『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
溜め回です。
ーーーー園咲邸前・side:若菜ーーーー
「大丈夫かい、若菜ちゃん」
「…………えぇ」
わたしに付き添うと言った霧彦お兄様に頷いた。目の前には見慣れた我が家の門。けれど、いつもよりも大きく見える。それだけ気が重いのだ。
「震えているよ」
「あら、それはお兄様も同じでしょう」
「……まぁね」
わたしにとってはなんてことはない帰宅。お姉様やお兄様とは違い、ちょくちょく帰っているから、変なプレッシャーはないはずなのだけど。
「…………気が重い」
「……そう、だね」
あのお父様に伝えなくてはならないことがたくさんあるのだから、仕方がない。特に良くない話ばかりで。それでも話すのはわたしでなくてはならないと思ったから。
「行くわよ、お兄様」
わたしは家の門を開けた。
~~~~~~~~
「それで話とは何かね、若菜」
大広間にて。いつもの席に座り、ミックを撫でながらお父様は切り出した。
「お、お父様っ、実はーー」
『そこにいる、霧彦くんと関係がある話なのかな』
「っ」
先制される。いつものわたしに対する雰囲気ではなく、お兄様へと刺すような視線を向けたお父様。瞬間、霧彦お兄様の身体が震え出す。
一瞥されただけで人間の『恐怖』を倍増させ、支配することができる。それがお父様のメモリ『テラー』の能力だと、アンナは言っていた。わたしは体験したことがなかったけれど、これが……っ!
「っ、お父様! 止めてくださいっ」
「ふむ」
「っ、はっ、はぁ……っ」
慌てて制止すると、お父様は視線を反らしてくれた。見ると霧彦お兄様の震えは止まっている。そこから表情を変え、静かな表情でこちらに向き直るお父様。
「さて、若菜。話を聞こうか」
「…………はい。今日、お父様にお話ししたいのは、井坂深紅郎という男、そして、『ソフィー』という女についてです」
わたしはそれぞれの外見の特徴と所有メモリについて、話をした。それからその2人がお父様の『テラー』を狙っているということも。それを聞いたお父様は、ミックを撫でるのを止める。
「私のメモリを狙う者、ね」
「はい、お父様。実際に、わたしたちはその者たちと戦いましたが、歯が立たず……っ」
思わず強く握った拳から血が流れる。あそこで井坂が引かなければ、わたしたちは恐らく全滅していた。それほどまでに力の差はあって。
「それで? 若菜はその2人に気をつけろと言いにきてくれたのかな」
「……はい」
「そうか。それは助かったよ、気をつけるとしよう」
そう言って、お父様は静かに笑う。それから、疲れているようだ。少し屋敷で休みなさいと言ってくれた。
「えぇと……」
「構わないよ。若菜ちゃんも疲れているだろうし、お言葉に甘えるといいさ」
「でも……」
「大丈夫」
いつものキザな笑顔で、霧彦お兄様はそう言った。不安はあるけれど、本人が大丈夫というから、わたしはそれに頷いた。ただ、一応お父様に向けて一言だけ告げて、わたしは大広間を出た。
「霧彦お兄様を殺さないでくださいね」
~~~~~~~~
「さて、若菜にああ言われてしまったからね。答えによっては考えていたのだが」
園咲琉兵衛はそう言って徐に立ち上がると、窓際へと歩を進める。霧彦はそんな彼から目を離すことは決してできなかった。静かだが、かなりの重圧を放つ相手。抵抗の術を持たない彼からしたら、一挙手一投足が死に直結するのだから。
「いくつか聞こう」
「はい……っ」
「まず、君はなぜここしばらく姿を眩ましていたのかな」
「……はい。冴子がこの屋敷を去った後、私は彼女の後を追いました。ですが、連れ戻せず。その直後に、先ほど話にあったソフィーに声をかけられたんです。冴子を救いたくはないか、と」
その後は記憶が朧気であることや『パラサイト』というメモリで、人格を蝕まれていたことを正直に話す霧彦。話を聞き終わると、少しの沈黙の後、琉兵衛は口を開く。
「…………では、もうひとつ聞く。冴子はどうしたのかな」
「っ」
