『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

4 / 51
第4話 Eの邂逅 / 胎動

ーーーーーーーー

 

 

探偵を雇い、あの『ドーパント』を見つけ出す。

 

あの笑顔の義妹様が考えた案にしては、普通だなぁと思う。だから、俺は特に反対もせずにその案に乗ることにした。問題は依頼料だったが、雪南曰く恐らくそこは成功報酬でも大丈夫だろうとのこと。まぁ、この街については、俺よりもずっと雪南の方が詳しいだろうから信じよう。今はそれくらいしか宛もないのは事実。

というわけでーー

 

 

ーーーー鳴海探偵事務所ーーーー

 

 

 

「『黄金ミイラ』を探し出してほしいんです」

 

 

 

俺と雪南は鳴海探偵事務所にやって来ていた。俺達の座るソファの対面には、ベストスーツ姿の青年と少し幼さを残す女性。2人とも中々に若いように見えるが、彼らが『ガイアメモリ』が絡む事件に特化した探偵なのか。

 

 

「もしかして、あなたたちも例の『シュラウド』って怪物にお金を盗まれたの?」

 

「例の……ってことは他にも何件か依頼が来てるってことですか」

 

「あ、うん」

 

 

女性……たしか所長の鳴海亜樹子さんといったか、彼女によると、俺達の他にもお金やクレジットカード、キャッシュカードなどを盗まれたという人が数人、ここに依頼しているらしい。そして、もれなく全員が例の『シュラウド』という『ドーパント』を目撃しているという。

 

 

「それで~、お兄さん達はおいくらくらい盗られたんですか~?」

 

「おい、亜樹子!」

 

「うっさいわね! こちとら慈善事業じゃないのよ! ただで依頼を受けるわけにはいかないやろ!」

 

 

まぁ、そうだろうな。あの『シュラウド』を名乗る『ドーパント』に財産らしい財産を盗まれた結果、現状一文無しなのだ。探偵が職である以上、そんな人間の依頼を軽々しく受ける訳にはいかないだろう。想定どおりである。だから、俺は雪南に合図を出した。

 

 

「雪南」

 

「はい、兄さん……亜樹子さん、少々お耳を拝借しても?」

 

「え、あ、うん」

 

 

返事をした雪南は、こそっと鳴海さんの耳元に口を寄せる。ポソポソと雪南の口が動き、

 

 

「じゅっ!?!?!?」

 

 

鳴海さんが固まる。次の瞬間には、

 

 

「勿論、全身全霊でご依頼を受けさせていただきますぅぅ、ほら、翔太郎くん! お茶よ! 最高級のお茶でもてなさんかーい!!」

 

 

態度が軟化も軟化していた。俺に向かってピースをする雪南。流石は雪南。どうやら鳴海さんの性格をよく分かっているようだった。

そんな豹変ぶりに頭を抱える探偵、左翔太郎さんと不意に目が合う。

 

 

「……ん? ていうか、あんた、あの時の……?」

 

「ん?」

 

「ああ、いや、なんでもねぇ、忘れてくれ。俺の気のせいだ」

 

 

探偵である彼、左翔太郎さんの言葉に少し引っ掛かった。あの時って……? 俺、この人とあったことあったか?

 

 

「調査が進み次第連絡をするから、連絡先を教えてくれるか」

 

「あ、あぁ」

 

 

疑問を抱きつつも、俺は流れで携帯を取り出した、のだが。

 

 

「いえいえ、左さん、それには及びませんよ」

 

「「え?」」

 

 

連絡先を交換する寸前、雪南の言葉でシンクロする俺と左さん。

……何故だろう、嫌な予感がする。

 

 

「調査にはわたしたちも同行しますので」

 

「い、いや、依頼人を危険なことに巻き込むわけには……」

 

「いいですよね、所長さん」

 

「はい~、喜んでぇ!!」

 

 

強引に話を進める雪南と目が¥マークになっている鳴海さんに押し切られ、俺達は左さんの調査に同行することになってしまったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

俺たちは別のスーパーに来ていた。

 

 

「って、ここ、俺が怪物に会ったところじゃないですよ?」

 

「あぁ、ここでいいんだ」

 

 

