『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第49話 Pの誕生 / 天国地獄

ーーーーside:アンナ・園咲邸大広間ーーーー

 

 

『さぁ、行きなさい』

 

 

ソフィー姉さんの一声で、5体の顔のない天使像がこちらへと迫ってくる。1体は正面から、他は2体ずつ左右から、私を挟むように襲い来る。

 

 

『5対1。捌き切れるかしら?』

 

『問題ないッ』

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

左右に迫る天使像の拳が当たる瞬間、私は自分の周囲に地獄の汚泥を展開する。天使像は止まれず、それに突っ込んできた。触れたところから、天使像が崩れていく。正面の1体はーー

 

 

ーーブンッーー

 

『ふっ!!』

 

 

攻撃を躱し、その勢いを逆に利用したカウンターを鳩尾に叩き込む。

 

 

『あら、頑張るわね』

 

『あぁ、約束をしているからね』

 

『クスクス……約束。約束ねぇ』

 

『…………』

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

姉さんのペースに乗せられる訳にはいかない。私はすぐに汚泥を壁のように前方に展開、さらに、

 

 

『囲えッ!』

ーーググググッーー

 

 

姉さんを囲う箱のように形を変えた。これならば、天使像を出しても、意味はない。泥で覆い尽くし、一瞬で倒す!

 

 

『クスクス……話の途中ですわよ。本当に品のない』

 

 

人を見下すような不快な笑い声が聞こえた後、

 

 

ーーバシャッーー

 

 

汚泥の壁が内側から破壊され、辺りに撒き散らされた。もちろんこちらが能力を解除したわけではなく、内から無理矢理破壊された形だ。それを証明するように、壁の内側から現れたのは、6メートルはあろうかという天使像だった。

 

 

『言ったでしょう? 今のわたくしは天使像をほぼ無限に出し続けられる。その形も、大きさも自由自在ですわ』

 

『くっ』

 

『さぁ、行きなさい』

ーーゴゴゴゴゴゴッーー

 

 

天使像が動き出す。大きく腕を下げてから、こちらへと振り抜いてきた。

 

 

ーーゴゴゴゴゴゴッーー

 

『!?』

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

咄嗟に汚泥を展開する。だが、その巨体から繰り出される拳は

 

 

『っ、重す、ぎ……るッ』

 

『3……2……1』

 

ーードゴンッーー

『ぐ、が……ッ』

 

『0』

 

 

圧倒的な力。巨大な天使像の攻撃に、私は吹き飛ばされる。私の体は大広間の壁へと叩きつけられ、一瞬意識が飛ぶ。

 

 

「ふっ……は、ぁ……っ」

 

 

そのせいで、変身が解けてしまう。

 

 

『無様と言い様がありませんわね、アンナ」

 

「姉、さん……」

 

 

私に向け、姉さんはそう言い放つ。私に余力がないことを悟ったようで、変身を解いて近づいてきた。

 

 

「はぁ……はぁっ」

 

「…………はぁ、まったく。その必死で、品のない姿、本当にわたくしの妹なんですの?」

 

 

ため息を吐いたソフィー姉さんは私を一瞥した後、椅子に座り、足を組む。汗ひとつかいておらず、余裕が見えた。対して私は息を切らしていて、力の差が如実に表れていた。

 

 

「エネルギー消費が激しいとはいえ、補給さえすれば、無限に天使像を産み出せるわたくしの『ヘブン』と使えば使うほどに憔悴する『ヘル』……戦うまでもなく、結果は見えていましたけど」

 

 

そう言いながらも、姉さんは机上に残っていた料理を喰らう。戦闘のせいで、埃や塵、コンクリートにまみれていても、気にせずに。

 

 

「……姉、さんこそ……ずいぶん、品のない食事だ……」

 

「クスクス。強がりを」

 

 

またあの笑い方。邪悪に微笑んだ姉さんは、不純物にまみれた皿の上の伊勢海老を殻ごと、ばりばりと喰らい、飲み込んだ。軽く口元を吹き、立ち上がり、そのまま私の方へ。姉さんは私を見下しながら、話を続けてくる。

 

 

「『ヘル』。確かにそれは相当の力を秘めたメモリなのでしょう。わたくしの『ヘブン』よりも性能は恐らく上。しかし、今の貴女はメモリの力の5割……いえ、3割程度しか引き出せていないように見えますわ」

 

「……う、るさい」

 

「フフフ、まぁ、そうでしょうね。名は体を表すと言いますから。『ヘル』のメモリの力を受け入れるということは、つまり、地獄へ足を踏み入れることと同義」

 

「…………」

 

「ねぇ、アンナ。そのメモリはーー」

 

 

姉さんの言うことは的を得ている。この戦いの前に、フィリップくんに言われたのだ。『ヘル』メモリの力を完全に引き出すには、地獄に堕ちるしかない、と。つまりはーー

 

 

 

「使用中に死んで初めて完成するメモリ、なのでしょう?」

 

 

 

「…………ご名答だ」

 

 

『ヘル』の力を十全に引き出した瞬間に、私は死ぬ。

 

 

「憐れですわねぇ。『ヘル』を使いこなせば、貴女はわたくしを殺せる。ですが、そうすれば、貴女は死ぬ」

 

「………………」

 

「クスクス、またわたくしと心中したいんですの? フフフフフフ、それは、それは素敵ですわね。井坂先生の魅力には及びませんが、もしそれを貴女が果たそうとするならば、わたくしは受け入れるのもやぶさかではありませんわァ!!」

