『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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新章『M』編スタート!


第27話 執事なM / 俺がお嬢様の執事に!?

ーーーーーーーー

 

 

話は数日前に遡る。

探偵さんのおかげで見つけたアンナをどうにか溶かし、容態が安定したのを見届けた俺は、雪南たちに切り出した。

 

 

「あ、俺、1ヶ月くらい家空けるから」

 

「「「は?」」」

 

 

俺の発言に、各々やっていたことを止める。そして、詰め寄ってきた。

 

 

「兄さん、それどういうことですか」

 

「え、いや、言葉通りの意味だけど……」

 

「どこ行くのっ!? ボクも連れてってよ!」

 

「あー、ごめん。1人で行く約束でな」

 

「約束? どこの誰と何を約束してきたっていうの?」

 

「んー、冴子さんと関係あるというか、ものすごーく近い人というかぁ……」

 

 

物凄い剣幕の3人に気圧され、後退りする俺。ほどなくして、壁に背を預けることになってしまう。それでも止まらない3人は、それぞれが俺に、

 

 

ーードンッーー

ーードンッーー

ーードンッーー

 

 

所謂壁ドンをかましてきた。

正統派壁ドンな雪南。身体密着系な椎ちゃん。そして、俺の股に足でドンする冴子さん。三者三様の壁ドン、だが、声だけは揃えて聞いてきた。

 

 

「また別の女性をひっかけたんですか」

「ボク以外の娘とデートする気なのっ!?」

「どこの女と遊び歩いてくるつもり?」

 

 

全員が俺が女性と約束をしていると思っているようである。というか、ひっかけるとかデートとか遊び歩くとか……えぇぇ、俺、そんなに女たらしじゃないんだけど。もしかして、皆のなかで、俺ってそういうキャラなのか!?

 

 

「うぅぅ、ショック……」

 

 

俺以上に『平穏』を望む男もいないというのに。

俺、決して優柔不断でヒロインの間をフラフラする系主人公じゃないぞ。なんだったら幼馴染み純愛ラブラブえっ……ごほん、じゃなくて、そういう一途な方が恋愛としては好きである。

そんな俺をつまえて、他の女、とか……そんなわけが……。

 

 

「で、どこの女との約束ですか、兄さん」

 

 

すんごい怖い笑顔でそう聞いてくる義妹様。その圧にたじろぎながらも、俺は誤魔化す。

 

 

「いや、女じゃないんだよ。ちょっと知り合いに頼まれて、1ヶ月バイトをすることになったんだ」

 

 

一応事実ではある。だが、こんな曖昧な答えを彼女たちは許してくれないようで。

 

 

「兄さんに知り合い? 変ですね」

 

「うん。お兄さん、基本的にアパートの掃除と買い物、料理以外あんまり外に出ないよね」

 

「それで知り合いも何もないんじゃないかしら?」

 

「ぐぬぬぬっ」

 

 

なんか遠回しに俺に友達がいないみたいな風に言われている。失礼な! 友達くらい…………あれ? 雪南は家族。アンナは友達っていうか共犯者に近い。椎ちゃんも妹みたいなものだし、冴子さんはもっと友達な感じはしない。

……もしかして、俺、こっちの世界に来てから友達らしい友達がいないのでは……?

 

 

「わァ…………ぁ……」

 

「お兄さん、泣いちゃった」

 

 

◯いかわマインドな俺の悲しみに寄り添ってくれない義妹様と社長様は、さらに詰め寄る。

 

 

「本当のことを言いなさい」

 

「そうです。本当はどこに行くつもりなんですか」

 

「…………聞いても後悔しない?」

 

「はい」

「うん」

「えぇ」

 

 

あんまり言いたくはなかったんだが、仕方がない。どうせやましいことなんてないんだ。半ば諦めに近い覚悟を決め、俺はそれを告げた。

 

 

「園咲家に奉公してくる」

 

 

ーーーー風森ハイム201号室・side:アンナーーーー

 

 

それが私が起きる数日前の出来事だという。彼女たちには「園咲家に奉公」と言ったようだが。

 

 

「十中八九、メモリの実験台になるでしょうね」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 

冴子さんの言葉に、椎くんは項垂れていた。彼女にとっては『ガイアメモリ』は恐怖の象徴なのだ。そんな話を聞いてしまったら落ち込むのも当然だろう。私は遠治くんがしているように彼女の頭を撫でて落ち着かせる。

 

 

「まぁ、『ミュージアム』の内情を知っている冴子さんが言うのだから、遠治くんは恐らく……」

 

「そうでしょうか……」

 

 

