『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第45話 Tの最期に / 恐怖の帝王と狂気の怪物

ーーーー園咲邸 / 若菜の部屋・side:若菜ーーーー

 

 

お父様が『ミュージアム』そのものだと言った、家の地下にある井戸で『光の柱』を見てから1週間。わたしは風森ハイムには一切戻らず、自分の部屋に籠りっきりだった。

 

 

「あの光……お父様は『エクストリーム』と言っていたけれど……」

 

 

それが何を意味するのかはよく分かっていなかった。分かろうともしていない。けれど、あの時、わたしの持つ『クレイドール』のメモリが異様に熱かったのだけは覚えてる。

 

 

ーーヴヴヴーー

 

「あら?」

 

 

不意にスマホが震える。見れば、それはアンナからのメッセージで、内容は……。

 

 

『気をつけるんだ、そちらに井坂とソフィーが向かった』

 

「なっ!?」

 

 

メッセージを見た後、わたしはふと窓の外に目を向けた。窓の外に広がるのは『白』。既に日も暮れる時間だというのに、まるで白夜のように明るい。勿論、そんな予報なんて天気予報でもニュースでもやっていなかった。これは異変。そして、今のメッセージから考えるに……。

 

 

「お父様っ」

 

 

わたしはそのまま部屋を飛び出した。

 

 

