼女たちに絡む無軌道大学生たちがウノに一蹴される様は、それまでかけられたストレスが一気に霧散するほどに、胸が空いた。やはり年上の男に迫られるのは大体の女子にとっては恐怖だったのだ。
これにはやがてヤカミも釣られて笑い出した。そんな中でウノだけがまだ先の喧嘩からの緊張状態から復帰できていなかった。
結局その日はそのままゲームセンターから程よく離れた場所で解散となった。各々がバス停や地下鉄で帰宅である。最後にはトラブルがあったが、全体としてはウノにとってタノシイな一日だった。ただ、家の最寄りのバス停に降り立った頃には大分日が暮れてしまっていた。
ウノはこの世界の、一般の人間が知らないことを知っている。元よりディストピアめいたネオサイタマの治安の悪さ以上の危険が存在することを。だから彼女は日々を注意深く生きていた。だが人は慣れる生き物である。それは良い方向にも悪い方向にも。
あまり帰りが遅すぎては親に心配をかける。ウノと彼女の両親との関係は良好だが、母親が中々に心配性である。これ以上遅れればお説教も追加されてしまうかもしれない。だから小道を通ってショートカット重点である。そのような道は安全性が良くないと理解していたはずなのに。
猥雑な雑居ビルの間の小道を駆けていく。この近辺は路地裏にしては治安がいい方だ。ウノがこの街で過ごしてきた十年余、何かしらの事件があったという話もないし、事件調査のマッポが訪れたとも聞いたことがなかった。
だから彼女は嘗ての慎重さを失っていた。この近辺の安全に慣れ切ってしまっていたのだ。人通りのほとんどない場所を通るなど。今はマッポーの世であり、この地はネオサイタマであるのだということを。
風が通った。銀色の風だった。緑色の風だった。次の瞬間にはコンクリートの壁に叩きつけられていた。いや、正確には縫い付けられていた。一振りのカタナが、ウノの右胸を貫通していたのだ。
「ゲボー」
刺されたのを認識したのとほぼ同時に血を吐いた。ウノは混乱してる。何がどうなって自分はこんなことになっているのか。だが混乱はそのままに、彼女は決断的に行動できる人間である。彼女は胸に突き刺さったカタナを両手で掴む。だが引き抜けなかった。既に思っていたより体に力が入らなくなっているのか、それともカタナがそれだけ強く壁に突き刺さっているのか。どちらにせよ、ウノに自力でこの場から離れることすら不可能であった。
そこには空がなかった。星さえない本当の意味の黒。光は何一つない。なのに足元から地平線まで広がる灰色の荒野を認識するのに何の弊害もなかった。ウノはいつの間にか自分が知らない空間に立っていることに気が付いた。
咄嗟にウノは自分の右胸へと目を向ける。カタナに貫かれた傷はなく、身に着けているセーラー服にも傷はない。まるで路地裏での諸々がマボロシであったかのように。
ウノは知らず知らずの内に、息が浅くなっていく。心の底から湧き出る不安と、そことは別の場所から襲ってくる根源的な恐怖を感じていた。
「生きるのだ、新たなる私よ」
初めて聞く女の声は、ウノの足元から聞こえた。彼女が目線を下げると、そこにいたのは、白雪のような毛皮と、ルビーのような眼をもった、一匹の白兎だった。
「小むす、いや、小ぞ、うん?兎も角生きるのだ」
若干困惑した様子を見せた兎は続ける。
「オヌシに許される死は、ビョウキ、フーリンカザン、そしてヌンジャのみ。他は自由だ。弱きを踏み躙り搾取するも良し、奥ゆかしく隠れ潜むも良し。如何なるアブナイからも生き残るのだ!」
兎は一方的に捲し立てると、白い毛皮が爛れる様に剥がれ落ち、血塗れの悍ましい姿となる。そして血と肉を晒した兎はウノに跳びかかった。咄嗟に右手で兎を払い落とそうとした彼女の手に噛みついたのだ。だが、痛みはなく、血も流れなかった。兎が噛みついた部分からその形か崩れ、肉の泥のようになってウノの体に溶け込んでいった。
そしてウノは理解した。自分の中に溶け込んだ存在を。自分がどのような存在となったかを。
ニンジャ。
古の半神的存在、ニンジャのソウルの憑依を受け、ウノは『人間』ではなくなった。彼女は『嘗てウノというモータルだったニンジャ』となったのだ。
