赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】 作:ピグリツィア
合流地点に到着したがやることもないのでリヴェリアを見送った後も四人で武勇伝を語りあう。
ティオナ達から聞いた感じだとオラリオでは人対人よりかは人外…モンスターとの戦いの方が武勇伝として適しているらしい。
「ふむ、この世界では武勇伝はほとんどがレベルアップにつながる話になるんだな」
「そうじゃな。レベルアップというのは即ち、己の壁を越えたという証明に他ならないからのう。自らの心にも記憶にも深く刻まれるものじゃ。ワシも初めてレベルが上がった時の事は鮮明に思い出せるぞ!」
感覚としてはフィクサーとしての階級が上がったときに近いか?いや、それとはまた違うか。なんせ『レベルアップ』には身体能力の大幅な向上が伴うらしいし、『成長している実感』があるんだろう。
「『冒険者は冒険してはならない』なんて言われているけれど過度に恐れすぎるのも考えものね。まぁ仕方がないことではあるんだけど」
「でもカーリーも凄いよね、恩恵があったらレベル4は硬いね。そりゃこんなに強い訳だって感じ」
「羨ましいとは欠片も思えんがな。万が一儂らが
随分な言いようだな、だが23区の話をした私が一番悪いとわかっている為なにも言い返せない。せめて他の裏路地だったらもう少し違う反応だったかも知れないが…
「美食を追求するために人間を調理するって、いくら何でもねぇ…人間として死ねるだけ自分の環境がマシだったかもって思っちゃったわ」
「私たちも
やっぱり闇派閥の話に合わせて話すのに23区の日常を選んだのは大間違いだった。まだ五本指との戦闘や都市の星を落とす話の方が良かっただろう。
「予想以上に生々しいのが出て来て引いちゃったわね…対抗して暗黒期の話でもする?」
「やめろティオネ、これ以上嫌な事を考えたくないわ」
「え、えっと…もっと幻想体のこと知りたいなー!なんかいい感じのやつお願い!」
良い感じの奴なんて言われてもな。都市でそんな存在は居ない…と言いたいがゼロという訳でもないか。
「ふむ…モンスターとは趣が違うが『幸せなテディ』という熊の人形の幻想体について話すか」
「熊の人形?あの、ふわふわした子供向けのような?」
「そうだ、まあイメージしている物よりだいぶ傷んでいると思うが…捨てられた人形が動くようになった幻想体なんだ。こいつは担当曰く『愛に飢えている』らしい」
「ほう、愛に飢えた人形か」
「そんな訳で愛着を持った職員に抱擁するんだ」
「かわいい〜!熊の人形が自分から抱きついてくるの!?」
「ああ、離れないように、強く強くな」
目を輝かせるティオナとは対照的に何かを察したのかティオネとガレスが半目でじっと私を見つめる。
「あー…カーリー?ティオナ曰くカワイイ熊ちゃんはどれくらいの強さで抱き締めてくれるの?」
「ある者は窒息、ある者は首の骨を折られていたと聞く」
「ほれ見ろそんな事だろうと思ったわい」
ティオネとガレスが溜息を吐いてティオナは真顔になったな、残念だが幻想体とは得てしてそういう物だ。
「もう何も信じられない」
「ホイホイ信じるあんたが悪いわよ。何もないの時点で立派な化け物やってるんだからその同類にもなればこういうのだって想像できるでしょ」
「だって…だって〜!」
「流石に話し方に悪意を感じたがな。絶対狙ったじゃろ」
「幻想体がどういうものかよくわかっただろう?」
これ以上なくわかりやすい説明になったと思う。どのような姿形をしていようが幻想体は幻想体だって事だ。
「でもなんというか、コメントしにくい幻想体ね」
「話を聞く限り悪意はないんじゃろう?」
「こういう行動は捨てられる恐怖から来ていると言っていた。結果はどうあれ悪意で動くような幻想体ではないらしい」
「うう〜…モヤッとするなぁ〜!これがモンスターだったらアレだけど、理由とか聞くとなあ…」
この世界のモンスターはどちらかというと獣に近い存在だろう。それも救いようのない、人類の敵か。
