赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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ダンジョン殺人事件

 ダンジョンに入って少し歩けば、多くの初心者にとって初めてとなるであろうモンスター…私たちにとっては賑やかしにもならない雑魚、ゴブリンを見つける。

 

「あ、ゴブリンだ。カーリーやっちゃって!」

「わかった」

 

 ティオナに任せられたので処理は私が務める。手はポケットに入れたままゴブリンへ駆け寄り…その頭にまっすぐ蹴りを入れる。

 蹴りをもろに食らったゴブリンの首は千切れ、頭がまっすぐ通路の奥へと吹き飛ぶ。数秒後、遠くで水袋の弾ける音がした。

 残された胴体が沈黙と共にゆっくりと倒れていく。周りの視線が冷たいな。

 

「うわぁ…」

「カーリー、その攻撃は正直どうかと思うわ」

「なんというか、うん、ちょっと悪趣味というか、残虐というか…見た目が良くない!」

 

 想定外に見た目の良くない処理となった結果、レフィーヤの声とティオナ達のブーイングを受けて弁明を始める。

 

「聞いてくれ、こうなるつもりじゃなかったんだ。本来ならここで頭が弾ける程度のつもりで蹴ったんだけど…」

「どっちにしても見た目はよろしくないわね…それに今の目的は剣の試し切りでしょうが、なんで蹴りを入れてるのよ。せめてポケットから手は出して剣を抜く気くらいは見せなさいよ」

「余裕はあったし、ゴブリンの身長が小さかったからこっちの方が楽だな、と思ったら反射的に…」

 

 剣で斬るには些か的が小さいのもあって蹴りを入れたけど、よくよく考えなくてもここで試し切りをしておくべきではある。それにレフィーヤに思いっきり引かれているのも心に来る。この攻撃は控えるようにしよう。

 

「ゴブリンなんて試し切りをするにも満たないような相手だろうしね。まっすぐ下に向かいながら良さげな相手を見つけたら切る、そのくらいの心意気でいいじゃないかな」

「大丈夫だ、次はちゃんと武器を使う」

 

 次の敵はいないかと辺りを見回せば、二足歩行している犬のようなモンスター、コボルトを発見する。ちょうど相手もこちらに気がついたみたいだ。

 

「あ、コボルトがそっちにいるよ」

「よし、切ってみるか」

 

 背負っていた剣を抜いて振り下ろす。コボルトはゴブリンよりも図体の大きいから斬りやすいな、さしたる抵抗もなくコボルトは真っ二つになった。

 

「アイズとの模擬戦の時も思ったけど、やっぱりきれいな太刀筋ね。ティオナとは大違い」

「私だってこれくらいそのうち出来るようになるもんね!」

「私ももう少し意識しようかな…」

 

 ティオネ達の会話を聞きながら剣についたコボルトの諸々を払う。ミミクリーなら血や肉片のような汚れは勝手に落ちていた…というか取り込んでいたから気にしなかったけど、普通の剣となるとそうもいかないな。

 

「剣の調子はどうだい?」

「良いな、よく手に馴染む」

 

 ミミクリー程手に馴染む訳じゃないけど、グリップも滑らず重心も私に合わせて調整してある、所謂オーダーメイド品だ。使い勝手はアイズとの模擬戦の時に使った武器とは比べ物にならないほど良い。

 

「大きな問題もなさそうだし寄り道はせずに下へ向かおうか。道中はある程度自由に動いてくれて構わないよ」

「はーい!ってアイズ早い!」

「私も少し動いておこうかしら」

 

 アイズは返事をする間もなく前線へと飛び出した。それに続くようにティオナとティオネも目についたモンスターを切り払っていく。私は…後ろに引いておくか。

 

「随分とやる気に満ちているな」

「そうだね、やる気があるのは良い事だし止める気はないけど…」

「少し張り切りすぎているか。様子を見て抑えさせる事も考えないとな」

 

 見かけた雑魚を片端から灰にしていく三人娘を見送ってフィンの横に着く。レフィーヤは魔力を温存するから後方待機だ。そもそもあそこに混ざっても魔法を使う前に敵が死んでいくだろうしな…。

 

「君とアイズの戦いは彼女たちにとって良い刺激になったみたいだね」

「そうなのか?」

「私達ほどではないがアイズ達も明確に伸び悩む時期だからな。ランクアップ(成長)の機会があった筈の遠征も途中で撤退する事態になったから消化不良だったろうし、その分の鬱憤を晴らすのにも今回の小遠征はいい機会になっただろう」