とそこで雪南くんが疑問を呈する。原作知識のある彼女の言だ。なにやら思うところがあるらしく。

 

 

「どういうことだい?」

 

「実は、兄さんは園咲琉兵衛に気に入られているみたいなんです」

 

「父に?」

 

「はい。その証拠に……ほら」

 

 

そう言って、雪南くんは何通かの手紙を差し出してくる。受け取って、差出人を見ると、そこには確かに園咲琉兵衛の名前が書かれていた。冴子さん曰く、それは本人の字で間違いないとのこと。さらに、中身を確認すると、遠治くんをパーティーに誘う文言が書かれていた。

 

 

「……なによ、これ」

 

「どうやら冴子さんには話してなかったみたいだね」

 

「…………えぇ、この手紙に書かれているパーティーは父が月に一度、家の者を集めて行う特別な催し。そこに彼を招待しているなんて知らなかったわ」

 

 

声に力がない。私達『転生者』が存在するこの世界でも、やはり園咲琉兵衛の愛情は『地球の巫女』になり得る園咲若菜の方に向いているということになっているのだろう。勿論、冴子さんに対する愛情もあるだろうが、彼はそれを、家族への愛を隠している。それが自らの『恐怖』に直結するからだ。

……まぁ、そのことは追々。今、考えるべきは、

 

 

「園咲琉兵衛……彼は一体遠治くんに何をさせようっていうんだ?」

 

 

 

ーーーー園咲邸・side:遠治ーーーー

 

 

「ふぅぃぃぃぃ……疲れたぁ」

 

 

俺は宛がわれた自室のベッドに思いっきり身体を預けた。

園咲邸で園咲若菜の専属執事として働き出してから早1週間。執事としての基本的な仕事や園咲邸での振る舞い方、そして、園咲若菜のアイドル業のスケジュール管理などなど、この1週間はそれらを頭に入れることで精一杯であった。

この1週間で分かったことだが、彼女はとにかく我が儘である。甘やかされて育ったのだろう。あれが嫌これが嫌、あれが食べたい、これが欲しい。我が儘お嬢様を絵に描いたような娘だった。

 

 

「てか、アイドル活動のスケジュール管理は執事の業務外じゃね……?」

 

 

どうやら長く彼女についていたマネージャーにゴタゴタがあり、辞めてしまったらしく、その後、彼女に付いたマネージャーも全員辞めてしまったという。根性がない、と若菜お嬢様は言っていたが、当然の結果だろう。一番長かったマネージャーさんに敬意を評したいぜ。

 

 

「えーっと、明日は……ヒーリングプリンセスの収録、風都中央テレビの昼の旅番組の撮影。あとは……あー、水着撮影は却下になったんだっけか」

 

 

ブツブツと呟きながら、俺は手帳の予定を1つ斜線で消した。

ふと時間を見ると、もう日付が変わろうかという時間になっている。明日も早い。もう寝ようと思いつつも、どうにも寝るのが勿体なくも思えて、ふと思いを馳せる。思い出すのは、ここに来ることになったきっかけ。園咲琉兵衛氏との取引の会話であった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「君には娘のボディーガードになってもらいたい」

 

「は?」

 

 

『白ハリネズミ』と『ソフィー』を分断し、各個撃破するために、園咲琉兵衛氏の力を借りる。その代わりにとそんな提案をされた。『ミュージアム』の仕事を手伝うって話だったから、正直拍子抜けだった。

 

 

「えぇと、その娘というのは?」

 

「園咲若菜。冴子の妹だよ」

 

 

曰く、冴子さんとは違い、妹の方には『ミュージアム』の仕事は任せず自由にさせている。風都でアイドル活動もしており、それなりに人気を泊しているらしい。俺にはそんな彼女のボディーガードをしろというのだ。

 

 

「ボディーガードって……それこそあんたのところで相応しい人材はいくらでもいるんじゃないか?」

 

「さっきも言ったが、今は人手が足りない。今まで若菜のボディーガードをしていた者は他の業務に就いている。戦闘技能に長けたものは組織の中でも多くはないのだよ」

 

 

期間は1ヶ月。こちらの力を貸す報酬としては妥当ではないかね。

まぁ、妥当ではあるか。彼のその言葉を受け、俺もそう納得しかける。だが、彼のある言葉が不意に引っ掛かった。

 

 

「ち、ちょっと待て。戦闘技能って言ったが、あくまでファンとかアンチとかそういうのの対応だろ。戦闘、なんて……大袈裟じゃないか」

 

 

