『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーーside:椎ーーーー
「大変だ大変だっ!!」
『なんですか、椎さん』
パニくるボクとは対照的に、電話に出た雪南ちゃんはとっても落ち着いていた。落ち着いてる場合じゃないよ!!と電話越しに大きな声を出す。冷静になると、雪南ちゃんはこっちの状況を知らないんだから、無理もないんだけどさ!
「えっとね、お兄さんとアンナちゃんがデートしててカフェであーんしててそれでね!」
『落ち着いてください』
「それでなんかアンナちゃんががーっと喋ったと思ったら手をつないでギラギラのところに入ってった!!」
『……へぇ、そうですか』
「あ、れ……?」
ーーーーside:遠治ーーーー
俺とアンナはそのまま目の前の建物に入った。一番高い部屋を選び、扉を開ける。部屋に入って最初に目につくのは、天蓋付きのキングサイズのベッドだ。それからマッサージチェアやら高級感のあるソファなど、非日常が広がっていた。
「シャワー、先に浴びてもらえるかな」
「お、おう」
言われるがまま、俺は脱衣所へ。服を脱ぎ、浴室へ入った。シャワーの温度を確認してから身体に当てる。
「……………………ほぇぇぇ……」
なんともなっさけない声が出た。いや、俺も前世ではそれなりに経験もある。男女交際だってあったわけだし。ただし、あんなどちゃくそ美人が相手となれば別。緊張もするってもんだ。
「念入りに……な」
ひとつ息を吐いた後、俺は浴室の鏡を見ながら全身を洗ったのだった。
~~~~~~~~
「……あがったぜ」
「…………うん」
シャワーを終え、バスローブに袖を通した俺が部屋に戻ると、入ってきた時とは違い、照明が薄暗くなっていた。アンナがそうセッティングしてくれたことを想像すると、また、こうクるものがある。暗いせいで彼女の表情が見えにくいのは少々残念ではあるけれど。
「次、いただくね」
「……おう」
そう言うとアンナは徐に立ち上がり、浴室へと消えていった。彼女が視界からいなくなってすぐ、俺は大きく息を深呼吸をした。
「すぅぅぅぅ……ふぅぅぅぅ……マジかぁ、まじか……まじかぁぁ」
この期に及んで落ち着かない。カッコ悪いったらないが、アンナがいない今のうちだけだ。来たらカッコつけるさ、ダイジョブダイジョブ。あ、ほら、なんか深呼吸を繰り返してたら落ち着いて……。
「き、たぁ……」
「…………」
「…………Zzz」
~~~~~~~~
「はっ!?」
目を覚ます。どうやら俺は一瞬寝てしまっていたようだ。過度の緊張と深呼吸によるリラックスにやられたみたいだぜ。
「って、しまった!?」
行為の直前に眠ってしまうなんてのはあまりにも情けないし、女性にも失礼極まりないミスだ。こんな簡単なミスをしてしまうとは!? 俺は慌てて辺りを見渡す。ソファには彼女の荷物はまだある。それに耳を澄ませると、シャワーの音も聞こえてきた。どうやら呆れて帰ってしまったということはないようだ。一安心。
「ったく、どのくらい眠って……ん?」
時刻を確認するために、スマホの画面を見る。すると、入った時間から1時間近く経っているのが分かった。1時間も寝ていたのか俺は……。軽い衝撃を受けていると、すぐに違和感に気づく。
「いくらなんでもシャワー長過ぎじゃねぇか?」
髪を洗ったり、湯船に浸かったりしてるわけでもないなら、いくらなんでも1時間の風呂は長すぎる。というか、普段、アンナはうちに風呂入りに来てることもあるから、あいつが長風呂できないのも知っている。
「アンナ……?」
人の気配がないことを確認し、まずは脱衣所へ。いない。そして、次は浴室。シャワーの音はしている。だが、彼女のシルエットがない。ノックをしても反応がない。不審に思い、そーっと扉を少しだけ開けた。見えるところに彼女はいない。視線を上下すると、
「アンナッ!!」
浴室の床に倒れているアンナの姿が目に入り、俺は慌てて扉を開けた。血は出ていないし、パッと見痣の類いもなさそうだ。俺はシャワーを止めた後、脱衣室のバスタオルを彼女にかけてそのまま抱きかかえ、浴室を出た。ゆっくりと彼女の体をベッドに横たわらせる。抱きかかえていた間に分かったが、彼女の呼吸は穏やかで、どうやら眠ってしまっているようだった。
俺もアンナも疲れていた、といえばそれまでだが、2人して1時間も眠ってしまうのは明らかに異常だろう。
ーーガチャッーー
「あ?」
何が起こっているのかと考えていると、扉の開く音が聞こえた。本来は開くはずのない玄関のドアが開く音であった。ドスドスと足音が聞こえ、部屋のドアも開けて、何者かが部屋へと入ってきた。入ってきたのは人間ではなく、『ドーパント』。その見た目は一言で言えば『気持ち悪い羊』である。
「『ドーパント』ぉ……?」
『なっ!? なんでてめぇ寝てねぇんだよ!』
「寝てない……? なんのことだ」
『ここに来たカップルを眠らせてNTRするのが趣味でこのホテルを経営してるってのに! 起きてたんじゃそれもできねぇじゃねぇかっ!!』
おぉ、何が起こっているのか全部説明してくれたな、この『気持ち悪い羊』。ていうか、かなり悪質な犯罪者じゃねぇか!?
