赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】 作:ピグリツィア
朧げな意識の中、何処かから声が聞こえてくる。
「それで?これが例の本か?」
「ええ、これを使えば呼べるはずよ…多分だけどね」
「都市に居た時も自分と戦ったが、あの状態でL社のEGOを使えるとなると…かなり骨が折れそうだな」
「幾ら図書館の中と雖も存在し得ない虚像を写せるか疑わしいがな」
「その時はその時よ、接待の準備をしてちょうだい」
「流石に気が引けるなぁ。調律者と赤い霧がいても相手の手札が多いのがな…」
幾つかの聞き覚えのある声と知らない声、それに応えようと手を伸ばす…
謎の圧迫感と共に目覚める。私は何をしていた?確か…そうだ、襲撃を受けたんだ、頭からの襲撃。脱走した幻想体を叩きのめして、爪を二人倒した後は…たしかボロ屑のようにやられた後、隙を見せた調律者を叩き切った…はずだ。
正直その時点で死にかけと言うか、9割死んでた気がするから自信がないが。少なくとも施設は崩壊して、仲間は…あの状況だと全滅だろうな。私はまたしても大切なもの、守りたかったものを取りこぼした訳だ。
あぁクソ、ここはどこだ?まるで生き埋めにされたかのような…いや、実際に生き埋めにされている?少し全身に力を入れてみると僅かに壁の割れる音が聞こえる。丁度正面、壁面が薄いみたいだ。ぶち破る。
ここは…屋内、それも洞窟か?壁面が整えられているから少なくとも人の手が入っている洞穴に見える。薄暗い通路の奥に何かの気配を感じる。人間ではなさそうだ。幻想体か?もしかしたら頭から送られてきた刺客か何かかもしれないな。どちらにせよ私のやる事は変わらないか。
無意識の内に握っていた武器を担いで、通路の奥の何かに向かって突撃する。私にはそれしかできない。愚行と理解はしているが、湧き上がる怒りを抑えることができない。
牛頭の化け物の首目掛けて武器を振るうと、予想よりも簡単に首を落とせた。EGOを発現させるまでもないな、見かけ倒しの雑魚だったか。しかし研究所ではこんな幻想体は見たことがない。外郭の変な施設にでも飛ばされたか?
怒りのまま刎ね飛ばした牛頭を踏み潰す。更に2つの気配が近づいてくるのを感じる。足元のこれよりは骨のある奴のようだ。
「あ!誰かがいる…あー、もしかしたら人間じゃないかも」
「ティオナ!そっちはどう…って、ちょっとヤバそうね。少なくとも雰囲気は完全に
私の前に出てきたのは露出の高い衣装に身を包んだ、似た容姿の褐色の女が二人…明らかに只者ではない。フィクサーだとしたら一級だろうな。もしかしたら特色かもしれないが、こんな容姿の奴は聞いたことがないな。
「あのー、そこのすっごい物騒な武器を持った赤髪のおねーさん?あなたの名前と所属ファミリアを教えて欲しいなーって思うんだけど、おしえてくれる?」
「逃げたりするんじゃないわよ、恨むなら自分のその格好、主に怪しさ満点の武器を恨みなさいよね」
自らが持っている武器に視線を送る。肉塊に大きな目玉が幾つかくっつけたような見た目の大剣だ。なるほど確かに怪しいな。
どうやら相手は私のことを知らないらしい。自慢ではないが私はかなりの有名人である自覚がある。この武器『ミミクリー』と共に武勲を上げて特色にまで至ったのだ。この武器を見て一目で『赤い霧』と判らないならば少なくともフィクサーではなさそうだ。
「お前たちは何者だ?頭からの刺客か?それとも通りすがりの一般人か?」
私のことを知らないならば少なくとも頭からの刺客ではないだろうし、この雰囲気を出せる人間が一般人であるはずもないが一応聞いてみる。
「頭っていうのはよく判らないけれど一般人では…ないよね?」
「遠征帰りのロキファミリアの一線級が一般人な訳ないでしょ、何言い淀んでるの」
「だって一応ふつうの冒険者だし、ダンジョン内だったらもしかしたら一般人枠かなってふと思っちゃって」
「何こんな所で哲学的問題を出してるのよ。私はロキファミリアのティオネよ。こっちは妹のティオナ、わかったらさっさとこっちの質問に答えなさい」
こいつらはふざけているのか?いや、妹の方が少し馬鹿なだけかもしれない。ロキファミリアか…判らないな、そんな組織があった記憶はない。口ぶりから察するにかなり有名な組織のつもりのようだが…聞いた事はない、少なくとも都市の星ではないはずだ。自意識過剰なだけか?もしかしたら外郭の組織かもしれない。
「悪いがあんたらの事は全く知らないな。ここは裏路地か?それとも外郭か?」
「ふざけないで、ロキファミリアを知らない奴なんて今時オラリオ外を探しても少ないわ。ましてやここはダンジョンの中なんだから私たちを知らないなんてあり得ないことよ」
「私もそう思うけど…嘘を言ってるようには見えないよ?もしかして本気で言ってるんじゃない?」
ダンジョン…遺跡か?外郭のどこかという可能性もあるが、さっきの牛頭みたいな化物が堂々と歩いている場所となると、都市といえども限られてくる筈だ…そうだ、さっきの牛頭はどうした?確かに首を刎ねて潰したはずだが、胴体がない。石ころが一個転がっているだけだ。何かしらの方法で消えたか?
