『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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微ぐろ


第39話 Wに関わるな / みんなで一緒に

ーーーーside:椎ーーーー

 

 

『フェアリー』のメモリを挿した瞬間に、アンナちゃんから何かが飛び出した。小さい手のひらサイズの半透明な妖精。それが巨大な腕に、

 

 

ーースゥゥーー

『あ?』

 

「入ってった……?」

 

 

突然の出来事に、その人は攻撃を止めた。そして、また高笑いする。

 

 

『ハハハハッ! なんだぁ、敵わないと思って逃げやがったのかぁ? まぁ、そうだよなぁ……あの時邪魔しやがった『仮面ライダー』はいねぇ』

 

「……っ」

 

『『0758』ぃ、お前、見捨てられたなぁ! 仲間とか言われていた女に裏切られた気分はーーブシュンッーーあァ……?』

 

 

突然だった。巨大な腕から血が吹き出したんだ。さらに、その光景は広がっていく。腕から胸板へ、下半身の筋肉からも血が吹き出た。すぐに分かった。それがアンナちゃんがやったことだって。

 

 

『ぐ、うゥっ!?』

 

ーーガクンッーー

 

 

その人は膝から崩れ落ちた。

 

 

『裏切る訳がないだろう』

 

「っ、アンナちゃん……!」

 

 

目の前には再び妖精姿の小さなアンナちゃんがいた。

 

 

『おま、え……何をしたァ!』

 

『簡単なことさ。私のメモリ『フェアリー』の能力は『治療』だ。『マッスル』によって異常に発達した肉体、それを人間と同じ大きさに『治療』しようとする。その結果、メモリ同士の反発が起こる』

 

 

『強化アダプター』で肉体の膨張すら3倍になっている。それ故に反発も強くなる。これが『強化アダプター』の攻略法だよ。

アンナちゃんはそう言った。それにその人は笑う。

 

 

『は、ハハハッ! 上等だァ! なら、お前の『治療』を上回る膨張で『0758』を殴り殺す。それで俺の完全勝利だァ!』

 

『脳筋の発想だね。守るって決めたんだ。そんなことさせる訳がない。それに……』

 

 

アンナちゃんは不意にこちらへと視線を投げた。そして、笑う。

 

 

『椎くん』

 

「え……?」

 

『大丈夫。君ならーー』

ーースゥッーー

 

「……………………あ」

 

 

アンナちゃんが消える直前、ボクの耳元でポツリと呟いた。そして、また『マッスル』の腕へと消えてくアンナちゃん。

 

 

『俺が『0758』を殺すのが先か、お前が俺を『治療』し切るのが先か、勝負と行こうかァ!』

ーーググググッーー

 

ーーブシゥュッーー

 

『関係ねぇ! おらぁぁ!』

ーーブンッーー

 

「っ」

 

 

血を吹き出させながらも巨大な腕を奮ってくる『マッスル』。ボクは間一髪で避ける。スピードは遅いから、ボクでも避けられた。

アンナちゃんが『治療』し切ってくれるまで、ボクは逃げて時間を稼ぐ。それがボクにできることだ。

 

 

ーーブンッーー

 

ーーダッーー

 

ーーブンッーー

 

ーーダッーー

 

 

『フェアリー』の『治療』は脚にも回り、さらに移動速度も落ちてきてる。大丈夫、避けれてる。このまま!

 

 

『しゃらくせぇ……!! なら、これでどうだァァ!』

ーーググググッーーググググッーーググググッーー

 

「!」

 

 

『マッスル』は自ら肉体を収縮させた。一気に膨張させるためだってすぐに理解できた。収縮させるのは『治療』を受け入れるのと同じ行為だ。リスクがある分、溜められたらーー

 

 

『椎くん!』

 

 

アンナちゃんの声が響く。次の瞬間、

 

 

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴッーー

 

 

 

巨大な腕が襲いかかってきて、

 

 

ーーーードゴッーーーー

 

『っ、あ……』

 

 

ボクの身体は2つに折れた。

 

 

ーーーー回想ーーーー

 

 

「雪南ちゃんはさぁ、お兄さんのことなんで好きなの?」

 

「ぶっ!?」

 

 

お昼下がり。2人でお兄さんが作っていったケーキでパーティーをしている時、ボクはふっとそんな疑問を口にした。別に深い意味があるわけではなくて、なんとなく気になったんだ。飲んでいた紅茶を吹き出した雪南ちゃんは、咳き込みながら答える。

