赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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新人冒険者カーリー

 騒乱のフィリア祭の翌日、ロキから呼び出しを受けたのでロキの部屋へ向かう。

 ノックして部屋の中に入ればサングラスをかけたロキが机に膝を付き、口元のあたりで手を組んでいた。

 

「来たか…さて、カーリーさんや。良いニュースと悪いニュースがあるんやけど…スマン、良いニュースから教えるわ」

「良いけど…それってどっちを先に聞くかって質問する奴じゃないのか?」

 

 都市でも定番の流れではある。冗談めかせる程度の余裕がある時にしかやらないジョークだな。

 

「色々ややこしくてなぁ…カーリーの持ってた武器、ミミクリーな。あれの鞘を作る目処が立ったわ」

「そうか。それで悪いニュースは?」

「…昨日さぁ、色々あったやん?アイズでも素手だと苦戦するような敵がいっぱい出てきたりな」

「そうだな、あれは面倒な敵だった」

 

 少しだけ言葉に詰まっているのが気になるな。それにしても昨日の敵は面倒な奴だった…劣化版『何もない』だったからな。特定の攻撃が効かないというのはそれだけで脅威になる。

 

「そん時さぁ、カーリーも無茶苦茶頑張ってたやろ?レフィーヤに傷ひとつ無かったのもカーリーが守りきったからやし」

「ああそうだな。それで悪いニュースってのは何なんだ?勿体振らずに教えてくれ」

 

 あまり勿体つける物でもないだろうにロキは迂遠な物言いだ。個人的にははっきりと言って欲しい所だ

 

「あの時ってな、町の大通りのど真ん中で戦ったやんか。ってなると避難した人間も見てたし、他の冒険者もあの戦いを見てたんよ」

「そうなるな……待て、嫌な予感がしてきた」

 

 思い返してみれば新種のモンスターを倒して少し落ち着いた頃に、多くの視線が向けられているのを感じた。そしてこれは悪いニュースだ…想定以上に面倒な事が起きる予感しかない。

 

「話が拡がってギルドに呼び出されてま~す」

「くそったれ…」

 

 ほれみろ、碌な事にならない…不可抗力で戦ったとはいえこれで罰則があったら目も当てられないぉ。ただでさえ今の私の状態はどう言い繕っても『タダ飯喰らいのぷーたろー』なんだ。そんな状態でこれ以上の厄介事を持ち込んでみろ。申し訳なさで旅に出るしかなくなる。

 

「特に数がいたとは言ってもアイズががっつり拘束されてたのもなぁ。レベル5が力ずくで抜け出せない力があるってことやし、そんな奴の攻撃受けきっとったらまあ目立つわな、それをやった奴が無名やったら尚更な」

 

 アイズやティオネ達のレベルは5。都市で例えれば1級、それもその巣で1、2を争う大手事務所のフィクサーが複数人で苦戦するような敵と交戦している中に顔も知らない奴がいれば確かに気にはなる。いかにもハナみたいな組織から調査を受けそうな立場だな。

 

「…事情は理解した。それで私はどうすれば良い?」

「今日の予定はウチとガレスと一緒にギルドに行って冒険者登録、その後ヘファイストスファミリアに向かうで」

「了解だ。冒険者以外がモンスターと交戦した事については罰則とかは無いのか?」

 

 冒険者がダンジョンに潜れば罰則を受けるとは聞いた事があるが、それ以外の法律はよく知らない。私には精々『殺しはいけません』とか『盗みはいけません』みたいな知識しかない。

 

「実はここだけの話なんやけどな、冒険者じゃない人間がモンスターと交戦しては行けません~なんて規則はないんや。ダンジョンに入ったらアカンってだけでな。そもそもダンジョンの外でモンスターと戦う事態になったらマジでヤバい状況やからな」

「規則の穴って事か」

 

 オラリオは外周を高い壁で囲っている都市だ。外からモンスターの襲撃が来る事はないし、ダンジョンから出てくるにはギルドの管理する入り口を通る必要がある。つまりオラリオの街中で戦闘する可能性は万に一つもあってはならない筈だったのか。

 

「せや、やから罰則は無し。なんならそれを追加することも無いやろうな、事態が事態やし。実際の所今回の冒険者登録も強制じゃなかったりするんやけど、どうせいつかは登録したいと考えとったし突っぱねる意味もないやろ?レベルに関してはこの際ウチがなんとか言いくるめといたる。あんまし情報は出したかないけどこの際ギルドのトップとも話を付けてくるわ」

