ニンジャスレイヤーAOS ラピット・ラビット・ホワイト 作:郭尭
本作には原作世界線には存在しない、内容が違うニンジャ真実が存在します。
ご了承クダサイネ!
トコロザワ・ピラーの一室、タタミを敷き詰められたトレーニンググラウンド。アルミラージは一人、多数のクローンヤクザの死体に囲まれながら、部屋の中央で佇んでいる。
纏っているのはピーチバレーユニフォームじみた露出の多い黒の防刃繊維製ニンジャ装束、露出している腹筋は割れていた。加えてタスキスタイルに掛けたポーチ付きミリタリーベルト。その上から強化プラスチック製プロテクター付きの2サイズ上のライダージャケット。両足は踵を露出するタイプの高伸縮サポーター。伝統的ニンジャ装束から程遠い出で立ちはヘンゲヨーカイ・ジツによる体格の変化を慮っての物であり、脚サポーターもヘンゲ時には逆脚部分の逆関節に当たる部分を保護することになる。
そんな現代ストリートファッション的ニンジャ装束にあって、メンポはバイオ黒檀製の、ウサギ面の下半分を模った物となっている。黒い漆の地に朱で描かれた閉じた口という、伝統的なデザインとなっていた。
与えられたばかりのメンポの着け心地を確かめ、これもまたソウカイヤ武器庫から選んだスナイパーライフルをカカシじみたポーズで担いで待機していた。
そして部屋を俯瞰できる位置にあるバルコニーにラオモト・カンが、数人のクローンヤクザとバンディットを供に観覧していた。
「今日はアルミラージ=サンのお披露目か、随分と速いではないか」
最終試験が始まる前、ラオモトはバンディットに声を掛けた。
ソウカイヤに新たに所属したニンジャは、トレーニングの完了の際、命を懸けた最終試験が行われる。その時、都合が付くならばラオモトは直接観察することになっているのだ。
「ハイ、ソウルの格が高いのか、それとも学生アスリートだった影響か、単純にニンジャ身体能力は最初から私を上回っておりました。単なるトレーニングだけで得られるものもすぐに吸収してしまったので、後は実践で学ばせるべきかと」
アルミラージのカラテトレーニングは、正式に命令されたわけではないが、バンディットが多少インストラクションを授ける機会があった。故に、彼女のニンジャ理解力とニンジャ身体能力の前では、実戦なしでの成長は早々に頭打ちになっていると見て取って提言したのである。
「ムハハハハ!成る程、言うだけあるではないか!次はライオンを放てい!」
一分を待たずクローンヤクザが全滅させたアルミラージのワザマエに上機嫌となったラオモトの言葉に合わせ、トレーニンググラウンドのショウジ戸が開かれる。現れたのはメキシコライオンである。
凶暴且つ強靭なメキシコライオンはアルミラージを前に牙を剥いて威嚇する。アルミラージはそれを意に介さず、自然体である。凶暴な動物でもニンジャの危険さは分かるのか、メキシコライオンは一歩一歩ゆっくりとにじり寄っていく。対してアルミラージは視線を向けるのみである。
「AAAARGH!」
一足跳びの距離まで詰めたメキシコライオンは恐ろしい様相でアルミラージに跳びかかる。アルミラージは相手の動きに合わせてスナイパーライフルを抱えたまま小さくジャンプして顔面の中央にキック、カウンターが決まる!メキシコライオンの顔は穴と言う穴から血を吹き出し、首の骨を粉砕して体に半ば埋まる。メキシコライオンは無残に絶命した!
