『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
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『若菜姫は俺のモノだッ! 邪魔するな』
「やっぱりこいつがあの脅迫状のっ!」
『化物トンボ』はこちらに向かって吠える。相手は見るからに虫の『ドーパント』。燃やせる相手だ。白い炎の『エターナル』であれば楽に倒せるはず。俺は若菜お嬢様を後ろの壁際に下ろした後、すぐさま『ロストドライバー』を装着して、メモリを起動した。だが、
『動くなッ!』
ーーズンッーー
「ぐ、っ!?」
奴がそう発したのと同時に、身体が動かなくなってしまう。身体が死ぬほど重い。これがこの『ドーパント』の能力か!? 起動したメモリをドライバーに装填する前に食らったせいで、変身ができない。
『ははははは! やっぱり強いぞぉ、このメモリ! これなら若菜姫を力ずくでも手に入れられる』
「く、そっ」
『俺の邪魔する奴は、死ねぇぇぇ!!』
ーーブンッーー
「っ」
思わず目をつぶる。しかし、いつまで経っても痛みは来ない。恐る恐る目を開けると、奴は片膝をついていた。
『ぐ、ぅぅぅっ』
なんだ? 俺はなにもしてないし、若菜お嬢様も未だに俺の後ろで壁にもたれかかっている。
『う、ぅぅぅぅっ、ぐふぅっ!?」
『メガネウラ』
さらに苦しみ出した『化物トンボ』。次の瞬間には、奴の体内から『メガネウラ』のメモリが排出される。姿が人間へと戻る。見覚えのない小太りの中年男性だった。
「はぁ、はぁっ、せ、せっかく力を手に入れたのに……っ、くそぉくそぉ……ぜったい手にいれてやるからなっ」
そう言うと、男は若菜お嬢様の部屋の窓を割って逃げてしまった。奴が部屋を出た後、身体の重さが元に戻る。
「っ、若菜お嬢様!」
俺はすぐに彼女の怪我の有無を確認する。まだ彼女は力が入らないようで、壁に身体を預けていた。
「大丈夫」
「すみません。俺がもっと早く気づいていれば」
「……ううん。ちゃんと、間に合ってるから」
よく見れば、彼女のネグリジェは所々破れており、乱暴をされかけたことが分かる。それでも彼女の言葉を信じるならば、その先のことはされなかった。そこだけは不幸中の幸いだった。けれど、彼女に怖い思いをさせてしまったのは事実。
「……何かお飲みになりますか」
別に俺は執事としてのプライドとかそういうのはない。けれど、化物に押し倒され、襲われかけた目の前の娘を安心させてやりたい。心からそう思った。
「別にいい」
「そうですか」
「……けど、着替え。あと身体洗いたい」
「そう、ですね。それじゃあ、すぐにメイドに連絡します。若菜お嬢様はここで待っていてーー」
「っ、待ってっ」
メイドを呼ぶため部屋を出ようとした俺を、若菜お嬢様が後ろから抱きついて引き留めた。
「若菜お嬢様……?」
「今は、離れないでっ」
彼女の身体は震えていた。
俺は馬鹿か、そりゃあこの娘はたった今襲われかけたんだ。ここに1人にするのは愚行極まりないだろ。
「大丈夫です。ここにはあなたを害する奴はいませんから」
「…………うん」
俺は彼女の気の済むまで、何もせずただそこに立っていた。
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それから少しして、彼女の震えが止まった頃、俺と若菜お嬢様はゆっくりと浴場へと向かっていた。襲われかけた事実は誰にも言わないで。そう言った彼女の意思を尊重して、俺はメイドたちには伝えなかった。その結果、
ーーザァァァァーー
園咲家の者にしか入ることを許されていない自慢の大浴場にて、シャワーを浴びる若菜お嬢様。そして、その外の更衣室に座り込む俺という謎のシチュエーションが発生していた。
どうしてこうなった……?