 

 どうやら前回の遠征の途中撤退は資金以外にも大きな損失があったらしい。遠征か…話ぶりから察するに余程大きな仕事みたいだけど、何をどうするのかはいまいち掴めないな。

 

「彼女達くらい高レベルになるとステイタス的に成長するにも結構深く潜らなくちゃいけないけど、深く潜るには色々と準備は必要だし時間も相応にかかるからね」

「身内で訓練するのはどうなんだ?フレイヤファミリアはそういう手で強くなってるんだろ?」

 

 オラリオのファミリアについて調べる時に避けられないのがロキファミリアとフレイヤファミリア、『オラリオ二大ファミリア』だ。

 フレイヤファミリアはロキファミリアよりも個人主義的なファミリアらしく、ファミリア内では団員同士で殺し合いにも見えるような訓練で鍛えているらしい。

 

「フレイヤファミリアは極端だが、一線級冒険者同士での戦闘となると相応の設備が必要になるからな。お前とアイズの模擬戦でもしっかりした結界を張らないといけないんだ、専用の訓練場を設けていないロキファミリアには少し荷が重いな」

 

 やはり一線級の冒険者ともなると何をするにも制限がついてくるらしい。確かに私やアイズ達が全力で動けば街の石畳なんかは粉々になるだろう。

 

「将来的に訓練場を設けるのは?」

「資金的にも土地的にも難しいかな。次回の遠征の結果がどうであれ、資金的に余裕はできそうにもないしね」

 

 また金か。私もフィクサーになる以前や駆け出しの頃はずっと悩まされ続けた問題だ。衣食住にも装備にも娯楽にも…とにかくいつでも必要になるのが金だ。余裕こそ出来るだろうが要らなくなる事は文明が崩壊しない限りは無いだろう。

 

「ロキはフィリア祭で出てきた新種のモンスターが気になっているようだし、僕たちは次の遠征に備えなきゃいけない。しばらくは大きく動ける余裕もないね」

「色々と面倒だな、ファミリアのトップは。冒険者なのに力で解決できないことばかりだ」

 

 『大いなる力には、大いなる責任が伴う』とは言うが、その点で言えば都市だと力があれば色々と自由に出来た。

 気に入らない奴はぶちのめせば良いし、欲しい物があれば「殺してでも奪い取る」なんて手段を取る事は珍しく無い。

 力の無い子供を()()()()()()()食い物にしたりと…やりすぎたら面倒な事にはなるだろうけど、そこら辺は見極めて動けば良いだろうしな。

 

「カーリーはそういう事務はどうしてたんだ?トップクラスの…フィクサーとやらだったんだろう?色々としがらみも多そうじゃないか」

「特色になってからは研究所での仕事以外は協会を通してから受けてたからな、そこらへんの面倒な手続きはそっちで処理していた。それに私は比較的仕事を選んでいたから忙殺されるほど仕事が舞い込む事は少なかった」

 

 特色ともなれば依頼料も相応に掛かる。ある程度社会的な地位を持ちつつ、組織立って金を用意しないと雇えない程度には特色の肩書きは重い。カルメンに関しては…まあ、それはそれだ。比較的安い金で雇われてたけど慈善活動って言われる程じゃなかったし…。

 

「事務を外部に頼るのか。オラリオじゃ考えられないね」

「ファミリアはそれぞれ独立した勢力だからな。事務仕事を外の人間に任せるなんて考えられないな」

 

 ファミリアは其々が独立した勢力だから自分のことは自分で済ませるのが主流のようだ。ダンジョンに関してもギルドが管理しているのはダンジョンそのものであって、ファミリアの問題は余程酷くない限りは各々で解決させるらしい。

 

「事務要員を増やすのはどうなんだ?募集すれば来そうだけどな」

「相手の素性を調べたりする手間もあるから考えてなかったけど…落ち着いたら検討するのもありかもしれないね。僕たちももう少しダンジョンに注力したいし、僕個人の目的の為にももう少し自由に動ける時間を確保したい」

 

 こういう時は個人で動くのが良いと感じるな。組織に入ればそこでの決まりや人間関係に縛られる。やりたくも無い事をしなきゃいけない時もあるし、組織が大きくなれば外部からの細々とした攻撃にも警戒しなきゃいけなくなる。やっぱり管理職にはなりたくないな。

 