それと比べれば確かに、幻想体はどこか人間臭いところもあるかもしれないな。だが化け物は化け物だ。醜悪で、善意も悪意も関係なく人に害を齎す存在だ。
「まあ所詮は幻想体も化け物に過ぎん。あいつらは本能で動くような奴らだし会話なんてしようもないな」
「そういう話を聞くとちょっと戦いにくそうだけど、人を襲うならそうも言ってられないわよね」
そういう事だ。もし暴れたり人に危害を加えるなら鎮圧する。それがどんな理由で行動してようとな。どうせ反省も死にもしないんだ、出来るだけ痛めつけるのが良い。
「なんか不完全燃焼というか、スッキリしないなぁ。そうだ、オラリオの話をしよう!」
「そうね、都市の治安についてもざっと聞いたけど…なんというか、倫理観が致命的なまでにずれてそうだからそこら辺を教えないとね」
「失礼な、流石に戦うべき相手とそうでない者くらい見分けられるぞ」
「悪人も大したことがないからと放置せんか心配なんじゃよ。詐欺とかぼったくりには会いそうじゃからな」
そこらへんの事情は置いといて、この世界で最大の巣とも言えるオラリオのことを知るのは悪くないだろう。素直に話を聞くこととする。
「まずは…治安維持を担当しているガネーシャファミリアかな。ミミクリーを持ってたらギルドからロキファミリアのホームに戻るまで10回以上呼び止められそうだし…」
「くれぐれもちょっと敵意を出しながら呼び止められたとしても攻撃するんじゃないぞ。ファミリアとしては間違いなく善の側じゃからな」
「めんどくさいからって叩きのめしていくのもダメよ。普通に捕まるから」
私に対する注意がちょっとかしこい動物や蛮族を相手にするそれだ。私はそんなに見境なく暴れる獣か何かに見えるのか。
「あんたらは私を何だと思っているんだ?狂戦士かならずものか?」
「いやぁ、そっちの治安が悪すぎてあまりにも神経質になりすぎてないか気になって…」
「まぁその武器を平然と持っている時点でこの世界では狂人側に近い気もするがな!」
散々な言われようじゃないか?いくら何でもボロクソに貶しすぎだぞ。いや、もしかしたらこの世界は私が想像つかないほど平和なのかもしれないが。
「まあそこら辺は置いといて…できるだけ目立たずに過ごすってのは多分無理だろうからちょっと神経質なくらいに警告してるのよ」
「見た目もあるけど纏う雰囲気が今のオラリオに合ってないというか、まぁ目立つだろうね!自然と目を惹かれると思う!」
「絶対ダンジョンの外に出てもその張り詰めた警戒心を緩めることは無いじゃろうからな。全く知らない土地ならそれも無理はなかろうが」
流石に見ず知らずの新天地で気を抜けるほど豪胆ではない。そこがどんなに安全な巣であろうともその巣の規律もあれば裏路地も存在するものだからな。とはいえそもそもこのスタンス自体が、この世界では異質なのだろう。この調子だと家で無防備に寝ても安全だったりするかもな。
「そうそう!神様には絶対に喧嘩を売らない様に!買うのもダメだからね!」
「人間にも言えるが殺すのはもっとダメじゃぞ。普通に禁忌じゃからな」
「よく絡んでくるタイプの神もいるけどそういうのがきた時は…とりあえず逃げる感じで!絶対に物理的に往なしちゃダメなんだからね!神ってのは一般人並みにすっごい弱い存在だから!」
「お前らが私をどういう目で見てるかはよ〜くわかった。喧嘩を売っているなら買ってもいいんだぞ?」
いい加減言い過ぎだ、私にも我慢の限界というものはある。というかもう野犬扱いに近い気すらしてきたぞ。
「だって倫理を一から叩き込まなきゃ絶対に問題を起こしそうだもん!倫理観が違いすぎる!」
「なんていうか街中で人が失踪したり死ぬのが日常みたいな口ぶりだから不安になるのよね」
「みたいじゃなくて日常なんだよ。とりあえずオラリオがどれだけ安全で、諍いを起こしたら面倒かも何となくわかったからもっと私の興味が惹かれそうな話題とかないのか?」
だから3人ともその怪しいものを見る目をやめてくれ。疑わしいのはわかるが私は都市では比較的イカれてない筈だから何とかなるって。
