赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている【0830】   作:ピグリツィア

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異世界人の扱い方会議

 自分の部屋の整理をする。とは言っても私がこの世界に持ち込めたものは今着ている服とミミクリーくらいだ。元から整えられていた事もあって、そう時間も掛けずに部屋の整理は終わった。

 やるべき事は終わり、時間も余っているが…外に出るにも金もなければ土地勘もない。となると、やれる事は一つしかない。

 中庭に向かい、何に対してという訳でも無く虚空に向かって武器を振り続ける。いわゆる素振りだな。

 

「しかし、こうやってただ武器を振るだけじゃな…」

 

 暇つぶしに始めた素振りだが、流石に二時間もすれば飽きがくる。備品や床を傷つけないように気を遣ってるせいでそこまでいい感じに振ることもできないし…部屋で横になってるか? いや、流石にそれは…だが他にやる事もない。こんな事ならリヴェリアから適当な本を借りておくべきだった。

 武器を肩に担いで、何となく空を見上げる。大気が汚染されていない、きれいな青空が広がっている。

 

「へ~いカーリー!こんな時でも鍛練なんて、精が出とるなー!」

「どうしたんだロキ、さぼりか?」

 

 空を眺めて一息ついていると、いつの間にかにやにやと楽しそうに笑うロキが近くまで来ていた。

 確かファミリアの業務で忙殺されるとか言ってた筈だが、それにも関わらずこんな所で油を売っているという事は、まあさぼりだろう。

 

「休憩や!きゅ・う・け・い!そろそろ昼飯時やから一緒に食堂行こうや!」

「もうそんな時間か。わかった、一緒に行こうか」

 

 よほど困窮してない限りオラリオで飢える事はなさそうだが、飯は食えるうちに食っておかないとな。

 ロキと共にゆっくりと食堂まで歩いていく。

 

「まったく面倒事が次から次へと、って感じやな〜。あ、カーリーの事は…3割くらいしか面倒って思ってへんで!」

「3割は思ってるんだな」

「まあ、流石になぁ…カーリー自体の特異性にミミクリーの処理、ギルドへの対応と…ごめん、やっぱ4割くらい面倒や」

 

 確かに地上に出た時にあそこまでの騒ぎになっていれば、迷惑をかけてないなんて口が裂けても言えないな。

 そう考えると4割だけで済んでいる、とも言えるな。他にも面倒事が多いんだろう。

 

「衣食住全てを揃えて貰っているから文句を言う気はない。もし重荷になる様なら私一人で動く…訳にもいかないか」

 

 私がロキファミリアに入ったのはロキファミリアが手綱を握りたいという思惑もあったな。そうなると切り捨てたくても捨てられないか。

 

「せやなぁ…まあ、今は面倒が勝ってるけどアイズに勝てる様な戦力を手に入れられるなら安いもんや!もっと早くに来て欲しかったっちゅうのはあるけどな」

「暗黒期か」

 

 ダンジョンの中でフィンと話した時にそういう時代があった事は聞いている。悪意を持って人が人を襲う様な時代…そう考えれば確かに、私みたいな人材の需要は高かっただろう。

 

「せやせや。あの頃は闇派閥との戦闘が多かったからなぁ…カーリーも対人戦(そっち)の方が手慣れとるやろ?やりたいかやりたくないかは置いといてな」

 

 異世界に来てまでそういう血生臭い仕事をやりたいかと言われればやりたくは無いが、確かに手慣れていると言う点は否定できない。

 それに必要であれば躊躇はしないし、最初から()()()()()()が必要なら話は早い。

 

「今の時代はそういうの必要や無いけどな!でもオラリオだと腕っぷしが物を言うんは今も昔も変わらん!ただぶっ飛ばす相手が変わるだけや!」

「私としても化け物を倒す方が後腐れがなくてやりやすいから歓迎するところだ。人間、それも組織が相手だと復讐だなんだ()()()だなんだと煩いからな」

 

 復讐やけじめって面だと特に中指がわかりやすいな。目には目を、歯には歯をのルールを自分のスケールで押し付けてくる奴らで、組織の中での結束が強いから一度絡まれたらかなり面倒だ。

 逆に人差し指は…あそこはあそこで『指令』なんて独自のルールで動くから襲われる時はいきなりなんだよな。その時さえ凌げばまた『指令』のターゲットにならない限りは基本安泰だからこっちも後腐れはないにはないんだが…

