『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー井坂内科医院・side:雪南ーーーー
「おや、目が覚めましたか」
「っ」
その声にわたしは飛び起きます。案の定、目の前には井坂深紅郎がいました。瞬間思い出しました。アンナさんを送り出した後、アパートで待っていたわたしを訪ねてきたのが、この人でした。
「お迎えにあがりましたよ、お嬢さん」そんな風に紳士を装ってはいますが、この人の本性は知っている。この人は『怪物』です。
「気分はどうですか」
「……気分って…………うっ」
急に飛び起きたせいか、わたしはその場で吐いてしまいました。同時に頭が割れたかと錯覚するほどの頭痛が襲ってきて。
「う、うぅぅぅぅ……」
「お嬢さんはだいぶ小柄です。投薬も小児を基準に考えた方がよさそうだ」
「……投薬……?」
痛む頭で聞こえた物騒な単語。わたしが寝ている間に、何かの薬をわたしに投与したってことですか。この酷い頭痛はその副作用ということでしょう。
「体質を変化させる薬です。まだ試作品ですが、メモリとの適合率を上げるものです」
「……一体、なんのメモリですか」
「『テラー』ですよ」
「!?」
『テラー』。
『仮面ライダーW』の物語を知る者ならば知らぬ者はいない『ラスボス』園咲琉兵衛のもつゴールドメモリ。名の通り、それには『恐怖』の記憶を内包しており、青黒い泥のような『テラーフィールド』で対象の恐怖心を増幅させ、戦闘不能に陥らせる作中最強格のメモリです。実際、わたしも変身前の園咲琉兵衛に出会った時のその力の片鱗は十分すぎるくらい感じていて。
「以前、こちらに来院したときに血液を調べさせてもらいましたが、どうやらあなたは『ゴールドランク』のメモリとの適合率が異様にいいらしい。彼女の言う『転生特典』とやらの影響でしょう」
「転生のことまで……」
「えぇ、私には優秀な助手がいましてねぇ。彼女から君や君のお兄さんのこと、そして、彼女の双子の妹のことも聞きました。フフッ、実に興味深い。『ガイアメモリ』の可能性を感じますねぇ」
「…………」
今の言葉で察しがつきました。この人の言う助手とは、アンナさんの双子の姉だというソフィー。
なるほど。彼女が言っていた『あの方』とは、この男のことですね。確かにこの『怪物』ならば、風都を地獄に変えるのも容易です。原作では『仮面ライダーアクセル』に倒されましたが、参謀役として転生者がついているなら、状況が違う。ここからすぐに抜け出して、このことを兄さんたちに伝えなくては……。
「……っ」
「無理はしない方がいい。私は君に危害を加えるつもりはない。丁重に扱うことを約束しよう……今はね」
無理に起きようとするわたしに、井坂はそう言う。
わたしも彼にとっての実験材料。会話からすると恐らくわたしの身体で『テラー』を培養し、『テラー』がわたしの身を蝕み、殺すまで待つ。その後に力の増幅した『テラー』を手に入れる。そういう計画なのでしょう。
つまり、わたしの命は期限付き。
「ずいぶん落ち着いているようだ。何か心の支えでもあるのかな」
「……そう、ですね」
『怪物』に囚われているこの状況は普通なら怖くて仕方がない。けれど、恐れることはありません。だって、きっと兄さんがーーわたしの『ヒーロー』が助けに来てくれる、か……ら。
「ん…………」
「フフッ、おやすみなさい。お嬢さん」
史上最悪の「おやすみ」を聞きながら、わたしはまた意識を失った。
ーーーー風森ハイム201号室・side:遠治ーーーー
雪南を拐ったのは井坂深紅郎である。黒渦に消えたソフィーはそう言っていた。それを聞いた瞬間に、俺は部屋を飛び出そうとする。だが、
「遠治くんっ!」
「お兄さん!」
アンナと椎ちゃん、2人に止められた。
「離してくれ。雪南を助けに行く」
「あぁ、分かってる。だから、まずは作戦を練ろう。敵の戦力とこちらの戦力を再度確認してーー」
「うるせぇっ! そうしてる間に、雪南が……っ!」
つい声を荒げてしまう。俺の様子に、ビクリと椎ちゃんは身を震わせた。それが目に入って尚、俺は声を落とさない。
「井坂深紅郎の居場所なら分かってるんだ! 戦える力だってある! 今度こそ俺が雪南を助けなきゃならないんだよっ!」
「落ち着いて、お兄さんっ」
「落ち着きなさい! 遠治!」
「っ、落ち着いてられるかよっ」
「黙りなさい」
「っ」
ヒートアップする俺を、凍るような声色が刺してきた。声の主は冴子さん。俺のことを冷ややかな目で見てくる。
「井坂深紅郎。どんな人物か私は詳しく知らないけれど、向こうとこちらの戦力差も鑑みず突っ込むのは馬鹿のすることよ」