「本当かなぁ〜。まぁいいや!それなら…何の話題がいいかな?」
「武器じゃないかのう、ミミクリーは封印されるじゃろうからな」
「悪いけど同意するわ。とりあえずこの禍々しい気配を何とかしなきゃ街中で持ち歩くのは絶対に禁止されるでしょうね」
それは…かなり困るが仕方のない事なんだろう。こんな事になるなら予備で小型の工房武器を持っておくべきだったな。
「とはいえミミクリーに並ぶ武器かぁ。普通に耐久力的な面で見ても一線級じゃないと不安になるよねぇ」
「ふむ、そこはワシから椿に話を通しておくか。カーリーを直接見たら相応の武器を打ってくれるじゃろう」
「ゴブニュの方でもいいけど…頑丈さとか考えたら鍛治ギルドのトップに直接依頼した方が良さそうね。ゴブニュの方はこれからすっごく忙しくなるし…」
「主にうちのファミリアのせいでな!ガハハハハ!はぁ…」
一気に空気が重くなってしまった、武器代で頭を抱える事になってしまったからだろう。迫る高額請求書は誰だって嫌なものだ。比較的金への執着が薄い私も例外ではない。
「金はとりあえずワシが出そう。ミノタウロスを処分させた迷惑料と、ミミクリーを触らせてくれた礼じゃ!」
「形はミミクリーに近い方がいいわよね、あと伸び縮みする機能は絶対につかないと思うわ」
至れり尽くせり、一から十まで面倒を見てくれるようだ。お人好しなのか、何か裏があるのか。
「悪いな、何から何まで。だがどうしてここまで面倒を見てくれるんだ?」
「まだ予想でしかないが…うちのファミリアに入る事になると思うからの。流石にフィンがおまえを野放しにすることは無いじゃろう。恩恵を受けるかはロキとカーリーで話し合って決めるとしても活動拠点はロキファミリアになるじゃろうな」
「普通のファミリアに入られるならまだしも巡り巡って闇派閥紛いのファミリアに入られたらヤバいもんね」
つまり首輪をつけたいと言ったところか。あまり束縛してこないならばやぶさかでもない。見知らぬ土地で一から活動拠点を作るのもなかなかに疲れる事だからな。特色としての伝手を全く使えないのも厳しい。
「ロキがなんていうか次第ではあるけどカーリーが望むなら無理に冒険者になることもないよ。仕事が全くないわけじゃない筈だし」
「いや、私はこれ以外の生き方を知らないから、もし世話になるとしたら冒険者一択だろうな。恩恵を受けるかは別としてな」
「恩恵がないとダンジョンには入れないぞ。まぁそもそも恩恵を受けていない人間がダンジョンに入ることを想定していないだろうから口先で何とでもできるだろうがな!」
「あまり大声で言うことでもないけれどね。いちいち毎日のように増える新人冒険者の服をひっぺがして恩恵があるか確認することなんてしないわね」
「じゃあちょっと早いけどこれからよろしくね!あとで仲間の紹介もしなきゃな〜」
3人とも流れ者の私を嫌な顔もせずに受け入れてくれるのか。裏路地とは全く違う、見ず知らずの人間に敵意を向けることもなく手を差し伸べられるのか…私たちが目指した形とは違うがこれも一つの理想の形なのかもしれないな。
数時間かけてオラリオと都市の治安の差異について話していると、フィンとリヴェリアが大きな荷物を持ってやってきた。
「やあみんな、随分と親交を深めた様だね。カーリーには悪いけど僕とリヴェリアの3人でここで一晩明かす事になったよ。ティオネとティオナはみんなが心配しているから今日のところはガレスと戻ってくれるかい?ガレスは指揮を引き継いでくれ。流石に問題は起こらないと思うけどね」
「別にここで一晩明かすのは何も問題ないが…トップが長く拠点を開けても大丈夫なのか?」
「最初は僕1人でカーリーとここで待機する予定だったんだけどね」
「私たちが一晩不在にした所でどうこうなるほどうちのファミリアは柔じゃない。それに男女2人きりで夜を明かすと言うのは少し外聞が悪いだろう?追加で言うととある理由でフィンと2人きりにするのは少しばかり問題の火種になりそうだと思ったのでな」
