『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第22話 昼下がりのN / 別にあんたのためじゃないんだからね系主人公

ーーーー風森ハイム201号室ーーーー

 

 

「結論から言うと、彼女は白だろうね」

 

 

我が家のリビングにて、アンナはそう言った。ここでいう彼女とは、アンナが監視していたという園咲冴子のことである。

 

 

「この数日間、彼女のことを尾行、監視していたが、原作のようにメモリを自ら配り歩く様子は見られなかった。それどころか『ディガルコーポレーション』にも出入りしていないようだ」

 

「え、そうなんですか」

 

「あぁ、少し前に彼女の夫も説得に来たようだったが、彼女はそれを突っ跳ねていたよ」

 

「……メモリ自体が手元になければ、勿論、配るのも無理、ですよね。だとすると、アンナさんの言う通り……」

 

「あぁ、今回の騒動は彼女の仕業ではない」

 

 

まぁ、私はプロの探偵ではないから、あくまでも可能性が高いというだけで確定ではないけれど。そう補足するが、雪南の反応も見ていると、どうやら社長さんの疑いは晴れたんだろう。

な! 俺の人を見る目はあったろ!

 

 

「ですが、そうするといったい誰が中学生に……江草茜に『バード』のメモリを渡したんでしょうか」

 

「うぅむ……」

 

 

そこで2人の会話が止まってしまう。詳しいことは原作を知っている2人しか分からない。だけど、俺が言えることはひとつ。

 

 

「やめだやめ!」

 

「兄さん?」

「遠治くん?」

 

「社長さんの無実もほぼ確定なんだろ。うちのアパートから子供にメモリを渡すようなヤバい奴がいないことが分かったんだから、それでいいだろうが」

 

 

2人にそう返し、俺は立ち上がり、キッチンに向かう。そんな俺に抗議するのは勿論、雪南だ。

 

 

「……兄さん」

 

「あー、はいはい。なんだよ、聞くだけ聞く」

 

「子供に『ガイアメモリ』が出回ってるんですよ」

 

「……そうだな」

 

「それがヤバいことだって分かっていますよね」

 

「あぁ、相当だと思うよ」

 

「…………兄さんには『力』があるんですよ。『ドーパント』と戦える『力』が」

 

「…………そうかもしれないな」

 

「ならーー」

 

 

 

「俺はやらないからな」

 

 

 

「~~っ」

 

 

話は平行線だ。反論がないことを確認した俺はそのまま調理台に視線を落としてーー

 

 

「兄さんのわからず屋……豆腐の角に頭ぶつけて死ねばいいです。その後、兄さんのスマホのデータ全世界に公開してやりますからっ」

ーーバタンッーー

 

「おいっ!? 不穏なこと言って逃げるな、卑怯者っ!?」

 

 

物騒すぎる捨て台詞を投げつけて、雪南は部屋を出ていってしまった。まったく、どっちがわからず屋だよ……本当にあいつも分からない奴だな。

 

 

「遠治くん」

 

「なんだよ、譲るつもりはないぞ」

 

「あぁ、構わないよ。君の中に数日入ったことで君という人物のことは多少理解したからね」

 

「…………私は雪南くんを追うさ」

 

「……あぁ、頼むわ」

 

 

俺のことを咎めるでもなく、アンナはそう言って雪南の後を追って、部屋を出た。部屋の中には俺と椎ちゃんだけが残った。椎ちゃんに兄妹の言い合いを聞かせてしまい、少しバツの悪くなった俺は、彼女に何をいうわけでもなく話しかける。

 

 

「あー、椎ちゃん」

 

「ん? なに、お兄さん?」

 

「悪いな、なんというか嫌なやり取りを見せちまった」

 

 

野菜を切りながら、彼女のことは見ずにそう謝る俺。椎ちゃんのことだから、きっと俺の味方をしてくれるだろうとも思ったのだが、返ってきたのは予想外の反応。

 

 

「嫌……なことはなかったよ?」

 

「え?」

 

「むしろ羨ましいなぁ、って思った!」

 

「羨ましい……?」

 

 

あんなやり取りが? 思ってもみない返答に、思わず顔を上げて椎ちゃんのことを見てしまう。どこが羨ましいのかと聞くと、言葉にするのは難しいんだけどと言いつつ、彼女は答えた。

 

 

「雪南ちゃんさ、お兄さんに本音をぶつけてたじゃん」

 

「あー、まぁな」

 