質問をしてきた彼の顔は窓の外に向いており、その表情は見えない。けれど、霧彦は本能的に感じ取っていた。答えを間違えば死ぬ、と。
「冴子は……分かりません。私を救うために……」
「そうか」
またも沈黙。
「冴子を守る。そう言ったのは誰だったか」
「っ、返す言葉もありません」
「…………君は婿失格だね」
「っ」
「さぁ、ここから立ち去るといい。君にはもうこの屋敷に立ち入る資格はない」
今の霧彦には何を言い返すこともできなかった。琉兵衛の顔を見ずに霧彦は背を向け、大広間を出た。彼の放つ『恐怖』を感じていたわけではない。冴子を守れなかった自分は彼の顔を見る資格さえもない。そう彼自身が感じていたからだ。
ーーーー風森ハイム202号室・side:アンナーーーー
「それでむざむざ帰ってきたのかい?」
園咲邸から帰ってきた霧彦くんに、私はベッドから身体を起こしてそんな風に返した。棘のある言い方だが、返す言葉もない。彼は薄く笑いながらも力なくそう言う。
「……失礼。少し気が立っていた」
「いいや、君の気持ちも分からなくはない」
「私自身こうだからね。君を責める資格はないよ」
「…………また、資格か」
「?」
「いいや、気にしないでくれたまえ。こちらの話さ」
霧彦くんはポツリと呟く。
「ともかく園咲琉兵衛からの協力は得られそうにない。特に私相手だと交渉の余地はなさそうだった」
「そうか。それは残念だ」
『ヘル』の副作用だろう。私の体力・精神力はともにかなり落ちており、こうして話せるようになったのもここ数日のこと。
椎くんもかなり水を飲んでしまっていたが、無事持ち直し、あとは意識の回復を待つだけ。現在は警察病院に入院している。
冴子さんは霧彦くんと戦った後に行方不明だし、若菜くんの『ガイアドライバー』は破損して戦えない。それは『ナスカ』を失った霧彦くんも同じだろう。
ソフィー姉さんと井坂深紅郎を相手にするには、圧倒的に戦力が足りないのだ。遠治くんは園咲琉兵衛に気に入られているという話だし、呉越同舟で彼を味方にできたらと思ったのだけれど……こればかりは仕方がないだろう。
「……彼は?」
「まだ……」
頼りの遠治くんはまだ起きない。『フェアリー』で治療を試みたいが、流石に体力の落ちている今、使うのは危険だ。ミイラ取りがミイラになってしまっては意味がないからね。
「彼の回復力に賭けるしかないという訳だね」
「あぁ」
沈黙。だから、空いた思考にふと余計な考えが浮かぶ。遠慮しても仕方がない。だから、私は口を開いた。
「……それにしても霧彦くんは……その、遠治くんのこと……」
「嫌ってはいるさ」
歯切れの悪い質問。内容を察して、彼はそう答える。即答だった。その続きを彼は滔々と話す。
「彼が冴子の心を奪ったのは事実。けれど、それは私が至らなかったからだよ。それに……」
「それに?」
「私は1度死んだ身だからね。死人に口なし、だ」
彼は微笑んだ。
ーーーーーーーー
それから2日ほどで私の体力、精神力はある程度回復した。椎くんも後遺症もなく、意識を取り戻し、退院し、アパートへと戻ってきてくれた。
椎くんが見守っている中で、私は『フェアリー』を使い、遠治くんの精神へと入り込む……はずだったのに、弾かれてしまう。それが何を意味するのかは分からなくて。だから、やることは同じ。遠治くん自身を信じるってだけ。
………………。
それからしばらく動きがなかった。
一般的な『ドーパント』事件は起こっていたようだが、井坂の介入が暗躍する事件は起きていなかった。ソフィー姉さんが何かを企んでいるのは確実だ。けれど、それに関する情報もない。
だから、私と椎くんは、住む場所のない霧彦くんに、アパートの管理と遠治くんの身の回りの世話を任せて、情報を収集することにした。
私は『シュラウド』とともに動くことに。
椎くんも家事手伝いとして『鳴海探偵事務所』へと短期間のバイトに出ることにした。
結論から言うと、この情報収集は実を結んだ。
原作にもある『とある事件』へと辿り着いたのだった。
ーーーーーーーー
R版も着々と更新しております。
ぜひに。
どうしても本編がシリアスになるので、どこかでバランスをとりたいなぁ(遠い目)