『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
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「………………」
連れてこられたのは、木造建築の古いアパートだった。失血しすぎで頭がぐらぐらする。
「降ろすよ」
「……お、う」
重かったろうに、けれど、俺の身体に障らないようにアンナは俺をゆっくりとベッドに横たわらせた。
「まずは治療だ。少しだけ待っていて」
そう言うと、アンナは部屋内のカラーボックスを漁る。そこから取り出したのは1本の『ガイアメモリ』だった。彼女はそのままそれを起動する。
『フェアリー』
彼女の肉体から精神が抜け出て、それが『ドーパント』へと変わる。半透明の妖精のような姿で、大きさは20cmほど。彼女は横たわる俺の胸上に留まり、
ーースゥゥゥーー
「うおっ!?」
いや、俺の中に入っていった。
『あー、あー、聞こえるかい、遠治くん?』
「っ、なんだこれ、アンナの声が頭に響く……?」
『人間の体内に入り込み、イタズラをする。それがこのメモリ『フェアリー』の能力さ』
「えぇと……?」
能力さと言われても、いまいち想像できずに微妙な反応を返してしまった。っていうか、イタズラ……? ふーむ、なんだかえっちでは?
『…………ごほん、今、私は君の中にいるんだ。当然、君の心の声も聞こえるわけだが』
「ほんと、すみません」
誠心誠意謝る。出ていけ煩悩!
『と、まぁ、これだけやり取りできる元気は出たみたいだね』
「お?」
そう言われてやっと気づく。さっきまでは全身の痛みと異様な疲労感でアンナの言葉に応えるのもやっとだったのに、今は普通に受け答えできている。しかも、身体もゆっくりではあるが、起こせるようになっている。
「これが『フェアリー』の力、ってことか」
『正解だ。『フェアリー』は他人に入り込むことで肉体の支配権を一部奪い取れる。と同時に使用者の体力や精神力などを、入り込んでいる人に分け与えることもできる』
「そりゃあなんとも強い」
『あぁ、中々に強力なメモリだね。ただ勿論、『ドーパント』自体の肉体的な脆弱さや適合率の問題など、その分のデメリットもあるのだけど』
ともかくこの能力で君の回復に少しでも貢献させてくれ。アンナは俺にそう言った。まったく律儀というかなんというか、俺がやられたのは別にアンナの責任ではないというのに。
『君に『ロストドライバー』を渡したのは、私、だから』
「…………まぁ、甘えさせてもらうよ」
『うん、ありがとう』
それを言うのは、俺の方なんだがな。まぁ、これ以上は埒が明かないことになるし、この話題はここで打ち止めにしようか。
「で、この状態はいつまで続ければいいんだ?」
『ん? そうだなぁ、遠治くんの体力が回復するまでかな』
「ふーん……」
そこまでかからないだろうと思ったんだが、ふとさっきアンナが言っていた言葉を思い出す。たしか『ガイアメモリ』によるダメージは普通の医療では回復できないんじゃなかったか?
俺の疑問をアンナは肯定。さらに続ける。
『だから、『フェアリー』で私の体力を貸している間に、君はしっかり食べ、しっかり寝て、しっかり休むこと!』
「ち、ちょっと待て……てことは少なくとも数日はこのまま……?」
『ん? まぁ、そういうことになるね』
それはつまり数日、ミステリアス美人と寝食を完全に共にするということでは?