アイドルのボディーガード。せいぜい握手会とか収録中に、ファンが近づかないようにする。なんならマネージャーでもできるような程度の仕事だろう。そう思ったのだが、予想に反して、園咲氏は1枚の手紙をこちらに手渡した。

 

 

「……こんな手紙が園咲邸に届いてね」

 

 

受け取り、中を見ると、新聞の文字を切り抜いて作った典型的な犯行予告があった。

『園咲若菜は俺のモノだ』。

文面は目新しいものもないストーカー的な脅迫状。ただ普通と違ったのは、その手紙にベットリと付着した赤緑色のなにか。それはまだ渇いておらず何かの粘液のようにも見える。十中八九、『ドーパント』絡みだろうことは容易に想像できる。

 

 

「なるほどな、納得した。じゃあ、俺は外の仕事にくっついていって、彼女を守ればいいわけだ」

 

「あぁ、言い忘れていたが、君には1ヶ月、若菜専属の執事の仕事もやってもらおうと思っているよ」

 

「へ?」

 

「君の家とここは少し距離がある。いちいち家に帰るのも大変だろう。住み込みで働けるよう、君の部屋も用意しておこう」

 

「ま、待ってくれ! 家の外はともかく、家の中はあんたもいるわけだし、安全なんじゃ?」

 

「実は来週から少々、行かなければならない場所ができてね。残念ながらそこは電波の届きにくい山奥の屋敷。もし若菜の身に危機が迫っても、私ではすぐに対応できない」

 

 

くっ、後出しで情報を出しやがって!?

だが、これ以上譲歩するつもりがないのは、園咲氏の表情を見れば分かる。どちらにせよ、今はアンナを救うことが優先だ。1ヶ月のボディーガードで、目的が叶うなら安いもんだ。

こうして、俺は1ヶ月のボディーガード兼執事の契約を結んだのだった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「…………っ」

 

 

ふと目が覚める。どうやら俺はあのままウトウトしてしまったようだ。執事服でベッドに横たわったまま、掛け布団もかけずに寝ていた。

 

 

「んっ、ふぃぃー!」

 

 

ひとつ伸びをして、ベッドから飛び起きる。とりあえず風呂に入りたい。そう思った俺は、お風呂セットを持って部屋を出た。

 

 

「………………」

 

 

コツンコツンと足音が響く。この園咲邸はかなり大きい。夜中は屋敷のメイドたちも就寝しているため、人の気配のない屋敷内は不気味なほど静まり返っていた。

ちょうど若菜お嬢様の部屋の近くを通りかかった時だった。

 

 

「ん?」

 

 

何かが引っ掛かった。決して景色が変わっているかそういうわけではない。ただ何かピリピリとした緊張感にも似たものが辺りに漂っている、気がした。

 

 

「まぁ、一応言ってみるか」

 

 

深夜にお嬢様の部屋の近くを彷徨く新人執事。客観的に見たら、怪しいことこの上ないが、周りには人もいないし大丈夫だろう。そんなことを考えながら、俺は部屋の前まで来て。

 

 

ーーコン、コン、コンーー

 

 

深夜だからノックだけ。もう寝ていて、返事がないならそれでよし。もし返事があれば、ダッシュで逃げればいい。すると、中から音がした。

 

 

ーーガタッーー

ーーバタンッーー

 

「!」

 

 

激しい寝返りの音ではないだろう。明らかにわざと出された音。ノックした俺が気づくように出された音だ。

 

 

「失礼しますっ!!」

 

 

少し強めに蹴破るように、扉を開けた。そこにいたのはネグリジェ姿の若菜お嬢様。そして、ベッドの彼女を押し倒すように跨がり、彼女の口と両腕をそれぞれ拘束するーー

 

 

『あ? これからいいところなのに、なんだよおまえっ』

 

「ッ」

ーーダッーー

 

 

ーー『ドーパント』がそこにはいた。

『化物トンボ』。目の前のそいつを一言で表すならば、そんな形容が相応しいだろう。俺は間髪いれずに、そいつの側頭部を蹴り抜いた。

 

 

ーーバギィッーー

『ご、がぁっ!?』

 

 

不意打ちを食らい、『化物トンボ』はベッドから転がり落ちる。俺はベッドにいた若菜お嬢様を抱きかかえ、そいつから距離をとる。そして、勢い任せに吠えた。

 

 

 

「俺のお嬢様に手を出すんじゃねぇッ!!」

 

 

 

……ん? あれ、なんか俺、今、勢いづいて、すんごいやべぇ言い間違いしちゃいませんでしたぁ?

 

 

ーーーーーーーー




次回、ちょっとだけムフフ風味な描写があるかも?
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  • かっこいい遠治くん
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