左さんは携帯を操作しながら、そう答える。指の動きからして誰かとメールをしているっぽい。それにしてもこのご時世にまだガラケーを使ってるとは中々にレトロな人だなぁ。それはともかく、

 

 

「左さん、ここは俺が言ったスーパーとは反対方向にあるんですよ。犯人は現場に戻ると言いますし……」

 

「兄さん兄さん」

 

 

左さんに意見している途中、雪南がちょいちょいと口を挟んでくる。何かと聞き返すと、

 

 

「素人は黙っとれ」

 

 

中指を立てられた。えぇぇ……そこまで言わなくてもぉ……。

義妹の言葉に凹む俺に、左さんは苦笑しながら励ましてくれる。優しい。しゅき。

 

 

「まぁ、任せてくれよ。この街は俺の庭だ」

 

「ヒュー! 待ってましたぁ♡」

「庭?」

 

 

左さん曰く、彼はこの風都で育ったらしい。小さい頃からこの街で暮らし、この街に育てられたという。風都のことで知らないことはないさ。そう豪語した。

 

 

「…………素敵ですね」

 

「あー、なんだ。それに俺の相棒は優秀なんだ。相棒がここにいると言ったらーー」

 

 

『ハーッハッハッハッ!!』

 

 

「「!!」」

 

「ーーここにいるさ」

 

 

スーパーの屋根の上。そこに奴は、『黄金ミイラ』はいた。いつだかと同じだ。

 

 

「ビンゴ、だな」

 

「ヒュー! 流石はフィリップくんですぅ」

「雪南さん、落ち着いて。空気読んで」

 

「遠治さん、雪南ちゃん、ここから離れてくれ」

 

「あぁ、分かった」

 

 

妙なテンションの雪南を抱きかかえ、俺は走り出す。これ以上盗まれるものはないが、相手は『ドーパント』。危険なことに変わりはない。ただ、

 

 

「離してくださいっ! わたしは、わたしは、『W』の活躍を見なきゃいけないんですぅ!」

 

「はなせー!! はなせー!!」

 

 

俺の腕の中の怪物も中々に狂暴であった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

結果から言えば、『仮面ライダー』は現れた。そして、『黄金ミイラ』が撃破されたことで、俺の所持金やクレジット、キャッシュカードなど諸々が俺の元に返ってきた。しっかり『黄金ミイラ』を見つけてくれたことだし、鳴海探偵事務所への依頼料の支払いもたった今、終えた。

めでたしめでたし、である。

 

…………で、問題はここからだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「フフフフフ……」

 

「痛い痛いっ、脇腹をつねるな!」

 

 

スーパーから逃げてからご機嫌斜めで、ずっと俺に弱攻撃を仕掛けてくる義妹様。

 

 

「離せと言われて離さない兄さんが悪いです。だから、つねるなと言われても、わたしはつねり続けます」

 

「悪かったよ。でも、『ドーパント』は危険なんだろ? それに、まさか都合良く『仮面ライダー』が来るとは思わないだろっ」

 

「え? あ……あー」

 

「なんだよ?」

 

 

何か言いたげな雪南。何かを忘れていたという表情である。それを訊ねようとしてーー

 

 

 

「よ、よう」

 

 

 

声をかけられた。その声の主は俺の目の前にいた。男だ。目は窪み、頬はこけ、見るからに具合の悪そうな様子の男がいた。

 

 

「こ、こんにちは」

「……」

 

 

様子がおかしいことは分かったから、男を刺激しないように俺も雪南もペコリと頭を下げ、その場を離れようとする。すると、ガシッと腕を掴まれる。

 

 

「な、なんだ、あんた!?」

 

「てめぇの、てめぇのせいで…………っ」

 

「は? 人違いじゃーーっ!!」

 

「兄さんっ」

 

 

そこまで言って、思い至る。こいつ、雪南を狙ったロリコン野郎じゃねぇか!? な、なんでこんなところにいるんだ!? こいつ、『仮面ライダー』に倒されて、今は警察に捕まってるんじゃ……。

 

 

「てめぇのせいでッ!!!」

 

『コックローチ』

 

 

男は変貌を遂げた。再び『ゴキブリ人間』へと。

 

 