最後の言葉と共にリヴェリアはティオネの方を見る。みんな納得した様な顔をしているあたりティオネに何かしらの原因があると見た。
「別に私は構わなかったのだがな、そちらで決めたのならば私には異論はない」
構わないと言ったあたりでティオネからそこそこ強い殺気をぶつけられる。いきなりどうしたんだ、思わずミミクリーを構えそうになったぞ。
「ガレスとリヴェリアじゃダメなんですか?団長が多少長く空けても問題ないとはいえ…なんか良くないじゃないですか」
「なんか良くないとは何だ。お前が言いたいことはわかるがこっちにも必要な話があるんだ。結局ロキの元まで帰って話し合いをしたようだしな」
「ほらお姉ちゃん〜団長を困らせるのは良くないから早く戻ろうね〜。みんな心配してるらしいし早く戻って安心させてあげよ?」
「ぐうぅ…カーリー!くれぐれも団長に色目を使ったりしない様に!わかった!?ちょっと優しくされたからってコロッと落ちない様に!リヴェリアもきちんとカーリーを監視しといてよね!」
ティオネの目が凄まじく血走ってて怖い。誰が色目なんか使うか、そういうのはカルメンの仕事だ。いや、かなり語弊はあるがどちらにせよそういうのは私には全然向いてない。
「じゃーねカーリー!またあとでいっぱいお話ししようね〜!」
「最後の最後にティオネが迷惑かけたの。それじゃあまた明日な!」
ガレスがティオネを引きずっていった。それを見なかった事にしてティオナに手を振りかえす。
「はぁ、なんか本当に申し訳ないな。ティオネは何というか、フィンのことになると見境がなくなるからな」
「ああ、凄まじい豹変ぶりだったな」
「なんかごめんね?多分君にどうこうすることはないと思うけれど彼女は僕のことに限っては少しばかり神経質なんだ」
先ほど4人で話していた時とは別人の様な雰囲気だったな。何が彼女をあの様にするのか皆目見当もつかない…いや、何となく分かってはいるが憶測に過ぎない、余計なことは言わないでおこう。
「さて、ここからはかなり大切な話だ。わからないことがあったらすぐに聞いてくれ」
「ああ」
「まずは今後のことだけど、移動は明後日の夕暮れになった。流石に明日すぐに交通制限とかを出来る訳じゃないからね」
「それまではここで待機してもらうことになる。申し訳ないがそのつもりでいてくれ。食事とかはこちらで用意するから安心してくれ」
どうやら予想より大事になっている様だな。できれば早く動きたいが、面倒事が増えそうだからここは耐えるべきか。
「それと一番大切なことなんだけど…ロキがギルド前で出迎える予定になっている。ガネーシャとヘファイストスも来る可能性が高いね」
「ロキというのは…たしかお前たちの主人だったか?てっきりホームで会うことになると思っていたのだが」
「君の話をしたらすごい興味を持った、と言うよりは警戒心の方が強いかな。出来るだけ早く直接見定めたいらしくてね。礼儀とかはさほど気にしなくてもいいよ」
「恩恵無しでミノタウロスを倒した上に、一級冒険者が警戒するほどの武器を持った異世界から来たと思われる謎の女。まぁ警戒しない方がおかしいな」
そうだな、私はこの世界の常識を根底から覆す様な異物な訳だ。警戒されて当然で、問答無用で拘束や殺しにかかられないのが意外なまでだ。
「ガネーシャは確か治安維持を担当しているファミリアだったな。そいつが来るのはわかるがヘファイストスは工房みたいな所の神だよな、そこの神が何の用で私に会いに来るんだ?」
「ヘファイストスはロキの指名でミミクリーの対応をして貰う予定だよ。あれをそのままにして街中を歩いたら酷い混乱が起きるだろうからね」
ああ、そういえばそんな事も言っていたか。都市で言うならツヴァイ協会とトレス協会のトップが揃って来るわけか…そう考えると結構大がかりになるな。
「把握した、当日はフィンの指示に従って動けば良いのか?」
「基本的にはそれで問題ないよ。もし何かあったらガレスの近くに居てくれ。それと、もしかしたら大量の神が見に来るかもね。ほぼ確実と言ってもいい。交通制限をかけてまで運ぶものが気になるだろうから」