「ここもロキに任せるしかないか…」

「せやせや、任せときい。そんじゃガレスの所行くで。これ持ってくれ」

 

 ロキに渡された大きな木箱…ミミクリーの入った箱だな。それを持ってロキの部屋を出てガレスの部屋まで向かう。

 

「ガレスー!準備は出来とるかー?」

「おうロキ、すでに準備はできておるぞ。カーリー、新種のモンスターと交戦したと聞いたが調子はどうじゃ」

「問題はない、肌が少し赤くなっていた程度だ。それも寝て起きたら治っていたしな」

 

 一体目のモンスターからの攻撃はEGO発現せずに受けたから跡がついていた、まあそれ以上の事はなかったけどな。そう考えるとあのモンスターの警戒するべき所は打撃耐性と手数だけだろう。

 

「まったく、最近は遠征でトラブルが起きたりカーリーを拾ったり。少し落ち着いたかと思えばフィリア祭でモンスター脱走、それも新種のモンスターもじゃろ?慌ただしいのう」

「そういえば深層でも新種のモンスターが出て撤退したんだよな、なにか関係があったりするんじゃないのか?」

「ふむ…調べてみないと判らんが無関係とも言い切れないかもな。まあフィンやロキが調べているじゃろうしそっちに任せとけばいい」

 

この短期間で新種のモンスター2体にフィリア祭の事故、それに私だ…裏で何があっても不思議じゃいな。頭や翼みたいな特異点絡みじゃなければいいけど…

 

「そういえば昨日の事故はロキの方で心当たりがあるって言ってたよな。あれはどうなったんだ?」

「…でした…」

「ロキ?」

「何の成果も!得られませんでしたァ!」

 

 ロキが頭を下げながら叫ぶ。あれだけ自信満々に、キメ顔までしながら「心当たりはある」なんて言った手前成果がないんじゃこうもなるか。

 

「正確には『新種のモンスター』についての成果は無かったって所やな。それ以外は…スマン、訳あって口外できん…ホンマすまん…」

 

 成果がなかった以上の落ち込みようだ。これは何かやらかしたな…別に致命的な失敗じゃなきゃ私から何も言う気はないけど…

 

「ロキ…何やらかしたんじゃ」

「スマン、マジで言えん…今後ファミリアの問題になるような問題ではない筈やけど、これに関しては…ウチのミスでした。ウチのやんちゃ、そしてそれによって招かれたこの全ての状況…結局、この結果にたどり着いて初めて、トールの「もう少し落ち着け」の言葉が正しかったことを悟るだなんて…」

「天界でのやらかしか」

 

 ガレスのつぶやきでロキが天界でのツケを今払わされている事に気づいた。トリックスターともあろう人が過去の因縁でこうやって返り討ちに遭っているとなれば…血涙を流している現状が彼女の心情をこれ以上なく表しているだろう。

 

「まあ問題になったらその時考えればいいだろ」

「そうじゃそうじゃ、そんくらいの心持ちで構えてりゃいいんじゃ」

「ガレス…カーリー…!」

 

 今からどうにかできることでもなさそうだし、ロキファミリアに被害がないようなら尚更だ。それに万が一何かあったとしてもフィンならどうにかしてくれるだろう。

 

「ウチはええ家族を持ったなぁ〜!おーいおいおい…」

 

 わざとらしく声を上げて泣くロキを無視してギルドへの道を歩く。

 

「お待たせいたしました、ロキファミリアの…」

「あー御託はええわ。今回の件についてはウチがウラノスと話すんでロイマン呼んでもらえるか?あ、カーリーは冒険者登録頼むわ、ガレスはそれ手伝ってやってくれ」

「あ!?ろ、ロキ様!?勝手に動いてもらっては困ります!?」

 

 ロキはそれだけ言うとずかずかと『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉の先へと入っていく。係員の人間はそれを追っていってしまった。

 

「行くぞカーリー、あっちは勝手にやらせておけ」 

「それが良いか。じゃあ冒険者登録とやらをしにいくか」

 

 残された私たちはロキを放置して適当な空いている窓口に寄る。そうすればエルフの女が対応してくれた。

 

「今日はいかがなさいまし…が、ガレス・ランドロック氏!?そちらの方は…」

「おう、今日はこいつの冒険者登録に来た」

「カーリーだ」

 

 用事はガレスが話したので簡潔に名前だけを伝える。

 

「は、はい…ではこちらの用紙に記入をお願いします」

 

 差し出された紙に自分の名前を記入したところで、一度それを消す。思いっきり都市の言語で書いていた。共通文字共通文字…

 