「ねぇ、いる?」
「はいっ、おりますっ」
大きな浴室に響く声に返す俺の声が裏返る。
……いや、仕方ねぇじゃん。彼女は風都のアイドルだけあって、かなり可愛い。冴子さんがクール美人だとしたら、若菜お嬢様は可愛い系。タイプは違うが、あの人の妹。お顔がとてつもなく整っていらっしゃる。
そんな娘がドアを挟んでシャワーを浴びているのだ。妙な緊張感というか、ドキドキもするわ!!
「ねぇ! いるっ?」
「いますいます!」
浴室が大きいこととかシャワーの音がしてるせいで、こちらの気配が分かりにくいんだろう。時間を空けずに、彼女にまたもそう聞かれる。置いてかねぇって、そんな信用ないか?
「……まぁ、まだ1週間だしなぁ」
「ねえっ!」
「いますぅ! いますいますぅ!」
まぁ、年下の女の子にこうして甘えられてると思えば、可愛いものではあるが。それでも1分置きくらいに聞かれると多少大変ではあるな。
そんなやり取りを続けること約10分。
ーーキュッーー
シャワーの音が止まった。
「……ねぇ」
「あー、はいはい!」
「こっち、来て」
「はいはーい…………ん?」
「ほんと……?」
ーーガチャッーー
適当に返事をしていたツケがやってくる。会話の意味を理解する前に浴室と更衣室を繋ぐ扉が開いた。
「!?!?!?」
咄嗟に反対側を向き、顔を伏せて目を閉じる。ポタポタと水滴が落ちる音は、こちらへと近づいてくる。やがて、その音は俺のすぐ後ろで止まる。
「お願い」
「~~~~っ!?」
なんだ!? なんなんだよ、この状況は!?
なぜ俺は一糸纏わぬ美少女に、一緒に風呂に入るように懇願されてるんだ?? 俺、もしかして前世ですんごい徳を積んでたのか!?
「お願い」
「いや、いやいやいや、お嬢様? あのですねぇ、流石に害さないとは言いましたけども! 俺も健全な男な訳ですしっ! それは流石に難しいお願いであります!」
「…………一緒に入らないとお父様にあなたに襲われたって告げ口する」
「はぁぁっ!?!?」
それはまずい。そんなことされれば、絶対に『テラー』の泥で殺される。惨い殺され方するって!?
「ぐ、ぐぬぬぬぬっ」
「……じゃ、待ってるから」
ーーガチャッーー
扉が閉まる音。混乱する頭で、俺は再び思考する。
前門の美少女後門の『恐怖』。
……いや、これ選択肢なくね?
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ーーガチャッーー
「…………お邪魔します」
「…………え、えぇ」
覚悟を決めた俺。頼りない布切れ1枚を持ち、浴室へ攻め入った。極力彼女の方を見ずに、冷水で身を清める。心の中では般若心経(適当)を唱えながら、ボディーソープを泡立てる塗りたくる。シャンプーもちゃんとする。まぁ、実際今日は風呂に入らず寝落ちしていたから、ちょうどいいといえばちょうどいいのだ。
あー、なんかそう考えたら少しは平静にーー
「ねぇ」
「ひゃいっ!?!?!?」
ーーなれるか、バーカ!! なんだよこの状況は!!
エロゲか!? エロ漫画か!?
