赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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冒険者とフィクサー

 カーテンの隙間から差し込む日の光で目を醒ます。見慣れない景色に一瞬だけ戸惑ったが、すぐに自分の状況を思い出す。

 

「…朝か」

 

 慣れない寝具や環境で良く寝付けなかった。特に空気が良すぎる…都市はL社が酷い大気汚染をしていたからな。

 それに比べてオラリオは…何なんだろうな。外郭とも比べ物にならないくらい空気が綺麗だ。

 

「アイズ、起きてるか?」

「んん…じゃが丸くん…たくさん…食べきれない…」

 

 どうやら随分といい夢を見ているみたいだ。起こすのも忍びないし、着替えて外を回ってみるかな。

 

 音を立てずにアイズの部屋を出て、当てもなく彷徨うようにホームを歩く。窓から外を見れば、都市とは違う文明だが、確かに栄えているであろう街が広がっている。

 

「やっぱり異世界か…」

 

 異世界でないとしても、都市から信じられない程遠くに来ているのは間違いないだろう。

 建物の作りや道行く乗り物を見れば都市の技術からかなり遅れている事は分かる。それでも、どこを見ても死体どころか、血の跡も見当たらない事がこれ以上なく嬉しく感じる。

 

「都市もいつかはこうなれたのか…」

 

 異世界に来てしまってはどうしようもないが、それでも心の奥で引っかかり続ける未練。

 

 どこを間違えたのかは今だに理解しきれていない。エノクが研究に参加するのを止めれば違ったか?それともエリヤの暴走を止めたり、ガブリエルの不調に早く気がつけば良かったか?ミシェルの不安を取り除く事が出来れば良かったのかもしれない。

 きっと誰かが…私だけでも、あの時カルメンを支えていれば、もっとマシな結果になったかもしれない。

 施設は壊滅し、何がどうしてこうなったのかまではわからないけど、私はこうして一人平和な場所でのうのうと生き延びている。ああ、自分自身に腹が立つな。

 

 …過ぎた時を悔いても仕方が無い。とにかく今はオラリオの空気に慣れなきゃいけない。

 オラリオの風景を眺めながら、再び歩みを進める。誰かに会えればここを案内してもらいたいが…起きる時間が少し早過ぎたか。

 

「あん?」

「うん?」

 

 曲がり角を曲がると、顔に大きな刺青と頭頂部に狼の耳が付いている男…ベート・ローガが居た。

 

「…何やってんだてめえ」

「ただの散歩だ、少し早く目が覚めたからな」

 

 ベートは私を訝しむかのようにじろじろと全身を見回してから、随分と凶悪な笑みを浮かべる。

 

「じゃあ今暇なんだな。俺に付き合え」

「別に構わないけど、何をするんだ?」

 

 私の質問を無視して歩き始めるベートを追う。せめて何の用かくらい教えて欲しいんだけどな。

 ベートに追従してしばらく歩いていると、整備された広場に出る。これは、なるほど。ベートの用が何かわかった。

 

「お前の得物はなんだ?」

「一通りなんでも扱えるが…これにするかな」

 

 刃の潰された大きめの片手剣を一本拾い上げる。少し軽すぎる気もするが、ベートを相手にするならこれが一番良いだろう。

 ベートは私が手にした剣より小さい剣を二振り、両手に持つ。それを確認したら武器を構え、攻撃に備える。

 

「一応聞くが、これは壊さない方がいいか?」

「別に壊しても構わねえよ…手は抜くなよ?」

 

 抜く余裕も無えだろうが、と呟きながら、ベートは開始の合図もなしに私に向かって突っ込んでくる。

 

 側から見れば不意打ちにも見えるその攻撃を受け流して、足払いを仕掛けるがそれを回避される。

 その後はベートの連撃を次々と往なしながら、僅かな隙に反撃を捩じ込む。少し動きに違和感があるな、これが恩恵の力か。

 

「随分と手慣れてやがるな」

「故郷では対人戦が主だったからな」

「バカゾネス姉妹と同類って訳かよ!」

 

 バカゾネス姉妹…ティオネとティオナか、随分な言いようだな。それにしてもあの二人も対人戦に慣れているのか。だから過去をあまり語りたがらないのか?