「はぁ、本当に神は困ったものだな。危険だと言っているのに向こうから寄ってくるものだから…」
野次馬根性という物か。そいつらは好奇心は猫をも殺すという諺を知らないのか。いや、確か暇つぶしで下界に降りてきているとか何とか言っていたな。つまりこういうものに惹かれるのは半ば必然といった所なのだろう。
「その時は私達とロキで周囲を固めるから変なことにはならないと思うが、そのつもりでいてくれ」
「次は明日の予定だね。明日は今日会ってない幹部の2人と一応会わせようと思ったんだけど、リヴェリアはどう思う?」
「アイズとベートか…どうするかな…」
リヴェリアが頭を抱えてうんうんと唸っている。どうやら一癖ある人物の様だ。
「一応意見を聞いたけど会わせるのは確定なんだよね。ミミクリーの輸送当日は幹部全員でロキファミリアのホームに行く予定だし」
「それはわかっている。問題はどの様に会わせるかだろう?とりあえず個別で会わせた方が良さそうではあるが…」
「そこまで決まっているなら悩む必要もないだろう?そこまでの問題児なのか?」
「ベートはまだわかりやすいから良いんだけど、アイズがどう出るか予想できないんだよね。一つはミミクリーに対する反応、もう一つは君に対する反応だ」
「モンスターと見紛う見た目、明らかに有害だと思える雰囲気、強大な存在特有の威圧感。アイズが敵愾心を抱きそうな武器だな」
どうやらアイズとやらはミミクリーとの相性がすこぶる悪いらしい。しかし私にはどうしようもない問題なので黙って話の続きを促す。
「それを扱う君の存在をどう取るか…強い警戒ならまだしも、敵愾心を抱かれてしまったら説得にも苦労するだろうからね」
「あの子は頑固なところがあるからな、一目で敵対されたら心を開かせるには相応の手間がかかるぞ」
「かといって会わせない選択肢は無いと…かなりの博打だな、これは」
「こっちで予防線を張ろうにも直感的な彼女相手では効果的とは言えないだろうからね」
「出会って即『エアリアル』、なんてことにならん保証もない。そうなったら私たちで押さえ込むが…」
どうやら随分とモンスターに厳しい性格をしている様だ。気持ちは分からんでもないが被害に遭うこちらとしてはたまった物ではない。
「…とりあえずベートの事を教えよう。口が悪くて威圧的、他人を見下す発言を取りがちだ。最初に敵対的な発言をしてくるとは思うが聞き流してくれ。彼は素直じゃなくてね、まあ照れ隠しの様な物だと考えてくれると助かる」
話を聞く限りは、都市でもそこそこ見る類の人間みたいだな。ちょっとした規模の組織にいるチンピラみたいな奴なんだろう。
「そっちも随分と大きな問題を抱えてそうだな?まあその手の輩には慣れている。危害を加えてくることさえなければどうとでもいなせるさ」
「頼もしいな。他にも会わせたい者たちはいるが…とりあえずそれは後回しだな。とにかく明日明後日をどうにか乗り越えねば話にならん」
「重ねて言うが君はイレギュラーで、こちらとしても前例のない経験だ。最悪街中でいきなり戦闘が始まる、なんて事もないとは言い切れない。その時は僕達に任せて、とりあえずガレスの後ろに付いてほしい。無論そうならない様に万全を期してはいるけどね」
確かに、襲われたからと言ってミミクリーで反撃などし始めたらいよいよ収拾がつかなくなってしまうな。出来る限り武力行使は自重することとしよう。
「ガレスは僕達のファミリアの中で一番守ることに長けている。君に攻撃が届くことは、リヴェリアクラスの魔法使いが超広範囲攻撃魔法を使わない限りは無いだろうね」
「自慢ではないが私ほどの魔法使いがいるという情報は今のところ確認されていないし、万が一私がカーリーに危害を加えようと魔法を行使したら遠くでもわかる。つまり絶対にカーリーに攻撃が届くことはないということだ」
「随分と頼もしい事を言ってくれるじゃないか。それにしても都市で武力によって名を挙げた私が守られる側とは、人生何があるか分からないな」
「それもそうだ。君の話が本当ならこっちで言えば負傷もしていない一級冒険者が守られる様な状況なんだろう?僕でも全くもって想像がつかないな」
