『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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新章『R』編開幕です!
"R版"じゃないので悪しからず!


第30話 Rへの道 / 女達の戦い

ーーーー風森ハイム202号室・side:アンナーーーー

 

 

平日の昼下がり。

私の部屋には謎の殺気が満ちていた。その殺気はそれぞれこの場に集まった女性達が放っている。

エントリーNo.1 久永雪南

エントリーNo.2 久永椎

エントリーNo.3 園咲冴子

エントリーNo.4 園咲若菜

で、私、アンナ京極。

私を除く全員の共通点。それがこの場を殺気に満ちたものにしている原因。つまり、4人が4人とも遠治くんへの恋心を抱いており、しかも、拗らせているのである。

 

 

「歓迎パーティーを開いてくれてありがとう。お父様には許可を取っていないから、ここに来る頻度は多くないけれど、よろしく」

 

 

そう言うのは、一応今回の主役・園咲若菜。

102号室に引っ越してきた住人である。引っ越し前に嵐のように訪れた彼女は、遠治くんに対して「手に入れる」と宣言したのだ。恐ろしいほどの積極性だね。ほぼ確実に遠治くんを狙っている娘だ。

 

 

「ふんっ、とっとと帰りなさい。言っておくけど、私は歓迎してないわ」

 

 

彼女の実の姉・園咲冴子はそう言った。

元々よくなかった姉妹仲が先日の一件のせいで、仲の悪さが加速しているようであった。101号室の住人で、同じく遠治くんに恋する人妻。凄い字面だ。

 

 

「はいはーい! ボクは歓迎だよ! よろしくね、若菜ちゃん!」

 

 

冴子さんとは対照的に、若菜くんを歓迎するのは椎くん。

遠治くんに助けられ、彼と同じ部屋に同居する女の子。勿論、彼女も遠治くんにベタ惚れだ。そして、

 

 

「お二人とも、喧嘩は止めてください。兄さんは『平穏』が好きですからね」

 

 

圧のある笑顔を浮かべる雪南くん。

彼の義理の妹にして、最も彼との付き合いの長い少女。明言こそしていないが、彼女の遠治くんに対する感情は恐らくこの中で一番深く、重い。

 

 

「はぁ、せっかくの休日だというのに……」

 

 

彼ではないが『平穏』な休日はどうやらなくなってしまったらしい。やれやれだ。

 

 

「ちょっといい? ハッキリさせときたいんだけど」

 

 

突然、若菜くんが手を挙げる。そして、それを聞いた。

 

 

「ここにいる人で、遠治を狙ってる……恋人にしたいって思ってる人は誰なのかしら?」

 

「「ぶっ!?」」

 

 

飲んでいた紅茶を吹き出す雪南くんと冴子さん。2人とも口を拭きながら、赤い顔でゴニョゴニョと何かを言っているが、まぁ、聞こえない。

 

 

「はーい! ボクはお兄さんの恋人になりたい!」

 

 

と素直に気持ちを表明するのは椎くんだ。まぁ、彼女は遠治くんに対してもずっと好き好き言い続けているからね。こういうところは彼女の強みだ。

 

 

「そう。そっちの2人は?」

 

「わ、わたしは……っ、兄さんは兄さんですから///」

 

 

おぉ? 不意打ちで核心を突かれたことで、雪南くんが珍しく狼狽えている。若菜くんは中々の逸材なのかもしれないね。それから彼女に指名されたもう1人はというと……。

 

 

「は、はぁぁっ!?/// 私は別にそういう目的でここにいるわけじゃないわっ! 勘違いしないでもらえるかしら」

 

「……お姉様、三十路のツンデレは需要ないわよ」

 

「な~~~~ッ!?」

 

 

スゴイナァ、ギスギスシテル……。

まったく遠治くんも罪な男だね。4人の女性の心を奪ってしまうなんて。それをまったく感じ取っていないのもまた罪である。

 

 

「で、そこのあなたは?」

 

「え?」

 

 

ふと若菜くんはこちらへ話を振ってきた。予想外のことだったが、まぁ、私の答えは決まっている。

 

 

「私は遠治くんのことは好きではないよ……というと語弊があるね。私は彼をどちらかといえば戦友として認識しているよ」

 

 

異性としての意識はない。

私は正直にそう伝えた。戦友、共犯者、その他色々あるけれど、とにかくそういう関係だ。人として好きではあるが、彼を恋愛の対象として見たことは、ない。

 