 

「考え事する余裕があるみてえだな。ならもっと速くしても良いよなぁ!」

「ああ、まだ余裕はある」

 

 更に激しくなる連撃をひたすらに受け続ける。反撃の隙も少なくなってきたが…さて、どう打開するか。

 力づくで反撃する手もあるが…武器が耐えられそうにない。というか、ベートの攻撃を受けるだけで既に限界が近づき始めている。かと言って武器を捨てた手足での反撃をそう易々と許してくれる筈もない。

 ベートの武器も限界だろうが…二振りの剣を上手く使ってこちらよりも僅かに損耗を少なくしているな。しかし全力で振るえば容易く折れるだろう。

 

「チッ、これだから安物は…仕方ねえな、さっさと終わらせるぞ」

「そうだな、これ以上は練習にもならないだろう」

 

 ベートが一度、大きく距離を取り最初とは比べ物にならない速度で突っ込んでくる。それに対して私は、同じくベートに向かって突撃する。

 ベートの一撃を剣で迎撃する。これで私は武器を失い、ベートは武器が一本になる。

 次ぐ剣での二撃目に対し、私は更に距離を縮める。ベートもそれを読んでいたのか、剣を捨て、足で迎撃してくる。

 

 お互い我が身一つでの打ち合い。私はベートの蹴りを防御し、ベートは私の拳を回避する。

 

「…止めだ、これ以上はフィンがうるせぇ」

「お前はそういうのは気にしないと思ったんだけどな」

「所詮は準備運動程度のつもりだったからな。フィンに小言言われてでも続ける気はねえ」

 

 ベートが折れた剣と、辛うじて折れてない剣を廃材置き場に投げ込む。それが決め手となったのか、折れてなかった剣も根本から折れるのが見えた。

 

「ここの武器は勝手に使ってろ、そのうちアイズも来るだろ」

「わかった」

 

 それだけ言うとベートは少し不満げにしながら何処かへと去っていった。お互い全力を出せる戦いではなかったが、私としてはかなり満足できる試合だった。

 

「クソ、手を抜き過ぎたか?武器を使ったのも失敗だったか…」

 

 ベートが去り際に吐き捨てた言葉は聞こえなかった。

 


 

 ベートと別れてからは、数種類の武器を振っていた。最近はミミクリーばかりで他の武器を使っていなかったし、いざという時のために勘を取り戻しておきたい。

 

「あ、カーリー」

 

 数十分の間そうしていると、ベートが言ったようにアイズが中庭に入ってきた。アイズは私に声をかけた後に、少しだけ地面を見ていた。

 

「ここに居たんだね、探したよ?」

「悪い、早くに目が覚めてな」

「そう、それで…誰と戦ったの?」

 

 アイズにはお見通しのようだ…と言っても、ベートとの戦いで地面にはそこそこ目立つ傷が付いていたし分かる奴にはわかるか。

 

「ベートだ、ここの散策中に偶然あってな」

「…そう」

 

 何やら少し不機嫌そうに見える。何の断りもなしにアイズの部屋から出たのが不味かったか?他に心当たりは無いが…

 

「一番最初に戦いたかったのに…」

 

 どうやら大層な戦闘狂の様だ。なんで戦う順番くらいでここまで拗ねるんだ…

 

「いつでも付き合ってやるから機嫌を直してくれ」

「それじゃあ今から」

「…わかったよ」

 

 次はミミクリーに近い大剣を使ってみるかなと、手頃な武器を物色する。どの武器も訓練用とは言え耐久性に難があるな。素振りならともかく、アイズとの試合には耐えられそうになさそうだが…

 

「アイズ、カーリー。その試合は朝ごはんの後にしないかい?」

「フィン?」

 

 試合の準備をする私たちにいつの間にか中庭に入ってきていたフィンが待ったをかける。

 

「少し条件を整えたくてね、カーリーもEGOを使う予定はなかっただろう?」

「ああ、流石にEGOを使うほどの試合をしようとは思ってなかった、が…」

 

 アイズがどんどん不機嫌になっているのが見て分かる。どうやらアイズはEGOも込みでやりたかったらしい。でもEGOを使っても武器の方は耐えられないだろうからどのみちアイズが満足できるような試合は不可能だろう。

 

「先にベートと戦ったみたいだけど、武器が耐えきれなかったみたいだね。そこら辺も含めて調整するから少しだけ待って欲しい。アイズも不完全燃焼で終わらせたく無いだろう?」

「…うん」

「EGO込みだとかなり中庭が荒れそうだからね、そこら辺も少し対策したいから…朝ごはんを食べて、少し準備してからやってみようか」

 

 おそらくこれは本音だろうが、全ては言ってないな。ロキも一度中庭で動いてみろと言っていたし、フィンの目的は私の実力の確認か。

 

「わかった、カーリーもそれで良い?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 この世界で有数の実力者との真剣な試合か…少しだけ楽しみだな。

 


 