 

 

「けほっ、な、なんですか、いきなり」

 

「んー、ただなんとなく!」

 

「……ていうか、別にわたし、兄さんのこと好きでもなんでもないですから」

 

 

素直じゃない雪南ちゃんはわたしの言葉を目を反らしながら否定する。普段はフラットにお兄さん相手に毒を吐く雪南ちゃんだけど、ボクから見たら……まぁ、うん。

 

 

「はいはい。それで、なんで好きなの?」

 

「うぐっ……えっと……その……ほら、あれですよ、あれ」

 

 

ボクが聞くのを止めないことを察したみたいで、雪南ちゃんはもごもごと言葉にならない言葉で答えてきた。

 

 

「ぎ、義理とはいえ、兄妹ですから」

 

 

顔を伏せながらそう言われても説得力がないなぁ。

ジト目で彼女を見つめて言うと、雪南ちゃんは、

 

 

「わか、りません……いつの間にか……」

 

 

小さく呟いた。そして、続ける。懐かしむような表情で。

 

 

「わたし、親に捨てられたらしいんです。それで、物心ついたときには施設にいて……でも、ほら、わたし容姿はとてもいいじゃないですか。だから、大人からはそれなりにちやほやされてたんです」

 

「……それが気に入らなかったんでしょうね。小学校に入った頃、施設にいた少し年上の女の子がわたしを苛めるようになったんです。大人に分からないように、陰でコソコソと。学校では施設出身だからって腫れ物扱いで、施設に帰ればその子から苛められる。正直、辛かったです。死のうかと思ったくらいには」

 

 

そんな辛い過去を話す彼女の表情は、不思議なくらい穏やかだった。それは雪南ちゃんがその過去を既に乗り越えているのを感じさせた。

 

 

「一番酷かったのは、施設の使われてないトイレに連れてかれた時ですね。誰も来ない死角だったので、そこで殴られ、蹴られ……女の子の家来みたいな男の子も一緒になって、わたしに暴行してきて。そこに現れたのが……」

 

「お兄さん?」

 

「はい」

 

 

雪南ちゃんは軽く頷いて、笑う。

 

 

「ふふっ、すごかったですよ。女の子相手だっていうのに、背後からドロップキックをかます兄さんは」

 

「おぉ」

 

「その女の子を含めて4対1なのに、兄さんは止まりませんでしたね。囲まれても、羽交い締めにされても、馬乗りになられても……立ち上がって、わたしを守ってくれた。兄さんは、わたしの『ヒーロー』なんです」

 

 

彼女の表情と声でボクは気づく。雪南ちゃんはその時には既に恋に落ちていたのだと。

 

 

「そっかぁ、それはしょーがないねぇ」

 

「はい。しょーがないんです」

 

 

2人でしょーがないと言いながら、紅茶を飲む。その後、今度は雪南ちゃんが訊ねてくる。

 

 

「椎さんは兄さんに救ってもらってたんですよね」

 

「うん。前に話したけど、ボクは『財団』ってところで生体実験を受けてた。そこから解放してくれたのがお兄さん」

 

 

ボクと彼女は少し似ているのかもしれない。そんな風に思う。

 

 

「……椎さん、ひとつ聞いてもいいですか」

 

「なぁに?」

 

「椎さんは…………兄さんを独り占めしたいって思わないんですか?」

 

 

 

不意にそんな質問をしてくる雪南ちゃん。その表情は真剣なもので。

ま、その質問の意味はよーっく分かるよ。アンナちゃんに冴子さん、若菜ちゃんとお兄さんの周りには魅力的な女の人がたくさん集まってて、しかも、みんな、お兄さんのことが好きだ。だからこその質問なんだと思う。

けど、ボクの答えは決まってる。もう決まっている心の内をボクは口にした。

 

 

「ボクはみんなで一緒に幸せになれたらいいなって思ってるよ」

 

 

ボクだって色々考えた。雪南ちゃんに嫉妬したり、アンナちゃんに恐れ戦いたりした。その結果の答えだった。だってさ、

 

 

「ボク、お兄さんと同じくらい、風森ハイムのみんなが好きだからね! 勿論、雪南ちゃんも!!」

 

「…………」

 