「あの、今のは…」

「あー多分こやつの故郷の文字じゃ。気にせんでやってくれ」

「手癖だ、悪いな…もしかして新しい紙に書かないといけないか?」

「出来ればそうしていただけると…」

 

 新しい紙を渡されたのでそっちに書き直していく。名前、所属ファミリア、レベルに年齢…共通文字は書き慣れないな。

 

「あの、ガレスさん。彼女って昨日の…」

「ノーコメントじゃ、質問はロキを通せ」

「書けたぞ」

 

 必要な事項を書き終えた紙をギルド職員に渡す。相手はそれをざっと見てから何かを記入してから顔を上げた。

 

「えっと、一応聞きますけどレベル1なんですよね?」

「そうだな」

「とてもそうは見えませんけど…じゃあアドバイザー等の支援はどうしますか?」

「要らんな、こっちでどうにかする」

 

 そもそもアドバイザーが必要な強さではない、と言うのは置いておいてもロキファミリアなら自前で教育できるだろう。

 

「ではこれで手続きは終了です、お疲れ様でした」

「わかった。ガレス、次は?」

「よし、次はへファイストスファミリアじゃな」

 

 ヘファイストスファミリアにはミミクリーを預けて、椿に武器の進捗を聞きに行くんだったな。ロキは…放置していても用事が終われば勝手に戻ってくるだろう。

 私たちは寄り道せずにまっすぐヘファイストスファミリアへと向かう。道中で事件もないし、至って平和だな。そう時間もかからずに目的地に着いた。

 

「おう、そこの若いの。神ヘファイストスは居るか?」

「あん?誰だ…ガレス・ランドロック!?ちょ、ちょっと待っててくれ!」

 

 ガレスがそこらで見かけた適当な団員に声をかけると、ガレスに気付いた団員は慌ててどこかへと去っていく。おそらくヘファイストスの元だろう。

 しばらく待つとドタドタと騒がしい足音と共に眼帯をつけた女…ヘファイストスではなく椿の方がやってきた。

 

「おうおうおう!待っていたぞガレスにカーリー!もしやその箱に入っているのは?」

「ミミクリーだ、ヘファイストスのところまで案内してもらえるか?」

「任せておけ!ガレスはどうしたんだ?何かあったか…」

「儂の武器の整備を頼んどったろう、終わっているなら受け取りたい」

「終わっておる終わっておる!後で見てもらおうか!」

 

 椿の先導でヘファイストスの執務室へと向かう。他の団員の視線が気になるけど…ガレスや椿と一緒にいたら目立つか。

 

「椿、私の武器の方はどうだ?」

「おお、もう殆ど完成しているぞ。後は実際に握ってもらって微調整をするだけだ」

 

 それなら近いうちにダンジョンへと稼ぎに行けるだろう。ようやくヒモ生活から脱出できると言う事だ。

 椿は扉をノックして大声で部屋の主を呼ぶ。

 

「主神殿!カーリー達が来たぞ!」

「入って良いわよ」

 

 ヘファイストスが言い切る前に椿が扉を開ける。その様子を見た部屋の主は…ため息を吐くだけだ。

 

「よく来てくれたわね…ロキは?」

「ギルドじゃ、昨日色々あっての」

「モンスターが脱走した件かしら?」

「その他にも色々とな…しばらくすれば来るじゃろう」

 

 ガレスとヘファイストスの会話を聞きながら、私はミミクリーの入った箱を床に置けば、すぐさま椿が飛びついてくる。

 

「こ、これが例の…!開けてみても良いか!?」

「ヘファイストスに聞いてくれ」

「箱だけなら開けても良いわよ。それ以上はここだと無理ね」

 

 返事を聞くや否や椿は丁寧に箱の蓋を開けて、中にあるミミクリーの包まれた布の塊を取り出す。

 

「これは…封印越しでもわかる、随分と物騒な武器だな。ここまで厳重に封印されているのも納得だ」

「相変わらず物騒じゃのお…」

 

 ミミクリーは…眠っていると言う表現が一番近いのだろう。特有の威圧感を感じず、今の状態では振っても大した威力はなさそうだ。

 

「それで、どうやって鞘を作るんだ?」

「そこは神の力よ…とは言っても本当の神の力と言う訳じゃなくて、とある神の性質を利用した力を使うだけなんだけどね」

 

 神の力は使えば天界へと強制送還されると聞く。つまりそうならない程度に抑えたものを使うという事なんだろう…多分だけどな。

 