トコロザワ・ピラーにはソウカイニンジャの為に用意された設備が幾つもある。その内一つ、一般ニンジャ用のラウンジにアルミラージの姿があった。
この場の使用が認められたと言うことは、彼女が正式にソウカイヤのニンジャとして認められ、任務を受けられる立場となったという訳である。そんな彼女は小さなテーブルに着いて、白いエプロンを着た接客クローンヤクザから出されたアンココーヒーのカップを睨みつけながら考え込んでいた。
オキノシマ・ウノはテンセイシャであり、ネオサイタマのものとは違う常識や倫理を持って生まれてきた。それがネオサイタマでの十年余の生活で、それまでの良識はソレとしてネオサイタマの現実に即した妥協もできるようになった。だが人格の根底はやはりテンセイシャとしてのソレであった。
だがウサギ・ニンジャのソウルによる憑依を受け、人格の根底の方に自覚し得る大きな変異が起きた。
入院している間、何度か両親にも友人たちにも会った。大切に想っていた相手だった。いや、大切であるのは今でも変わらない。変わってしまったのは大切の質である。血の繋がった肉親、友情を交えた友人、対等な人間同士だからこその感情。それが今は人間が犬猫に向けるような、愛玩動物に向けるであろうものになっていた。
死ねば泣きもしよう、奪われれば怒りもしよう。それでもそこに込められた感情はきっとモータルだった頃のそれとは最早違うのだ。
加えて先ほど二十余体のクローンヤクザを鏖殺し、メキシコライオンを惨殺した。テンセイ以前も含めて、その手で直接命を奪う行為を初めて行った。なのに微塵も罪悪感や悔恨も浮かばなかった。それが、テンセイ以前の常識に照らし合わせて、酷く気持ち悪いものに感じられた。
そして今、彼女はアンココーヒーを注文した。友人たちとチャ・カフェに寄った際に良く注文した飲み物だ。コーヒーの苦みとアンコの甘みが調和して、ウノの好物だった物である。だが今はこのケオスの如き暗黒液体が視界に入っただけで憎しみにも似た苛立ちを感じ、とても飲む気になれずにいた。
「ムズカシイ顔をしているな。悩み事か?」
そんなアルミラージに気さくに声を掛ける男がいた。声に方向に向いたアルミラージは思わず動揺した。眼前に反り返ったシャチホコを被った半裸という、一般テンセイシャには凄まじいインパクトの姿のニンジャが立っていたのだ。
「ドーモ、ハジメマシテ、俺はガーゴイルだ」
インパクトの強い姿には似合わない涼やかな青年を思わせる声でアイサツした。
「ドーモ、ハジメマシテ、アルミラージです」
アルミラージもアイサツを返す。相手は彼女の知識に存在しないニンジャである。どう接するのが正解か分からず、取り合えず敬語で接することにした。少なくともソウカイニンジャとして自分よりコウハイである可能性は少ないだろうから。
「で、何を悩んでいる?聞いていいなら話を聞くぞ?」
ガーゴイルは、インパクトの強いコワイ外観からは想像し辛い気さくさで相談に乗ろうとする。
だが、アルミラージは言葉に詰まり、わたわたとするしかできない。結局の所彼女の本質はウノのそれのままだったのである。対してガーゴイルは言葉を急かすでもなく、ただ黙って待っている。
「こんな所で何をしているのです、ガーゴイル=サン」
そこに横から声を掛ける若者がいた。空挺服を思わせるニンジャ装束に猛禽を思わせる金属メンポのニンジャだった。
「ああ、ドーモ、ヘルカイト=サン。コウハイが何か悩んでいるようだったからな」
ソウカイヤの若手でも、実力者として名を挙げつつあるニンジャである。
「それは貴方が関わるようなことではないでしょう。そもそもこんな場所に来るような立場ですか」
口調は敬語だが、ヘルカイトの声色には苛立ちが含まれていた。
「分かった分かった、そう怒るな。ああ、君、機会が有れば相談に乗るからな」
ヘルカイトの剣幕に押されるようにガーゴイルは退散していった。その後ろ姿を睨みつけていたヘルカイトは、今度は振り返りアルミラージに向き直る。
「俺の名はヘルカイトだ、貴様は何という?」
「アッハイ、アルミラージです」
ヘルカイトのアトモスフィアに押され、アルミラージは名乗る。
「ほう、聞いた名だ。資質のあるニュービーだと。だがそれがこんな軟弱そうな貌を見せるとはな」
ヘルカイトは侮蔑の感情を隠さない。ニンジャ化間もないニュービーの悩みなど大凡知れている。そのような些末なことに囚われているようで、ラオモト・カンの役に立てようか。ヘルカイトは非常に強い上昇志向と同時にラオモトへの忠誠心も同等に併せ持っていた。
「貴様の悩みなど、どうせモータルだった頃の感性かしがらみのことだろう。良いか、お前は既にソウカイニンジャだということを自覚しろ!ラオモト=サンの役に立つことだけを考えるのだ。さすればラオモト=サンは全てを与えてくださる。金も、ドラッグも、オイランも。しかるべき働きさえ示せば何もかもだ!」
