『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第18話 孤島のX / 嫉妬、普通、帰還

ーーーーsideアンナーーーー

 

 

園咲冴子が『ハイドープ』として覚醒した。

 

これで一安心、ともいかない。遠治くんが彼女を助けるという行動をとったことを考えると、待っていろと言われて、そうですかとも言えないから、結局、私も遠治くんとして同行することとなった。

勿論、遠治くんの体にダメージがあることを鑑みて、『藁人形』はむやみに倒さずに、戦うのは必要最低限。そう彼女と取り決めることができたのは、最大の成果だ。放っておいたら、彼女の性格的にやたらめったら仕掛けそうだし。

……まぁ、それは一旦いい。それよりも今は気になることがある。

 

 

『あの……冴子さん』

 

「っ、だから、名前で呼ばないでと言ったでしょう///」

 

 

なんか……冴子さん、顔赤くなってません?

彼女の表情を見て、ふとよみがえる前世の記憶。

 

園咲冴子。

園咲家の長女で、『ミュージアム』の幹部。そして、『ガイアメモリ』の流通・製造を牛耳る組織『ミュージアム』のフロント企業である『ディガルコーポレーション』の女社長でもある。

彼女の使うメモリは『タブー』。変身すると、女性的な上半身と芋虫のような下半身の合わさった『ドーパント』になり、空中移動と破壊光球を操る。

ここまでは彼女の特異性を示す情報はない。彼女と『タブー』が合致したのは、恐らく彼女の男性との関わり方が理由であろう。

①夫・園咲霧彦を殺害。

②殺人鬼・井坂深紅郎に恋をする。

③保護された先で『財団X』の使者・加頭順に言い寄られる。

悉く男性関係でやらかしまくっているのである。

 

そんな彼女なのだ。『夫のいる身でありながら、他の男に恋をする』のもあり得ない話ではない。

彼女と上手くいきそうになったのは前述の②井坂のみ。その時は彼女は井坂を追う立場であったことから、彼女は追われるよりも追う恋愛の方が向いているのだろう。

 

 

『…………冴子さん』

 

「だからっ、名前を呼ばないでっ///」

 

 

なぜ顔を見つめられ、名前を呼ばれ、顔を赤らめるのか。

なぜ今、『タブー』の『ハイドープ』能力に目覚めたのか。

…………深く考えれば考えるほどに不安が募る。だから、私は考えるのを止めた。まぁ、原因を作ったのは確実に本人だろうし、遠治くんが自分で頑張ればいいよね。

 