「私の予想では相応に効果はあるはずよ。ロキにも協力してもらうけど…今はいないしそれは後でいいわ」

「どれくらい掛かりそうだ?」

「椿にも少し手伝ってもらうから…かなり掛かるわね。椿の手はしばらく空かないだろうから」

「そうだなぁ。不壊属性の武器を数本打たねばならないから暫くは忙しくなるな」

 

 すぐに使えるようになる訳ではないか…それでも作る目処が立っただけ進展していると考えよう。

 

「他に聞きたい事はない?無いならもう行っていいわよ」

「儂は特に無い」

「私も無いな」

「ならば武器を渡そう、前の鍛冶場に来い!では失礼するぞ主神殿!」

 

 椿が踵を返して部屋を出ていくのに続く。次に向かうのは椿の工房か…椿工房…都市にもありそうな名前だな。

 そう時間はかからずに椿の工房へ着く。やっぱり鍛冶場と言うだけあって熱いな、炉に火が入っていないが熱気は残っている。

 

「ほれガレス、これがお前の武器だ。カーリーのはこっちだな」

「ほう…これは良い武器じゃないか。ありがとう椿」

 

 椿が工房の奥から取り出したのは、飾り気の無い大剣だが…その切れ味は都市でもそこそこの値段になる程度には良い物だ。これなら昨日の植物型程度なら余裕で切り伏せられるだろう。

 

「一応言っておくが、その武器はそこまで良い代物ではない。もちろん手を抜いた訳ではないが、素材的な限界はどうしてもある。一応下層のモンスターとはやりあえるが、深層は…カーリーの腕でも多少は梃子摺る程度だと考えてくれ」

「わかった、肝に銘じておこう」

 

 私の評価とは裏腹に椿の評価は低い。どれだけ腕の良い鍛冶でも素材に都合がつかなければどうしようもないのは事実か。これ以上の武器を見る為にも早急に金を稼ぎたい所だ。

 警告に関しては…すぐに深層へ行く事はないとは思うが、もし行けそうだと思っても控えるようにはしなきゃならなそうだ。流石に三日四日で使い潰す訳にもいかないだろう。

 

「お前程の腕ならもっと良い武器を持った方がいい。金の都合がついたら私に教えろ、余裕があれば打とう」

「随分と評価してくれるな?」

「一端の鍛冶師ならばその武器の使い手の腕も見て測れる物だ、もちろん手前もな!」

 

 武器を調整しながら胸を張って答える椿に、少しだけ気になる疑問が生まれた。

 

「それじゃあ私は具体的にどの程度の評価なんだ?」

「…あまり言いたくないな」

 

 随分と暗い顔で答える椿にそれ以上踏み込もうとも思えなかった。都市の人間だしどんな評価をされても良かったんだけどな。

 

「まあそれならそれで良い。ガレス、そっちはどうだ?」

「文句なしの出来じゃな、流石はヘファイストスファミリアの団長じゃ」

「そうだろうそうだろう!」

 

 さっきの表情が嘘のように再び胸を張る椿。鍛治にはこれ以上なく自信があるんだろうな。

 

「さて、他に聞きたい事とかはあるか?」

「椿は忙しくなるんだろ?なら長居するわけにもいかないな」

「そうじゃのう、儂もフィン達に問題がなかったと報告せねばならんからそろそろ帰るか」

 

 私と違って大口の仕事がある椿の仕事の邪魔をしてはいけないだろう。リヴェリアともダンジョン探索について話し合わなきゃいけないしさっさと帰るか。

 


 

 ガレスとカーリーが出て行った工房の中、椿は唯一人胸中の疑念を吐き出す。

 

「随分と取り繕うのが上手いな…武器に怒りを込める人間はそう珍しくないんだがな」

 

 椿はカーリーが自分の武器を握った一瞬、喜びと怒りに握る手を強めたのを見逃していなかった。

 

「暗黒期に見なかった人間だしアマゾネスでもない、それなのにカーリーの手は明らかに人を斬り慣れている。奴が人斬りを好むような人間にはとても見えんし、そんな奴をロキやフィンがみすみす内に入れることもないと思うが…ミミクリーといい気になる事ばかりだな。一体何者なんだか…手前が考える事ではないか」

 

 湧き出る疑念を振り払い、そうして己の仕事に取り掛かろうと二歩歩いた所で声を荒げる。

 

「ああ!カーリーに武器の銘を伝え損ねた!」




〜なぜなに!プロムン教室~

今日はお休みです


仕事が忙しいので更新もお休みです。再来週には更新できると…良いなぁ…
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