赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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『問題児』達

 さて、何事も無かった一晩を過ごし、質素な朝食(ダンジョン内なので仕方ないが)を摂って、いよいよリヴェリアが迎えに行ったアイズ・ヴァレンシュタインとベート・ローガとの対面…だったのだが、どうやら少し問題が起きた様だ。

 

「すまない、レフィーヤがどうしてもと言うのでな、連れてきてしまった。一応通路の奥で待っているが…まだ来れそうにないな」

 

 どうやら予定外の客人が来たみたいだが、リヴェリアの表情は優れない。性格に難のある奴って訳ではなさそうだが…

 

「そのレフィーヤってのは何者なんだ?」

「リヴェリアの弟子でエルフの子なんだけど、まだ少し未熟でね。ミミクリーはちょっと刺激が強すぎたかな」

「少しすれば落ち着くとは思うが…仕方ない、少し様子を見てくるか」

「とりあえず予定通りベートと会ってもらおうか。リヴェリアはアイズと一緒にレフィーヤについていてあげてくれ」

 

 多少のトラブルはあったらしいがとりあえず軌道は修正できそうだ。ベート…確か威圧的な態度の獣人だったか。

 奥から姿を見せた、顔に大きな刺青を入れた銀髪の青年は、ミミクリーを警戒しながら私を怪訝な表情で見る。

 

「あー…フィン、こいつが護衛対象だったか?」

 

 事前に聞いていた情報とリアクションが違うな。もっとこっちを蔑むような物言いをすると思ったんだが。

 

「そうだけど何か疑問でもあったかな?」

「今の俺より雑魚とは言えこいつに護衛なんて必要ねぇだろ。また下層に潜るわけでもねえのによ。まぁそっちの…なんなんだ?モンスター擬きは気になるが」

「君からその言葉が聞けるのはちょっと意外だね。てっきり会ってすぐに『雑魚は大人しく俺の後ろに隠れとけ』くらい言うと思ったんだけど」

「それは俺もそいつも馬鹿にしすぎだ。確かにそいつは俺より弱えが…ステータス差なんざこいつが恩恵を手に入れて暫くダンジョンに潜れば後は技量でどうとでもなる差だ。そいつは一目見てわかる程度には何度も修羅場抜けてんだろ…ってかどこで拾ってきたんだこんな奴…」

 

 強い警戒心は抱かれているものの、予想以上に私のことを評価してくれた結果の様だ。これはかなり楽に話が進みそうだな。

 

「…君が良い意味で僕の予想を裏切ってくれたことがすごく嬉しいよ。それはそれとして地上に上がった時にこの武器に対して誰がどんな反応をするか予想できないから、万全を期すために幹部で固めようと思っているんだ。それならどこも迂闊に手を出そうとしないだろう?」

「はぁ…まあ言いたいことはわかる、余計な大事にしたくねえんだろ。こいつの目を見りゃ雑魚が絡んできた時にどうなるか何となくわかるからな。おい、てめぇ。多少は出来るんだろうが俺が上、お前が下だ。雑魚は大人しく隠れて余計な真似はすんなよ。問題を起こした時にケツを拭くのは俺たちになるんだからな」

「ああ、問題が起きない事が一番だがフィンも言う様に何が起こるかは分からないからな。何かあった時はお前たちに任せるよ」

 

 答え切る前に背中を向けて立ち去ってしまったが、事前に聞いていた予想よりはいい反応だったな。

 

「まさかベートがあんな反応を見せるなんて、つくづくイレギュラーなんだね、君は」

「確かに、話に聞いていた狂犬という様な反応では無かったな」

 

 フィンが笑みを隠さずにベートの背を見る。フィンにとってこの結果は良いものだったのだろう。私としても話が拗れなくて良い。

 

「事前にどんな理由で会わせるか教えておいたのが効いたのかもね。ベート風に言うなら「守られる雑魚」が「あからさまな厄介事の種」にランクアップしたのかもね?」

「それはそれは、光栄な事だな」

 

 重要人物の護衛から危険人物の護送にランクアップしたらしい。喜んで良いかは微妙な所だな。

 

「さて、次はアイズか。道中での反応はそこまで大きく無かったが、どうなるかな」

「まぁ出たとこ勝負だろ。成るように成るさ」

 