そう言うと、ヘルカイトはアルミラージの反応を待たず、さっさとその場を離れてしまった。
「……考えようによっては、アドバイスなのかな?」
ヘルカイトの言葉も、過ぎた事を気にするな、今の仕事をガンバレということだと解釈できなくない。そう思った方が健康的だと、アルミラージは考えることにした。
彼女もこの場を離れることにした。結局アンココーヒーは一口も飲まなかった。
アルミラージに初仕事が振られたのはそれから四日後の事だった。
ギターケースを背負ったアルミラージは、支給されたIRC端末で呼び出され、ソウカイヤのセーフハウスの一つに赴いた。
部屋は必要最低限の家具しかなく、些かサップーケイに見えた。黒いチャブ・テーブルとその左右に置かれた低いソファー。そして壁にロッカーやタンスが置かれているくらいである。そして部屋には彼女の他に、二人のニンジャがそれぞれソファーを使っていた。
うち一人は、アルミラージは自分より年下に見える小柄なニンジャだった。メンポを着けておらず、どこかの学校の制服と、その上に透明な強化PVCのサイバージャケットを纏っている。ピンクに染めた髪をツインテールに纏めたこのニンジャはアルミラージ以上におどおどした様子で何かを話そうとしたが、結局何も言えずにスカートから覗く膝の上に乗せたノート型UNIXに視線を落とす。
その様子にアルミラージは相手にカワイイと一緒にある種のシンパシーを感じた。初対面の相手に、自分から声を掛けることは、彼女も不得手であるからだ。
もう一人は黒い帽子にメンポ代わりの黒いマスク。生意気な勝気さを感じさせる鋭い目つき、容貌からはアルミラージと同世代と思える若さが見える。黒いジャケットや有名ブランドのレアものスニーカーなどを身に着けた、良く見るストリートの若者めいた格好のニンジャである。
この場にいるニンジャ三人、アルミラージ自身含めて、一般人にはストリートに表れても(アルミラージの下半身が些か露出過多以外)違和感のない若者たちとしか映らないだろう。
ヘッドホンでロックを聴いていた青年ニンジャはアルミラージに気が付くと、ヘッドホンを外す。
「ストリートオイランを呼んだ覚えはないぜ?」
アルミラージの服装の露出を揶揄した言葉だろう。挑発的な態度で青年ニンジャは声を掛けた。軽く緊張して自分から声を掛けることが出来なかったアルミラージは、声を掛けられた幸いにアイサツする。
「ドーモ、アルミラージです」
「……ドーモ、キツネビです」
無表情なアルミラージのアイサツに、目を細めながらキツネビが返す。アルミラージの側からすれば単純に考える余裕がなかっただけなのだが、キツネビからすれば眉一つ動かさない彼女の態度は面白くない。
「あ、あの、ボクはマインドシーカーです」
流れに便乗してマインドシーカーもアイサツをする。アルミラージはそちらに目を向ける。マインドシーカーは(身長差故の)見下ろすような視線にビクッとする。カワイイ!
「テメェ、よそ見とはオレをナメてんのか?」
アルミラージの態度に苛立つキツネビ。ニンジャとなる以前はストリートギャングだったキツネビはナメられることを極端に厭う。一方でアルミラージはテンセイ前から眼前のヤンクじみたヤカラとは交わることなく生きてきたこともあり、どう返せば良いか分からず、ニューロン内がグルグルと回るだけである。そしてその割には行動はフリーズに近く、視線がキツネビに向けられるだけだった。そして身長差故、6フィート近いキツネビを見下す形となる。無表情に視線だけで。それが更にキツネビのセイシンテキを逆撫でするのだ。
「テメェ、俺のカトンで燃やし尽くしてやろうか」
キツネビが拳を握りこみ、ゆらりと深紅の火が宿る。一触即発(実際は一方通行)の様子にカラテに乏しいマインドシーカーはアワアワとパニック。同様にアルミラージもニューロン内はパニック。今にも彼女の体が決断的にキックを放つために動こうとしたその時である!アルミラージはセーフルームの出入り口の扉の方に目を向けた。
「何をしている、コワッパ共」
いつの間にか部屋に現れていたのはバンディットだった。「ソウカイ・シックスゲイツの六人」の一人であり、斥候のスペシャリスト、確かなカラテを有するツワモノである。
「ビズの前に要らぬ問題を起こすな。良いな?」
バンディットから只ならぬアトモスフィアが発せられる。アルミラージはこれ幸いと、目上であるバンディットに向き直る。キツネビは、アルミラージの自分を意識もしていないかのような態度に舌打ちしながらも、バンディットに意識を向ける。
そして四人アイサツを交わし、バンディットが任務内容を伝える。
