『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第14話 来訪者L / 強化と暗雲

ーーーーsideアンナーーーー

 

 

廊下にある扉をひとつ潜るとまた違う廊下に出る。さらにそこから違う扉を通り抜ける。けれど、目の前に広がるは同じようで微妙に違う廊下。

 

 

「まるで迷路だ」

 

 

思わず口から溢れた独り言だったが、自分自身の言葉でストンと府に落ちる。なるほど、迷路……迷路ね。

 

 

「『ラビリンス』……迷宮か迷路か、そんなメモリかもしれないね」

 

 

建物を媒介に迷宮に変える能力をもつ『ドーパント』だと仮定すると、現状も納得できる。正直、手がかりらしい手がかりもない。今は自分の直感を信じてみるしかないだろう。

 

 

「まずは正攻法で試してみようか」

 

 

迷路を抜けるには左手を壁につけながら進むといいと聞いたことがある。真偽は分からないし、扉のある迷宮にそれが適応されるか分からないが、ひとまず進む。ガチャリ、ガチャリと扉を開き続ける音のみが響く。

 

 

「………」

 

 

ここも違う、ここもハズレ。

幸いなことに時計だけは変わらず進んでいるようで、進みはじめてから10分が経過したところで立ち止まった。いわゆる左手法ではダメだった。とすると、次のフェーズに移ろう。そう思い立った私は、清掃服の下に忍ばせてある『ガイアメモリ』に触れた。その中からひとつを抜き取り、起動する。

 

 

『ドア』

 

 

メモリをスロットのある胸元へ。意識が遠退き、肉体から抜け出て変貌を遂げた。メモリに性格が引っ張られるが、短時間かつ物質を表すメモリならば影響は出にくいことは実験済みだ。

メモリの能力で天井にドアを作り、それを自分の体を抱えたまま潜る。その後、すぐにメモリを排出した。意識が肉体に戻る。

 

 

「……異常はない、かな」

 

 

風景はあまり変わらない。だが、壁の側面に『4F』の文字が刻まれていることから、無事ひとつ上の階層に辿り着けたようだ。

 

 

「『シュラウド』から潜入用に調達してもらって正解だったよ」

 

 

『ドア』メモリはあらゆる場所にドアを作り出せる能力。犯罪者が使えば、入ることのできない金庫にも侵入できるし、堅牢な刑務所からの脱獄も容易だろう。今回に関しては、この迷宮の脱出に大いに役に立つ。

……さて、もう一度。

 

 

『ドア』

 

 

ーーーーside遠治ーーーー

 

 

エレベーターから降り、何個か目の扉を開けた先の廊下。そこには扉がひとつもなかった。それどころかたった今、入ってきた扉も『肉の壁』に呑まれて消える。

 

 

「……行き止まり、か?」

 

「いえ、兄さん。何かいます……」

 

 

視線の先にそれはいた。『肉の壁』がうねり、裂け、中から出てきた狼だった。だが、普通の狼とは違い、それに皮はついていない。文字通り剥き出しの肉体。その大きさは図鑑で見るものより、圧倒的に大きい。四足歩行にもかかわらず、俺よりもデカイ。

 

 

「この期に及んで平穏、とは言ってられないな」

ーーカチャッーー

 

 

隠し持っていた『ロストドライバー』を腰に装着し、懐のメモリを起動した。

 

 

『エターナル』

 

 

メモリを装填した途端に俺の体は炎に包まれ、瞬時に姿が変わる。真っ白い『仮面ライダーエターナル』へと。

 

 

『おい、雪南。下がってろ、こいつは俺がーー』

 

「『エターナル』だぁぁぁぁ!!」

 

「っ」

 

 

俺の言葉を遮るような雪南の大声が扉のない肉部屋に響いた。

 

 

「あぁ、『レッドフレア』ではあるんですね。まぁ、それは当然でしょうか。『ブルーフレア』は『W』でいうところの『エクストリーム』相当の力をもつらしいですから、そうそう素人がなれるわけありませんよねぇ。それは大道克己以外勝たん、ですから」

 

『あ、はい』

 

 

ほんとにこの義妹様、緊張感もないし見境もないな。とにかくそれだけ元気があるなら大丈夫か。周りに注意するように伝えてから、俺は再び狼に向き直った、のだが。

 

 

『ウゥゥゥゥ……』

 

『あ?』

 

 

なぜか狼が苦しみ出した。なんで……?

