『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「昨夜はお楽しみでしたね」
「ぶっ」
アンナと知り合った翌朝のこと。朝食を食べ終わった雪南にそんなことを言われ、思わず食後のコーヒーを吹き出した。
「な、なんのことだよ!」
妙ちくりんなことを言う雪南にそう返すと、雪南はジト目でこちらを見ながら続ける。
「わたしは知っているんですよ、兄さん。兄さんが昨日の夜にこっそりと家を抜け出したことを」
「な、なんのことかなぁ」
「そして、女性と……い、いかがわしいところに入っていったことを」
「行ってねぇよ!?」
ただ公園で話しただけだし! その後、彼女の家の近くまでは送ってっただけだし!
「…………なんだ、違ったんですか。夜も遅い時間に帰ってきたのでてっきりそういうことかと思いましたよ」
「カマかけやがったな……?」
「はい」
涼しい顔で肯定する義妹様。
「で、本当は何をしていたんですか」
「うっ」
「日付が変わる頃に帰ってきたんです。ただの散歩や買い物ではそんな時間かからないでしょう。可愛い妹を家に置き去りにしたのですから、それなりの理由がないと」
こいつ、俺が家を出る時には腹出してぐーすか寝てた癖に。
「……まぁ、ほら、あれだよ」
「どれですか?」
「…………ぬ」
「ぬ?」
「ぬ……盗んだバイクで走り出す、的な?」
「…………」
「…………」
「"ライダー"の自覚があるようでなによりです。盗難はどうかと思いますが」
そんな皮肉を返してくる雪南。
正直に言えば、アンナのことを雪南に話してもいいものか迷っている。知り合ってしまえば、アンナはいい人間であることは分かる。となれば、同じ転生者で同性の友達ができるのは、なにかと雪南にとってもいいのかもしれない。アンナも雪南と仲良くしたいと思っている雰囲気もあったし。しかしながら、
「…………まぁ、なんだ。お兄ちゃんにも色々あるんだよ」
「へー、そうですかそうですか」
ジト目の雪南。笑って誤魔化す。
もし2人を知り合わせたとすると、俺を『仮面ライダー』にしたい雪南と『シュラウド』をサポートするアンナは、必然的に協力者になってしまう。つまり、2人を会わせた結果、俺の平穏な生活はどんどん遠ざかっていくことになる。それは非常に良くない。
雪南から白い目で見られようが、俺は平穏に暮らしたいのだ。悪く思うなよ、2人とも。
ーーピンポーンーー
「? お客さんでしょうか」
「………………」
何故だろう。デジャヴと共に嫌な予感がすんごいする。
「お、俺が行くよー? ほら、しつこい勧誘とかかもしれないしなぁ、ハッハッハッ」
「……いいえ」
「ちょっ!?」
俺を押し退けて、雪南はぐんぐん玄関に向かう。そして、無情にも玄関の扉を開けた。そこにいたのは、
「やぁ、遠治くん。来ちゃった」
アンナ・京極その人であった。
嫌な予感が当たった。当たってしまった。くそぉ、やっぱりか、やっぱりこの女ァァ!!
「この方、この間の宗教勧誘の方、ですよね?」
「あ、いや、その……この人は知り合いで……」
「知り合い? いやいや、私と彼は昨晩、互いのことを教え合った仲じゃないか」
事実だけれども! 言い方えっちですっ、止めてください!?
「…………兄さん」
「は、はい」
「詳しく話を聞きましょうか。この方も一緒に」
雪南は笑顔であった。それはもう笑顔であった。
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「……ということです」
結局、雪南に洗いざらい話した。彼女、アンナの正体や俺が『力』をもっていること。そして、『ロストドライバー』をも受け取っていること。俺の思惑は虚しくも瓦解することになってしまったのだ。ぴえん。
「なるほど。『シュラウド』さんの言っていた遣いというのが、このアンナさん、というわけですか」
「その通り。『ロストドライバー』を遠治くんに渡したのも、すべては『シュラウド』の指示だよ」
アンナの話を聞き、雪南は驚くどころか納得している様子だった。俺と違い、この世界のことを知っているからだろうか、雪南には余裕があるように見える。その後も、この世界について質疑を交わしていた。俺はそれを黙って聞いてるしかない。
「アンナさん、ひとつお尋ねしたいのですが」
「なんだい?」
「今、この世界の『物語』としての時系列はどこなんでしょうか」
その質問に、アンナは少し考えてから答える。
「園咲霧彦は生きており、照井竜がまだ風都署に着任していない。そういえば、大体の時系列は把握できるかな」
「……なるほど。ちなみに、『アクセルドライバー』は?」
「開発はしているよ。『アクセル』のメモリと『エンジンブレード』はついこの間、『シュラウド』が彼に届けていたようだ」
「そうなんですね。ということは、近日中に……?」
「あぁ、2クール目が始まるだろうね」
「それから『スイーツ』の事件、あれは原作にありませんでしたよね」
「そうだね」
「原作から逸れることはあり得るんでしょうか」
「……それはどうとも……ただ、少なくとも私や君たちが存在していることで、原作と違う展開になることはある。そう私は思っているよ。勿論、現時点で断言はできないけれど」
「なるほど………………あの、アンナさん、ひとつご提案があるんですが」
「ん? なにかな?」
「………………」