 

~~~~~~~~

 

 

遠治くんが多くの『藁人形』を倒してくれたからか、ホテルの廊下にはそこまで『藁人形』は多くなかった。死角を上手く活用して、遭遇を避けたり、2体くらいは彼女の『ハイドープ』能力で倒すことができた。そうして辿り着いたのは、このホテルのキッチン。そこには、

 

 

『あ、いた』

 

 

キッチンを外側から覗くと、金髪の少女・美夏さんがいた。担当はホールなのかウェイターのような服装である。という風に、私からも『藁人形』には見えない。だが、冴子さんに目配せすると、彼女は首を横に振る。つまり、彼女も人ではない、ということだ。キッチン内の女性5、6人もまた同様に『藁人形』だという。

 

 

「強硬突破するわ」

 

『あ、ちょっと待ちたまえ』

 

「……なに?」

 

 

あの人数だ。強硬突破には賛成ではあるが、今は少しでもこのホテル……いや、島の『支配人』についての情報が欲しい。だから、まずはーー

 

 

『やぁ、美夏……ちゃん』

 

 

私が彼女に接触して、情報を少しでも引き出す。

 

 

「あ、おにーさんじゃん! やほやほー! どうしたのー? 晩御飯……にはまだ早いっしょ」

 

 

フレンドリーに答える彼女。本当に英未さんもそうだったが、この子が人間ではないとは思えない。相当『擬態』能力が高いメモリだ。

 

 

『このホテル、ずいぶんと広いと思ってね。少し探検をしていたところだったんだ。それで、ここに』

 

「へー! てっきりウチに会いに来てくれたのかと思ったよ~♡」

 

『ハハハ』

 

「おにーさん、結構身体もガッチリしてて、イケメンだし! ウチ的にはアリだよ?」

 

 

そう言うと、彼女は私の、というか遠治くんの胸板を指でなぞって上目遣いをしてくる。健全な男の子だったら中々にクるシチュエーション。きっと遠治くんだったら一発で堕ちていただろう。

 

 

『大人をからかっちゃいけないよ』

 

「ちぇ~っ」

 

『でも、少しくらいはお茶に付き合ってくれると嬉しいかな』

 

「ヤタ~♡ ちょっとその辺の席すわってて~!」

 

 

彼女の指を軽く叩き、たしなめた後、そんな風に提案をする。彼女は快諾してくれて、飲み物を準備しに厨房の方に入っていった。

……さて、どうやら美夏さんは遠治くんに好感をもっているように『擬態』しているようだし、上手くいけば情報は聞き出せそうだ。

 

 

「おまたせ~!」

 

『ありがとう、美夏ちゃん』

 

「いえいえ~! それで、ウチとお話したいのー?」

 

『うん。そうだなぁ、美夏ちゃんはどうしてここで働いてるんだい?』

 

「んーとねーー」

 

 

そうして、私は彼女から情報を聞き出した。勿論、彼女が嘘をついていないとは限らないし、本当のことを言っていてもその事実自体がフェイクの可能性もある。ひとつひとつ取捨選択しながら思考を張り巡らせる。大体10分くらいして、彼女が厨房の方から呼ばれたのをきっかけに、私達は話を終えた。

 

 

「ごめ~ん! そろそろシェフが終われってさ~」

 

『いいや、ありがとう。いい話を聞けたよ』

 

「こちらこそ~!」

 

 

互いに礼を言って解散する。こちらの狙いもバレなかったろうし、ここは放置でいいかもしれない。私は冴子さんに今の情報を伝えようと、彼女の方へ。

 

 

ーーバシュンッーー

 

『へ?』

 

 

瞬間、キッチンが炎上した。勿論、それをしたのは、

 

 

「長い」

ーーバシュンッーー

 

『ちょっ!? 待ってください、冴子さん』

 

「…………」

ーーバシュンッーー

 

 

沈黙したまま、厨房もホールも『紅い光球』で燃やし尽くしていく冴子さん。どうやら『藁人形』とは相性がいいようで、あっという間にその場を完全制圧してしまった。

すぐにスプリンクラーが作動し、鎮火はしたが、結局キッチンはめちゃくちゃである。理由を聞こうとするも、

 

 

「あの人形から情報を聞き出したんでしょう。なら、早く案内しなさい」

 

『は、はい』

 

 

最高に不機嫌な彼女にはそれ以上の追及はできなかった。

遠治くん(中身は私だけれど)が他の女性と話していて、不機嫌になるって……。疑念は確信に変わりつつあったけれど、見て見ないフリをした。

 

 

~~~~~~~~

 

 

ホテル裏にあるゴミ置き場。美夏さんから聞いた通り、そこに彼女、椎さんはいた。各部屋から集めたゴミ袋を運んでいた彼女に声をかける。

 

 

『やぁ、椎……ちゃん』

 

「あ! お兄さん! こんにちは!」

 

 

彼女も美夏さん同様に、笑顔で応えてくれる。その笑顔を裏切るようで悪いけれど。

 

 

ーーガシッーー

「大人しくしなさい」

 

「えっ!? なになにっ!? なんでボク拘束されてるのっ!?」

 

 

冴子さんが彼女を背後から羽交い締めにした。『藁人形』であれば燃やせばいい。そう言っていた冴子さんであったが、私の説得により出会い頭の攻撃はしないことを改めて約束してくれた。それに、

 

 

 

『君が『ドーパント』だね』

 

 

冴子さんの目から見て、唯一、椎さんだけが『人間』に見えていたのだ。人相手にはおいそれと攻撃はできない。だから、拘束という形をとった。

 

 

「…………バレ、ちゃったんだ、ボクがメモリを使ってるって」

 

『あぁ、君のメモリ能力は効果範囲や精度を考えるとかなり強力なものだ。しかし、彼女には効かなかったようだ』

 