 奥から金髪の少女が向かってくる。敵意は…微かにあるがそれよりも困惑の方が大きいのか?私よりもミミクリーの方にばかり意識を向けている。

 

「フィン、それは?」

「彼女の武器だ。これと彼女を護送するのが今回の目的だよ」

「…モンスター?違う…よく分からない…」

 

 頭を抱えて悩んでいるが視線はミミクリーから外さない。裏路地で腐るほど見た憎悪の視線…というには困惑の色が強すぎるか。

 

「彼女曰く、幻想体という存在から抽出したEGOというものらしい。つまり僕達の常識で測れないものだ。コレはそういうものとして受け止めるしかないんだよ」

「そういうもの…わかった、とりあえずそういうことにしておく。それでそっちの人は?」

 

 ようやく視線をミミクリーからこちらに移してくれた。さっきまではミミクリーのことで頭がいっぱいと言った感じだったしな。

 

「彼女はカーリー。遠い所から事故でここに来た…いわゆる便利屋だね。戦闘も得意とは言っているけど、今回彼女に戦闘をさせるのは極力控えたい。わかってくれるかい?」

「…うん、わかった。私はアイズ。よろしく」

「カーリーだ、よろしく頼む」

 

 …終わりのようだ。なんというか掴み所のない子だな。

 

「フィン、レフィーヤはどうするの?」

「そうだね、これも経験だ。問題なさそうだったらこっちに連れてきてくれ」

「わかった」

 

 そう言ってさっさと戻ってしまった、不思議な子だったな。纏う雰囲気も常人とはかけ離れた…何処となく幻想体のような感覚もあったな。そういう意味でも気になる子だ。

 

「さすがのアイズでもコレについてはかなり悩んでいた様だね。それも無理はないけどね」

「もともとこの世界に存在しないものだからな。さっきフィンが言った様にこれはこれとして受け止めるしかないんだろう」

「そうだね、今後もうちょっと詳しい説明を聞いたりこちらで独自に調べてどういうものか見定めないとね。さて、次はレフィーヤが来ると思うけれど、できるだけ優しく接してあげてくれないかな?ミミクリーに酷く怯えていたからね」

「わかった、そこまで得意ではないが努力はしよう」

 

 リヴェリアとアイズに挟まれている女の子がレフィーヤか。呼吸を荒くしてガチガチに緊張している、顔も真っ白だ。今にも泣き喚いて逃げ出しそうだが、冒険者としての経験でそれを押さえ込んでいるのか。

 

「大丈夫か?無理はするなよ」

「…ハッ、はい、私、は、レフィーヤです…よろしくお願いします」

「カーリーだ。しばらくロキファミリアに世話になる予定だ」

 

 極度の緊張で体が小刻みに震えている。視線はあちこちに彷徨っているが絶対にミミクリーを直視しようとはしない。研究所でも度々見た光景だ。

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

 アイズが声をかけるがもう返事をする余裕もないようだ。今にも泣きそうな顔で首を横に振るだけだ。

 

「すまないカーリー、そろそろ限界だ。戻るぞレフィーヤ」

「ああ、あとでよろしく言っておいてくれ」

 

 レフィーヤはリヴェリアに促されてぎこちない動きで来た道を引き返していく。少し威圧感があったかもしれないな、反省せねば。

 

「レフィーヤが来たのは予想外だったけど、それ以上にレフィーヤの様子がおかしかったな。さすがにあそこまでの恐慌状態になるとは思わなかったんだけどな…」

「ふむ…おそらく相性が悪かったんだろう。幻想体の管理では強さ以上に相性が大事だったからな」

「相性か…急ぎはしないけれどゆくゆくはこれに安定して耐えられる精神力をつけてもらいたいな。魔法には相応の集中力が必要になるからね」

 

 『何も無い』に相対する時は、冷静さよりも勇気が必要だとされる。レフィーヤの装備を見るにモンスターと直接対峙するような役職では無いだろうし、何よりも経験が足りなかったんだろう。

 

「他所の教育方針にうるさく口出しする気はないが、あまり無茶はさせないでやってくれよ?こいつは一部分とは言え最高クラスの危険度を持った幻想体なんだからな」

「ある程度の安全が確保された上でこの精神的負荷を受けられる状況っていうのは貴重だからね。無理をさせない程度には触れさせていきたいとは思っているよ」

 