 

~~~~大広間~~~~

 

 

大広間に、お父様はいた。

そして、その前にはあの男・井坂深紅郎が立っていた。

 

 

「おや? やっと『地球の巫女』のお出ましですか」

 

「……若菜、部屋に戻っていなさい」

 

「っ、お父様っ!」

『クレイドール』

 

 

お父様から渡されていた『ガイアドライバー』を装着し、メモリを起動する。お父様が負けるわけはないと思っている。けれど、ここでそうですかと部屋に戻る訳にはいかないわ!

 

 

『ウェザー』

 

『……君では力不足だ。そこで黙って見ているといい』

ーーヴゥンーー

 

ーードゴッーー

『ぐ……っ!?」

 

 

一瞬のうちに、わたしは壁に叩きつけられていて、同時に変身も解除されてしまう。

なに、今の……? 雷や突風ではない。気象現象とはいえない攻撃を受けた。そんな気がして。

 

 

「若菜!」

 

『安心してください。今の私の目的は彼女ではない。この戦闘を邪魔をしなければ殺しはしませんよ』

 

「…………」

 

「お父様……っ」

 

 

お父様はじっと井坂を睨み付けている。数秒の後、お父様はわたしに視線をやり、にこりと微笑んだ。そして、

 

 

「ミック」

 

『キシャァァァァッ』

 

「若菜を守っていてくれ」

 

 

『スミロドン』になっているミックにそう指示を出した後、メモリを起動した。

 

 

 

『テラー』

 

 

 

お父様が変貌を遂げる。マントの付いた巨大な青色の仮面『テラークラウン』を冠にした『テラー』ーー『恐怖の帝王』へと。

 

 

『ハッハッハッ……まずは小手調べといこう』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

『流石は『恐怖の帝王』。恐ろしいほどの重圧……ですが!』

ーービュォォォーー

 

 

『ウェザー』へ向かう泥は、竜巻に阻まれる。だが、『テラーフィールド』はその間に彼の周りを確実に包囲していた。

 

 

『私の世界に対応しきれるかな』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

『ならば、これです』

ーーザァァァァァァッーー

 

 

今度は『ウェザー』の周りに大雨が降る。いつか椎がやられた攻撃。そのままだと自分も溺れるところを、彼は自分の周りにだけ強い日差しを送り込むことで、大雨を消していた。泥はまた雨に溶ける。

 

 

『ふむ……君はだいぶ戦闘慣れをしているようだね』

 

『えぇ、貴方の妻が作り出した『仮面ライダー』諸君と遊んだおかげでねぇ』

 

『……だが、まだ甘い』

ーードロッーー

 

『!』

 

 

突然、泥が『ウェザー』の頭上から降ってきた。そちらを見れば、泥が天井を伝い、雨の降っていない『ウェザー』の真上まで登っていた。

 

 

『なっ、いつの間にっ!?』

 

『年の功、だよ』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

泥は井坂に降り注いだ。決着だ。

 

 

「お父様!」

 

『ああ。怪我はなかったかな、若菜』

 

「はい、お父ーー」

ーーぞわっーー

「ーーっ、まだですわ、お父様っ!」

 

 

ーーザクッーー

 

 

『ぐ……っ』

 

 

お父様の背後に、『ウェザー』はいた。手には雷神が持つ太鼓のような武器。そこから伸びる熱の剣でお父様を貫いた。

 

 

「お父様!」

 

『……っ』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

『おっと』

ーーヴゥンーー

 

 

『テラー』は咄嗟に『テラーフィールド』を展開する。けれど、『ウェザー』は捉えられない。まるで瞬間移動のように、その場から飛び退く。

 

 

「お父様っ」

 

『大丈夫、心配はいらない。致命傷ではない』

 

 

その言葉に胸を撫で下ろす。けれど、

 

 

『年の功……1本の強力なメモリを使い込んでいるという意味では確かに強い。ですが、私は『ウェザー』を手にしても尚、力を求めました。今のはその一端、『瞬間移動』の力を持つ『ゾーン』の能力です』

 

『なるほど。2本のメモリの力を取り込んだか』

 

『えぇ、いかがですか。これが貴方の求めた『ガイアメモリ』の1つの可能性です』

 

 

そう言って『ウェザー』は笑う。

 

 

『…………』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

そんな彼に対して、お父様は『テラーフィールド』を拡大していく。泥は流れ、瞬く間に大広間中に広がった。

 

 

『やはり、この泥に触れるのは些かまずいですねぇ』

ーーバヂバヂバチッーー

 

 

そう言うと『ウェザー』は雷を放つ。けれど、その標的はわたしでも、お父様ではなく天井。雷は屋敷の天井に穴を開けて、

 

 

ーーバサッーー

 

「っ、翼!?」

 

 

『ウェザー』は飛び立った。『ウェザー』の背にあるのも気象とは無関係そうな、まるで天使のような白い翼で、彼が『ウェザー』以外のメモリを取り込んでいることを確信する。

 

 

「お父様、あの男は2本だけじゃない! 複数のメモリを取り込んでいますっ」

 

『ああ…………厄介な相手だ』

 

「っ」

 

 

厄介な相手だ。お父様がそんなことを言うのは初めて聞いた。『テラー』に姿を変えようと、いつも余裕たっぷりの笑みで、穏やかな口調で振る舞うお父様。今はその声が固い。

 

 

『若菜。見なさい、空やこの屋敷を覆う『白い壁』を。恐らくあの男の仲間が、この屋敷を分断している。あの男を倒さない限りは、脱出はできないだろうな』

 

「…………」

 

 

どんなメモリかは知らないけれど、きっとあのソフィーって女の仕業ね。遠治たちに加勢をさせず、お父様を倒すために画策している。つまり、それほどまでに『テラー』を倒す自信があるってこと……?

 

 

「若菜」

 

 

そこでお父様は一瞬変身を解いた。腹からは血がどくどくと流れていた。それにたじろぎ、しゃがみ込むわたしと目線を合わせるようにお父様はしゃがみ、わたしに語りかける。

 

 

「もし私があの男に倒されるようなことがあれば……私の部屋の暖炉に隠し通路がある。そこは地下を通って、屋敷の外へと続いている道だ。ミックとともにそこから外に出なさい」

 

「っ、そんなこと……っ」

 

「いいね? これは園咲家当主としての命令だ」

 

「っ………………はい」

 

 

有無を言わせぬ口調。自分の言葉にわたしが頷いたのを見て、お父様の表情は軟化する。にっこりと笑い、わたしの頭を撫でるお父様。その姿は、まるで昔のお父様のようで。

 

 

「いい子だ」

 

「っ」

 

 

わたしは何も言えず、そのまま撫でられるしかなかった。永遠にも思えるそんな時間は、現実では本当に一瞬だったようで、お父様はわたしに背を向けてゆっくりと立ち上がった。そして、メモリを起動する。

 

 

「さて、屋敷を壊した責任をとってもらおうか」

 

『テラー』

 

 

浮かび上がる『テラー』。その姿は屋根に遮られ、見えなくなってしまう。

複数の能力を持つ『ウェザー』。さらに、他のメモリの力も取り込み、今の『ウェザー』の戦闘力は、ゴールドランクのメモリにも匹敵するほど。『テラー』は勿論強い。お父様が使う『テラー』ならば尚更。けど、

 

 

「嫌な予感がする……ミック!」

 

『ぐるるるるっ』

 

 

わたしは立ち上がり、ミックを呼んだ。その呼び掛けに応じて、ミックはわたしの様子をうかがってくる。

 

 

「ミック、わたしを屋根の上まで運びなさい」

 

『……シャァァっ』

 

 

だけど、ミックはわたしの言葉に首を横に振る。わたしの言うことは聞けない。お父様が放った「わたしを守れ」という命令の方が優先だってことね。

でも、ここでお父様を見送ってしまったら、それこそーー

 

 

「っ、お願い、ミック!!」

 

『ぐるる……っ』

 

「嫌な予感がするのっ! ミックだって、お父様には死んでほしくないでしょうっ!!」

 

『…………』

ーーガシッーー

 

「…………ありがとう」

 

 

わたしはミックに抱えられ、そのまま屋敷の屋根へと向かった。

 

 

