赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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異界の冒険者達

 ティオナとフィンの質問、主に私の武器について。どうやって作られたとか、どんな能力があるかといった質問に答えていく。

 

 ミミクリーの特筆すべき機能は『損傷の自動修復』と『幅広い形状の変化』に分けられる。

 多少荒っぽく扱っても壊れない耐久性にこの特性があるから、特別他の武器にしようと思った事はなかった。こんな見た目だけど性能的にはかなりいい武器ではある。

 長く扱っていると精神汚染擬きみたいな事をしてくるが…些細な問題だ。

 

 幾つかの質疑応答を繰り返すと、ティオナがさも『いい事思いついた!』という顔で手を挙げながら私を見る。

 

「どうしたんだ、ティオナ」

「ちょっとその武器貸してよ!大きさもそこそこ良い感じだし!」

 

 まったくもって良いアイディアじゃなかった。さっきこの武器がどういう存在から作られた物なのか、危険性についても説明した筈だが。

 そうでなくても多少話をしただけの相手に自らの武器を預けるのは憚られる。

 

「ティオナ…流石に初対面の相手に武器を手放せって言うのはどうかと思うな」

「え?…あーそっか…確かにそうだね、ごめんなさい…」

 

 私の心情をフィンが代弁してくれた。フィンの注意を受けたティオナはじっくり数秒掛けてその言葉を理解し、見てわかるほどにしょぼくれながら謝罪した。

 

「すまないカーリー、見て分かると思うけどティオナにも悪気があった訳じゃないんだ」

「ああ、そうみたいだな」

「初めて見る武器で、気になったからつい…」

 

 考えなしというかなんと言うか…深く考えずに思ったことを口に出すタイプなんだろう。

 それにしてもそんなにこの武器が気になるのか。ティオナどころかフィンもミミクリーに熱い視線を向けている。

 

「あまり武器を手放したくないのはそうなんだけど…そんなにこの武器が気になるのか?」

「もちろん!私たちが見た事ない武器だしね!」

「生きている武器なんて僕は見たことないかな。少なくともオラリオではかなり目立つだろうね」

 

 この武器を持ってダンジョンの外に出るのは控えた方が良さそうだ。しかし予備の武器を持っている訳でもないから…どうするかな。

 

「ついでに言うと、レベルの低い人とか一般人が見たら…かなりの騒ぎになっちゃうかも」

「そうだね…対策をしないまま地上に出るのは不可能と言い切ってもいいと思う。君を保護するって言った理由の大半はその武器だよ」

「ああ、確かに心当たりがあるな。確かに一般人が触れたら碌な事にならない武器だ」

 

 あまりに未熟な者が触れると武器に『喰われる』だろうからな。そうなったら鎮圧するのも面倒だ。そう考えるとフィン達にとってこの武器を持ち歩かれるのは死活問題になりかねないのか。

 

「たしか武器に取り込まれるって言ってたね。具体的にどうなるかは聞いてないけど…かなり厄介な状態になりそうだね」

「ああ、他に使えた奴もいないから私の感覚でしかないけどな」

 

 この武器に取り込まれた場合、おそらくは抽出元の幻想体みたいな状態になるだろうな。

 具体的には物理攻撃に強い耐性ができたり、人間を超えた身体能力と再生能力が手に入る訳だ。自分の正気と引き換えにな。

 

「それを踏まえた上でまだ持ってみたいと言うのか?」

「う〜ん、なんとなく大丈夫そうって感覚はあるから持ってみたかったんだけど…フィンはどう思う?」

「そうだね…たしかに僕も一度他人が持っても大丈夫か確認はしたいとは思う。でもここで試すには流石に危険すぎるし、何よりさっきも言ったけどカーリーに武器を手放せって言うのはね」

 

 結局はそこだな、残念ながら私はまだ彼らに「武器を預けてもいい」と思えるほど信頼できてない。

 ここまでの短い交流で都市にいるような悪人でないという事はわかったが、それとこれとは別問題だ。ここらのモンスターが素手でも倒せるような奴ばかりといえども、フィンやヒリュテ姉妹に匹敵する強さの敵が現れないとも限らない。

 