 確かに経験としては破格のものだろう、直接触らなければ身体的被害は出ないからな。直接触った時は…その時はその時だ。

 

「遅ればせながら迷惑をかけちゃったね。レフィーヤを気遣ってくれてありがとう」

「いや、うまく気遣えていた自信はないな。威圧することは日常的にやっていたから自信はあるんだが…」

「自然体で話してあげられただけで十分だ。後はみんなに任せておけばすぐに立ち直れるだろう。さて、当初の予想よりかなりあっさりと終わった顔合わせだけど、何か質問とか意見があったりするかな?」

 

 質問は特には無いが…流石に年若い子供をあんな目に遭わせたのは少し引っかかるな。

 

「レフィーヤは本当に大丈夫なのか?あんな状態になってしまっていたが…」

「心配しなくて良い、流石にあれで心が折れるほどじゃないよ。リヴェリアの弟子で一級冒険者候補だからね。それにアイズやリヴェリアも側にいる、彼女たちに任せておけば間違いはないだろう」

 

 それなら良いんだけど…もし私の武器のせいで今後の生活に支障が出たら流石に寝覚が悪い。とは言え私に出来る事もないしここはフィンの言葉を信じるしかないか。

 

「それじゃあ後は明日の予定でも詰めるか?」

「そうだね。明日はかなり大規模に動く、と言っても人数はそこまで多くはない。ガネーシャファミリアの冒険者とダンジョンの一層から二層に入るところで合流、その後はダンジョン入り口まで上がってロキに会ったらそのままロキファミリアまで移動だ。でもちょっと予定が変わるかもね」

「どうしてだ?」

「ミミクリーの影響が予想以上に大きかったからかな。レフィーヤの反応を見る限りある一定の実力を持っていないと異様に恐れるようになってしまうようだから…ガネーシャ側の人員も絞られるし、もしかしたらまたダンジョンに蜻蛉返りなんてこともあり得るね」

 

 私としては良い加減この風景にも飽きてきたから地上に出たいのだが…ままならんな。レフィーヤの状態を見ればそうなってもやむなしだが。

 

「まあそこまで行ったら君の事情も兼ねて特例で『神の力』で抑えるなんてことにもなるかもしれないけどね。ただこれに関してはほぼ期待できないかな」

「もし外に出られなかったらどうするんだ?一度戻るのは良いとしてもその先どうにか出来るようなものなのか?」

「成るように成る、しかないかな。もしそうなったら僕達がローテーションでミミクリーを見張って、とりあえず君だけでもロキと会ってもらうことになるかな」

 

 流石にそこまで迷惑をかけるのは…と思わなくもないがそれならどうするかと言われても私にはどうする事もできない。諦めて一から十までフィンに任せるしかないな。

 

「まさかこの武器のせいでここまで面倒な事になるとは…それじゃあ次はそのロキとやらについて詳しく教えてくれ」

「そうだね、ロキはイタズラが大好きなトリックスターと呼ばれている神だ。僕たち人間の知らないことも知っていたりするから、もしかしたら君について何かわかるかもしれないね」

 

 随分と癖が強そうな神だな、私としてはあまり得意ではないタイプだ。紫の涙みたいなやつかも知れない。もしくは研究所にいた青髪のボンボン(ダニエル)か。

 

「確かに多少性格に難があるけど、大半の神は似たり寄ったりだからね。とりあえずロキで慣れてくれるとありがたい」

「人外というのはどいつもこいつも…本当に碌な奴がいないんだな」

 

 幻想体よりはマトモだろうが…神は好奇心が強いという性質を踏まえれば面倒事が向こうからやってくるであろうことは想像に難くない。

 

「大丈夫だ、少なくともしばらくはロキファミリアが後ろ盾となるからね、細かいトラブルは避けられるはずだよ」

「そうであって欲しいんだがな」

「とりあえずはこんなところかな?他に伝えておくことはないから…そちらの世界の話でも聞かせてもらおうかな、昨日は3人共かなりひどい話を聞いたそうだからね」

「別に良いけど、面白い話は少ないぞ」

「君の世界の倫理観がどうしても気になってね、ガレスにも警戒するように言われたから今のうちに聞いておきたいんだ」

 

 どうやら三首領殿は私のことをそういう目で見ているようだ。23区出身としてはそう捉えられても無理もないと思う。あそこは…どう言い繕っても裏路地でもトップクラスの危険地帯だったからな。でもそれはそれとしてそういう目で見られるのは不本意だ。

