『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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『B』編始まります。
溜め回です。


第42話 幕間B / 問答・霧

ーーーー園咲邸前・side:若菜ーーーー

 

 

「大丈夫かい、若菜ちゃん」

 

「…………えぇ」

 

 

わたしに付き添うと言った霧彦お兄様に頷いた。目の前には見慣れた我が家の門。けれど、いつもよりも大きく見える。それだけ気が重いのだ。

 

 

「震えているよ」

 

「あら、それはお兄様も同じでしょう」

 

「……まぁね」

 

 

わたしにとってはなんてことはない帰宅。お姉様やお兄様とは違い、ちょくちょく帰っているから、変なプレッシャーはないはずなのだけど。

 

 

「…………気が重い」

 

「……そう、だね」

 

 

あのお父様に伝えなくてはならないことがたくさんあるのだから、仕方がない。特に良くない話ばかりで。それでも話すのはわたしでなくてはならないと思ったから。

 

 

「行くわよ、お兄様」

 

 

わたしは家の門を開けた。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「それで話とは何かね、若菜」

 

 

大広間にて。いつもの席に座り、ミックを撫でながらお父様は切り出した。

 

 

「お、お父様っ、実はーー」

 

『そこにいる、霧彦くんと関係がある話なのかな』

 

「っ」

 

 

先制される。いつものわたしに対する雰囲気ではなく、お兄様へと刺すような視線を向けたお父様。瞬間、霧彦お兄様の身体が震え出す。

一瞥されただけで人間の『恐怖』を倍増させ、支配することができる。それがお父様のメモリ『テラー』の能力だと、アンナは言っていた。わたしは体験したことがなかったけれど、これが……っ!

 

 

「っ、お父様! 止めてくださいっ」

 

「ふむ」

 

「っ、はっ、はぁ……っ」

 

 

慌てて制止すると、お父様は視線を反らしてくれた。見ると霧彦お兄様の震えは止まっている。そこから表情を変え、静かな表情でこちらに向き直るお父様。

 

 

「さて、若菜。話を聞こうか」

 

「…………はい。今日、お父様にお話ししたいのは、井坂深紅郎という男、そして、『ソフィー』という女についてです」

 

 

わたしはそれぞれの外見の特徴と所有メモリについて、話をした。それからその2人がお父様の『テラー』を狙っているということも。それを聞いたお父様は、ミックを撫でるのを止める。

 

 

「私のメモリを狙う者、ね」

 

「はい、お父様。実際に、わたしたちはその者たちと戦いましたが、歯が立たず……っ」

 

 

思わず強く握った拳から血が流れる。あそこで井坂が引かなければ、わたしたちは恐らく全滅していた。それほどまでに力の差はあって。

 

 

「それで? 若菜はその2人に気をつけろと言いにきてくれたのかな」

 

「……はい」

 

「そうか。それは助かったよ、気をつけるとしよう」

 

 

そう言って、お父様は静かに笑う。それから、疲れているようだ。少し屋敷で休みなさいと言ってくれた。

 

 

「えぇと……」

 

「構わないよ。若菜ちゃんも疲れているだろうし、お言葉に甘えるといいさ」

 

「でも……」

 

「大丈夫」

 

 

いつものキザな笑顔で、霧彦お兄様はそう言った。不安はあるけれど、本人が大丈夫というから、わたしはそれに頷いた。ただ、一応お父様に向けて一言だけ告げて、わたしは大広間を出た。

 

 

「霧彦お兄様を殺さないでくださいね」

 

