『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
溜め回。
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『シュラウド』なる女は名乗った後、すぐに姿を消した。
彼女の言葉を信じたとして、『転生者』という以外に、その素性も目的も情報のない謎の人物。なんにせよ俺にとっては『平穏を脅かす存在』でしかない。
ちなみに、彼女のことは雪南には伝えていない。雪南によると、探している『シュラウド』は顔に包帯を巻き、黒いコートを着た女性らしく、明らかに別人だ。ブロンドの彼女については、もう少し俺の方で情報を集めてから相談した方がいいだろうと判断したからだ。あの感じだと、恐らくまた接触してくるだろうしな。
…………はぁ、関わりたくねぇ。
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『ゴキブリ人間』の再襲撃の後、俺は気を失った雪南を連れて自宅に帰った。傷はなかったとはいえ、気を失うほど首を絞められたのだ。緊急外来にでも行けばよかったんだが、どうにも頭が混乱していて。
幸いだったのは、次の日、雪南がけろっと回復したこと。おはようと同時に、俺に抱きつかれ、殴るくらいには元気があるようで、お兄ちゃん一安心。
ただ一応はお医者さんに診てもらった方がいいという俺の判断で、雪南を病院に連れていくことにした。前世での経験から、大きい病院は診察まで時間がかかるため、俺が夜に調べた個人の診療所に連れていくことにしたのだが……。
「嫌です、ここだけは絶対に嫌です」
病院に着いた途端に、雪南が我が儘を言い出した。
「おい、我が儘を言うんじゃありません。ネットにもここの先生はとても優しくて、その上正確な診断をしてくれる方だって評判なんだぞ?」
「嫌です生理的に無理です」
「まぁ、確かに男の先生ではあるが、そこは大丈夫だって」
「兄さんあれですか分かってて言ってるんですか馬鹿なんですか」
すんごい拒絶反応である。なんだろう、昔の雪南を思い出すなぁ。
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「いやっ、おいしゃさんいやなのっ」
「えーんっ、いやだよぉぉ」
「やだもんっ、ちゅーしゃやだもんっ!」
「……ぐすんっ、にぃにぃ、ついてきてくれる……?」
「がんばったらナデナデしてくれる……?」
「…………なら……せつな、がんばる」
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「フフフフフ……」
「兄さん」
「おっと、なんだ、雪南?」
「気持ち悪いです」
「なんで!?」
昔を懐かしんでいたら罵倒されてしまう。うぅぅぅ、昔はお兄ちゃん子で、こんな毒舌も吐かなかったんだけどなぁ。
まぁ、今は雪南の健康が第一だ。無理矢理にでも彼女の腕を引き、俺はその診療所に入っていった。井坂内科医院へと。
ーーーー井坂内科医院内・side雪南ーーーー
医院内はとても明るい雰囲気で、清潔感がありました。受付のお姉さんも美人で、今のところ不快感はありません。
「よかったですね。受付の方、お綺麗で」
「べ、べべべべつにぃ?」
待合室にて、横で呆けていた兄さんに苦言を呈します。まったく、この人は年上の美人に弱いんですから。そんなんだから『あの女』にも裏切られるんです。
「はぁぁぁ」
それにしても、兄さんは何を考えているのでしょう。よりによってここ井坂内科医院を選ぶとは……。いえ、しょうがないということは理解しています。兄さんはこの世界についての知識がない。だから、この井坂内科医院の医師がどんな人間か分からない。
「久永さーん。久永雪南さーん」
どうやってこの場を逃げ出そうか考えている途中で、受付の方に呼ばれてしまいました。
「………………」
「ほら、呼ばれたぞ」
「兄さん、わたしの叫び声がしたら必ず助けに来てください」
「ふふっ、分かったよ」
ふふっ、じゃねぇんですよ。頭の中どうなってるんですか。花畑なんですか。
無事帰ってきたら、脇腹をつねろう。わたしは心に決めて、席を立ちました。
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診療室に入ると、当然ですが、その方がいました。
井坂深紅郎。
年齢は40代で、柔らかな物腰と丁寧な対応が市民に評判の開業医。一見すると、人当たりのいい穏やかな紳士。ですが、それは表の顔で、その本性は自らの『ガイアメモリ』の力を伸ばすため、様々な人体実験を行う変態。そして、そのためになら他人を犠牲にすることも厭わないマッドサイエンティストです。そんな人物が今、目の前に。
「今日はどうされました」
「…………えと……」
いえ、ここで怯む必要はありません。確かにこの人は風都でも一、二を争う危険人物です。しかし、一般人であるわたしにとってはーー
「おや?」
「ひ……っ」
「首に跡がありますね」
「あ、こ、これ、は……っ」
『ドーパント』に襲われた。その事実を伝えていいものか、わたしは逡巡します。この人に『ガイアメモリ』関連の話をするのは正直、怖い。何がこの人の琴線に触れるのか分かりませんから。
迷い、迷い、迷う。混乱した頭でわたしは答えました。
「あ、兄に、絞められ、ました……」
「………………」
「…………え、あっ、いえ、違います、今のは……」
何を血迷ったのか、わたしはそんなことを言ってしまいました。あたふたとするわたしに、井坂は、
「大変でしたね。今、警察を呼びますので、ここでお待ちなさい」
「あ、え、あ、違います、本当に違いますっ」
その後、怪物に襲われたことを正直に話し、事なきを得ましたが……はい、今回についてはすみません、兄さん。脇腹つねるのは止めますね。
結局、跡が早く治るように塗り薬と念のため痛み止めを出してもらいました。どうやら『ガイアメモリ』が関わらなければ、いい医師ではあるようですね……二度と近寄りたくはないですが。
ーーーーside遠治ーーーー
「な? よかったろ?」
病院からの帰り道。俺は雪南にそう言った。低くなりがちな病院において、口コミの星が高かったのだ。レビューもしっかり確認したしな。
「…………まぁ、そうですね」
「だろー?」
珍しく素直な雪南。それに気を良くした俺は、
「病院にかかるの頑張った雪南には、お兄ちゃんが甘いものを買ってあげようねー」
「…………それはどうも」
「じゃあ、早速帰りにコンビニでも寄ろう! 今日は何個でも買っていいからな!」
30分後、俺はこの発言を後悔することになる。
ここからここまで。我が義妹様はコンビニにてそう言ってのけたのだった。
ーーーー久永兄妹の知らない独り言ーーーー
「いやぁ、あれは実に素晴らしい」
私は1人、暗闇の中で呟きました。声が震えるのが自分でも分かる。それほどの逸材でした。
「じっくり、じっくりと調べていきましょう」
「確か、お名前は……」
カルテに書かれている名前を確認すると、当然そこには彼女の名前が書いてあります。
『久永雪南』。フフッ、いい名前ですねぇ。
彼女にふさわしいメモリを至急見繕わなくては。
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久永遠治
……『エターナル』に適正あり。プリンは固めが好き。
久永雪南
……『 』に適正あり。プリンはクリーミーなのが好き。