「あーあ、モンスターが出てこなくなっちゃった」

「見つけても逃げていく…」

「少し派手に暴れ過ぎたわね…団長と距離が近いわよカーリー!」

 

 周囲のモンスターを根切りにしたのか前の方で暴れていたティオネが私とフィンの間に体を捩じ込む。ただ隣に立って話していただけでこれだ。

 

「少し厳しすぎないか、ティオネ?」

「う…でも距離が近いのは本当よ!もうちょっと自分が新入りだって自覚して…少しは距離を取りなさい!」

 

 やっぱりティオネはフィンの事になると少しばかり感情的になるな。私にはいまいちよく分からない感覚だ。

 

「お姉ちゃん!大人の余裕!」

「!!………いややっぱり近いわよ!具体的には出会ってからこの距離感になる期間が短すぎる!」

 

 ティオネの言う事も尤もだ。組織に入って1ヶ月前後しか経っていないような新入りが組織のトップとこんな距離で話しているのは少し問題か。親指なら即処刑待った無しだろう。

 

「新入りという面で見ればそうだが…どこからどうみても個人的な距離ではなく、仕事的な距離感の近さだからな。フィンの事情を無視してもティオネの考えているような事には絶対にならないぞ」

 

 そこら辺の距離弁えているつもりだ…いや、まだ『赤い霧』の称号の力が無い事に慣れていないな。普通にフィン達との距離が近すぎる…もしかして、アイズ達との距離も近いんじゃないか?

 

「まあ組織の事情を聞くのは面白いしな、自分と敵対する可能性が無い上で管理する立場でもないなら尚更だ」

「僕もカーリーは仕事人として付き合うなら理想的な相手だとは思うけど、そういう相手として見るとなると…小人族だったら考えたんだけどね」

「!?…!!!…!!!!」

 

 フィンの余計な一言によってティオネが言葉にならない咆哮を上げて私に掴み掛かろうとするのをティオナに止められる。

 

「落ち着いてティオネ!小人族うんぬんはティオネにもきっと当てはまるから!団長も火に油を注がないで!」

「(アマゾネススラング)!!(アマゾネススラング)!!」

「ティオネそれは言っちゃいけない言葉だよ!大人の余裕!大人の余裕!」

 

 ティオナの言葉によってゆっくりと落ち着いていくティオネ。フィン関連でティオネの感情が昂った時に使うと良いらしい。

 

「フーッ!!フーッ!……ふう、そうね。それにカーリーにもそういう感情は無いみたいだし、大丈夫よね?…ね???」

「ああ、無い。全然無い。だから落ち着け、肩に乗せた手の力を抜いてくれ」

 

 ミシミシと音が鳴っている、私の肩に置かれたティオネの手の指を一本ずつ解いていく。この世界に来てからトップクラスの負傷だ。もしかしたら青痣になっているかもしれない。

 

「最近お姉ちゃんが『静かに怒る』って技術を習得してきて…喜べば良いのか、悲しめば良いのか分からないよ」

「なんと言うか…分かりやすく怒ってないのに、無茶苦茶に怒っているのがわかりますよね」

「正直すごい怖い。もっと分かりやすく怒ってほしい…」

 

 今のティオネの『圧』は凄まじいものだ。怒りと殺気がないまぜになった、混沌とした圧だ。それなのにティオネ本人は笑顔を保っている…額の青筋はご愛嬌か。

 それはともかく、さっきフィンの言っていた小人族云々が気になるな。あれか、性癖って奴か?

 

「そう言えばフィン、さっき小人族ならって言ってたよな。小人族じゃないといけない何かがあるのか?」

「ごくごく個人的な理由だよ、僕の目的の一環と言っても良い」

 

 ティオネの表情が暗くなる。何やら性癖以上に厄介な問題があるみたいだ。ここで聞くのはあまりよろしくなさそうだな。

 

「そうか…今度暇な時にでも聞かせてもらおうかな」

「別に隠している訳でもないから良いよ。さて、そろそろ18階層だ。ゴライアスは…居ないね。恐らくリヴィラの冒険者達が片付けたみたいだ」

「一度見てみたいんだけどな…まあその内見れるか」

 

 気がつけば『嘆きの大壁』の辺りまで来ていたらしい。目の前には罅や凹凸が一つもない壁があるのみで、都市でも見られないような巨人の化け物『ゴライアス』の姿はなかった。この世界にいる内に一度は見てみたいな。

 

「次の遠征の時に見られると思うし、余程気になるようならインターバルに合わせてここに来てみると良いよ」

 

 次の遠征に同行するのが確定しているような口振りだけど、実際はどうなんだか。碌な武器も持ってない私じゃ深層だと足を引っ張るだけだと思うが…荷物持ち(サポーター)か?