「う〜ん、そっかぁ…それじゃあ武器を預けても良いって思われるくらい仲良くなる!それなら良いでしょ?」

「…まあ、そうだな」

 

 ここまで素直な人間は都市じゃ滅多にみないし、会ったとしても次はないだろうな…少しこの世界がどういう場所なのかわかった気がした。

 

「団長〜!ただいま戻りました!」

 

 どうやらティオネが戻ってきたようだ、耳の尖った女と小柄な髭男が共に居るのも見える。なんというか、この世界の人間はやけに多種多様だな。

 

「なんじゃなんじゃ、この物騒な雰囲気は。フィンが儂等を呼んだからただ事では無いと思っとったが」

「こんな上層で出して良い空気じゃ無いぞ。原因はそこの女…の武器か。あからさまに厄介事ですと言った感じだな」

「ああ、ガレス、リヴェリア。いきなりだけどコレをどうにかする手立てとかあるかな?見た目はどうとでも出来るけど、それだけで街中を堂々と持ち運ぶわけにはいかないからね」

 

 話に聞いていた幹部のようだ。どうやらこの武器の処遇についての話のようだが正直私は力になれそうも無い。

 幹部二人…ガレスの方は相当のやり手だろうが、リヴェリアはどうにも纏う空気が違うな。一対一での戦闘ならばヒリュテ姉妹の方が梃子摺りそうだ。

 

「殺気というか何というか、コレはなんじゃ。片手剣にしては大分大きいな…コレ生きておるな?生き物かモンスターをそのまま武器として使ってるのか?」

「封印するにしてもここではどうにも出来そうも無いしな…進むにしても戻るにしても問題が起きる事は間違いないな。それよりもお前はそれを持っていて何とも無いのか?」

「ああ、これは私の武器だからな。普通に持ち歩く程度なら大丈夫かと思っていたんだが…」

「最低でもレベル2以下は近づかない方がいいな、レベル3も怪しいか。一般人が見た日にゃトラウマで済めば良い方だろうな」

「街は君の居た所よりは圧倒的に安全と言い切れるからね。こういう物に慣れている冒険者も少ないだろう」

 

 確かに私の出身地はかなり物騒な場所ではあったが…巣と同等以上の治安が保たれているのか?いや、都市と並べて考える事こそ間違いなのかもしれないが…

 

「こんな物を晒して歩いても気にされないとかどんな場所じゃ。深層でもここまで異様な気配を垂れ流すようなモンスターはおらんぞ」

「むしろモンスターは無意味に殺気を出すような物でも無いからな。比較するなら闇派閥(イヴィルス)か?それにしても大概ではあるが」

「なんなら私たちの故郷に近い空気よね。テルスキュラと比べられる時点でオラリオでは規格外だけど」

「そーだねー、ってコレ私たち以外が遭遇してたら問答無用で攻撃してた可能性ない?ベートとか」

「あの駄犬なら確実に噛みつくわね。ティオナの武器代を賭けてもいいわ。アイズは…半々かしら。この武器がモンスター認定されたらアウトって所かしらね」

 

 散々な言われようだ、ぐうの音も出ないが。もう少し危険度の低い幻想体のEGOだったならもっとマシな扱いだったんだろうが、生憎コレ以外で抽出を成功させたEGOは無い。

 

「とりあえずギルドに頼んでダンジョン入り口を封鎖するしかないか。ガネーシャファミリアにも依頼してこの武器の輸送時に進路の人払いもしなければな…」

「やっぱりそうなるよね。仕方ない、僕が交渉しに行くから…とりあえずここで待っててくれ。これを持って18階層に入ったら絶対に混乱が起こるからね」

「ここに留まるのも良策とは言えないが…他に手もないな。とりあえず人通りの少ない袋小路の奥まで行って人が来ないようにだけしておくか」

「そうじゃな、万が一他の冒険者に鉢合わせたら目も当てられん」

 

 話を聞けば聞くほど自分の異端さがわかるな。元の世界で一般人かと言われるとそうとも言えないが、それでもここまで露骨な危険人物扱いはなかなかされなかった…か?うん、ここまででは無かった筈だ。

 

