赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】 作:ピグリツィア
特に目的もなく新品の大剣を弄る。異世界の武器は興味深いけど…正直に言えば特に目立った機能もないし、素材以外に目新しい所もない、至って普通の大剣だ。早く実戦で振って手に慣らさないとな。
「カーリー!入って良い~?」
「ティオナか、今開ける…アイズも居たのか、どうしたんだ?」
ドアをノックする音と共に飛び込んできたティオナの声。ドアを開ければティオナの横にアイズも立っていた。
「カーリー、武器完成したってガレスから聞いたよ!みーせて!」
「いいぞ、ほら」
そこそこの頻度で武器を壊していると思われるティオナでも流石に触るだけで壊したりはしないはずだ。武器を渡せば興味深そうにあちこちを触りまくる。アイズも興味深そうに剣を眺めている。
「カーリーはこの剣を使ったの?」
「まだだな、近い内に試し斬りしたい」
試し切りにはダンジョンが一番良いだろう。オラリオには切っても最悪感の欠片も湧かないような悪人や、
「お〜、これがカーリーの武器かぁ。出来は良いけど…言っちゃ悪いけど安物って感じだね?」
「資金の都合で素材は安物らしいからな。椿にもさっさと買い替えておけと言われたくらいだ」
べたべたと私の剣を弄り回していたティオナは、満足したのか剣をアイズに渡してこちらへ振り向く。
「ねえねえ!アイズとダンジョン行くからカーリーも来ない?」
ダンジョン探索、この世界の、と言うよりはこのファミリアの本業だ。私としても興味はあるから行ってみたいけど…まだリヴェリアのダンジョン講習を済ませていない。もし
「リヴェリアの許可があれば構わないけど、アイズはいいのか?」
「うん、一緒に行こう」
ティオナやアイズも一緒に来てくれるなら道に迷ったりすることもないだろう。他のトラブルも対応できるだろうし一緒に行けるならそれが良い。
「それじゃあ他にも誰か誘おっかな〜!まずティオネでしょ?あとレフィーヤも誘おうかな〜」
「お金稼ぎが目的だからサポーターも欲しいかな?」
サポーター、わかりやすく言えば荷物持ちだ。それ以外にはモンスターから魔石を摘出したり、遠距離武器で支援をしたりもする。ダンジョン探索の中でも中層以降の探索をする際には欠かせない存在だ。
「ところでどれくらい潜るんだ?」
「一週間くらいにしようかなーって考えてるよ、今からフィンにダンジョン行くって伝えに行くんだ〜」
一週間か…一応ダンジョン探索は初めてだし、私にとってはそのくらいが丁度良いかもな。
「私もリヴェリアやガレスに作った借りを返したいから相応に稼がないとな」
「そういえば武器代はガレスが出したんだっけ」
「しばらくは酒もお預けらしい」
そう考えるとかなり申し訳ない事をした気もする。よく考えれば椿はこのオラリオでも五指に入るらしい職人だ。そんな職人に直接武器の制作を依頼したとすると、いくら素材が安物でも相応の値段はかかるだろう。
そうこう話している内にフィンの執務室の前まで来ていた。余裕がありそうならフィンからアドバイスでも貰ってみようか。
「フィンー、入るよー?あ、リヴェリアもいる!」
「なんだお前達、トラブルか?」
「随分と大所帯だね、何かあったのかい?」
今も仕事をしていたのであろうフィンと、その横に立っているリヴェリアがこちらへと振り向く。もし仕事の邪魔をしたとなれば申し訳ないな。
「私たち、ダンジョンに潜ろうと思ってて、カーリーも連れていっていいか聞きにきた!」
「ふうん…リヴェリアはどう思う?」
フィンとしては私がダンジョンに潜るのは吝かでもなさそうだけど、どちらにせよ決定権は
「そうだな…メンバーは?」
「私とアイズは確定!あとはティオネとレフィーヤも誘おうかな〜って考えてる!」
戦力としては十分だろう、指揮ができる人間は…レフィーヤ以外は単独で行動しても問題なさそうだから多分どうにかなるだろう…いや、折角だ。人数を揃えると言う意味でもフィンを誘ってみるか?