そう、ウサギ・ニンジャのソウルを宿したニンジャに。
気が付けば胸に突き刺さっていたカタナは消えていた。傷跡も同様であった。だがそれがマボロシではないことを、セーラー服に付いた傷と血の跡が証明していた。
ウノの心中に浮き上がってきたのは怒りである。ニンジャとなったことによって齎された高揚感が彼女の理性を覆い隠し、感情的行動に走らせた。
立ち上がったウノは目を閉じ、常忍を超える鋭敏なニンジャ聴覚にて周囲を探る。
酔っぱらいの喧嘩、マッポビークルのサイレン、ヤクザの怒声。治安の悪いネオサイタマの半径500メートル以上のライフサウンドが彼女のニューロンを巡り、必要な音を探していく。そして風を切りながら金属音を響かせ続ける、高速で追い追われる二つの音を見つけた。
ソウルから齎されたニンジャ洞察力がこの音がニンジャ同士の戦闘であると、そして自分はこのニンジャたちに巻き込まれて殺されたのだと状況判断した。
ウノは常忍の三倍以上の脚力を以て跳び上がる。ビルの壁を蹴って跳び上がり、パルクールじみて屋上を駆けていく。二人の忍者の下に辿り着くのに然して時間はかからなかった。
「イヤーッ!」
ウノは対峙する二人のニンジャの間に着地する。突然の見知らぬ女ニンジャのエントリーに、二人のニンジャの動きが止まる。
「ドーモ、ハジメマシテ」
ウノは両手を合わせ、オジギをする。ニンジャにとって戦に臨む際、もしくは最中のアイサツとは神聖不可侵のもの。それは古事記にも記されており、ニュービーニンジャである彼女にとっても本能的に理解していることである。そして彼女は自身の名を名乗る。オキノシマ・ウノではなく、ニューロンに浮かんだニンジャとしての名、即ちニンジャネームを。
「アルミラージです」
眼前にいるのは二人のニンジャ。鈍色のニンジャ装束のニンジャと深緑のニンジャ装束のニンジャが挨拶を返す。
「ドーモ、シルバーカラスです」
「ドーモ、ブラックヘイズです」
血濡れたセーラー服といういで立ちの女ニンジャの、唐突な出現に油断なく身構える二人のニンジャ。
「答えろ。私を殺したのはどちらだ」
モータル時と比べ、少し荒くなった口調でアルミラージの問い掛けに、彼らは得心した。同時にこの偶然に感嘆した。この女ニンジャは先ほどまでのイクサに巻き込まれたモータルからのインガオホーなのである。
だが、ブラックヘイズは機転を利かせ、これをサイオーホースとした。
「君を殺したのはそちらのニンジャだ」
そう言ってシルバーカラスの手に握られたカタナを指差した。
「あ?」
咄嗟の一言にシルバーカラスは反応が遅れた。彼のカタナを意識に収めたアルミラージの発する怒気に殺意が混ざる。彼女を貫いたカタナに違いなかったからだ。
「そう、私自身のアダウチをさせてもらうぞ」
言葉と共に、アルミラージの体に大きな変化が現れる。ボリュームのある髪から色が引いて白くなり、その奥に潜む瞳が紅く染まっていく。耳が長く伸び頭頂側に移動する。全身の筋肉が一回り近くパンプアップし、更に白い毛が生え体を覆い、脚部が獣の後ろ脚のような形に変わる。
その姿は人の形をした筋肉質な白兎のそれであり、特に脚部の変形により身長はほぼ7フィートの巨体となっていた。彼女のニンジャソウルが齎したヘンゲヨーカイ・ジツである。
「イヤーーーッ!」
アルミラージは跳んだ。鈍色の装束のニンジャ、シルバーカラスに向かい、ニンジャソウルからの衝動のままに。
パリオリンピックが複数の意味で熱い今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。
色々あって暫く書き物がうまくいかず、たまに書いたりは書かなかったりが続き、それが外に出せる感じに纏まらず、と納得できるクオリティのが完成しない感じになっていました。
そんな中で、取り合えず何かしか形にして、何も完成しないストレスから脱却して、というリハビリ的な感じで手を出したのが、普通の文章と大分遠い位置にあるニンジャスレイヤーでした。
まあ、ぶんしょうが特殊すぎてリハビリになってないような気がするし、一応形にはなったのでリハビリになったような気にもなって、フシギ!
それでは今回はこの辺で、また次回、お会いしましょう。