「今回、お前たちにはソウカイヤをヌケニンした裏切り者を始末してもらう」
ソウカイヤには数多くのニンジャが所属している。その多くはラオモト・カンの邪悪なカリスマに魅せられた者や圧倒的な力に屈服した者たち、インセンティブに傅いた者たちもいる。
今回、ミッションの標的となったニンジャはソウカイヤに於いて漸くサンシタ扱いから抜け出しつつあるニンジャだった。彼は我慢強さと奥ゆかしさに欠けたニンジャだった。簡単なミッションを幾つか熟し、己の力に自信を持つとすぐにミッションの重要性の低さとインセンティブが満足な額でないことに不満を感じ始めたのである。
そしてそのニンジャはイディオットと呼ぶべき決断を下してしまう。それまで着実に積み上げていった信用を投げ捨て、より高額なインセンティブを求めてヌケニンしたのである。
「ヌケニンしたイディオットには現在別のニンジャが監視についている。そしてお前たち三人で下劣なイディオットの命をケジメするのだ。これはお前たちのテストでもあるのだ、心して挑むのだ」
このミッションのために三人、アルミラージ含めて、全員がソウカイヤでのミッションは初めてである。最低限仕上がったと認められたニンジャたちであるが、実践で使い物になるかは別の話である。よって最初の任務は戦闘の可能性の高い任務が宛がわれることが多い。
相手がサンシタとはいえ、ある程度場数を踏んだニンジャであることから適当な時期の三人が組まされる。そしてこれは三人に伝えられないことではあるが、三人が失敗した場合の(三人の命も含めた)後始末のためにバンディットが控えることになる。
「任せて下さいよ!俺のカトンで裏切り者は生かしちゃおきません!」
キツネビが恐れを知らぬかのような態度で告げる。それがワザマエ相応の自信か、イディオット故の無知かはこれから結果が示すだろう。
全ての説明を終え、任務に向かうためセーフルームを後にする三人の背を見送るバンディット。思い返すのはアルミラージである。彼が部屋に入った際、アルミラージだけがステルス・ジツ解除前に自分に気付いた。恐らく超忍的なニンジャ聴力に由来するものだと思うが、アンブッシュに対して強力な耐性となる。
もし彼女が今回のミッションを熟して見せたなら、正式にメンティーとするべく、ラオモト=サンに申し出るのもいいかも知れない。バンディットはそう考えながら、自身も部屋を出た。
そのニンジャは斥候や偵察を得意とするニンジャだった。カラテに乏しく、戦闘を得意とするニンジャとは言えない。だがそれでも場数を踏んだベテランのニンジャだった。
「……き、貴様は何者だ、何故俺を……俺がソウカイヤのニンジャだと知って『BLAM!』グワーッ!」
雑居ビルの屋上、彼は壁に凭れ掛かって眼前の敵を睨みつけていた。両膝を撃ち抜かれ、立つことも最早叶わない。それでも心折れず、強がりながらスリケンを投げようとした。だが相手はニンジャの肩口に銃弾を撃ち込んだ。二丁拳銃による銃撃である。当たればという但し書きが入るが、チャカ・ガンの威力でニンジャを殺すことは十分に可能である。
「……ニンジャは杖を振り海を割った。ニンジャはモータルの奴隷を引き連れ海を渡った……」
ニンジャを撃った男は、まるで相手のことなど知らぬとばかりに訳の分からぬ言葉を並べ立てる。
「狂人の類か!死ね『BLAM!』グワーッ!」
ニンジャは撃たれた側とは反対の手でスリケンを投げようとするが、そちらの腕も撃たれてしまう。
徹底的に反撃の手段を奪われたニンジャの額に銃口が付きつけられる。
「オ、オノレー!ソウカイヤと敵対してたただで済むと思うな!必ず仲間たちがアダウチをして『BLAM!』アバーッ!」
ニンジャの額に銃弾が撃ち込まれ、彼の言葉は遮断される。男はニンジャを殺したのだ。ニンジャ殺しの男はそのままニンジャの死体に背を向ける。
『サヨナラ!』
男の背後でニンジャが爆発四散する。男はそれを気にも留めずそのまま離れていく。後に残ったのは爆発の熱で焼かれたアスファルトだけだった。
夜が涼しくなってきた今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。
今回は漸くアルミラージ=サンの目線から物語を描写することが出来ました。前話まではどうしても他のキャラ目線の方が書き易いシーンが続いたので。今後もアルミラージ=サンのキャラクターを伝える機会がもっと増やせるといいかなと。
今回登場した新キャラたちは基本的にAOSのプレロールドキャラからの流用です。本作世界線に合わせて設定を加えたりもしますが基本的に同じ存在です。
それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。