~~~~屋敷上~~~~

 

 

ミックに抱えられて辿り着いた時、お父様は『テラードラゴン』を呼び出し、宙を駆け回る『ウェザー』と応戦していた。高熱、雷、大雨、竜巻。様々な気象現象を操る『ウェザー』に対して、『テラードラゴン』はその巨大な体躯を生かして、パワーで押し切ってる。体格差は歴然で、流石の井坂も押されている。お父様が優勢だ。

ただ『テラードラゴン』に指示を出しながら戦っているからか、わたしとミックには気づいてない様子で。

 

 

「……『テラードラゴン』に指示を出さなきゃいけない状態、なのね」

 

 

『テラードラゴン』はお父様の意思を反映してほぼ自律して動ける。指示を出した方が強力になるとお父様は以前言っていた。つまり、今の『ウェザー』はそれほどに……。

 

 

『ガァァァァァァァッ』

ーーブンッーー

 

『ぐっ!?』

ーードゴォォォォンーー

 

 

『テラードラゴン』の大振り。それで『ウェザー』は吹き飛ばされ、屋敷の屋根に叩きつけられた。ゴロゴロと転がり、お父様の前まできたところで、姿が井坂に戻った。

 

 

『どうかね、『テラー』が精神攻撃だけの『ドーパント』ではないこと。肌で感じていただけたかな』

 

「……フ、フフッ。やはり、そのメモリは素晴らしい」

 

 

そう言って、井坂はよろよろと立ち上がった。見るからにダメージは甚大。でも、その目はまだ死んでいなくて。お父様の前で、井坂は滔々と語り始める。

 

 

「10年前、私は生命の研究に明け暮れていました。だが、その答えは見つからず、自らの無力感に絶望していた」

 

『…………』

 

「そう、『テラー』に出会ったのはそんな絶望の最中でした。圧倒的な『恐怖』の力に私は魅入られた。それからの私は『ガイアメモリ』を……そして、『テラー』をいつか自分の物にするために研究に没頭してきました。その夢が、今……!!」

 

 

狂喜の叫び声をあげた井坂。その頭上、屋敷を覆う白い壁から何かが降ってきた。銀色の小さな機械。あれは……!?