 

 

「わっ!!」

 

『おぉ!? びっくりしたぁぁ』

 

 

またも急に大声を出す雪南。なんだよと返すと、雪南は狼を指差した。そこには苦しみ唸る狼の姿があった。

 

 

「恐らくですが、音が弱点なのではと」

 

『! なるほどな。なら!』

 

 

俺は壁に拳を叩き込む。『仮面ライダー』のパンチでも壊れはしないが、大きな音が響く。思惑通り、狼は苦しみ出した。

 

 

「兄さん、『マキシマムドライブ』を」

 

『えっと……おう!』

『エターナル マキシマムドライブ』

 

 

この間の思い出してメモリを右側のスロットへ。赤い炎が右足に集まっていく。それを動きの鈍い狼に叩き込んだ。

 

 

『ギィィィィィィ……』

 

 

断末魔をあげ、狼は吹き飛んだ。これにて一件落着……って、いや、まだだ!? この後、爆発がくる!?

 

 

『雪南っ! 俺の後ろに!』

 

「っ」

 

『…………』

 

「…………」

 

『………………あれ?』

 

 

雪南を爆発から守るように抱きしめていたのだが、いつまで経っても衝撃がこない。時間差があるとしても遅すぎだ。俺は恐る恐る振り向いて、狼を確認した。すると、狼は爆発することなく、肉の地面に溶けていった。

 

 

『ひぃっ!? グロい!?』

 

「…………あの狼は恐らく『ドーパント』の体細胞から産み出された怪物のようですね。『ルナ』や『ブラキオサウルス』などと同じような……」

 

『体細胞? ってことは、もしかして……』

 

「はい。現象を司る『ガイアメモリ』かとも思いましたが、恐らくこの建物自体を取り込んだ『ドーパント』がいるんだと思います」

 

 

建物全部が『ドーパント』ってことかよ。おいおい、いよいよ化け物度が上がってきやがったな。

 

 

ーーチーンッーー

 

 

雪南と話していると、機械的な音が鳴る。異音ではなく、聞き馴染みのある音、エレベーターの音だった。それから見ると、さっきまで狼がいた場所の後ろにエレベーターが現れていた。辺りに気配がないことを確認してから変身を解く。エレベーターに近寄ると、上部に表示された階層表示は2つだけ。つまりは、

 

 

「…………最上階へご案内ってか」

 

「兄さん、建物ひとつを丸ごと支配下に置けるメモリは少なく見積もっても『シルバーランク』、かなりの強敵です」

 

「マジかよ……」

 

「油断しないでください」

 

 

強敵との対決なんて、平穏とは程遠い行為だ。だが、このままじゃあ平穏な日常に戻れない。相反する感情に頭がぐちゃぐちゃだ。

 

 

「……分かってる」

 