「結構ひどいことも言ってるし。でも、お兄さん、それで雪南ちゃんを嫌いになったりしてないでしょ?」

 

「まぁ……慣れてるから」

 

「ハハッ、そう言えるだけの繋がりがあるんだなぁって。だから、雪南ちゃんも思いっきり本音をぶつけれる」

 

「…………家族だからな。そんなもんだ」

 

「うん、それがボクには羨ましい」

 

「……そうか」

 

 

彼女はそう言って笑う。

 

 

「それにさ! お兄さん、ああは言ったけど、たぶん戦いに行っちゃうよね」

 

「いやいやいや、それはないって」

 

「んー、そうかなぁ? だって、お兄さんはボクのこと助けてくれたし! きっとこの風都の子たちも放ってはおけないんじゃないかなーって!」

 

「………………はぁ、俺のこと買いかぶり過ぎだよ、椎ちゃん」

 

 

椎ちゃんの言葉にため息を返し、俺はそのまま立ち上がる。

 

 

「ん? どこ行くの、お兄さん」

 

「…………鶏肉買いに行ってくる」

 

「はいはーい! いってらっしゃーい!」

 

 

ーーバタンッーー

 

 

 

~~~~sideアンナ~~~~

 

 

「飛び出して逃げ込むのが、隣の私の部屋っていうのはどうなんだい?」

 

「……お邪魔してます」

 

 

部屋の隅に体育座りをする雪南くん。一目見れば拗ねているのが分かって少しだけ笑ってしまう。

 

 

「子供っぽいのは分かってますよ」

 

 

私が笑ったのをそう解釈したようで、彼女はこちらが言う前にそう言った。

 

 

「いいや、そうは思わないさ。君の気持ちはよく分かる」

 

 

『エターナル』。

原作では大道克己が使うメモリで、2本しか生成されていないかなり稀少なもの。それを受け取ったのだ。彼が『選ばれし者』でない訳がないのだ。

『仮面ライダーW』という作品を知っていれば、知っているほどその期待は高まるというものだろう。かくいう私もそうだ。それに、

 

 

「君にとって、彼は『ヒーロー』なのだろう」

 

「……はい」

 

 

『フェアリー』メモリを使って、彼に入った時に断片的に彼の前世の記憶を読み取ってしまった。その中で、2人が過ごした辛い過去も見た。だからこそ、分かる。雪南くんにとって、久永遠治という男はまさに『ヒーロー』に相応しい人物だった。

 

 

「兄さんが『平穏』を求めているのも分かります。それでもわたしは兄さんを『ヒーロー』にしたい」

 

「そうすれば、君のような人が減るからかい」

 

「はい」

 

 

実際に、彼は椎くんを救っている。自らは傷だらけになりながらも、1人の女の子を救い、そのために進化した。その素質は確かにある。ただ、私は彼の気持ちも知っているから。

 

 

「彼の求めるものは『守る力』だ。ただし、自分の大切な人のみを、ね。それが彼のいう『平穏』だ」

 

「それも分かってます。それでもーー」

 

 

そこまで言って、雪南くんは俯いた。理屈では分かっているのだろう。けれど、あまりにも彼の『ヒーロー』としての素質が強すぎる。それが彼女を苦しめているのかもしれないな。

 

 

「……大丈夫さ。君がそうなように、遠治くんも君の気持ちは分かっているはず」

 

「…………うん」

 

「それに彼はーー」

 

 

ーーピロリンーー

 

 

不意にスマホの音がした。見ると、彼からのメッセージが来ていて。

 

 

「フフッ」

 

「? どうかしたんですか」

 

「いいや、やはり彼は『ヒーロー』の素質があるね」

 

 

彼からのメッセージには『鶏肉を買ってくる』の文字。その後に『鶏を卸してる奴を探してくれ』ともあった。それはつまりーー

 

 

ーーーーーーーー

 

 

薄暗い地下道。

そこを女の子が歩いていた。ふらふらと足元の覚束無い様子。その対面から1人の黒装束の女性が歩いてくる。女性は女の子に『ガイアメモリ』を渡し、そのまま地下の闇に消えてーー

 

 

「ハーッハッハッハッ! 待ちたまえ」

 

 

彼女が完全に闇に消える前に、地下道に声が響く。

 

 

「っ、うるせぇなっ!? なんでテンションおかしいんだよっ」

 

「? こういう時はテンション高く呼び止めるのが作法だろう?」

 

