『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
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俺こと『
幼少期に飛行機事故に巻き込まれ、両親を亡くして施設に入り。
施設では俺のことを兄と慕う美少女と出会い。
大富豪の家にその娘と一緒に養子として引き取られ。
そこで政治的な都合で婚約させられ。
義父の会社を継ぐことになり。
婚約者に裏切られ。
挙げ句の果てには、強盗に押し入られ家族全員が殺された。
だから、もし生まれ変わりがあるとしたら、次の人生では平穏に暮らしたいんだ。
例えそれがどんな治安の終わっている街で過ごすことになっても。
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まず最初に感じたのは『熱さ』だった。
じんわりとした程よい熱を感じて、俺は目を覚ました。
「は?」
俺は死んだはずだった。
だというのに、目の前にはビル群やら交差点やら普通のリーマンぽい方々やら、当たり前のようにいつもとさして変わらない街並みが広がっているのだから混乱する。これが死後の世界だというのなら、なんとも現代的な極楽浄土であろうか。
「なにやら小難しいことを考えている顔ですね、兄さん」
「へ?」
不意にかけられた声。抑揚の少ない、静かだがよく通る声は、俺にとってはとても聞き馴染みのある声だった。声の主を確認すると、そこには美少女がいた。
腰まで伸ばした艶のある白髪。深紅の瞳。ちゃんと食べているのか心配になるくらいの細い手足。それでいて、俺よりも遥かに小さいちびっこ感。あぁ、間違いない。
「雪南!」
我が義妹・
「あー、大きな声を出さなくても聞こえていますよ。まったく声だけは無駄に大きいんですから」
「おぉ、すまん……」
死後の世界でもまさかに会えるとは思わず、安心してしまったんだ。そう伝えても彼女は声色ひとつ変えずにそうですかと返してくる。相も変わらずクールな義妹である。
「それにしても、やけに現代風な世界だなぁ、死後の世界ってやつは」
「…………兄さん、さっきから気になっていたんですが、ここが死後の世界だと思っているんですか?」
「え、違うの? だって、俺達死んだじゃん?」
「……それは否定しません」
表情の変化に乏しいではあったが、かなり不快感を感じているのか、絞められた首をさすさすと撫でていた。ここではその跡は残っていないようで、お兄ちゃん的にはちょっと安心。
ブンブンとその不快感を振り払ってから、雪南は告げる。
「たぶんですけど、ここは風都です」
「風、都……?」
「はい。わたしたちの世界でいう特撮……『仮面ライダーW』の世界です」
大真面目に雪南は言い切った。そんな彼女の指差す先には、巨大な風車のついたタワーがそびえ立っていた。
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『仮面ライダー』。
あんまりテレビを見ない俺でも流石に知っている。テレビでやっていた特撮ヒーロー番組だ。かなりのご長寿番組のようで、俺が小さいときから引き取られ、若くして社長を継がされてからも続いていた気がする。そんな番組の中にひとつに『仮面ライダーW』があるのだそうだ。
自称仮面ライダーヲタクの義妹によると……。
風の街・風都。そこではビルが溶け、人が死ぬ。そんな光景が当たり前に起こる。
その原因となっているのが『ドーパント』と『ガイアメモリ』。
USBメモリのような形をした『ガイアメモリ』には、地球のあらゆる記憶が宿っており、それを人体のどこかに差すことで人間を超えた怪物『ドーパント』になることができる。
『ドーパント』には固有の能力があり、怪力があったり、火を出したり、超高速で動けたりと、人を害することに関しては天下一品。そんなのが当たり前に闊歩しているのだそうだ。
え、こわぁ……。
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この世界のことをどうやら知っているような雪南に話を聞くために、近くの小さな公園へ。平日なのか人はほぼおらず、2人でブランコに座りながら話をすることにしたんだが……。
「だからその『ドーパント』を倒し、街を守るのが『仮面ライダーW』な訳です。彼らは二人で一人の『仮面ライダー』で、彼らも『ガイアメモリ』を駆使して戦うのですが、3本×3本で合わせて9個のフォームチェンジと強化形態が1つに最強フォームがあり、その組み合わせで敵の『ドーパント』の能力に適した戦い方をするのがまた見所でーー」
「へー、すごいなぁ」
「そうなんですよ。さらに『仮面ライダーW』には探偵ものの要素も強くてですねーー」
こういうことに関しては異様に饒舌な雪南さん。詳しく説明してくれてるのは分かるけど、早口でよく分かんないや。なんか言ってるなぁくらいの感覚だ。
ま、詳しいことは雪南が知ってるならいいよな!
