『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「兄さん、人探しをしましょう」
転生から数日後、我が家の台所できゅうりを切っていた俺に、雪南はそう言った。
「なんだよ、雪南。藪から棒に。俺は忙しいんだよ」
「兄さんも分かったでしょう。この風都には『ガイアメモリ』が蔓延し、『ドーパント』が蠢いているんです」
「…………まぁ、それは分かったよ」
身に染みた。数日前のあの日、『仮面ライダー』に助けられなかったら恐らく俺は死んでいた。それどころか雪南を連れていかれていただろう。雪南曰く、俺には選ばれた力がある、と。
ーーカチャリーー
「……これのことか」
きゅうりを切る手を止め、軽く手を洗ってから、懐にしまっていた白いメモリを取り出す。『エターナル』、『永遠』の記憶を宿したメモリだったか。
「はい。『エターナル』メモリの潜在能力は底知れません。すべての『ガイアメモリ』の頂点とも言える代物です」
「頂点なんて、大袈裟な……」
「いいえ、決して大袈裟なんかではありません」
俺の言葉に首を振り、雪南は『エターナル』メモリの特異性を語る。曰く、『エターナル』には他の『ガイアメモリ』の機能を停止させる能力があるのだという。対『ドーパント』どころか『仮面ライダー』との戦闘ですら優位を取れる。本来、存在してはいけないメモリ。
「まぁ、兄さんの持つ『エターナル』はT1ですので、T2ほどの力は秘めていませんが、それでも相当です。26本同時マキシマムはメモリがない以上できないでしょうが、単体でのマキシマムは可能でしょう。まぁ勿論、あの大道克巳には遠く及ばないですが」
「あの、って言われても……」
「フッ」
無知を鼻で笑われた。くそぉ、生き生きしやがって。あと説明が早口で分かりにくいんだよ。
「はぁ……まぁ、いいや。『エターナル』ってメモリが超強いのは分かったよ。それと人探しがどう繋がるってんだ?」
前世からの付き合いだ。彼女の暴走を止めるのが難しいのは分かってる。今は話を進めよう。
「脳の容量の少ない兄さんは覚えているか分かりませんが、その『エターナル』はそのままでは使えなかったでしょう?」
「一言余計だが、まぁ、そうだったな」
『ゴキブリ人間』の真似をして、首筋に押し当ててみたが、反応はなくて姿も変わらなかった。えっと、たしかなんたらどらいぶ?が必要とかなんとか?
「『ロストドライバー』です」
「ああ、そうそう、それそれ」
「『ガイアメモリ』には大きく分けて2種類あります。『ドーパント』が使うメモリと『仮面ライダー』が使うメモリです。兄さんのは後者。『仮面ライダー』が使う純正化……毒素を取り払った『ガイアメモリ』を使うには専用のベルトが必要なんです」
「……それが『ロストドライバー』ってわけだな」
俺の答えに、雪南は頷いた。
「わたしが探したい人というのは『ロストドライバー』の開発者……シュラウドという女性です」
「……シュラウド」
「この数日で風都を歩いてみましたが、園崎邸が健在であることから、彼女はまだ生きていると考えていいと思います。だから、彼女を探し出し、『テラー』を倒す可能性をチラつかせて、『ロストドライバー』を受け取る。これが最善手です」
「………………」
いくつか分からない単語や固有名詞はあったが、とにかく雪南はそのシュラウドなる人物を探し出すことで、俺のことをーー
「兄さん、『仮面ライダー』になりましょう」
という訳らしい。
平穏に暮らすためには、この街は些か物騒だ。自衛の手段を持っておくのは正直ありだ。だが、だからといって、俺は『仮面ライダー』になりたいわけではない。『仮面ライダー』になれば、悪と戦うことになるんだろう?