 

「わかった、では満足いくまで裏路地の話をしてやろう」

 

 過去の裏切りや挫折の話を嫌と言っても聞かせ続けてやるからな。別に怒ってなんかいないぞ。

 


 

 フィンが満足するまで裏路地の苦痛について語っていると、凄まじい殺気と共にティオネが高速で突っ込んできてフィンを連れ去ってしまった。その少し後にティオナに謝られたけど…あれは流石に驚いたな。

 その後アイズと共にティオネがすごすごと帰ってきた。アイズの表情はよくわからないがティオネは不機嫌そうだ。

 

「どうしたんだティオネ、アイズも来たのか。とりあえずそこに座ったらどうだ?」

「あんたねぇ、団長に色目使うなって言ったでしょ!」

 

 …これは困ってしまった、あれが色目に見えるならば病院に行ったほうがいいと思う。とりあえず助けを求めるべくティオナに視線を送る。

 

「お姉ちゃん…もう私は悲しいよ!せっかく仲良くなったのにカーリーにそんなこと言って!もうちょっとアレを持ったらどうなの?えっと、そう!出来る女のヨユーって奴!」

「なっ!?」

「アイズもそう思うよね!お姉ちゃんは団長のことになるといっつもそう!色んな手を使ってるらしいけどどれも力押しじゃん!一回ファミリアの既婚者の人たちに男の落とし方講座開いてもらったら!?」

「カーリー、わたしはその剣…剣?を見に来たの。持ってみていい?」

 

 もう場は無茶苦茶だ。アイズはマイペース、ティオネとティオナは喧嘩…いやこれはよく見たらティオナが鬱憤を晴らすために私をダシにして一方的に言いたいことを言っているだけのようだ。

 

「姉妹だってのに私の分までおっぱいの大きさ持っていって!こうなったらヤケだよ!その乳もぎ取ったらー!」

「えっちょっとティオナ!?どうしたの…こら!やめろ!はなれろ!ロキが感染(うつ)ってるじゃない!それともミミクリーの精神汚染!?ちょっと、悪かったからやめなさいって!」

「ミミクリーだっけ?すごい剣だね。モンスターっぽい見た目と雰囲気だけど…近づくと全く違うってなんとなくわかる。幻想体っていうんだよね」

 

 もうそれぞれが好き勝手し始めている。とりあえずアイズにはしっかり警戒しながら触るように言ってから私は姉妹喧嘩を止めに行こうと立ち上がって…ティオネがティオナの頭に拳骨を入れて鎮圧していた。

 

「はぁ、はぁ…ほんとにどうしたのよティオナ、もしかしてミミクリーの精神汚染が遅れてやってきたりしたの?」

「ミミクリーにやられててもこんな症状にはならない…多分な」

 

もしやられていたらもっと酷いことになるはずだ。とは言え凄まじい…なんとも言えない暴れ方だったのは確かだな。

 

「だってカーリーに変なこと言ったんだもん。アレが色目に見えるなら病院に行ったほうがいいよ。団長の顔見た?思いっきり深刻な顔してたよ。空気なんてもうお葬式とかだったじゃん。ところでどんな話をしてたの?」

「裏路地の日常だな。この間話した23区とか、まだお前たちには話していない裏路地の夜の話とかだ」

「あぁ〜、うん、23区ね…それのせいで昨日夢見が悪かったのよね」

「私も全く眠れなかったよ…アレをあそこまでリアルに話せるなら夏の怪談大会はぶっちぎりで優勝できちゃうよ」

「…殻って何?」

 

 ミミクリーを弄っていたアイズの質問でティオナとティオネが止まる。ようやく静かになったな。

 

「ああ、ミミクリーの口癖のようなものだ。あまり気にしなくていいぞ、所詮は幻想体の戯言だ」

「握ったときに感じた事から考えると多分人間の…なんだろうね?身体って訳じゃなさそうなんだよね。でもそれっぽいって言うか…わかんないや」

「…返すね、私のことはあまり好きじゃないみたい」

 

 驚いたな。アイズがミミクリーの意図を細かく読み取れるのも、ミミクリーが選り好みするのも珍しい。人ならなんでも良い訳じゃなかったのか。

 