 

~~~~~~~~

 

 

エレベーターで最上階へ上がり、その扉が開いた。

 

 

『あれぇ……? もう来たんだぁ……』

 

『らぁぁっ!!!』

ーーバギィッーー

 

 

扉が開いたと同時に蹴りを食らわせる。奇襲成功である。俺の蹴りを受けて、吹き飛ぶ誰か。最上階、恐らく社長室の壁も『肉の壁』で覆われており、『ドーパント』らしき奴はその壁に叩きつけられ、血飛沫が吹き出す。

 

 

『……グロいって……』

 

「っ、お前はっ!」

 

『ん?』

 

 

げんなりとしていると、近くから声が聞こえた。その声は女性のもので、声のする方向を見ると、天井から生える肉蔓に両手を拘束された状態で吊るされた、スーツ姿の女性がいた。勿論、アンナではない。雪南から聞いていた特徴と一致するこの女性こそ、園咲冴子その人なのだろう。年齢は俺よりも上に見える。キツめな印象を受ける不機嫌そうな表情。そんな表情でも曇らない整った顔立ち。ところどころ溶けた衣服……うーむ、この人妻、

 

 

『…………えろっ』

 

「は?」

 

 

しまった。心の声が!?

 

 

『ごほんっ、失礼。今、降ろします』

ーーブチンッーー

 

 

肉の蔓を引きちぎり、女性を抱え降ろす。『肉の壁』が現れてから30分以上が経っていた。その間、ずっと吊るされていたようで、彼女はそのまま床にへたり込んだ。

 

 

「…………『仮面ライダー』……なぜここに……」

 

『あー、いや、ちょっと清掃の仕事で来たらこの騒動に巻き込まれただけで……』

 

「…………」

 

 

向こうはこちらのことなど知らないし、俺も彼女のことは名前と役職くらいしか知らない。だが、その眼差しから『仮面ライダー』への敵意だけは感じ取ることができた。

 

 

『社長さん、下がってろ。ここは危ないからな』

 

「…………舐めないで」

 

 

『ガイアメモリ』を扱う組織の人間なのだから、彼女も何かしらのメモリを使うのだろう。危ないと伝えたにも関わらず、すぐに立ち上がり、俺の隣に並び立つ。気の強い女性である。雪南ですらこのメモリの正体は分からないという。だから、正直女社長さんが一緒に戦ってくれるのは嬉しい……のだが。

 

 

『下がっててくれ』

 

「は? 私に命令しないでくれる?」

 

『……お願いなので下がっててもらってもよろしいでしょうか……?』

 

「だから、舐めないでとーー」

 

『いや、その……衣服がですね……その、ところどころ溶けて、とても、そのぉ……扇情的な姿でいらっしゃいますので……』

 

「………………っ!?!?///」

 

 

そこまで言ってようやく察してくれたようで、彼女は数秒の沈黙の後で、自らの身体を抱くように両腕で隠す。心なしか顔も赤い気がする…………ふーん、えろっ。

 

 

「兄さん」

 

『はっ!?』

 

 

雪南の声に我に返る俺。雪南に彼女とエレベーターで下階に避難するように指示。その後、改めて俺は奴が吹き飛んだ方向に向き直った。『肉の壁』から吹き出る血を浴びながら、そいつは現れた。

 

 

「くそぉ……いきなり攻撃なんて卑怯だろぉ……あれぇ、どこに落としたぁ……?」

 

 

間の抜けた喋り方をするスキンヘッドの大男。そいつはゆっくりとした足取りで、こちらに向かってくる。恐らくこいつがさっき俺が蹴り飛ばした『ドーパント』の変身者だろう。俺の攻撃で変身が解け、メモリを落としたようで、大男は床をキョロキョロと探していた。

 

 

『よしっ! 今なら!!』

 

 

2mはあろうという巨体ではあるが、相手は人間だ。『仮面ライダー』になっている今の俺ならば、こいつを簡単に拘束できる。戦わずして、リスクを取らず勝てるならそれに越したことはない。

俺は大男に向かって駆け出した。

………………あれ? なんで変身解除されてるのに、ビルはそのままなんだ? それっておかしくないか?

不意に思い至ったその疑問は残念ながら解決しない。なぜならば、

 

 

「あ……あったぁ……オレのメモリぃ……」

 

 

 

『ラビリンス アップグレード』

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………………ん」

 

 

光を感じ、目を開ける。目の前には、

 

 