 朝食を済ませてその場にいた全員で中庭へと向かう。遠征に同行していなかったファミリアの仲間も見るらしい。

 フィンの用意した、ベートと戦った時よりも耐久性が格段に高い両手剣を構える。

 アイズの武装は剣以外はダンジョンで見た物だな。剣は訓練用のものだが、こちらもベートが使っていた武器よりも耐久性は格段に上がっている。

 

「アイズいいな〜!私もカーリーと戦ってみた〜い!」

「そのうちやれるでしょ。それよりも今回はEGOを使うって言ってたわよね」

「ああ、そのつもりで戦う」

 

 それに合わせて必要であればアイズも魔法を使うらしい。流石に使わせずに負けるなんて事は無いと思うが…この世界の一線級冒険者の実力がわからないから確実には言えないか。

 

「基本的には二人の好きな様に戦ってもらって良いけど、最初の方はアイズが合わせてくれ。ベートと一戦交えたとは言え、カーリーはまだ恩恵をもらったばかりだからね」

「わかった」

「胸を借りるぞ」

 

 恩恵による基礎身体能力の変動に、スキルによるブースト。この二つがどの様に影響するかは把握しきれていない。

 ベートとの試合で多少慣らしたが、武器の耐久性の問題もあって手は抜かずとも全力になる事はなかった。今回はどうなるかな。

 

「ポーションの在庫はあるけれど、後に引く怪我とかは極力避けてくれ。それと、問題が発生したら割り込んで止める事もある」

「うん」

「問題ない」

 

 フィン達から見れば私の実力は未知数だ。世界が違う事もあって、私からもなにかしらの問題が発生しないとは言い切れない。

 それぞれの興味深そうな視線を背に、剣を片手で担ぐ。アイズも剣先をこちらに向けて準備はできている。

 それを確認したフィンが、離れたところから開始の合図を発する。

 

「準備は良さそうだね。それじゃあ、始め!」

 

 合図と共に距離を詰め、様子見がてら剣を振り下ろすが難なく回避される。

 勢いを利用しそのまま剣を横薙ぎに振えば、力を試すかの様にアイズは剣で受けてくる。

 

「かなり重い…」

「そういう割には随分と余裕そうだな」

 

 アイズは私の攻撃の勢いを利用して後方へ飛ぶ。それに対して私はまっすぐ突っ込み、再び剣で攻撃する。

 

「それに速い。でも、まだ上がるよね?」

「まあな」

 

 私の攻撃は悉く受け流されるが、この攻撃で身体能力の変化にも慣れたし、ある程度アイズの癖がつかめた。そろそろ仕掛けるか。

 今までよりも大きく距離を詰めて、大剣でアイズの剣を押さえ込む。両手を使って押し込めばアイズもそれに対応するために両手で剣を握り込む。

 ベートとの試合では武器が耐えられず使えなかった手を…いや、足を使う。

 

「見えてるよ…っ!?」

「あ!汚い手だ!」

「こういうカジュアルな試合で使う技ではないわね…」

 

 アイズに蹴りを繰り出せば当然のように回避されるが、私はそのまま足で掬い上げた土をアイズの顔面目掛けて飛ばす。

 アイズは遅れて来た飛び道具を驚愕しながらも回避するが、今までより少し大きな隙は出来た。本命の一撃を胴体に叩き込む。

 

「『目覚めよ(テンペスト)』!」

 

 アイズの体に風が纏われるのと同時に、その場で側転する様に私の横薙ぎを回避する。これがアイズの魔法か、派手さは無いが滞空も出来そうだしかなり便利な魔法だな。

 

「あ〜!アイズが先に魔法を使った〜!」

「…だって、先にずるい技を使ったもん」

「テルスキュラじゃよく使われてた手だけどね」

 

 ティオナの揶揄う様な野次にアイズは気不味そうに言い訳する。これも立派な戦術の一つだ。お行儀が悪いのは認めるが、ずるいとか汚いとか言わないで欲しい。

 

「そっちが魔法を使うなら、私も本気を出さないとな?」

「うん…来て」

 

 EGOを発現させて再びアイズへ攻撃を仕掛ける。最初と同じ形だが、確実に威力の上がった縦切り。

 アイズは回避ではなく風を剣に纏わせて受ける構え。EGOの力を見ようって事だろう。

 アイズの剣と私の剣がぶつかり、大きな衝撃が中庭を巡る。武器は…流石にこれを何度も繰り返せるほどの耐久性はなさそうか。

 

「お、重い…」

「真正面から受ければそうなるだろ。それとも…侮ったか?」

 