「この子がモンスターじゃないってことはわかった。次はカーリーのことを教えて」

「カーリーのことねぇ…昨日の武勇伝みたいないい感じのない?くれぐれも裏路地については話さないこと!」

「そっちの世界なら裏路地の切った張ったも普通の武勇伝なんだろうけど、こっちじゃ殺人は相手が闇派閥だとしてもあまり声を大きくして言うことじゃないからね」

「わかってるって、昨日の会話でよく思い知ったさ。とはいえ幻想体との戦闘なんてあまり多くないからな」

 

 そもそも幻想体はあるものを得るために管理していたのだ、戦闘するのが目的ではない。まあそこら辺は研究者達の仕事で、私はもっぱら『力仕事』専門だったが…ともかく出来る限りは脱走しないように最新の注意を払って管理していた。

 

「ふむ…あまり不快にならなそうな幻想体の話か…難しいな」

「こう言う時はね、アイズ。まず自分のことから教えちゃえばいいのよ」

「そうそう!レベルアップした時の話とか、ダンジョンで驚いたこととか!これならちょっと口下手なアイズでもできるはず!」

「カーリー、アイズの話を聞く時は積極的に疑問を投げかけてあげてね。黙ってたら何々と戦って倒した。終わり。って感じになっちゃうと思うから」

 

 そういう形の会話は苦手なんだけど…カルメンとの会話を参考にするか。あのコミュニケーション能力は…あれはもうコミュニケーション能力とは別のものか?天性の人たらしの才能というやつか。

 

「えっと、それじゃあ…ゴライアスの話が良いかな?」

「お〜!良いんじゃない?ゴライアスはでかいから話も盛れるしね!」

 

 でかい、と言うとどれ程の大きさだろうか。振り返ってみれば私の知る幻想体はそこまで大きくないな。人より一回り大きいのが精々だったか。

 

「ゴライアスは大体…7M(メドル)くらいのおおきなモンスターで、魔石も大きいから倒すのは案外簡単」

「簡単な訳ないでしょうが、それは私たち一級冒険者だけの話よ。それに冒険者の収入源にもなる魔石を砕くのは勿体無いでしょ」

「あー…悪い、メドルってなんだ?」

 

 知らない単位が出てきたので素直に聞いてみる。3人とも少し驚いた顔をしてから、何か納得したかのようにアイズを立たせる。

 

「えっと、アイズって身長いくつだっけ」

「162C(セチル)

「100Cが1Mよ。そこから想像してちょうだい」

 

 アイズを4人縦に並べれば1ゴライアス足らずか。大体セチルがセンチ、メドルがメートルみたいだな。

 

「確かに大きいな、そこまで大きい幻想体は見た事がない」

「ゴライアスはモンスターの中でも最大級よ、大きさって面ではこれ以上はないわね」

 

 ダンジョンは洞窟のような閉鎖空間だし、そんな大物が生まれるような場所も動ける場所もそうそうないだろう。一度は見てみたいな。

 

「それで、ゴライアスはどんな攻撃をするんだ?」

「う〜ん…普通に、蹴ったり殴ったり?」

「そうねぇ、一応咆哮はあるけど、言っちゃえばただのでかい人間みたいな物だから攻撃もその域を出ないのよね」

「力はすっごく強いけど、技って物もないしね〜。そう考えるとヘルハウンドとかの方が特殊な攻撃をしてくるからカーリーからすると面白みはあるかな?」

 

 上位の冒険者からすれば見掛け倒しに過ぎないか。幻想体は多くが特殊な力を持っているから、初見殺しという面ではかなり厄介だったな。

 

「図体が大きいっていうのはそれだけで脅威になるけど、それ以外に何もないのもね」

「あったらあったで困るけどね!中層でそんなのが出てきたら私たちでも苦労しちゃうかも」

「ゴライアスについてはそんな感じかな…どうだった?」

「都市では見ない大きさの化け物だからな、面白かったし一目は見てみたいと思ったな」

 

 さすがにその規模のモンスターが都市に出てきたら頭案件だろう。遭遇戦や初期対応以外で私たちフィクサーが動く事は無い筈だ。

 

「それじゃあ私は…自分で戦った訳じゃ無いが、とある森の物語について話そうかな」

「おお!?英雄譚みたいな物!?」

「そういう物じゃないな。『黒い森の怪物』という存在の話だ」

 