 

「なんや随分げんなりした顔しとるな。嫌な事思い出したんか?」

「都市の組織について少しな…」

「自分も苦労しとるんやなぁ、今更やけどな」

 

 組織同士の抗争とかに巻き込まれた事は少なく無い。人差し指の刺客を返り討ちにした事だってある。親指や中指は意識して避ければ多少は効果があるが、人差し指は避けようがない。

 …やっぱり都市のことを思い出すのはよそう、この世界と比べて嫌になる。とはいえ流石に親指や中指みたいな所がないかだけは調べておこう。面倒事は避けられるなら避けておいた方が良い。

 

「そいやフィンが残りの子達は昼過ぎあたりに帰ってくるって言っとったなぁ。カーリーの事どう紹介しよっか」

「ただの新入り…じゃ駄目か。あそこまでの騒動を起こして幹部全員を私の対処に回したくらいだからな」

「せやなぁ。正直どう言い繕っても納得出来ん子は出ると思うな。それをどうにかする方法も…無くは無いけどな。『冒険者』は単純だから腕っぷしを見せればその場は抑えられる…まあその場凌ぎやな」

 

 力で黙らせる。確かにわかりやすい方法だ…それを寝食を共にする仲間にやりたいかと言われると、やりたくは無いが。

 

「『ヘラファミリアの子がなんや分からん事故でダンジョンに来たっぽい〜』…無理がすぎるな。『ただの流浪の強者やで〜』…怪しすぎて駄目やんな、そんな奴ファミリアに入れんなって言われるわ。正直に『カーリーって実は異世界人で〜』………信じられるかアホウ!」

「本当に迷惑をかけているな」

「最初の対応のせいでややこしくなっとるのは否めんわな。地上で会うとかなら…ミミクリー持っとる時点でダメか。まあどちらにせよなんとかせなあかんな。フィンとかと一緒に考えとくから待っててな」

 

 そこら辺の事柄に関してはロキ達に任せるしか無いな…やはり、何も出来ないというのは歯痒い。力だけがあった所で何も役に立ててない。それもこれも武器さえあれば…クソ、あった所でまだダンジョンには潜れないんだったな。

 

「落ち着きぃカーリー、焦った所で自体は好転せん。焦るのも無理はないやろうけどな」

「ああ、そうだな…」

「ウチらに任せとけば良いんや!なんたって天下のロキファミリア様や…って、異世界人に言ってもピンとこんか。まあぼちぼちデカいファミリアやからこんくらいどって事ないって事や」

 

 焦りが表情に出ていたらしい、ロキに気を使わせてしまった…ああ、こういう時こそ落ち着いて、機を待つべきだ。いつだってそうして来た、今回もそうするだけだ。

 


 

「あ!カーリー!お〜い!」

 

 食堂には既にティオネとガレス、それとベートを除いた見知った顔が揃っていた。ティオナに呼びかけられたのでロキと共にそちらへ向かう。

 

「昼食は揃って食べるなんて決まりはなかったと思うが?」

「期待の新人に皆興味津々なんだよ。ロキが呼びにいったのも確認していたしね」

 

 確かにティオナの視線には判りやすく「興味津々です」と書いてある。アイズもそうだな。

 

「とりあえず食事にしようか、用事はその後でも大丈夫だろう?」

「そうだな、今日は何を食べようか…」

 

 各々好きな料理を用意して、揃ったものから手を付け始める。やはりこの世界の食事は美味いな。料理人の腕がいいのか、素材がいいのか、その両方か。

 食事を食べながらティオナが「はいは〜い!」と手を挙げる

 

「私も一度カーリーと試合してみたいけど…手加減って苦手だからなぁ。フィン、どお?」

「手加減が必要なくらい強いのか?」

「いやぁ…武器がすぐ壊れちゃうから…」

 

 どうやら武器の問題らしい、確かに試合の度に武器を駄目にしていれば出費も馬鹿にならないだろう。フィンも笑顔で首を横に振った、残念ながら許可は降りないらしい。

 

「訓練用とはいえそう簡単に武器をダメにされるのはちょっとね…自腹で弁償するならいいよ?」

「い、いじわる!私のお金が無いって知ってて言ってるでしょ!」

 

