『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第40話 Wに関わるな / 贖罪と心中

ーーーー回想ーーーー

 

 

とある土曜日。私はアパートの人達とショッピングモールに来ていた。発起人は雪南と椎。それに付き合う形で、彼やアンナ。そして、私も同行していた。正直、私は乗り気ではなかったのだけれど、彼に誘われてしまったのだから仕方がない。というのに……。

 

 

「ねぇねぇ! 今度はあっちのお店いこ!」

 

「いいえ、兄さんはあちらの店舗に興味があるはずです」

 

 

「はぁぁ」

 

 

結局、彼の隣には終始あの2人がいる。分かっていたことではあるけれど、ため息が出てしまう。そんな私の様子を見ていたのか、話しかけてくる人が1人。

 

 

「憂鬱そうだね」

 

「……ご機嫌でないことは確かね」

 

 

私の答えを聞いて、アンナは困ったように笑う。そして、何かを思いついたようで、彼やその両脇を固める2人に声をかけた。

 

 

「3人とも! 私達は少し珈琲屋で休憩しているよ!」

 

「ち、ちょっと」

 

「いいからいいから。たまには大人同士の話をしようじゃないか」

 

 

~~~~~~~~

 

 

「苦い……」

 

「どこが大人よ」

 

 

珈琲をすすりながら、カップに角砂糖を3個入れる彼女に突っ込む。珈琲が飲める=大人ではないけれど、それでもたくさん砂糖を入れている姿は子供にも見える。

 

 

「…………よし」

 

「それで? なんでわざわざ私を連れ出したわけ?」

 

「ん。そうだね……なんとなく冴子さんが寂しそうに見えたから」

 

 

そんな風に彼女は言う。

……寂しい、ね。

 

 

「あぁ、どこか一線を引いているとも言えるかな」

 

「それはそうでしょう。私はあの子たちよりもだいぶ歳上よ」

 

 

大人としてはあのテンションやノリに付いていく方がおかしい。そんな風に私は続けた。その返答に、また彼女は困ったような笑顔を見せ、言う。

 

 

「でも、遠治くんのこと、好きなんだろう」

 

「…………そうね。好ましく思っているのは事実だわ……って、なによその顔」

 

「失礼。否定しないのが意外だったんだ」

 

「大人同士、ここで意地を張っても仕方ないと思っただけよ」

 

 

彼ーー久永遠治が好き。それは本当のこと。

けれど、同時に……。

 

 

「相応しくないとも思ってるわ」

 

「…………なぜ?」

 

「私は……『園咲』の人間よ。こうして家を出たところで『園咲』としてやってきた過去からは逃れられない」

 

「…………」

 

「あなたたちを見ていて、私は……自分のしてきたことを改めて思い知った。人道に反した、行いを……」

 

 

彼や雪南、椎、アンナを見ていて、その思いは強くなる一方だった。彼らは闇を生きてきた私には眩しすぎる。その上で出した結論は……。

 

 

「彼の隣に立つ人は、彼女たちのようなキラキラした子がいい。ううん、そうあるべきなのよ」

 

「冴子さん……」

 

 

私は遠くからそれを見ていられればいい。そう思う。だけど、分かってもいる。そのためには私は自分の罪を償わなくてはならない。

 

 

「自首しようと思ってるわ」

 

「!」

 

「私のやってきたことを全て白日の元に曝す。その覚悟はある」

 

 

ただ、それをする前に、もう1つやらなくてはならないことがある。私が『(園咲)』に引き込んだ『彼』を引き戻さなくてはならない。それが私のーー『彼』の妻としての最後の務めでしょうから。

 

 

ーーーーディガルコーポレーション屋上・side:冴子ーーーー

 

 

「霧彦さん……貴方、あの女に手を貸しているのね」

 