 

 大広間を横断する際に寄ってくるモンスターを片端から切り伏せる。レフィーヤは杖術の練習をしているみたいだ。いざという時に自衛の手段があるのは良い事だし、私も少し協力してみようか。

 

「フィン、少し寄り道してくる」

「…程々にね?」

 

 フィンの許可を得たので、大広間の角に向かって走っていく。道中でそこそこの量のモンスターが私を見て襲いかかってくるが、手出しをせずに回避に務める。

 大広間の角まで到着し、後ろを見てみればかなりの量のモンスターが列を作って私を追いかけてきているのが見える。これくらいなら不足はないな。

 

「なんかカーリー、すごい群れをつくってるね」

「ちょっと嫌な予感がしてきたわ、レフィーヤも気の毒に…」

 

 うまく切り返してモンスターの列を維持したままレフィーヤの方へと進路を定める。リヴェリアがこちらに気づいて大きく溜息をついているのが見えた。

 

「なんて馬鹿みたいな真似を…レフィーヤ、構えろ」

「は、はい?なんかカーリーさん、変な事してますね…まって、なんかこっちにきてる気がするんですけど。まさか…」

 

 遅れて私に気がついたレフィーヤは、奇妙な行動をしている私を興味深そうに見た後、自らに近づいてきていることに思い至り頬を引き攣らせている。

 ある程度モンスターと距離をとってレフィーヤの横にたどり着いた私は、レフィーヤの肩を2度叩いて後ろのモンスターたちの処理を任せる。

 

「レフィーヤ、お前なら余裕を持って倒せる筈だ。頑張れ」

「いやいやいや!これはちょっと過剰ですって!待って!少しだけでいいから減らして…わあああ!」

 

 私の意図を察したリヴェリアはすでにフィンの横まで引いている。後は私が最高速でここから撤退すれば…場は整った。レフィーヤ対モンスターの群れだ。擬似裏路地の夜だな。

 

「カーリー、気を使っているのはわかるが、いちいちこっちにモンスターを連れてこなくてもいい」

「そうか?杖術の練習には丁度良いと思ったんだけど…」

「だからと言って大広間の端からモンスターの群れを呼んでくるのはやめろ。レフィーヤももう一杯一杯だし、ここまでくるとかなり悪質な怪物進呈(パスパレード)だぞ」

 

 30を優に超えるモンスターの群れはレフィーヤには荷が重すぎたらしい。怪我こそしていないがひたすら逃げてばかりいるな。

 

「おわああ!?多すぎ、多すぎます!?」

「助けた方がいいかな?」

「リヴェリアが手出ししていないから放置でもよさそうだけど…あれは後衛には厳しそうね」

 

 裏路地の夜と違って終わりが無い訳じゃないどころか、明確に何体倒せば終わるか見えているから余裕だと思ったんだけど…やっぱりレフィーヤは立ち向かおうとしない。

 

「あれくらいならレフィーヤでも狩れるんじゃないか?レベル的に問題ないと思ったんだけどな」

「出来るとは思うけど、前線慣れしてないから威圧感に腰が引けてるみたいだね…」

 

 ああ、そういう事か。アイズの言葉でようやく合点がいった。レフィーヤは後衛だからこうやってモンスターと格闘戦をする機会が無かったのか。

 後衛なんて概念のない都市では思い至らない発想だな…いや、高級品とはいえ銃を使えば似たような役割は出来るか。それにしたって近接戦闘技術はあって当然ではあるけど…

 

「まったく…レフィーヤ!逃げてばかりじゃ終わらないぞ!」

「リヴェリア様、これは多すぎますって!?」

 

 リヴェリアの声に泣き言を返す程度の余裕はあるらしい。だがそうやって逃げてばかりいればモンスターは減るどころか、周りのモンスターが騒ぎに気付いて増えていく一方だぞ。

 

「アイズ、お前からも応援してやってくれ」

「え?う、うん…レフィーヤ、頑張って〜…」

「アイズさん!?…え、ええい!やってやりますよ!?ミノタウロスがなんですか!このー!」

 

 アイズの鼓舞を受けて覚悟が決まったのか、レフィーヤは杖をぶんぶんと大きく振り回してモンスターに対峙する。戦闘自体は問題なさそうだけど…少し粗が目立つな。

 