 ダンジョンで武器を溶かされたと言っていたな。ティオナの実力から察するに相当上等な武器を駄目にしたに違いないが…それでなくてもそこそこの頻度で使い潰しているみたいだし、金に余裕がある訳では無いだろうな。

 

「ただでさえ今回の遠征の出費が嵩んでいるから、暫くは節制したいしね」

「そっかぁ…そうだよねぇ。武器もいっぱい溶けちゃったし、途中で撤退したから予定よりも稼ぎが低いだろうしねぇ…」

「ホンマ、頭が痛くなるな」

 

 遠征とやらも結果は芳しくなかったらしいし、何をするにしても暫くは金策に走ることになりそうだ。異世界に来ても金の呪縛からは逃れられないのか…

 

「この世界の金策って何があるんだ?」

「ウチは専らダンジョン探索やな。モンスターを倒す時に出る魔石や素材に、ダンジョン内に生成される薬草やら鉱石を回収して売るんや」

「冒険者が必要とされる仕事は他にもあるけど、やっぱり一番効率がいいのはダンジョン探索になるね」

 

 遺跡と似たような感じか?遺物の売買で金を稼ぐと考えればわかりやすいな。

 ロキファミリア程の組織だと護衛とかの依頼もありそうだが…それよりもダンジョン探索が真っ先に出るのも治安の差か。

 

「基本的には深層のアイテムの方が高く売れるんやけど、モンスターも強くなるから一筋縄じゃいかんのよな~」

「深く潜るなら食料やポーション類の消耗品も多く必要になるしね」

 

 ダンジョンの深層ともなると行き帰りにも相応の手間が発生するだろう。実際にどれ程掛かるのかは分からないが、補給の見込めない遠征ともなると、水や食料、戦闘が多くなるだろうし武器の替えも欲しいか。なるほど確かに、出費は嵩みそうだ。

 

「そういえばダンジョンに残してきた団員は大丈夫なのか?主力が丸ごと抜けてるとなると万が一もありそうなんだけどな」

「流石に中層からの帰還でヘマをするほど柔じゃないとは思うけど、ガレスとティオネがこっそり付いて行ってるから異常事態にも対応できるだろう」

 

 万が一を想定しての保険も万全ということか。流石はファミリアの長、私が気にするようなことくらいは考えているか。

 

「ま、ラウル達にはいい経験になるやろな」

「そうだな、レフィーヤの状態は気がかりだが…ラウルなら上手くやってくれるだろう」

「え?レフィーヤなんかあったん?」

 

 ロキの質問にフィンとリヴェリアがあ、と声を上げる。レフィーヤ…たしかミミクリーに怯えていたエルフの子だったか。

 あの精神状態で団体行動できるかと言われれば…正直難しいかもしれない。まあガレス達が上手くやってくれるだろう。

 

「そう言えばロキに教えるのを忘れていたな…」

「レフィーヤはミミクリーを見て怯えてしまってね、一日もすれば動ける程度には立ち直っているとは思うけど…少し心配だな」

「ああ〜そりゃ無理もないわ。まあ相性が悪かったんやろな。ああいうのはマジで相性ゲーやからなぁ、無理な時はとことん無理や。ま、それも成長すればなんとかなるやろ!嫌いなモンが食えるようになる感じでな!」

 

 やはり相性か。レフィーヤには悪いが確かに、あれに相対できる程精神は成熟はしていなさそうだった。だが人は成長するものだし、フィンやリヴェリアが言うように今後に期待しよう。

 

「それに今回はガレスとティオネもいるんやろ?なら大丈夫や!多少の障害は蹴散らしてくれるやろ!」

「…ああ、そうだな。さてカーリー、私からはこれを」

 

 リヴェリアから差し出された本の表題に目を通す…『Re:ゼロから始めるダンジョン生活』か。どうやら駆け出し冒険者向けのダンジョンに関する本らしい。

 

「しばらくはやる事もないだろうし、素振りばかりというのもどうかと思ってな」

「ああ、ありがたい。ちょうど素振りに飽きてた所だ」

 

 今後は冒険者稼業を中心に生活するから、ダンジョンについて学んでおくのは避けられないだろう。勉強は…研究所の奴らとは比べるべくもないが、フィクサーとしては出来る方だと自負している。伊達に特色ではないのだ。

