『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第26話 Iは止まれない / 悪魔との取引

ーーーー園咲邸ーーーー

 

 

「ご招待を中々受けられず申し訳ありませんでした」

 

 

園咲邸の大広間に、園咲琉兵衛氏と2人。長い机の対面に座り、俺は頭を下げた。

 

 

「いやいや。それよりも君が元気そうでなによりだ」

 

 

招待をふいにしていたことにも怒らずに、彼はにこやかにそう言った。ありがたいことに、『スイーツ野郎』の一件でそれなりに気に入ってもらえているようだ。俺も一応、風都に越してきてアパートをひとつ経営したり、他にも日々の生活にいっぱいいっぱいだったりしたことを正直に話す。

 

 

「どうかね、この街は」

 

「そう、ですね。ほどよく都会でほどよく田舎。買い物をする場所だってあるし、都内も近い。『平穏』に過ごせるいい街だとは思います。ただ……」

 

「ただ?」

 

「この街の『怪物』だけはいただけない」

 

「…………」

 

「『ガイアメモリ』をばら蒔く連中も。『平穏』から外れた奴らは論外だ」

 

 

俺はまっすぐ彼の目を見て、告げる。俺の視線にも一切揺るがず、園咲氏はこちらを見てくる。まるで俺のことを値踏みするかのように。そして、少しの沈黙の後、彼は言った。

 

 

「……それで? 『怪物』の『根源』に何の用があるというのだね」

 

 

悪びれることもない。ただ堂々と彼は自らを『根源』と自称し、訊ねてくる。それを知って尚ここに来た理由を。

誤魔化しも嘘も、彼には効かないだろう。だから、俺は単刀直入に伝えることにした。

 

 

「俺の……友人が拐われた。『強化アダプター』を使う奴らに。だが、俺じゃあ太刀打ちできない。だからーー」

 

 

分かっている。これは悪魔との取引だ。

 

 

 

「ーーあんたの力を借りたい」

 

 

 

使用することで通常の3倍ほどの力を引き出すことができるという『強化アダプター』。それを相手にしても、きっとこの『ラスボス』ならばどうにかできるだろう。そんな思考での発言だった。俺の言葉を聞いて、彼はしばらく沈黙する。その後、

 

 

「ハッハッハッ!」

 

 

園咲氏は笑った。

 

 

「君は実に勇敢だ。蛮勇とも取れる言動も、中々に面白い」

 

「褒められてる、って思っていいか?」

 

「あぁ。君は見所がある。私も興味がある」

 

「なら!」

 

「こちらも力を貸すのは吝かではない。ただし、ひとつこちらも条件を出そう」

 

 

条件? おうむ返しのように聞くと、園咲氏はにこやかに頷く。恐る恐るその内容を訊ねた。

 

 

「どこかへと消えた霧彦くん、何故か君のところにいる冴子。2人が抜けた穴は大きくてね。メモリの開発や流通も以前に比べて滞っている。その上、君の言うことを信じるのならば、我々が秘密裏に開発している『強化アダプター』もどこからか流出してしまっているようだね。そこでだ、君には我々『ミュージアム』の仕事を手伝ってもらいたい」

 

「!?」

 

 

それは俺にそちらへ、街の『平穏』を奪う側に立てと言うことだ。勿論、普段ならノータイムでお断りだ。だが、今はそうも言っていられない。『ソフィー』の真意に不明な部分が多い以上、今すぐにでもアンナが殺される可能性だってあるんだ。なら、迷ってる暇はーー

 

 

「誤解のないように言っておくと、君に任せたい仕事は、決してメモリ流通に携わる仕事ではないよ」

 

「え? あ、そうなのか?」

 

「あぁ、そちらは組織の人間が複数人で引き継いだからね」

 

 

まぁ、普通に考えたら部外者にいきなり任せることはしないか。

なら、俺になにをさせるつもりだ? そう訊ねると、彼はまた微笑み、答える。

 

 

「君にはーーーー」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おい! 『白ハリネズミ』! いや、片平清! 出てこい!!」

 

 