「行為自体は褒められた物ではないが…ふむ、これは緊急時の対応の練習に良さそうか」

「そうだな、レフィーヤの攻撃が雑になっているのがわかる。相手が雑魚だからという理由もあるだろうけど、もう少し冷静になればもっと早く殲滅できる筈だ」

 

 杖を大きく振るばかりで突きや払いを使っていない、腕力に任せた荒々しい攻撃ばかりだ。冷静になればもう少し良い戦闘が観られると思うけど…難しそうか。

 

「レフィーヤも頑張ってるね〜。あの調子なら問題もないと思うけど、私もうちょっと近くで見てくる!」

「私も…手は出さないけど、心配だから見てくる」

 

 アイズとティオナも近くで見ていてくれるみたいだし、大きな問題は起きないだろう。これでレフィーヤも多少は成長できるはずだ。

 

「カーリー、私達がいるからってレフィーヤにあの仕打ちはやめた方がいいわよ。信頼してくれてるのはわかるけど…やっぱりちょっと良くないわ」

「こんな良い機会も滅多にないと思ったし、あの程度なら余裕だと考えたんだけど…確かに先にリヴェリアと話した方が良かったか」

「全然わかってないわね…団長に呼ばれた気がする!」

 

 ティオネは第六感か何かでフィンの思念を受信したのかそちらへ向かっていく。ちょうどレフィーヤもモンスターの群れを倒し終わったみたいだ。

 

「つ、疲れた…後衛がやる戦闘量じゃない…」

「お疲れ~!怪我もしてなさそうだね!」

「レフィーヤ、お疲れ様。頑張ったね」

「あ、ティオナさんにアイズさん…!はい!アイズさんの応援のおかげです!」

 

 疲れてはいるようだけど、まだまだ動く余裕はありそうだな。時間があればもう二回くらいやってもよかったけど…流石にやめておこう。

 

「自棄になって大ぶりな攻撃ばかりになっていたぞ。ああいう状況こそ冷静に対応しないといけないからな、帰りにもう一度同じ事をやるか」

「冗談ですよね、リヴェリア様…」

 

 冗談めかして話していたリヴェリアは数秒ほど考え込んでから再び口を開く。

 

「…冗談で言ったつもりだが、代替案が無いな。これは本気で同じ事をやっても良いかもしれない」

「え!?本気なんですか!?」

 

 まさかの発言だ。リヴェリアはこういう訓練を好まないと思ってたんだけど…必要とあらば取り入れるタイプだったか。

 

「確かに後衛としては過剰な戦闘量ではあったが、杖術の練習としては十分に扱えるし、何より『現在の状況に応じて適切な攻撃を使う』というのはお前にとって良い訓練になるだろう」

「…反論が思い浮かばない自分が情けないです」

 

 後衛としての訓練、と言うよりは潤沢な手札を持つレフィーヤの為の訓練としてこれ以上無く良い物だったらしい。私はそこまで考えてなかったんだけどな。

 

「想像以上にレフィーヤに合った訓練だな…ここはスペースが広くて大きく立ち回れるというのも良いし、敵の強さも多対一をやるならちょうど良い。帰りは並行詠唱も交えてやってみようか」

「なんか凄まじくハードルが上がってる…なんでこんな頭の悪そうな訓練方法が自分に合っているんでしょうか」

「訓練方法は確かに頭が悪く見えるが、それを熟すには頭を使わなければいけない。解説していて自分も馬鹿になった気分になるが、『策を弄するよりも力押しが一番早く、被害もコストも少ない』という事例もある。力押しも作戦の内だ」

 

 遠回しに馬鹿にされている気がする。これは怒った方がいいのかと悩んでいると、小さな地響きを感じる。何か起きているみたいだけど…リヴェリアの方を見てみると、そちらはフィンに肩を叩かれて振り返っていた。

 

「リヴェリア、ここは一度手本を見せてあげたらどうだい?」

「フィン?何を言って…」

 

 フィンの背後、大広間の端の方からティオネが先ほどよりも大規模なモンスターの群れを引き連れてこちらへと向かってくるのが見える。明らかにこの大広間に居たモンスターの総数より多いぞ、どうやったんだ?