「そろそろどう動くか決まったか?」

「ああ、私とガレスにティオネとティオナがカーリーと共にこの階層の端まで行く。その後は私が18階層まで戻って、四人は待機だ。そこから先はフィンが戻ってきてからだな」

 

 随分と慎重な作戦だ。今までの話を聞く限り仕方がないんだろうがそう思わずにはいられない。とは言え逆らう理由もないので口には出さない。

 

「それじゃあ、各自移動を…」

「その前に、一ついいかな」

 

 それぞれが移動を始めようとした時、フィンが全員を呼び止める。

 

「フィン?」

「このメンバーが揃っているからこそ聞くよ。今ここで一度ミミクリーをティオナに触らせてくれないかい?」

 

 フィンの言葉を咀嚼し、理解する。おそらく私が貸したがらないのも知って、ダメ元で聞いているのだろう。

 なぜ今か、と言うのは…ティオナが暴走した時に止められるメンバーなんだろうな。そして後は私の心情だけと、だから敢えてここで聞いたのか。

 

「団長…なんでティオナなんですか?」

「ティオナが持ってみたいって言ってたからね。僕としては持ってくれれば誰でも良いから、それなら要望に応えようかなと思ってね」

 

 フィンの言葉を聞いたガレスとリヴェリア、ティオネがこれでもかという位に目を見開いてミミクリーとティオナを交互に見る。正気かお前と言いたげな顔だな。

 

「ティオナ?絶対にやめた方がいいわよ。下手したら初見殺し系の罠だったりするでしょコレ」

「ワシもそう思うぞ。絶対変な呪いかけてくるじゃろコレ」

「そうだな、私も簡単な治療はできるが呪いは無理だぞ。そして勇気と蛮勇は違うとも言っておこうか」

「だ、だって気になったんだもん!仕方ないじゃん!」

 

 武器の持ち主を前にして散々な言いようだな。問題は元の世界でも私以外に使いこなせた人間が居ないせいで何も言い返せないあたりか。

 

「ふむ…仕方ない。触るだけだぞ?」

 

 ミミクリーを地面に突き立てて一歩下がる。正気を疑う視線が私の方にも向いてきた。言い出しっぺはフィンなんだからそっちを見るべきだろうに…

 

「ほ、本当に触るの!?やめときなさいって!」

「まあ、いざという時は止めてやるが…大丈夫かのう」

「好奇心は猫を殺すとも言うな」

「いくらなんでも言い過ぎじゃない!?フィンが持っても良いって言ったんだから良いでしょ〜!」

 

 ティオナは周囲からの呆れた様な警告に抗議しながらも、真剣な眼差しでミミクリーと相対する。

 万が一取り込まれたら…その時はその時だな。私の見立てでも大丈夫だとは思うが警戒するに越したことはないか。

 

「ガレス、ティオネ。万が一ティオナが暴れ出した時のために構えといてくれ。そうなったらかなり面倒な事になるからな」

「なら持たせるなと言いたいんじゃが…仕方ないの」

「はあ…仕方がないな。ティオナ!くれぐれも慎重に触れるんだぞ!違和感を感じたら…」

「すぐに離せば良いんでしょ!も〜、みんなして過保護なんだから…」

 

 ティオナはリヴェリアの警告にぶつくさと文句を言いながらミミクリーに右手を添えて、少し間を置いてから両手で地面から引き抜く。

 周囲の警戒を他所に構えたミミクリーを見つめる。この感じだとミミクリーの声でも聞いているんだろう。

 

「ちょっとティオナ!?大丈夫!?」

「少し待って…あ〜うん、こういう感じね…とりあえずは大丈夫そう」

「どんな感覚か説明できるかい?」

「なんていうか…な〜んか言ってる気がするんだけど…う〜ん、よくわからないなぁ。でも経験が浅い子とかが持ったら凄まじくヤバいって感じはする。なんと言うか…引っ張られる、って言うのかな?確かにこれは心の問題って感じだね」

 

 そこまで分かって取り込まれないならもう警戒を解いても問題はないだろう。私が警戒を解いたのを見たフィンも念の為に構えていた槍を収める。他の奴らはもう暫く掛かりそうだな。

 