「だからね! ボクにできることはぜんぶやる! そして、お兄さんみたいにいつかみんなを守れるようになるんだ!!」

 

 

ボクの答えを聞き、雪南ちゃんはなんですかそれ、と言いながらも笑ってくれた。そして、

 

 

「わたしも、椎さんのことは……嫌いじゃないですよ」

 

 

「私もだよ」

 

「「わぁ!?」」

 

 

いつの間にかアンナちゃんちゃんがボクたちの背後にいた。驚いて、2人の声が重なる。突然現れたアンナちゃんに、雪南ちゃんは怒る。そんな雪南ちゃんをかわしながら、アンナちゃんはボクにポツリと告げた。

 

 

「大丈夫。君ならできるよ」

 

 

 

ーーーーside:大男ーーーー

 

 

『椎くんっ!』

 

 

俺の頭の内側に声が響く。不愉快だぁ。けれど、俺の腕の先には真っ二つに折れた『0758』の身体があったから、この声への不快感もちっとはマシになった。

 

 

『ハッハッハッ! こんなに簡単に死んじまったぁぁ』

 

 

実験動物が歯向かいやがって! いっちょまえに、人間になったつもりだったのかぁ?

ともかくこれで憂さは晴れた。はぁぁ、せいせいしたぜ。

 

 

『おい! いい加減俺に入り込むの止めろぉ、うぜえんだよぉ!』

 

『…………」

 

 

俺の声に応えるように、そいつは消えた。そして、少し遠くに転がっていた女の身体が起き上がる。さぁ、次はこの女か。ソフィーから聞いてるが、こいつは『ヘル』っていう強いメモリを隠し持ってるらしい。それを真っ正面から潰してやったら……。

 

 

『気持ちがいいだろうなぁ……』

 

 

絶望した女の顔を想像しただけで、笑うのを我慢できねぇ。

 

 

「…………ねぇ、大男くん」

 

『あ?』

 

 

俺の想像を遮るように、女は声をかけてきた。見ると、女は指を指している。釣られてそちらを見ると、その先には『0758』の死体が転がっていた。

 

 

ーーザザッーー

 

『?』

 

 

一瞬、視界にノイズが走った。軽く目を擦ると、それはすぐに収まり、変わらない光景が続いている。そんな中、違和感を覚えた。その正体が何か分からず、ぐるりと見渡していると……。

 

 

『……あ?』

 

 

『0758』の上半身……右の指が動いていた。その光景を飲み込めないうちに、『0758』の下半身がムクリと立ち上がるのを目撃した。さらに、今度は上半身も動き、

 

 

ーーぐるんっーー

 

『ッ!?』

 

 

奴の首があり得ない回り方をして、こちらを『見た』。思わず息を飲む。

 

ーーザザッーー

 

 

次は耳に違和感。その後、

 

 

『痛いよ』

 

 

『0758』が喋り出しやがった。

 

 

『っ、な、なんだ、てめえ』

 

『い、いいた、いい、よ』

 

 

口の端から血を流しながら『0758』は千切れた上半身でこちらへと這い寄ってくる。下半身も躓きながらも、起き上がり、歩く。まるでホラーだ。

だが、俺は理解した。これは『0758』が使うメモリ『イマジナリー』の能力であると。多少能力が進化しているようだが、関係ねぇ。こいつのメモリはあくまで見せかけ。身体能力も大して上がらない雑魚メモリだ。

 

 

『おらぁっ!!』

ーーブンッーー

 

ーーベチャッーー

 

 

向かってくる身体を殴り、ミンチにしてやる。腕を生暖かい血と肉の感触が…………あ?

 

 

『おい……なんだ、これは』

 

 

おかしい。『イマジナリー』は見た目を変える能力だったはずだ。進化して音や声を聞かせられるようになったとしても、こんな『感触』まで操作できるメモリではなかった。じゃあ、なんだ、この人間を肉片に変えた時の感触は……?