「入らないの?」
「んー、ほら! まだ体洗ってますのでっ」
「頭洗うの3回目だけど」
「…………」
「…………」
「俺、出てまーー」
「言いつけるわよ」
「っす」
脅しに屈する俺。彼女もタオルは巻いているが、極力そちらを見ないように、彼女の対角線上から湯船に入った。
「あ"ぁ"ぁ"……」
瞬間、声が出た。張り詰めた体に少し熱めの湯が沁みる。あぁ、ここが極楽か。
「ふふっ、あはははっ!」
「あ?」
不意に若菜お嬢様の笑い声が響いた。思わず彼女を見ると、本当に可笑しそうに笑っている。
「っと……どうかしたか?」
「ふふふっ、いいえ。おじさんみたいって思って」
「失礼な……俺はまだ20台半ばだ」
「それはごめんなさい……ふふっ」
どうやら俺のノットおじさんボイスで、彼女は緩んでくれたようだ。ちゃんと笑えているな。
「……大丈夫そうだな」
「えぇ、そうね。そっちも敬語、なくなってる」
「あっ、すみません。若菜お嬢様」
「ううん、むしろそっちの方が今はいい。敬語使わず喋りなさい!」
「…………了解」
お互い緊張がほぐれたようで、大きな浴槽の対角線上、一番遠い位置からではあるが、言葉を交わす。
「さっきはありがと。正直、あなたがいなかったらどうなっていたか」
「いや、俺は君のボディーガードだからな」
「そうね。お父様が連れてきた特別なボディーガード」
「特別って、そういうわけじゃないけど」
「あのお父様が自分で選んだっていうのは相当よ。それだけでもあなたは特別。ねぇ……あなた、何者?」
「……俺はただ『平穏』に生きたいだけの一般人だよ」
何者と聞かれても、そう答えるしかない。それ以上でもそれ以下でもないんだ。
「一般人ねぇ……『仮面ライダー』なのに?」
「うぐっ……見られてたか」
彼女の寝室での一件で、『ロストドライバー』や『エターナル』を持っていたことには流石に気づかれていたみたいだ。だけど、俺は彼女の言葉を改めて否定する。
「『仮面ライダー』とは違うさ。俺はただ『平穏』を守るためだけに、俺自身のためだけにメモリを使ってるんだ」
『ドーパント』と変わらない。その言葉は飲み込む。その『ドーパント』を増やし続けてるのは、彼女の父だから。
「そう。なら、わたしと一緒ね」
「え?」
「わたしもあなたと同じ。自分のために『ガイアメモリ』を使ってる」
ふと横目で彼女を見ると、彼女は少し遠くに視線を投げていた。その表情はどこか儚げで。
「……お父様は、わたしには自由にさせてくれてる。お姉様と違って」
「あー、冴子さん」
「冴子さん……? 姉を下の名前で呼ぶの、中々レアね?」
「え、あー、ほら、名字だと紛らわしいし。それに園咲冴子っていったら有名人だしな」
「ふーん」
やべぇやべぇ。父の方は冴子さんがうちのアパートにいるのは知っているが、彼女はその辺を知らない。言ってもいいが、紛らわしいことになりそうだし、今は余計なことを言うまい。
彼女もとりあえずはスルーしてくれたようで、話を続ける。
「わたしがメモリを使うのは決まって自分のためなの。お姉様や霧彦さん、父と違い、『ミュージアム』のためには使ってない。自分勝手な使い方よ」
「自衛のためだろ。それは自分勝手とは言わないさ」
「いいえ。わたしは苛立つことがあるとメモリを使ってた……そうね、ごめんなさい。わたしを守ろうとしてくれたあなたとはやっぱり違うわ」
そう言って、力なく微笑む若菜お嬢様。その笑みは本当に儚くて今にも消えてしまいそうなものだった。
何か言ってあげなくては、そう思った俺の脳裏にふと雪南の顔が浮かぶ。
「あー」
「っ、な、なにっ?」
「あぁ、悪い。少し妹のことを思い出してた」
「妹さんがいるの?」
「あぁ、義理のではあるんだけど。雪南っていうんだが、まぁまぁ我の強い我儘娘でな。今の君以上に『自分勝手』だったんだ」
彼女は口を挟まず、俺の話を聞いてくれる。そんな彼女相手だから、俺もさらに言葉を紡いでいく。
「自分の希望は全部俺や義理の父親が叶えてくれる。自分のいうことは絶対、みたいなそれこそ我儘お嬢様だ」
「だけど、俺が『ある人』に裏切られて殺されかけた時、雪南は俺のために戦ってくれた。なんの力ももってないのに」
あの雪南がなりふり構わず、『あの女』に掴みかかっていた昔の光景を思い出す。あの時の雪南は凄かったな。
「殺されかけたって……」
「あー、まぁ、なんだ。その辺は大して面白くもない話だから割愛するけど」
その辺りの話はなんとなく切り上げ、ひとつ咳払いをしてから、俺は言う。
「どんな『自分勝手』な人間だって、『その時』が来たら、きっと誰かのために戦える」
君にはまだ『その時』が来ていないだけだ、って。
俺の言葉を聞き、彼女は何かを考えるように黙りこくる。そして、
ーーザパァッーー
「うん、そうね! わたしも『その時』にはきっと戦うわ!」
何やら吹っ切れたようだ。よかったよかーー
「ありがと、遠治!」
「……それはようござーー」
「「あ」」
いい話をして悦に入って油断していた俺の目に飛び込んできたもの。それは美しき肢体。
「あ、あ、ぁ……///」
我に返り、フリーズする彼女。
なにか言わなくては! フォローと弁明を!