 

「…………ん?」

 

 

なんとなく妙な違和感を感じたが、まぁ、些末なことだ。それよりも今はこの修羅場を収める手段を考えなくてはね。いつまでも人の部屋を使われるのも、迷惑ではあるし。

 

 

「ふーん」

 

 

若干、若菜くんの視線が痛いのだが、実際そういう目で見ていないのだから仕方がない。何か話題を反らそうかと考えていると、椎くんが声をあげた。

 

 

「ねぇ! 明後日、お兄さんの誕生日だよ!!」

 

「「「!!!」」」

 

 

その瞬間に、部屋の空気が変わった。気になっている異性の誕生日を知ったのだ。すぐさま行動を起こすために、それぞれが立ち上がる。

 

 

「忘れてたわ、今から収録があるの」

 

「この後、近くのスーパーでタイムセールがあるわね。私もそっちへ行かせてもらうわ」

 

「椎さん、ちょっとよろしいでしょうか……? 口を滑らしやがりました件について、お話が……」

 

「えー! ボク、これからお兄さんへのプレゼント買いに行こうかと思ったんだけど?」

 

 

各々が何かしらの決意を胸に、今、戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

ーーーー風森ハイム201号室ーーーー

 

 

「というわけで、明後日が君の誕生日なんだって?」

 

 

4人が私の部屋から飛び出していった後、私は隣の部屋の遠治くんの元を訪れていた。キッチンでいつものように、昼飯の支度をしながら彼は答えてくれる。

 

 

「ん? あぁ、そういやそうだな」

 

「そういやって……自分の誕生日だろう?」

 

「まぁ、ほら、ここ最近いろいろあったからなぁ」

 

「相変わらず『平穏』とは程遠い生活だね」

 

「……止めてくれよ、縁起でもない」

 

 

もう私が冗談でそう言ったのを分かってくれる彼と、穏やかに笑い合う。先ほどでとは一転して、心休まる時間だった。

 

 

「それで? 君は欲しいものはあるのかな?」

 

 

そんな風に単刀直入に聞く。私は彼女達とは違い、サプライズで彼の好感度を上げようとも、他の娘を出し抜こうともしていない。友人として、何が欲しいか聞くだけだ。

 

 

「んー、そうだなぁ」

 

「何でも構わないよ。多少エッチなお願いでも聞いてあげようじゃないか」

 

「…………ほーん?」

 

「まぁ、嘘だけれどさ」

 

「くそぅっ!? 純情を弄びやがって!!」

 

 

大袈裟に悔しがる彼の様子にクスクスと笑いが出る。最初は私のことを警戒していた彼も、こういったやり取りができるようになったのだ。それほどまでに彼との絆が深まったというーー

 

 

ーーヴヴヴヴーー

 

「おっと」

 

 

歓談の最中、着信に気づく。いつものスマホ、ではなく、もうひとつのガラケーの方に来た連絡。ということは……。

 

 

「遠治くん、すまない」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「少々、急用が入ってしまった。出てくるよ」

 

「お、マジか。実はケーキを焼いてたんだが……」

 

「! すぐに戻る! 残しておいてくれたまえ」

 

「オーケー。珈琲は……いや、カフェオレの準備をしておくよ」

 

「あぁ、ありがとう。いってくるね」

 

