『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第32話 Rへの道 / 風都には彼らがいる

ーーーー回想ーーーー

 

 

「うへぇ……」

 

「どうしたんだい?」

 

 

彼に夕食を振る舞ってもらった後、雪南くんと椎くんがお風呂に入っている間、へばっている彼に私は声をかけた。テーブルに身を預けて、溶けている彼も珍しい。その体勢のまま、彼は疲れを隠さずに言う。

 

 

「いや、今日、椎ちゃんとデパートに買い物行く約束をしてたんだよ。そんで、いざ行こうってなった時に、雪南も買い物あるって行ってたんだよ。だから、どうせなら一緒に行こうぜって話になって」

 

「ふむ」

 

「そしたら、珍しく椎ちゃんが膨れちゃって。買い物中、ずーっとご機嫌ナナメだったんだよ」

 

 

なるほど。せっかく2人きりでデートの約束をしていたのに、遠治くんが勝手に雪南くんを誘ってしまった、と。雪南くんも決して鈍感ではないのだから、そこは先着ってことで譲ってあげたらいいのに。

 

 

「雪南はなんか途中でいなくなろうとしたから、必死で止めたけどさぁ」

 

「…………」

 

 

すまない。雪南くん、やっぱり君は悪くないね。

 

 

「遠治くん」

 

「なんだー?」

 

「それは君が悪い」

 

「えぇぇ……アンナまでそう言うのかよ」

 

 

雪南にもそう言われた。そう遠治くんは付け加えた。まぁ、それはそうだ。それにしても2人の女の子から好意を寄せられてるんだから、本当に彼はーー

 

 

「でさ、その帰りに買い出しにスーパーに寄ったら、冴子さんにもあったわけよ」

 

「ん?」

 

「それで椎ちゃんと雪南は1日歩き疲れたから先帰っててくれって言ったんだ。俺は冴子さんと晩飯の買い出しして帰るよってな」

 

「…………」

 

「で、ほら。冴子さんって、若菜お嬢様のお姉さんだし、彼女の好物とか教えてもらいながら、歓迎会の話でもできたらなーと。そしたらなんか急にすんごく不機嫌になってさぁ」

 

 

うーん、本当にこの男は、なんというか……。

 

 

「はぁぁ、本当に今日は疲れたぜ。厄日だな、厄日」

 

「ため息を吐きたいのは、彼女たちだろうねぇ」

 

「?」

 

 

本当に彼は鈍感だ。前世でもここまでの鈍感系主人公は見たことが……いや、結構いるか。

それにしても、

 

 

「…………」

 

「ん? な、なんだよ、まだなにかあるのか?」

 

「……い、いや、なんでもないよ」

 

 

私のことも少しくらい考えてくれても。

ふと頭に浮かんでしまった気の迷いを、首を振って追い出す。

……まったく、嫌だね。彼女たちに当てられてしまったかな。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

電話の先からこちらを心配する雪南くんの声が聞こえてくる。私は慌てて通話を再開する。

 

 

「す、すまない……取り乱した……」

 

『珍し……くもないですが、どうしたんですか?』

 

「雪南くんも落ち着いて聞いてほしいんだが、遠治くんが消えた」

 

『……消えた?』

 

「あぁ、姿を消したというレベルじゃない。椎くんや冴子さん、若菜くんの記憶からも消えているんだ」

 

『なっ!?』

 

「そちらでも何か異変はないかい?」

 

『……待ってください』

 

 

電話の先でゴソゴソと何かを確認する雪南くん。しばらくして、

 

 

『クレジットの名義がわたしになってます。スマホからも兄さんとのやり取りやそもそも連絡先も消えてます……』

 

「記憶だけじゃない。記録からも消えている訳か」

 

 

いよいよもって異常じみてきた。確実に『ドーパント』絡みだろうが、一介の『ドーパント』に人間1人の痕跡を全て消せるような力があるのだろうか。それに加えて、誰が敵で、何が目的なのか全く分からない。

 

 

『って、そうでした。アンナさんのところにも兄さんからメールが届いてはいませんか?』

 

「!」

 

 

そうだ。そういえば、さっき遠治くんからメールが来ていた。こうなるとは思わなかったから、軽く流してしまったが。差出人の名前は消えてはいるが、メール自体は残っている。改めてその内容を確認する。

 

 

『kをtukろtkkro攻kをうktるtkofーとふtro男』

 

 

所々読める言葉はある。だが、意味は分からない。口に出して、その文字列を確認すると、どうやら送られた文字列は雪南くんも一緒のようだった。

 

 

「遠治くんからのメッセージ。そう受け取ればいいかな」

 

『だと思います』

 

 

手がかりがほぼない以上、そう考えるしかない。そして、現状を打破する鍵がここにあるはず。だが、手がかりもなしにこのメッセージを解読できる気は……。

 

 

『暗号に近いなら……このメッセージを解読する手段があるかもしれません。』

 

「!」

 

 

そうだ。そこでやっと思い至った。私にも心当たりがあるじゃないか。というか、原作を知っているんだ。もっと早く頼るべきであったろう。

 

 

