『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
園咲邸での事件から3日後、俺と雪南は変わらない日々を過ごしていた。
『ドーパント』が同時に2体も出現した事件に巻き込まれたのだから、警察からの聴取もあるかと覚悟はしていたのだが、それもなく、すぐに家に戻ることができた。雪南によると、恐らく園咲家から圧力がかかったのだろうとのこと。公権力すら手玉に取るのかあの『ラスボス』は。そんな人物のところからよく無事で帰れたものだと、改めて嘆息する。
それで今回の潜入の成果だが、雪南が園咲家の幹部と接触し、友好的な関係を築くことができたという。流石は我が義妹様、やる時はやる女である。さらに、成果は他にもあって。
「流石はお兄様ですね。まさか組織のトップと友好的な関係を築くとは」
「いや、雪南、違うんだ」
「ご謙遜を。現に園咲家からの招待状が届いているじゃないですか」
そう。俺の成果、それは園咲琉兵衛から届いた招待状を見れば分かる。いや、たぶん思い過ごしだとは思うんだけどさ……なんか気に入られてませんか!?
「いや、ほら……違うって、きっと社交辞令って奴だろ」
「兄さん、たぶんこれ、原作だと月に1回開かれるという園咲家の者のためのお茶会、その招待状ですよ」
「…………ほんとぅ?」
「はぁぁ、一体何をしたらこんなに気に入られるんですか……」
呆れた様子を隠すこともなく嘆息する雪南。
そんなの俺が聞きたいと言おうとするも、心当たりが多すぎるため、口を閉ざすしかなかった。そのあとも、井坂の話も蒸し返してきて、淡々と文句を言われ続ける俺。そんな時ーー
ーーピンポーンーー
インターフォンが鳴った。助かった。そう思い、俺はすぐに立ち上がる。雪南はまだ不満たらたらだったが、配達の人を待たせてはいけないからと急ぎ足で玄関に向かい、ドアを開けた。
「やぁやぁ、久永遠治くん!」
「おまっ!? 『シュッ!?」
玄関を開けた先にいたのは、『シュラウド』であった。なぜ俺の家を知っているとか、何しに来たとか色々言いたいことはあるが……。
「兄さーん? そちらの方はー?」
インターフォンでその姿を確認して、宅配の人ではないことに気づいたようで、雪南もその場にやってきた。一瞬で思考する。雪南にこいつのことを伝えるべきか? いや、それとも……。
「しゅ……うきょう勧誘の人だよぉ」
「宗教勧誘、ですか?」
「そうそう。雪南がいないときに1回来たんだけどしつこくてねー」
早口で捲し立て誤魔化す。考えた結果、雪南にこいつのことを伝えるのは危険だからだ。
「……おいおい、それはないだろう? 私はーー」
「ーーはーいはいはい! お外でお話ししましょうか、宗教の人ー!!」
『シュラウド』が余計なことを言う前に、俺は彼女の口を無理矢理塞ぎ、外に出た。
ーーーー公園ーーーー
「どういうつもりだ?」
公園のベンチに腰掛け、俺は『シュラウド』にそう聞いた。彼女はブランコを漕ぎながら答える。
「君に会いたくてね」
「………………いいから本題を教えろよ」
美人にそう言われるのは満更でもない。だが、この状況では、それがこちらを茶化したものであることに気づかない俺ではない。どうして家に来たのかと再度訊ねる。
「今日は君に渡したいものがあって来たんだよ」
そう言って、『シュラウド』はベンチに座る俺の横に置いたアタッシュケースを指差した。謎多き女からの贈り物など怪しい事この上ない。
「ラブレターでもチョコでもないのは確かだな」
「どうだろうね。開けてみるといい」
嫌な予感はする。それでも今、俺ができる選択はこのケースを開けることしかない。俺は恐る恐るケースを開けた。
中に入っていたのは謎の機械だった。色は赤で、大きさは掌よりも少し大きいくらい。片方だけ出っぱっており、その出っ張りに何かを入れられそうな空洞がある。
「…………なんだ、この機械?」
見たことのない機械だったから、素直な感想が口から出た。首をひねっていると、『シュラウド』はブランコから飛び降り、おもむろにこちらに近づいてくる。
「そうか。君はこれを知らないんだね」
「あぁ、見たことも…………ん?」
ふと記憶が甦る。うっすらとしたものだが、なんだか『仮面ライダー』にあった時に、この機械を見たことがあるような……?
「習うより慣れろ、という言葉もある。使ってみるのが早いよ」
ーースッーー
「え……?」
ーーカシャンッーー
『シュラウド』がその機械を俺の腹に押し立てると、機械から帯が射出された。そして、まるでベルトのように……。
「あ"ッ!?!?!?!?」
頭に雷が落ちたような衝撃が走り、きったない声が出る。
そうだ、そうだそうだそうだっ!? なんで忘れていた!? この機械、あれじゃねぇかよっ!? 前に遭遇した『仮面ライダー』の腰に巻かれていた奴!!