『くそぉ、騒ぎになるのが怖かったから彼氏の方も眠らせてたのに……こうなったらしょうがねぇ! 起きてる彼氏を目の前にNTってやーー
ーーーーバギィッーーーー
ーーごぶぅぅぅ!?』
『………………』
飛びかかってきた瞬間に、俺は変身してぶん殴った。怒りの鉄槌である。
『な、か、仮面ライダーっ!? そ、そんなの聞いてねぇぞ!!』
『おい。お前の性癖がどんなに歪んでてもまぁ、いいさ。でも、お前のしていることは犯罪だ』
『は、はぁ!? 寝ている間にしたらセーフだろうがっ!!』
『アウトだ、腐れ羊。あとなぁ……』
『エターナル マキシマムドライブ』
ーーボゥゥゥッーー
『俺のドキドキとワクワクとムラムラを返しやがれ、このゲスがぁぁぁッ!!!』
こうして、『気持ち悪い羊』は俺に一撃で屠られた。その後、メモリの使用者は俺が簀巻きにして、建物の外に張り付けてやった。因果応報だ、晒し者になれ、ボケがっ!!
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今回の後日談。
結局、邪魔者の乱入により、そういう気分には戻れず、そのまま寝ぼけ眼のアンナとともに、アパートへと帰った。そうしたら、なぜか全員が俺の部屋に集まっていて。
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「えぇと、これはなんの集まりでしょうか」
「「…………」」
仁王立ちで正座する俺とアンナを睨みつけてくる園咲姉妹。その後ろに、椎ちゃんと雪南がいる。
「…………ボクと冴子さん、見ちゃったんだ」
椎ちゃんが静かに語り始める。すんごく嫌な予感がするんですけど……?
「ナ、ナニヲデショウカァ?」
「とぼけても無駄よ。私はこの目で今日のあなたたちのデートを見ていたわ。あの建物に入っていったのもね」
「「!?!?」」
なんだと!? 尾行されていたのか、まったく気づかなかったぜ。
「お兄さんとアンナちゃんには正直に話してほしい。でも、その前にねーー」
椎ちゃんはいつになく真剣な……いや、敵意を剥き出しの表情で『彼女』を指差した。
「ーーお前は誰だ」
椎ちゃんの指の先にいたのは、今日1日様子のおかしかったアンナではなく、雪南だった。
「…………」
黙ったままの雪南。そんな彼女に椎ちゃんは投げかける。
「ボクもそういうメモリを使ってたからかな。なんとなく違和感があったんだよ。雪南ちゃんから違う雰囲気がするって」
「なんだと?」
「なんだって……!?」
「なんですって……?」
「ずっと元気がなくて変だと思ってた。それで今日のことがあって確信したんだ。お前は雪南ちゃんじゃない」
『ふ、ふふ……っ』
追究は終了。雪南は……いや、雪南のフリをした何者かの姿が陽炎に包まれて、変わっていく。戻っていく。そこにいたのは、
「ソフィー姉さんッ!」
「ごきげんよう、アンナと愉快なお友達の皆さん」
ソフィー京極。アンナの姉であり、俺達と同じ転生者。明確な敵であった。挨拶も早々に、彼女の足元に黒渦が現れる。また逃げるつもりかっ!
「っ、雪南はどうしたっ!!」
「ふふふっ、あの時言ったでしょう。目的は果たしたと」
「! 既にあの時にはっ」
「えぇ、久永雪南はこちらの手の内に」
こいつらが何故俺を消したのか疑問だった。だが、今の言動で繋がる。こちらへの再三の攻撃はすべて雪南を奪うためのものだったのだ。だが、分からねぇ! なんで雪南を狙ってんだよ!? その疑問に、ソフィーは邪悪な笑みを浮かべて答えた。
「『あの方』が彼女を欲したから、ですわ」
「えぇ、あなた方もご存じでしょう? わたくしの愛しい愛しいお方ーー井坂深紅郎先生を!!」
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『A』編完結。
物語は『W』編へと立ち戻る。
近々、ヒロインイラストが3枚あがります。
アンナ、雪南、椎の予定です。
目次に追加予定ですので、お楽しみに!