俺は雪南から聞いた『白ハリネズミ』の正体ーー片平清の自宅前で、声を張り上げた。いるのは分かってんだぞ! インターフォンに向かってそう言い続けると、がチャッと玄関が開き、そいつが出てきた。

 

 

「お前っ!」

 

「よう、ちょっと顔貸せよ」

 

「っ、くそっ」

『アイスエイジ アップグレード』

 

ーーガシッーー

 

 

奴がメモリを挿そうとした瞬間に、俺はその腕を掴む。

 

 

「……ここでやるつもりか。お前の日常を壊すつもりはねぇよ。ついてこい、人気のない場所で決着をつけようぜ」

 

「うるせぇ! 離せっ!」

ーードンッーー

 

『アイスエイジ アップグレード』

 

 

俺の意見も聞かず、こちらを突き飛ばし、奴はメモリをもう一度、コネクターにあてがった。だが、

 

 

ーーバヂッーー

 

「…………は!? な、なんだよっ、故障か!?」

 

 

『ドーパント』になれず困惑する片平。何度もメモリを起動してはコネクターに挿そうとしている。何度やろうと奴のメモリは起動しない。

 

 

「おい」

 

「っ、くそっ!!」

ーーダッーー

 

 

片平はそのまま逃げ出した。

 

 

~~~~~~~~

 

 

奴が辿り着いたのはある橋の下。橋幅が広いからか、この場所はちょっとした死角になっていて、人目につかない。人知れず戦うのにはあつらえ向きだ。

 

 

「片平、これ以上逃げても無駄だ」

 

「チッ、なんだよ、なんなんだよっ! 俺はただ俺を馬鹿にした奴を凍らせていただけだっ! その邪魔をーー」

 

「お前の事情はどうでもいい。俺が聞きたいのはひとつだけ。アンナはどこだ」

 

 

メモリブレイク後、普通の人間は意識が混濁したり、記憶が飛んだりと、聞ける状態ではなくなるらしい。だから、こいつを倒す前に聞いておく必要があった。けど、その心配はないようだ。

 

 

「あら、ごきげんよう」

 

 

高架下という似つかわしくない場所に『ソフィー』はいた。作戦通りだ。片平がこの女に何かしらの指示を受けているのは分かってた。だから、メモリが使えない状況に陥れば、必ず『ソフィー』の元へ向かう。ビンゴだ。

 

 

「よう、美人さん。あんたに会えてよかったよ」

 

「フフフ、殿方にそう言っていただけるなんて……照れてしまいますわ」

 

「アンナはどうした」

 

 

「殺しましたわ」

 

 

「ッ」

 

「アハハハハハッ、いい顔! でも、残念。本当は凍り漬けにしてあるだけですから」

 

 

癪に障る笑い声。だが、聞いた甲斐はあった。アンナを連れ去ってから時間はあった。だというのに、殺していないということは恐らく彼女を殺すつもりはない。生きているということさえ分かれば、あとはアンナを探せばいい。ありがたいことに、この街には優秀な探偵もいることだしな。

 

 

「お、おいっ! メモリが使えないっ! どうにかしてくれっ」

 

「ああ……そうでしたわね」

 

 

片平からメモリを受け取る『ソフィー』。彼女は掌でメモリを包むように触れた。次に開いた時、彼女の手の中にはもう1本の『アイスエイジ』が握られていた。

なんだ、ありゃ……?

 

 

「はい。今度は大切に使ってくださいませ」

 

「あ、あぁっ!」

『アイスエイジ アップグレード』

 

「!」

 

 

もう1本の方の『アイスエイジ』を自らに挿し、姿を変える片平。以前と同じ『白ハリネズミ』がそこにはいた。

 

 

『ハッ! 2対1だっ!! あの気の強い女を連れてこなかったのは不運だったな。お前1人じゃ俺にも勝てなかっただろ!』

 

「…………」

 

『さぁ! 自分の砕ける音を聞きな!』

 

 

メモリを使ったことで気が大きくなっているのだろう。『白ハリネズミ』は先ほどと一転して、そんな風に俺のことを挑発してくる。加えてあの『ソフィー』という女もメモリを持っているのは間違いない。絶体絶命の状況ではある。けれど、俺の頭はいつもよりもずっと落ち着いていた。

 

 

「おい、『白ハリネズミ』」

 

『あ?』

 

「お前、2つ間違ってるよ。1つは冴子さんを連れてこなかったのはわざとだ。不運なんかじゃねぇ。もう1つはな……『2対2』だよ」

 

『何を言って……?』

 

 

ーーーーーーーーゾゾゾゾゾゾゾゾッーーーーーーーー

 

 

橋の上から何かが降ってくる。青黒い泥のような何か。それを見た瞬間に『恐怖』が沸き上がる。理性では抑えきれない、本能からの警告だ。そして、聞こえてきたのは、

 

 

 

『ハッハッハッハッ』

 

 

 

笑い声。声の主の姿は見えない。そのまま青い泥は俺達の周りを覆う。

 

 

『な、なんだっ!? なんだよこれっ!?!?』

 

「これ、は……っ」

 

 

泥は奴等を分断した。女は『あの人』に任せよう。

 

 