「あぁ。それもこれもすべて君を取り戻すためさ」

 

 

そう言って、貼り付けられたような笑みを浮かべる彼。キザで格好つけの彼らしいといえばそれまで。けれど、違和感はあった。

 

 

「あなたがいつも巻いていたスカーフ。あれ、どうしたのかしら」

 

「? そんなもの、些末なことだよ、冴子」

 

「貴方、本当に霧彦さん?」

 

 

短い間とはいえ誰よりも私の側にいた男。理屈ではなく、感覚で彼が『違う』ことが分かった。だからこその問い。それに、

 

 

「…………君を取り戻す」

 

『ナスカ アップグレード』

 

 

彼は答えず、代わりにメモリを起動する。『ガイアドライバー』を使わず、彼は手の甲の生体コネクタへとメモリを挿した。瞬間、幾何学模様の光が霧彦さんを包み、『ナスカ』へと変貌を遂げた。ただし、その姿は以前の青い『ナスカ』ではなく。

 

 

「黒い……『ナスカ』……っ」

 

『…………』

 

 

見たことも聞いたこともない姿だった。さらに、

 

 

ーーブゥゥンーー

『…………』

 

「! 一瞬で背後にっ」

 

 

目の前の彼に集中していたはず。それでも背後に回られた。レベル2の『超高速』とは比べ物にならないスピードで、『タブー』の力を変身せずとも引き出せるようになった私でも追うことができなかった。

ただ、背後をとって攻撃してこないということは……。

 

 

『これで分かってもらえたかな。私と君の間にある力の差を』

 

「……っ」

『タブー』

 

ーーガシッーー

『させると思うかい?』

 

「っ」

 

 

『タブー』を使おうとした瞬間に、その手を掴まれる。私の手を掴む彼の力は異様に強くて、振りほどこうにも振りほどけない。

 

 

『無駄さ。君になす術はない』

 

「…………分かったわ」

 

 

私はそう言って抵抗する力を緩める。彼もそれで私が諦めたと思ったんでしょう、彼は変身を解いた。

 

 

「分かってもらえたようで何よりだ」

 

「ええ、そうーーねっ!!」

ーーブンッーー

 

ーーガシッーー

 

 

掴まれているのと反対の腕で、『ナスカ』へと手を伸ばす。けれど、読まれていたのか両手首を完全に拘束されてしまった。

 

 

「フフッ、君がそう来ることを私が予想していないとでも?」

 

「えぇっ」

ーーズズズッーー

 

「!?」

 

 

ーービュンッーー

 

 

彼の眼前へと放った光球は、彼の頬を掠めた。その瞬間、拘束が緩くなる。私は彼の持つ『ナスカ』メモリを蹴り飛ばした。同時に飛び付き、『ナスカ』メモリを奪い取った。そして、メモリの上部に取り付けられていた『それ』を引き抜く。

 

 

「なるほど。狙いは『強化アダプター』か」

 

「話に聞いていたわ。メモリに装着し、その性能を引き出す『強化アダプター』。これを奪えば、貴方との力の差は逆転する」

 

「…………流石は冴子。聡い人だ」

 

「どうする? これで貴方の勝ち筋はなくなったわ」

 

 

勝利を確信する。ここからは交渉ね。彼の目的は私。私が彼の元へ戻れば、きっとソフィーという女の味方になることはないはず。

……その後、彼とちゃんと話しましょう。私の思いと彼への感謝を。そして、お別ーー

 

 

『だが、ワタシには及ばない』

 

 

霧彦さんの声がした。それは彼からではなくて、私の手の中のメモリから聞こえてきた。さらに、メモリが蠢く。

 

 

ーーウゾゾゾッーー

 

「な、なにっ!?」

 

 

見れば掌内のメモリから触手のようなものがウネウネと、私の指を這っていた。

 

 

「っ」

 

 