「フィン達はどうだ?忙しいなら無理強いはしないけどな」
「あ!良いね!フィンも来てくれればティオネも確実に来てくれるし!」
そういえばティオネはフィンに入れ込んでるんだったか。それなら確かにフィンが参加してくれればティオネもついてくる可能性は高いな。
「そうだね、僕もそろそろ潜ろうかと考えていたから一緒に行こうかな。リヴェリアもどうだい?」
「ふむ…カーリーも同行する予定なら私も一緒に行こう」
フィンとリヴェリアも参加するらしい。これならどんなトラブルも余裕を持って解決できるだろう。
「いいのか?仕事で忙しいから断られるかと思ってたんだけどな」
「ちょうど区切りもいいし、あまり机に座ってばかりだと腕も鈍るからね。それにカーリーがダンジョンでどう動くか見てみたいって理由も大きいかな」
フィン直々に私の動きを見てくれるらしい。この世界の戦闘スタイルの違いとかを知りたいしこれはありがたいな。
「リヴェリアは「勉強が終わるまでは潜るな」とは言わないんだな?」
「実力に疑いようが無いのは既にわかっている。それなら机に向かっているよりも現地で学んだほうが早いだろう?それにこのメンバーなら万が一も無いだろうしな」
リヴェリアが想定以上に機転が効くな…いや、軽くダンジョンの勉強をした今なら機転の効かない人間が生き延びれないのは知っていたが。
「私の時と扱いが違う…」
「アイズ、お前あの時の自分とカーリーを比べても同じ事が言えるのか?私はその人間に見合った教育を施しているだけだ」
二桁に満たない子供と今の私を比べるのはちょっと勘弁してほしい。これでもそこそこ経験を積んだ一端のフィクサーだったんだからな。
「じゃあティオネとレフィーヤも誘って来る!」
「ああ、カーリーはこっちに来てくれ。せっかくだし勉強の成果を見せてもらおうか」
私のダンジョンに対する知識の確認をするんだろう、それくらいは想定内だ。メンバー集めについて行けないのは残念だけど、これもやらなくちゃいけない作業ではある。
「という事らしい。残りのメンバーは二人で誘ってきてくれ」
「わかった!」
リヴェリアが部屋を出ていくのに続く、行き先はリヴェリアの部屋のようだ。
「一応試験用の問題は作ってあったんだ、そこまで難しくないから折角だしやってもらおうと思ってな」
リヴェリアから渡された紙を見る。特に難しい事は書いていない、ダンジョン探索の基礎とも言える問題ばかりみたいだ。
「これが終わったら中層から下層のマップとモンスターの確認だな」
「必要な事だから文句はないけど、こう勉強続きだと少しうんざりしてくるな」
ロキファミリアにきてからこの方勉強続きだな、暇さえあれば本と向き合ってるぞ。
「やはりカーリーでもそうなるか…勉強量はもっと少なくした方が良いか?」
「小さな知識でも無いと死ぬような環境だった私と違って、この世界のダンジョン探索は安定してるんだろ?ランクアップは1年以上かかるらしいし若い子はもっとゆっくり知識をつけてけばいいと思うけどな」
私が実戦派というのもあるだろうけど、ダンジョン探索みたいな荒事は基本的に『習うより慣れよ』だ。こんな平和な世界で冒険者になるような人間が勉強好きとも思えないし、アイズが逃げたのも納得だな。
「ふむ…教育というのは難しいな」
「そのセリフ、完全に子供の教育方針で悩む母親だな」
リヴェリアが背中をかなり強めに殴ってきた。しかし反論がないという事は、リヴェリアも
試験は文句なしの満点だ。ダンジョン中層から下層についての資料に目を通しながら他のメンバーを待つ。
「ティオナに呼ばれてきてみれば…随分と豪華なメンバーねえ」
「あ、足を引っ張らないように頑張ります!よろしくお願いします!」
言われてみれば確かに豪華なメンバーだ。ロキファミリアの中でもトップクラスの上澄を集めたパーティー…都市の星でも落としにいくのか?
「今のところはレベル6が2人にレベル5が3人、レベル3が1人に…レベル1の私だな。お荷物にならなければいいんだけど…おい、お前らなんだその目は」
部屋の中にいる全員からなんとも言えない視線を向けられる。強いて言うなら…バカを見る目か?