 アイズのうめき声を聞きながら剣に力を込める。力では一応私の方が優勢みたいだが、アイズは纏っている風で剣を弾いて拘束から脱出する。やっぱりあの風は厄介だな。

 

「凄いわね、本気ならアレに形の変わるミミクリーが付いてくるのよね?」

「流石にミミクリー有りとは戦いたくないなぁ、めんどくさそう!」

「あの技量に重さや長さが変わる武器か…確かに面倒じゃのう」

 

 それからも幾つか攻撃を仕掛けるが…回避や受け流しを中心に立ち回るアイズに有効打を与えられないでいる。

 逆にアイズからの攻撃も私に届いてはいない。アイズの攻撃はあまり対人戦を意識していない、雑ではないが力を込めた大振りな物だから受けるにも余裕はある。

 アイズの武器で対人なら、もっと軽く速い攻撃を使っても良いと思うんだけど…根からの『怪物殺し』に特化した剣か。確かに幻想体も大半は人間より強く、生命力が高かった。モンスターも同じなんだろう。

 

「戦い辛い…」

「年季が違うからな。それと対人戦の場数か」

 

 数年前に少し齧った程度のアイズと、20年以上年がら年中人間相手に戦って来た私じゃ練度が違う。

 その経験を活かして、攻撃の緩急を変えながらアイズの体勢を殺しにかかるが…厳しいな。アイズの魔法が理不尽な動きや回避を可能にしている。

 このままいけばEGOの消耗で私の方が先に息切れするな…少し、強引に攻めてみるか。

 幾つか攻撃の応酬を挟み、アイズに出来た僅かな隙に今まで隠していた全速力の突進を仕掛ける。

 

「っ!速…」

 

 風の鎧を力尽くで抜けてアイズを押し倒し、鎧に左手を掛ける。これで機動力は殺したが…この距離では私の剣は使えない、ならば拳を使うまでだな。

 アイズの顔面目掛けて拳を振り下ろすが、直前で回避されたか。空振った拳は地面を叩き、小さく陥没させる。

 アイズは風の鎧の勢いを強めて脱出を試みているが、ここで手を離すほど私も甘く無い。

 

「掴んだ!」

「あれは速く抜けないと不味いわね」

「フィン、こっからアイズはなんとか出来るんか?」

「カーリーの膂力次第だけど…厳しいかな」

 

 回避されようとお構いなしに続けて殴りかかるが、片手だけじゃ手数が足りないか。その間に剣を捨てたアイズから何度か反撃もあったが、EGOの鎧越しに受ける衝撃はそこまで強くはなかった。

 ダメージが無い訳ではないがここで攻撃の手を緩めるのは良くないと判断し、アイズの反撃は無視してひたすら顔面目掛けて攻撃を仕掛ける。

 

「か、硬い…!」

「この鎧の耐久性には自信があるからな」

 

 アイズが少し顔面への攻撃へ慣れてきた頃合いを見計らい、腹部に攻撃を仕掛ける。

 この不意打ちは風の鎧で威力は削がれたが、それ以外の抵抗は無く私の拳がアイズの横腹に突き刺さる。ダメージはそこまで大きく無いだろうが、無視できる程の軽さでも無いだろう。

 

「ぐっ!?」

「入った!」

「そこまで!」

 

 フィンの声でアイズの鎧から手を離し、立ち上がる。大の字に寝ているアイズが魔法を解除するのと同時にEGOを解除する。

 

「アイズ、立てるか?」

「…うん」

 

 私が手を貸すまでも無く立ち上がるアイズの表情は少し不満そうだ。心当たりは十二分にある。

 

「すごく戦い難かった…」

「まあ、裏路地はルール無用、使えるものは何でも使えって場所だったからな」

 

 徹頭徹尾アイズの動きを阻害する動きをしたからかなり不満なんだろう。負けた事と同じか、それ以上にストレスだっただろうな。

 

「最初の目潰しが卑怯」

「卑怯だのズルだの汚い手だの、随分好き勝手言ってくれるな」

 

 認めない訳じゃなけど、いくらなんでも言い過ぎじゃないか?ティオネだってテルスキュラじゃよく使われたと言っていたしな。

 そんな話をしていると、いつの間にか近づいて来ていたティオナとティオネがアイズの背中を叩く。

 

「ロキファミリアでの練習試合じゃ使われなかったもんね〜!」

「私たちも使わなかったからね…もう少しああいう手も挟む様にしてみようかしら?」

「やだ…」

 

 アイズは大層不満そうだ。とは言えアイズの魔法はああいう小手先の技を弾く効果も有る。最初から魔法ありだったら普通に無視して攻撃を仕掛けて来ていただろう。

 