「みすぼらしい……こんな子供が私をここに拉致したなんて……屈辱だわ」

 

「っ」

 

 

みすぼらしい? 彼女はそう言ったが、私の目には彼女はホテルのスタッフとして制服を着ており、決してみすぼらしくは見えない。

 

 

「それもお得意の『擬態』?」

 

「……そう、だよ」

 

 

冴子さんの言葉に、明るい椎さんの表情が曇る。どうやら自分自身の姿すらも変えているよう。顔を伏せている彼女の雰囲気はさっきの正体を指摘された時よりも暗い。それはまるで叱られた子供のようだった。私はふとそれが気になり、口を開く。

 

 

『椎ちゃん、ひとつ聞いていいかな』

 

「うん」

 

『君は何がしたかったんだい』

 

 

なんの縁もゆかりもない遠治くんや私をこの島に招待したことや冴子さんを拉致したこと。どちらも今、目の前にいる少女と結び付かないのだ。だから、そう訊ねた。

 

 

「………………ボクは……」

 

 

 

「あぁ…………いた、いたぁ……」

 

 

 

「っ」

『!?』

 

 

椎さんの答えを聞く前に、ゴミ置き場よりも遥かに上から声がした。間延びした男の声。私にとっても、冴子さんにとってもそれは聞き覚えのある声だった。

 

 

ーーズンッーー

 

 

声の主は、ホテルの上階からゴミ置き場へと降ってきた。スキンヘッドの大男。こいつはーー

 

 

ーーバシュンッーー

ーーバシュンッーー

ーーバシュンッーー

 

『冴子さん!』

 

 

その姿を確認したと同時に、冴子さんは光球を放った。3発とも大男に直撃する。だが、

 

 

「いてぇ……いてぇ……いきなりなんだぁ……」

 

「チッ」

 

 

効いていないように見える。

そう、このスキンヘッドの大男は『ディガルコーポレーション』を迷宮へと変えた『ラビリンス』の『ドーパント』、その変身者。そして、冴子さんを襲い、遠治くんを敗かした敵であった。

 

 

「なにしてるぅ……『0758』。早く仕事をしろぉ……」

 

「あ……うっ……」

 

 

大男は椎さんをそう呼んだ。呼ばれた途端に、彼女の様子が変わる。ガタガタと震え、目は泳ぎ、汗が吹き出して。明らかに異常だ。

そんな彼女を冴子さんは突き飛ばすように放した。間一髪、それを私は受け止めることができた。こちらに構わず、冴子さんは大男と対峙し、言葉を交わす。

 

 

「私をここに連れてきたのは、お前ね」

 

「あー、んー、そうだぁ……せっかく『0758』のメモリの力で、このホテルに捕らえたんだけどなぁ……」

 

 

なるほど。前回、『ディガルコーポレーション』を襲ったこの男ならば、彼女を拐うのにも一貫性はある。椎さんの様子を見るに、彼女はこの男に脅され、私達を襲ったといったところだろう。

 

 

「会社での件も含め、洗いざらい吐いてもらうわよ」

ーーバシュンッーー

ーーバシュンッーー

ーーバシュンッーー

ーーバシュンッーー

 

 

今度は5連弾。その後、何発も問答無用で光球をぶつけていく。3発で無傷だったのだから、彼女の判断は正しい。オーバーキル気味でちょうどいいのだろう。

 

 

「はっ、はっ……っ」

 

『っと、大丈夫。落ち着いて、私は君の敵じゃない』

 

 

冴子さんが大男と交戦している間に、私は椎さんを落ち着かせる。過呼吸気味になっているから、話しかけ続けて吐くことを意識させる。さらに背中をゆっくり撫でていると少しして、彼女の呼吸が正常に近づいていく。

 

 

『ゆっくりでいいよ、大丈夫』

 

「は……はっ……ふ、ふぅ……ふぅぅ」

 

『……大丈夫大丈夫』

 

「…………ふぅぅ……」

 

 

やっと彼女は落ち着いたようで、あの男のことを訊ねると答えてくれた。

 

 

「あの、人は……ボクの『管理者』。『財団』の実験施設の、人」

 

『財団……! 『財団X』か!』

 