「いや、嘘は言ってないんでしょうけど…とんだ詐欺よね」
「私知ってる!これ叙述トリックって奴だ!」
「これお荷物になるとしたら私ですよね!?だって、フィリア祭の時とか実際にそうでしたもん!」
「私と戦って勝てるレベル1はカーリー以外に存在しない…なんならレベル2にも3にも存在しないと思う」
私のちょっとしたお茶目な冗談を本気にしないでほしい。この世界でも異例だという事くらい私も十全に理解している。
「自分を卑下するなと言おうと思ったんだが…嘘は言ってないからな。何よりもカーリーが自身の力量を正しく把握しているであろう所が質悪い」
「カーリーがダンジョン初心者なのは事実なんだ、ここは先達として導いてあげようじゃないか」
「リヴェリアもフィンも今のが私のちょっとした冗談だって解ってるだろ?それとも揶揄っているのか?」
こんなにああだこうだ言われるならつまらない冗談なんて言うんじゃなかった。もうちょっと軽い反応をしてくれる程度で良かったんだけどな…
「冗談でも、よ。頭ではレベル1のダンジョン初心者だってわかっているけど…もやっとするわねぇ!」
「おまえのようなレベル1がいるか!ってなるよねぇ」
ぐうの音も出ない正論で滅多打ちにしないでくれ。それくらいこの世界のことを勉強した今なら痛いほどわかっている。
「とりあえずはこのメンバーでいいかな?」
「前衛は十二分、後衛も私とレフィーヤがいれば問題ないだろう」
メンバーを考えれば人数的にも個々の練度的にもよほどのことがない限りは大きな怪我もなく探索を終えられるだろう。
「それじゃあ準備をしなきゃ!カーリーにも色々教えてあげるから一緒に行こ!」
「そうだな、必要な消耗品も実物を見ておきたい」
ポーションとマナポーションの違いとかだな。こればかりは実物を見ておくに越した事はないだろう。
「ここが『ディアンケヒト・ファミリア』の治療院!ここでポーションとかを買うんだ!アミッドいる〜?」
「はい、いますよティオナさん」
光玉と薬草のエンブレムを掲げた白一色の建物に入る、病院としての機能も兼ね備えているからか薬品臭が強いな。
「ハイポーションちょうだい!一番良いのを沢山!」
「フィン達の分も買うから…この紙に書いてあるのをくれ」
「分かりました、少々お待ちください」
アミッドが背後の棚から手際よくポーションを取り出していくのを眺める。ポーションの種類は色によって判別できるらしいけど…エリクサーは見当たらないな。高級品だから裏に仕舞ってあるのかもしれない。
「この量を買うとなると…長期のダンジョン探索へ行かれるのですか?」
「うん、ティオネとレフィーヤに、フィンとリヴェリアも一緒だよ!30階層までは行くと思うから何か欲しいものがあれば取ってくるよ!」
「では白樹の葉を数枚お願いできますか?…それと、そちらの方は?」
アミッドが私の方を見る、そういえば自己紹介してなかったな。いや、所詮は一人の客にすぎないから必要ないと思っていたけど、聞かれたなら名乗っておこう。
「カーリー、ロキファミリアの新人だ」
「…つかぬ事を伺いますが、そのメンバーとカーリーさんは一緒にダンジョンへと行かれるのですか?」
「ああ、そうだな」
私の返答が気に入らなかったのか、アミッドは怪訝そうに眉を顰める。何か変なことを言ったか?
「…えっと、確かメンバーには『勇者』や『九魔姫』に、ティオネさんとレフィーヤさん、そしてお二人も一緒に、30階層まで行かれるんですよね?」
「そうだね。どうしたのアミッド?なんか気になることあるの?」
アミッドは数秒ほど顎に手を当てて思案に耽ったあと、真剣そうな面持ちで口を開いた。
「………いえ、ロキファミリアにはロキファミリアの事情があるのでしょうけど、カーリーさんには無理をさせないようにしてくださいね?」
おおっと、そういう事か。私は無名の新人だと思われているらしい…いや、思うも何も実際にそうなんだけどさ。思いっきり気を遣われてしまった。
「え?カーリーが無理を…?それって何事?」
「ティオナ、アミッドはカーリーの事を知らないから…」
フィリア祭で多少目立ったとはいえ、所詮噂は噂。そういうのに興味がない人は私の事を欠片も知らないだろう。
「あ、ああ!大丈夫大丈夫!カーリーが無理するような事態になったら間違いなく撤退するから!そんな事態になってたら死人出かねないし!」
「そうですか…分かりました、深くは聞きません。ダンジョン探索、頑張ってください」