「どうやら知っていたようだね。そう、これは『ロストドライバー』。『仮面ライダー』になるために必要なモノの1つさ」
「ちょ、おいっ!?」
「おめでとう。君は『仮面ライダー』になれる」
俺に美人スマイルを向ける『シュラウド』。美人に弱いらしい普段の俺なら、その笑顔にドキドキしていただろうが、今はーー
「ふざけんなよッ!?!?!?」
俺の叫びは公園にこだました。
~~~~~~~~
「落ち着いたかい?」
「……多少」
「それはよかった」
多少の冷静さを取り戻した俺はベンチに座り直した『シュラウド』と話すことにする。
「で、なんでこれを俺に?」
腰に装備されたままの赤の機械『ロストドライバー』を指差し訊ねる。
「私の同志からの依頼でね。その『ロストドライバー』を君に託しにきた」
「……同志。それって、もしかして『シュラウド』って奴か?」
「ご名答」
やっぱりか。雪南から聞いていた話だと、この『ロストドライバー』を作れるのはこの世界の『シュラウド』だけらしい。それを届けに来たというのだから、きっとこの『シュラウド』ともう1人の『シュラウド』は繋がっている。その推理はどうやら合っていたようだった。
「その『シュラウド』はなんで俺に『これ』を?」
「君が園咲琉兵衛を倒し得る存在だから、だそうだよ」
彼女曰く、それが『シュラウド』の目的であるらしい。『エターナル』ならばそれが容易に叶う、らしい。
「期待されてるところ申し訳ないけどな、俺は『ドーパント』と戦う気はないぞ」
「『コックローチ』や『スイーツ』と戦っておいて、かい?」
「っ」
「しかも、『スイーツ』とは2回も対峙し、2回目はメモリの力も引き出したじゃないか」
どうやら彼女はそれを見ていたらしい。
「情報が早いこったな」
「お褒めに預かり光栄だ」
「褒めてねぇよ……はぁぁ……」
思わずため息を吐く。
なんでこうも俺のところに集まってくるのか。
転生後に持っていた『エターナル』。しかも、自宅に置いておいても何故か俺の懐に戻ってくる呪いの機能付き。
『ロストドライバー』。『仮面ライダー』になるための必需品。顔も知らない女性からの贈り物。
生身でメモリの能力を引き出せる『力』。きっと『スイーツ』を倒したのがこの『力』だったのだろう。
あとは『仮面ライダーW』の登場人物達。平穏を願えば願うほどに関わってしまう。
「なんでこうもトラブルにしか出会えないのかねぇ……」
悲しくなるぜ。俺の顔を見て、なにやら思うところがあったのか、『シュラウド』が俯いていた俺の顔を覗き込んでくる。
「そ、そこまで落ち込むとは……ダ、ダイジョブかい?」
「………………」
さっきとは一転、本当に心配そうな表情をする『シュラウド』。この女、顔はとてもいい。
…………うーむ。
「いや、もうだめだ。俺はなんでこうもダメなんだろうなぁ……」
「っ、えぇと……な、なにか私にできることはあるかな?」
「俺なんてほら、もうダメだから、あー、やだやだ」
「な、なんでもできることはするっ! だから、そんなに落ち込まないでーー」
「な ん で も と 言 っ た な ?」
言質とったぜ。ふっふっふっ……何をさせようかなぁ(ゲス顔)。
欲望の抑えきれない表情を手で隠し、企む俺。せっかくの機会だ。よーく考えなくてはなぁぁ。
「兄さん」
「あ? 待て待て、今考えて……」
「兄 さ ん」
「………………」
背後から声がした。ゆっくりと振り返ると、そこには、
「なに、女の子にセクハラをしているんですか」
「せつなさぁん……?」
仁王立ちする義妹様がいた。どうやら途中から見ていたのか、俺が『シュラウド』にセクハラをしていると勘違いしているらしい。
「え、いや? いやいやいや? べ、別にしてないが?」
「……どうせ兄さんのことですから、宗教の話を聞く代わりに、え、えっちなことをその方にさせようとしていたのでしょう。あれですね、兄さんは本当に性獣ですね。女の敵です、死んでください」
「ノー! 違う! そこまでのことはしようとしていない!!」
「…………はぁぁぁ、すみません。頭の中が思春期の兄さんが……って、あれ?」
『シュラウド』に謝ろうとした雪南であったが、いつの間にかその姿はどこにもなかった。キョロキョロと2人で辺りを見渡すが、やはりいない。
「…………どこ行った、あいつ」
結局、彼女は見つからなかった。
弁明は家で聞きます。そんな処刑宣告をされつつ、家に帰る途中で、
『今日21時に、ここで待っているよ』
「!?」
耳元でそんな声が響いた。その声は確かに『シュラウド』の声。
「雪南! 今!」
「はい? どうかしました?」
「………………い、いや、なんでもない」
どうやら声を聞いたのは俺だけのようだった。
ーーーー夜ーーーー
約束の時間はすぐにやってきた。
夜に人気のない公園で、ブロンドヘアの美人と待ち合わせ。
「…………なんか、ドキドキしてきたな」
『そうなのかい?』
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?!?」
誰もいない夜の公園。不意に耳元で囁かれたことで、すんごい声が出た。飛び退き、声の聞こえた方を確認する。誰も近づいてきていなかったはず。なのに、そこには『シュラウド』がいた。
「案外怖がりなんだね、君は」
「おまっ、おまえっ!?」
「ハーッハッハッ! 実に愉快だよ」
この女……俺のドキドキを返しやがれ!!
頭にきたまま、俺はぶっきらぼうに聞く。
「で、なんで俺を呼び出したんだよ!」
その質問に『シュラウド』は意味深に微笑む。街灯も少ない暗い公園で見る彼女は妖艶で、そして、不気味だった。
「なんでもすると言っただろう。身体を張って、君の不安を取り除こうかと思ってね」
「…………あ?」
「君のことだ。きっと『ドーパント』との戦闘は避けられないだろうね。ぶっつけ本番で初戦闘も嫌だろう?」
いまいち現状を飲み込めてない俺に、彼女はにこりと微笑み、言う。
「だからーー」
ーースッーー
『バイオレンス』
「ーー私が初めての相手をしてあげるよ」
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久永遠治
……けっこうムッツリ。
シュラウド(仮)
……人の心配をできるいい子。