『く、くそっ、何の真似かは分からねぇが、それでもお前じゃ俺には勝てなかっただろ!』

 

「……あぁ、そうだったな」

 

『なら、この泥ごとお前を凍らせてやるよっ!!』

ーーガガガガガガッーー

 

 

そう言って、奴は氷弾を飛ばした。眼前に迫る氷弾。それを見ながら、俺はメモリを起動した。

 

 

 

『エターナル』

 

 

 

メモリの起動と同時に、俺の周りを炎が覆う。

その色は赤から黄色へ。そして、『白』へと変わる。

向かってきた氷弾はすべて『白い炎』によって、俺に届く前に蒸発していった。

 

 

『は、はぁ!?』

 

「…………おい」

 

『っ』

 

「俺は早くアンナは生きてるって、皆に伝えなきゃならねぇんだ。そして、また『平穏』な日々を」

 

『な、何を言ってやがるっ!』

ーーガガガガガガッーー

 

 

あぁ、分からねぇよな。自分の快不快だけで人の『平穏』を壊そうとするお前みたいな奴には。だから、分からせてやるよ。

 

 

『エターナル』

 

「……変身」

 

 

『ロストドライバー』の展開と同時に、再び纏わりつく『白い炎』。それらは俺の身を包み、焦がす。やがて、視界を揺らす陽炎が消えた頃、俺の姿は変わっていた。『白い炎』の『仮面ライダーエターナル』へと。

 

 

『色が、変わってやがるっ!?』

 

『………………』

 

 

熱い。身体が燃えるようだ。耐え切れない。だから、一撃で。

 

 

 

『エターナル マキシマムドライブ』

 

 

『は、えっ!?』

ーーーーーーーージュッーーーーーーーー

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

「はっ、はぁっ……っ」

 

 

間一髪のところで、ソフィーはその場を離脱していた。

彼女は青黒い泥の危険性を、それを操る『ドーパント』の脅威を十分に知っており、だからこそ、泥に触れないように立ち回った。だが、それでも……。

 

 

ーーぶるっーー

 

「か、からだが、まだ、震えていますわね……」

 

 

離脱し、安全であるはずの今でも震えが止まらない。メモリの特性も帝王の抱える自身の『恐怖』も知識としては知っていたはず。それでも抗えない根元的な『恐怖』。

 

 

「あれが『テラー』……園咲琉兵衛……」

 

 

壁の強大さを知った。しかし、彼女の心は折れていない。むしろその逆だ。

 

 

「必ず……必ず……っ」

 

 

彼女は震えながらも、笑みを浮かべていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

後日談。

俺が撃破した片平清は無事、逮捕された。かなり衰弱はしているそうだが、どうにか峠は越したらしい。

 

一番の成果は、アンナは我が風森ハイムへと帰ってきたことだ。あの後、雪南が左さんに依頼し、2日と経たずに見つけてくれたのである。すげぇや。

ただ、凍らされていたせいで、彼女はまだ目覚めていない。左さんの相棒?曰く、命の危険はないようが、体力が回復するのに時間がかかっているとのこと。まぁ、彼女のことだ。じきに起きるだろう。

 

あ、あと照井さんだっけ。『仮面ライダーアクセル』になるはずの彼も無事に復帰したようだ。ナイフで刺されてからまだ数日しか経っていないのに、職場に戻ったことに皆驚きを隠せなかった。

なぜか雪南だけは妙な笑みを浮かべていたが……。

 

さて、というわけで、この連続凍結事件及びアンナの誘拐事件は幕を閉じた。

 

 

ーーーー風森ハイム201号室・side:アンナーーーー

 

 

「…………ん」

 

 

ブラックアウトしていた意識が徐々に戻ってくる。室内だろうが、照明が眩しい。私の視界を光から守ってくれるように、人影が現れた。まだ視界がぼやけているが、間違いない。この白髪、そして、この香り……助けてくれたんだね、遠治くん。本当に君はまるでヒーローのようだ。ぼやけた彼はそのまま私にゆっくりと近づいてくる。

眠り姫を起こすのは王子様の口づけ…………うん、ロマンチックかも……。私は再び目を閉じ、その時を待った。

 

 

「んっ///」

 

「…………あの、アンナさん?」

 

「…………え?」

 

 

想定と違う声に、私は目を開けた。そこにいたのは、遠治くんではなく、雪南くんであった。

 

 

「…………あ、え、え?」

 

「素敵なキス待ち顔でしたが……わたしを誰と間違えたんですか?」

 

「~~~~っ///」

 

 

あまりの恥ずかしさに一気に脳が覚醒し、飛び起きる。どうやら今の光景を見ていた人は他にもいたようで。

 

 

「むむむっ、またライバルがっ」

 

「…………」

 

 

眉をひそめた椎くんと軽く睨んでくる冴子さん。なんと私は3人にこの寝ぼけた姿を見せてしまったようで。

 

 

「こ、ころせぇぇぇぇっ!!」

 

 