『あぁ、だから、そう言っているだろう?』
「…………まじか」
こうして俺とアンナとの数日間の共同生活が始まった。
ーーーー風森ハイム前ーーーー
動けるようになった翌日、俺は我が家に帰ってきた。アンナ曰く、『シュラウド』が雪南の身の安全は確保してくれていたらしいから、大丈夫だとは思う。けれど、やはりあの場にいたのだ。巻き込まれた雪南の身が心配でない訳がなかった。
『フフッ』
「なんだよ」
不意に頭に響くアンナの笑い声。アンナの声は俺にしか聞こえないから、端から見たら独り言激しめな男に見えるだろうが、笑われたんじゃ聞かずにはいられない。俺の言葉にアンナは、
『いや、いいお兄ちゃんだな、と思ってね』
そんな風に答えた。少し照れくさくなって、うるさいと返す。そうして、俺は我が家の扉を開けた。
「兄さんっ!!」
ーーぎゅっーー
「おっと!?」
急に感じた衝撃。それは雪南が俺の胸に飛び込んできたからで。
「兄さん兄さん兄さんっ」
ーーぎゅぅぅぅぅーー
「……心配かけた」
「本当ですっ! まったく、兄さんはっ!!」
「悪い」
しばらく彼女は小さな体で俺のことを力一杯抱きしめて、俺はただ静かに彼女の頭を撫で続けたのだった。
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「…………死んでください」
時間にして30分ほど、玄関で抱きしめられていた俺だったが、状況を説明してからは一転して冷たい態度をとっていた。
「悪かったって。最初に説明すべきだった」
説明、つまり、今、俺の中にアンナが入っていることを説明した途端に雪南は真っ赤な顔になり、俺を突き飛ばした。恐らく俺を抱きしめてるところを他人に見られたからであろうが。
『可愛いじゃないか。雪南くんも年頃だからね、ああして兄に抱きつくのを見られたくないのは、まぁ、分からない話じゃないよ。そうだね……雪南くんが望むなら見なかったことにしよう』
「ほら、アンナもこう言ってるわけだし」
「……わたしには聞こえません」
あぁ、そういやそうか。今のアンナの声は俺にしか聞こえず、他人には聞こえないんだったな。
『この能力を使ったのは初めてだから、こういった面ではだいぶ不便なもののようだね』
「あぁ、そうだなぁ。いちいち説明するのも面倒だ」
『必要な時だけ君が伝えてくれればいいんじゃないかな? 幸い外からの声は私にも聞こえるわけだし』
『分かった。そうしよう』
数日はこうなのだ。早いうちにこういうことは話し合っておいた方がいい。そういう意味ではいい機会だったか。
「…………また、アンナさんと……」
「ん? なんか言ったか?」
「………………別になんでもありません。ぷいっ」
不機嫌そうに顔を背ける雪南。
なんだぁ?
『フフッ、本当に可愛い娘だね』
「?」
アンナの言葉に首をかしげる俺。思春期の心はよく分からん。
不機嫌な義妹様ではあったが、なにやら1枚の封筒を取り出した。
「…………そういえば、兄さん。昨日、これが郵便受けに入っていたのですが」
「封筒……って、なんだこりゃ」
こちらの住所も宛先も、送り主の情報もない封筒。すなわち、直接郵便受けに投函したんだろうが……。怪しみながらも、中を開ける。入っていたのは、厚めの便箋が一枚だけ。
「………………」
「兄さん?」
「雪南、これ、中見たか?」
「いえ、一応兄さんの確認をとってから、と思いまして」
「そうか」
俺は読み終わったその便箋を再び折り、懐にしまった。
「何が書いてあったんですか?」
「ん? あー、そのだなぁ……」
「?」
なんと言ったものか……。
「お、俺へのファンレター、的な?」
「…………」
俺の返答でまたもジト目になる雪南。その後、すぐに大きなため息を吐き、言う。
「兄さんのことですから、どうせあれでしょう。え、えっちなサイトの請求書とか、どうせそういうものなんでしょう。いいですよ、わたしは寛容ですから思う存分年上美人人妻ものでも見ればいいです」
「ちゃうわい!?」
~~~~~~~~
その夜、久しぶりに俺の部屋で寝ると言い出した雪南を上手く寝かしつけ、俺は例の封筒の中身を読み返していた。すると、
『眠れないのかい』
不意にアンナが声をかけてくる。夜中なんだからあんまり大きい声を出すなよと注意すると、どうせ君にしか聞こえていないと返され、納得した。俺の声は聞こえてしまうから、小声で彼女に言葉を返す。
「アンナこそ起きてたのか」
『君が起きている限りは私も眠れないようなんだ』
「そりゃ悪いことをしたな」
『いいや。君の気持ちはよく分かるつもりさ』
「……まぁ、そうだな」
改めて手紙の内容に目を落とす。そこに書いてあったのは、短い言葉。
ーーお前では家族も守れないーー
差出人不明の手紙。だが、誰が書いたか分からないその言葉が、俺の心を抉っていた。
『気にすることはない、と言っても無駄なんだろう』
「…………あぁ」
前世では家族を惨殺された。今回だって一歩間違ったら、あの『ラビリンス』に雪南を殺されていたかもしれなかった。手紙の言葉が刺さらない訳がないのだ。
だからこそ、気になる。この手紙の表面に貼り付けられていた1枚のチケットが。
「挑戦状ってことか」
『どうだろうね。差出人が味方ならば君を鍛えてくれるようにも思えるが……』
「敵だったら罠か挑発か」
なんにしろ、
『行くしかない、そう思ってるね』
「あぁ」
俺が求めるのはあくまでも『平穏』だ。
強力な『力』や壮大な冒険などでは決してない。だが、俺には『力』が必要なのも事実。俺が求める『平穏』を守り、叶えるための『力』が、俺には必要なんだ。
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『フェアリー』
メモリ名はシキDX様より
能力は祈願花様の『ヒーリング』よりいただきました。
ありがとうございます!
ヒロインだと思うのは……?
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雪南!
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アンナ!
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その他