「うん!問題はなさそうだけど、気分的にはあまり長くは持っていたくないなぁ。何となく使い方?みたいなのもわかるし、せっかくだからちょっと振ってみるけど大丈夫そう?」

「ああ、大丈夫だ。使い方はどこまでわかる?」

「うーん、本当に簡単な事くらいしか…そこまで大きく形は変えられなさそう」

「少しでも形を変えられるって事が驚きよ…」

 

 EGOに対する適性はそこまで無いみたいだな。ミミクリーは使いこなせれば多少の間を埋められる程度には大きく出来る。集団で固まっている敵を纏めて切るにはかなり便利な武器だ。

 

「んじゃ失礼して…えい!」

 

 ティオナが壁にミミクリーを何度か振り下ろすと、壁はそこらのナイフで紙を切るよりも容易く裂けた。太刀筋はかなり良い、流石は一線級だ。

 ある程度振るって、最後にミミクリーを大きく、太くして振り下ろした。爆発音のような音と共に通路の端から端まで罅が入る。

 

「うわぁ…うわぁ!コレすごい!欲しくなっちゃった!ちょっとだけ!ちょっとだけモンスター切ってみてもいい!?」

「やりすぎよティオナ!それにしても本当に形が変わったわね…それどころか重さも変わってない?どんな武器なのよそれ」

「儂も触ってみたいぞ!一回だけ!一回だけでいいから!」

「とりあえず個人差は大きそうだけどレベル5もあれば少なくとも持ち運びは出来そうかな?できればレベル4でも持てるか試したいけど流石にリスクが大きすぎるかな」

 

 少なくとも直ちに異常が起きる気配はなさそうだ。長期的な影響に関しては流石にわからないがティオナも一級フィクサー…ではなく冒険者だ。自己管理くらいはできるだろう。

 ガレスとティオネの視線をひしひしと感じながら、ティオナからミミクリーを受け取る。おい、さっさと離せ。そんなに名残惜しそうにするんじゃない。

 

「盛り上がっている所悪いが、用事が終わったならそろそろ移動するぞ。ここでのんびりしていたら余計な被害が出かねん」

「他の冒険者に鉢合わせたりしたらどうなるか分かった物じゃないからの」

「確かに少し時間を食い過ぎたかもね。リヴェリア、カーリー達を待機場所まで送ったら18階層まで戻って指揮を引き継いでくれ。ガレス・ティオネ・ティオナはカーリーと一緒に待機してくれ。彼女は十分に強いとは言えダンジョンの知識もないし、何より恩恵を授かってないからね」

 

 団長というものは凄いな。私が指示するとしたら攻撃と防御くらいしか出来ないだろうから素直に感心する。私は単独行動の方が多かったし、必要ない技術ではあったが。

 

「一応ティオネから聞いてはいたが、本当に恩恵を授かっていないのか?まあこんな武器を平然と持てる時点で只者ではないのはわかるが」

「気になるのはわかるが今はあんまり詮索せん方がいいじゃろう。どちらにせよロキのところに連れて行く事は確定しとるしの」

「それじゃあ、くれぐれも他の冒険者と鉢合わせないように。どうなるかわからないけど、ひどい混乱状態にはなるだろうからね」

「ああ、そっちは頼んだぞフィン。それではこちらも行動を開始するとしよう」

 

 フィンが駆け出すのを見送る。速いな、流石に素の状態では勝負にもならなそうな速さだ。EGOを使ってようやく勝負になるかどうかと言った所か?

 

「了解した…ティオナ、ミミクリーを任せよう」

「え!?いいの!?なんで!?やったー!」

 

 勿論ミミクリーを渡すのはきちんと考えてのことだ。私は素手でも普通に戦えるが彼女が素手でどれほど戦えるか判らないのと、ダンジョンに対する知識に乏しい私が持つよりもティオナに持たせて即応力を上げる方がいいと考えたからだ。

 あと熱視線が少し鬱陶しくなってきたのもある。ティオネもミミクリーをかなり気にしている様子だったし、ガレスに至ってはがっつり見ているし…。

 

「ティオナがそんな物欲しそうな視線でずっと見てるから気を遣われたんでしょ。気持ちは分からなくないけど、私はまだ触りたいとは思えないわね」

「儂は持ってみたいの。今までに見たことのない性質の武器じゃからな」

 