~~~~~~~~

 

 

「ごほんっ、すまない。少々取り乱してしまった」

 

「少々……?」

 

「しょうしょうっ!! 取り乱してしまったね」

 

 

どうにか正気を取り戻した私。首を傾げる椎くんに、物言いのないよう強調する。ふむ、納得してくれたね?

 

 

「アンナさん、身体の具合はいかがですか?」

 

 

私と同様に、実に落ち着いた様子で、雪南くんはそう聞いてくる。確認のために、(遠治くんの)布団に入ったまま、軽く首や肩を回してみる。

 

 

「多少、身体は重いが、問題はなさそうだ。痛みは感じないよ」

 

「そうですか。それはよかった」

 

「……って、あれ? 遠治くんは?」

 

 

ここでふと気づく。当の遠治くんがどこにも見当たらない。きっと彼が助けてくれたのだ。お礼のひとつも言いたいんだけれど……。

そう思った私は、雪南くんに訊ねる。彼はどこか、と。その瞬間、その場にいた私以外の全員が顔を伏せたのを、私は見逃さなかった。

……嫌な予感が、する。

 

 

「兄さんは……ここにはいません」

 

「え……?」

 

 

悲しそうな表情の雪南くん。その言葉に続けるように、椎くんが口を開いた。

 

 

「あのね、アンナちゃん。お兄さんは園咲家の…………」

 

 

 

ーーーー園咲家・若菜の部屋ーーーー

 

 

「ーーーーーーーーませ」

 

「ん、んん~~」

 

「ーーーーくださいませ、お嬢様」

 

「ん、んんんっ?」

 

 

 

「おはようございます、若菜お嬢様」

 

「…………あぁ、おはよ、遠治」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

新番組!

『悪魔と取引した俺がアイドル系お嬢様の執事になった件!』

 

第3の人生が始まっちゃう、ってコト!?

 

 

ーーーーーーーー




『I』編、終幕!

次回から新番組(おふざけ回)が始まるぜ!!
待たせたな、若菜姫ファンのみんな!!

先になるかもしれませんが、前作キャラと絡ませたい。皆さんは前作『転生したらミュージアムの下っ端だった件』を……?

  • 知ってる! 全部読んだ!
  • 知ってる! ある程度読んだ!
  • 知らない……。興味はある。
  • 知らん。今作だけ書け、ほら、早くしろォ!
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