『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第44話 幕間B / 過去は暗闇より

ーーーー風森ハイム202号室・side:椎ーーーー

 

 

「ありがとう、椎ちゃん」

 

 

コトッと机にボクの分のココアを置いてくれたアンナちゃん。副作用はないかいと聞くアンナちゃんに、ボクは首を横に振った。それはよかったと言ってアンナちゃんは微笑んで、それから話を切り出す。

 

 

「本来、ここで井坂はこの件から手を引くはずなんだ。だが、ソフィー姉さんがいることで展開が変わる可能性がある」

 

「また、あいつらと戦わなきゃってこと?」

 

「あぁ、恐らくね」

 

「…………」

 

 

気が重くなる。ボクも戦えるようになったとはいえ、戦力差が大きすぎる。その上、『W』も不調らしい。アンナちゃんはすぐに復活するとは言うけど。

 

 

「お兄さん……」

 

 

ポツリとこぼれ出る言葉。

 

 

「……アンナちゃん、お兄さんは……」

 

「霧彦くんも看ていてくれているが、まだ意識は戻らないようだ」

 

「……そっか」

 

 

『ウェザー』にやられたボクや『ヘル』の副作用で動けなかったアンナちゃんももう起きて活動できてることを考えると、それだけお兄さんの傷……特に精神に負ったダメージが大きいんだ。『クサンティッペ』は女の人にはほぼ効かない分、男の人にはかなり効果が強いって、前に聞いてたし。

 

 

「ともかく姉さんの狙いは大体分かった。この件を乗り越えれば『W』は進化するはずだ。ソフィー姉さんの狙いは、進化前に井坂の計画に邪魔になる『W』を倒すことだろう」

 

「うん。あのまま『アクセル』が来てくれなかったら『ウェザー』と『ビースト』に押し切られてやられてたと思う」

 

「あぁ、あの場に『強化アダプター』で性能を上げた『ビースト』を投入したことも根拠になっている。姉さんはここを勝負所だと考えていることのね」

 

「なら、ボクたちがやることは……?」

 

「私達の動きはハッキリしているよ。『W』の進化まで姉さんたちを引き付け、妨害する。私も『ドア』や『フェアリー』、『ボム』は使えるが……椎くんにはまた負担をかけてしまうね」

 

「ううん、任せて!」

 

 

ボクにもできることがあるんだ。雪南ちゃんを取り戻すために、全力で頑張るぞ!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

すぐにその時はきた。

『ビースト』が現れるっていうダムに繋がる道。ダムへ向かう『アクセル』を見送った後に現れたのは、

 

 

「また君たちですか」

 

「はぁ、そろそろ分かってほしいものですわね」

 

 

井坂深紅郎。そして、ソフィー。

 

 

「アンナ、そろそろ諦めたらいかがかしら? 貴女たちではあの娘を取り返すなんて無理よ」

 

「……やってみなきゃ分からないさ」

 

「はぁ、無駄なことを。こちらには『強化アダプター』もある。戦力差は歴然でしょうに」

 

 

「だから、遠治くんを戦闘不能にした」

 

 

「っ」

 

 

アンナちゃんの言葉を受けて、ソフィーの顔が歪んだ。

 

 

「その顔、図星だね。『エターナル』であれば、いくら『強化アダプター』があろうと関係ない。それは『エクストリーム』も同じだ」

 

「ッ」

 

 

不快そうな顔。余裕はなくなってて、ソフィーはアンナちゃんを睨み付けている。

 

 

「ここを止めれば、そっちの計画達成は大きく遠退くわけだ。こちらとしても正念場なんでね……全力で妨害させてもらうよ、椎くん!」

 

『うん!』

 

 

『ボム マキシマムドライブ』

 

ーーボンッーー

 

 

『イマジナリー』で隠していたアンナちゃんの手にある銃を出現させ、同時にメモリを銃に挿すアンナちゃん。奇襲成功! 爆発がソフィーに襲いかかる。けど、一筋縄にはいかない。

 

 

ーーザァァァァァァーー

『話が長いですねぇ』

 

「井坂先生♡♡」

 

 

爆発は『ウェザー』の雨に阻まれる。

 

 

「椎くん!」

 

『分かった!!』

ーーダッーー

 

 