 

 

ーーひたっーー

 

『あ?』

 

 

足首が掴まれる感覚。見ると、肉片にしたはずの『0758』の手首が俺の足首を掴んでいた。

 

 

『うぜぇっ!!』

ーーザザッーー

 

 

俺はその手首を踏み潰すために、脚を振り上げた。

 

 

ーーブチンッーー

 

『ぐがぁぁっ!?!?』

 

 

瞬間、振り上げたのとは逆の脚に激痛が走った。見れば、もう1つの手首が俺の指を引きちぎっていたのだ。バランスが崩れ、俺は尻餅をつく。

 

 

『く、くそっ!? なんなんだっ!!』

ーーザザッーー

 

 

さらに、

 

 

『が、ぐぅぅぅあッ!?!?』

 

ーーぐぢゅぐぢゅーー

 

 

俺の二の腕には穴が開いていて、そこを喰らう人の顎があった。気色の悪い音をたてながら、顎は俺の腕の穴を広げていく。

 

 

『く、くそっ!! 止めろっ!!』

 

 

ブンブンと振りほどこうとするが、振りほどけない。俺は顎を剥がすために、逆の手で自分の二の腕を殴った。顎はそのまま落ちる。これで大丈夫だ。そう思ったのも束の間で、次は横腹に激痛。肋骨が突き刺さっていた。

 

 

『っ、やメロッ! これも幻覚か何かなんだろうっ!!』

 

 

俺の声には誰も応えない。『イマジナリー』の能力だ。どうせ幻覚だ。俺はそう念じ続ける。だが、痛みはますます酷くなっていく。

 

 

ーーザザッーー

『あ……? なんだ……っ、ぐぉぉっ!?!?』

 

 

不意に音が消え、耳に激痛が走る。慌てて耳を触ると、何かが俺の耳の中に入り込もうとしていた。それを掴み、

 

 

『ぐ、あぁぁっ!!』

ーーずるんっーー

 

 

一気に引き抜くと、それは足の小指だった。小指が俺の鼓膜を破りやがったんだ。そして、その小指の先がこちらに向いて。

 

 

ーーザザッーー

 

『っ、あ、ぁぁぁッ!?!? い、いでぇぇっ!?!』

 

 

俺の眼球に突き刺さる。気が狂わんばかりの痛み。目が、耳が、腕が、脚が、身体中が痛い。痛い。痛くて、痛くてしかたねぇ。やめろ、やめろ、やめて、やめてくれ。

 

 

 

ーーーーザザッーーーー

 

 

 

ーーーーside:椎ーーーー

 

 

『はっ、はぁ……っ』

 

「…………動かなくなった。もういいだろう」

 

『う、うんっ」

 

 

アンナちゃんの言葉で、ボクはメモリを排出した。息切れしつつも、その人を見れば、変身は解けて、立ったまま気絶していた。

 

 

「…………死んじゃった、かな」

 

「いいや、生きてはいるよ。けれど、しばらくは幻覚に捕らわれたままだろう。どんな幻覚を見ているのかは疑問だがね」

 

 

アンナちゃんが調べてくれた情報によると、『イマジナリー』というメモリは感覚を支配する能力をもっているみたい。

ボクが実験体として引き出せたのは、視界情報と聴覚情報を操るだけ。そこから触覚、嗅覚、味覚。果ては痛覚までを支配する。

『大事な人を守りたい』という覚悟を決めて使うことで、『イマジナリー』は進化するだろう。アンナちゃんは以前、そう言っていた。それが今、使えたみたいだ。

覚悟を決めて使うことで『イマジナリー』は進化するだろう。アンナちゃんは以前、そう言っていた。それが今、使えたみたいだ。

 

 

「とにかく、よく頑張ったね、椎くん。君の勝ちだ」

 

「え、へへっ」

 

 

そう言ってアンナちゃんはボクの頭を撫でてくれる。優しい手つきだ。安心するぅ……。

けど、ずっとこうしてもいられない。その気持ちはアンナちゃんも同じようで、手を止めて、表情を引き締めた。

 

 

「さて、椎くん。少し休んだら皆に合流しよう。黒い渦に飲み込まれてしまった冴子さんも心配だし、姉さんと対峙してる2人も心配だ」

 

「うん。ボクもみんなを守るよ。そして、雪南ちゃんを取り戻すんだっ!」

 

「……あぁ、頼りにしてるよ」

 

 

 

ーーーーディガルコーポレーション屋上・side:冴子ーーーー

 

 

黒渦に飲まれ、飛ばされた先は『ディガルコーポレーション』の屋上だった。そして、目の前には見知った顔があった。

 

 

「やぁ、冴子。久しぶりだね」

 

「霧彦さん……」

 

 

彼は変わらない笑顔でそう言った。

 

 

ーーーーーーーー

 

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