 

~~~~~~~~

 

 

「さて、若菜にああ言われてしまったからね。答えによっては考えていたのだが」

 

 

園咲琉兵衛はそう言って徐に立ち上がると、窓際へと歩を進める。霧彦はそんな彼から目を離すことは決してできなかった。静かだが、かなりの重圧を放つ相手。抵抗の術を持たない彼からしたら、一挙手一投足が死に直結するのだから。

 

 

「いくつか聞こう」

 

「はい……っ」

 

「まず、君はなぜここしばらく姿を眩ましていたのかな」

 

「……はい。冴子がこの屋敷を去った後、私は彼女の後を追いました。ですが、連れ戻せず。その直後に、先ほど話にあったソフィーに声をかけられたんです。冴子を救いたくはないか、と」

 

 

その後は記憶が朧気であることや『パラサイト』というメモリで、人格を蝕まれていたことを正直に話す霧彦。話を聞き終わると、少しの沈黙の後、琉兵衛は口を開く。

 

 

「…………では、もうひとつ聞く。冴子はどうしたのかな」

 

「っ」

 

 

質問をしてきた彼の顔は窓の外に向いており、その表情は見えない。けれど、霧彦は本能的に感じ取っていた。答えを間違えば死ぬ、と。

 

 

「冴子は……分かりません。私を救うために……」

 

「そうか」

 

 

またも沈黙。

 

 

「冴子を守る。そう言ったのは誰だったか」

 

「っ、返す言葉もありません」

 

「…………君は婿失格だね」

 

「っ」

 

「さぁ、ここから立ち去るといい。君にはもうこの屋敷に立ち入る資格はない」

 

 

今の霧彦には何を言い返すこともできなかった。琉兵衛の顔を見ずに霧彦は背を向け、大広間を出た。彼の放つ『恐怖』を感じていたわけではない。冴子を守れなかった自分は彼の顔を見る資格さえもない。そう彼自身が感じていたからだ。

 

 

 

ーーーー風森ハイム202号室・side:アンナーーーー

 

 

「それでむざむざ帰ってきたのかい?」

 

 

園咲邸から帰ってきた霧彦くんに、私はベッドから身体を起こしてそんな風に返した。棘のある言い方だが、返す言葉もない。彼は薄く笑いながらも力なくそう言う。

 

 

「……失礼。少し気が立っていた」

 

「いいや、君の気持ちも分からなくはない」

 

「私自身こうだからね。君を責める資格はないよ」

 

「…………また、資格か」

 

「?」

 

「いいや、気にしないでくれたまえ。こちらの話さ」

 

 

霧彦くんはポツリと呟く。

 

 

「ともかく園咲琉兵衛からの協力は得られそうにない。特に私相手だと交渉の余地はなさそうだった」

 

「そうか。それは残念だ」

 

 

『ヘル』の副作用だろう。私の体力・精神力はともにかなり落ちており、こうして話せるようになったのもここ数日のこと。

椎くんもかなり水を飲んでしまっていたが、無事持ち直し、あとは意識の回復を待つだけ。現在は警察病院に入院している。

冴子さんは霧彦くんと戦った後に行方不明だし、若菜くんの『ガイアドライバー』は破損して戦えない。それは『ナスカ』を失った霧彦くんも同じだろう。

ソフィー姉さんと井坂深紅郎を相手にするには、圧倒的に戦力が足りないのだ。遠治くんは園咲琉兵衛に気に入られているという話だし、呉越同舟で彼を味方にできたらと思ったのだけれど……こればかりは仕方がないだろう。

 

 

「……彼は?」

 

「まだ……」

 

 

頼りの遠治くんはまだ起きない。『フェアリー』で治療を試みたいが、流石に体力の落ちている今、使うのは危険だ。ミイラ取りがミイラになってしまっては意味がないからね。

 

 

「彼の回復力に賭けるしかないという訳だね」

 

「あぁ」

 

 

沈黙。だから、空いた思考にふと余計な考えが浮かぶ。遠慮しても仕方がない。だから、私は口を開いた。

 

 

「……それにしても霧彦くんは……その、遠治くんのこと……」

 

「嫌ってはいるさ」

 

 

歯切れの悪い質問。内容を察して、彼はそう答える。即答だった。その続きを彼は滔々と話す。

 

 

「彼が冴子の心を奪ったのは事実。けれど、それは私が至らなかったからだよ。それに……」

 

「それに?」

 

「私は1度死んだ身だからね。死人に口なし、だ」

 

 

彼は微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それから2日ほどで私の体力、精神力はある程度回復した。椎くんも後遺症もなく、意識を取り戻し、退院し、アパートへと戻ってきてくれた。

椎くんが見守っている中で、私は『フェアリー』を使い、遠治くんの精神へと入り込む……はずだったのに、弾かれてしまう。それが何を意味するのかは分からなくて。だから、やることは同じ。遠治くん自身を信じるってだけ。

 

………………。

 

それからしばらく動きがなかった。

一般的な『ドーパント』事件は起こっていたようだが、井坂の介入が暗躍する事件は起きていなかった。ソフィー姉さんが何かを企んでいるのは確実だ。けれど、それに関する情報もない。

だから、私と椎くんは、住む場所のない霧彦くんに、アパートの管理と遠治くんの身の回りの世話を任せて、情報を収集することにした。

私は『シュラウド』とともに動くことに。

椎くんも家事手伝いとして『鳴海探偵事務所』へと短期間のバイトに出ることにした。

 

結論から言うと、この情報収集は実を結んだ。

原作にもある『とある事件』へと辿り着いたのだった。

 

 

ーーーーーーーー




R版も着々と更新しております。
ぜひに。

どうしても本編がシリアスになるので、どこかでバランスをとりたいなぁ(遠い目)
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