 

「他の団員もこれくらい意欲的に勉学に励んでくれるとありがたいんだがな」

「多少の無茶も若さの内だろう。私みたく追い詰められれば嫌でも頭を使うようになると思うが…」

「なあフィン。これは興味本位で踏み込んで良いと思うか?」

「カーリーなら快く教えてくれると思うよ?踏み込んだ結果どれほどの精神的なダメージを負うかはわからないけどね」

 

 この世界の倫理観と照らし合わせれば…かなり不快な気分にさせそうな話になる。よくよく考えずとも死にかけるような経験が気持ちのいい話になる訳もないけどな。

 

「カーリーの育成法って、絶対テルスキュラとかフレイヤファミリア式になるよね…良く言えばスパルタって奴?」

「それは良く言い過ぎじゃないか?もっとこう…人道的にどうかと思うようなものになりそうな気しかしないんだが」

「…それで強くなれる?」

「まあ、強くはなれるだろう。少なくとも私はこうなっている」

 

 そこらのガキが特色の肩書きを得て、調律者や爪と戦える程度には強くなれた。効果の程はこの身をもって実証済みだ。

 

「ぜっっったいにやめといた方がいいってアイズ!カーリーの訓練法なんて絶対に碌でもないもん!」

「おい」

 

 ティオナのあまりにもあんまりな言い草に突っ込みを入れたが…冷静に考えなくても『怪しい組織に単身で突っ込む』とか『裏路地の夜に単身で突っ込む』なんて訓練法が正常なものとは言い難いな。ティオナの言い分は全面的に正しい。

 

「確かに軽く聞いただけでも地獄のような世界だったしな。それにカーリーの訓練で身につくのは対人の方が主だろう」

「強化施術があれば話は違ったんだけどな。オラリオにはそういう技術は無いのか?」

「なんやその強化施術って。まあ単語からなんとなく察しはつくけどな」

「外骨格や生体装備…って言ってもわからないか。簡単な物だと薬物強化や、即効性のある恩恵みたいな効果の刺青がある。安物だと痛い目を見るって話はよく聞くけどな」

「なんやまたけったいな装備開発しとるな…そっちの技術ってどんなんなっとんねん。薬物強化とか絶対碌でもないやろ」

 

 ロキ以外の面々は首を傾げている。詳しく説明しようとすると長くなるし、『特異点』とかの話にも触れないといけないからまた今度になるか。

 

「あとは…純粋にいい装備を作るとかだな。こっちにも身体能力の上がる装備くらいはあるだろ…無いのか?」

「一応アマゾネスの装飾品とかがそっち系やけど…」

「たっかいよ〜?どちらかと言うと防御とか耐性メインだし。いい装備が高いのは今に始まった事じゃ無いんだけどさ〜?」

「私の着ているローブも特殊な能力があるが、元が王族用の衣装だからな。これ一着で遊んで暮らせるとまで言えるだろう。それにここに居るメンバーが満足出来る効果を持つものは…私の知る限りでは無いな」

 

 オラリオは都市よりも装備品での身体強化の敷居が高いのか…難しいな。やはりこの世界はステイタスを上げるのが一番手っ取り早いだろう。稼ぎながら強くなれるなんて、夢のような施術だな。

 

「そうだな…恩恵があるならダンジョンに潜って適当に戦うのが一番いいんじゃ無いか?戦うだけで身体能力が上がるなら利用しない手はないだろ」

「まあ、オラリオで強くなるっていうとそこに落ち着くよね〜」

「あとは…敵をよく視る、観察が大事だな。初見の相手は特にそうだ」

 

 この技能はどこでも役に立つ。人の流れ、使う言葉や癖から分かる事もある。幻想体なんて初見殺しのオンパレードみたいな物だったし、モンスターも大差はないだろう。

 

「よく視る…観察…」

「私はそういうの苦手だな〜。なんにも考えず叩いちゃうや」

「今回の遠征もそれで痛い目に遭ってたしな」

「…観察は大事!すっごく大事!」

 

 ほらな、痛い目を見れば否が応でも成長させられるんだ。痛みが無ければ成長しないとまでは言わないが、言っても分からないような奴はこれが良い。

 