 

~~~~~~~~

 

 

いつか『彼女』に『ロストドライバー』を渡された園咲邸を眼下に見下ろせる丘に、今回も私は呼び出されていた。『彼女』は陽炎とともに現れる。

 

 

「だいぶ久しぶりの呼び出しですね、『シュラウド』」

 

 

『彼女』と会うのは私がアパートに入る前に会って以来だ。最近はこちらから連絡をしても返事は来ず、向こうからも連絡がなかった。唯一の繋がりは、私の部屋にメモリが投函されることくらいで。

 

 

『警戒していたわ。貴女や彼が園咲と近づいたから』

 

 

『シュラウド』は私の疑問にそう答えた。

なるほど。そう言えば、私がアパートに引っ越したのは、ちょうど冴子さんが引っ越したのと同時期だった。それで接触を避けていたのか。けれど、こうして接触してきたってことは。

 

 

『冴子は完全に組織との繋がりが切れている。そう判断した』

 

「そうですね。私もそう思います」

 

 

ここ最近、彼女はずっと出社していない。なんだったら結構な頻度で、201号室に入り浸って、遠治くんから料理を教えてもらっている。自分の作った料理と彼の料理を比べ、眉間にシワを寄せる様子を見ていたら、既に彼女からは『毒』のようなものは抜けていると判断してもいいと思う。

ただ……。

 

 

「若菜くんは……」

 

『あの娘は恐らく大丈夫。昔から『あの男』は若菜には甘かったから』

 

「……そう、ですね」

 

 

原作を知っている身からすると、彼女こそ『地球の巫女』たるメモリ・『クレイドール』を持っているのだが、それは今、言う必要はないだろう。彼女も遠治くんの元に来た。きっと彼の人柄に触れて、彼の思想に絆されれば、若菜くんも『地球の巫女』になろうなんて思わないはずだ。

あぁ、そうか。そこで彼女が今、接触してきた意味が分かった。つまり、今ーー

 

 

『あの男は孤立しているわ』

 

 

『タブー』と『クレイドール』は牙を抜かれ、『ナスカ』はソフィー姉さんの側についたらしい。『スミロドン』は対処のしようがあるのは原作でも分かっている。確かに今、『恐怖の帝王』を囲う者はいない。倒すならば今だと『シュラウド』は言う。

 

 

「ですが、遠治くんはまだ『ブルーフレア』に至っていません。今、戦わせるのは危険では?」

 

『危険? 『あの男』を叩くのならば今しかないわ』

 

「ですが……叩くのならば戦力が整ってからでも」

 

『いいえ。この好機を逃す手はない』

 

「…………」

 

 

なんだろう……『彼女』の言葉からはどうしても今、遠治くんと園咲琉兵衛を戦わせたいように聞こえる。

 

 

「…………『シュラウド』……貴女は、彼を試金石にしようとしているのでは、ないですか」

 

 

現状の『テラー』の力を図るための試金石。勝てたらよし。勝てなくても敵の手の内をひとつでも暴けばいい。つまり、彼を捨て石に使おうとしているのではないか。私はそう訊ねた。すると、『彼女』は、

 

 

『………………それが?』

 

「っ」

 

 

私の言葉を肯定した。肯定し、それがなにか問題かと訊ねてくる。

 

 

「っ、それでは彼は犬死にです」

 

『…………おかしなことを言う。それでもいいと言っていたのは貴女よ。『あの男』を生かしておくのは危険。それを倒すためならば、犠牲は必要だと言っていた』

 

「そ、それは……」

 

 

『シュラウド』に拾われた私は、確かにそう言った。恩を返すために使えそうな人物を見繕って、戦えるようにすると。

 

 

『貴女、情が移ったのでしょう』

 

「っ」

 

 

その言葉を否定する材料を、私は持ち合わせていなかった。事実、私は彼も、彼を取り巻く人々も大切に思っている。

俯いたまま、『シュラウド』の言葉を待つ。無限にも思える沈黙の後、『彼女』は一言だけ呟いた。

 

 

『……いいわ』

 

「! それって……!」

 

 

次に顔を上げた時には既に『シュラウド』の姿は目の前から消えていた。その代わりに、地面に1本のメモリが落ちていて。

 

 

「…………ごめんなさい、『シュラウド』」

 

 

~~~~~~~~

 

 

「ただいま」

 

 

少し暗い気持ちで、遠治くんの家へと帰ってくる。どこまで彼に話していいものか悩む。とりあえず、原作をよく知っている雪南くんには『シュラウド』の動向は話した方がいいかな。

 

 

ーーガチャッーー

 

「あれ……?」

 

 

リビングに繋がるドアを開ける。だが、そこには遠治くんの姿はなかった。もしかしたら買い物に行ったのかもしれない。そう思った私は伝言でも入ってないかと、スマホを取り出した。案の定、メッセージが一件届いていた。それを開くと、やはり遠治くんからで。

 

 

「?」

 

 

メッセージを見たと同時に、首を捻る。そこにあったのは意味を為さない文字と数字の羅列であった。ミスして送信したにしては異様に長い。けれど、意味があるとは思えない。

 

 

「少し待ってみようか」

 

 

その後、私は待ち続けた。けれど、彼が帰ってくることはなかった。これは後に分かることだがーー。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

久永遠治はその日、世界から消失した。

 

 

ーーーーーーーー




箸休め回ではありません。
ガッツリ進みます。
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