 とある3羽の鳥が、自分たちの住処である『黒い森』を怪物から守るために暴走し、最後には自分が怪物になる。という話だ。英雄譚とは程遠いな。

 

「黒い森の怪物ねぇ、そんなヤバそうな存在もいるのね。こっちの三大クエストに近しいものがあるわね」

「伝承とはいえ誕生の経緯はちょっとかわいそうだね。予言がなかったら何事もなく平和に暮らせていたかも知れないのに…」

「確かに規格外ではあるが外郭では結構似たような話も聞く。こんな強大な存在は信仰対象になったりするけど、大抵碌な団体じゃないな」

 

 他に話すことと言ったら…血鬼か?だがあれも文字通り『血生臭い』話にしかならないしな。都市なんてどこもそんなものだと言われたら否定はできない。

 

「というか、英雄譚なんて知らないって言ってたけどあっちの世界だとカーリー自身が英雄譚の主人公になるくらい凄かったりする?」

「私はそんな大層な存在じゃないと思うが…一応特色に選ばれてはいるからちょっとした小話程度にはなるか?」

「ほんとぉ?な〜んかカーリーの価値観って当てにならない気がするんだけど。私たちが自叙伝みたいなのを書いたらそれっぽいの出来るかなぁ」

 

 少なくとも私よりは良い物が書けるだろう。私の生涯を書き連ねたら裏切りとか殺しとか…暗い物語になってしまう。誕生が23区の時点で救いようがないな…そもそも都市で『英雄譚』なんて書ける人間はいるのか?少なくともこので世界で受けるような物を書けそうな奴は探して見つけられる程いないと思う。

 

「アイズとかは特に良さそうね。何と言ってもレコードホルダーだし」

「レコードホルダー?何だそれは」

「恩恵をもらってからレベルアップするまでの期間が全冒険者中最も短いってこと!たったの一年でレベルアップしたんだよ!」

「つまりたったの一年で年端も行かぬ少女が格上の相手を倒せる力と技量を手に入れたと言うことか。確かに凄まじいな」

「カーリーは子供の頃どうだったの?どんな努力をしてそこまで強くなったの?」

 

 子供の頃か…あの時は生きる事でさえ精一杯で…

 

「ちょっと待った、ストップ、一回待って。カーリー、あなたの出身地って…もしかしなくても裏路地よね?その上で悪名高いらしい23区?仲良くしてた隣人が次の日には…えらい事になってるっていう?」

「そうだな」

「はいやめー!このメンバーで子供の頃の話は禁止ね。みんな暗い話になるじゃないの!」

 

 ティオネに話を打ち切られてしまった。ティオネとティオナの過去は軽く聞いていたがアイズもそういう感じか。もう少し後ろ暗い過去がないような奴はいないのか?

 

「まったく、私が言えたことじゃないけどこのメンバーちょっと地雷な話題が多すぎない?レフィーヤがいれば雑に弄り倒せば良いんだけど、どうしたものかしらね」

「私は別にそういう話題は気にしないんだけどな」

「カーリーはちょっと周りに気を遣おう?自分が気にしなくても周りが気にするんだよ、そういうのは…本当に私たちが言えたことじゃないけどさ!」

「リヴェリアにも時々言われてる。人には聞かれたくないこともあるんだからそういうことはあまり詮索しないほうがいいって」

 

 かなり難しいことを言ってくれるな。向こうでは軽い愚痴のようなノリで話すような内容だったんだが…

 

「あまり納得してない顔ね。文化が違いすぎるわ」

「やっぱりしばらく街で暮らしてもらわないとピンとこないよねぇ」

「そっちの世界にはじゃが丸くんはあるの?」

「じゃが丸くん?」

 

 なんだそれは…生き物の名前?いや、違う気がする。だとすると…予想がつかないな。

 

「食べ物だよ、芋を茹でて荒いペーストにして揚げた料理」

「おそらくコロッケか。それならあったな」

「コロッケ…異世界じゃが丸くんはどんな味?」

「アイズ、料理の話はやめない?今度ホームで話しましょ?」

「異世界じゃが丸くん…」

 

 なにやらティオネが必死に話を逸らそうとしている…ああ、昨日の話を引きずっているのか。

 

「大丈夫だぞティオネ、()()()()()を使っている所の話は避けよう。そもそもアレは私も好きじゃない」

「本当に?絶対にその特殊な材料の話はやめなさいよね?」

「特殊なじゃが丸くん…!」

「そうだな、挽き肉」

「カーリー?そっち系以外でいい感じの材料を使っているのはない?」

 