「アイズ〜、無事か〜?エラい手玉に取られてたみたいやな〜」

「少し技術が足りなかったな。だが今のオラリオで対人戦の経験は積みにくいから仕方はないか」

「そうじゃのう、儂等とてティオネ達と純粋な対人技能で優っているかと言われれば断言は出来んじゃろ」

「ダメージは大きくなさそうだけど場所が場所だね。ポーションは使っておくかい?」

「ううん、大丈夫」

 

 遅れてやって来たフィン達からのフォローもあって少し機嫌も治った様だ。どうやらティオネ達の対人戦能力はガレスやフィンにも匹敵するらしい。少しだけ気になるな。

 

「まあアイズと私たちを比べるのはね…対人戦に限定すれば私たちの方が経験の質も量も上だとは言えるわね。文字通り生まれた時から死に物狂いで極めていたから」

「絶対にオススメは出来ないけどね〜。なんならそこら辺の悪人ならオラリオでレベル上げてステイタスで押し込むのが一番手っ取り早いしね!」

「レベルを上げて物理で殴るっちゅーのはどこでもわかりやすい攻略法やからな!」

 

 有る程度の力量差があるなら力押しが一番消耗が少ない事だってある、それは対人戦でも変わりはない。

 技術を疎かにしていいとは言わないが、比較的楽に身体能力を上げられるこの世界ならそっちの方がいいだろう。

 

「そのレベル差を埋めるのが技術なんだけどね」

「まあ対人に関してはレベルが高いほど技術も高い傾向にあるし、差を埋めようにも厳しいところはあるがな!」

「だがそれは逆説的に技術が身に付いてなければ土俵にすら立てんという事だ。言うまでも無いが研鑽は怠るんじゃないぞ」

 

 結局のところ、技術も身体能力も高いに越した事は無いという事だ。オラリオじゃモンスターとの戦闘が主流だとはいっても、過去に『暗黒期』なんて時代があったらしいし、いざという時のために訓練はしておくに越したことはない。

 

「カーリーの実力はよくわかったよ…EGOはかなり強力だね、想定以上に力が上がってたし防御力もかなりの物だったよ」

「そうだな、徒手とはいえアイズの攻撃を受けても動じなかった所から見ても防御力はかなり高いだろう」

「タンクとしての運用もしたいが、火力や技術から考えるとアタッカーも良いのぉ…どちらにせよ総合的に見れば単独での行動に特化してるのは間違いないじゃろうな」

 

 順にフィン、リヴェリア、ガレスからの評価を聞く。どうやら集団戦での私の立ち位置の話らしいが、確かにそういう面で見れば器用貧乏の気が目立つか。

 集団での戦闘経験がない訳じゃないが、フィクサーは少数で動くことが多いし、私はそれに輪をかけて単独行動が多かったからな…集団戦と言えばやはりリウ協会か。あそこは戦争請負をしていたからな、他の仲間との協調性はかなり高かった筈だ。

 

「私の立ち位置についてはそっちに任せる…まあすぐに何かする訳でも無いだろうけどな」

「武器もないしね。こっちも遠征直後だからファミリア単位で動くことはしばらくないよ」

 

 その時まで私が居る保証も無いしな。私としては元の世界に戻る目処が立ったならさっさと戻るつもりだ。いくら研究所が壊滅しているとは言え、もしかしたら生き残りが居るかもしれないし。

 とは言えそれまでは出来る限りこのファミリアに協力しようとは思っている。いつか誰かと協力して仕事をする事もあるだろう。

 

「じゃあそろそろ解散かな。カーリーには部屋を用意したからリヴェリアと見てくれ。他のみんなは基本自由に行動して良いけど、今日中に残りのメンバーがダンジョンから帰ってくるからそれまでには戻って来てくれ」

 

 フィンの指示に各々が返事を返してバラバラに動き始める。私はリヴェリアと部屋を見るんだったな。

 

「リヴェリア、私の部屋はどんな感じなんだ?」

「特に特別な所はないが…強いて言うなら少しだけ広いか」

 

 新参の私には勿体無い位には良い部屋をもらえるらしい。新参がそんな好待遇を受けるとなると問題もありそうだが…ここはリヴェリア達の判断に任せるか。

 

「ところでカーリー、お前は煙草を嗜んでいたんだよな?」

「そうだな。都市にいた頃の数少ない趣味だ」

「…そうか」

 

 リヴェリアが何かを言おうとして躊躇うような素振りを見せる。踏み込むべきか、止めておくべきか…

 