 

「何をやっているんだティオネは…さっきの3倍は居るな、何をしたらあんなに集まるんだ?」

「団長の命令よ、リヴェリア。頑張ってちょうだい」

 

 ティオネは私がレフィーヤにやったようにリヴェリアの肩を叩き、モンスターの群れを押し付ける。邪魔をしない為に私たちも少し離れないとな。

 

「フィンの差し金か…この量は流石に骨が折れるな。まあいい、レフィーヤは離れて見ていろ」

「は、はい!」

 

 リヴェリアは杖を構えてモンスターの群れと相対する。構えから見て受動的に動くみたいだ。魔法使いの戦い方か…どんな戦い方になるんだろうか。

 

 リヴェリアはモンスターの動きを見て回避を中心に立ち回る。杖での攻撃は敵を倒さず、攻撃を逸らすか動きを阻害するための物だ。マジックサークルが展開されているのを見るに並行詠唱も織り交ぜているらしい。

 

「手加減に手加減を重ねてはいるけど、技術は凄まじいな」

「魔法も撃ったけど…わざと狙いを逸らしているね。本来ならあれで終わってたよ」

 

 フィンの言う通り、三つの光線のうち2本は群れの端を掠めるように、一本は群の真ん中、その少し上の方を撃ち抜くように放たれる。この一撃で終わらせたら手本を見せるも何も無くなるから、あえてモンスターを残したんだろう。

 

「体術も交えてますね。私ももっと頑張らなくちゃ」

「後衛にあのレベルの近接戦闘技能が必要か聞かれたら要らないとは言えるけど、あって困らない技術ではあるわね」

 

 杖での攻撃のみならず、蹴りを交えてモンスターを押し除けていく。時折飛ぶ魔法によってモンスターはみるみる内に数を減らしていき、そう時間も経たない内にモンスターの群れは灰の山へと姿を変えた。

 

「実際に自分でやってみて確信した。これはかなり良い杖術と並行詠唱の鍛錬になるな」

「やっぱりリヴェリアも凄いね〜。いくら雑魚ばかりって言ってもあんな大立ち回りしながら並行詠唱するのは難しくないの?」

「慣れない状況での並行詠唱だったから、結構集中して詠唱しないと危なかったな」

「杖術や体術での戦闘をしながらの詠唱となると、息付く余裕も少ないはずだ。そこら辺の配分を考えて動けるようになれば一人前か?」

 

 相手の動きを見て立ち回り、戦場の状況を見て使う魔法を選択する。魔法使いは前線の人間とは大きく違う要素に気を配りながら立ち回らなきゃいけない。そんな中で目の前のモンスターと交戦すると言う仕事まで追加されたら…かなり厳しい戦いになるだろう。

 

「レフィーヤにも見やすいように、かつ力押しにならない程度まで手加減を挟んだが、戦い方を工夫して並行詠唱も習熟すればあの状況でも多少の余裕はできる」

「目の前の敵を倒すんじゃなくて、動きを阻害する攻撃に留めて壁にする使い方もしていたな」

「後衛が近接戦闘する必要がある時は時間稼ぎに徹した方がいい。本来なら私たちの魔法が必要になるような相手に付け焼き刃の攻撃が通じる訳がないからな。あくまでも前衛がカバー出来るようになるまで耐えるのを主軸に置くべきだろう」

 

 そういう意味では今リヴェリアの見せた戦闘こそが『実戦的』なんだろう。確かに同じレベルの前衛と相応の階層までダンジョンに潜った時、ステイタス的に考えれば後衛が杖術で倒せるモンスターは少ない筈だ。

 

「問題といえば、実際の戦闘であそこまで動きながら並行詠唱をする機会はほぼ無いという所だな…だが技術はあっても困らない。使える手札は多いに越した事はないからな」

「後衛があの状態になっていたらパーティーとしては終わっているからね。でも今のリヴェリアくらい、とまでは言わなくても移動や回避をしながらの並行詠唱の練習はしておいてほしいかな」

 

 さっきのリヴェリアのように、後衛が前衛と似た立ち回りを強要される状態となると…背後からの奇襲か、すでに前線が崩壊しているかの二択だな。そこまでの乱戦状態になれば長文魔法を使う暇もないだろうし、広範囲攻撃も味方を巻き込む可能性が高い。非戦闘員(サポーター)を抱えている状態でそうなったとしたら…あまり考えたくないな。

 

「という事だ。まだまだ鍛錬を積まないとな、レフィーヤ」

「が、頑張ります…」

 

 レフィーヤはエルフだが見た目通りかなり若いらしいし、焦る必要は無いとは思うけど…冒険者を続けるなら甘えてばかりもいられないだろう。無理はしない程度に頑張ってほしい。