「あーもう、さっさと質問に答えなさい!あんたの名前とファミリア!良い加減にしないとボコボコにするわよ!」
「私もそろそろ教えて欲しいかなー。団長たちも待ってるだろうし、そろそろミノタウロスも倒しきってるはずだしね」
名前とファミリアか…名前はともかくファミリアの方はとりあえず特色としての呼び名を出してみるか?
「私はカーリー、『赤い霧』だ」
私の名前を聞いた途端二人は怪訝そうな顔をする。予想はしていたが、特色を名乗ってこのリアクションか。
「カーリー…いや、赤い霧って何よ、二つ名?」
「えっと、ほんとのほんとにカーリーって名前なの?まぁこっちだとそこまで有名じゃないかもしれないけど…いやでも普通神と同じ名前って付けないよね?」
どうやら名前を聞いても判らないらしい。赤い霧を名乗ってこの反応…そもそも知らない?法螺を吹くなと馬鹿にするでもなく、恐れるでもなく純粋な疑問か。少なくとも巣や裏路地ではなさそうだ。
それよりもカーリーの名前の方に反応しているな。知り合いと同じ名前だったりしたのか?クソ、判らないことが多すぎる…
「ここは外郭のどこだ?私はさっさと元の所に戻らなきゃいけないんだ。素直に話してくれると助かるんだがな」
「外郭って何のことよ。ここはダンジョンの上層よ、たしか7階層のはず」
「あ、そんなに上がってきてたっけ?他の冒険者いなくてよかった〜、さすがにこんな上層で狩りしてる人がミノタウロスにあったら逃げることもできなさそうだもんね」
ミノタウロス…さっきの牛頭の幻想体か?そこまで強くなかったが…いや、特色視点で見るのは酷か。そして、発言から察するにこいつらはここら一帯で腕の立つ方なんだろう。こいつらみたいなのがゴロゴロ居るとなると、いざ交戦する時に面倒な事になっていただろうからそれが分かっただけ収穫だな。
「ダンジョンってのは特異点か?それとも黒い森のような場所か?」
「ああもう、さっきから要領を得ないわね…もういいわ、とりあえず一旦ボコって…」
このまま話していても埒が明かないと判断したのだろう。姉の方が敵意をむき出しにして襲い掛からんとしてくる。私としてもそっちの方が手っ取り早くて良いが、2対1か。かなり手こずりそうだ。
「ティオネ、僕が話を聞くから落ち着いて欲しいな」
「はい団長!わかりました!」
姉妹の背後から飛び込んできた声によって姉の方の敵意が霧散する。奥から出てきたのは…何やら小柄な、子供か?いや、それは見た目だけか。目の前の二人より強いな。団長という事はこいつらの元締めか…かなり厄介な事になって来たな。
「それで、何があったんだい?僕も今来た所でね、良ければ説明して欲しいんだけど」
「えっとねぇ、ミノタウロスを追いかけてたらそこの人が倒してくれたんだけど、ちょっと…ちょっと?怪しいから話を聞いてたんだ!」
「ありがとうティオナ、じゃあ、僕はロキファミリア団長『勇者』のフィン・ディムナだ。君の名前を教えてくれるかい?」
「カーリー、『赤い霧』だ」
「ふむ、赤い霧…悪いね、聞き覚えがないや。所属ファミリアとレベルを教えてくれないかい?」
さて、どうしたものか。そろそろ此処を動きたい。かなり時間を食ってしまったし調律者のことも気がかりだ。ファミリアも何かわからないしレベルなんて新しい単語も出てきた。もう力ずくで突破するか?分は悪いが本気で戦えば勝ち目がない訳ではないはずだ。
「訳がわからない、うんざりだって感じの表情だね。それと焦っている。もしかして仲間の危機かな?いや、それにしては必死さが無いね。怒りと諦めの表情か。そして僕たちのことを知らない…ちょっとわからないな、情報が少なすぎる」
内心を見透かしてるぞと言わんばかりの発言だ。動揺させようとしている?いや、私のやる事は変わらない。さっさとここを切り抜けて研究所に戻るだけだ。
「ちょっと落ち着いて欲しいかな。君の邪魔をする気はないけど色々と認識の相違がある事は君もわかっているはずだ。君に暴れられると僕たちは君を取り押さえなくてはならないし、かなり手こずりそうだからできれば話し合いで解決したいんだ。君は…武器の見た目はともかく、君自体の雰囲気や対応は少なくとも