「…今のは、聞いただけなのか?」

「いや、体に悪いから止めておけ、と言おうと思ったんだがな…いくら私たちにとって酷い場所に見えても、お前にとっては故郷になるから…そこでの趣味を手放せと言うのもどうかと思ってな」

「ああ、そうか…考えてはおく」

「無理にやめろとは言わないからな…個人的には控えたほうが良いとだけ言っておこう」

 

 踏み込んでみればなんて事無かった。リヴェリアには少し世話焼きと言うか、潔癖の気があるし、喫煙が万人に受けるような趣味じゃない事は私も理解しているからこういう事は予想できたけど…しかしこんな形で気を使われるのは予想外だ。

 

「随分と優しいな、そこはきっぱり「止めろ」と言うかと思ったんだが」

「何もわからないまま故郷から離された者に鞭を打つように見えるか?とは言え私…いや、エルフ全体として喫煙や飲酒を忌避する傾向はある。少なくともエルフや子供の前では飲酒はともかく、喫煙は控えた方が良いだろう」

「わかったよ、しばらくは他の趣味を探してみるかな…そうだ、リヴェリア。一つだけ教えておく事がある」

 

 リヴェリアの視線に笑い掛けながら、一つの思い込みに対する訂正を伝える。

 

「確かに都市は私の故郷だが…私から見ても十二分に酷い場所だ。仲間の陰口ならともかく、都市の陰口は気にしない」

「…ああ、そうか。そうなんだろうな」

「ここで『住めば都』なんて言えるような場所なら、私達はあんな事をしてないだろうしな」

「それを聞かされた私はどんな反応をすれば良いんだ」

 

 笑えば良いんじゃないか?憐れんでくれても良いが、それなら私は笑ってくれた方が良い。

 

 そうしてリヴェリアと雑談に興じながら歩いていれば、目的の部屋へと到着する。

 扉を開ければ、埃っぽさの欠片も無い、清潔感を保たれた部屋が目に入る。どうやら掃除は粗方すませてくれたらしい。

 

「この部屋だ。しばらくは物置として使われていたが、昨日のうちに掃除は済ませておいた。何か不都合があったら言ってくれ、出来るだけ善処はしたいからな」

「何から何まで、申し訳ないな。いつか恩を返せれば良いが…」

「焦る必要はない、着の身着のままここまで来たんだろう?それに我々としても打算がない訳ではないしな」

 

 リヴェリア達には何か考えがあるみたいだが…悪い様にはされないだろう。その時が来たら出来る限りの協力は惜しまないつもりだ。

 

 それにしても…想定よりもかなり広いし、新入りが入るに贅沢すぎる部屋だな。しかも角部屋だ。

 

「これは随分と良い部屋だな。物置として使われていたからか、目立つ汚れとかも無いし…本当にいいのか?」

「あまりに粗末な部屋を寄越すのも失礼だろう?それに都合のいい部屋がここしかなかったという事情もある」

 

 そういえばロキファミリアはかなりの大所帯だったか。この部屋に来るまでに見て来た数多くの部屋がほとんど埋まっていると考えると、その数はまさに12協会の1支部くらいは余裕であるだろう。

 

「必要な物は昨日のうちに一通り運んでおいた。他に足りない物はあるか?」

 

 本棚に箪笥、ベッドに小物入れまで置いてある。武器掛けも置いてあるとはかなりの高待遇だな。その他の必要な物は追々揃えるとして…

 

「ざっと見た所不足はなさそうだが…」

「だが?」

「言ってどうなる物でも無いんだが、服がな…」

「服か…」

 

 今私の着ている服と同等以上の物を望もうとは思わないが、せめて換えの服は欲しいな。

 

「そういえば昨日も風呂上がりに同じ服を着ていたな…しかし今のファミリアにはカーリーの体格に合う服の予備が無いんだ」

 

 言われてみれば確かに、このファミリアにはよくいえば華奢な、悪くいえば戦えるとは思えないほど細い体格の者が多いな。

 私が知る中で一番体格が近いのはリヴェリアだが、それでも10cm程の身長差があるし、私の体が筋肉質な事もあってリヴェリアの服が着れるとは思えない。

 

「うちはロキの趣味で、なんというか…見た目で採用されがちだからな」

「リヴェリアも含めてか?」

「揶揄うんじゃない、それに私は事情が違う。ファミリアの設立初期に入ったからな」

 

 ロキとしても選り好みできる時じゃなかったということか…とはいえリヴェリアの見た目は私から見ても良い方だ。ロキにとっては渡りに船だったろうな。

 ともかく服だ。私としては1ヶ月はこの服のままでも良いが、他人はそうじゃないだろう。なんせ共同生活をするんだ。その相手がいつ見ても同じ服を着ているのは少しな。

 

