『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第2話 Eの邂逅 / 生活基盤を整えよう

ーーーー風森ハイム201号室ーーーー

 

 

ブラックカードが使えた我ら久永兄妹は、近くの不動産屋で無事アパートを借りることに成功した。何故かは分からないけど、前世の銀行口座も残っていたから生活費も一応は大丈夫そうだし、免許証も一応使えるようだった。本当に謎。

そんなこんなで異世界転生から約半日。もう日が沈み始めていて、夕暮れのオレンジが窓から射し込んできていた。

 

 

「この部屋狭いですよ、兄さん」

 

 

近くの家具店で買い、運び込んでもらったベッドにゴロゴロしながら雪南はそう言う。確かに前の家に比べたら圧倒的に狭いのは事実である。けど、2人暮らしなら一般的にはこんなものだろう。それぞれの部屋もあるし、これで十分。今後のことが分からない以上、節約はするに越したことはないはず。

 

 

「文句を言うんじゃありません、義妹よ」

 

「んあー、この枕値段の割にはなかなかいいですね」

 

「マイペースかな?」

 

「お腹が空きました。キャビアとフォアグラとトリュフが食べたいです」

 

「えぇぇ……久永家でも食べたことないでしょ」

 

「そこをなんとか」

 

「買わないけど?」

 

「じゃあ、蒲◯きさん太郎で」

 

「落差ぁ……」

 

 

本当にマイペースな義妹である。彼女のおかげで正気を保ててる節はあるから、文句はないけどさ。

 

 

「まぁ、小粋なセレブジョークはともかく」

 

「セレブジョークぅ……?」

 

「お腹が空いたのは事実ですね。兄さんもそうでしょう?」

 

「…………まぁ、そうだな」

 

 

雪南にそう言われて、異世界転生とやらをしてから今まで、住む場所の確保に精一杯で、録に食事をとっていなかったことに気づく。腹が減っては戦は出来ぬとも言うし、腹ごしらえをするとしよう。

 

 

「雪南、今日は流石に外で食おう」

 

「……そうですね。わたしは兄さんと違って繊細なので、流石に料理をする気力はありませんね」

 

「あれぇ、一言多くない?」

 

「気のせいです」

 

 

料理ができるのは俺なので、そもそも雪南は料理する気力とかいう話でもないのだが……。あと俺が繊細じゃないみたいな言い種は納得できないけれど、まぁまぁまぁ、一旦置いておく。今は腹を満たすのが優先だ。雪南が風都には美味しいラーメンの屋台があるというので、早速俺達は我が家を出たのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラーメン屋台・風麺からの帰り道。もうすっかり日も落ちた中、どんぶりの上の巨大なるとの話をしながら雪南と帰る。前世では基本車移動だったし、世話係も四六時中着いてきていたから、2人でこんな風に歩くのはかなり久しぶりのことだった。

 

 

「……フフッ」

 

「どうしたんですか、いきなり気味の悪い笑い声を出して」

 

「あー、気味悪かったか?」

 

「はい。もしかして、風麺にいた女子中学生のことを思い出していたんですかね」

 

「違うよ!?」

 

「ロリコンは死ねばいいと思います」

 

 

すんごいこと言うなぁ。この義妹様、怖いものなしである。

 

 

「それで本当はどうしたんです?」

 

 

やはりマイペースな雪南は改めてそう訊ねてした。それに俺はひとつ息を吐き答える。

 

 

「いやなに、こういうゆったりした時間も悪くないな、と」

 

「まぁ…………そうですね」

 

 

穏やかな時間だ。俺が望んだーー

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ」

 

 

「「!?」」

 

 

突如として、闇を切り裂く悲鳴。俺達のものではない。女性の悲鳴。近いな、恐らくそこの角を曲がった先だろう。

 

 

「行くぞ、雪南」

 

「嫌な予感がしますが……」

 

「言ってる場合か!」

 

「兄さんっ」

 

 

駆け出す。トラブルに巻き込まれるのは嫌だが、ここで放っておくのも違うだろ。暴漢とかひったくりとかそういう輩なら、ぶちのめせばいい。幸い、前世で人並み以上には護身術を習得していたからーー。

 

 

『あ? なんだ、てめぇは』

 

 

目の前にいたのは、スーツ姿の女性と巨大なゴキブリ……いや、『ゴキブリ人間』であった。

雪南の言うことを疑っていた訳ではない。けど、不動産屋での契約や家具店での買い物、衣類の買い出しだってして、あまり前世と変わらない日常を過ごせると思っていた。そう思い込んでいた。目の前に『ゴキブリ人間』が現れるまでは。

 

 

「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

 

俺は咄嗟に雪南を抱きかかえ、襲われていた女性の手を引き、全力で逃走していた。

怖い怖い怖い怖い!? なんだあれ!? バケモンじゃねぇか!?

 

 

「だから、『ドーパント』ですって。あれは『コックローチ』のメモリを使った姿ですね」

 

「なんで冷静なんだよ!?」

 

「見たことありますし」

 

「っ、それはテレビの中でだろっ!」

 

 

腕の中でなんかまた色々喋ってるけど、今は逃げるしかーー

 

 

「…………おい」

 

「!」

 

 

逃げた先、1人の男が立っていた。その男は明らかにこちらのことを認識しているようで。手には、

 

 

「『ガイアメモリ』!?」

 

「兄さん、逃げーー

 

 

ーーカチッーー

『コックローチ』

 

 

 

男が『ガイアメモリ』を首筋に押し当てると、姿が変わっていく。そう、さっきの『ゴキブリ人間』に。

 

 

「くっ」

 

『逃がすかよ!!』

ーービュンッーー

 

「速っ!?」

 

 