力ずくで押し通ろうとしたのを察したのか、フィンが宥めるように声を掛けてくる。認識の相違…確かにお互いにわからない事が多すぎる。情報を引き出す意味でもいくつか質問を投げてみるか。
「『12協会』『五本指』『翼』のどれかに所属しているか?」
「どれも知らないね、聞いたこともない。僕たちは『ロキファミリア』の所属だ」
フィクサー事務所か、『ファミリア』なんて単語から中指の一組織か何かだと思ったんだが、そうじゃ無いどころか聞いたこともないか…
「ここは都市の『巣』か『裏路地』か?それとも『遺跡』か『外郭』のどっかしらか?」
「ここは『迷宮都市オラリオ』の『ダンジョン』の中だね。どうやら期待してた答えではなかったようだけど」
どれも聞いたことのない土地の名前だ。もしや外郭より外なんて事もあるか?だとしたら…かなり面倒だな。
「…紫の涙、イオリという名前の女に会ったり聞き覚えは?刀を持った長身の女だ」
「それも知らない。こっちからもいくつか質問するけど良いかな?」
「…ああ」
アテが外れたな。いや『紫の涙』かどこかしらの『特異点』に巻き込まれた可能性はまだ消えてないか。そして相手は本当に何も知らなそうだ。フィンとやらの表情はあまり信頼できないがあのティオナとやらの表情はわかりやすい。顔面に疑問符がでかでかと描いてある。
「一応聞き直すけど君は『ファミリア』かそれ以外のどこかの組織に所属しているかな?神からの恩恵は受けている?」
「今は外郭の組織の一員だが、大元はハナ協会から特色指定を受けた『フィクサー』だ。神と呼ばれるものは幾つか知っているが恩恵については何も知らないな」
「その神の名前は?」
「しらん、興味がなかったからな。ただどれも『幻想体』を神と呼んで崇めているだけだったはずだ」
フィンの後ろに居る姉妹が眉を顰める。ファミリア、神。その二つはどうやらここら辺でも大きな意味を持つ物らしい。個人的な経験談だと『神』なんて呼ばれるものは大抵、碌でもない物ばかりなんだがここでは違うみたいだな。
「…うん、何もわからないって事がわかったよ。君は何か心当たりがあるようだけれど…その表情を見るに手段に幾つか心当たりがあるだけで、それ以外は何もわからずここに来たっぽいね。少なくとも故意ではないようだ」
「ああ、さっき名前を出した紫の涙が似たような事を出来たはずだけどここに飛ばした理由がわからない。後は『特異点』の事故に巻き込まれたか『幻想体』の能力かだが…正直それを含めたら何でもありだな」
一応W社の特異点が空間移動だったはずだが…あれは自由に使える物なのか?幻想体ならあり得なくはないが…そこまで行くと候補が多すぎる。現状どうやってここに来たかなんて全くわからないから考えるだけ無駄だな。
「うーん、少なくとも君がここの周辺のこと…いや、恐らくはこの世界の事かな?それを全く知らないと思われるから出来れば僕たちについてきて欲しい。ひとまず僕たちのファミリアで保護しようと考えているんだけど…」
「拘束、の間違いじゃないか?」
私の挑発にも取れる発言で双子の片割れ、ティオネの方が敵意を向けてきたがフィンがそれを手で制する。
万が一異世界なんて場所だとしても、出会って数分の相手にほいほい付いていくほど間抜けじゃない。幸い逃げるだけならどうにか出来そうだしな。
「確かにそう捉えられても無理はないね。でも君の方も行く宛は無いんだろう?それにダンジョンにおいては僕達に地の利が有るし、なんなら更に戦力を増やして追い詰める事も出来る」
「逃げても無駄だと?」
「そう捉えてもらって構わないが…悪いようにするつもりは無い。武器も持ったままでいいし、今後どうするかは話し合いを挟んでからでも遅くないだろう?」
正直、調律者のことを考えると知った事かと突っぱねてさっさと元の場所に戻りたいが…もし異世界、若しくは外郭の外だとしたら、ただの傭兵でしかない私一人でどうにかできる問題じゃないだろう。
手がかりもないし幸い目の前の奴らは…友好的に見える。過去の経験を踏まえると、自分の人を見る目が優れてるとは言えないが、選択肢もない。現地民の協力を得られるなら受けておいた方が良さそうか?