「私が付いて行っても良いが…いや、駄目だな。かなり面倒な事になる」

「たとえば?」

「表から堂々と出れば何人かのエルフが付いて来るだろうし、裏から出て後からバレたら…カーリーに要らぬ心労をかける羽目になる」

 

 ロキファミリアを率いる者の一人ならそれくらいの護衛はつくだろうと思ったんだが、何やらもっと根深い事情がある様だ。

 

「そうだな、近い内に街の案内も兼ねて誰かと共に買い物に行ってもらうか」

「地図さえ貰えれば簡単なお使いくらいは出来るけど…そういう問題でもないか」

 

 所謂お目付役と言った所だろう。私がこの世界基準でとち狂った行動をしないなんて、私でも断言できない。なんせこの世界の常識を知らないからな。

 

「カーリーが街中で問題を起こす様な人間じゃないのは最初の時点でわかっているし、私としても信じたい。信じたいんだが…フィンから聞いた都市の話を聞くとな…」

「…」

 

 ついさっき「住めば都なんて言える様な場所じゃない」なんて言ったせいで何も反論できない。トチ狂った世界の、一際狂っている地域出身だから本当に何もいえない。

 

「す、済まない!つい思ったことを…じゃなくて!…本当にすまない…」

「リヴェリア、私涙が出そうだぞ」

 

 リヴェリアはなんとかして言い繕おうとして諦めた様だ。その顔にはありありと気不味さが刻まれている。

 涙が出そうだというのは冗談だが、それにしてもあまりにもあんまりな評価だ。それが間違っているなんて口が裂けても言えないが、それはそれとして私は深く傷ついた。自分がどれだけ穢れているかを思い知らされた様でな…

 

「この程度で傷つく様な精神をしていないと思っていたんだが…なんというか、『良い人』に面と向かってこんな評価をされたら私でも傷つくんだな…」

「…本当にすまない」

 

 その謝るのをやめてくれ、思ったよりも心にくる。つい朝方「この世界は綺麗だな」なんて考えてたせいでより一層効く。

 

「と、とにかく!ティオナなら誘えば一緒に買い物に付き合ってくれるだろう。今日は武器のこともあるだろうし、ダンジョンに残った仲間たちが帰ってくるから…早くても明日になるがそれで構わないか?」

「ああ」

 

 確かにティオナなら嬉々として付き合ってくれるだろう。私は武器ができるまではやることもないし、都合は幾らでもつけられる。

 

「金はこちらで出そう。()()()()()()()()な」

「そうか、ありがたく使わせてもらう」

 

 仲間の面倒を見るのはファミリアの責務と言った所か。ここは変に遠慮せず好意に甘えさせてもらおう。

 

「それと、これはカーリーが望むならで良いんだが…ダンジョンについて学ばないか?」

「ダンジョンについて?」

「ああ、都市では対人戦が中心で幻想体は特定の地域にしかいなかったんだろう?それにその幻想体とモンスターは勝手が違うだろうし、ダンジョンは階層によって大きく環境が変わったりもする」

 

 これから先、冒険者として生きていくならダンジョン探索は避けて通れない。そこについて学ぶのもいざという時に役立つ事は間違いない。

 必要であれば自分で情報収集をするつもりだったからその手間が省けるのはとても助かる。

 

「願ったり叶ったりだけど、良いのか?リヴェリアにはファミリアの仕事があるだろう」

「新人教育も私の仕事の内だ、それにフィンからも頼まれているしな。とはいえ今日からというのは無理だが…」

 

 そこはさしたる問題にはならない。武器がなければダンジョンに潜るわけにもいかないからな。一応上層なら素手でも戦えるが、流石にそれは最後の手段にしたい。

 

「あとは、その内ギルドに冒険者として登録する予定だが…」

「だが?」

 

 リヴェリアは何かを言い淀んで、うんうんと唸るだけだ。異世界人だと何かしら問題があるのかもしれない。

 

「…はっきり言おう。お前は強すぎる」

「あ、ああ?ありがとう?」

 

 いきなり褒められたけど、この反応で合っているのか?絶対に違う気がする。なぜならリヴェリアは深刻そうな表情だったからだ。この顔は絶対に称賛の顔じゃ無い。

 

「カーリーは一応レベル1だったんだろう?だがな、レベル1がミノタウロスを一撃で真っ二つに出来る訳がないんだ。もし普通のレベル1が単身でミノタウロスに挑めば、一分も経たず蹴散らされて終わりだ」

「…ああ、わかった。そういうことか」

 