「っ、だがっ!」
「優先するべきはあの娘の救出。その気持ちはここにいる全員、同じ。ただ、相手は『ディガルコーポレーション』や『ミュージアム』をも相手取ろうとしているような化物。馬鹿がいたんじゃ救出率も、生存率も下がるでしょうね……あなた、あの娘を助けられれば、私達はどうなってもいいわけ?」
「っ、そんな、ことは……ない」
「なら、頭を使いなさい。そして、頼りなさい。あなたは1人じゃない」
そう言う冴子さんの表情はどこか優しげで。
……うん、そうだな。そうだった。
「ありがとう、冴子さん」
「……別に」
「あんた、本当にいい女だよ」
「なっ!?///」
危うく惚れちまうところだったぜ。そんな風に冗談を言う余裕が出てきた俺。改めて、アンナや椎ちゃん、若菜お嬢様に頭を下げ、冷静さを欠いていたことを謝る。勿論、彼女たちはすぐに許してくれた。ありがたい。
「さて、状況を整理しようか」
アンナが主体となり、全員で情報を共有することにした。
敵は恐らく4人。
井坂深紅郎。ソフィー。スキンヘッドの大男。『セバスチャン』と呼ばれていた者。
「井坂深紅郎のメモリは『ウェザー』。干ばつや大雨、竜巻、雷などあらゆる気象を操る強敵だ。この中だと戦えるのは、遠治くんしかいないだろう」
「分かった」
アンナが言うならそうなのだろう。俺は頷いた。
「ソフィー姉さんは私がどうにかする。『クサンティッペ』は女性にはほぼ効かないようだったしね。ただ、姿を見せない『セバスチャン』という人間は恐らく姉さんに貼り付いていると思う」
「なら、わたしがそいつを抑える」
手を上げたのは若菜お嬢様。アンナと組み、『セバスチャン』とソフィーを分断するというその案にはアンナも納得しているようだ。
「あとはスキンヘッドの大男だ。前回、『ホール』を使った彼は『仮面ライダー』が倒してくれた。だが、その前は『ラビリンス』というメモリを使っていたことから考えると、また新しいメモリを使ってくる可能性が高い」
「あの男は私が始末するわ。借りもあるから」
「あぁ、では、冴子さんにスキンヘッドはお願いしよう」
「あ、あの……」
ここまで言って、椎ちゃんが手を上げた。
「ボクは何をすればいいっ!」
「椎くんは我々が負けた時に退避する時間を稼いでほしい。君の『イマジナリー』ならそれができるはずだ」
「うん、分かった!」
役割は決まった。って、そうだ。
「すまん、アンナ」
「ん? なんだい、遠治くん」
「ひとつ、気になってることがある。今、敵は4人って言ったが、あいつもいた」
「あいつ?」
「あぁ……えっと」
一瞬、冴子さんを見る。でもまぁ、ここで言っとかねぇと駄目だよな。
「園咲霧彦もそっちサイドにいる可能性がある」
「!」
「…………」
俺の発言を受けて、俺たちの視線は冴子さんに集まった。一応、霧彦は戸籍上の彼女の夫だ。意識が集まるのも仕方がないだろう。そんな視線をものともせず、冴子さんは口を開いた。
「まぁ、話を聞く限り、可能性はあるでしょうね」
「……園咲霧彦と井坂深紅郎が手を組む。そうか……その発想はなかったよ。だが、以前の姉さんの襲撃の際に、遠治くんが会敵したのだからあり得る話か」
「現状、手は足りないのでしょう? なら、霧彦お兄様は『仮面ライダー』に任せるのはどうかしら?」
「うん。それがいいだろうね」
「じゃあ、そっちは俺から連絡しとく」
「あぁ、よろしく、遠治くん」
こうして役割が決まった。『ガイアメモリ』との適合率はメンタルや体調にも依存するらしい。決戦を明日の夕方に決め、彼女たちはそれぞれの部屋へと帰っていった。
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「………………静かだな」
部屋でポツリと呟く俺。いつもは誰かしら部屋に来ていたし、なにより雪南がいたから、久しぶりの1人だった。だからだろうか、少し寂しさを感じる。
この世界に転生した時は、雪南と2人ただただ『平穏』に過ごそう。
「そんな風に思ってたんだがなぁ」
椎ちゃんが俺にじゃれてきて、冴子さんと若菜お嬢様が喧嘩をして、雪南が毒を吐く。その様子をアンナが少し離れたところから見ている。そんな日常が、騒がしさが恋しい。
それも含めて俺の『平穏』になってしまったのだ。やっぱりお前が必要だよ、雪南。
「待ってろよ」
俺はそう1人呟き、目を閉じた。やがて、静かに意識がフェードアウトしていった。
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目次及び各ヒロイン登場or解決回あとがきにイラストを追加しました。
見て!! 見て!!!