「団長!流石にこんなに怪しいのをうちのファミリアに連れて行くのは良くないと思うんですけど…ガネーシャあたりに押し付け、じゃなくて保護させたら良いんじゃないですか?」
「恩恵もなしにミノタウロスを倒した彼女から目を離したくないんだティオネ、わかってくれるね?」
「わかりました団長!団長がそう考えるなら私は問題ありません!」
「あたしも団長がそう決めたならそれで良いんだけど…」
ティオネの手のひら返しには何も言うまい、しかしティオナが言葉を詰まらせているな。まあ不審者を身内の近くに置きたくない気持ちはわかる。私だって研究所の近くに怪しい人間がいたら手っ取り早く
「なによティオナ、団長の判断になんか文句あるっての?」
「いや、武器はどうするのかなって。流石に剥き出しのまま持ち歩かせるのはアレだし、鞘もなさそうじゃない?」
どうやら不審者云々ではなく武器の問題のようだ。幾つもの目玉がくっついた肉の塊のような大剣…まぁ確かに少しどころではなく個性的な外観なのは否めない。
「あー…それはそうね。見ただけでやばいっていうか…レベル低い冒険者が見たらかなり面倒な事になりそうな雰囲気すら出してるものね…」
「その武器を何かしらの方法で仕舞う事は…出来なさそうだね。ティオネ、一回戻ってこの武器が包めそうな布と…ガレスとリヴェリアも呼んできてもらえるかい?一先ずみんなにはラウルの指示で…一度18階層まで撤退してもらうように言ってくれ」
「はい!すぐに帰ってきます!」
フィンの命令を受けたティオネが目にも止まらぬ速さで通路を爆走していった、踏み込んだ地面が大きく抉れているな。これ程の力があるとは思っていなかった、何かしらの強化施術か?1対1ならともかく、2対1となるとなかなか厳しい戦いになりそうだ。
「団長〜あたしカーリーと話してて良い?」
「うん、大丈夫だよ。カーリーさえ構わなければティオナの話し相手になってくれないかな?」
「はあ…そうだな、私も色々と聞きたい事があるから構わない」
「やったー!まずはやっぱりその武器について…」
何故こんな事になったのか、誰がこんな事をしたのか、これからどうすれば良いのか、何もわからない。とりあえずはさっさと元の世界に戻る方法を探すとしよう。
プロジェクトムーン作品ってよくわからない専門用語ばっかり!そんなあなたをプロムン沼に沈める…もとい世界観に没入してもらうために専門用語をふんわりゆるっと解説していくよ!
質問は随時受付中!知りたい事があったら感想欄に…は規約違反に引っかかりそうだからメッセージ頼むぜ!ネタが尽きた頃に説明すると思うよ!
Q.そもそも都市ってどんな所やねん
A.暗黒期も真っ青のディストピア
それぞれA〜Zの頭文字を持つ26の超巨大企業、通称『翼』が統治する『巣』(Z社のみ巣がない可能性がある。まだ確定じゃ無いけど。)
巣の中に存在する、有り体に言えば『スラム街』である『裏路地』
だいたいこの二つの要素を全部ひっくるめて纏めたものが『都市』だ!
その外側は人外魔境、都市のゴミ箱!『オラリオ』ができる前の世界と同等かそれ以上に酷い『外郭』が広がっているぞ!都市にそぐわない化け物やらトンデモ技術が好き勝手に捨てられているらしい!
そんな場所だから都市の監視の目も届かないぞ!思う存分堂々と後ろめたい事をやっちゃおう!
裏路地じゃ人の命はたんぽぽの綿毛よりも軽いぞ!だからみんな翼の保護を受けるために頑張って巣に入ろうとしているんだね!巣には巣の苦痛があるとも知らずにね!