「んな作法ねぇよ!」

 

 

隣で訳の分からない作法を主張するアンナに、俺はきちんとツッコむ。だが、

 

 

「………………」

 

 

俺達のやり取りを見ても無言の女性。彼女はゆっくりとした動作で、その場を再び去ろうとした。

 

 

「まぁまぁ、もう少しお喋りでもしようじゃないか」

 

「………………」

 

 

だが、それを許すわけがない。いつの間にか回り込んでいたアンナに行く手を阻まれる。すると、女性はどこからか『ガイアメモリ』を取り出して。

 

 

ーーガシッーー

 

「おい、問答無用でアブねぇモン取り出すなよな」

 

 

起動する寸前で、それを止める。俺の手を離そうと、女性は暴れて、不意に彼女の顔を覆っていたベールが外れた。そこにあった素顔には俺もアンナも見覚えがあって。

 

 

「社長さんっ!?」

 

「………………」

 

 

黒装束の女は園咲冴子だった。そんな訳はない。アンナと一瞬顔を見合わせるがどうやら彼女もこの展開は予想外なようで、かなり驚いている様子だった。俺達が混乱している間も、一言も発さずに社長さんは暴れ続けやがる。

 

 

「ちょ、待て待てっ!」

ーーバキッーー

 

「え……?」

 

 

俺は暴れる彼女を抑えようとさらに力を込める。すると、何かが折れる音がした。見れば、社長さんの腕が折れていた。

 

 

「ひ、ヒィィぃいっ!?」

 

「………………」

 

 

パニックである。そりゃもうパニックである。そんな俺とは対照的に社長さんは一言も発さずに、折れた手からすり抜けたメモリを逆の手で拾い上げた。

 

 

「遠治くんっ!!」

 

「な、なな、なんだよっ!? これ保険きくかなっ!?」

 

「違う! それは園咲冴子じゃない!」

 

「はぁっ!? そんなわけーー」

 

 

ーーブチッーー

 

 

アンナの言葉を受けてもう一度、彼女の方を見ると、衝撃的な光景が。

 

 

「折れた腕を……引きちぎった……だと?」

 

 

千切られた腕はゴロンと地面に捨てられ、次の瞬間には土塊に変わった。

……あぁ、なるほどな。こいつは人間じゃない。

 

 

「『人形』ってところか」

 

「あぁ、子供たちにメモリを渡したのも、この『人形』だ!」

 

「…………」

ーーカチッーー

 

 

『ハナアルキ』

 

 

「「!?」」

 

 

そいつはメモリを起動して、自らの額に突き刺した。メモリは『人形』に取り込まれ、社長さんの姿から『ドーパント』へと姿を変える。

ハナアルキ?とか言ったか、鼻が伸びたネズミを彷彿とさせる見た目で、しかも、伸びた鼻を地面につけ、まるで鼻で立つような立ち姿。なるほど。だから、『ハナアルキ』ね。こんな生物もいるのかと感心するぜ。しかし、

 

 

「『人形』でもメモリは使えるのか」

 

「あぁ、基本は人に使うものだが、動物やら機械生命体やらメダルやらと『ガイアメモリ』は使える対象に際限がないからね」

 

「ホントに……変な代物だ」

 

 

まったく、相手はまたも人外。『狼』といい、『藁人形』といい、なんだそういうブームでも来てやがるのかよ。だが、今はむしろ都合がいい。相手が社長さんどころか人間ですらないなら、遠慮はいらねぇよな。

 

 

「子供にメモリを配るとか悪趣味なことしやがって」

ーーカシャッーー

 

『エターナル』

 

 

『ロストドライバー』を装着し、メモリを起動した。それを装填して、『ドライバー』を展開する。

 

 

「変身」

 

 

黄色い炎が身体を覆い、俺は『仮面ライダーエターナル』へと変身を遂げた。

 

 

『今日は唐揚げなんだ。仕込みのためにも早く終わらせてやるよ』

 

 

俺は速攻で距離を詰める。黄炎を纏わせた拳を振るう。

 

 

『…………』

ーースッーー

 

『チッ! 避けるな、よッ!!』

ーーブンッーー

 

『…………』

ーースッーー

 

 

ネズミというだけあって素早い。器用に鼻で走り回り、こちらの攻撃を避けてくる。こいつ、めんどくせぇ。なら、範囲攻撃ならどうだ!

 

 

『はぁぁぁっ!!』

ーーボッーー

ーーボッーー

ーーボッーー

 

 

地面に手をつき、炎を地面に沿って飛ばす。奴の周りを炎で囲み、そこから!

 

 