『鳴海探偵事務所に行きましょう』

 

 

そう。風都には彼らがいる。『ガイアメモリ』事件なら彼らを頼るのが最善手だ。

今日はもう遅い。互いに気をつけてアパートまで帰るように言い合って、帰路についた。

 

 

~~~~~~~~

 

 

翌日、私と雪南くんは鳴海探偵事務所へと赴いていた。

依頼は『人を見つけてほしい』というもの。しかも、『探し人』がこの世界から消えているという注釈つきだ。

 

 

「えぇと、雪南ちゃん、だったよな」

 

「はい。お久しぶりです」

 

 

どうやら雪南くんは一度、この探偵事務所の世話になっているようである。しかも、遠治くんと一緒に。

 

 

「……んー、そうだねぇ。ウチの記録でも、ここに来たのは雪南ちゃんだけってことになってるよ」

 

「はい。ですが、確かに兄もここに来ていたはずなんです」

 

 

探偵事務所の所長・鳴海亜樹子くんも私たちの話を聞いた上で、過去の依頼人の記録を探ってくれたが、やはりここの記録も改竄されている。

 

 

「君達の話を信じるなら、それだけ大勢の人間、それから記録を一瞬で変えちまったってことになる。そんなもん……」

 

「『ガイアメモリ』犯罪以外の何者でもないだろう?」

 

「…………まぁ、そりゃそうなんだが」

 

 

なにやら探偵・左翔太郎くんの反応が悪い。自分で言うのもなんだが美人の依頼ならば、二つ返事でオーケーするのが原作の彼のはずなんだが。

 

 

「雪南ちゃんはともかく、メモリについてずいぶん詳しそうだな、あんた」

 

 

あぁ、なるほど。それを警戒している訳か。まぁ、風都には悪女が多いと言われるくらいだからね。気持ちは分かるさ。

 

 

「『ガイアメモリ』に詳しいのは当然だよ。だって、私は『シュラーー」

 

 

 

ーーバァァァンッーー

「翔太郎!!」

 

 

 

「「!?」」

 

 

私の言葉を遮るように、探偵事務所の開かずの扉が勢いよく開いた。そこから出てくるのは、原作を知る私達にとってはよく知る人物だ。知識の権化『地球に選ばれた子』・名を、

 

 

「おまっ!? フィリップっ!?」

 

「翔太郎! 聞いてくれ! 今、彼女たちの言う『久永遠治』という人物を『検索』したのだが!」

 

 

フィリップくん。翔太郎くんの相棒であり、『仮面ライダーW』の右側である彼が目を燦々と輝かせながら現れたのだ。

 

 

「興味深い! ゾクゾクするねぇ」

 

「あー、もうっ! こっちは依頼人から話を聞いてんだ。こんなタイミングで暴走しやがって!」

 

「えーっと、ごめんね。ちょっと待っててもらえるかな?」

 

 

それからフィリップくんが少々落ち着くまでの10分ほど。私と雪南くんは出された珈琲をすすっていた。

…………苦い。そして、あまり美味しくない。

ふと横目で雪南くんを見ると、なにやら様子が変である。まばたきの回数が露骨に増え、見るからに挙動不審である。鳴海探偵事務所の面々が騒いでいる間、私はこっそりと雪南くんに話しかけた。

 

 

「……雪南くん」

 

「なんですか、アンナさん」

 

 

私に話しかけられ、平静を装ってはいるが、明らかに変な彼女は珈琲をガバガバ飲んでいる。いつものクールを装った彼女とは違うのは一目瞭然で。

 

 

「今、遠治くんの消息を辿るための大事な場面だってことは分かってるね」

 

「勿論です。あんな兄でも家族は家族ですからね」

 

「まぁ、分かってるならいいさ。くれぐれも『フィリップくんの出現でテンション上がってる』のを悟られないようにね」

 

「…………う、っす」

 

 

こっちの真剣さが目に見えて減り、万一にも冷やかしだと思われる可能性だってある。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「あー、なんだ。悪かったな」

 

「い、いえっ!」

 

 

フィリップくんが落ち着いたことで、改めて私達に向き合う翔太郎くん。私も隣の彼女の様子も気にしつつ、話を進めることにする。

 

 

「それで? そちらの彼は……」

 

「あぁ、こいつはフィリップ。俺の相棒で、なんていうか頭脳担当みたいな奴だ」

 

「やぁ、初めまして。僕はフィリップ。興味深い事件を持ってきてくれたね」

 

 

事件だというのに、イキイキしている彼は原作通りで、腹が立つどころかむしろ安心する。彼が乗り気になってくれたということは……。

 

 

「君の兄が消失した、という今回の事件。僕達が引き受けよう」

 

「お、おい! お前、勝手に……!?」

 

「ん? どうせ翔太郎だって引き受ける気だったのだろう? 2人の女性からの依頼とくれば、受けない理由がないからね」

 

「うぐっ」

 

 

ぐうの音も出なくなった翔太郎くんを放置し、フィリップくんは再びこちらへと向き直った。

 

 

「単刀直入に言おう、久永雪南。君の兄は何者かによって、存在を『取り消』されている」

 

「「!」」

 

「存在を取り消す?」

「フィリップくん、それって……?」

 

「あぁ、詳しく説明しよう。ただ、そのためには……」

 

 