 つまり昨日恩恵を貰ったド新人が、ミノタウロスは疎か、中層や下層まで行ったらとんでもない騒動になるという事だな。

 しかし…そう言われてもどうしたら良いものか。流石に上層で雑魚を倒して小銭稼ぎするのは効率が悪そうだというのは私でもわかるし、私が満足できる成果を上げようとすると…上層の雑魚を根切りにするしかなくなるだろう。そんな事をしたら他の冒険者からいらぬ恨みを買いかねない。

 

「気持ちはわかる、私もお前に上層でゴブリン狩りをしてこいなんて言いたくはない。だがなぁ…」

「ギルドを誤魔化す手段が見当たらないという事か」

「ああ、ここはロキやフィンと相談してからだな」

 

 冒険者という物はもっと単純な実力至上主義だと思っていたんだが、この世界のルールに則りながら探索しないといけないとなると…面倒だな。

 

「とりあえず、以上かな。もし手持ち無沙汰になったら中庭で武器を振っても良いが、あまり備品を壊さないでくれると助かる」

「わかった」

 

 ベートとの戦闘では目立つ傷がいくつか出来ていたし、アイズとの戦闘でも対策込みで損傷もあった。素振りの時は踏み込みとかに気をつけておこう。




冒頭のL社はロボトミー社の前の会社だぞ!翼戦争の時にローランが見たアレのところ!

〜なぜなに!プロムン教室~

都市の組織ってな〜あに?


今回はちょっと長くなるぞ〜?頑張ってくれたまえ!

裏路地では人の命は水素よりも軽いって話はしたね?でもそこに住んでいる人たちは死にたくなかったりするんだ!
その為には色々対策なりなんなりをする必要があるわけだけど、人間社会で強い力の一つは『群れる事』!って事で裏路地では『12協会』や『事務所』以外にも大きな組織がいっぱいあるんだ!
『五本指』や『掃除屋』『謝肉祭』に『笑う顔たち』…オラリオ風にいうなら『ファミリア』だね!…やっぱなし。分かりやすいけどあまりにもダンまち側に失礼すぎる。

何はともあれ、その中でも『五本指』はその名の通り指に例えられた五つの大きな組織の総称だ!それぞれの組織に独特なルールがあるぞ!厳格なルールによる統率で一致団結!独裁国家でも用いられて来た手法なんだから間違いないね!

 まずは『親指』!ここは『地位』と『規律』を重要視しているんだ!親しき仲にも礼儀ありってね!お辞儀をするのだポッター!
 親指は自分の組織だけじゃなく他の組織の奴らにも『規律』を押し付けてくるぞ!リアルのマナー講師なんか目じゃ無いくらいのマナー過激派!マナーを破ったら指をつぶしたり顎を砕いたりするんだ!
 裏路地の「最も絡みたくない組織ランキング」堂々の1位になる程度にはマナーにうるさい!マナーのためなら死ねる…!

 次に『人差し指』!ここは『指令』第一!というかルールは『指令を遂行する事』しか無いってくらい自由だ!
所属している人間に対して時々届けられる『指令』をクリアすれば悪い人たちから守ってくれるぞ!
 て事で君たちにお試し指令を一つ!『円周率を数え終えるまで眠らないでください』!本物の指令はもっとふわっとしてたりするから判りやすい分簡単だね!暇な人は試してみてね!

 お次は『中指』…ヘアクーポオオオオオン!!!!失礼、発作が起きてしまいました。
 中指は家族がだ〜い好き!中指の仲間はみ〜んな兄妹!まさに『ファミリア』だね!…ごめんって。だって本当に『家族』なんだもん、言いたくもなるって。
 そんなんだから家族が傷つけられたらみんなでお返しに行くぞ!盗まれたヘアクーポンの恨みも晴らしてやる!盗んだ奴とそいつと親交のあったやつ全員処刑な!

 『薬指』は芸術家集団だ!所属している人間みんながあの手この手で芸術を表現しようとしているぞ!
 素材は自由!テーマも自由!ただ偉い人にその作品を認めてもらえればあとは基本好きにしても良いぞ!
 自分の作品を生み出せない?じゃあ『退学』ですね、お疲れ様でした!
 芸術は大衆の視線に晒されれば価値が落ちるのでオークションの際は目隠しをお願いします!あ、もちろん視線さんは別です。穴があくまで見て貰って構いませんよ!むしろ箔がつくってもんです!

 最後に『小指』だけど…今のところ情報が出てないからなんもわからん!まあ『裏路地の組織』の中でも『五本指』なんて数えられてる内の一角だから、碌でもねえ組織なんだろうな!

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