 

 

ああ、本当にこの人は邪悪だ。破滅をこよなく愛する化物。あの井坂深紅郎に惹き付けられるわけだ。根本から狂っている。

 

 

「そのつもりは……毛頭ないよ。私は姉さんとは違う。生きて帰る、そう約束したからね」

 

「それは……あの男と?」

 

「ああ。久永遠治、私が惚れた最高の男と、だよ」

 

「はぁぁぁぁ……本当に、貴女はつまらないですわ。死ぬ覚悟もない人間が……わたくしに勝てるとでも?」

『ヘブン』

 

 

乾ききった、冷めた目で、姉さんは再度メモリを起動した。再び変わる。酷く美しい天使の姿に。

 

 

『アンナ、貴女も再変身しますか? ですが、次、『ヘル』を使えば確実にメモリの毒素に飲まれて死ぬ。どうしますか?』

 

「…………」

ーースッーー

 

『! クスクス、そう。そうよ! 使わなくては勝てないものねぇぇ!! さぁ、殺し合いましょう!!』

 

 

 

『フェアリー』

 

 

 

『は?』

 

 

私はメモリを『ガイアドライバー』へと挿し込んだ。シュラウドに調整してもらったお陰で、『フェアリー』になっても、精神のみの『ドーパント』ではなく、人間と変わらない大きさの妖精の姿、完全な形での変身を果たした。

 

 

『『フェアリー』ィィ……? 回復くらいしか取り柄のないメモリをぉぉ!? 舐めているんですの!?!?』

 

『舐めてなんていないさ。それに……まだだよ』

 

『アテンション』

『ドア』

 

 

さらに、メモリを装填する。よし、2つのメモリの力が『フェアリー』に付与することに成功した。

 

 

『屑メモリを寄せ集めて……井坂先生から戴いたこの『ヘブン』に勝てるとでもッ!?!?』

ーーゴゴゴゴゴゴッーー

ーーゴゴゴゴゴゴッーー

 

 

迫り来る巨大な2体の天使像。それを私はーー

 

 

ーースゥゥゥーー

 

『透過能力……っ、ですが、わたくしのメモリは『マッスル』とは違いますわ。体内に入り込んだとて!』

 

『だろうね』

ーーガチャッーー

 

『!?』

 

 

『ドア』による空間移動能力。それを使って、私は姉さんの背後に回り込む。そしてーー

 

 

ーーガシッーー

 

『…………』

 

『クスクス……奇襲ですか。その手にあるのは、シュラウドマグナム。おおよそ背後からわたくしを『ボム』のマキシマムで攻撃しようとしたのでしょうけれど、生憎、その程度に反応できないわたくしではなくてよ』

 

『…………そう、だね。反応すると思っていたよ』

 

『? それはどういう……?』

 

『まだ気づかないみたいだね。姉さんは反応したんじゃない。『反応させられた』んだ』

 

『っ!?』

 

 

姉さんはそこでやっと気づいたようだった。私の右手の武器から『目が離せない』ことに。そして、未だに気づかない。私の左手にそのメモリが握られていたことに。

 

 

『ヘル』

 

 

エコーが響く。それで姉さんもやっと気づいた。けれど、もう遅い。私は『ヘル』を思いっきり、姉さんの肉体に突き刺した。

 

 

『な……っ、なにを……?』

 

『姉さんの言う通り『ヘル』は強大だ。使用者すら滅ぼすほどにね。けれど、1つだけそのメモリを無力化するメモリが存在する。『ヘル』と『もう1本のメモリ』。2本を同時に使用すると、互いが互いの能力を打ち消し合い、やがてはメモリ自体の存在すらも対消滅させる。それが……』

 

『まさ、かっ!? ぐ、うぅぅぅぅっ!?!?』

 

 

私の言葉を合図に、苦しみ踠くソフィー姉さん。彼女の姿が変わる。天使の姿と地獄の布を纏いし姿。絶え間なく変わり続け、やがてーー。

 

 

「ア、あぁぁ……あァあァァぁ……力が……井坂先生からいただいた力がァぁ、抜けていく…………」

 

 

姉さんは膝から崩れ落ちた。地に落ちた何かをかき集めるようにしながら、やがえ地に伏す。そうした彼女の容貌は急速に変化していく。ブロンドの髪は艶と色を失い、目は窪み、頬はこけて。今までのソフィー姉さんからは想像できない、欲望も、狂気も、すべてが抜け落ちたような『何もない』姿。緩やかに終わっていく、劇的な破滅とは対極にある姿だった。

 

 

「あ…………ァぁ……」

 

『…………』

 

 

だから、私は何もなくなってしまった彼女に告げる。それが彼女にとって、何よりのーー

 

 

 

『さぁ……地獄を、楽しみな』

 

 

 

『地獄』なのだろうから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「っ」

 

ーーグラッーー

 

 

大広間から一歩出たところで、私の足は止まってしまう。ドライバーを調整をしてもらっていたとはいえ、流石に3本のメモリの同時使用は身体に負担がかかりすぎたみたいだ。

 

 

「……でも、立ち止まっていられない。早く、行かなきゃ……」

 

 

遠治くんのところへ。みんなで雪南くんを助けるんだ。

そして、みんなで『平穏』、に……。

 

 

ーードサッーー

 

 

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