『おらぁぁっ!!』

ーーボゥゥゥゥッーー

 

 

火柱で一気に奴を攻撃した。完全に当たった。この後の隙を突いて、必殺技を叩き込めば勝てる。勝利を確信した次の瞬間、

 

 

ーーグニャリッーー

 

『なっ!?』

ーードサッーー

 

 

目の前が歪み、世界が横転した。地面が傾いて立っていられない。その場に転がってしまう。な、なんだ!?

 

 

「遠治くん! どうしたんだっ!」

 

『こ、こいつ、地面を揺らしてやがるっ! 立ってられないんだよ』

 

「!? いや、こっちは異常はない」

 

『っ』

 

 

見ると、アンナの方は普通に立っている。ということは、地面を揺らしている訳じゃない? 俺にだけ作用する能力か!?

 

「遠治くんっ!」

『!?』

 

『………………』

ーーブンッーー

 

『ぐっ!?』

 

 

倒れた俺に『逆立ちネズミ』が襲い掛かった。こちらは倒れており、向こうは上から襲い掛かる形だ。完全に向こうが有利。しかも、こいつ、見た目がネズミの割に力が強いときた。

 

 

『………………』

ーーグググググッーー

 

『ぬ、ぐぐぅぅっ!?』

 

 

まずい。これはかなり厳しいぞ!?

必死に頭を回し、打開策を考える俺の耳に、不意に音が響いた。

 

 

『アテンション』

 

 

それは『ガイアメモリ』の起動音。くそっ、まさか敵の増援か何かかと思った俺の不安は、

 

 

『私を見ろ!! 全人類可愛い私を見ろぉぉぉ!!』

 

『………………』

 

 

アンナの声に一瞬で掻き消された。同時に俺に向けられていた『逆立ちネズミ』の意識が違う方向に向いたのが分かった。どうやら隠し持ってたメモリを使って、敵の意識を惹き付けたようだった。

 

 

『ナイスアシストだよ、アンナっ!』

ーーバギッーー

 

 

俺は下から『逆立ちネズミ』を蹴り上げ、吹き飛ばす。恐らくここで立ち上がってもまた転がされるだけだ。だから、俺は寝転がりながらメモリをスロットに装填した。

 

 

『エターナル マキシマムドライブ』

ーーボボボボボッーー

 

 

腕から黄炎の弾が飛び出てくる。地面に寄りかかりながらならエイムもぶれねぇよな! 俺は十の炎弾を『逆立ちネズミ』に撃ち込んだ。

 

 

『………………』

ーーパリンッーー

 

 

着弾、爆発。同時にメモリが砕かれて、奴の体外へと排出された。そして、社長さんの見た目をした『人形』は土塊に変わって、消えた。

 

 

『ふぅぅぅ……一件落着……」

 

 

大きく息を吐き、俺は変身を解除した。どうやらもう立ってられるみたいだ。ゆっくりと地面を確かめるように、立ち上がり、俺はアンナの方を向いた。いいタイミングでメモリを使ってくれたから礼を言わねぇとな。そう思ったんだが……。

 

 

『見ているかい、遠治くんっ!! 私、世界一可愛いだろうっ!!』

 

「………………」

 

 

なぜかアイドル風の衣装を着た半透明のアンナがそこにはいた。薄暗い地下道で、アイドル衣装の女がノリノリで踊っている。なんならウインクとかもしてくる。

 

 

『もっと見て! 私だけを見て!!』

 

 

これはたぶん見てはいけない。

本能ではそう思いつつも、俺は目を離すことができず、約10分間彼女のシークレットライブを見続けたのだった。

 

 

 

ーーーー風森ハイム201号室ーーーー

 

 

「殺してくれ……」

 

 

我が家に戻ると、アンナは体育座りでうずくまっていた。どうやら彼女の使ったメモリ『アテンション』により、敵の意識を集めたまでは良かったのだが、その後メモリの性質が彼女に入り込み、結果として自己主張強い系アイドル・アンナちゃんが産まれたようであった。

 

 

「おーい、アンナちゃーん?」

 

「うぅぅぅぅ、殺してくれぇ……」

 

 

心配して顔を覗き込もうとする椎ちゃんにも、クッコロを繰り返すアンナ。

 

 

「アンナ……まぁ、なんだ」

 

「…………遠治くん?」

 

「ああいう時は流石にスパッツとか履いた方がいいと思うぞ」

 

 

「殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