「でも今回はどうしようもなくない!?仲間が襲われててモンスターがいたら誰だってまずは攻撃するでしょ!?」

「何の情報もないモンスターにそういう行為をするのが問題だと言っているんだ…全く」

「確かにあの状況じゃ仕方がなかった面もあるかもしれないけどね。仲間がやられていたら誰だって多少は動揺するだろう」

 

 情状酌量の余地があるとは言え、それが反省しない理由にはならない。次の為の対策を考えるべきだ。

 とは言え今回の敵は聞いている限りだと対策が難しい相手ではあるな…壁や床を砕いて投石で倒すとしても、数体ならともかく大量に迫ってくるような手合いじゃ焼け石に水か。

 

「対策はこっちで考えているけど…かなり手痛い出費にはなるね」

「まだ草案やけど前に出るメンバー全員に『不壊属性(デュランダル)』配るんやっけ?まあエラい金かかる贅沢な対策やな」

「他にも対策は考えているけど…これは相手の反応待ちかな」

 

 次の遠征については私から口出しする事はない。そもそもダンジョンについて何も知らないし、このファミリアの幹部とかでもない。名義こそロキファミリア所属だが実際の所は応急措置に近い外様みたいなものだしな。

 

「武器溶かす芋虫も面倒やな…ま、もう手は打ってあるから次や次!フィン。今から帰ってくる子らにカーリーの事ってどう説明したらええと思う?」

「ンー…そうだね…細かい事を抜きにして普通に新入団員として説明しちゃおうか」

「博打になりそうやけどやっぱそれが丸いかぁ」

 

 随分とすんなり決まったな、手な小細工を弄するよりも正面から行ったほうが良いのか。

 

「それ以外の良い手が思い浮かばないのもあるけどね。世間知らずで異様に強い新入団員…不自然の塊だけどどうしようもない。正直に「異世界人です」なんて言った所で酷い混乱が起きるだけだ」

「まあそうなるよなぁ…って事で頼むわカーリー!なんかあったらフィンとかウチに相談しとくれ!」

「ああ、何事もないのが一番だが…無理だろうな」

 

 ベストでは無くベターを選ぶ、と言った所だな。私みたいなこの世界においてなんの情報もない人物を扱うと言うのはかなり骨が折れるだろう。

 裏路地だったら何の変哲も無いそこら辺にいる一般人みたいな物だったんだが…やはり治安がいいと動き辛い所もあるか。

 

「さて…話しておくべきことも話したし、僕とロキは仕事に戻るよ」

「ええ〜?もうちょいさぼ…休憩した〜い!」

「皆が帰ってくるまでにある程度仕事を終わらせないと、打ち上げ中にも仕事をしなきゃいけなくなるよ?」

「ハイ!仕事します!…はぁ〜、んじゃ、カーリー。ウチは勤労に勤しんでくるわ…」

 

 フィンは至って普通に、ロキはとぼとぼと肩を落としながら自らの仕事に戻っていった。あいつはどれだけ仕事をやりたくないんだ…

 

「私も仕事に戻らねばな。まだ事務作業も終わりきってないし…そうだ、ティオナ、アイズ。ダンジョンのメンバーが帰ってきたら戦利品の精算の手伝いがある。時間を空けておいてくれ」

「はーい!」

「うん」

 

 ティオナとアイズは仕事で出るか。私も暇を持て余しているし仕事があれば手伝いたいが…

 

「私は…でしゃばらないほうがいいか」

「そうだな、荷物持ちをしてもらいたいが、まだ他の団員への紹介も済ませて無い。混乱を防ぐためにもホームで待機だな」

 

 予想通り、外様対応という感じだ。仕方がないのは理解しているけど、あまりにも仕事がなさすぎて落ち着かないな…とりあえずリヴェリアから借りた本でダンジョンについて学ぶか。

 

「カーリー!私たちもしばらく暇だからダンジョンについて教えてあげようか?」

「それは助かるけど…いいのか?」

「大丈夫だって!新人育成も先輩の仕事だもんね!アイズも一緒にどお?」

「うん…わかった。一緒に教えるね」

 

 肩書きだけで見れば、レベル5の冒険者二人がかりと言うなんとも贅沢な教師がついてくれるらしいが…どうしようか、普通に不安だ。ティオナとアイズ、二人の冒険者としての腕は疑いようも無いだろう。それでも不安なんだ…果たしてこの二人に『人に物を教える』なんて事ができるのか…?