なーに言ってんのかワカンネ。まぁ、別に俺が分かっている必要はないけれど、少し疎外感はある。いや、いいんだけどさ。
少ーしだけ拗ね気味でテレビを見る。なにやら2人は相談をしているようだったが、どうせ俺には分からない話だし、右から左へ聞き流していた。すると、
「兄さん」
「遠治くん」
不意に雪南とアンナが俺を呼んだ。なんだよ、と返すと、彼女らはひとつ相談があると切り出した。
「兄さん、美人は好きですよね」
「………………まぁ、人並みに?」
「歳上のお姉さんも好きですよね」
「………………まぁまぁまぁまぁ、ね?」
「ちょっと女王様気質のある女性も……」
「それ以上はいけない」
唐突に始まった義妹様の兄の癖バラしタイムを止める。流石は前世で俺の秘蔵コレクションを暇潰しで見つけ出し、批評していた女である。
「へぇ、そうなのかい。君も男の子だね」
「……忘れてくれ。で、それがなんだよ」
ちょっといいなと思っている美人の前で自らの癖の一部を公表されたことに羞恥心が込み上げた俺は、ぶっきらぼうに話を戻す。そんな俺の心情に構わず、雪南はとある提案をしてきた。
「風都でも屈指の歳上美人に会いに行きませんか?」
脈絡のない、突然の提案だ。正直、怪しいことこの上ない。分かっていた、分かっていたさ。だが、
「………………どうしてもというなら行ってやらないこともないぞ」
俺はそう答えてしまっていた。ただの美人だったら断っていたが、『屈指の』なんて枕詞がついてしまったら、興味をもってしまうこともやむなしだ。悲しいかな、男の性質。
俺の言葉を受けて、雪南はアンナに目配せをした。
「というわけで、根回しをお願いできますか、アンナさん」
「あぁ、構わないよ。早速『シュラウド』にもお伺いを立ててみる」
アンナはそう言って立ち上がった。どうやら帰るようだ。
「送っていくか?」
「いやいや、まだ朝も朝。それに今日は勝手に押し掛けた形になってしまったからね」
遠慮がちに彼女はそう言って笑う。
「…………」
「ん? どうかしたかい? 私の顔に何か着いているかな?」
「いや、なんでもない」
そんな風に軽く誤魔化し、俺は彼女を見送った。
アンナが帰った後、雪南に改めて言葉をかける。
「あー、なんだ。黙ってて悪かったよ」
隠し事をしていたことに対する罪悪感ってのは俺にもちゃんとある。それが今回、バレてしまったのだから尚更に。そんな俺に対して、雪南は
「構いませんよ。兄さんもきっと考えあってのことでしょうから」
ああだこうだ言いながらも理解は示してくれる。
「兄さんの『平穏に暮らしたい』はわたしも含めてだというのは分かっていますし」
「……まぁ、な」
「前世での最期があんなでしたから、兄さんの気持ちも分からないでもありません」
俺が波乱万丈な人生であったということは、雪南もそうであったということだ。施設での生活から一転して大富豪の養子になり、そして数多のトラブルに巻き込まれていた。最期は惨殺、なわけだしな。正直、兄としては、彼女も平穏に暮らさせてやりたいと思う。
俺の内心を汲んでか雪南も、俺のきっとわたしも何もなければ、兄さんと同じ考えだったと思いますよ、と言って軽く微笑む。そして、
「ですが! なんの因果か転生したのはこの世界。平成ライダーの中でわたしが最もハマった『仮面ライダーW』の世界なんですから! しかも、兄さんの手にはあの『エターナル』! これで平穏に暮らしたいなんて言えませんよ。ここまでお膳立てされて、何もせず平和に生きることなどあり得ませんね。ライダーヲタとして据え膳ですよ、据え膳」
あー、なんか入っちまったよ、雪南のヲタスイッチ。いい話風にまとまりそうだったのに……まぁ、しゃあないけども。
とにかく、こうなると長いからなぁ。時間を見ると、スーパーもそろそろ開く時間だ。これから買い出しにも行かないといけないし、ここはひとつ会話の流れを強引に断ち切ってもヲタトークを止めなくては。何かいい話題はないかと考え、思い至る。
「で、そういや、その歳上美人ってのは何者だよ」
「あ、そうでしたね」
思惑通り、雪南のアクセルが止まってくれた。どちらにしろ俺も気になっていたことだから、ちょうどいい話題だったろう。
「ちょっと待ってくださいね、えぇと……」
「…………」
うーむ、会いに行くって話だったし、なんだろう。アイドルとかか? いや、でも歳上って言っていたからなぁ。花屋さんとかかなぁ。いいなぁ、花屋さん……あ、でも、女王様味もあるんだっけか。そうなると……いや、もしかしたらそういうお店とかかな?
雪南を見ると、なにやらスマホを操作しており、俺の予想が少し現実味を帯びてきた。
…………ふーん、まぁまぁまぁまぁ、別にいいんじゃない?
「あっ、この方です」
「んー? どれどれー?」
雪南が見せてきたスマホに映っていたのは、ピンク色の画面ではなく、なにやら堅苦しいどこかの会社のサイトだった。
「『ディガルコーポレーション』……?」
「はい。この会社の女社長さんです」
「は?」
「この方に、会いに行きましょう」
企業の社長という突拍子もない相手だったから、頭は混乱していた。だが、1つだけハッキリしていることがある。サイトに映っていたその女社長は、確かに相当な美人であった。
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女社長、美人だよね。