バタバタと暴れるアンナを椎ちゃんに任せ、俺はキッチンに向かう。さてさて、漬け込んだ鶏肉がいい感じになってるはずだ。

 

 

「兄さん……」

 

 

フライパンに油をひき、火を着け始めた俺に、雪南が話しかけてきた。なんだとだけ返す。

 

 

「その……」

 

「うん」

 

「…………ありがと」

 

「別に、俺は鶏肉買いに行っただけだ」

 

「…………うん」

 

 

言葉は少ない。だが、なんとなく雪南の言いたいことは伝わってきて。

 

 

「兄さん、わたし諦めませんから」

 

「…………はぁぁ、我儘はほどほどにな」

 

「ふふ、嫌です」

 

 

どうやらこの義妹様、俺の希望を聞くつもりはないようである。

まぁ、いいさ。いつものようにのらりくらりと躱しつつ、たまにはご機嫌取りに付き合ってやるよ。それが俺と雪南の関係性だからな。

 

 

「んー……やっぱり手強いよなぁ……ボクもがんばんなきゃ!」

 

「殺せェェェェっ!!!!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『バード』に関する事件は、原作通りに『仮面ライダーW』及び『ナスカ』によって、無事解決した。メモリを使用した中学生たちも、警察病院での治療と教育の甲斐もあり、少しずつ回復している。

 

そして、園咲霧彦。

妻・冴子が自分の元を離れ、さらに『ミュージアム』の闇を知った彼は途方に暮れていた。今の彼には指針がなくなってしまったから。唯一あるのは『風都への愛』。彼は迷う。風都を守るにはどうしたらいいのか。

そんな彼に接触する影が1つ。

 

 

ーーーー風都タワー前ーーーー

 

 

「園咲霧彦様、ですね」

 

 

自分の行き先を見失っていた霧彦は、風都タワーを見上げ佇んでいた。そんな彼の名を呼ぶ声。見れば、ブロンドヘアの女性が立っていた。

 

 

「……君は?」

 

「わたくしはソフィーと申します」

 

 

ソフィーと名乗った女性は微笑む。垂れ目で人の良さそうな穏やかな笑みを見て、霧彦の警戒心はやや薄くなる。

 

 

「私に、なにか用かな」

 

 

霧彦も紳士的な笑みを浮かべてそう返した。ただの世間話。その程度の認識で答えたのだが、次の彼女の一言で、

 

 

「貴方は悩んでいらっしゃいますね」

 

「っ」

 

 

霧彦の顔から余裕が消える。この女性は何かを知っている。直感的にそう思ったのだ。そして、もしかしたら悩みを解消するためのヒントをもっているのでは、と。彼の淡い期待に応えるように、彼女は告げる。

 

 

「わたくしと一緒に戦いませんか、霧彦様」

 

 

謎の女性からの誘いに、霧彦は

 

 

「いいや、遠慮しておくよ」

 

 

勿論首を縦に振ることはない。あまりにも怪しすぎる。しかも、相手はどうやら『ディガルコーポレーション』の副社長としての自分ではなく、『ミュージアム』の人間としての霧彦を知っている。その事で霧彦の警戒心がまた表面化したのだ。

ここまでは最善手であろう。ここで彼女の言葉を何も聞かず、その場を去っていればよかったのだ。だが、霧彦にはそれが出来なかった。

 

 

 

「奥様を……園咲冴子様を救いたくはありませんか?」

 

 

 

曰く、人生には必ず分かれ道が来る。『決断』という名の分かれ道が。

その時、2つの声が耳元で囁くという。

その1つは必ず死神の罠なのだ。別の道を選べば、あの時はヤバかったで済む話だ。

だが、

 

 

「…………話を、聞かせてもらおうか」

 

 

彼が選んだのは、間違いなく死神の道だった。

 

 

ーーーーーーーー




『N』編完結!
霧彦生存、やったね(ゲス顔)

メモリ案
『ハナアルキ』は駐輪様より
『アテンション』はLEIKUN0227様よりいただきました!

遠治くんの覚悟が決まった後ですが、R版は……?

  • ほしい! イラストもあるとよし!
  • ほしい! 文章だけでよい!
  • いらぬ! えっちなのは駄目だと思います!
  • むしろ私が絵を描こう(有能絵師)
  • むしろ私が文を書こう(有能作家)
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