 

 

「『強化アダプター』!? お父様っ、それを使われてはまずいですっ!」

 

 

それを手に取った井坂は、自らのメモリに装着しない。その代わりに『強化アダプター』をまるで食べ物を食べるかのように、口に含み、飲み込んだ。そして、メモリを起動した。

 

 

 

『ウェザー』

 

 

 

井坂の姿が変わっていく。白い『ウェザー』から黒と金の『ウェザー』へと。

 

 

『フフフフッ、素晴らしい。私の中に取り込んだ全てのメモリが打ち震えているのが分かります』

 

 

纏う空気が圧倒的に違う。肌がビリビリと震えるのは、『ウェザー』から発する重圧のせいだけではない。この場の空気がすべて『ウェザー』に従っているのだ。

 

 

「はっ……っ」

 

『ぐるるる……っ』

 

 

空気が薄い。息が満足にできない。わたしも、『スミロドン』になっているはずのミックもその場に倒れこんでしまった。お父様の方を見れば、お父様は立っている。けれど、酷く動きは緩慢で。

 

 

『…………『強化アダプター』を飲み込むとは……。それに『強化アダプター』はいったいどこから……』

 

『私には非常に優秀な助手がいましてね。彼女はなんと『メモリを複製できる』という非常に稀有な才能をもっています』

 

『メモリを……?』

 

『えぇ。それはどうやらメモリに関連する代物にも影響するようで、『強化アダプター』も量産できるようなのですよ』

 

『!』

 

 

井坂が言っているのがソフィーって女だってことを理解する。あの女にそんな力が……!?

そんなことを話しながらも、『ウェザー』はゆっくりとお父様に近づいていく。それに泥を飛ばすも、『ウェザー』に辿り着く前に霧散してしまう。恐ろしいほど、メモリの能力が引き出されている。

 

 

『飲み込んだことで、『強化アダプター』は取り込んだメモリ全てに作用することが分かった。本当は『強化アダプター』を呑む前に『テラー』も取り込みたかったのですが。まぁ、手に入れるのが優先です』

 

『ぐ……っ』

ーーゾゾゾゾゾゾゾッーー

 

『しかし、流石は園咲琉兵衛だ。この場の空気を支配下に置いて尚、こちらに攻撃する力があるとは』

ーーくいっーー

 

 

泥はやっぱり届かない。その間にも『ウェザー』は一歩一歩お父様に近づいて、やがて、目の前へ。

 

 

『ソフィーくん、壁を解いてくれますか』

 

『『『『はい、井坂先生♡♡♡』』』』

 

 

白い壁からあの女の声が響き、一瞬にして白い壁は消え去った。その代わりに、屋敷の頭上に現れたのは雷雲。屋敷どころか近隣一帯を飲み込めるほど巨大な黒い雷雲がそこにはあって。

 

 

『安心してください、園咲さん。『テラー』の力も、『ミュージアム』の技術も私が譲り受けましょう。ただし、最終目標は変更します。私はーー』

 

『…………っ』

 

 

井坂は何かをお父様の耳元で囁く。その後、雷雲に向けて手をかざし、告げた。

 

 

『まずは手始めに、この屋敷を地図から消して差し上げましょう!!』

ーーーーゴロゴロゴロゴローーーー

 

 

雷雲が落ちてくる。それをお父様は『テラーフィールド』を展開することで防ごうとしていた。

 

 

「お父様っ!!!!」

 

『若菜。お前はーー』

ーーーーゴロゴロゴロゴロゴロゴローーーー

 

 

雷が轟き、音が消える。辺りが光に包まれてーー

 

 

 

ーーーーside:遠治ーーーー

 

 

園咲邸に着いて、最初に目に入ったのは屋敷すべてを包む巨大な白い壁。そして、そこから生まれる無数の『天使』たち。そこから街に繰り出そうとする『天使』どもは俺達が、既に飛び立ってしまった奴らは、『W』と『アクセル』に連絡をして対処していた。

 