あまりに気持ちの悪い感覚に思わずメモリを投げ捨てた。ビルの床に転がったメモリはその触手を蠢かせ、霧彦さんの足元へ。そして、彼の足を登って、やがて彼の肩の上へと辿り着いた。

 

 

『まったく、投げ捨てるなんて酷いじゃないか』

 

「っ、なによ、それ……」

 

 

メモリから声。それに合わせて、霧彦さんの口も動く。それはまるで腹話術のようだった。さっきまでの違和感と目の前の光景が噛み合い、嫌な結論を弾き出す。けれど、そんなのーー

 

 

『ワタシはね、冴子。キミに興味があるんだ。この『園咲霧彦』が愛した女にね』

 

「お前は……なんなのよ」

 

 

 

『ワタシは『パラサイト』。『ナスカ』メモリに寄生し、使用者の人格を乗っ取る。そんなメモリだよ』

 

 

 

メモリが意思をもつ? なによ、それ。私の困惑を感じ取ったのか、『そいつ』は一度笑った後、こう言った。

 

 

『園咲霧彦の人格はワタシが喰らった。彼はもういない』

 

「っ」

 

『種明かしも済んだことだし、今度は容赦はしないよ。手足の1本でも切り落として連れていこうか』

 

 

『パラサーー『ナスカ』ーーイト』

 

 

『そいつ』は霧彦さんの身体に入っていく。そして、またも黒い『ナスカ』に変わった。

 

 

『『強化アダプター』は奪われてしまったが、『ナスカ』の性能はワタシが引き出してやればいい』

 

「………………彼の身体から出ていきなさい」

『タブー アップグレード』

 

 

『ガイアドライバー』にアップグレードした『タブー』を挿す。私の姿も変わる。いつもの『タブー』の姿に加えて、背中からは蝶のような羽根が現れている。

 

 

『よい姿だね。実に美しいよ、冴子』

 

『名前で呼ぶなっ!』

ーーズズズッーー

ーーズズズッーー

ーーズズズッーー

ーーズズズッーー

 

ーービュンッーー

 

 

羽根から出現した4発の光弾を同時に放つ。エネルギー密度も光弾の速度も今までとは違う。それが黒い『ナスカ』へと向かい、爆発した。熱により、視界が歪む。

 

 

『やった……?』

 

『いいや』

 

『っ』

 

 

またも背後からの声。そこには黒い『ナスカ』がいて。

 

 

ーーザンッーー

 

『くっ!?』

 

 

振り返る前に剣で切り付けられる。咄嗟に体を捻ったから、傷は浅い。けれど、思っていたよりもずっと『ナスカ』のスピードが速い。なら、

 

 

ーーズズズッーー

ーーズズズッーー

ーーズズズッーー

 

 

光弾を展開し、その場に留まらせる。距離を離した状態で当たらないのは分かった。切るために近づいてきた時に叩き込めばいい。

 

 

『ククッ、身体から出ていけ、ね。ワタシを捨てた女が言えた義理ではないね』

 

『……否定はしないわ』

 

 

私は彼を捨てた。その事実は変わらない。

けれど、私は『園咲霧彦』という人物を知っているから。

 

 

『ねぇ、霧彦さん』

 

『?』

 

『貴方いつか言っていたわよね。風都を今よりももっと素敵な街にしたいって』

 

『フッ、思い出話かい? さっきも言ったが、『園咲霧彦』の人格はーー』

 

『あの時は何も感じなかったわ。けれど、今なら少しは理解できる、貴方の理想を』

 

 

この街には人がいる。駒としか思っていなかったすべての人達に感情があって、思いがあって、大切な人がいる。ズルい人間も悪い人間もいて、そんななかで素敵な人たちの輝きが光って見える。

彼らに迫る『闇』は祓わなくてはならない。それが『園咲冴子』の贖罪だから。だからまずはーー

 

 

『霧彦さんを救い出す』

 

 

彼は私が『闇』に引き入れた。だから、まずは彼を『闇』から引っ張り出すの! 『光』へと引き戻すのよっ!

 

 