姿を消すと同時に走り出す。『ウェザー』には触れるのは難しい。それにソフィーにも『ホール』がいる。だから、

 

 

ーースゥゥーー

 

「!」

『ほう、他人の姿も消せるようになりましたか。ますます腹立たしいメモリだ』

 

『ボム マキシマムドライブ』

ーーボゥゥーー

 

ーーザァァァァァァーー

『なるほど。姿を消しながらこちらへ攻撃をしてくる……時間稼ぎだけを考えた戦法です』

 

 

アンナちゃんと手を繋ぎ、『ウェザー』の死角へと移動を続ける。そして、ソフィーへ向けて『ボム』を打ち込む。これを繰り返す。井坂の言う通りこれは時間稼ぎだ。でも、それでいいってアンナちゃんが言ったから。

 

 

『上等!』

 

「あぁ! 時間いっぱい逃げながら妨害し続ける!」

 

 

時間を稼げば『W』は進化する。戦力差は埋まるんだ。そうすれば雪南ちゃんを取り戻せーー

 

 

『ソフィーくん』

 

「はい、井坂先生」

ーーパチンッーー

 

ーーズズズズズッーー

 

 

指パッチンした瞬間に黒渦が足元に広がる。

 

 

『うっ!?』

 

 

黒渦に触るのはリスクがある。ボクは黒渦が広がってくる前に跳ぶ。だけど、

 

 

「ダメだ、椎くん!」

 

『私を相手に身動きできない空中に跳ぶのは悪手でしょう?』

ーーバヂバヂバヂバヂッーー

 

「っ」

『ドア』

 

 

全方位へ溜めた雷を放つ『ウェザー』。咄嗟にアンナちゃんが『ドア』を使い、盾代わりの扉を生成。2人でそれに身を隠すけど。

 

 

『作り出したものにまでは不可視を付与できないようですねぇ』

 

『っ、しまった!?』

 

 

ーーバチンッーー

 

 

『がっ!?』

『ぐっ!?』

 

 

雷が身体を貫いた。息ができなくなり、2人とも変身が解除されてしまう。くそぉ、またやられた。でも、

 

 

「あ、んな……ちゃん、じかんは……」

 

「……ま、だだ……まだ『エクストリーム』のひかりは、見えない」

 

 

倒れたまま息も絶え絶えに言葉を交わす。そんなボクたちを無視して、『ウェザー』は歩を進める。

 

 

「ま、てっ」

 

『目障りなメモリですが、貴女自身には興味はない。今は『エクストリーム』とやらの方が興味深い』

 

 

そう言って、足を掴んだボクの手を振り払う。ただ、ソフィーは違うようでしゃがんで、アンナちゃんを見下ろす。そして、

 

 

「無様ですわね、アンナ」

ーースッーー

 

「あん、なちゃん……っ」

 

 

どこからともなくナイフを取り出して、アンナちゃんの首筋に当ててきた。

 

 

「あれだけ煽ってきたのに、井坂先生に手も足も出ない。『W』が『エクストリーム』に到達することすら守れない。それでは、あの娘も取り戻せるわけがありませんわ」

 

 

クスクスと悪意たっぷりに笑う。双子なんて信じられないくらいアンナちゃんの明るい笑顔とはかけ離れたもの。

それからふっと笑顔を消して、彼女はナイフを振りかざす。

 

 

「アンナちゃ、ん……ッ!」

 

ーーザクッーー

 

 

ナイフが身体に刺さる音。けど、それはアンナちゃんに刺さったんじゃなくてーー

 

 

 

「おい、俺の大事な人達になにしてんだよ」

 

 

 

「っ、久永遠治っ!?」

 

「遠治、くんっ」

「お兄さんっ」

 

 

そこにはソフィーの振り下ろしたナイフを左腕に受けたお兄さんの姿があった。

 

 

「なんでここに……っ」

 

「お陰さまでだいぶぐっすり寝たんでな。絶好調だぜ」

ーーガシッーー

ーーボゥゥゥッーー

 

「ナイフが……!?」

 

 

刺されたナイフをお兄さんが掴んだ途端に、ナイフが溶ける。まるで高熱で溶かされたようにドロドロに。それを投げ捨てたお兄さんは、倒れているボクたちの前にしゃがみこんで、抱きあげてくれて、抱きしめられる。