そこまで言って、フィリップくんは翔太郎くんたちに目配せをする。どの程度話したものか、そう言った様子だったから、私は彼に言う。

 

 

「君についての説明は、私達には不要だよ。『地球の本棚』、『地球に選ばれた子』。その辺りの事情は知っているからね」

 

「おい、なんでそれを知ってるんだ!?」

 

「! なるほど……話が早くて助かる」

 

 

この辺りは後でいくらでも弁明しよう。それよりも今はいち早く遠治くんの現状を知らなくては。

 

 

「『地球の本棚』には地球のすべての本が存在する。その中には人物についての本もある。だから、僕は『久永遠治』という人名をキーワードに『検索』したんだ。その結果が……」

 

 

久永遠治

 

 

彼はそんな風に書いた。彼の名前に取り消し線が書き足されている。

 

 

「取り消し線、ですか?」

 

「あぁ。本の表紙とタイトルがこうなっていたんだ。初めての体験さ!! ゾクゾクするねぇ」

 

 

フィリップくん曰く、本の中身もそうなっていたという。つまり、

 

 

「君の兄・久永遠治は確かに存在している。ただ、何者かによって、その存在を『取り消』されているといったところだろう」

 

「そんなことが……」

「そんなことできんのかよ!?」

「そんなことできるのっ!?」

 

 

雪南くんと翔太郎くん、亜樹子くんの声が揃う。勿論、私も同じ気持ちではある。けれど、同時に得心がいった。

 

 

「しかし、分からない。僕も可能性のあるメモリを何本かに絞ってはみたが……」

 

「そこまでの出力を誇るメモリがない、ということかな」

 

「あぁ」

 

「…………」

 

 

彼の言葉を聞いて、私と雪南くんは視線を交わした。メモリの出力。それに関しては私達には心当たりがある。

敵は『強化アダプター』を使っている。そう考えていいだろう。ということは、十中八九ソフィー姉さんが関わっている。あの破滅主義者が何を考えているか、そのすべては分からないけれど、私を陥れるために彼を消すくらいならやりかねない。

 

 

「どうやら何か心当たりがあるようだね」

 

「あぁ、私達はそれを恐らく知っている」

 

「『ガイアメモリ』の能力を3倍にまで引き上げる『強化アダプター』という装置が裏のごく一部で流通しているようです」

 

「なんだよそれ!?」

「なにそれ! わたし、聞いてないっ!?」

 

「それは……メモリに関わっていた僕でも知らない代物だ…………君は、君達は一体何者だい?」

 

「わたし、たちは……」

 

「この事件が解決したら教えるさ。だから、今はいち早く彼を……」

 

「…………承知した」

 

 

そう言うと、フィリップくんは再び扉の向こうへと入っていった。きっと『検索』をしてくれるのだろう。うん、これできっと解決へと進むはずだ。ふと私はスマホのロックを外し、届いた例のメッセージに目を落とした。

 

 

「ん? なにそれ?」

 

 

とその様子を所長くんに見られていたらしく、ちょこっと覗き込んできた。

 

 

「ん、あぁ……例の彼から送られてきたメッセージだよ。彼の連絡先も消えてしまったから、宛先のない意味不明のメールになってしまったけれど」

「あ、わたしもそれ来てます」

 

「ん? んんん?」

 

 

じーっとそのメールを見ていた彼女だったが、

 

 

「おぉぉぉぉぉ???」

ーーひょいっーー

 

「ちょっ!?」

 

 

何かを閃いたようで、雪南くんの手からスマホを掠め取った。そして、細目で見たり、首を傾げたりした後に、彼女は叫ぶ。

 

 

「フィリップくぅぅぅんっ!!!」

 

「わ、わたしのスマホ!?」

 

 

そうして、亜樹子くんとそれを追った雪南くんもまた、例の扉の先に消えてしまった。

 

 

「まーた、あの所長様は妙なことに気づいたみてぇだな」

 

 

あぁ、そういえば原作でもあったね。彼女の天才的な気付きによって、事件が進展する場面が。それがここでも発揮された訳だ。

今はただ、ただありがたい。これで……。

 

 

「彼に、会える……んだ」

 

 

不意にポツリと溢れた言葉。

どうやらその声は翔太郎くんに聞かれてしまっていたらしい。彼は優しげな表情で、私に言ってくる。

 

 

「大切なんだな、その遠治って奴のこと」

 

「………………へ?」

 

「あー、悪い。あんたがあまりにも泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をしてたからさ」

 

「え、あっ……うぅ///」

 

「ハハッ、あんたみたいな美人に想われてるそいつが羨ましいぜ」

 

「想われてるって…………別に私はそういうんじゃ……///」

 

 

そう! 彼は私の共犯というか、相棒みたいな存在なんだ!

そりゃあ会いたいさ! そういうことだよっ!

心の中でそう言い訳はしても、私は心のどこかでその『想い』とやらを否定できなかった。

 

 

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