『どうやってだい? 何度も言っているが『彼』の人格は既にワタシが喰らったんだ。もういないのさ。ワタシを倒したところで、残るのは人格の消えた空っぽなーー』

ーーゾワッーー

 

『ーーな!?』

 

 

語りで誤魔化していたのだけれど、どうやら気づかれてしまったようね。隠しても仕方がない。私は背に作り出したそれを展開した。

 

 

ーーズズズッーーズズズッーーズズズッーーズズズッーー

ーーズズズッーーズズズッーーズズズッーーズズズッーー

ーーズズズッーーズズズッーーズズズッーーズズズッーー

ーーズズズッーーズズズッーーズズズッーーズズズッーー

ーーズズズッーーズズズッーーズズズッーーズズズッーー

 

 

『いつの間にっ!?』

 

 

語りを囮に増やした無数の光弾。超スピードには避けられないほどの広範囲攻撃で対処をすればいい。確実に倒すために、さらに光弾を増やす。まだ、まだよっ!

 

 

『させるかっ!』

ーービュンッーー

 

 

被弾覚悟で『そいつ』は懐に入ってきた。避ける間もなく、『ナスカ』の持つ剣は、私の腹を完全に貫いた。『ドーパント』になっていても分かる。傷付いてはいけない部分が傷付いた感覚。

…………あぁ、これは致命傷ね。でも、

 

 

ーーガシッーー

 

『なっ!?』

 

 

『捕まえた』

 

 

『ナスカ』の腕を掴みながら、増やした光弾を1つに収束させていく。同時に、私の『ドライバー』と『ナスカ』の肉体を同調させる。これでメモリの正確な位置が見えた。

アンナから聞いていた、『ドーパント』でも相手のメモリを壊せる方法。体内のメモリを的確に撃ち抜けば、彼の身体を傷付けずにメモリだけを破壊できるはず!

 

 

『離せっ!!』

ーーガンッーーガンッーー

 

『ふ、んっ……離すわけが、ない、でしょう……っ』

 

 

掴まれた腕とは反対の腕で、私を殴る『そいつ』。それでも離さない。

 

 

『止めろっ! せっかく人格を奪い取れたんだッ! ワタシはまだーー』

ーーブンッーー

 

 

渾身の一撃を、私の顔面に叩き込もうとしてくる。まだ、耐えなきゃ……!

 

 

ーービタッーー

 

『え…………?』

 

 

『ナスカ』の拳が止まった。それは『そいつ』にとっても予想外のことだったらしく、なんで動かねぇと騒いでいる。

けれど、私にはその理由が見えていた。『ナスカ』の内側にいる『彼』の格好つけの笑顔が見えていた。

 

 

 

『………………本当に、キザな男』

 

ーーキュゥゥゥゥンッーー

 

 

 

ーーバシュンッーー

 

 

 

ーーーーside:??ーーーー

 

 

ディガルコーポレーションの屋上には、2人の人間が倒れていました。

1人は園咲霧彦。傍らには割れた『ナスカ』メモリと粉々に砕けた低ランクのメモリが落ちています。どうやら息はあるようですが、問題は……。

 

 

「彼女の方でしょう」

 

 

園咲冴子。彼女の腹には穴が空き、大量の血が流れ出していました。明らかに致命傷。ですが、『タブー』で生命力が多少上がっていたようで、辛うじて生きています。

 

 

「『禁忌』……本来死んでいる者を現世に引き留める。それもまた『禁忌』ですね」

 

 

死人の私が言うのもおかしな話ですが。

しかし、なんにせよ助かりました。このまま彼女を失う訳にはいきません。彼女を静かに抱きかかえる。

彼女が死んでしまったら……。

 

 

 

「私、ショックですから」

 

 

 

ーーーーーーーー




『パラサイト』の案は森熊ノ助様からいただきました。
ありがとうございます。

ちなみに、R版の1話にイラストが追加されているので、見て!
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