誤解は解けそうにもなさそうだな、アミッドは心配そうな眼差しで私を見ている。なんか騙しているようで居た堪れなくなってきたな…
その後も武器を整備する為の簡易的な道具や食料品など、必要な物資を集めるために複数の店を回る。
「いやぁ〜、アミッドに色々聞かれた時は何事かと思ったけど…そうだね!私たちに新人が付いていくとか普通は絶対無理だよね!」
「カーリーはまだ無名だから、何を言ってもああなってたかも」
『赤い霧』の称号が通じるのは都市の中でだけ、異世界で通じたらそれはもう恐怖以外の何者でもない。
とにかく今の状況はいざこざの種や妬み嫉みの元になりかねないから、なんとかして名声を高めなきゃいけないな。
「この先もさっきみたいな事があるとなると最低限の名声は欲しいな。この世界で名を挙げると言うとランクアップ以外にあるのか?」
「う〜ん…大きい事件を解決するとか?でもそんな大きい事件そうそう無いもんね〜」
「ランクアップの最速は一年…少なくとも次の遠征までに間に合わせるのは無理そうだね」
そもそも私はランクアップできるのかとか、レベルが1から2になった所で焼け石に水だとか言いたい事はあるけど…どちらにせよ名声というのは一朝一夕でどうにかなるものではないな。
「この間のフィリア祭でのなんやかんやでちょっとだけ有名になれたりしたかもだけど、流石にまだ私たちに並ぶほどじゃ無いもんね!これでも私、有名人だし!」
「私は
レコードホルダーのアイズは言わずもがな、ロキファミリアの一級冒険者であるティオナもまた有名人であることに違いはない。そんな人間と並んで戦うとなると、かなり目立ちそうだな。
「分かってはいたけど、この面子だと私が浮くな…」
「そうだねぇ、オラリオだと「実力の割に有名じゃない」って事はあっても、レベル詐称でもない限りカーリーみたいに極端な状態にまではならないからね」
「それにレベル詐称ならバレたらペナルティを貰うからもっと上手く隠すね」
レベル詐称の件に関しては、過去にギルドが『やらかし』をして痛い目を見たらしく露骨すぎたり、余程酷いものでない限りは動かないらしい。つまり私のケースだと動く可能性は大いにある、という事だ。
「レベル詐称?何かあったのか?」
「あ、リヴェリアにレフィーヤ!実はかくかくしかじかで…」
「かくかくしかじかじゃ伝わらないぞ、ちゃんと説明してくれ」
リヴェリアに『ディアンケヒト・ファミリア』での話をする。レベル詐称は普通に違反だからファミリアの名声にも傷がつく。リヴェリアからすれば真剣にどうにかしないといけない問題ではあるか。
「ふむ、それは災難と言う程でも無いが…そうだな。確かにレベル詐称に見えるか。ファミリアとしては何かしら手を打っておきたいな」
「カーリーさんって本当にレベル1なんですよね?」
「何度も言うが歴としたレベル1だ。こうやって身内にまで疑われるのも問題だな?」
とうとうフィリア祭で一緒に戦ったレフィーヤからも疑われ始めてしまった。身内からもこの扱いなら外から見たらどうなるかは言わずもがな、だ。
「ご、ごめんなさい!?疑ってる訳じゃ無いんですけど…本当に?ってなるって言うか…」
「疑ってるじゃないか、そんなに私は信用できないのか?」
「違いますよ!?なんと言うか、今のは言葉のあやと言うか…実力と数字が見合ってないというか…」
気まずそうに視線を彷徨わせながら後退するレフィーヤを壁際まで追い詰める。ああ、顔が赤くなってきている。やりすぎたか?
「カーリー、レフィーヤをいじめないでくれ。兎に角カーリーの評価については追々だな。お前なら焦らず普通に活動しているだけで相応の評価は得られるだろう」
「レベル1が?」
「そこは私たちがどうにかする、お前は気にしなくて良い」
確かに私が気にしたところでどうこう出来るような問題ではないか。もう頼ることには慣れてきたし、素直にリヴェリアやフィンに任せよう。
「待たせたね…リヴェリア、どうしたんだい?随分と楽しそうじゃないか」
「なに?そんな顔をしていたか。カーリーについて少しな」
フィンとティオネも合流した。これでメンバーも揃ったし出発の準備も整っている。いよいよダンジョン探索開始だ。
「ふむ、その話は道中で聞かせてもらおうかな。準備は出来ているみたいだし出発しようか」
新品の大剣を背負って、仲間と共にダンジョンへ向かう。探索系の仕事は久しぶりだから鈍ってないといいんだけどな。
Elinを始めちゃった…更新が!更新が!
それはそれとして仕事も忙しいです。タスケテ…タスケテ…