 ミミクリーの評価は予想より高いらしい。都市でもこれより良い武器となると探しても見つかる事は稀だろうから気持ちはわかる。

 武器の詳細を話しながら待機地点に向かう道中、先頭でミミクリーを貸したティオナが興奮しながらモンスターを叩き切る。

 

「すごいコレ!普通に振ってるだけでも強い!もっと大きくすれば遠征前に持ってた武器よりも良いかも!」

「貸してみろ」

 

 ティオナから一度ミミクリーを預かり長く、太く、そして重くする。剣の振り方を見て予想したティオナの性質に合った武器へと変形させる。

 

「うわぁー!何コレ何コレ!こんなに何でもできるの!凄い!」

「本当にすごいわね、その人に合わせたサイズに出来るって所が鍛冶屋泣かせね。見た所十二分に頑丈そうだし…次の遠征で持っていけないかしら」

「くそ〜…待機地点についたら貸すんじゃぞ!絶対じゃからな!」

「ガレス…強く興味を惹かれるのはわかるがかなりみっともないぞ。そもそもその台詞はティオナではなくカーリーに言うべきだろうに…」

 

 リヴェリア以外はミミクリーの性能に大興奮している。熱狂具合が凄まじいな、都市でも特異な武器ではあったがここだと群を抜いて異質な武器なのかも知れん。

 

「なぁリヴェリア、いくらなんでもここまで興奮するのは異常じゃないか?これより良い武器は無いのか?」

「剣としてのスペックだけならこれ以上の武器も多くはないが、あるだろう…だがカーリーの説明通りなら不壊属性(デュランダル)の武器に近い耐久性があると思われる武器だからな。不壊属性かつコレほどの性能となると流石にあるか判らん。それに加えてこれ単体で重さや長さが変わるとなると、神自らが生み出した武器となるだろうな」

 

 どうやらこの世界だと想定以上に異質な武器になるらしい。都市なら『遺跡』で見つけたとでも言っておけば大した詮索もなく納得してもらえるが、ここではそうも行かなそうだ。

 

「椿に頼んだら作ってくれんかのう…後で限界まで重くしてみてくれ!頼む!」

「別に構わないが…あんたの武器は斧だろう?そこまでこの剣に惹かれるとは思わなかったな」

「そりゃここまで特殊で強い武器を見たら誰だって興奮するじゃろ。リヴェリアだってこんな澄ました顔しとるが意識はずっとミミクリーに釘付けじゃぞ」

「私は未知の武器に対して警戒しているだけだ!というか実際に精神汚染される武器なんだろう。お前達も浮かれてないでもっと警戒をだな…」

 

 ガレスとリヴェリアが言い争いを始めてしまった。と言うよりはリヴェリアが一方的にガレスに説教していると言った感じだが。

 

「コレ本当に不思議な武器ねぇ、もしかしてそのコートとかも特殊な防具だったりするの?」

「いや、コレは多少の耐久力を兼ね備えた普通のコートだ。防具は自分で用意できるからな」

「へー!今持ってるってこと?ちょっと見せて〜!」

 

 口が滑ったか。疲れるし手の内はあまり晒したくないから気は進まないが…仕方ない、見せてやるか。

 

「わかった、今から見せてやる」

「やったー!」

「もう既にダダ甘になってるわね…まったくもう」

 

 いつもとやることは変わらない。ただ自らのEGOを発現させるだけだ。

 

 黒を基調として赤いラインの入った全身鎧を身に纏う。それと同時に全身から流れるように『赤い霧』が吹き出す。

 

「何コレ、私の目がおかしくなかったらミミクリーよりヤバい装備に見えるんだけど」

「信じられんな…魔法の一種か?だが詠唱も無しか。しかしコレは…」

「この感覚はエンチャントに近いか?だがスキルでのバフのような気もするな」

「すごい…これもEGO?」

「ああ、これは正真正銘『私のEGO』だ。不完全な物でも幻想体から抽出した物でもない」

 