「で、なんで俺達はそんな作り物の世界にいるわけだ?」
「あ"? 作り物ぉぉ?」
「え、あ、すまん、えっと『仮面ライダー』! なんで『仮面ライダー』の世界にいるんだろうな?」
ぶちギレかけた雪南だったが、どうにかセーフ。俺の疑問は彼女にとっても同じようで、少し考えた後に答えてくれる。
「恐らくですが……所謂『異世界転生』というやつではないでしょうか」
「?」
「そのままの意味です。語彙力の足りない兄さんでも単語の意味なら分かるでしょう?」
「うーむ」
異世界……異なる世界。転生……生まれ変わる。
つまり、
「え、生まれ変わったの? 俺達?」
「…………わたしに聞かれても正直困りますが、恐らくそうかと……」
「えぇぇ……」
説明を聞いても困惑するしかない。
じゃあ、え、死に際のあの小っ恥ずかしい告白はなんだったんだよぉ。
「……兄さんの死に際の言葉、かっこよかったですよ……フッ」
「ぐむぅぅ……」
止めて。本当に止めてぇ、顔から火が出そう……。
顔を両手で隠し、イヤイヤと首を振る俺に構わず、義妹様は話を変える。鬼畜である。
「何がなんだか分かりませんが、折角『仮面ライダーW』の世界に来れたんですから、ぜひ楽しみましょうか。そうですねぇ、『仮面ライダーW』に会いに行くのもありですね」
「……あのぉ」
「『ガイアメモリ』を手に入れてみるのも一興でしょうか」
「えぇぇ……怖いもの知らずぅ……?」
平坦な調子ですごいことを言ってのける雪南。
いやいやいやいや、せっかくで言うならば、俺は今度は平穏な生活をしたいんだ。だから、『仮面ライダー』にも『ガイアメモリ』にも関わらないよ?
「……ヘタレ」
「ヘタレで結構。とにかく今は当面の生活を……」
ーーカチャッーー
ポケットに前世のクレジットカードでもないかと確認しようとして、違和感があった。確かにクレジットカードはあった。ブラックカードである。これが使えるなら、当面の生活の心配はないだろう。ただ……。
「………………これ、なに?」
ポケットに入っていたのは、白いUSBメモリ。じっくりと見れば、なにやらイニシャルが1つ、印刷されているようだった。
「兄さん、それ!」
「……これ、もしかしなくても……」
「はい。『ガイアメモリ』です。しかも、純正化されてる……」
純正化とやらがなんなのかは分からないけれど、これはまさしくさっき話に挙がっていた『ガイアメモリ』という代物らしい。
「イニシャルは何ですか」
「え、ああ」
「『E』だね」
「!!!!!」
俺の返答に酷く驚いた様子の雪南。雪南は俺から強引に奪い取り、自分でそれを確認する。そして、そのメモリの名前を、ポツリと呟いた。
「……『エターナル』」
『エターナル』。『永遠』。
そのメモリがどんなものなのかはよく分からない。けれど、
「なんと、なんとなんと……『エターナル』? いやいやいやいや、あり得ないでしょう。『エターナル』は大道克巳のものですよ。解釈が違います」
雪南の異様な様子……いや、通常運転といえば通常運転だけど、とにかくなにやら大変な『ガイアメモリ』のようだ。ブツブツと何かを早口再生していた彼女が一瞬落ち着いたタイミングで、俺は声をかけた。
「えっと、雪南さん?」
「あ、はい。なんですか、兄さん」
「これ、どうすれば……?」
曰く『ガイアメモリ』は持っているだけで犯罪になるようだから、警察に届けるとか件の『仮面ライダー』に渡すとか、そう言うアドバイスを求めたんだけど、彼女の答えは、
「兄さん」
「世界征服でもしましょうか」
「え、えぇ……」
どうやら俺の考えとは正反対のようである。
やたら早口でその白い『ガイアメモリ』の凄さを語り続ける雪南の横で頭を抱えた俺は、呟くしかなかった。
「俺は……平穏に暮らしたいんだって……」
力ない俺の声は、誰もいない公園に少しだけ響いて、消えた。
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こうして、第2の人生が始まった。
今の俺にはまだ『エターナル』が巻き起こす騒動を知る由もなかった。
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