 

『財団X』。

『仮面ライダー』の世界に登場する組織名で、表の顔は世間からも認知されている化学研究組織である。だが、その裏で、様々な組織や個人に援助を行い、その技術力を吸収し、世界にばらまき争いを生む死の商人だ。

あの大男はそんな『財団X』の関係者で、この子は『財団』の被験体。ならば、この子に罪はない。スキンヘッド大男に指示されて、現状を産み出しただけだ。

 

 

『……大丈夫。すぐにここから逃げよう』

 

「そ、そんなのっ、無理だよ……っ」

 

 

ーードゴッーー

 

 

「う……っ」

 

『冴子さんっ!?』

 

 

彼女の言葉を裏付けるように、大男と交戦していた冴子さんがこちらに吹き飛ばされてくる。抱きかかえながら、大男の方を見ると、奴は人間のままで、しかも無傷であった。

『タブー』の攻撃力は決して低くないはず。『ハイドープ』に至ったのならば尚更。にもかかわらず、彼女の攻撃を『ドーパント』にならずに受け切った。その耐久力が異常であるのは一目瞭然だった。

 

 

『動けるかい』

 

「っ、え、えぇ……舐めないで……」

 

 

口ではそう言うが、殴られたことで内臓が傷ついているとしたら、彼女は十分には動けない。私も今は遠治くんの体に入っているから他のメモリ能力を使えない。だとすると、頼みの綱は……。

 

 

「はっ、はぁっ……はぁっ……」

 

 

椎さんはまた自分の体を抱いて震えている。流石に彼女を戦わせるのは無理だ。

どうする? どうすればいい?

様々な可能性に思考を張り巡らす。無理に逃げようとしても、2人を補助しながらでは逃げ切れない。戦おうにも、手札がない。ダメだ。まるで解決策が見えない。

 

 

「『0758』ぃ」

 

「っ」

 

「そいつらはおれが捕らえる……お前は大人しくこっちにこい」

 

「いや、いやだ……っ」

 

 

必死に首を横に振る椎さん。詳細を聞くまでもない。十中八九戻れば酷いことになる。私は彼女を背に隠すように、一歩前に出た。対抗策はない。分かっているが、ここで退くわけにもいかない。

 

 

「はぁぁ、めんどくせぇなぁ……」

 

『ラビリンス アップグレード』

 

 

大男はため息を吐いて、メモリを起動した。『ガイアメモリ』の『強化アダプター』を使用した『ドーパント』。その力は元の3倍にもなるという。力だけではない、その体躯もドンドンと膨れ上がり、見上げるほどに大きい人体模型のような『ドーパント』に変貌を遂げた。

 

 

「っ」

ーーガクッーー

 

『椎ちゃんっ』

 

 

その姿を見た瞬間に、椎さんが崩れ落ちた。ボロボロと涙を流し、頭を守るように体を丸めている。嫌だ嫌だと何度も口にする彼女を見れば、あの大男がどれだけ彼女にとっての『恐怖』なのかが分かってしまう。

 

 

「やだよぉ……やだよ……っ、また施設に戻るのはやだ……っ」

 

『……椎、さん』

 

「痛いことも、苦しいこともしなくていい、それだけでいいのにっ……なんで……なんでボクなのっ」

 

「泣いてる場合、じゃないでしょうっ」

 

「ボクはただ……友達と『普通』に遊びたかっただけなのにっ……『普通』に生きたいだけなのにっ」

 

 

ーードクンッーー

 

 

『っ!?』

 

 

椎さんの小さな叫び。それを聞いた途端に、私の中のなにかが呼応するように熱くなる。それは彼女の涙を見るたびにドンドンと大きく、熱くなってーー

 

 

「任せとけ」

 

 

その声とともに、私の意識は再び中に戻った。それはつまり、

 

 

 

「君の『普通』は……『平穏』は俺が守ってやる」

 

 

 

久永遠治はそう宣言した。

 

 

「お兄、さん……?」

 

 

右手で椎さんの頭を軽く撫で、同時に左手を空にかざす。いつの間にかその手にはあのメモリが握られていた。メモリが、起動する。

 

 

 

『エターナル』

 

 

 

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