時間にして30分ほど。ビクともしなかった白い壁が消えた直後、ばかでかい雷雲と『テラー』の青黒い泥がぶつかった。どちらも消失した直後、もう一度雷鳴が響いて、辺りは静けさを取り戻す。

奴の姿を見つけたアンナが『ドア』を使い、『天使』どもを2人に任せた俺は、扉を通って、園咲邸の屋根上に辿り着いた。そこで目にしたのは、黒焦げになった『誰か』とそれにすがり泣く若菜お嬢様の姿。そしてーー

 

 

『一足遅かったですねぇ、久永遠治くん』

 

「っ、井坂深紅郎ッ!!」

 

 

黒い『ウェザー』……井坂深紅郎だった。

 

 

『今しがた決着が着きましたよ。『恐怖の帝王』は倒れ、私はここに立っている。まさかあの雷雲をすべて受け止められるとは思いませんでしたが……しかし、勝者は私で、私の手の内にはこれがある!』

 

 

黒い『ウェザー』は『それ』をーー『テラー』のメモリを天高く掲げた。愉悦の色をはらんだ声。それを遮ったのは、

 

 

「お父様っ、お父様ぁぁっ」

 

 

焦げた身体にすがりつく若菜お嬢様の悲痛な声で。

 

 

『……ふぅ、せっかくの悦びを邪魔しないでいただきたい』

ーーぐぐっーー

ーーバヂバヂバチッーー

 

 

走る黒い稲妻。

 

 

ーーボゥゥゥゥッーー

 

 

それを俺は『黒い炎』で消し去った。

 

 

「邪魔なのはお前だろ……」

 

『10年越しの夢が叶った瞬間に、水を差す方が悪い。そうは思いませんか?』

 

 

 

「…………てめぇは……ぶっ殺してやるよ」

ーーカチャリッーー

 

『エターナル』

 

 

 

腹の底から沸き上がる憎しみを込めて、俺は『エターナル』を起動した。『ロストドライバー』に装填する瞬間、

 

 

『井坂先生♡♡』

 

『おや、ソフィーくん。君が来たということは……』

 

『はい、久永雪南の準備ができましたわ』

 

「っ!? おい、雪南に何をするつもりだっ!!」

 

 

俺の質問に、愚問ですねぇと笑いながら、井坂は言う。

 

 

『彼女は『テラー』の能力を最大限に引き出すための『贄』です。その準備が整ったようだ。実に楽しみですねぇ』

ーーヴゥンーー

 

「待てっ!!」

 

 

攻撃を仕掛ける暇もなく、井坂はその姿を消した。

今聞いたことで、雪南に何をするつもりなのか、頭がいっぱいになる。そんな俺に声をかけてきたのは、

 

 

「…………その声は、久永遠治、くん……かな」

 

「っ」

 

 

園咲琉兵衛だった。力ない彼の声は、焦り怒る感情を一時的に抑制し、頭をクリアにしてくる。俺は彼に近づき、側でしゃがんだ。

 

 

「……すんません。ここに来るのが遅れたせいで……」

 

「君が、謝ることでは……ない。きっと……これも、運命……だったの、だろう」

 

「………………」

 

 

彼の言葉に俺は何を返すこともできない。今際の際だというのは誰にでも分かる。『恐怖の帝王』と呼ばれた彼の声は今は消え入るほどに弱々しい。その遺言を聞き逃すことなど、できはしなかった。

 

 

「…………ひとつ、お願いがある」

 

「……はい」

 

「わかなを……らい、とを……さえこ……を、ふみね、を……」

 

 

 

「わた、しの……かぞく……を、まもって……くれ……」

 

「………………あぁ、分かった」

 

 

 

俺の返事を聞くと、彼からは何の音も聞こえなくなって、その黒く焦げた身体は崩れて消える。

代わりに響くは彼女の泣き声。まるで少女のように、泣き続ける彼の娘に、俺は何の言葉もかけることができなかった。

 

 

ーーーーーーーー




決着。
『狂気の怪物』は遂に『恐怖』を手中に収めた。
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