 普通の牛挽き肉を混ぜたコロッケの話をしようとしたら止められてしまった。そっち系以外…?肉を避けたほうがいいのか。

 

「ふむ、コロッケか…あまり食べてないから普通のコロッケ以外はわからないな」

「お姉ちゃんさっきからどうしたの?なんか様子がおかしいよ?」

「あんたはもう昨日のアレを忘れたのね…私も忘れられればどれだけ幸せだったことか…!」

「……あぁ…思い出しちゃった…」

 

 私から『特殊なじゃが丸くん』の話を聞けなかったアイズが少し落ち込み、ヒリュテ姉妹は『特殊な材料』を思い出して頭を抱えてしまった。

 

「なんかもう精神を削らないような話はないわけ?今のところほとんどアレな話じゃない。レフィーヤが聞いたら泡吹いて倒れるんじゃないかってくらいエグいのばっか」

「次の夏の怪談はカーリーに任せればみんなグロッキーだね!…やっぱやめとこう、誰も得をしなさすぎる。そもそも方向性が違いすぎる。身体が資本の冒険者が揃いも揃って菜食主義になりかねないよ…」

 

 それはあまりにも致命的だな。いくら都市には身体強化の方法がありふれているとは言えども、義体以外となるとベースの肉体も大切だったりするからな。そこら辺もどうにかしようとすれば出来なくはないが。

 

「食事か…そう言えばこの世界に煙草ってあるか?」

「タバコ?あるけど、吸うの?」

「あっちは娯楽も少ないからな。一般市民が手を出しやすいのはやっぱりタバコか酒だろ」

 

 そう言えばこっちに来てからはどっちもやってないな。そう思うと吸いたくなってきたが…

 

「急に自分の体をあちこち触ってどうしたのよ」

「いや、タバコを持っていなかったかと思ってな」

 

 コートやズボンのポケットを探したが見当たらない。一度気にすると急に吸いたくなるものだ。

 

「お酒はともかくちゃんとしたタバコはそこそこ高級品だから、相応に稼がないと手が届かない…と言おうと思ったけど、カーリーならダンジョンに潜れば楽に稼げるわね」

「でもロキはなんて言うかなぁ、それとなく止めてきそうじゃない?『こんな可愛い女の子にタバコの匂いがつくのは〜』って。リヴェリアとかも絶対反対するだろうし」

「タバコって美味しいの?吸ったことない」

「どこでも嗜める嗜好品として扱ってるから味はそこまで気にしてない…いや、メンソール系はあまり好きじゃないな。酒はやったのか?」

「たぶん…飲んだらしいけど覚えてない。飲んじゃダメって言われてる」

 

 どうやらよほど酒癖が悪いらしい。私にも覚えがあるな、暴れ出したフィクサーをみんなでタコ殴りにした後簀巻きにしてそこらへんに置いとくんだ。知り合いだったら店の隅に、嫌いなやつは深夜の屋外、具体的には3時頃にな。

 

「アレは酷かったわね。止めるのにも苦労したわ」

「そうだねえ、止めようとした人たちを片っ端からバッタバッタと薙ぎ倒す大立ち回り…」

 

 アイズもそっち系だったらしい、相手が強いと止めるのも一苦労か。

 

「とりあえず酒についてはガレスに聞きなさい、すっごい詳しいから」

「そうか、後で聞いてみるとしよう」

 

 異世界の食事や酒、気にならないと言えば嘘になるな。私が食べられる物であれば良いけど…

 

 


 

 

 カーリー達と別れて暫く、フィンは体を震わせて怯えるレフィーヤと、それを介抱するリヴェリア、そしてその様子を蔑むように眺めるベートと合流する。

 フィンは恐慌状態のレフィーヤが多少落ち着いたのを確認してから話しかける。

 

「そろそろ落ち着いたかい?」

「す、すみません…まだ、体の震えがとまらなくて…」

「ふむ…レベル差と言うにはあまりにも酷い状態だな。ほら、大丈夫だ。もう近くにあの武器は無いから、ゆっくり深呼吸するんだ」

 