必死に頭を回した俺は、最適解を導き出し、口を開く。
「でっか……」
「~~~~ッ、死になさいッ//////」
ーードゴッーー
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『メガネウラ』
『メガネウラ』
『メガネウラ』
「くそぅ、ちゃんと起動するのにっ!」
小太りの男は自らの部屋で、苛立ちを隠さずに、メモリを何回も起動する。あと少しで園咲若菜をモノにできたというのに。その思いがぐるぐると彼の心中に渦巻いていた。
ーーピンポーンーー
「? なんだ?」
不意に部屋のチャイムが鳴る。彼を訪ねてくる人間はいないし、ネット注文等もしていない。心当たりのない訪問者を確認するために、彼は玄関のドアを開けた。
そこにいたのは、ブロンドヘアで翡翠色の瞳をした女。特筆すべきは彼女がナース服を着ていたこと。
「ご機嫌よう」
「あ? そういうのは頼んだ覚えないぞ?」
彼の執着は園咲若菜にしかない。勿論いい女だとは思うし、そのカラダにも食指は動くが。
「わたくしは『ソフィー』。あなたの欲望を叶えるお手伝いをしに参りました」
「欲望?」
「はい。園咲若菜を犯し、支配したいというあなたの欲望を」
「!」
男の欲望を知る者は少ない。昨日失敗したことで、園咲若菜本人と使用人の1人には知られてしまったが、それ以外で知っている人間はいないはず。
男はそれを不審に思うが、彼女の後ろから現れた男の存在で得心がいった。
「こんにちは。体の調子はいかがかな」
「! あんたは、井坂先生……!」
井坂深紅郎。
男のかかりつけの病院の医師がそこにはいた。確かにこの人には何度か本音を漏らしたことがある。自分の歪んだ欲望を吐き出して、相談に乗ってもらったのだ。
その彼がここにいる。欲望を叶える手伝いをすると言う女と共に来た、その意味を男はすぐに理解した。
「あんたも……メモリを……?」
「えぇ。『ガイアメモリ』の探求は私のライフワークでしてね。私の野望を果たすためには、園咲若菜を台無しにするのも1つの道だと彼女からアドバイスをいただきました」
『ソフィー』へと目配せする井坂。その視線に『ソフィー』はにっこりと微笑み、言葉を引き継ぐ。
「あなたの欲望は、井坂先生の悲願に繋がりますわ。その欲望、ぜひ手伝わせてくださいませ」
そう言って、『ソフィー』は男に『強化アダプター』を手渡した。
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本当は洗いっこもあったんだけどさ……。
ちょっとRに足突っ込みそうでさ……。
すまねぇ、俺には勇気がなかったんだっ!!
どっちが好き?
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飄々としてるいつものアンナ
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アンナ「ころせぇぇぇぇ!!」