 ちらりとリヴェリアに視線を送る。おい、視線を逸らすなこっちを見ろ。

 

「まあ…その、なんだ。どうしようもなくなったら遠慮なく私の部屋に来てくれ」

「リヴェリア…」

 

 この評価だと期待はできそうに無い…しかし、私にはリヴェリアから授けられたこの『Re:ゼロから始めるダンジョン生活』がある。いざとなったらこれを頼りに勉強すれば良い。

 

「なんかすごく失礼な事言われた気がする!」

「ティオナ、私のダンジョン講座を受けた時の最後の成績は?」

「…に、にじゅう…ご点?」

「23点だ…お前の善意を無下にはしたくないから止めはしないが、間違ってもカーリーの邪魔だけはしてくれるなよ?」

 

 不安ばかりが募っていく…場合によっては私が講師側になったりしないだろうな。そうなったら、その時はその時か。

 

「だ、大丈夫だって!これでも深層にも潜った事のある一流の冒険者なんだから!アイズもいるし!」

「アイズも勉強は得意じゃなかったからな…いや、これ以上は何も言うまい。カーリー、二人のことは頼んだぞ」

「ああ、任せてくれ」

「ちょっと!?私たちが勉強教えるんだけど!?」

「や、やれるだけ頑張る…」

 

 とりあえずやるだけやってみるか…案外悪く無かったりするかもしれないしな。

 


 

 そう思っていた時もあったな…そんな風に考えながら、顔を顰めながら『Re:ゼロから始めるダンジョン生活』と睨めっこするティオナを眺める。

 

「ティオナ…そろそろ本を返してくれ」

「あ、あと少し!あと少しでわかる気が…する!」

 

 まさか『ダンジョンの歩き方』の項目で引っかかるなんて想像もしてなかった…

 

「いやこれは問題が難しすぎるよ!何この『入り口から7階層食料庫までの最短ルートを答えなさい』って!こんなの使う訳ないじゃん!」

「レアモンスター『ブルー・パピリオ』を狙うならモンスターの集まる食糧庫で張るのが良いだろ?」

「あっそういう事ね…でもマップを見ないでってのは難しすぎな〜い!?これってサポーターとか【斥候(スカウト)】の仕事じゃん!」

 

 それくらい出来てこその冒険者という訳だろう、あとはこの教本が単独や少人数用の立ち回りを中心に解説しているからと言う理由も大きいだろうな。リヴェリアは『カーリー(わたし)向けの教本』を選んでくれたと言う事だ。

 私はもう問題ないが、ティオナは解答欄を睨みながらああでもない、こうでもないと唸り続けている。

 

「ティオナはあまり上層で戦わなかったんだっけ」

「そうなんだよね〜…ロキファミリアに入った頃にはもうレベル2高位だったから、数回ダンジョンに入った後はもっと深いところに行ったんだよねぇ。中層あたりならなんとなく判るんだけどねぇ…よし!これでどう!?」

「残念ながら全然見当違いの方に向かうルートだな、行き止まりで動こうとしているぞ…アイズは問題なさそうだ」

「うがー!」

 

 7階層までは問題なく行けているあたりに冒険者としての経験を感じるが、それ以降はてんで駄目だ。

 

「いいもん!実際に行く時はマップもあるもんね!それに中層以降なら私だって自信あるもん!」

「残念ながらこれは初心者向け教本だからその知識は役に立たなそうだな」

「カーリーはもうマップを覚えたんだね…」

「広く動くフィクサーだと必須の技能だったからな。マッピングも出来るぞ」

 

 フィクサー…と言うよりは裏路地ではいきなりよくわからない施設に投げ込まれたりする事もあった。原因は様々だがそこから生きて帰るには、常に自分の向いている方向や歩いた距離くらいは覚えられないと話にならない。

 時間も覚えておいたほうが良いが…場所によっては時空が歪んでて当てにならなかったりするんだよな。数時間彷徨ってた筈なのに外に出たら1時間も経ってなかったりした事もある。

 

「本当に器用だねえ…私には出来そうにもないかな〜」

「私も自信がない…」

「これに関しては経験や環境の差だろう。他人を頼れるならそのほうが良いし、専門職が仲間内にいるなら尚更だな」

 