 レフィーヤの状態はフィン達が想定するよりも酷い物だった。自分たちでも緊張感を覚える程の威圧感と、絶え間なくこちらを観察され続ける不快感はあったが、周囲にアイズやリヴェリアが居て尚この状態になるとは考えていなかった。

 

「あれにビビってる様なら一生ホームに篭ってりゃ良いってのによ。これだから雑魚は…」

「ベート!」

 

 ベートの悪態をリヴェリアが叱責するが、当のレフィーヤはベートの悪態に反応する気力もない。何かから目を逸らす様に、視線をあちこちに彷徨わせ続けている。

 

「レフィーヤ、辛いかも知れないけれど君がミミクリー、あの剣を前にして感じた感覚を教えてもらえるかい?」

「…あの剣は、私を見つめて、見つめて…まだ見ているんです…」

「まだ?」

「はい…あの剣は、私になろうとしている…と思います…」

 

 レフィーヤの発言にベートが舌打ちをして、カーリーから幻想体の精神汚染について聞いていた二人が視線を交わす。

 

「どうやらあれの精神汚染は想像以上に強いみたいだね」

「ああ、一定以上の能力がなければ一気に悪化すると見て良いだろうな」

 

 今回の状況はフィンとリヴェリアにミミクリーに対する警戒を数段と引き上げさせる結果となった。今のレフィーヤの状態を見れば、下手に一般人や低レベルの冒険者を近づければ当初の想定よりも酷い混乱になることは明らかだった。

 

「リヴェリア、今日のところはレフィーヤの側に居てくれるかい?」

「元よりそのつもりだ。まさかここまで酷くなるとは…私の判断ミスだ」

「そうかも知れないね、僕達の尺度で測っていたがあれはモンスターよりも悍ましく、恐ろしい物なんだろう。実際の危険度は別としてね」

「本当に面倒なモン拾いやがって…あの馬鹿姉妹」

 

 ミミクリーの事を思い出したせいかレフィーヤの状態は先ほどより少し悪くなっているように見えた。分かれ道で一度足を止めて、フィンはレフィーヤの背中を少し撫でる。

 

「精神干渉が想定以上だったな…恐らく私達は無意識のうちに抵抗(レジスト)していたのかも知れないな」

「ステイタスやレベルによる抵抗か…これはまた地上に戻らないと駄目だな。警備の人選を更に絞らないといけない」

「何処まで絞れるか分からないがな…レフィーヤでこの状況となると使える人間はそう多くはないぞ」

「それでもやれる事をしないとね。ベート、リヴェリア、後は任せた」

「ああ」

「チッ」

 

 フィンが地上へと向かうのを見届けて、リヴェリアはレフィーヤを気遣いながら、その様子にベートは苛つきながら拠点へ歩を進める。




 その日、少女は運命に出会う…って言えるほど良い出会いではないね、うん。

〜なぜなに!プロムン教室~

E.G.Oってな〜あに?


E.G.Oは『Extermination of Geometrical Organ』日本語で『幾何学的器官の根絶』の略称らしい!よく分からないね!

簡単に言えば、一般的には幻想体から『抽出』出来る特殊能力付きの装備品だ!EGOは大きく分けて『武器』『防具』『ギフト』の三つに分類されるぞ!この内ギフトは幻想体自身が気に入った人間に付けてくれるんだ!Present for you!

武器は使ったことがない物でも使い方がわかるようになる素敵仕様!更に才能があればそれぞれの武器が持っている特殊能力を使えるようになるんだ!たとえば瞬間移動できるようになったり、あらゆる障害を貫通する投槍とかが出来るようになるぞ!まるで魔法だね!

ただし!素質や能力が足りてない人間がランクの高いEGOを無理に使おうとすると、EGOに食べられちゃうぞ!EGOの元になった幻想体に良いように使われちゃうんだ!こわ〜い!

とある会社がなんやかんやした後の都市だと、覚悟が決まった人が幻想体から抽出した『借り物のEGO』じゃない『自分自身のEGO』を発現出来るようになるぞ!カーリーはなんやかんやする前に発現しているけどね!

『自分自身のEGO』はトンデモ性能だぞ!自分に火耐性を付けながら周囲を火の海にしたり、純粋に戦闘力が馬鹿みたいに上がった上で敵を倒す毎にブーストがかかる状態になったりするんだ!

みんなも『Library Of Ruina』でボスの専用曲をメタルな音楽で上書きしよう!
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