元の世界で私が護衛されるとして…何を相手に想定して、誰が守ってくれるんだ?特色を片端から集めて翼と戦争でもするのか?いや、その場合私が真っ先に前線に出ることになるか。
「ところで、ところでだ…」
リヴェリアが随分と神妙な表情でこちらを見てくる。何か気に触る様な事を言ってしまっただろうか。
「カーリー、今君のEGOを見せてもらえないだろうか」
「別に良いが…何か気になることでもあったのか?」
「ああ、少し気になることがあってな…」
そこまで真剣な表情で答えるのか。もしかしたらEGOの不調の手掛かりになるかもしれないな。
「EGOと言うと、ミミクリーの様なものかい?」
「そうだな、私のEGOは防具なんだ。フィンと別れた後に4人に見せたのだが、少し調子が悪くてな」
「調子が悪い?違和感程度の物だと思ったが…そうなると通常時のEGOはどんなものになるやら」
「リヴェリアの様子を見るにどうやらミミクリー以上に凄まじいものを見ることになりそうだね」
一呼吸入れてEGOを発現させる。やはり調子が悪いな、力が入りきっていない感覚がある。穴の空いた風船に空気を入れて膨らませようとしているような、力が抜けて行く感覚だ。
「これは想定以上だね…」
「ふむ…やはりそうだな。ありがとう、もう大丈夫だ。フィンはわかったか?」
「ああ、確かに凄まじい力だね。そしてリヴェリアが気になった点もわかった」
「どんな違和感があったんだ?いつでも万全の状態で発現できる様にしておきたいんだ」
そうでなければいざという時に敵を十全に倒せないかもしれない。もしそれが原因で敵を倒し損ねたら後悔しても仕切れない。
「ああ、さっき話したアイズと同じ雰囲気がしてな…厳密に言えば違うものだったが、とあるスキルを使った時の状態に近い物だ」
「彼女の精神と似た物っていうのが気になったんだろう、君の境遇を考えれば不思議ではないけれどね」
詳しく説明する気はなさそうだ、確かステイタスについては秘匿するのが常識だったか。アイズのスキルというのも気になるが、詮索するのは控えておくか。
「そうか…もし明日の顔合わせがうまくいったら一度そのスキルを見せてもらうのも良いかもな」
「そうそう見せて貰える物でもないけど、機会があったら見てもらうのも良いかもね…いつかアイズにもそのEGOを見せてあげてくれ」
「自分に近しいものを客観視できれば少しは行動も変わってくれるかもしれないからな…私からも頼む」
どうやらアイズとやらは随分と愛されていると同時に大きな問題を抱えている様だな。確かにこの平和な世界で私と近い精神性を持っているとしたら不安になるのも頷ける。
「そうだな、だがそれもこれも明日の顔合わせが上手くいったらだ。そうでなければ話にもならないだろ?」
「わかっている。明日の顔合わせは何としてでも上手く行く様に努力しよう」
不安はあるが何にせよ成るようにしか成らない。私は私の出来る事をするだけ、都市と変わらないな。
裏路地が何処にあるかは1話の後書に書いたね!だから今回は実際に裏路地がどんな所か教えよう!
とはいえ裏路地は何処の巣に属しているかで治安が大きく変わるぞ!だから今回はカーリーの出身地『23区の裏路地』について!
結構悲惨な生い立ちのヒリュテ姉妹が引いちゃうくらいには治安が終わっているのが23区!通称『グルメ通り』!グルメ漫画もびっくりするくらい貪欲に『美食』を求めて多くの人が活動しているんだ!ウマイ!これはあなたの大好きな…
カーリーがいた頃の23区は各組織の抗争で特に治安が酷かったらしいぞ!どこを見ても人と人が織りなす地獄が見れるらしいぞ!
仲良くしてた隣人が次の日には身包みとか四肢とか『中身』を取られて転がっているような場所だぞ!別にそこの偉い人がそういう行為を強制している訳ではないのがタチ悪いね!みんな生きるのに必死なんだ!まあ大目に見てやってよ。
カーリー曰く、『裏路地の被害者は加害者になり損ねた被害者』らしいぞ!そうやって今日も都市は回っているんだね!