 発現はできたが…酷い違和感を感じるな。明らかに弱くなっているし、消耗も酷い。理由はわからないが、こんな時研究所のメンバーが居てくれたらな…アインかカルメンなら何かしらの仮説を立ててくれたろうに。

 

「何というかまあ、つくづく規格外ね。明らかにミミクリーより高性能じゃない」

「でもミミクリーみたいな威圧感はないよね。ミミクリーがモンスターや闇派閥だとしたら…ガレスが前に出てる時とか、何が何でも守ってやる!って感じ?」

「待て、自らのEGOと言うことはカーリーも幻想体なのか?」

「いや、私は人間だ。人間のまま自らEGOを発現したのだが…知り合いの研究者に規格外と言われたから例外として捉えてくれ」

 

 尤も、私たちの理想に一番近かったのが私のこの状態だったらしいが…今は関係ないな。

 

「これは確かに最強名乗れるかも。恩恵なしでここまでの力を出してる時点でおかしいもんね…もしかして精霊だったりする?」

「滅多な事を言うなと言いたいが、確かに恩恵なしでこういった力を行使できるとなると、人間よりはエルフや精霊に近いか」

 

 精霊か、そんな可愛らしい物と並べられるのは些か不本意ではあるが、きっとこの世界だと上位の存在なんだろうな。

 

「これミミクリーを合わせれば最低でも私たちと勝負になる程度の感覚はあるわね。負ける気はないけど油断したら普通に相打ちにまで持っていかれるでしょ」

「少なくとも油断は出来んな。儂なら完封できるかもしれんが…いやミミクリーの機能が多すぎてわからんな。初見で無傷とは行かなそうじゃ」

「私は厳しい戦いになるだろうな。流石にこのレベルの前衛と一対一はやりたくない」

 

 お互い本気で戦う所を見れてないから推測にはなるが、戦って無傷で完勝できる相手は、良く見てリヴェリアくらいか。

 見た所リヴェリアもある程度の杖術は熟せそうだが、他三人と比べると確かに基礎的な能力が不足しているように見えるな。魔法がどの程度の物なのかにもよるが、大きく隙を晒すような物なら確かに相性は良くないな。

 

「そろそろいいか?コレはかなり気を張っている状態だから少し疲れるんだ」

「あ、うん!もう大丈夫だよ〜」

 

 断ってからEGOを解除する。やはり消耗も激しくなっているな、原因の究明を急いだほうがよさそうだ。こんな状態では勝てる戦いも勝てない。

 

「どうした?随分と不満げじゃないか。流石に絡みがキツくなってきたか?それなら私から言ってやるが」

「いや、EGOに違和感を感じただけだ。もしかしたら転移の影響かもしれないな。使う時は慎重に決めなければ」

「そうか、あまり無茶はするなよ」

 

 何かが引っ掛かる感じだ。転移の影響か宙に浮いているような感覚もある。コレはあまりいい状態とは言えなさそうだ、気を引き締めておこう。

 

「私もあんな防具欲しいな〜、あ、でも全身鎧ってのはちょっと動きにくそうかもな〜」

「確かにあの防具はかなりよさそうね。ガレスとかに一番合ってそう」

「そうじゃなぁ、一応椿に聞いてみるか…だがあそこまでの性能となると、万が一作れたとしても値段はそれはもう恐ろしい事になるじゃろうな」

 

 ティオネとティオナは…何というか、下着と同等レベルで露出が多過ぎて、戦闘するような格好には見えない。ガレスは軽装だが、恐らく今は装備してないだけでちゃんとした防具があると見た。

 

「…なぁカーリー、確かEGOというものはその存在の一部分を抽出したものだったか?」

「確かそうだったはずだ…正直私もよくわからん。研究者ではなく一介の戦闘員みたいなものだったからな」

「ということはさっきの防具はカーリーの何かを映し出したものということか?」

「そうなるな」

「ふむ…」

 

 リヴェリアが黙り込んでしまった、今の質問は何だったんだ?