 私も仕事の関係でセブン協会(情報屋)ウーフィ協会(取引仲介)を頼ったことはある。全部一人でどうにかするにも限界はあるし、頼れるなら味方を頼ったほうが良い…私はその辺りも得意じゃなかったけどな。

 

「仲間を頼る…」

「そうだねぇ、私も頭を使うよりは体を動かす方が好きだし、この手のことは仲間にやってもらお〜っと」

「頼りきりと言うのもどうかと思うが…そこら辺はフィンやリヴェリアが調整してくれるか」

 

 ティオナがぐいっと伸びをすると同時に、部屋の扉が叩かれる。

 

「カーリー、ティオナとアイズは居るか?」

「リヴェリアか、開けても良いぞ」

「失礼する。勉強はどう、だった…」

 

 リヴェリアは部屋に入って最初に目についたテーブルの上、ティオナの前に置かれた紙を見て固まる。リヴェリアの視線に気がついたティオナは慌ててその紙を裏返したが、もう遅いだろう。

 

「………ティオナ?」

「………はい」

「まさかとは思うが…お前だけがこの問題でミスをしたのか?」

 

 ティオナは何も答えなかった。沈黙は金とは言うが、この状況では当てはまらないだろうな。

 リヴェリアは両手で顔を覆い、天を仰いでからため息を吐く。

 

「…今度カーリーにダンジョンについて教えるつもりだったが、お前も参加だな」

「…はい」

「せめて上層のマップくらいは暗記しておいてくれ…中層以降よりは段違いに狭いんだぞ?」

 

 まさかこんな事態になるとは、食堂では予想もつかなかったな…萎れたティオナは置いといてリヴェリアの本来の目的を聞かないと。

 

「で、リヴェリアはなんの用で来たんだ?様子を見に来たって言うならそれでもいいけどな」

「ああそうだ、そろそろダンジョンの仲間たちが地上に出る筈だから二人は準備をしてくれ」

「うん、わかった」

「は〜い…」

 

 アイズは普通に、ティオナはしょぼしょぼとテーブルの上の物を片付けていく。私は外に出る訳にもいかないしこのまま勉強かな。

 

「それじゃあカーリー、また後でね」

「ああ、また後でな」

 

 今日中にはこの本の内容を終わらせたいな。フィクサー業務にも似た所があるし不可能ではない筈だ。




〜なぜなに!プロムン教室~

都市の装備とか強化施術ってな〜あに?


都市は危険がいっぱい!人同士の抗争はもちろん、場所によってはこわ〜い化け物とかが歩いてたりするんだ!あ、そいつは『謝肉祭』って奴で人間ね。あ、そっちは『ねじれ』だよ!それも人間!あー!それは血鬼!化け物!人間じゃない!

…ともかく!化け物みたいな人間や人間みたいな化け物が闊歩する裏路地では、フィクサーに限らず武力が必要になるんだ!そんな時頼りになるのが『工房』と『強化施術』!

『工房』は簡単に言えばへファイストスファミリアとかゴブニュファミリアみたいな所だよ!それぞれの工房に特徴があって、『スティグマ工房』はあったか〜い武器を作ってたり、『ロジックアトリエ』は銃器を取り扱ってたりするんだ!
他には『謝肉祭』が織る生地を使った丈夫な服や、『狼牙工房』の装備品には身体能力を上げてくれる物もあるよ!

特に『翼』の装備は無茶苦茶強力だ!一般人が使える機会もないし、万が一あったとしても無茶苦茶高級品だけどね!T社の『相手の時間を奪う』ツルハシみたいな武器やL社の『EGO』があるね!他には『刺青』は特許の切れた翼の技術だったりするぞ!

『強化施術』は文字通り身体能力を強化したり、『外骨格』みたいな武器腕を生やしたりできる技術のことだぞ!
身体能力の強化は生身の体なら『刺青』や『薬物強化』『外骨格』に『義体』と色んな選択肢があるぞ!
もしも君が『刺身の上にたんぽぽのせる仕事』や『倒れたマッキーを立てる仕事』、もしくは『ひっくり返ったパンを元に戻す仕事』みたいな『長時間の反復作業』をしたいなら『義体』がお勧めだぞ!俺は人間をやめるぞ!
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