 

 

「霧彦から話は聞いた。2人とも、苦労かけた」

 

「お兄さんっ、お兄さんっ」

 

「…………すまない、雪南くんはまだ……」

 

「いや、謝るのは俺の方だ」

 

 

ーーズズズズズッーー

 

 

「っ! お兄さん、うしろっ!」

 

「…………」

ーーボゥゥーー

 

 

お兄さんの背後に迫る黒渦。ソフィーが放ったそれをお兄さんは、ボクたちを抱きしめたまま、見もせずに燃やした。手をかざすだけ。それだけで黒渦は焼却されて。

 

 

「おい、こっちは2人と話をしてんだ。邪魔するなよ」

 

「っ、『セバスチャン』ッ!!」

ーーズズズズズッーー

 

「…………お前も邪魔だ」

ーーボゥゥゥゥッーー

 

「っ」

 

 

向き直ったお兄さんは、姿の見えない『ホール』を掴み、また燃やす。変身もせずに『ドーパント』を倒した。その光景にソフィーはたじろぎ、後退る。そんな彼女の背後には戻ってきていた『ウェザー』がいて。

 

 

『おや? そちらの君は……あぁ、お嬢さんのお兄さんでしたね』

 

「……井坂深紅郎」

 

『君と戦うのも一興ではありますが、今は『エクストリーム』の方が気になりますからね。ここはーー』

ーーバヂバヂバヂバヂッーー

 

 

 

「…………」

ーーーーボゥゥゥゥゥゥゥッーーーー

 

 

 

『あれは……?』

 

 

お兄さんは襲ってきた雷を炎で消した。ただその炎は今までの『白い炎』じゃなくて『黒い炎』で。

 

 

「今、雪南はどこにいる」

 

『……それを言う必要があるとでも?』

 

「そうか。なら、お前を倒して聞き出してやるよ」

ーーボゥゥッーー

 

 

静かにそう言うお兄さんの両腕からまた『黒い炎』が沸き立っていた。

 

 

『……ソフィーくん』

 

「はい……先生」

 

『引きましょうか』

 

「でもっ、先生っ! ここで『W』を止めなくては……」

 

『……あれを相手取るリスクを考えると引くのが正解です』

 

「…………分かりましたわ」

ーーーービュゥゥゥゥゥゥーーーー

 

 

『黒い炎』を見て何かを察したのか、大風に紛れ姿を消した『ウェザー』とソフィー。

次の瞬間、ダムの方向から光が立ち上った。

 

 

「アンナちゃん」

 

「あぁ、目的は達したよ」

 

 

 

ーーーー side:ソフィー ーーーー

 

 

「…………」

 

 

ダム近くに彼女はその場に倒れていました。

有馬鈴子。『ゾーン』の使用者であり、10年前に今の夫とともに現金輸送車を襲撃した事件の主犯。そして、

 

 

「井坂先生、ありましたわ」

 

 

わたくしは彼女の近くに転がっていた『ゾーン』を先生に差し出します。それを受け取ってくださった先生は、にこりと紳士的に笑ってくださる……素敵ですわぁ♡

 

 

「……それはよかった。『強化アダプター』のおかげ……ひいては君のおかげですよ、ソフィーくん」

 

「♡♡」

 

 

あぁ、先生が褒めてくださった。これだけでわたくしは働いた甲斐がありましたわぁ♡

 

 

「うぅ……っ」

 

「おや、まだ息がありましたか。ここでメモリを回収したことを話されては厄介ですねぇ……ソフィーくん、君の『コネクター』も十分に育ちました。そろそろ試運転で『あのメモリ』を使っていいでしょう」

 

「はい、分かりましたわ♡」

 

 

先生の許可を受けて、わたくしはメモリを取り出しました。『クサンティッペ』とは別のメモリを。

 

 

 

ーー『ヘブン』ーー

 

 

 

「…………さて、新しいメモリも手に入れました。お嬢さんも頃合いでしょう。そろそろ始めましょうか、『恐怖の帝王』の討伐を」

 

 

ーーーーーーーー




『B』編、終幕。
次回から
『恐怖の帝王』と『狂気の怪物』の戦闘が始まります。

次の戦闘、勝つのは果たして……?

  • 恐怖の帝王
  • 狂気の怪物
  • その他
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