 

 リヴェリアの戦闘の後処理を終えて、18階層へと入る。今までの階層とは性質の違う、草の香りを含んだ空気が流れているのがわかる。

 

「ここが18階層か。話通り今までと違って洞窟って感じじゃないな」

「そうだね、僕もはじめて来たときは興奮を隠しきれなかったよ」

 

 天井の水晶が放つ光によって、この階層はかなり明るい。背の高い樹木が多く生えているのも相まって地上の秘境と言っても差し支えない程度には綺麗な光景だ。

 

「確かこの階層には昼と夜があるんだよな。今は昼で良いのか?」

「そうだ、夜になると天面の水晶の光が消える。ここに滞在している冒険者達もそれに合わせて生活をしているぞ」

 

 ここまで来ると地上とほとんど変わらなそうだな…人の営みも活発らしいし、ダンジョンの中層という立地以外は普通の街にも見えるな。

 

「ねーねー!カーリーは初めてここに来るし今日は観光しない?」

「私は構わないけど、それなら帰りでも良くない?」

 

 確かに一度この街がどんなふうに活動しているのか見てみたい気持ちはある。だけどそれでパーティーの進行ペースを乱す気にはなれないし、ここはフィンに任せた方がいいだろう。

 

「私は見回る機会があるなら後でも良いけど…フィンに任せる」

「どちらにせよここまでのドロップアイテムを片付けなきゃいけないから街には寄るよ。さっきの戦闘で想定よりも魔石とドロップアイテムも稼げたし、ちゃんとした観光は…せっかくだし1日滞在しよう。宿も使おうか」

 

 リヴィラの宿は確かに気になる。気にはなるが、今回は稼ぎを目的として来ている。無駄な出費は抑えたいが…

 

「リヴィラの店は立地上、随分と値が張るって聞いてるけど、宿はそうでもないのか?」

「普通に法外な値段よ。それでも使うんですか、団長?」

「今回は野営道具も持ってきていないし、何よりカーリーは初めてのリヴィラなんだ。今回の宿代は僕が出すから泊まっていこう」

 

 今回はフィンが宿代を出してくれるらしい。またこれだ。何が特色だ、何が赤い霧だ。これじゃあ本当にただのヒモだぞカーリー。今回の探索で相応の稼ぎを出して、それぞれに借りを返したい。気合いを入れろカーリー。

 

「また借りを作ったな」

「気にしなくて良いよ、僕はお金を使う機会がないから貯蓄はかなりあるし…今後カーリーにはしっかり働いてもらうつもりだからね」

 

 フィンは私に出費相応の働きを期待しているらしい。予想では遠征関連だけど…何をさせられるんだろうな?道中の露払いと荷物持ちを合わせて任せられるのかもしれない。その程度なら何とでもなりそうだけどな。

 

 そうして話ながら街の広場らしき場所まで歩いてきたが…綺麗に整備されているわりには人影は少ない。流石に中層なだけあってここまで来られる人間も少ないからだろうか。

 

「リヴィラは結構賑わってるって聞いたけど…思ったよりそうでもないみたいだな?」

「いや、これは…」

「静かすぎるね、普段と比べると人通りもかなり少ない。何か起きてるみたいだ」

 

 話に聞いていたよりも静かな街への感想を呟くと、リヴェリアとフィンから否定の声が上がる。どうやら普段はもっと賑やかな街らしいけど…嫌な予感がしてきたな。

 

「少し情報収集をした方が良いかもしれない。観光はその後だね」

「わかった。勝手のわからない私は後ろの方にいるとしよう」

 

 街に慣れていない私はレフィーヤと共に後ろに付く。情報収集は先輩方に任せるとしよう。

 

「カーリーさん…」

「うん?どうしたレフィーヤ」

 

 レフィーヤから恨めしそうな眼差しと共に声をかけられる。予想せずともわかる、さっきの大広間での事だろう。

 

「さっきのあれは何なんですか!死ぬかと思いましたよ!」

「あの程度じゃ死ぬどころか怪我もしないだろ…慢心しきってたら別かもしれないけど、レフィーヤに限ってそんな事はないだろ?」

 

 ちゃんとレフィーヤの能力を見極めた上で、かなり余裕を持って対処できる量のモンスターをぶつけたんだ。真面目に戦っていれば怪我をする方が難しい。

 