すぐに踵を返し、逃げようとするも、『ゴキブリ人間』は高速移動して俺の目の前に立ち塞がっていた。なるほど。見た目通り、ゴキブリみたいなスピードをしてるってことか。

 

 

『おい、てめぇ! なんの権利があって邪魔しやがった!』

 

「邪魔って……明らかにこの人嫌がってただろ」

 

 

俺の背中に隠れるスーツの女性をチラリと見ると、青い顔をして震えていた。『ゴキブリ人間』が女性を襲おうとしていた以外に、あの状況を説明しようがなかった。

 

 

『ん? おい、そこの白髪の奴は』

 

「……はい?」

 

 

『ゴキブリ人間』の意識が俺に抱き抱えられたままの雪南に向いた。

 

 

『……そいつをこっちに渡せば見逃してやるよ』

 

「は?」

「え…………?」

 

 

『ゴキブリ人間』が指差したのは雪南だった。え、な、なんで雪南を? 混乱の中、俺の後ろに隠れていた女性が一歩前に出る。彼女にとっては、見ず知らずの幼女に見える雪南を渡すのは……。そう思ったのだろう。その子は関係ない。私が行きます、とそう申し出た、のだが……。

 

 

『うるせぇ! もうてめぇはどうでもいいッ!』

ーードンッーー

 

「きゃっ!?」

 

「おっと!」

 

 

女性を突き飛ばす『ゴキブリ人間』。彼女の体を咄嗟に支える。

なんなんだ、こいつ。彼女を狙っていた訳じゃないのか?

その疑問への答えはすぐに奴の口から出た。こいつが急に雪南に標的を変えた理由、それは、

 

 

『幼い女児!! 最高じゃねぇかっ!!』

 

 

本当にロリコン来ちゃったよォォ!?

 

 

「ロリコンは死になさい」

 

「おい、挑発すんな!?」

 

 

雪南の一言に『ゴキブリ人間』は身悶えし始めた。あぁ、本当にヤバイ奴じゃん……。

 

 

「逃げてください! そんで、警察を呼んでください」

 

「は、はいっ」

 

 

女性にそう指示を出して逃がす。『ゴキブリ人間』はそれを意にも介していない様子で。

 

 

『警察? ハハハ、呼んでみろよ! あんな無能共に俺は捕まらねぇからよ!』

 

「…………っ」

 

 

警察を無能呼ばわり……まぁ、そうか。こんな化物相手では警察も手を出せないってことか。

 

 

「兄さん……」

 

『ほら、さっさとそのおんにゃのこを渡せぇぇ』

 

「っ」

 

 

なら、頼みの綱は……『こいつ』だけかよ。

 

 

『てめぇっ! 邪魔なんだよ!!』

ーーブンッーー

 

 

平穏に暮らしたい。俺が求めるのはそれだけなのに。

だが、ここで何もせず雪南を回すなんてことはできない。こうなったら……覚悟を決めるしかねぇか!

 

 

「くそ野郎がァァっ!!」

ーーカチッーー

 

『なっ!? てめぇもガイアメモリを!?』

 

 

 

『エターナル』

 

 

 

奴の拳が俺に当たる直前に、俺は『ガイアメモリ』を首筋に突き刺した。

 

 

「…………」

 

『…………』

 

「…………あれ?」

 

 

覚悟を決めて『ガイアメモリ』を使ったはずだった。なのに、俺の体にはなんの変化もない。『ドーパント』とやらになる気配もない。

 

 

『びびらせやがって!!』

ーーブンッーー

 

「っ」

ーーガシッーー

 

 

どうにか奴の拳を止める。だが、なんて、怪力だよ……。

 

 

「兄さん、兄さん」

 

「っ、な、んだっ、今、止めるのに必死で……なっ」

 

「兄さんの持っている『エターナル』は純正化されているから『ロストドライバー』がないと使えません」

 

「くっ、そ、そういう大事なことは早く言って!?」

 

「いや、言いましたよ? え、兄さんの耳は節穴なんですか? それともロバの耳ですか?」

 

 

こんな時でも毒舌な義妹様。ヲタクモードの雪南の言葉を聞き流していたのが仇になってしまった。くそぅ、このままじゃ……!?

護身術があるとはいえ、怪物が相手だ。このままでは力負けする。

 

 

「う、ぐぐ、ぐっ」

 

『てめぇが悪いんだぜ、その子をさっさと渡さないから!』

ーーぐぐぐぐぐぐっーー

 

「っ、たった1人の家族をっ、お前みたいなロリコンに渡す、かよッ!!」

 

「兄さん……」

 

『ハッ、かっこいいこったなァ!』

ーーぐぐぐぐぐぐっーー

 

 

押し込まれる。このままじゃ!?

 

 

 

『よう』

 

 

 

ーー不意に俺の腕にかかっていた力が抜けた。見れば、『ゴキブリ人間』の腕を止める者の姿があった。

 

 

『『ドーパント』相手にここまで踏ん張って家族を守るとは、やるなぁ、あんた』

 

「……みどり、と黒の……怪人……?」

 

『お、お前はまさかッ!?』

 

 

右半身が緑色、左半身が黒色の怪人のような何者かがそこにはいた。な、なんだ? 新手の『ドーパント』なのか!?

 

 

「だ、だだだだ……」

 

「雪南……?」

 

 

俺の後ろにいた雪南がいつにない反応をしている。だ?

 

 

 

「『W』だァァァァァ!!!!」

 

 

 

夜の闇に、雪南の叫び声が響く。これが俺達兄妹と『仮面ライダーW』との出会いであった。

 

 

ーーーーーーーー




久永遠治
……前世では護身術は教え込まれている。暴漢程度ならば撃退可能。

久永雪南
……握力、膂力はかなり弱い。キャビアの正体を知らない。
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