「おや、起きたのかい、遠治くん」

 

「……アンナか」

 

 

アンナがいた。まだぼやけた頭ではあるが、視界的に膝枕をされているのだろうか?

少しずつ覚めていく頭。俺の脳が回り始めたのを見て、心配しないでいい。雪南くんは無事だよ、と俺の聞きたいことを先回りして制したアンナ。記憶が混濁しているのか上手く思い出せないが、とりあえず安心だ。とともに気づく。

 

 

「って、おい、お前、血まみれじゃーーが、ッ!?」

 

 

アンナが血塗れであることに気づき、処置のため起き上がろうとしたのだが、全身に感じる強烈な痛みに苦悶の声をあげてしまう。なんだよ、この痛み。

 

 

「私は大丈夫さ。この血は私のものではなく、君のものだ」

 

「俺の……?」

 

「あぁ、君は敗れたんだよ、『ラビリンスドーパント』にね」

 

 

アンナ曰く、彼女が最上階に辿り着いたその瞬間に、俺はデカイ人体模型のような『ドーパント』・『ラビリンス』に撃破され、変身解除している状態で奴に潰される直前だったらしい。

 

 

「……助けられた、わけか」

 

「いいや、すまない。私がもっと早く辿り着けていたら……」

 

 

そう言って彼女はきゅっと唇を噛む。彼女の口の隙間から流れる血が彼女の後悔を示していて。

 

 

「………………アンナも雪南も無事ならよかったよ」

 

「っ」

 

 

安心させるため、とかじゃない。それが今の俺の素直な気持ちだ。知り合いが死ななくてよかった。

 

 

「君はっ…………いいや、なんでもない」

 

 

アンナは言いたいことをぐっと抑えて、軽く微笑む。無理した笑みだったが、それでも絵になる娘だ。

 

 

ーーズキッーー

「っ!? あ、あー、とりあえず病院に連れてってもらっていいかー?」

 

 

恐らく脳がちゃんと働いてきたせいで、痛みが酷くなってきやがった。だから、そんなことをお願いしたのだが、彼女曰く『ガイアメモリ』によるダメージは普通の医療ではどうにもならないらしい。

えー、ということは俺、終わり……?

絶望する俺だったが、アンナは大丈夫だと言い、そのまま俺を背負った。

 

 

「って、おい……どこ行くんだよ……」

 

 

彼女におぶられながら訊ねる。その返答はなんとも予想外のものでーー

 

 

「私の家だ」

 

 

 

ーーーー井坂内科医院・side???ーーーー

 

 

深夜1時、井坂内科医院。

診療時間も当に過ぎ、真っ暗な診療室で、男と女が対峙していた。

男の方は、井坂深紅郎その人。

女は所謂ナース服を着た人物。年齢は20代、穏やかそうなタレ気味の目と翡翠色の瞳。セミロングの艶やかな髪。背こそ高くはないが、成熟した女性であるのはその肉体を見れば分かる。

椅子に座る井坂とその傍らに佇む女性は、言葉を交わす。

 

 

「いやぁ、実に興味深いですねぇ。『ガイアメモリ』の『強化アダプタ』とは……」

 

「井坂先生のお眼鏡に叶ったようでなによりです」

 

「フフフ、君は面白いモノを私に提案してくれる。君を拾って正解だったよ」

 

 

そう言うも井坂は、女性の方を一瞥もせずに、PC内にある『ドーパント』が暴れる映像を凝視していた。慣れているのか、女性は変わらない声色で続ける。

 

 

「えぇ、わたくしも先生に拾っていただけたことが人生で1番の幸運でしたわ」

 

「ビル1つを裕に呑み込む能力。『ドーパント』の、『ガイアメモリ』の可能性をひしひしと感じますよ」

 

「……それで、先生……いかがでしょうか」

 

 

その質問に井坂は顔をあげ、初めて女性の顔を見て、告げる。

 

 

「合格だ。今日から君は正式に私の助手だ」

 

「ありがとうございます、先生」

 

 

にこやかに礼を告げる女性。そんな彼女に井坂は改めて名を訊ねた。女性は答える。

 

 

「わたくし、ソフィー・京極と申します」

 

 

暗闇で尚、彼女の艶やかなブロンドヘアがその存在感を放っていた。

 

 

ーーーーーーーー




『L』編終了。

ヒロインだと思うのは……?

  • 雪南!
  • アンナ!
  • その他
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