『てめ、ててて、てめぇのせいで、俺は逮捕されたァァ。俺の人生めちゃめちゃくちゃだあ』

 

「っ」

 

『てめぇの、せいいいだ』

 

 

明らかにおかしい。正気を失っているようだった。腕を掴む力はすごい力で、外せそうにはない。

 

 

「人のせいにするなよ。平穏に生きたいなら、そもそもそんなもの使うな。今からでも遅くない。『ガイアメモリ』なんて捨てろ。そうしたら通報はしないでやるよ」

 

『るるるさいっ』

 

 

ダメ元で説得しようとしても無駄なようだ。くそっ、こうなったら

 

 

「逃げろ、雪南っ!!」

 

「っ、だ、だめです。今、助けを……」

 

 

ーーガシッーー

 

 

瞬間、俺の腕が軽くなる。代わりに、雪南が『ゴキブリ人間』に腕を掴まれていた。

 

 

「おいッ!! やめろッ!!」

 

『ヒ、ヒヒヒ、ろりろり……すき……』

 

「ひ……っ」

 

 

奴は雪南を掴む手と逆の手で彼女の首を掴んだ。

 

 

『スススすすスきき』

 

「か…………は……っ」

 

「やめろッ!! てめぇッ!!」

ーーバキッーー

 

『ヒヒ、ひヒヒひひひ』

 

「くそっ」

 

 

全力で殴った。でも、『ゴキブリ人間』はびくともしない。その間にも奴の手を、雪南の首を絞めていく。

 

 

「に、さ……」

 

 

くそっ、なんでだっ、なんでこうなるっ!? 俺は、ただ家族と平穏に暮らしたいだけなのにっ!!

くそっ、くそっ、くそっ!!

 

 

ーードクンーー

 

 

……邪魔するなよ。

俺は今度こそ雪南を守らなきゃいけねぇんだ。

 

 

ーードクンーー

 

 

家族と幸せに生きるんだ。その邪魔をーー

 

 

「するなァァッ!!」

ーーブンッーー

 

 

 

『エターナル』

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

何が起こったのかはわからない。

けれど、気づいた時には、雪南は俺の腕の中にいた。気を失っているようではあるが、呼吸もしている。

 

 

「よかった……」

 

 

大きな息を吐く。そして、チラリとそいつを見る。『ゴキブリ人間』は元の姿に戻り、倒れている。泡を吹いて気絶しているようだ。さらに、その傍らには

 

 

「…………『ガイアメモリ』が」

 

 

壊れた『ガイアメモリ』が落ちていたのだった。

 

 

「なにが……起きてんだよ……」

 

 

ただの独り言だ。目の前の状況に混乱し、吐き出すために呟いた答えなど求めていない独り言のはずだった。だが、俺の言葉に答える者がいた。

 

 

「ハーッハッハッハッ!! 何が起きているか、教えてほしいかい?」

 

「っ」

 

 

振り返る。そこにいたのは女だった。

ブロンドのショートヘア。切れ長で翡翠色をした目。身長は俺よりやや低いくらいだが、ピンとした姿勢とモデルのようなスレンダーさのせいか俺と大して変わらないように感じる。来ているスーツの雰囲気もあるだろう。声には聞き覚えがない。だが、その人を馬鹿にしたような笑い方には覚えがあった。

 

 

「お前……なんで……『仮面ライダー』にやられたんじゃ……?」

 

「質問が多いね。結構結構。日常になんの疑問をもたぬ者よりもよっぽど好感がもてる」

 

「……お前、何者だ」

 

「一度、名乗ったはずだが、そうだね。君、個人に挨拶をするのは初めてだったね」

 

 

ペコリとお辞儀をし、彼女は名乗った。

 

 

 

「私は『シュラウド』」

 

「君たちと同じ『転生者』さ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

これが始まりだ。

俺と『エターナル』がこの世界を脅かす存在になる、その『始まりの夜(ビギンズナイト)』。

 

 

ーーーーーーーー




久永遠治
……仮面ライダーの正体はまだ知らない。
久永雪南
……推しはフィリップ。すんごい会いたい。

『E』編終了。
次回より新エピソードが始まります。

次回、奴が来る! 奴とは……?

  • 園崎霧彦
  • 井坂深紅郎
  • 加頭順
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。