「? なんですか、兄さん? 急にわたしの顔をじっと見て」
「……いや」
確かに『ゴキブリ人間』の件は力がないことで雪南を危険に晒した。それは事実だ。けれど、『仮面ライダー』になることで、危険を呼び寄せてしまう可能性はかなり高いと思う。実際、あの一件から数日は『ドーパント』には襲われていない。リスクは回避できるはずなんだ。だから、俺が取るべき選択は……。
「…………雪南」
「はい?」
「とりあえず料理の続きをしていいか?」
「……ピクルスは嫌ですよ」
「安心しろ、浅漬けだ」
「それなら安心です」
ーーーー数十分後ーーーー
『仮面ライダー』にはならない。シュラウドという人物に接触する気もない。
だから、俺は義妹様にバレない程度に手を抜いてシュラウド探しをすることにした。幸いなことに『仮面ライダー』ヲタクの彼女も、シュラウドの居場所については知らないようだ。近所のスーパーで特売の挽き肉と卵を買うついでに、なんとなーく辺りをブラついてみる。それが俺の選択であった。
「ボディーガードを雇うのはありだな」
俺はともかく雪南は護身術も何も身につけていないわけだし。まだ金に余裕もある。PCでも買って株取引でもすれば、働かずとも生活費程度なら稼げるだろうしな。
「……ん?」
そんなことを考えながら、スーパーに着く。だが、何やら様子がおかしいことに気づいた。レジ付近が騒々しいのだ。クレーマーが騒いでいるとかいう感じでもない。恐る恐る近づいて、騒いでいる人達の声に耳を傾けて、観察してみる。
「あったはずなのよ」
「あれぇ? おかしいなぁ」
「な、なんでお金が……」
「どこに落とした!?」
「少々お待ちください」
客や店員に関わらずレジの周りにいる全員が、財布やレジ機の中を見て困惑しているようだった。スーパーの中に入り、近くにいた店員らしき女性に話しかける。
「あの、どうかしたんですか?」
「あぁ……申し訳ございません。今、レジの中のお金が全てなくなっておりまして……」
「え?」
「レジの周りにいたお客様のお財布からも、お金やクレジット、キャッシュカードがなくなっているようなんです……」
なんだ、それは。事件じゃないか。
「……はい。今から店長に報告して警察を呼ぶところです」
「え、じゃあ、挽き肉と卵の特売は……?」
「申し訳ありませんが……」
「!?!?!?」
なんてこった、せっかく安い値段で買い込もうと思ったのに。これじゃあブラックカードがあっても……。
「……………………あ、あれ?」
ゴソゴソを俺は財布を漁る。おかしいおかしいおかしいおかしい。
さっきまでカードは確かにあった。確信している。なのに、
「ない」
それどころかさっきATMでおろしたはずの1万円も、キャッシュカードですら俺の財布の中に見当たらなくなっている。このスーパーの騒動と無関係とは思えない。凄腕のスリにでもあったか? いや、ここにいる全員の財布をスることなど不可能だし、レジのお金が消えていることにも説明がつかない。となれば、残る可能性は……。
『ハーッ、ハッハッハッ!!』
「!」
その声はスーパーの外から聞こえた。すぐに表に出て、声の主を探すと……いた。スーパーの屋根の上。逆光で見辛いが、それでもはっきりと分かる。シルエットが明らかに普通じゃない。なんとなく察してしまっている。
『やぁやぁ、欲にまみれし諸君!』
ボイスチェンジャーを通したような声。
身体中を覆うボロ布にそれとは対照的な黄金の装飾。顔には金色のマスクが張り付いていた。ミイラが黄金を纏っている。そんな印象を受けた。
「なんだおまえ!」
「欲もなにもスーパーに買い物に来ただけよっ」
「そうだそうだ!」
『私は理性に縛られ生きる哀れな君達を救うために参上した……謂わば『解放者』さ! その証拠をお見せしよう!』
そう言うと『黄金ミイラ』は自らの手から金を撒き散らした。
「金だ!?」
「金が降ってきてる!?」
「どいて!」
「邪魔だっ!」
『ハーッハッハッ! やはり欲にまみれているじゃあないか!! 愉快愉快!!』
その金を目掛けて、『黄金ミイラ』を見上げていた群衆が駆け出していく。その群れにぶつかり、俺はよろけてしまう。
なんなんだ、あれも『ドーパント』だよな? 前の『ゴキブリ人間』とは違う訳の分からない行動に、俺の思考は止まっていた。
『…………アァ、今宵もいい仕事をしたァ……』
『黄金ミイラ』はまるで自分の言動に酔いしれるように、両手を広げ天を仰ぐ。混乱する現場を満足気に見下ろした奴は、一言だけ残し、その場から姿を消した。
『我が名は『シュラウド』ッ!!』
『理性に縛られ生きる諸君らを真の欲望に目覚めさせる者だァ!! ハーッハッハッハッ!!』
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「というわけで、現金もカードも失っちゃった……」
騒動後、自宅にて。
俺は項垂れながら、雪南に報告した。勿論、正座である。そんな俺に対して、雪南は深く深ーいため息を吐いていた。
「まったく兄さんは……」
「仕方なくない……?」
「兄さんなら屋根の上に瞬時に飛び移ってその『ドーパント』をしばき倒すくらいできるでしょう?」
「いやいやいや、別に俺そんな強くないですけど?」
「まぁ、そうですね。言いすぎました。兄さんが勝てるのはカマキリでギリギリでした」
いつものように毒を吐き、軽く笑う義妹様。俺の不甲斐なさに怒っている訳ではないようだ。
しかし、生活がピンチになったのは事実。彼女はそう言って、口元に指を添え、考えているようだった。
「兄さん、その『ドーパント』、『シュラウド』と名乗っていたんですよね」
「あ、あぁ。だから、てっきり雪南が探したいって言っていた人かと」
「いいえ、まったくの別人です。同じ名前を名乗ったのは偶然でしょう」
「そうか」
「………………」
「………………」
しばらくの沈黙の後、彼女は、
「…………あ」
小さく声を出した。そして、薄く笑う。俺以外では決して判別できないであろう笑み。なにか企んでいる、のか……?
「兄さん」
「お、おう。なんだ、義妹よ」
「お金やカードを盗まれてしまって、わたしたちは困っていますよね」
「あ、あぁ、そうだな」
「こういう困った事件に巻き込まれた時、この街にはとっても頼れる人物がいるのをわたし、知っているんです」
「警察、じゃなくて……?」
「はい。警察よりももっとこういう事件に特化した人物が」
そう言って、雪南は微笑む。
「ねぇ、兄さん」
「探偵さんを雇いませんか?」
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久永遠治
……ハンバーグが好き。デミグラス派。
久永雪南
……ハンバーグが好き。和風おろし派。
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