「う…心の底から信頼されているのがわかる…でも!あれは異常ですって!もっと平和的で穏便な訓練を所望します!」

「強くなる為だ、レフィーヤもアイズに追い付きたいんだろう?」

 

 平和的で穏便な訓練方法で追いつけるほどアイズは甘くない。レフィーヤも才能は悪くないだろうけど、アイズに追い付きたいならもう少し限界に近い訓練をした方がいい。

 

「ず、ズルです!アイズ(それ)を出すのは卑怯ですよ!」

「私達がいたし万が一って事はないからな、あの程度はこなしてくれないと」

 

 そういう意味で言えば安全策は多すぎるくらいだ。心のどこかに余裕が出来てしまう程にな。

 もっと必死になる状況であれば成長幅も大きいだろうけど…それはリヴェリアに止められそうだな。

 

「とにかく!もうああいう無茶苦茶な訓練法はやめてくださいね!」

「わかったよ…次からはちゃんとリヴェリアの許可を取ってからにするよ」

「むしろ事前に取ってなかったことの方が驚きですよ…」

 

 なんだかんだ言ってもレフィーヤは後衛の魔法使いだ。そっちの訓練法についてはからっきしだし、私が口を出せるのはそれこそ体術や杖術くらいだろう。

 

 ここまでの戦利品を売る為に入った天幕の中で、今リヴィラで起こっている事について聞く。街の中で殺しがあって、住人の大半は野次馬に行っているらしい。

 

「宿で殺しがあったようだね。これは少し面倒な事になってきたね」

「その反応から察するに、ここでの殺しはかなり珍しい事みたいだな?」

「当たり前よ。『世界で最も美しいならず者達の街(ローグ・タウン)』なんて呼ばれたりしてるけど、カーリーの故郷と違って最低限の秩序はあるわ」

 

 裏路地には最低限の秩序もないと言うのか。確かにこの世界と比べれば混沌としているかもしれないけど、裏路地には裏路地の秩序もあったんだぞ。

 殺しや誘拐が日常的に起きている時点で秩序もへったくれもないと言われれば…何も言えないな。

 

「それで、私たちはどう動くんだ?」

「一度現場へ行ってみよう。ここでのトラブルを放置する訳には行かないからね」

 

 犯人をのさばらせていれば補給や休憩地点として扱うとしても不安が残るか。この状態だといくつかの店も使えない可能性もありそうだし仕方がないだろう。しかし、それにしても…

 

「またトラブルか。私がここに来てからその単語ばかり聞いている気がするな」

「安心しなさい、私たちにとっての一番でかいトラブルはあんたよ。とはいっても最近は色々と騒動続きだけどね」

 

 残念ながらその通りだ、反論の余地もない。私の出自云々もそうだけど、ミミクリーだけで色々と騒動が起きていたしな。ともかく今回くらいは普通にダンジョン探索できれば良いんだけど…無理かもしれないな。




黒い方とかむっちゃ先の方のレフィーヤが最強になる話とかばかり書いて今が書けない…山場が遠すぎる…あとElinを一生やってる…それは置いといて!

〜なぜなに!プロムン教室~

裏路地の秩序ってな〜あに?


 本当になんなんだろうねこれ…巣ならともかく裏路地にそんな物存在するの?といった疑問に答えよう!

 裏路地でも正面切って堂々と殺しをしたり、大暴れすれば色々と面倒な因縁が生まれるぞ!恨まれたり、危険視されたり…そうなったら周りが力を合わせて『排除』してくるのは想像に難くないね!そこまで行くと、手練れのフィクサーでも背中に沢山の武器を刺してプカプカ下水道浴をする羽目になるぞ!
 だから一応の秩序はあるんだ!金箔よりもうっすい表面上だけの秩序だけどね!ここまで来ると秩序って言うよりは空気読みかな?

 それにツヴァイ協会は見回り業務をしてそういう行為をしている人間に対して相応の『対処』をしているし、もし相手を殺す程ではないゴタゴタが起きた時はセンク協会に決闘代行を依頼して決闘で解決!なんて手も取れるぞ!殺したい程の問題だったらシ協会を頼れば良いしね!

 その他にも巣ごとにやっちゃいけない事が課されていたり、都市としてやっちゃいけない事が課されているよ!人間を模した機械を作ったらダメだからね!あと銃器はかなり厳しく規制されてるよ!
 え?殺人は良いのかって?別に規制されてないけど?そんなん規制されてたらカーリーももっとまともな幼少期を過ごせてるよ…
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