 

「きっと未知の技術について考えてるんだよ。さっきの魔法っぽかったし!」

「もしくは違和感について考えているのかも。少し慎重すぎる気もするけれどこのメンバーだったらそれくらいで釣り合いが取れている気もするわね」

「そうじゃな、わしらも考える時は考えるが基本は悩むより動く派じゃからな」

「私もそうだ。身の回りにいたのがほとんど研究者だったし、私に期待されていた役割は用心棒だったからな」

 

 外郭は危険が多かった。少なくともここいらのモンスターどころか、最初に倒したミノタウロスも歯牙にも掛けない化け物がいた。それに得体の知れない奴らもごまんと居たし…

 

「どんなモンスターがいたの?ウダイオスみたいなでかいのとかいたのかなぁ」

「それはもう色々いたぞ。このミミクリーの元になった『何もない』は人の肉体を奪おうとするかなり危険な幻想体だった」

「なんで『何もない』って名前なの?」

「こいつが他人の肉体を奪った時に、寄生生物か何かだろうと全身を解体して探しても、文字通り『何もなかった』からだ」

「想像以上に面倒そうな化け物が出てきたわね…もうちょっとマイルドというか、モンスターっぽいのは居なかったの?」

 

 モンスターっぽい幻想体か。わかりやすく動物系の部位を持った奴が良さそうだな…となるとあいつか。

 

「モンスターか…そうだな、口が二つあるサメに人間の下半身がついたような奴がいたな」

「おお!ミノタウロスみたいな感じ!?」

「アレとはかなり毛色が違う気もするが…まぁそんなものだ」

「はえ〜、強かったの?」

「突進での攻撃はかなり素早く強力だったけど、耐久性がなかったから少し叩けば鎮圧できた。それに比べると『何もない』はとんでもなく強かったな」

「カーリー相手にとんでもなく強かったって言わせるとか恐ろしいわね…どんな奴だったの?」

「純粋に物理的な攻撃が極端に効きにくい。力尽くで抑え込んだがかなり手こずったな」

「うわぁ〜面倒くさそ〜…私たちが戦っても時間かかりそうだねぇ」

 

 正直あの時は敵が多かったし、爪が二人がかりで妨害してきていたからとんでもなく苦戦したが、一対一ならもっと楽に倒せてただろうな。もっと早く戻れていれば…いやあの日外出していなければもっと被害は少なく出来たはずなのに…

 

「カーリー!また難しい顔になってるー!」

「あ?ああ、悪い、少し考え事をしていた」

「こういう時は…武勇伝よ!一線級の冒険者たるもの一個や二個は自慢できる武勇伝をもってなきゃね!」

「そうだね!カーリーって特色って奴なんでしょ?フィクサーっていうものがあまりピンとこないけど、話を聞くに冒険者っぽい話もいくつかありそうだね!」

 

 武勇伝か。無くは無いが…流石に人間の敵組織を一人残らず殲滅した話などが適切とは思えないからな。恐らく幻想体との戦闘の話が良さそうだ。

 

「ふむ、それほど自慢できる話はないけど…それじゃあ先ずはティオナから話してくれないか?どんな感じの話がいいか把握したい」

「まっかせなさ〜い!じゃあ先ずは軽く…オラリオに来てから初めてレベルアップした時の話かな!」

 

 武勇伝か。『赤い霧』と呼ばれるようになってからも多くの名声を上げてきた自負はあるが…所詮力だけがあったところでな。




〜なぜなに!プロムン教室~

幻想体ってな〜あに?


幻想体は都市に生息する不思議な生き物や物品の事だぞ!大抵はスペシャルでデンジャラスなパワーを持っていて、油断した職員を痛い目に合わせるんだ!

幻想体は危険度に応じて低い順に『ZAYIN』『TETH』『HE』『WAW』『ALEPH』の5段階に分かれているぞ!

『何もない』は危険度最高の『ALEPH』だけど素早い対応をすれば案外楽に処理できちゃうぞ!『異常事態(イレギュラー)』が起きても冷静に、適切な対応をすればどんな相手でも被害を出さずに乗り切れるって事だね!
逆に『ZAYIN』でも管理をミスしたら問答無用で職員を『持っていく』幻想体も居るぞ!コラそこ!持っていかれた方が職員にとっては幸せとか言わない!エビ漁船にはエビ漁船の痛みがあるかもしれないだろ!

みんなも『Lobotomy Corporation』で恐怖に直面し、未来を創るんだ!
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